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<第 10 回 ITS シンポジウム 2011> CO 2 排出量評価のためのハイブリッドシミュレーション技術 の開発 *1 *1 *1 *1 *1 *2 *1 *3 アイ・トランスポート・ラボ *1 大学 *2 大学大学院 *3 ,( エネルギー・ NEDOエネルギーITS プロジェクト めている,ITS アプリケーション した シミュレーション について する. ロジェクト シミュレーション CO 2 モデルを わせて CO 2 する 案している. シミュレーションにおいて を対 したマクロレベル から, を対 したミクロレベル カバーするハイブリッドシミュレーションフレームワークを している. また,TS EM するため インターフェース して「Stepwise Speed Function(=SSF)」を した. Development of a Hybrid Traffic Simulation Framework for CO2 Evaluation Hisatomo Hanabusa *1 Katuaki Koide *1 Tomoyoshi Shiraishi *1 Masato Kobayashi *1 Tadashi Komiya *1 Shinji Tanaka *2 Ryota Horiguchi *1 Masao Kuwahara *3 i-Transport Lab. Co., Ltd. *1 Institute of Industrial Science, the University of Tokyo *2 Tohoku University *3 This paper introduces development of a hybrid traffic simulation framework that evaluates impacts on CO 2 emissions due to several ITS applications. We developed the prototype using this framework harmonized with CO 2 emission model (EM). This framework provides a simulation environment to combine three traffic simulation models (SOUND, AVENUE and MicroAVENUE) in different resolutions. ITS applications should be evaluated comprehensively so that various ITS applications with different scales of impacts can be assessed. Therefore, we develop the hybrid simulation model that is applicable to a wide range of spatial scales from a large area such as a whole Japan to a small area covering dozens of intersections. This study is a part of our themes in the Energy ITS Project. Keyword: CO2 Evaluation, Traffic Simulation, ITS

ITS Symposium 2011 HybridSim 20110925 final · 2020. 3. 18. · co2排出量評価のためのハイブリッドシミュレーション技術

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<第 10 回 ITS シンポジウム 2011>

CO2排出量評価のためのハイブリッドシミュレーション技術

の開発

花房 比佐友*1 小出 勝亮*1 白石 智良*1 小林 正人*1 小宮 粋史*1

田中 伸治*2 堀口 良太*1 桑原 雅夫*3

株式会社 アイ・トランスポート・ラボ*1

東京大学 生産技術研究所*2

東北大学大学院*3

本稿では,(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のエネルギーITSプロジェクトで開発を

進めている,ITSアプリケーションの評価を目的とした交通シミュレーション技術について紹介する.本プ

ロジェクトでは,交通シミュレーションと CO2排出量モデルを組み合わせて CO2排出量を評価する手法を提

案している.交通シミュレーションにおいては,全国を対象としたマクロレベルの規模から,数交差点を対

象としたミクロレベルの規模までカバーするハイブリッドシミュレーションフレームワークを構築している.

また,TSと EMが連携するためのインターフェースとして「Stepwise Speed Function(=SSF)」を開発した.

Development of a Hybrid Traffic Simulation Framework

for CO2 Evaluation

Hisatomo Hanabusa*1 Katuaki Koide*1 Tomoyoshi Shiraishi*1 Masato Kobayashi*1 Tadashi Komiya*1

Shinji Tanaka*2 Ryota Horiguchi*1 Masao Kuwahara*3

i-Transport Lab. Co., Ltd.*1

Institute of Industrial Science, the University of Tokyo*2

Tohoku University*3

This paper introduces development of a hybrid traffic simulation framework that evaluates impacts on CO2 emissions

due to several ITS applications. We developed the prototype using this framework harmonized with CO2 emission

model (EM). This framework provides a simulation environment to combine three traffic simulation models (SOUND,

AVENUE and MicroAVENUE) in different resolutions. ITS applications should be evaluated comprehensively so that

various ITS applications with different scales of impacts can be assessed. Therefore, we develop the hybrid simulation

model that is applicable to a wide range of spatial scales from a large area such as a whole Japan to a small area

covering dozens of intersections. This study is a part of our themes in the Energy ITS Project.

