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国際経済学 第 10 International Economics 10th Edition ポール・クルーグマン、モーリス・オブストフェルド、マーク・メリッツ * 1 訳:山形浩生 + 守岡桜 * 2 2016 9 13 * 1 ©2015 * 2 ©2016 山形浩生他 禁無断転載、無断複製。

国際経済学 International Economics›¸籍営業...(1980), pp. 505– 519; およびJagdish Bhagwati, Richard Brecher, and Tatsuo Hatta, “The Gen eralized Theory of Transfers

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  • 国際経済学 第 10版International Economics 10th Edition

    ポール・クルーグマン、モーリス・オブストフェルド、マーク・メリッツ*1 

    訳:山形浩生 +守岡桜*2

    2016年 9月 13日

    *1©2015*2©2016 山形浩生他 禁無断転載、無断複製。

  • 3

    目次

    第 6章オンライン補遺 A:国際所得移転と交易条件 1

    第 6章オンライン補遺 B:国際均衡をオファー曲線であらわす 1

    第 9章オンライン補遺 A:一般均衡での関税分析 1

    第 17章オンライン補遺 A:IS − LM モデルと DD −AAモデル 1

    第 18章オンライン補遺 A:国際収支のマネタリーアプローチ 1

  • 1

    第 6章オンライン補遺 A:国際所得移転と交易条件

    この補遺では、国際所得移転が資金を提供する国にとっても、それを受け取る国にとっ

    ても、交易条件にかなりの変化をもたらす様子を示そう。

    昔は、国の間で巨額の所得移転が起こるのは、戦争の後でのことだった。1871年に普仏戦争でフランスが負けると、ドイツ(プロイセン)はフランスに巨額のお金を要求した。

    第一次世界大戦後に、勝った連合国はドイツから巨額の賠償金を要求した(実際にはほと

    んどは支払われることはなかったけれど)。第二次世界大戦後にはアメリカは敗北した日

    本やドイツや、その戦時中の同盟国に援助をだして再建を支援した。1950年代から、先進国は貧しい国に援助を出したけれど、それで所得が大きく増えたのは、ごくわずかな最

    貧国だけではあった。

    国際融資は、厳密には所得移転じゃない。というのも、融資がもたらす購買力の現時点

    での移転は、後日それを返済するという義務がついてくるものだからだ。でも短期的に

    は、ある国にあっさりあげてしまう金額と、その国に貸した同額のお金とでは、経済的な

    影響は似たり寄ったりだ。だから国際所得移転の分析は、国際融資の影響を理解するのに

    も役に立つ。

    移転問題

    国際移転が交易条件にどう影響するかという問題は、偉大な経済学者二人、ベルティ

    ル・オリーン (貿易の要素比率理論創始者の一人) とジョン・メイナード・ケインズとの有名な論争で提起されたものだ。論争のテーマは、第一次世界大戦後にドイツに対して要

    求された賠償金で、そうした支払いがドイツ経済にどれほど負担になるか、というのが争

    点だった*1。

    ケインズは、連合国側の復讐心に満ちた賠償条件(「カルタゴの平和」)はあまりに厳し

    く、要求されている金額はドイツにとっての真の負担を過小に示すものでしかないという

    説得力ある議論を述べた。他国にお金を払うなら、ドイツはもっと輸出を増やして輸入を

    減らすしかない、というのがケインズの指摘だ。このためには、ドイツは輸入品に比べて

    輸出品を安くしなければならない。結果としてドイツの交易条件は悪化するから、それが

    賠償金支払いにさらなる負担を上乗せすることになる、とかれは論じた。

    オリーンは、ドイツの交易条件が悪化するというケインズの想定は正しいだろか、と疑

    *1それぞれ Keynes, “The German Transfer Problem” と Ohlin, “The German Transfer Problem:A Discussion,” Economic Journal 39 (1929), pp. 1-7 と pp. 172-182を参照のこと。

