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Instructions for use Title 北海道大学植物園における2004年台風18号被害後10年間の林床植生の季節変動および経年変動 Author(s) 高田, 純子; 永谷, 工; 持田, 大; 大野, 祥子; 板羽, 貴史; 小林, 春毅; 冨士田, 裕子 Citation 北大植物園研究紀要, 17, 61-74 Issue Date 2019-05-10 Doc URL http://hdl.handle.net/2115/74549 Type bulletin (article) File Information BBG61-74.pdf Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP

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Title 北海道大学植物園における2004年台風18号被害後10年間の林床植生の季節変動および経年変動

Author(s) 高田, 純子; 永谷, 工; 持田, 大; 大野, 祥子; 板羽, 貴史; 小林, 春毅; 冨士田, 裕子

Citation 北大植物園研究紀要, 17, 61-74

Issue Date 2019-05-10

Doc URL http://hdl.handle.net/2115/74549

Type bulletin (article)

File Information BBG61-74.pdf

Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP

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北海道大学植物園における 2004 年台風 18 号被害後

10 年間の林床植生の季節変動および経年変動

はじめに

北海道大学植物園(以下、本園と記す)は札幌駅

から徒歩 15 分という札幌市の中心部に位置しなが

ら、開拓前の自然地形と落葉広葉樹林の面影を残す

貴重な場所となっている。林床には、ニリンソウや

エゾエンゴサク、オオハナウドやオオウバユリなど

多年草のほか、イタヤカエデ(エゾイタヤとアカイ

タヤの母種)やツリバナなどの樹木の幼木も見られ

る。

2004 年 9 月の台風 18 号によってもたらされた樹

木被害は、全樹木の 23% にあたる 679 本に及び(大

野ら 2006)、林冠にはギャップが形成され、林床

の光環境も大きく変化した(大森ら 2010)。台風

被害に伴うこのような林床の光環境の変化は、林床

植生にも変化をもたらすことが予測された。一方、

本園における 2004 年以前の林床植生の記録は、村

松(1998)によって一部が残されているものの、同

一調査区について季節を追って継続調査した記録は

残されていない。そこで、台風被害後における林床

植生の長期的な変動を把握することを目的として、

2005 年 5 月に調査方形区を 31 カ所設置し(高田・

大野 2008)、生育活動が活発な 5 月から 9 月の間

に林床植生の調査を毎年 4 回行った。

2005 年から 2014 年までの 10 年分の調査結果の

うち、持田ら(2016)は 5 月の調査結果を用いて解

析し、台風後 10 年間の 5 月の林床植生の変化を示

した。 

本報告では、台風被害後における林床植生の短期

的な季節変動および長期的な経年変動を把握するこ

とを目的として、2005 年から 2014 年までの 5 月、

6 月、7 月、9 月の調査結果から、台風被害後 10 年

間における林床植生の構成種の動態、総出現種数の

季節変動および経年変動を解析した。さらに出現種

をライフサイクルの違いを考慮したうえで 6 つの生

活型に分けて、各生活型の出現種数の季節変動およ

び経年変動を明らかにし、台風被害の影響を生活型

別に考察した。

方 法

調査区の設置および植生調査方法園内の非公開部分および来園者が踏み入らない林

床を選び、植生調査区(1 × 1m)を 31 カ所設置し(図

1)、台風被害の翌年にあたる 2005 年から 2014 年ま

での毎年 5 月、6 月、7 月、9 月に調査を行い、各

調査区の出現したすべての種について、被度パーセ

ント(%)、草高(cm)を記録した。また、種同定

が困難な植物については不明種として記録した。本

報告では科レベル以下で同定できた植物を出現種と

した。

解析方法10 年間に出現した種を調査年毎にリストアップ

し構成種とした。また 10 年間に出現した種を調査

年および月ごとに集計し、これを総出現種数とした。

さらに調査年毎の季節変動を把握するために、各年

の 5 月、6 月、7 月、9 月の総出現種数をもとにして、

動 的 時 間 短 縮 法 / Dynamic Time Warping(DTW)

でクラスター分析を行った。なお、分析手法には群

平均法を用い、解析については統計解析ソフト R

version3.1.3 (R Core Team 2015)およびパッケージ

i 北海道大学北方生物圏フィールド科学センター植物園 Botanic Garden, Field Science Center for Northern Biosphere, Hokkaido

University, 060-0003, Sapporo, Japanii 北海道十勝総合振興局 Tokachi General Subprefectural Bureau, Hokkaido Government, 080-8588, Obihiro, Japan

高田 純子 i・永谷 工 i・持田 大 i・大野 祥子 i・板羽 貴史 i・小林 春毅 ii・冨士田 裕子 i

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高田 純子ほか:台風被害後 10年間の林床植生の季節変動および経年変動

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非公開部分および来園者の踏圧を受けない林床

流水域

自然林内拡大図

図 1.調査区設置図.N で始まる調査区名は自然林内に位置し、C で始まる調査区名は自然林以外の園内に位置する.また N に続く英数字は長期モニタリングの区画番号を、C に続く数字は園内林班を示す.

