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Hilbert-Huang Transform による非定常・非線形信号解析 大塚 淳一 1.はじめに 土木研究所では各分野において多くの調査・実験が 行われている。調査・実験で計測される項目は気温、 風向、風速、地盤・構造物の変位、構造物に作用する 荷重、流向、流速、波高、水質など多岐にわたる。こ れらの計測データに対する解析方法は調査・実験の目 的に応じて異なるが、対象とする現象の周波数特性を 把握する場合、計測データに対してスペクトル解析を 行うことが多い。スペクトル解析では三角関数を基底 とするフーリエ解析が一般的に行われる。しかしなが ら、フーリエ解析ではデータの定常性・周期性を前提 としているため、構造物に作用する衝撃荷重、地震波 形、波浪データなどの非定常性の強いデータを扱う場 合、解析結果から周波数特性を正確に理解することは できない。 このような非定常性の強いデータの周波数特性を把 握する場合、短時間フーリエ解析やウェーブレット解 析などの時間周波数解析が有効となる。短時間フーリ エ解析とは信号を短い区間に分割し、各分割信号に対 してフーリエ変換を行う方法である。また、ウェーブ レット解析とはマザーウェーブレットと呼ばれる基底 関数を拡大・縮小、平行移動することにより、各周波 数成分の強度の時間変化を求める方法である。両解析 手法は時間周波数解析の代表的な方法として広く知ら れているが、短時間フーリエ解析では信号の分割幅を 選択することが難しいこと、また、ウェーブレット解 析では最適なマザーウェーブレットを選択することが 難しいといった不便さを有している。 短時間フーリエ解析とウェーブレット解析が確立さ れた後、時間周波数解析手法の開発に大きな進展は見 られなかったが、近年、Huang et al.(1998) 1) によっ て全く新しい解析手法が提案されている。Huang et al.(1998) 1) の 解 析 手 法 は Hilbert-HuangTransform (HHT)と呼ばれている。HHT ではまず、Empirical Mode Decomposition(EMD)と呼ばれる方法によっ て デ ー タ を 単 純 な 固 有 振 動 モ ー ド(Intrinsic Mode Function:IMF)に 分 解 し た 後、 各 IMF に 対 し て Hilbert Spectrum 解析を行い瞬時周波数が求められ る。HHT は従来の解析手法よりも高い時間・周波数 分解能を有しており、多くの自然現象を対象とした解 析結果を通じてその有用性が示されている。 本資料では、HHT の紹介とその有用性を示すこと を主な目的として、HHT によるデータ解析手法の説 明と2つの異なる sin 波の和、不規則波浪データ、氷 塊落下実験で得られた衝撃荷重データの解析結果につ いて説明する。なお、HHT は時系列データのみなら ず空間データに対しても適用できるが、本資料で扱う データは時系列データのみとする。 2.Empirical Mode Decomposition(EMD) HHT ではまず始めに、EMD によって計測データ を複数の IMF に分解する。EMD は計測データの線 形性・非線形性や定常性・非定常性を問わない。EMD は HHT を行う上で最も重要なプロセスであり、その 方法は極めてユニークといえる。ここでは、造波水槽 で計測された不規則波浪データの一部を用いて EMD による IMF の求め方について説明する。 EMDの最初の作業では、初期データ X 1 t)(図-1黒線)の局所最大値(上に凸の点)と局所最小値(下に凸 の点)を抽出し、3次スプライン関数を用いて局所最 大値を結んだ上部包絡線(図-1、赤線)と局所最小値 を結んだ下部包絡線(図-1、青線)を描く。続いて、 各時間における両包絡線の平均値 m 1 を計算し(図- 、緑線)、初期データ X 1 t)から両包絡線の平均値 m 1 を引いた波形 h 1 を求める(図-2、赤線)。この作 業で得られた波形 h 1 は対称性が乏しく IMF とはいえ ない。そこで、X 1 t)に行った作業を h 1 に対しても同 様に行い、波形 h 2 を求める。さらに、h 3 h 4 h k を求 めて h k を IMF に近づける作業を行う。図-3の赤線 h 5 を示しており、h 5 は波形の対称性が増して IMF に近づいていることがわかる。h k が IMF となる条件 として、Huang and Shen(2005) 2) h k のゼロクロ ス点の数とピークの数(上に凸、下に凸の点数)が1つ の IMF を求める過程で連続して S 回変化せず、さら 技術資料 寒地土木研究所月報 №703 2011年12月 39

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Hilbert-Huang Transform による非定常・非線形信号解析