  • 2 第 6章オンライン補遺 A:国際所得移転と交易条件

    問視した。反論として、ドイツが賠償金を支払うために増税したら、外国財に対する需要

    が自動的に減るというのが主張だ。同時に、支払われた賠償金は他の国に減税や政府支出

    増という形で分配されて、これによる外国財への需要増の一部はドイツの輸出品に向かう

    はずだ。だからドイツは、輸入を減らして輸出を増やしても、交易条件は悪化しなくてす

    むかもしれないという。

    この論争に関する限り、議論は結局は無意味なものとなった。最終的に、ドイツは賠償

    金のごく一部しか払わなかったからだ。でも移転が交易条件に与える影響という問題は、

    国際経済学で驚くほど多くの場面に登場する。

    移転が交易条件に与える影響

    自国が所得の一部を外国に移転したら、自国の所得は減り、その支出も減るしかない。

    これに対応して、外国は支出を増やす。こんなふうに、世界支出の国ごとの割り振りがシ

    フトすると、世界の相対需要シフトをもたらして、結果として交易条件にも影響しかね

    ない。

    所得移転の影響は、RD 曲線のシフトだけだ(それが起こるかどうかもわからない)。

    RS 曲線はシフトしない。移転されるのが所得だけで、資本設備といった物理資源は動か

    ないなら、どの相対価格に対しても布と食品の生産はどちらの国でも変わらない。だから

    移転問題は純粋に需要側の問題だ。

    でも、世界所得が再分配されたところで、RD 曲線が必ずしもシフトするとは限らない

    (これがオリーンの論点だった)。外国が、追加所得を布と食品に振り分ける際に、自国が

    それぞれについて支出を減らしたのと同じ比率で減らすのであれば、布と食品それぞれに

    対する世界の支出は変わらない。RD 曲線はシフトしないし、だから交易条件への影響

    もない。

    でも両国が、支出変化を同じ割合でそれぞれの財に割り振らないのであれば、そのとき

    には交易条件に影響が出る。その影響の無機は、自国と外国の支出パターンの差による。

    自国が支出の限界シフトのうち、外国より高い割合を布に割り振るとしよう。つまり、自

    国は外国に比べ、布に対する限界消費性向が高い、ということだ (これに対応して、この場合の自国は食品に対しては限界消費性向が相対的に低くなければならない)。すると、どの相対価格でも、自国から外国への移転支払いは布への需要を引き下げ、食品需要を引

    き上げる。この場合、RD 曲線は RD1 から RD2 へと、左シフトする(図 1)。そして均衡は点 1から点 2に移る。このシフトは布の相対価格を (PC/PF )1 から (PC/PF )2 に引き下げて、自国の交易条件を悪化させる(自国は布を輸出しているから)。その一方で、

    外国の交易条件は改善する。これがケインズの述べていた場合だ。国際移転が交易条件に

    与える間接効果が、両国の所得に対するもともとの影響をさらに強化するわけだ。

    でも、別の可能性もある。もし自国の布に対する限界消費性向が外国より低ければ、自

    国から外国への移転は RD 曲線を右にシフトさせて、外国を犠牲にして自国の交易条件

    を改善する。この影響は、自国の所得に対するマイナスの影響と、外国の所得に対するプ

    ラスの影響の両方を相殺してしまう。

    つまり一般に、送金側が受け手側に比べ、輸出品への限界消費性向が高ければ、送金側

    の交易条件は悪化する。もし送金側のほうが自国輸出品への限界消費性向が低ければ、そ

    の交易条件はかえって改善する。

  • 3

    所得移転が行われた場合、両国の限界消費性向がちがえば交易条件は変わる。自国の布に

    対する限界消費性向が外国より高ければ、自国から外国への所得移転があると布の相対需

    要は下がり、均衡は点 1から点 2に移る。つまり布の相対価格も下がって、布輸出国(自国)の交易条件は悪化する。(注:原文はまったくちがうけれど、本文とまったく関係な

    い内容なので、明らかにコピペして修正忘れ。)

    図 1 所得移転による交易条件の変化

    この分析からは、パラドックスめいた可能性が示唆される。移転支払い――たとえば外

    国援助――は、可能性としては送金側の交易条件を大幅に改善してしまい、結果として送

    金国のほうに有利になって、受け手の状態はかえって悪化しかねない。贈り物は、もらう

    よりもあげる人のほうが幸せなのだという故事があるけれど、それがまさに本当になって

    しまう! 各種の理論的な研究で、このパラドックスは窮乏化成長と同じように、厳密に

    定式化されたモデルでも起こりえることが示されている。とはいえ、その条件は、窮乏化

    成長の場合よりもっと厳しいものなので、この可能性はほぼまちがいなく、純粋に理論的

    なものでしかない*2。

    この分析は、賠償金や外国援助の交易条件に対する影響が、プラスにもマイナスにもな

    り得ることを示している。だから一般原則の点ではオリーンが正しかった。それでも多く

    の人は、移転が送金国と受け取り国の所得に対する影響を強化するような交易条件への影

    響を生み出す事前的傾向があるのだと示唆した点でケインズは正しかったと主張するは

    *2窮乏化移転が起こる可能性の例としては Graciela Chichilnisky, “Basic Goods, the Effects of Com-modity Transfers and the International Economic Order,” Journal of Development Economics 7(1980), pp. 505 – 519; および Jagdish Bhagwati, Richard Brecher, and Tatsuo Hatta, “The Gen-eralized Theory of Transfers and Welfare,” American Economic Review 73 (1983), pp. 606-618 を参照。

  • 4 第 6章オンライン補遺 A:国際所得移転と交易条件

    ずだ。

    移転の交易条件への影響に関する事前的傾向

    移転が送金国の交易条件を悪化させるのは、送金国のほうが受け取り国に比べ、自国の

    輸出財に対して高い消費性向を持っている場合だ。もし限界消費性向が単に嗜好のちがい

    でしかないなら、その消費性向は高い側にも低い側にも事前的な傾向はないはずだ。どの

    財をその国が輸出するかは、おおむね技術や資源の差によるので、これは嗜好とは何も関

    係しないはずだ。

    でも実際の支出パターンを見ると、各国はどちらかというと自国の財に対する選好を持

    つらしい。たとえばアメリカは、世界の市場経済の産出価値のうち、たった 25パーセントほどを生産しているだけだ。つまりアメリカ財の総販売額は、世界販売額の 25パーセントだ。もし支出パターンが世界中で同じなら、アメリカはアメリカ製品に対して所得の