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北大植物園研究紀要 第 17号 2019年

- 62 - - 63 -

TSclust (Montero and Vilar 2014)を使用した。

さらに台風被害の影響を生活型別に把握するため

に、出現種を生活型ごとに区分した。5 月の調査結

果を解析した持田ら(2016)は、台風攪乱 3 年以降

の総出現種数の減少は主に草本種の種数の減少によ

ると指摘している。本報告ではより詳細な草本種の

季節変動および経年変動を把握するために、出現す

る草本種をライフサイクルの違いから春に出現・繁

殖・消失を終える多年草(以下、春植物と記す)(奥

田 1995; 深田ら 2000; 林ら 2005)、春植物以外

の多年草、1・2 年草に分け、これに木本種、つる

植物、シダ植物を加えた 6 つの生活型について、10

年間の出現種数を調査年および月ごとに集計した。

なお本報告における植物の和名および学名は、「

植物和名―学名インデックス YList」(米倉・梶田

2003-「BG Plants 和名 - 学名インデックス」(YList)

http://ylist.info/index.html 最終確認日 2018 年 7 月 10

日)、「北大植物園 高等植物目録」(北海道大学北

方生物圏フィールド科学センター植物園 2003)、

「北海道帰化植物便覧 2000 年版」(五十嵐 2001)

に準拠した。また科名は APG Ⅲに準拠した。

結 果

台風後 10年間における林床構成種の動態10 年間に出現した種のうち、科レベル以下で同

定できた植物は 138 種であった。内訳は春植物 7 種、

春植物以外の多年草 50 種、1・2 年草 20 種、木本

種 48 種、つる植物 10 種、シダ植物 3 種であった。

出現種を生活型に分け、2005 年に出現した延べ調

査区数の多い順に表 1 に示した。各生活型における

主な出現種の特徴は以下の通りであった。

1)春植物

春植物 7 種のうち 2005 年に出現した延べ調査区

数の多い種は、キバナノアマナ、エゾエンゴサクで

あった。またこれらを含む春植物 7 種のうち 6 種は

10 年間継続して出現した。

2)春植物以外の多年草

春植物以外の多年草は 50 種あり、林床構成種の

中で最も多い。中でも 2005 年に出現した延べ調査

区数の多い種は、オオウバユリ、シャク、オオハナ

ウド、セイヨウタンポポ、オクトリカブトであった。

この 5 種のうち、オオウバユリ、シャク、オオハナ

ウド、オクトリカブトは出現調査区数に増減が見ら

れるものの 10 年間継続して出現した一方で、セイ

ヨウタンポポは 2007 年以降出現する調査区が減少

し、2014 年に消失した。

3)1・2 年草

1・2 年草 20 種のうち、科ごとではキク科が最も

多く 7 種を占めた。2005 年に出現した延べ調査区

数の多い種はノゲシであった。しかしながら 2007

年から 2009 年までの間にノゲシを含む 16 種が消失

し、残った 4 種も 2013 年 9 月までに消失した。

4)木本種

木本種は 48 種あり、林床構成種の中で春植物以

外の多年草に次ぎ 2 番目に多い。中でも 2005 年に

出現した延べ調査区数の多い種は、クマイザサ、イ

タヤカエデ、ツリバナ、ヤマグワ、ハルニレであっ

た。この 5 種のうちクマイザサ、イタヤカエデ、ツ

リバナ、ヤマグワは 10 年間継続して出現した一方

で、ハルニレは 2005 年から 2009 年まで出現した後

2010 年から 2012 年に一度消失し 2013 年から 2014

年に再び出現した。

5)つる植物

つる植物 10 種のうち、2005 年に出現した延べ調

査区数の多い種は、ヤマブドウであった。つる植物

10 種のうち、ヤマブドウを含む 5 種は 10 年間継続

して出現した。

6)シダ植物

シダ植物は 3 種あり、林床構成種の中で最も少な

い。このうち 2005 年に出現した延べ調査区数の多

い種はトクサで、10 年間継続して出現した。その

ほかの 2 種は、2012 年までに消失した。

台風後 10年間における総出現種数の季節変動および経年変動

10 年間の総出現種数の季節変動および経年変動

を図 2 に示した。季節ごとの総出現種数は、2005

年では 5 月に最少、以後増加して 9 月に最多となる

変動であったのに対し、2006 年以後の 9 年間は 5

月もしくは 6 月に最多、以後減少して 9 月に最少と

なる変動を繰り返していて、季節変動は 2005 年と

2006 年以降の 9 年間とで異なっていた。10 年間で

総出現種数が最多となったのは 2005 年 9 月で 88 種、

以後漸減して最少となったのは 2011 年 9 月と 2014

年 9 月で 43 種であった。

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高田 純子ほか:台風被害後 10年間の林床植生の季節変動および経年変動

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 生活型    和名 学名 科名 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014春植物

