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- 11 - 第1章 調査研究及び調査結果の概要 1.調査研究の概要 (1)調査研究の背景,目的,趣旨 ①調査研究の背景 平成 22 年 6 月,文部科学大臣より中央教育審議会に対し,「教職生活の全体を通じ た教員の資質能力の総合的な向上方策について」と題する教員の資質能力に関する包 括的な諮問が行われた。中央教育審議会では,この諮問を受けて,同月,この問題を 調査審議するための総会直属の特別部会「教員の資質能力向上特別部会」(部会長: 田村哲夫 学校法人渋谷教育学園理事長)を設置して具体的な審議を開始した。 国立教育政策研究所では,平成 19~22 年度プロジェクト研究「教員の質の向上に関 する調査研究」(研究代表者:大槻達也 国立教育政策研究所次長)を実施しており, その一環で平成22年度には,校内研究等の実施状況に関する調査や優秀教員に対する 質問紙調査の分析,市町村教育委員会における指導主事の配置状況や学校訪問の状況 等に関する調査を実施した。 本調査研究「教員養成の改善に関する調査研究」(教員養成改善班)は,先に述べ た中央教育審議会における審議が開始されたことを踏まえ,上記プロジェクト研究の 一環として開始されることとなり,平成 23~24 年度プロジェクト研究「教員養成等の 在り方に関する調査研究」へと引き継がれて実施されたものである。 ②調査研究の目的・趣旨 本調査研究は,(1)で述べたように中央教育審議会において教員の資質能力の向 上方策が喫緊の政策課題として検討が開始された状況を踏まえて,国立教育政策研究 所として,教職生活全体を通じて基盤となる資質能力が培われる教員養成段階を中心 に,諸制度の在り方について調査研究を行い,教員養成教育の在り方などに関する基 礎的な知見を得ることを目的として行われたものである。 また,特に中央教育審議会における審議に資するよう,調査研究の成果を踏まえた 具体的な政策提言を行うことを意図して実施した。 ③調査研究の体制 調査研究の実施に当たっては,高岡信也島根大学教授(当時)を国立教育政策研究 所の総括客員研究員に委嘱し,本調査研究の取りまとめ責任者としたのをはじめ,所 内委員 9 名(発足当時),所外委員 5 名の体制で行った。

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第1章 調査研究及び調査結果の概要

1.調査研究の概要

(1)調査研究の背景,目的,趣旨

①調査研究の背景

平成 22 年 6 月,文部科学大臣より中央教育審議会に対し,「教職生活の全体を通じ

た教員の資質能力の総合的な向上方策について」と題する教員の資質能力に関する包

括的な諮問が行われた。中央教育審議会では,この諮問を受けて,同月,この問題を

調査審議するための総会直属の特別部会「教員の資質能力向上特別部会」(部会長:

田村哲夫 学校法人渋谷教育学園理事長)を設置して具体的な審議を開始した。

国立教育政策研究所では,平成 19~22 年度プロジェクト研究「教員の質の向上に関

する調査研究」(研究代表者:大槻達也 国立教育政策研究所次長)を実施しており,

その一環で平成 22 年度には,校内研究等の実施状況に関する調査や優秀教員に対する

質問紙調査の分析,市町村教育委員会における指導主事の配置状況や学校訪問の状況

等に関する調査を実施した。

本調査研究「教員養成の改善に関する調査研究」(教員養成改善班)は,先に述べ

た中央教育審議会における審議が開始されたことを踏まえ,上記プロジェクト研究の

一環として開始されることとなり,平成 23~24 年度プロジェクト研究「教員養成等の

在り方に関する調査研究」へと引き継がれて実施されたものである。

②調査研究の目的・趣旨

本調査研究は,(1)で述べたように中央教育審議会において教員の資質能力の向

上方策が喫緊の政策課題として検討が開始された状況を踏まえて,国立教育政策研究

所として,教職生活全体を通じて基盤となる資質能力が培われる教員養成段階を中心

に,諸制度の在り方について調査研究を行い,教員養成教育の在り方などに関する基

礎的な知見を得ることを目的として行われたものである。

また,特に中央教育審議会における審議に資するよう,調査研究の成果を踏まえた

具体的な政策提言を行うことを意図して実施した。

③調査研究の体制

調査研究の実施に当たっては,高岡信也島根大学教授(当時)を国立教育政策研究

所の総括客員研究員に委嘱し,本調査研究の取りまとめ責任者としたのをはじめ,所

内委員 9 名(発足当時),所外委員 5 名の体制で行った。

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【参考】教員養成改善班の研究体制

所内委員:高岡信也 総括客員研究員,教員研修センター理事(班代表)