    25パーセントしか使わないはずだ。ところが輸入は国民所得のたった 15パーセントでしかない。アメリカは所得の 85パーセントを国内で使う。これに対し、その他世界がアメリカ製品に使う所得の割合もたった 9パーセントほどだ。この支出パターンのちがいはまちがいなく、アメリカが外国人に所得の一部を移転したら、アメリカ財に対する相対需要

    は下がり、交易条件が悪化するということを示唆している。ケインズの論じた通りだ。

    アメリカが所得のこんなに多くを自国で使うのは、自然のものも人工のものも含めた貿

    易障壁のせいだ。輸送費、関税 (輸入品への税金)、輸入割当 (輸入の量を制限する政府規制) があるから、各国の住民は各種の財やサービスについて、外国から輸入するよりは自国で買おうとする。本書の合本版と、『貿易編』の第 3章で示したように、こうした貿易障壁の影響は、非貿易財をいくつか作り出すことだった。各種財に割り振る収入がどの国

    でもまったく同じだったとしても、非貿易財の地元調達のおかげで、支出には自国バイア

    スがまちがいなく生じる。

    次の例を考えよう。仮に、財が二つではなく三つあったとしよう。布、食品、散髪だ。

    布は自国だけが生産する。食品は外国だけが生産する。でも散髪は非貿易財で、各国が自

    分の国で生産する。どちらの国も、それぞれの財に所得を 3 分の 1 ずつかける。両国がまったく同じ嗜好だったとしても、それぞれの国は所得の 3分の 1しか輸入に費やさず、3分の 2は国内で使う。非貿易財は、国内で生産されるあらゆる財について、自国選好に見えるものを作り出

    す。でも移転が交易条件に与える影響を分析するには、輸出財の需要と供給に何が起こる

    かを見る必要がある。ここでの肝心なポイントは、ある国の非貿易財は、輸出品と資源を

    めぐって競争するということだ。アメリカからその他世界に所得移転が起こると、アメリ

    カの非貿易財に対する需要が減り、そこで使われていた資源はリリースされて、アメリカ

    の輸出財生産にまわせる。結果としてアメリカ輸出財の供給は増える。同時に、アメリカ

    からその他世界に所得が移転されると、その他世界での非貿易財の需要が増える。移転さ

    れた所得の一部は、散髪などの非貿易財に使われるからだ。その他世界で非貿易財の需要

    が増えると、外国の資源は輸出品を離れることになり、外国輸出品(つまりはアメリカの

    輸入品)の供給を減らす。結果と手、アメリカから他の国々への移転は外国に比べてアメ

    リカの輸出品価格を引き下げ、アメリカの交易条件を悪化させかねない。

    需要のシフトで、非貿易財部門と、輸入競合品部門との間で資源が移動することにもな

  • 5

    る。でも実務的な問題として、ほとんどの経済学者たちは、貿易障壁の影響は、国際移転

    が送金国の交易条件を悪化させるという事前的傾向を裏づけるものだと信じている。だか

    ら、実務的に言えばケインズが正しかったわけだ。

  • 1

    第 6章オンライン補遺 B:国際均衡をオファー曲線であらわす

    ほとんどの場合、国際均衡を相対需給で分析するのが手法として最も単純だし使い勝手

    もいい。でも状況によっては、各国が他国に出荷するものを直接示す図式で貿易を分析す

    るほうが便利だ。これをやる図がオファー曲線図だ。

    ある国のオファー曲線を導く

    本書の合本版と、『貿易編』の図 6.3では、相対価格 PC/PF が与えられたときの国の生産と消費を決める方法を示した。オファー曲線では、任意の相対価格が与えられたとき、

    それに対応する貿易フローを直接示す。図 1の片方の軸では、この国の輸出 (QC −DC)が示され、もう片方の軸にはその輸入 DF −QF )が示される。図 1の点 T は、図 6.3に示した状況に対応する (生産は Q、消費は D)。この場合、以下が成り立つ:

    (DF −QF ) = (QC −DC)× (PC/PF )

    このとき、図 1 の原点から T への直線の傾きは PC/PF に等しい。T は、その相対価格での自国のオファーだ。つまりその価格だと、自国の住民は布 (QC − DC) を食品

    原点からの直線の傾きに対応する相対価格で、自国は布 (QC −DC)を食品 (DF − QF )と交換しようというオファーを出す。

    図 1 ある相対価格で自国が望む貿易

  • 2 第 6章オンライン補遺 B:国際均衡をオファー曲線であらわす

    オファー曲線は、布の相対価格を変えたときに自国のオファーがどう変わるかをたどるこ

    とで得られる。

    図 2 自国のオファー曲線

    (DF −QF )と交換したいと思っている。相対価格をいろいろ変えて自国のオファーを計算することで、自国のオファー曲線が描

    き出せる (図 2)。合本版と、『貿易編』の図 6.4で、PC/PF が上がるとQC があがり、QFが下がり、DF は上がり、DC は上がる場合も下がる場合もあるということを見た。でも