キバナノアマナ Gagea lutea ユリ 31 29 27 28 28 29 28 23 28 27

エゾエンゴサク Corydalis fumariifolia subsp. azurea ケシ 23 14 12 14 11 12 15 14 12 11

ニリンソウ Anemone flaccida キンポウゲ 14 12 9 10 7 8 8 6 7 9アズマイチゲ Anemone raddeana キンポウゲ 7 6 5 3 5 5 5 5 6 5スノードロップ Galanthus nivalis ヒガンバナ 2 2 1 1 1 2 2 1 1 1クロッカス Crocus vernus アヤメ 2 1 1 1 1 1 1 1 1 1ユキゲユリ Chionodoxa luciliae キジカクシ 1 1

春植物以外の多年草オオウバユリ Lilium glehnii ユリ 96 88 72 61 74 52 58 61 70 57シャク Anthriscus sylvestris セリ 59 51 53 53 62 64 59 49 42 46オオハナウド Heracleum lanatum セリ 53 46 42 46 43 42 42 42 45 43セイヨウタンポポ Taraxacum officinale キク 33 36 16 5 6 5 5 4 2

オクトリカブト Aconitum japonicum subsp. subcuneatum キンポウゲ 30 34 34 34 34 28 34 29 27 23

クルマバソウ Galium odoratum アカネ 27 46 32 29 28 18 7 10 12 12マルバフジバカマ Ageratina altissima キク 21 21 15 19 23 19 12 11 8 8ヤブニンジン Osmorhiza aristata セリ 15 7 8 5 3 7 15 9 12 10ミズヒキ Persicaria filiformis タデ 14 16 16 16 14 14 13 12 9 10オオバナノエンレイソウ Trillium camschatcense シュロソウ 12 11 10 7 10 11 9 11 11 13エゾヘビイチゴ Fragaria vesca バラ 9 19 14 10 8 5 4 4 4 7コンロンソウ Cardamine leucantha アブラナ 9 6 8 5 9 7 9 5 4 1ウマノミツバ Sanicula chinensis セリ 7 8 8 8 8 5 10 9 8 8ブタナ Hypochaeris radicata キク 7 4 1オオヒナノウスツボ Scrophularia kakudensis ゴマノハグサ 6 9 7 7 3 2イワミツバ Aegopodium podagraria セリ 5 5 6 4 4 4 4 4 4 4エゾノギシギシ Rumex obtusifolius タデ 5 4 4 3 4 4 3 2レンプクソウ Adoxa moschatellina レンプクソウ 5 3 4 3 2 2 2 2 2 3ダイコンソウ Geum japonicum バラ 5 6 6 4 1 1

アキタブキ Petasites japonicus subsp. giganteus キク 4 5 10 7 12 9 10 6 3

カヤツリグサ科の一種 Cyperaceae カヤツリグサ 4 13 10 8 6 1ゴボウ Arctium lappa キク 4 4 4 4 4 4 4 2エンレイソウ Trillium apetalon シュロソウ 4 3 2 3 2 3 2 3 2 3ザゼンソウ Symplocarpus renifolius サトイモ 4 1 3 2 2 1 1 1 1エゾアカバナ Epilobium montanum アカバナ 4ヤマゴボウ Phytolacca acinosa ヤマゴボウ 3 11 11 12 11 7 8 7 4 7ユキザサ Maianthemum japonicum キジカクシ 3 5 4 4 4 3 2 3 3 4チシマアザミ Cirsium kamtschaticum キク 3 4 4 4 4 4 3カタバミ Oxalis corniculata カタバミ 3 3 1イネ科の一種 Poaceae イネ 3 1

ケチヂミザサ Oplismenus undulatifolius var. undulatifolius イネ 2 3 5 10 11 6 7 4 10 15

ヨウシュヤマゴボウ Phytolacca americana ヤマゴボウ 2 2 3 3 1 5 6 7 4 4キク科の一種 Asteraceae キク 2 2 1オオバコ Plantago asiatica オオバコ 2 2エゾイラクサ Urtica platyphylla イラクサ 2 1

カキドオシ Glechoma hederacea subsp. grandis シソ 2

クサキョウチクトウ属の一種 Phlox sp. ハナシノブ 2ムラサキツメクサ Trifolium pratense マメ 2

オドリコソウ Lamium album var. barbatum シソ 1 1 5 1 1

コメガヤ Melica nutans イネ 1 4

表 1.生活型別出現種の一覧および年次ごとに出現した延べ調査区数.出現種を 6 つの生活型に分け、種ごとに年 4回の調査で出現した延べ調査区数を年次ごとに算出し、2005 年に出現した延べ調査区数の多い順に記した.