大塚 淳一*

1.はじめに

 土木研究所では各分野において多くの調査・実験が行われている。調査・実験で計測される項目は気温、風向、風速、地盤・構造物の変位、構造物に作用する荷重、流向、流速、波高、水質など多岐にわたる。これらの計測データに対する解析方法は調査・実験の目的に応じて異なるが、対象とする現象の周波数特性を把握する場合、計測データに対してスペクトル解析を行うことが多い。スペクトル解析では三角関数を基底とするフーリエ解析が一般的に行われる。しかしながら、フーリエ解析ではデータの定常性・周期性を前提としているため、構造物に作用する衝撃荷重、地震波形、波浪データなどの非定常性の強いデータを扱う場合、解析結果から周波数特性を正確に理解することはできない。 このような非定常性の強いデータの周波数特性を把握する場合、短時間フーリエ解析やウェーブレット解析などの時間周波数解析が有効となる。短時間フーリエ解析とは信号を短い区間に分割し、各分割信号に対してフーリエ変換を行う方法である。また、ウェーブレット解析とはマザーウェーブレットと呼ばれる基底関数を拡大・縮小、平行移動することにより、各周波数成分の強度の時間変化を求める方法である。両解析手法は時間周波数解析の代表的な方法として広く知られているが、短時間フーリエ解析では信号の分割幅を選択することが難しいこと、また、ウェーブレット解析では最適なマザーウェーブレットを選択することが難しいといった不便さを有している。 短時間フーリエ解析とウェーブレット解析が確立された後、時間周波数解析手法の開発に大きな進展は見られなかったが、近年、Huang et al.(1998)1)によって全く新しい解析手法が提案されている。Huang et al.(1998)1)の 解 析 手 法 は Hilbert-HuangTransform

(HHT)と呼ばれている。HHT ではまず、Empirical Mode Decomposition(EMD)と呼ばれる方法によってデータを単純な固有振動モード(Intrinsic Mode Function:IMF)に 分 解 し た 後、 各 IMF に 対 し て

Hilbert Spectrum 解析を行い瞬時周波数が求められる。HHT は従来の解析手法よりも高い時間・周波数分解能を有しており、多くの自然現象を対象とした解析結果を通じてその有用性が示されている。 本資料では、HHT の紹介とその有用性を示すことを主な目的として、HHT によるデータ解析手法の説明と2つの異なる sin 波の和、不規則波浪データ、氷塊落下実験で得られた衝撃荷重データの解析結果について説明する。なお、HHT は時系列データのみならず空間データに対しても適用できるが、本資料で扱うデータは時系列データのみとする。

2.Empirical Mode Decomposition(EMD)

 HHT ではまず始めに、EMD によって計測データを複数の IMF に分解する。EMD は計測データの線形性・非線形性や定常性・非定常性を問わない。EMDは HHT を行う上で最も重要なプロセスであり、その方法は極めてユニークといえる。ここでは、造波水槽で計測された不規則波浪データの一部を用いて EMDによる IMF の求め方について説明する。 EMD の最初の作業では、初期データ X1(t)(図-1、黒線)の局所最大値(上に凸の点)と局所最小値(下に凸の点)を抽出し、3次スプライン関数を用いて局所最大値を結んだ上部包絡線(図-1、赤線)と局所最小値を結んだ下部包絡線(図-1、青線)を描く。続いて、各時間における両包絡線の平均値 m1を計算し(図-

1、緑線)、初期データ X1(t)から両包絡線の平均値m1を引いた波形 h1を求める(図-2、赤線)。この作業で得られた波形 h1は対称性が乏しく IMF とはいえない。そこで、X1(t)に行った作業を h1に対しても同様に行い、波形 h2を求める。さらに、h3、h4…hk を求めて hk を IMF に近づける作業を行う。図-3の赤線は h5を示しており、h5は波形の対称性が増して IMFに近づいていることがわかる。hk が IMF となる条件として、Huang and Shen(2005)2)は hk のゼロクロス点の数とピークの数(上に凸、下に凸の点数)が1つの IMF を求める過程で連続して S 回変化せず、さら

技術資料

寒地土木研究所月報 №703 2011年12月 39

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に、ゼロクロス点の数とピークの数が一致する、もしくは1つだけ違うという条件を提案している。Huang and Shen(2005)2)は多くデータに対する解析結果をもとに、S 値を4〜8に設定することを勧めている。また、筆者が種々のデータを解析した結果、S 値が4〜8であれば結果に大きな差がないことを確認している。 図-4は1番目の IMF(c1)を示している。初期データ X1(t)と比較すると c1は対称性が強く単純な振動モードであることがわかる。2番目の IMF(c2)は初期データ X1(t)から c1を引いたデータを新たな初期データ X2(t)として求める。k 番目の IMF(ck)も同様に求め、ck が単調関数となり k +1番目以降の IMFを求めることができない場合、ck が最後のIMFとなる。 図-5は初期データ X1(t)から求められた全 IMF