大槻達也 次長(平成 24 年 3 月まで)

長屋正人 研究企画開発部長(平成 24 年 4 月まで)

北風幸一 総括研究官

淵上 孝 総括研究官(事務局,平成 24 年 7 月まで)

藤原文雄 総括研究官,松尾知明 総括研究官

白水 始 総括研究官(平成 24 年 8 月から)

猿田祐嗣 総合研究官,銀島 文 総括研究官

今村聡子 総括研究官(事務局,平成 24 年 8 月から)

所外委員:岡村吉永 山口大学教授,狩野浩二 十文字学園女子大学教授

北神正行 国士舘大学教授,町田健一 国際基督教大学教授

渡辺恵子 東京学芸大学准教授(教員養成評価プロジェクト担当)

※ なお,上記のうち,各大学の取組状況の調査やその分析等を担当したのは主として,

高岡,淵上,藤原,白水,今村,岡村,狩野,北神,町田,渡辺の各委員である。ま

た,上記のほか,国立教育政策研究所研究補助者である根岸千悠(千葉大学大学院人

文社会科学研究科博士後期課程)が調査研究に参画した。

(2)調査対象大学の選定,調査研究の内容及び方法

本調査研究では,教職課程を有する国・公・私立大学のうち,特色ある教育活動,教

育改善を実施していると思われる大学・学部に対して,訪問又は質問紙による調査を行

い,それぞれの大学・学部における取組を分析して今後の教員養成の在り方についての

知見を得ることとした。

①調査対象大学の選定

調査大学の選定の方針として,国・公・私立を問わず,教員養成教育のための組織,

教育内容・方法等に優れた取組を行っており,かつ組織性,恒常性,先見性を有し,

今後の教員養成の在り方,方向性を示す特色ある教育活動を展開している大学・学部

等を選定することとした。その際,教員養成 GP 等に採択され,優れた教育活動に実績

を有する大学等を中心に選定することとした。

このため,平成 17 年度,18 年度の「教員養成 GP」(文部科学省大学改革推進等補

助金)等に採択された大学を中心としつつ,委員相互の情報交換の中で先導的な取組

を行っていると思われる大学として,以下の大学を選定し,これらについて訪問又は

質問紙による調査を実施した。

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【調査対象大学】(50 音順)