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北大植物園研究紀要 第 17号 2019年

- 64 - - 65 -

表 1.続き 生活型    和名 学名 科名 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014

オオハンゴンソウ Rudbeckia laciniata キク 1 1 2 1エゾノリュウキンカ Caltha fistulosa キンポウゲ 1

ヨブスマソウ Parasenecio hastatus subsp. orientalis キク 1 4 10 4 5 4

ルリタマアザミ Echinops ritro キク 4 3 4 1 4 2セントウソウ Chamaele decumbens セリ 1 2 3 1 2

ハエドクソウ Phryma leptostachya subsp. asiatica ハエドクソウ 2 1 1 1

オオスズメノテッポウ Alopecurus pratensis イネ 2アザミ属の一種 Cirsium sp. キク 1 1キョウブキ(フキ) Petasites japonicus キク 1 1オオアワガエリ Phleum pratense イネ 1

1・2 年草ノゲシ Sonchus oleraceus キク 15 9 2コハコベ Stellaria media ナデシコ 7 7 12 2ヒメムカシヨモギ Erigeron canadensis キク 7オニノゲシ Sonchus asper キク 6エノキグサ Acalypha australis トウダイグサ 4 1アメリカオニアザミ Cirsium vulgare キク 4 1オニタビラコ Youngia japonica キク 4 1イヌタデ Persicaria longiseta タデ 4ヒメオドリコソウ Lamium purpureum シソ 3 4 2 1イヌホオズキ Solanum nigrum ナス 3 3 1 1

アカザ Chenopodium album var. centrorubrum ヒユ 3 2 1

タチイヌノフグリ Veronica arvensis オオバコ 3 1イヌガラシ Rorippa indica アブラナ 2 3コシカギク Matricaria matricarioides キク 2 1ビロードモウズイカ Verbascum thapsus ゴマノハグサ 2キツリフネ Impatiens noli-tangere ツリフネソウ 1 18 9 3 7 6 1 5 5ヒメジョオン Erigeron annuus キク 1 10 6 6 1 1 1タネツケバナ Cardamine scutata アブラナ 1スズメノカタビラ Poa annua イネ 1

シロバナシナガワハギ Melilotus officinali subsp. albus マメ 1

木本種クマイザサ Sasa senanensis イネ 53 67 71 70 71 75 75 76 73 66イタヤカエデ * Acer pictum ムクロジ 51 50 40 58 51 48 31 29 23 59

ツリバナ Euonymus oxyphyllus var. oxyphyllus ニシキギ 47 53 53 56 55 67 52 60 52 65

ヤマグワ Morus australis クワ 23 38 47 51 41 33 30 19 16 15

ハルニレ Ulmus davidiana var. japonica ニレ 17 14 8 8 3 6 3

ヤチダモ Fraxinus mandshurica モクセイ 16 18 7 6 5 4 3 3 3 8エゾエノキ Celtis jessoensis アサ 14 20 17 18 15 13 10 11 8 8

エゾニワトコ Sambucus racemosa subsp. kamtschatica レンプクソウ 13 30 27 25 18 16 13 3 1

ニワウルシ Ailanthus altissima ニガキ 11 18 18 12 11 6 6 3 3 2ユクノキ Cladrastis sikokiana マメ 11 9 7 4 4 4 4 4 4 5カエデ属の一種 Acer sp. ムクロジ 11 1 2 2 1 2 7 7 6ミズキ Cornus controversa ミズキ 10 9 3 4 4 3ナナカマド Sorbus commixta バラ 8 6 4 4 4 4 7 4 4 4ミズナラ Quercus crispula ブナ 7 4 4 3 9 7 5 10 6トネリコバノカエデ Acer negundo ムクロジ 7 5 7 8 5 4 2 3 1 4ハリエンジュ Robinia pseudoacacia マメ 7 5 9 4 4 4 4 4 2シナノキ Tilia japonica アオイ 6 3 1 3 3 3 2 4 4 4ハクウンボク Styrax obassia エゴノキ 4 4 3 3 5 5 12 9 8 5

ヤマモミジ Acer amoenum var. matsumurae ムクロジ 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4

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高田 純子ほか:台風被害後 10年間の林床植生の季節変動および経年変動

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表 1.続き 生活型    和名 学名 科名 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014

サクラ属の一種 Cerasus sp. バラ 4 3 1カジカエデ Acer diabolicum ムクロジ 3 4 4 4 4 4 6 4 4 4アサダ Ostrya japonica カバノキ 3 6 5 3 2 1 4 4 4 1オオモミジ Acer amoenum ムクロジ 3 1 2 4 1 4エゾヤマザクラ Cerasus sargentii バラ 3 4 3 4カバノキ属の一種 Betula sp. カバノキ 3 1 2 1 1 1ユリノキ Liriodendron tulipifera モクレン 3 6マメ科の一種 Fabaceae マメ 3 1ウダイカンバ Betula maximowicziana カバノキ 2 1 5 4 6 6 2 5 2クロビイタヤ Acer miyabei ムクロジ 2 3 4 2 1 4 3 3 4ハリギリ Kalopanax septemlobus ウコギ 2 1 2 3 4 1 1 3 4