    希望の (QC −DC)と (DF −QF )は、所得効果があまり強くなければ、普通はどっちも上がる。図 2だと、T 1 は図 6.4の Q1, D1 に対応するオファーだ。T 2 は Q2, D2 に対応する。いろいろな価格で自国のオファーを見つけてたどると、自国のオファー曲線 OC が

    できあがる。

    外国のオファー曲線 OF も同じやり方で導き出せる (図 3)。縦軸には、外国の希望する食品輸出 (Q∗F −D∗F )を採って、横軸には布の希望輸入 (D∗C −Q∗C)を採ろう。PC/PFが低くなると、それだけ外国が輸出したがる食品は増え、輸入したがる布も増える。

    国際均衡

    均衡では、(QC −DC) = (D∗C −Q∗C)が成立して、(DF −QF ) = (Q∗F −D∗F )も成り立つはずだ。つまり、世界の需要と供給が、布と食品の両方について等しくなるはずだ。

    こうした恒等性があるので、自国と外国のオファー曲線を同じ図に重ねて見よう (図 4).。均衡は、自国と外国のオファー曲線が交わる点だ。均衡点 E では、布の相対価格は OE

    の傾きに等しい。自国の布輸出(これは外国の布輸入に等しい) は OX だ。外国の食品輸出(これは自国の輸入に等しい) は OY だ。国際均衡をこういう形で表すと、この均衡が本当に一般均衡なのだということがわか

    りやすくなる。つまり需要と供給が両方の市場で同時に等しくなっているということだ。

  • 3

    外国のオファー曲線は、外国の希望する布輸入と食品輸出が相対価格の変化に応じてどう

    変わるかを示す。

    図 3 外国のオファー曲線

    世界均衡は、自国と外国のオファー曲線が交わる点だ。

    図 4 オファー曲線の均衡

  • 1

    第 9章オンライン補遺 A:一般均衡での関税分析

    本書の合本版と、『貿易編』の第 9章では、貿易政策の分析に部分均衡アプローチを使っている。つまり、関税や輸入割当などの政策による影響を単一の市場内だけで見当し、そ

    れが他の市場に与える影響については明示的に考えていない。この部分均衡アプローチ

    は、通常は十分なものだし、市場同士の影響を考慮する完全な一般均衡手法よりはずっと

    単純だ。それでも、ときには一般均衡分析をやる必要も出てくる。本書の合本版と、『貿

    易編』の第 6章では、一般均衡での関税の影響についてちょっと触れた。この補遺はもっと詳細な分析を示す。

    この分析は二段階で進む。まずは小国での関税の影響を分析する。関税が交易条件に影

    響を与えられないような場合だ。それから、大国の場合を分析する。

    小国での関税

    ある小国を創造してほしい。ここは工業製品と食品という 2種類の財を生産して消費する。この国は小さいので、自国交易条件を左右できない。工業製品を輸出して、食品を輸

    入するとしよう。つまり、この国は世界市場に工業製品を所与の世界価格 P ∗M で売り、食

    品を所与の世界価格 P ∗F で買う。

    図 1は、関税がないときのこの国の立場を示す。経済は、生産可能性フロンティアの上で、傾きが −P ∗M/P ∗F の直線と接する点で生産する(図では点 Q1)。この直線はまた、この経済の予算制約も決めている。つまりこの経済に手が届く消費点すべてがこの上にあ

    る。経済は予算制約線上で、実現可能な最も高い無差別曲線と接する点を選ぶ。この点は

    図上の D1 だ。

    さてここで、政府が tの率で従価関税をかけたとする。このとき、消費者と国内生産者

    の両方が直面する食品価格は P ∗F × (1 + t)に上がり、このため相対価格直線はもっと傾きがゆるくなり、−P ∗M/[P ∗F × (1 + t)]になる。これによる工業製品の相対価格低下が生産に与える影響は何もひねりはない。工業製品

    の産出は下がり、食品の産出はふえる。図 2でこの生産シフトは、生産の点が図 1にも出てきた点 Q1 から Q2 への移行で示されている。

    消費への影響はもっとややこしい。関税は歳入を生み出し、これはどこかで使われるし

    かない。一般に、関税の厳密な影響は政府がその関税歳入をずばりどう使うかで決まって

    くる。政府が関税収入をすべて消費者たちに戻す場合を考えよう。このとき消費者の予算

    制約線は、生産点 Q2 を通る、傾き −P ∗M/[P ∗F × (1 + t)]の線ではなくなる。消費者は財の生産で生み出す所得だけでなく、政府の集めた関税収入からの受け取り分も消費できる

  • 2 第 9章オンライン補遺 A:一般均衡での関税分析

    からだ。

    真の予算制約はどうやって見つけようか? 貿易はいまでも世界価格で均衡しなければ

    ならないことを考えよう。つまり以下が成り立つ:

    P ∗M × (QM −DM ) = P ∗M × (DF −QF )