Keyword: CO2 Evaluation, Traffic Simulation, ITS

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1. 研究の目的 本研究は,異なる交通流シミュレータを組み合わせて ITS施策導入による CO2排出量の低減効果について評価するためのシミュレーション技術を開発することを目的としている.本稿で紹介する「ハイブリッドシミュレーション技術」においては,隊列走行や自動運転支援等に代表されるエネルギーITS 技術だけでなく,自動車交通における省エネルギー・CO2 排出量低減を目指す様々な技術や施策がもたらす効果について,定量的に評価できる交通流シミュレーション技術として開発が進められている. 本研究が進められているNEDOの「エネルギーITS

推進事業,国際的に信頼される効果評価方法の確立」事業では,評価ツールの開発だけでなく,評価するためのツールの満たすべき条件を明確化し,国際的な合意形成を行い,ITS の効果評価方法を確立する1).このプロジェクトは 5 年間のプロジェクトとして 2009年に始まり,欧州,米国,日本間で,国際ワークショップを定期的に開催し,評価効果のための手順,およびツールの検証方法について現在も議論を重ねている.最終成果として,ITS 評価手法の検証要件,およびツールの検証手順を整理した共同レポートを作成する予定である. 2. 既存の評価ツールについて これまで,交通シミュレーションの活用方法として,シミュレーションの目的にあわせて評価可能な1つのシミュレーションモデルを選択,あるいは開発して個別に利用してきた.一般的には,広域なエリアを対象とした評価にはメゾモデル(交通流を流体近似する,あるいは車両個別の移動を簡略化したモデルで再現する)の交通シミュレータが利用されてきたし,ある一部の区間や数 km 四方のエリアなど,比較的狭いエリアを対象とした評価,あるいは詳細な車両挙動が求められる評価にはマイクロモデル(主に追従式など車両挙動の分解能が高いモデル)を実装した交通シミュレーションが利用されることが多い.その主な理由としては,評価対象となる施策の評価に対応でき,かつ(計算負荷などの)実用的な交通流モデルを選択するから,と考えられる.一方で,詳細な車両挙動の再現を必要とする ITSサービスの結果が,周辺環境,あるいは地域全体に与える影響をひとつのモデル上で評価されることは少ない.

過去に,異なる交通シミュレーションモデルを組み合わせたハイブリッドシミュレーションモデルについては J. BarcelóらやW. Burghoutらをはじめ,い

くつかの研究事例がある 2)3)4).ハイブリッド型といっても様々な方式があり,交通量配分手法などマクロなモデルによる OD 交通量推計結果をメソ,あるいはマイクロ交通流シミュレーションモデルで利用する仕組み,あるいは,一つのシミュレーション内で,あるエリアは,マクロ・メソモデルで動き,またあるエリアではマイクロモデルで車両が移動する仕組みなどが知られている. 一方で,本研究おけるハイブリッドシミュレーションフレームワークは,CO2 排出力削減に寄与すると期待されている ITS施策の評価を目的としており,単に交通状況の再現だけでなく,様々な ITS 施策を導入した際のマイクロな世界とマクロな世界の相互影響を加味した交通流モデルによる CO2排出量の推計結果が出力として求められる.その点では,ダイナミックな交通流を扱った,広域にわたる ITS を導入した場合の CO2排出量推計を行う評価事例は少なく,特に,その排出量推計の仕組みについて実測値のデータと比較して精度検証が行われた事例はほとんど見受けられない.

3. ハイブリッドシミュレーションフレームワークのコンセプト 図 1に,ITS施策評価のためのハイブリッド交通シミュレーションコンセプトイメージを示す.各種ITS の施策が,地域レベルや評価要件に応じて各交通流モデル用にモデリングされ,それぞれの交通流モデルよってシミュレーションされる.その中でも,お互いの出力データあるいは入力データを交換しながら地域全体の評価を行っていく.すなわち,すべてのレベルにおいて一括して全体レベルから詳細なレベルの評価を行う仕組みを示している.

図 1コンセプトイメージ

このフレームワーク上では,同じデータセットによってシミュレーションされ,地域全体のある一部分の細街路を含めたマイクロシミュレーション,その他を主に幹線道路で構成したネットワークをメゾ

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モデルモデルで行うなど,柔軟な活用方法ができるようになることを目指している.