キタコブシ Magnolia kobus var. borealis モクレン 2 2 3 3 3 3 2

バラ科木本の一種 Rosaceae バラ 2ケヤキ Zelkova serrata ニレ 2ミツバウツギ Staphylea bumalda ミツバウツギ 1 1アメリカトチノキ Aesculus glabra トチノキ 1 1チシマザサ Sasa kurilensis イネ 2 6 7 8 8 7

オニグルミ Juglans mandshurica var. sachalinensis クルミ 1 3 4 4 2 1 1 3

ヨーロッパナラ Quercus robur ブナ 2 1 2マユミ Euonymus sieboldianus ニシキギ 1 4トドマツ Abies sachalinensis マツ 2 1マツ科の一種 Pinaceae マツ 1 1カエデ属の一種 2 Acer sp. ムクロジ 1カエデ属の一種 3 Acer sp. ムクロジ 1トチノキ Aesculus turbinata ムクロジ 1ノイバラ Rosa multiflora バラ 1シウリザクラ Padus ssiori バラ 1ウリハダカエデ Acer rufinerve ムクロジ 1アーノルドサンザシ Crataegus arnoldiana バラ

つる植物ヤマブドウ Vitis coignetiae ブドウ 30 30 25 18 12 10 10 8 12 14ナツヅタ Parthenocissus tricuspidata ブドウ 9 12 19 22 18 20 16 10 10 12オオスズメウリ Thladiantha dubia ウリ 9 8 6 7 7 7 6 11 7 9ツルマサキ Euonymus fortunei ニシキギ 6 6 4 5 4 4 4 4 4 4ヤブガラシ Cayratia japonica ブドウ 4 8 6 7 7 6 6 8 5 6ツルウメモドキ Celastrus orbiculatus ニシキギ 1 2 1

コクワ Actinidia arguta f. platyphylla マタタビ 1

ツルアジサイ Hydrangea petiolaris アジサイ 1ミツバアケビ Akebia trifoliata アケビ 4 4 4 1コウモリカズラ Menispermum dauricum ツヅラフジ 1 4

シダ植物トクサ Equisetum hyemale トクサ 8 10 11 9 12 11 10 11 12 12スギナ Equisetum arvense トクサ 4 1 4 3 4 3 3

エゾフユノハナワラビ Botrychium multifidum var. robustum ハナヤスリ 1

* エゾイタヤ、アカイタヤの 2 亜種は、実生での区別が難しいことから、母種であるイタヤカエデとして表記した.

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北大植物園研究紀要 第 17号 2019年

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0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

 数

月年

5 6 7 9 5 6 7 95 6 7 95 6 7 95 6 7 95 6 7 95 6 7 95 6 7 95 6 7 95 6 7 92014201320122011201020092008200720062005

図 2.総出現種数の季節および経年変動

図 3.各年の 5 月、6 月、7 月、9 月の総出現種数をもとにしたクラスター分析による樹形図

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高田 純子ほか:台風被害後 10年間の林床植生の季節変動および経年変動