を示している。この図から EMD によって初期データが周波数の大きい IMF から小さい IMF に分解される様子が確認できる。初期データ X1(t)は7個の IMFで構成されており、全 IMF の和は初期データ X1(t)と一致する(10-15程度の残差は生じる)。

3.Hilbert Spectrum 解析

 EMD で初期データを複数の IMF に分解した後、各 IMF に対して Hilbert Spectrum 解析を行う。本章では Hilbert Spectrum 解析による瞬時周波数の求め方について説明する。 任意の時系列データを X(t)とすると、X(t)のHilbert 変換 Y(t)は以下の式で求められる。

図-1 初期データ X1(t)(黒)、上下包絡線(赤・青)

とそれらの平均値(緑)      

図-2 初期データ X1(t)(黒)と IMF 候補 h1(赤)

図-3 初期データ X1(t)(黒)と IMF 候補 h5(赤)

図-4 初期データ X1(t)(黒)と IMF(c1)(赤) 図-5 X1(t)の全 IMF

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では6Hz と15Hz の IMF の他に振幅が小さい4Hz 程度の IMF が現れている。このような低周波の IMF が得られる現象は比較的周期性の強い信号に対してEMD を適用した場合に多く見られる。しかしながら、その振幅は主要な周波数成分と比べるとかなり小さく、信号の時間周波数特性を議論する際にはほとんど無視できると考えられる。

(1)

ここで、PV は主値を表している。この Hilbert 変換によって解析信号 Z(t)は以下のように表すことができる。

(2)

(3)

(4)

ここで、a(t)は瞬時振幅、θ(t)は位相関数であり、瞬時周波数 f(t)は、

(5)

で求めることができる。なお、ここで示した瞬時周波数の求め方については吉川・佐藤(1998)3)に詳しく記されている。

4.HHT による解析結果

 本章では、2つの異なる sin 波の和、不規則波浪データおよび氷塊落下実験で得られた衝撃荷重データに対する HHT の解析結果について説明する。

4.1 2つの異なる sin 波の和の解析結果

 ここでは、図-6に示す周波数 f1= 6Hz と f2=15 Hz の合成信号 X(t)を HHT で解析する。図-6に示す信号を式で示すと以下のようになる。

(6)

 なお、EMD では上下包絡線が信号両端部で大きくスウィングして、その影響がデータ中央部にまで及ぶ場合がある。この問題は EMD を行う際に、上下包絡線をスプライン関数で描いていることに起因する。ここでは、合成信号 X(t)に図-7に示す Tukey ウィンドウをかけた信号を解析することで、包絡線端部のスウィングを抑制している。なお、4.2、4.3で示す不規則波浪データと衝撃荷重データに対しても同様に Tukey ウィンドウをかけて解析を行っている。 図-8は X(t)の全 IMF を示している。この図では、

図-6 周期6秒と15秒の sin 波の和 X(t)

図-7 Tukey ウィンドウ W(t)

図-8 2つの sin 波の和 X(t)の全 IMF

図-9 2つの sin 波の和 X(t)の時間周波数解析結果

寒地土木研究所月報 №703 2011年12月 41

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 図-9は全 IMF の時間周波数解析結果を示しており、瞬時振幅の2乗値をカラーコンターで表示している。この図では、両端部にウィンドウの影響がみられるものの、中央部では6Hz と15Hz 付近に定常的な比較的強い振幅2乗値を確認できる。このことから、HHT を異なる定常信号の和に対して適用した場合、各周波数成分を明確に分離できることがわかる。

4.2 不規則波浪データの解析結果

 ここでは、造波水槽で計測された不規則な波浪データ X(t)を HHT で解析する。計測を行う際には、有義波高14.8cm、有義周期1.8s(周波数0.56Hz)、データのサンプリング周波数が20Hz となるように造波・計測システムを設定した。なお、有義波高とは、波群と呼ばれる一連の波のグループ(ここでは、1波群200波)の波高上位1/ 3の平均値であり、有義周期とは、有義波高を求めた波の周期の平均値である。 図-10、図-11はそれぞれ、計測された不規則波浪データ X(t)とそのフーリエスペクトルを示している。不規則波浪データは図-6と比べてかなり複雑な波形であることがわかる。図-11では、計測条件として設定した有義周期1.8s(0.56Hz)付近にスペクトルのピークをもつことが確認できる。 図-12は不規則波浪データの全 IMF を示している。不規則波浪データは11個の IMF で構成されており、周波数が大きい IMF から小さい IMF へ順に分解される様子が確認できる。不規則波浪データは多くの周期成分を含むことから、図-6で示した周波数成分が少ない信号よりも IMF の数は増えている。 図-13は全 IMF の時間周波数解析結果を示してお