    ここで Qは工業製品と食品の産出、D は工業製品と食品の消費だ。この式の左辺はつま

    り、世界価格での輸出額を示し、右辺は世界価格での輸入額を示す。この式を整理すると、

    世界価格での消費の価値が生産価値と等しいことが示される。

    P ∗M ×QM + P ∗F ×QF = P ∗M +DM + P ∗F ×DF

    これは、生産点 Q2 を通り、傾き −P ∗M/P ∗F )の予算制約線を決める。消費の点もまたこの新しい予算制約上になくてはならない。

    でも消費者たちは、この新しい予算制約線が無差別曲線と接する点を選ばない。関税は

    人々に、食品の消費を減らさせ、工業製品の消費を増やす。図 2 で関税後の消費点を D2

    に示した。これは新しい予算制約線上にあるけれど、−P ∗M/[P ∗F (1+ t)]の傾きを持つ線と接する無差別曲線の上にある。この線は、生産点 Q2 を通り同じ傾きを持つ線より上にあ

    る。ちがいは、消費者に再分配された関税収入だ。

    図 2を検討して図 1と比べると、三つの重要な点がわかる。

    1. 自由貿易のときに比べて厚生は下がる。つまり D2 は D1 よりも低い無差別曲線の上にある。

    2. 厚生の低下をもたらす影響は二つある。 (a) 経済はもはや、世界価格で所得の価値を最大化する点では生産しない。Q2 を通る予算制約線は、Q1 を通る制約線の内側

    にある。 (b) 消費者は、予算制約線上の厚生最大化地点を選ばない。だから、経済

    国は生産可能性フロンティア上で、傾きが相対価格と同じ直線と接する点で生産し、予算

    制約線上で最も高い無差別曲線との接点で消費する。

    図 1 小国についての自由貿易均衡

  • 3

    国は輸出財の生産を減らし、輸入財の生産をもっと増やす。消費もやはり歪む。結果とし

    て、厚生も国の貿易量も下がる。

    図 2 小国での関税

    の真の予算制約に接する無差別曲線にも移行しない。(a) と (b) はどちらも、国内消費者と国内生産者が、世界価格とはちがう価格に直面することで生じている。非

    効率な生産による厚生損失 (a) は、この章で論じた部分均衡アプローチで述べた、生産歪曲損失の一般均衡版となる。そして非効率的な消費による厚生損失は、消費

    歪曲損失に対応するものだ。

    3. 貿易は関税により減る。輸出と輸入はどちらも関税導入後のほうが、導入前よりも少ない。

    これが小国の課した関税の影響だ。次に大国が関税を課した場合の影響を考えよう。

    大国での関税

    大国の場合を考えるには、本書の合本版と、『貿易編』の第 6章オンライン補遺で開発した、オファー曲線の技法を使う。自国と外国という二つの国を考えよう。自国は外国と

    貿易し、工業製品を輸出して食品を輸入する。図 3に、外国のオファー曲線を OF で示した。自国のオファー曲線は、関税がない場合は OM1 で示されている。自由貿易均衡は、

    OF と OM1 の交点、点 1で決まり、世界市場での工業製品の相対価格は (P ∗M/P ∗F )1 だ。さて自国が関税をかけたとしよう。まず考えるのは、交易行兼が変化しなかったら貿易

    がどう変わるか、ということだ。この答えはすでに、小国分析で検討した。世界価格が所与

    なら、関税は輸出と輸入をどっちも減らす。だから工業製品の世界相対価格が (P ∗M/P∗F )

    1

    なら、自国のオファーは点 1から点 2にシフトする。もっと一般化すると、もし自国が関税をかけたら、そのオファー曲線は全体として内側に収縮して、点 2を通る OM2 のような曲線になる。

    でも、自国のオファー曲線のこうしたシフトは、均衡交易条件を変える。図 3では、新

  • 4 第 9章オンライン補遺 A:一般均衡での関税分析

    関税は、あらゆる所与の交易条件において、その国の貿易を減らす。だからそのオファー

    曲線は内側にシフトする。でもこれは、交易条件が改善するはずだということだ。交易条

    件改善からの利得は、生産と消費の歪曲から生じる損失(これはあらゆる所与の交易条件

    で厚生を引き下げる)を相殺できるかもしれない。

    図 3 関税が交易条件に与える影響

    しい均衡は点 3で、工業製品の相対価格は (P ∗M/P ∗F )2 > (P ∗M/P ∗F )1 だ。つまり、関税は自国の交易条件を改善する。

    自国の厚生に対する関税の影響ははっきりしない。一方では、もし交易条件が改善しな

    ければ、小国の分析でさっき見た通り、関税は厚生を引き下げる。その一方で、自国の交

    易条件改善は厚生を高める傾向が強い。だから厚生はどっちの方向にも向かう可能性があ

    る。この結果は部分均衡分析の場合と同じだ。

  • 1

    第 17章オンライン補遺 A:IS − LM モデルと DD − AAモデル

    この補遺では、17章で示した DD − AAモデルと、国際マクロ経済学の問題に答えるためによく使われる別のモデル、IS − LM モデルとの関係を検討する。IS − LM モデルは実質国内金利が総需要に影響を与えられるようにすることで、DD −AAモデルを一般化したものだ。

    IS − LM モデルの分析で通常使われるグラフは、産出が横軸で縦軸は名目金利だ。それに対してここでは、産出は横軸でも、縦軸は名目為替レートになっている。DD − AAグラフと同じく、IS − LM 図は経済の短期均衡を、IS と LM という二つのちがった市場均衡曲線の交点により決める。IS 曲線は、産出と外国為替市場が均衡するような、名