- 68 -

10 年間の総出現種数の季節変動について、動的

時間短縮法および群平均法でクラスター分析を行っ

た結果を図 3 に示した。年次ごとの季節変動の傾向

は、台風翌年の 2005 年(A)と、その後の 2006 年

から 2014 年(B)の 2 つの期間に大別された。さ

ら に 2006 年 か ら 2014 年(B) は、2006 か ら 2010

年(B- ア)、および 2011 から 2014 年(B- イ)に分

かれ、全部で 3 つの期間に分けられた。

台風後 10年間における各生活型の出現種数の季節変動および経年変動

各生活型の出現種数の変動を図 4 から図 9 に示し

た。各生活型における変動の特徴は以下の通りで

あった。

1)春植物

春植物の季節変動は、5 月に最多、7 月以降に消

失する明確な変動が見られ、この変動の傾向は 10

年間一定で、年ごとの違いは見られなかった(図 4)。

2)春植物以外の多年草

春植物以外の多年草の季節変動は、2005 年では 5

月に最少、以後増加して 9 月に最多となったのに対

し、2006 年以後の 9 年間では 5 月もしくは 6 月に

最多、以後減少して 9 月に最少となる変動を繰り返

していて、季節変動は 2005 年と 2006 年以降の 9 年

間とで異なっていた。10 年間で出現種数が最多と

なったのは 2005 年 9 月で 36 種、以後漸減して最少

となったのは 2014 年 9 月で 15 種であった(図 5)。

3)1・2 年草

1・2 年草の季節変動は、2005 年では 5 月に最少、

以後増加して 7 月と 9 月に最多となったのに対し、

2006 年と 2007 年では 5 月に最多、以後減少して 7

月もしくは 9 月に最少となる変動であった。その後

2008 年からは 1 から 3 種で推移して、2013 年 9 月

以降には完全に消失した。10 年間で出現種数が最

多となったのは 2005 年 7 月および 9 月の 14 種で、

以後減少傾向で推移して 2013 年 9 月から 2014 年 9

月までは出現が見られなかった(図 6)。

4)木本種

木本種の季節変動は、10 年間を通して 5 月もし

くは 9 月に最少、6 月もしくは 7 月に最多となる傾

向であった。最も大きな季節変動が見られたのは

2005 年で、5 月から 7 月にかけて増加していた。10

年間で出現種数が最多となったのは 2005 年 7 月の

31 種、以降漸減して最少となったのは 2013 年 5 月

の 17 種であった。(図 7)。

5)つる植物

つる植物の季節変動は、多くの年で 5 月に最少、

6 月もしくは 7 月に最多となった。10 年間では

2005 年 5 月に最少となる 2 種であったが、その後

増加して 2005 年 6 月および 2008 年 6 月に最多とな

る 7 種となった(図 8)。

6)シダ植物

シダ植物の出現種数は、10 年間では 2007 年 6 月

に 3 種で最多、その他の時期では 1 種または 2 種で

あったが、10 年間を通して出現種数が少なく明確

な変動は確認できなかった(図 9)。

考 察

台風後 10年間における総出現種数の季節変動および経年変動

10 年間の総出現種数の季節変動についてクラス

ター分析を行った結果、調査年毎の季節変動の傾向

は、台風翌年の 2005 年(A)、2006 から 2010 年(B-

ア)、および 2011 から 2014 年(B- イ)の 3 つの期

間に分けられた(図 3)。A と B の違いは、2005 年(A)

では 5 月から 9 月にかけて総出現種数が増加する季

節変動に対し、2006 から 2014 年(B)の 9 年間では、

5 月もしくは 6 月以降 9 月にかけて減少する季節変

動であったことから、季節変動の傾向の違いに起因

していると考えられる(図 2 および図 3)。

ま た、2006 か ら 2014 年(B) ま で の 9 年 間 は、

総出現種数が漸減している期間でもあった。この期

間(B)におけるアとイの違いは、漸減期前半にあ

たる 2006 年から 2010 年(B- ア)は、総出現種数

が最多となった直後から始まる比較的総出現種数の

多い期間であるのに対し、漸減期後半にあたる

2011 年から 2014 年(B- イ)は、総出現種数の漸減

が続き、総出現種数が比較的少なくなった期間と考

えられ、出現種の相対的な数の違いがクラスターが

二つに分かれた理由と考えられた(図 2 および図 3)。

1)2005 年における総出現種数の変動と林床環境

台風被害の翌年にあたる 2005 年には、5 月から 9

月にかけて総出現種数が増加する季節変動が見られ

た(図 2)。森林の攪乱と更新過程に関する先行研

究によると、強風による根返り倒木や幹折れは、森

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北大植物園研究紀要 第 17号 2019年

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図 4.春植物の出現種数の変動

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図 5.春植物以外の多年草の出現種数の変動

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図 6.1・2 年草の出現種数の変動

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高田 純子ほか:台風被害後 10年間の林床植生の季節変動および経年変動

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図 7.木本種の出現種数の変動

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図 8.つる植物の出現種数の変動

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図 9.シダ植物の出現種数の変動

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北大植物園研究紀要 第 17号 2019年

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林内に林冠部が開けたギャップを形成させ、ギャッ

プ下では地表や地表近くまで太陽光が入射するため

(松本 1993; 鷲谷 1993)、光環境は大きく変化し、

ギャップ内は相対的に明るくなるうえ(鷲谷 

1993; 大原 2015)、地温が上昇するほか地温の日較

差も大きくなることが知られている(鷲谷 1993;

作田ら 2009)。このような林床の微気象環境の変

化は、埋土種子の発芽や、稚樹の成長にとって重要

な因子となるほか(鷲谷 1993; 作田ら 2009)、根

返りなどの攪乱に伴う地表の裸地化は、実生の発芽・

定着に対して有利に働き、攪乱後初期に出現種数の

増加が見られる(頭山・中越 1992)。

2004 年 の 台 風 被 害 に よ っ て 形 成 さ れ た 林 冠

ギャップにより、2005 年の林床環境は、光環境が

大きく変化した(大森ら 2010; 持田ら 2016)。さ

らに根返り被害による一部の地表面の裸地化や、被

害木の処理によって林床が開ける(持田ら 2016)