図 2 にハイブリッドシミュレーションの利用イメージを示す.本研究で適用する交通流シミュレーションモデルは全国規模,地方規模を対象として「SOUND」5),地域規模を対象として「AVENUE」6),路線規模,または地域規模における詳細な検討を対象とするマイクロシミュレーションモデル「MicroAVENUE」としている.

図 2 利用イメージ

4. 交通流シミュレーションモデルと CO2排出量モデルとのインターフェース

交通シミュレーションと CO2排出量モデルによる連携については,現在様々な組み合わせがあり,図 3に見るように,マクロスケールからミクロスケールまで,それぞれにおいて対象とする地域の大きさやモデルのレベルが異なる.たとえば,一般的に交通シミュレーションは,メソモデル,またはマイクロモデルと種類が分かれ,メソモデルの中でも,広域なシミュレーションを対象とするもの,あるいは数km~10km 四方程度の地域レベルを対象とするものがある.基本的には,それぞれ流量計算を基に車両が移動する方式が採用されており,リンクレベル,

あるいは停止・発進レベルでの車両移動軌跡を把握することができる.一方で,マイクロモデルを呼ばれているものは,車両の挙動を比較的詳細に再現するモデルのことを言われており,追従式による車両移動モデルなどが一般的に採用されている.マイクロモデルにおいては,0.1秒単位など,分解能が高く,詳細な速度変動,つまり加速度を出力することができ,より詳細な車両軌跡を得ることができる.

対して,CO2 排出量モデルにおいては,平均速度から求めるようなものがマクロスケールに当たり,加減速の情報は入力データとして扱わず,推定式の中に含まれることが多い.また,メソスケールでは,加速,発進,停止など車両のいくつかの状態によって推定する方式が該当すると考えられ,ある程度の加速・減速の考慮が可能である.また,CO2 排出量モデルにおけるマイクロモデルは,加速度から燃料消費量,あるいは CO2排出量を求める方式を指すことが一般的であり,交通シミュレーション側では,加速度変動など詳細な出力が求められる.

図 3 交通流シミュレーションと CO2 排出量モデルの組み合わせ

本研究では,広域なシミュレーションから,小さい範囲のシミュレーション,またはメソモデルとのミクロモデルとの組み合わせなど様々な状況を考慮し,メソレベルにおける交通流シミュレーションモデルと CO2 排出量モデルの連携を重視し,そのインターフェースとして Stepwise Speed Function (SSF)を開発した.なお,この SSF はエネルギーITS プロジェクト内で開発した CO2 排出量モデル 7)に対応したものである.

図 4に SSFの概要を示す.SSFは,車両が発進して停止するまでの平均速度の状態を基本として,その間の付加情報として,加速回数,減速回数,道路種別や縦断勾配など,より詳細な車両挙動や CO2 排

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出量に影響する情報を添付できる構造となっている.

図 4 Stepwise Speed Function (SSF)

図 5に SSFの生成ステップを示す.まず,各車両1 台 1 台の車両軌跡を出力し,次にその車両軌跡をショートトリップ(ST),ショートストップ(SS)の単位に分解する.その後,各 ST,SS 単位に平均速度を算出し(SS はゼロ),最後に各 ST,SS で走行した区間についての加速回数,減速回数,道路種別,平均縦断勾配の情報を添付する.従って,各 ST,SSの単位で SSFが生成され,CO2排出量モデルへ入力される.STイベントを作成する際,高速道路などでは停止する状況が少なく,SSF の時間が長時間になる可能性がある.そのため,ある一定の距離を停止なしで走行した際には,その時点で一度 ST イベントを区切り,SSFを生成している.

図 5 SSF作成プロセス

交通流シミュレーションモデルから出力される車両軌跡については,1 台 1 台の車両の移動を表現できる交通シミュレーションであれば,広域なシミュレーションを対象とするモデルであっても,車両の停止,発進の位置や時刻をある程度把握することができ,これによって発進してから停止するまでの時間,平均速度などが計算できる .