    目金利と産出水準の組み合わせをたどったグラフだ。LM 曲線は、貨幣市場が均衡になっ

    ている点を示す*3

    IS −LM モデルは、投資と、一部の消費者購入 (たとえば自動車など耐久財の購入) は期待実質金利と負の相関を持っていると考える。期待実質金利が低ければ、企業は借金を

    して投資計画を実行すると儲かる (本書の合本版と、『貿易編』の第 6章の補遺は、投資と実質金利との関係を示すモデルを提示している)。期待実質金利が低いと、代替資産を抱えるよりも在庫を抱えるほうが儲かることになる。この両方の理由から、期待実質金利が

    下がれば投資は増えると期待される。同様に、実質金利が低ければ、消費者は借金が安上

    がりだし貯蓄は魅力がないと思うので、実質金利が下がると金利に反応する消費者の購買

    も増える。でも本書の合本版 17章 (『金融編』第 6章) の補遺 1が示したように、金利に対する消費の反応は、理論的に見ても実証的なデータを見ても、投資の反応よりは鈍い。

    だから IS − LM モデルでは、総需要は実質為替レート、可処分所得、実質金利の関数として書かれる。

    D(EP ∗/P, Y−T,R−πe) = C(Y−T,R−πe)+I(R−πe)+G+CA(EP ∗/P, Y−T,R−πe)

    *3閉鎖経済の文脈で IS −LM モデルを元々提案したのは J. R. Hicks, “Mr. Keynes and the ‘Classics’:A Suggested Interpretation,” Econometrica 5 (April 1937), pp. 147-159だ (邦訳ヒックス「ケインズ氏と『古典派』たち」、ケインズ『雇用、利子、お金の一般理論』(講談社学術文庫)所収)。ヒックス論説は、今日でも楽しくて示唆的な読み物になっている。IS という名前は、閉鎖経済では産出市場が均衡するのは投資 (I)と貯蓄 (S) が等しいときだという事実からくる (ただし開放経済では必ずしもこうはならない! )。LM 曲線側では、実質貨幣需要 (L) が実質貨幣供給(我々の表記だとMs/P ) と等しくなる。このモデルの開放経済版では、簡略化のために期待については E = Ee と想定していて、マンデル=フレミング・モデルと呼ばれる。コ

    ロンビア大学の経済学者ロバート・マンデルは、1999年にこのモデルの研究によりノーベル賞を受賞した。

  • 2 第 17章オンライン補遺 A:IS − LM モデルと DD −AAモデル

    ここで πe は期待インフレ率で、R − πe はつまり期待実質金利になる。モデルはP, P ∗, G, T,R∗, Ee がすべて所与と想定する (表記を単純化するため、総需要関数 Dに Gは含めなかった)。総需要が総産出と等しくなるというのは、つまり以下が満たされることだ:

    Y = D(EP ∗/P, Y − T,R− πe)

    これを満たすような、Rと Y の組あわせを描いた IS 曲線を見つけるには、まずこの産出

    市場均衡条件を書き換えて、E に依存しないようにする必要がある。

    これを E について解くには、金利平価条件 R = R∗ + (Ee − E)/E を使おう。これをE について解くと、結果は

    E = Ee/(1 +R−R∗)

    この式を総需要関数に代入すると、産出市場均衡の条件が次のように書けることがわ

    かる。

    Y = D[EeP ∗/P (1 +R−R∗), Y − T,R− πe]

    産出の変化が財市場の均衡にどう影響するかについて完全な理解を得るには、経済のイ

    ンフレ率が実際の産出 Y と「完全雇用」産出 Y f とのギャップと正の相関を持つことを

    思だそう。だから πe を、そのギャップの増加関数としてかける:

    πe = πe(Y − Y f )

    この期待についての想定の下では、財市場は以下の条件のときに均衡となる。

    Y = D[EeP ∗/P (1 +R−R∗), Y − T,R− πe(Y − Y f )]

    この条件は、名目金利 Rが下がると総需要が二つの経路で上がることを示している。 (1)期待将来為替レートが所与なら、R が下がると国内通貨は減価して、経常収支が改善す

    る。 (2) 期待インフレが所与なので、Rが下がると消費と投資支出が直接刺激されて、それが部分的にだけ輸入品に向かう。この経路のうち二番目――金利が支出に与える影響

    ――だけが閉鎖経済の IS − LM モデルでは見られる。IS を導くには、こうした金利低下に対して、産出市場均衡を維持するには産出がどれ

    だけ下がる必要があるかを考えればいい。R低下は総需要をひい上げるから、産出市場が

    R の低下で均衡を維持するには Y が上がるしかない。だから IS 曲線は、図 1のように右肩下がりとなる。IS と DD 曲線はどっちも産出市場均衡を示すけれど、IS は右肩下

    がりでDDは右肩上がりだ。この差が出る理由は、期待将来為替レートが所与の場合、金

    利と為替レートは金利平価条件により反比例しているからだ*4。

    LM (つまり貨幣市場均衡) 曲線を導くのはずっと簡単だ。貨幣市場の均衡は Ms/P =L(R, Y ) のときに成り立つ。金利が上がると貨幣需要が減るので、これは所与の産出市場