などの土壌攪乱も起きていたと考えられ、2005 年

の林床環境は著しく変化した直後であったと推察さ

れる。このような条件が、埋土種子や飛来種子など

の発芽に有利に働いたと考えられ、2005 年におけ

る総出現種数の増加に繋がったのであろう。

2)2006 年から 2014 年における総出現種数の変動

と林床環境

2006 年から 2014 年までの総出現種数は、漸減傾

向が継続していた(図 2)。森林の攪乱と更新過程

に関する先行研究によると、比較的小さなギャップ

では、攪乱から時間経過とともにギャップ周囲の林

冠木が側枝を伸長させてギャップを埋めることが知

られている(頭山・中越 1992)。本園での調査に

よると、2005 年から 2012 年までの林床における落

下リター量調査を行った板羽ら(2019)は、落下リ

ター量が年々増加していたと報告しているほか、

2005 年、2007 年、2008 年に林床の光量子束密度調

査を行った大森ら(2010)は、林床の光環境は年々

暗くなったと報告している。これらから落下リター

量の増加は、台風被害を免れたギャップ周囲の樹木

が側枝を伸長させ、展葉量が増加したことに起因す

ると考えられ、台風被害によって形成された林冠

ギャップは徐々に回復し閉じていったと推察され

る。また、林冠ギャップの回復に伴い林床の光環境

は徐々に暗くなり、春植物以外の多年草や 1・2 年

草の中でも明るい環境を好む種が消失した(図 5 お

よび図 6 参照)結果、2006 年から 2014 年までの期

間において総出現種数が漸減していったと考えられ

る。

このほか地表面を覆うリターは、実生の定着に関

してしばしば阻害的に作用する(鎌田・中越 

1991)ことから、林冠ギャップの回復に伴う落下リ

ター量の増加とその経年蓄積によって、林床環境は

新たな実生が発芽・定着しにくい条件に変わって

いったと推察され、総出現種数の漸減が継続する一

因となった可能性もある。

各生活型の出現種数の季節変動・経年変動と構成種10 年間に出現した種のうち、科レベル以下で同

定できた植物は 138 種であった(表 1)。ここからは、

台風による影響を受けてその動態が変動したと推察

される生活型の順に考察を進める。

1)春植物以外の多年草

春植物以外の多年草の季節変動は、2005 年では 5

月から 9 月にかけて増加していた。2006 年以後 9

年間では、5 月もしくは 6 月以降 9 月にかけて減少

する季節変動が見られたほか、年変動では出現種数

の漸減傾向が継続していた(図 5)。春植物以外の

多年草の変動は、総出現種数の変動と同様の傾向を

示し、台風被害に伴う林床環境の変化の影響を受け

てその動態が変動したと推察される。

台風後 10 年間に出現した春植物以外の多年草は、

林床構成種の中で最も多い 50 種を占め、2005 年に

出現した延べ調査区数の多い上位 5 種は、オオウバ

ユリ、シャク、オオハナウド、セイヨウタンポポ、

オクトリカブトであった(表 1)。このうち、オオ

ウバユリ、シャク、オオハナウド、オクトリカブト

は 10 年間継続して出現した一方で、セイヨウタン

ポポは 2007 年以降出現する調査区数が減少し 2014

年に消失した。セイヨウタンポポは、攪乱の激しい

環境下で増殖できる強さを持つとされ(森田 

2012)、台風被害後の明るくなった林床に出現した

と考えられるが、他の植物におおわれることのない

裸地に適応した性質を持つことから(森田 1997)、

林冠ギャップの回復に伴い徐々に暗くなった林床か

ら消失したと考えられた。

2)1・2 年草

1・2 年草の季節変動は、2005 年では 5 月から 7

月もしくは 9 月にかけて増加し、2006 年以降では

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高田 純子ほか:台風被害後 10年間の林床植生の季節変動および経年変動

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減少傾向で推移して 2013 年 9 月に全ての種が消失