図-12 不規則波浪データ X(t)の全 IMF

図-10 不規則波浪データ X(t)

図-11 不規則波浪データ X(t)のフーリエスペクト

ル解析結果           

図-13 不規則波浪データ X(t)の時間周波数解析結果

り、瞬時振幅の2乗値をカラーコンターで表示している。不規則波浪データは時間ごとに振幅と周波数が変化する。そのため、図-9で示した解析結果とは異なり、時間ごとに周波数と振幅2乗値が大きく変化している。また、計測時に有義周期が1.8s(0.56Hz)となるように設定したことから、この周期付近に比較的強

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い値が多く現れている。図-11を見てもわかるように、従来行われてきたフーリエスペクトル解析では、周波数の時間変化に関する情報を得ることができないが、HHT を適用することによって周波数の時間変化を明確に知ることができる。

4.3 衝撃荷重データの解析結果

 ここでは、氷塊落下実験で計測された衝撃荷重データの解析結果について説明する。 写真-1は氷塊落下実験の様子を示している。実験ではロードセルを設置した丸鋼(φ60mm)を床に固定し、この丸鋼の上方1.50m から長さ1.20m、幅0.60m、厚さ0.15m、重量99kg の氷塊を落下させて、丸鋼に作用する衝撃荷重を計測した。荷重データのサンプリング周波数は20kHz(20000Hz)に設定した。 図-14、図-15はそれぞれ、衝撃荷重データ X(t)

写真-1 氷塊落下実験の様子

図-14 衝撃荷重データ X(t)

図-15 衝撃荷重データ X(t)のフーリエスペクトル

解析結果            

図-16 衝撃荷重データ X(t)の全 IMF

図-17 衝撃荷重データ X(t)の時間周波数解析結果

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点は従来の解析手法と比べて圧倒的に有利な点であり、HHT の適用によって対象とする現象の周波数特性をより詳細に理解することが可能となる。

4.まとめ

 本資料では、HHT によるデータ解析手法の説明と2つの異なる sin 波の和、不規則波浪データ、衝撃荷重データに対する HHT の解析結果について説明を行い、HHT が時間周波数解析手法として高い有用性を持つことを示した。今後はより多くの調査・実験でHHT を適用し、その結果を報文等で報告する予定である。

参考文献

1) Huang, N. E., Z. Shen, S. R. Long, M. C. Wu, H. H. Shih, Q. Zheng, N.-C. Yen, C. C. Tung, and H. H. Liu : The empirical mode decomposition and the Hilbert spectrum for nonlinear and non-stationary time series analysis, Proc. R. Soc. London, Ser. A, 454, pp.903-995, 1998.

2) Huang, N. E. and S. S. P. Shen : Hilbert-Huang Transform and Its Applications, World Scientific, Interdisciplinary Mathematical Sciences, Vol. 5, 2005.

3) 吉川昭・佐藤俊輔訳:時間-周波数解析、朝倉書店、1998.

とこのデータに対するフーリエスペクトル解析結果を示している。図-14から、この衝撃荷重データは非定常性の強い信号であることがわかる。このようなデータに対してフーリエスペクトル解析を適用した場合、有限長のデータを解析した影響が相対的に低周波側に強く現れるため、信号の正確な周波数特性、特に高周波数成分について理解することが困難となる。 図-16は衝撃荷重データ X(t)の全 IMF を示している。この衝撃荷重データは11個の IMF で構成されている。衝撃荷重データのような非定常性・非線形性が極めて強い信号であっても、これまで示した他の信号と同様に、EMD によって周波数の大きい IMF から小さい IMF へ順に分解されることが確認できる。 図-17は全 IMF の時間周波数解析結果を示しており、瞬時振幅の2乗値をカラーコンターで表示している。荷重作用時(0.012s 〜0.030s 付近)では、100Hz 程度から5000Hz 程度にわたって比較的強い値が分布している。また、荷重作用時の前後ではノイズの影響とみられる100Hz 以下の比較的低い周波数成分が卓越している。HHT ではこの図に示すとおり、時間・周波数分解能が極めて高い結果を得ることができる。一方、短時間フーリエ解析やウェーブレット解析を適用した場合、両分解能は HHT よりもかなり劣る。短時間フーリエ解析やウェーブレット解析では、信号解析における不確定性原理3)によって時間分解能と周波数分解能を同時に高めることができない。つまり、従来の解析手法では時間分解能が増加すると周波数分解能が減少し、時間分解能が減少すると周波数分解能が増加する。HHT が時間・周波数ともに高い分解能を有する

大塚 淳一*

Junichi OTSUKA

寒地土木研究所寒地水圏研究グループ寒冷沿岸域チーム研究員博士(工学)

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