    *4IS の傾きがマイナスだと結論するにあたり、我々は産出上昇が R下落により生じた産出への過剰需要を

    減らすのだと論じた。この過剰需要の減少が起こるのは、産出の増加により消費需要がふえる一方で、その上昇

    分は産出の増加分より少ないからだ。でもたとえば、産出上昇はまた期待インフレも引き上げるから、これが需

    要を刺激することにも留意しよう。だから産出市場での需要をなくすのは、産出の低下であって上昇ではないこ

    とも考えられる。ここでは、この倒錯した可能性(これだと IS 曲線は右肩上がりとなる)は生じないものと想定する。

  • 3

    均衡は点 1、つまり産出市場と資産市場が同時にクリアする点だ。

    図 1 IS − LM モデルの短期均衡

    貨幣供給の一時的な増加は LM 曲線だけを右にシフトさせるけれど、恒久的な増加は IS

    と LM の両方をその方向にシフトさせる。

    図 2 IS − LM モデルでの貨幣供給の永続的な増加と一時的な増加の影響

    について、過剰な貨幣供給をもたらす。だから R の上昇後に貨幣市場の均衡を維持する

    には、Y もまた上昇しなければならない (産出がふえるとお金の取引需要が刺激されるからだ)。だから LM 曲線は、図 1のように右肩上がりの傾きを持つ。IS と LM の交点 1は、産出 Y 1 と名目金利 R1 の短期均衡値を決める。すると今度は均衡金利が、金利平価

    条件を通じて短期均衡為替レートを決める。

    IS − LM モデルは、金融政策や財政政策の影響分析に使える。たとえば貨幣供給の一時的な増加は、LM を右にシフトさせ、金利を引き下げて産出を拡大させる。でも貨幣供

  • 4 第 17章オンライン補遺 A:IS − LM モデルと DD −AAモデル

    一時的な財政拡大は産出にプラスの影響を与えるけれど、恒久的な財政拡大だとそうはな

    らない。

    図 3 IS − LM モデルでの永続的な財政拡大と一時的な財政拡大の影響

    給の恒久的な増加は、LM を右シフトさせるけれど、IS も右シフトさせる。なぜかとい

    うと、開放経済では IS 曲線は Ee に影響されるからで、これがいまや上昇するからだ。

    図 2の右側はこうしたシフトを示す。貨幣供給の恒久的な増加に伴う新しい短期均衡 (点2) では、産出と金利は同じ額の一時的増加に伴う短期均衡 (点 3) よりも高い。名目金利は、点 2のほうが点 1より高いことさえあり得る。この可能性は、本書の合本版第 16章(『金融編』第 5章) のフィッシャー期待インフレ効果が、金融拡大後に名目金利を押し上げる別の例を示してくれる。

    図 2の左側は、金融的変化が為替レートにどう影響するかを示す。これはいつもの外国為替以上均衡の図だけれど、縦軸に沿って左右に反転させた。だから横軸に沿って左に向

    かう方が E の増加 (つまり自国通貨の減価) となる。貨幣供給の高級増大に伴う金利 R2

    は、外国為替市場の均衡が点 2′ になることを示唆する。なぜかというと、それに伴う Ee

    の上昇が、外国預金に対する自国通貨建て期待収益率を示す曲線をシフトさせるからだ。

    この曲線は、貨幣供給の増大が一時的ならシフトしないから、この場合に生じる均衡金利

    R3 は、外国為替均衡を点 3′ でもたらすことになる。

    財政政策を分析したのが図 3だ。ここでは出発点が長期均衡だとしている。たとえば政府支出の一時的な増大は、IS1 を右にシフトさせるけれど、LM には何も影響がない。点

    2の新しい短期均衡は、産出増大と名目金利上昇を示しているし、外国為替市場均衡は点2′ で、一時的な通貨増価を示す。政府支出の恒久的な増加は、長期均衡為替レートの低下

    を引き起こし、結果として Ee は下がる。だから IS 曲線は、一時的な政策の場合ほど外

    側にシフトしない。というか、まったくシフトしない: DD−AAモデルの場合と同じく、

  • 5

    永続的な財政拡大は、産出にも自国金利にもまったく影響を与えない。なぜ恒久的な財政

    政策による動きが一過性の政策よりも弱いかといえば、その理由は図の左手 (点 3′)を見るとわかる。それに伴って生じる為替レート期待の変化が、ずっと急激な通貨増価を引き

    起こし、それが準輸出への影響を通じて、総需要の完全な「クラウディングアウト」を引

    き起こすわけだ*5。

    *5IS − LM モデルとDD −AAモデルとのちがいの一つは、IS − LM モデルでは金融拡大が実質金利を引き下げることで国内支出を後押しするため、(Jカーブ効果がないときですら)経常収支の悪化を引き起こせるということだ。関心ある生徒は、本書の合本版第 17章(『金融編』第 6章) で論じたXX 曲線の IS − LM版を導いてみてほしい。