した(図 6)。2005 年に出現種数が最多となった 1・

2 年草の変動パターンは、総出現種数の変動で見ら

れた 2005 年(A)における秋に向けての増加傾向、

2006 年から 2010 年(B- ア)における漸減期前半の

傾向に類似していることから、台風被害に伴う林床

環境の変化の影響を受けて、その動態が変動したと

推察された。

台風後 10 年間に出現した 1・2 年草は 20 種あり、

このうちキク科が最も多く 7 種を占めた(表 1)。

2005 年に出現した延べ調査区数の多い種はノゲシ

であった。ノゲシをはじめとするキク科の 1・2 年

草は、共通して光の良く当たる陽地を好み、攪乱に

よって生じた様々な植生のギャップに生えることが

知られている(森田 2012)。1・2 年草は、台風被

害後の明るくなった林床に出現したと考えられる

が、陽地を好む性質から、林冠ギャップの回復に伴

い徐々に暗くなった林床から消失したと考えられ

る。さらに 1・2 年草という短いライフサイクルゆ

えに、林床環境の変化の影響がダイレクトに現れた

と考えられた。

3)木本種

木本種では、10 年間を通して季節変動は同様の

傾向を示したが、最も大きな季節変動が見られたの

は 2005 年で、5 月から 7 月にかけて増加していた。

年変動では、2005 年 7 月に最多、以後漸減して

2013 年に最少となった(図 7)。木本種の変動は、

総出現種数の変動と比較して緩やかに見えるが、こ

れは一度定着すると、その後の出現が継続する木本

種の性質によると考えられる。変動が見られる部分

は、主に実生の発芽および消失に起因すると考えら

れ、その動態は台風被害に伴う林床環境の変化の影

響を受けていたと推察された。

台風後 10 年間に出現した木本種は 48 種あり、林

床構成種の中で春植物以外の多年草に次ぐ種数を占

めていた。2005 年に出現した延べ調査区数の多い

上位 5 種のうち、クマイザサ、イタヤカエデ、ツリ

バナ、ヤマグワは 10 年間継続して出現した。これ

ら 4 種は、林床で完全に定着していると考えられる。

一方でハルニレは 2005 年から 2009 年まで出現した

後、2010 年から 2012 年に一度消失し 2013 年から

2014 年に再び出現した。ハルニレの出現と消失は、

実生によると考えられ、林床での定着が難しいこと

を示している。

4)つる植物

つる植物の季節変動は、多くの年で同様の傾向を

示したが、最も大きな季節変動が見られたのは

2005 年で、5 月から 6 月にかけて増加していた。(図

8)。つる植物の変動は、総出現種数の増加期の変動

と同様の傾向を示したが、2006 年以降に漸減する

傾向は確認できなかった(図 8)。林床構成種の中

でも種数が少ないことが理由として考えられる。つ

る植物 10 種のうち、2005 年に出現した延べ調査区

数の多い種はヤマブドウで、ヤマブドウを含む 5 種

は 10 年間継続して出現した(表 1)。

5)シダ植物

シダ植物の季節変動は、10 年間を通して明確な

変動は確認できなかった(図 9)。林床構成種の中

で最も出現種数が少ないことが理由として考えられ

る。シダ植物は 3 種あり、このうち 2005 年に出現

した延べ調査区数の多い種はトクサで、10 年間継

続して出現した(表 1)。

つる植物、およびシダ植物では、10 年の変動は

不明瞭な部分が多く、台風被害に伴う林床環境の変

化の影響について見いだすことは出来なかった。

6)春植物

春植物は、主に 5 月に出現しており、10 年を通

して季節変動は一定であった(図 4)。春植物 7 種

のうち 6 種は 10 年間継続して出現した(表 1)。

春植物の生活史は、落葉樹林の林床にて雪解け直

後の光が豊富な時期に、葉を展開させ、開花、結実

を短期間で行い、林冠の展葉始まり林床は暗くなる

ころ、地上部を枯らして休眠状態に入る(西川 

2000)。出現期間は林床に光が射し込んでいる期間

と一致しており(守山 1998)、季節的に光環境が

大きく変化する落葉樹林下に適応した生活史を獲得

していることが知られている(工藤 1999; 大西・

神田 2001)。

本園にて 2006 年から 2008 年の 4 月から 10 月の

期間に行った空隙率の調査によると、林冠が開けて

いる地点と比較的林冠が閉じている地点において、

4 月から 5 月の空隙率に差は見られなかった(大森

ら 2010)ことから、4 月から 5 月の空隙率は林冠

の開閉の影響を受けていないと考えられる。本園に

おける空隙率および林床植生の調査結果からも、春

植物の出現期間は、林冠の開閉の影響を受けていな

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北大植物園研究紀要 第 17号 2019年

- 73 -

い空隙率の高い期間と一致しており、春植物は、台

風被害による林床の光環境の変化の影響を受けにく

かったと推察された。

加えて多くの春植物は、地中深くに鱗茎や塊茎、

根茎、球根のような貯蔵器官を持っており(鮫島ら

1993; 大野 1995; 河野・西川 2004; 河野・工藤 

2004)、気温の変動や乾燥にさらされるのを防いで

いると考えられる(大野 1995)。台風による被害

を受けた 9 月および、被害木の処理が行われた 9 月

から翌年 2 月までの期間(稲川 2006)は、いずれ

も春植物は地中深くの貯蔵器官のみの状態で過ごし

ていた時期にあたり、地上部への直接的な被害は少

なかったと考えられる。春植物の季節変動が 10 年

間一定だったのは、春植物が台風被害に伴う林床環

境の変化の影響をほとんど受けていないことに起因

すると考えられた。

おわりに

2004 年台風被害後 10 年間における林床植生の季

節変動および経年変動の把握を目的として、2005

年から 2014 年までの林床植生を調査・記録するこ

とで、被害を受けた林床植生が、季節変動を伴いな

がら時間の経過とともに変わっていくことが明らか

になった。とりわけ台風被害による林冠ギャップの

形成および回復は、林床環境を変化させ、春植物以

外の多年草や 1・2 年草の動態に影響していた。

一方で、変わらない部分も明らかになった。春植

物の季節変動は 10 年間一定で、台風被害に伴う林

床環境の変化の影響が最も少なかったと考えられ

る。このほか、出現が 10 年間継続している種も明

らかになった。本園における 2004 年以前の林床植

生の季節変動記録は残されていないため、台風以前

の植生を検証することはできないが、今後は攪乱前

のデータと検証できるよう、予測不可能な攪乱に備

えてデータを蓄積していく必要がある。

なお、台風被害後における林床植生の変動の把握

には、6 月のデータが重要と考える。その理由とし

て、光環境の変化の影響を受けにくい春植物の消失

後であり、かつ総出現種数が年間で最多となる期間

であることが挙げられる。

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