秋田大学,岩手大学,岡山大学,岡山理科大学,鹿児島大学,岐阜大学,岐阜聖徳

学園大学,熊本大学,群馬大学,国際基督教大学,国士舘大学,埼玉大学,静岡大

学,島根大学,秀明大学,十文字学園女子大学,上智大学,信州大学,玉川大学,

千葉大学,長崎大学,奈良教育大学,鳴門教育大学,兵庫教育大学,広島大学,福

井大学,山口大学,山梨大学,横浜国立大学,立命館大学,早稲田大学

※このほか,回答者の個人的見解であることを前提に回答を得た大学が 1 大学,既

に調査対象校を退職した者から過去の経緯を聴取した大学が 1 大学

②調査研究の内容

調査研究の内容については,班代表である高岡委員の所属する島根大学の近年の教

員養成教育の改善の取組を参考に,委員間で検討の上,統一質問項目を設定した。

この結果,以下の事項について各大学に質問することとした。

【質問項目】

1.養成プログラムの改善について

質問1 貴学では,育成しようとする「教師像」,「教師力」についてどのよ

うにお考えですか。

質問2 貴学の教員養成カリキュラムの中で,他大学には無い特色,特徴は何

であるとお考えですか。

質問3 現行免許法に規定された「科目」(教科,教職)では不足だと考えら

れる領域がありますか。あるとすればそれはどんな領域ですか。

2.教育改善の課題設定と組織の在り方について

質問1 『在り方懇報告』・『中教審答申(18 年 7 月)』が出された時点での

感想,また,それらは貴学の教育改善に影響を与えましたか。

質問2 貴学で養成教育の改善が始まった時期はいつ頃ですか,また計画立案

を担った組織,リーダーは存在しましたか。

質問3 貴学の教職課程について,教員組織及び教育内容上の課題と考えられ

る事柄は何ですか。

質問4 養成教育の改善を実現するために貴学が進めている特徴的な取組は何

ですか。

【質問項目(追加調査)】

1.養成プログラムの改善,特に「教職基礎」科目について

質問1 貴学では,教員養成段階(教職課程)において開講する「教職基礎」

科目の内容,教育方法等について改善の取組を実施していますか。

質問2 貴学では,「教職基礎」科目をどのように位置付けていますか。「教

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師力の育成」の観点から具体的にお答えください。

質問3 「教職基礎」科目について,他大学にはない貴学独自の特色があれば

具体的にお答えください。

2.免許状更新講習と「教職基礎」科目の関係について

質問1 免許状更新講習の開設科目の中で,「教職基礎」科目に関連のある内

容を取り扱っている科目について,内容を含め具体的にお答えくださ

い。

質問2 免許状更新講習の開設科目の中で,他大学にはない貴学独自の特色あ

る科目・取組があれば,具体的にお答えください。(必修,選択ともに

含む)

3.教員養成教育の改善に及ぼす影響について

質問1 免許状更新講習の実施が教員養成教育の改善に及ぼす影響について,

具体的事例や大学・学部としてのお考えがあればお答えください。

質問2 そのほか,貴学の取組の「教職基礎」分野の改善に及ぼす影響につい

て,具体的事例(教職実践演習の取組,FD の推進等)や大学・学部とし

てのお考えがあればお答えください。

③調査研究の方法

上記の質問項目について,対象大学に訪問又は質問紙により調査を実施した。

訪問調査に当たっては,各大学の判断により,学長,学部長,教職課程長等,教職

課程・学部教育の管理運営責任者,それに準ずる担当責任者,改革を主導するリーダ

ー等を対象者とし,複数の対象者に一括してインタビューを実施した。一大学・学部

当たり,その所要は概ね 3 時間であった。

④調査研究の経緯

調査研究会の実施

○第 1 回 平成 23 年 1 月 21 日

・研究会の進め方について協議

・島根大学の取組状況についての報告,分析

○第 2 回 平成 23 年 2 月 16 日

・実地調査の進め方等について協議

○第 3 回 平成 23 年 6 月 3 日

・実地調査の結果報告等についての分析,協議

○第 4 回 平成 24 年 1 月 5 日

・報告の構成等について協議

○第 5 回 平成 24 年 9 月 28 日

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・追加調査の進め方について協議

○第 6 回 平成 25 年 1 月 17 日

・報告書とりまとめについて協議

訪問調査の実施

○平成 22 年度

3 月 11 日 福井大学 3 月 18 日 岡山大学,岡山理科大学

○平成 23 年度

4 月 13 日 千葉大学 4 月 20 日 横浜国立大学

4 月 21 日 埼玉大学 4 月 27 日 早稲田大学,秀明大学

4 月 28 日 上智大学 9 月 30 日 玉川大学

10 月 14 日 鳴門教育大学

(平成 24 年)

3 月 15 日 秋田大学 3 月 29 日 鹿児島大学,熊本大学

○平成 24 年度

5 月 15 日 山梨大学 5 月 25 日 静岡大学

5 月 28 日 群馬大学 10 月 23 日 立命館大学

11 月 15 日 兵庫教育大学 12 月 3 日 岐阜大学

12 月 6 日 千葉大学 12 月 7 日 早稲田大学

12 月 19 日 玉川大学

書面調査の実施

○平成 23 年 4 月から 5 月にかけて以下の大学より書面調査の回答を得た。

岩手大学,岐阜聖徳学園大学,国際基督教大学,国士舘大学,十文字学園女子

大学,信州大学,島根大学,長崎大学,広島大学,奈良教育大学,山口大学

○平成 24 年 11 月から 12 月にかけて以下の大学より書面調査の回答を得た。

上智大学,広島大学,山梨大学,横浜国立大学

中央教育審議会への中間報告

○平成 23 年 8 月 22 日 中央教育審議会「教員の資質能力向上特別部会」基本制度

ワーキンググループにおいて,德永保国立教育政策研究所所長より,本調査

研究の中間報告等に基づき,今後の教員養成教育の在り方について提言を行

った。

○平成 24 年 3 月 16 日 中央教育審議会「教員の資質能力向上特別部会」基本制度

ワーキンググループにおいて,高岡委員より,本調査研究の中間報告等に基

づき,今後の教員養成教育の在り方について提言を行った。

(淵上孝,今村聡子)

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2.調査結果の概要

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(高岡信也)