  • 1

    第 18章オンライン補遺 A:国際収支のマネタリーアプローチ

    本書の合本版第 18章 (『金融編』7章) で論じた、国の国際収支と貨幣供給との密接な関係は、中央銀行の準備高の変動が、貨幣市場での変化の結果と見なせることを示唆して

    いる。国際収支分析のこの手法は、国際収支のマネタリーアプローチと呼ばれている。マ

    ネタリーアプローチは、1950年代と 1960年代に、ジャック・J・ポラック率いる国際通貨基金 (IMF) の研究部門と、シカゴ大学のハリー・G・ジョンソン、ロバート・A・マンデルやその門下生たちにより開発された*6。

    マネタリーアプローチは、国際収支と貨幣市場での展開とを結ぶ単純なモデルで描き出

    せる。まず、貨幣市場が均衡となるのは、実質貨幣供給が実質貨幣需要と等しいときだと

    いうのを思だそう。つまり以下が成り立つときだ。

    Ms/P = L(R, Y )

    さて F ∗ を中央銀行の外国資産(国内通貨建てで計測)としよう。Aは中央銀行の国内

    資産 (国内信用)だ。µ が総中央銀行資産 (F ∗ +A)と貨幣供給との関係を示す貨幣乗数だとすると、次が成り立つ。

    Ms = µ(F ∗ +A)

    中央銀行の外国資産の任意の期間における変化∆F ∗ は、国際収支(非準備通貨国の場合)と等しくなる。いまの二つの等式を組み合わせると、中央銀行の外国資産は次のようにか

    ける。

    F ∗ = (1/µ)PL(R, Y )−A

    µ が一定だとすると、国際収支黒字は次の通り:

    ∆F ∗ = (1/µ)∆[PL(R, Y )]−∆A

    この等式が、マネタリーアプローチをまとめたものとなる。右辺の第一項は、名目貨幣需

    要の変化を反映したもので、他のすべてが同じなら、貨幣需要の増加は国際収支黒字をも

    たらし、それに伴い貨幣市場均衡を維持する貨幣供給増が生じることを示している。国際

    収支方程式の第二項は、貨幣市場の供給要因を示す。他のすべてが同じなら、国内信用の

    *6マネタリーアプローチを使った多くの独自論文を集めたのが Jacob A. Frenkel and Harry G. Johnson,eds., The Monetary Approach to the Balance of Payments (London: George Allen and Unwin,1976) および International Monetary Fund, The Monetary Approach to the Balance of Payments(Washington, D.C.: International Monetary Fund, 1977)だ。

  • 2 第 18章オンライン補遺 A:国際収支のマネタリーアプローチ

    増加は貨幣需要に比べて貨幣供給を引き上げる。だから国際収支は貨幣供給を減らして貨

    幣市場均衡を回復しようとして、赤字になってしまう。

    国際収支は経常黒字と(非準備)金融勘定黒字の合計だから(合本版第 13章/『金融編』第 2章を参照)、マネタリーアプローチの構築以前に登場した経済学論文の大半は、国際収支を経常収支や金融収支の変化の結果として説明していた。マネタリーアプローチの

    重要な貢献は、多くの状況では国際収支問題が、貨幣市場のバランスの崩れから直接生じ

    ていることを強調し、よって最も適切なのは金融政策に頼った政策的なソリューションな

    のだと示すことだった。たとえば巨額の国際収支赤字は、過大な国内信用創造の結果かも

    しれない。この国際収支赤字は一般に、経常赤字とプラスの民間金融収支を伴うことには

    なるけれど、その根本原因が国内の財や資産に対する相対世界需要の外生的な低下の結果

    だと考えるのはまちがった見方となる。

    でも、マネタリーアプローチに基づく国際収支分析が政策ガイドとしては回りくどく、

    むしろまちがいのもとともなりかねない現実的なケースも多い。たとえば、国内産品に対

    する外国需要の一時的な低下が本当に起きたとしよう。この変化は経常収支の悪化を引き

    起こし、国際収支も悪化させるけれど、こうした影響は(硬直的な資本勘定の制限が行わ

    れていなければ) 一時的な拡張的財政政策で対応できるものだ。産出と、ひいては貨幣需要が下がるので、マネタリーアプローチはまた国際収支赤字が

    輸出需要の下落から生じるという予測も出す。でも政策担当者としては、国際収支赤字が

    貨幣需要の低下によるものだから、国内信用収縮がいちばんいい対応だと結論したらまち

    がいになる。中央銀行が国際収支改善のために国内信用を制限したら、失業は高止まりす

    るか、もっと上昇しかねない。

    マネタリーアプローチは、分析ツールとしてきわめて便利だけれど、マクロ経済問題へ

    の答えを出そうとするときには、慎重に適用しなければならない。最も役に立つのは、国

    内貨幣需要や貨幣供給のシフトの直接的な結果として生じた政策問題への解決策を構築す

    るときだ。

    第6章オンライン補遺 A:国際所得移転と交易条件第6章オンライン補遺 B:国際均衡をオファー曲線であらわす第9章オンライン補遺 A:一般均衡での関税分析第17章オンライン補遺 A:IS-LMモデルとDD-AAモデル第18章オンライン補遺 A:国際収支のマネタリーアプローチ