5. 評価ツールの検証 ハイブリッドシミュレーション技術を用いた評価ツールの検証は,交通流シミュレーションの一般的な開発プロセス(Verification+Validation)に則って行われ,現在,Verification プロセスの段階である.ここで重要な点は,異なる交通流シミュレーションモデルを組み合わせた際の車両挙動や交通流の影響であり,その結果として CO2排出量モデルへの影響度を確認することであると考えられる.図 6に検証の一例を示す.この検証では,単一ボトルネック区間において,マイクロシミュレーションモデルとメソシミュレーションモデルを連携させた際の境界前後の車両軌跡の連続性,およびボトルネックからの渋滞の伝播状況を確認している.

図 6 Verification例:モデル境界での挙動

また,Validationの段階における検証項目の一つと

して,交通流シミュレーションと CO2排出量モデルのインターフェースである SSFの再現性を検証している.図 7は SSFの検証結果の一例である.ここでは,実測値(プローブデータ)から生成された SSF

と,交通流シミュレーションモデルから生成されたSSF を比較し,実測値に対する再現性を検証している.この結果からは,マイクロ交通流シミュレーションモデルである MicroAVENUE から得られる SSF

は概ね実測値による SSFに近いパターンが得られていることがわかる.一方,メソ交通流シミュレーションモデルの AVENUE から得られる SSF については,実測値のパターンと乖離している箇所があり,

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SSF の精度改善に向けた課題があることがわかった.今後,メソ交通流シミュレーションモデルから出力される SSFの改善に取り組み,実測値により近いパターンで CO2排出量モデルへ受け渡しができる生成手法を確立していく予定である.

図 7 SSFの検証例

6. 今後の展開 本稿では,ハイブリッドシミュレーション技術の概要について,また,開発した技術を適用した評価ツールと CO2 排出量モデルが連携するためのインターフェースとして開発した SSF について説明した.今後も引き続き,本研究で開発した評価ツールの Verification と実データを利用したValidation を行い,エコドライブの事例評価 8)と同様,本評価ツールを用いた事例評価を行っていく予定である. 謝辞 本研究は,(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構の「エネルギーITS 推進事業,国際的に信頼される効果評価方法の確立」事業における委託を受けて実施した.ここに感謝の意を表する.

参考文献 1) R. Horiguchi, H. Hanabusa, M. Kuwahara, S. Tanaka,

T. Oguchi, H. Oneyama, H. Hirai and S. Hayashi:

Validation Scheme for Traffic Simulation to

Estimate Environmental Impactsin 'Energy-ITS

Project', Proceedings of 17th World Congress on

Intelligent Transport Systems, Busan, Korea, 25-29

October 2010.

2) J. Barceló, et al.: A hybrid simulation framewark for

advanced transportation, Proceedings of

International Symposium of Transport Simulation

2006, EPFL, Sep. 2006.

3) W. Burghout and H. N. Koutsopoulos: Hybrid

Traffic Simulation Models: Vehicle Loading at Meso

– Micro Boundaries, Proceedings of International

Symposium of Transport Simulation 2006, EPFL,

Sep. 2006.

4) Burghout, Wilco, Wahlstedt, Johan, (2007). Hybrid

Traffic Simulation with Adaptive Signal Control.

Transportation Research Record: Journal of the

Transportation Research Board, 1999, pp 191-197.

5) T. Yoshii and M. Kuwahara : SOUND: A Traffic

Simulation Model for Oversaturated Traffic Flow on

Urban Expressways, Preprint at 7th World

Conference on Transportation Research, Sydney,

1995.

6) R. Horiguchi, M. Kuwahara, M. Katakura, H.

Akahane and H. Ozaki : A Network Simulation

Model for Impact Studies of Traffic Management

'AVENUE Ver. 2', Proceedings of the Third Annual

World Congress on Intelligent Transport Systems,

Orlando, CD-ROM, 1996.

7) 平井ほか:広域交通シミュレーションに対応した CO2 排出量モデル,第 10回 ITSシンポジウム(2011)

8) 金成ほか:東京 23区におけるエコドライブによる CO2 削減効果の検討,第 10 回 ITS シンポジウム(2011)