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5.1 多チャンネルマイクロプラズマアクチュ エータ 本章では,誘起流方向を自在に制御するために多チャン ネル化し,空間的分解能の高い制御を実現するためにマイ クロアクチュエータ構造とした,多チャンネルマイクロプ ラズマアクチュエータによる流体の能動制御の試みについ て述べる. 多電極マイクロプラズマアクチュエータの構造を図1示す.25 μm の誘電体フィルムの両面に電極が配置されて いる.下側電極は接地されており,また,下側で放電が生 じないよう絶縁処理が施されている.上側の電極は,4つ の独立したチャンネルから構成される.各チャンネルの間 隔を短く設定するため,チャンネル同士でのスパーク防止 のために低電圧駆動が求められた.そして,低電圧でプラ ズマを発生させるための高電界強度を得るため,誘電体厚 さ を 25 μmに設定する.本プラズマアクチュエータで は,上部電極からのプラズマの進展距離がサブミリの領域 であり,典型的なミリスケールの進展距離と比較して一桁 小さい. このような,サブミリの特性長の放電をマイクロプラズ マと通称している[1].本プラズマアクチュエータを平板 上に設置し,周りにトレーサ粒子として線香の煙(サブミ クロン粒子)を分布させる.波長 532 nm の Nd:YVO 4 レー ザーを粒子に照射し,散乱光をハイスピードカメラ(Red- lake,MotionScope M3)で撮影し,気体流れの可視化画像 を Particle Tracking Velocimetry(PTV)により速度ベク トルを解析する[2]. 電源電圧を 1.4 kV,20 kHz の正弦波高電圧に設定した際 に,誘起された気体流れの可視化を行った結果を以下に示 す.チャンネルは,半導体スイッチにより ON/OFF を行 う.Ch1 と Ch3 を駆動すれば,図2に示すように,右向き 流れが得られる.図3はカメラの露光時間を 10 ms に設定 したときの可視化した流れを示しており,各々のプラズマ への吸い込み・吐き出しが認められる.これは,プラズマ により加速された流れが,次のプラズマによる再加速を繰 り返すことを意味する.次に,個々の粒子の運動から流速 を求めた結果を図4に示す.水平(! 軸)方向について,右 に進むほど流速が増すことが分かる.これは,図3に示し た通り,各プラズマによる流れの加速が重畳されたためで あ る.! ! -11 mm で は 流 速 は 0.9 m/s で あ っ た が, 小特集 プラズマアクチュエータの動向 5.プラズマアクチュエータの産業応用 5. Industrial Applications of Plasma Actuators 瀬川武彦 1) ,清 水 一 男 2) ,松 田 寿 3) ,光 用 4) ,松 沼 孝 幸 1) SEGAWA Takehiko 1) , SHIMIZU Kazuo 2) , MATSUDA Hisashi 3) , MITSUMOJI Takeshi 4) and MATSUNUMA Takayuki 1) 1) 産業技術総合研究所, 2) 静岡大学, 3) 東芝, 4) 鉄道総合技術研究所 (原稿受付:2015年7月10日) プラズマアクチュエータの産業応用に向けては,電極及び絶縁部の材料や構造の多様化による誘起ジェット 高速化や耐久性向上といった取り組みに加え,様々な条件下で作動する流体機械表面への展開を図る必要があ る.そこで,本章では流体機械への実装に向けた多チャンネルマイクロプラズマアクチュエータの開発をはじめ, 風車出力増加技術,パンタグラフ騒音低減技術,タービン動翼先端漏れ流れ抑制技術について紹介する. Keywords: plasma actuators, multi-channel, wind turbine, pantograph, tip leakage AIST, Tsukuba, IBARAKI 305-8564, Japan Corresponding author’s e-mail: [email protected] J.PlasmaFusionRes.Vol.91,No.10(2015)665‐670 図1 多チャンネルマイクロプラズマアクチュエータ. !2015 The Japan Society of Plasma Science and Nuclear Fusion Research 665

5. Industrial Applications of Plasma Actuators...り,印加電圧を低く設定したため,エネルギー変換効率が 低い値を示す.しかし,空間的に高い制御性を実現するた

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Page 1: 5. Industrial Applications of Plasma Actuators...り,印加電圧を低く設定したため,エネルギー変換効率が 低い値を示す.しかし,空間的に高い制御性を実現するた

5.1 多チャンネルマイクロプラズマアクチュエータ

本章では,誘起流方向を自在に制御するために多チャン

ネル化し,空間的分解能の高い制御を実現するためにマイ

クロアクチュエータ構造とした,多チャンネルマイクロプ

ラズマアクチュエータによる流体の能動制御の試みについ

て述べる.

多電極マイクロプラズマアクチュエータの構造を図1に

示す.25 μmの誘電体フィルムの両面に電極が配置されている.下側電極は接地されており,また,下側で放電が生

じないよう絶縁処理が施されている.上側の電極は,4つ

の独立したチャンネルから構成される.各チャンネルの間

隔を短く設定するため,チャンネル同士でのスパーク防止

のために低電圧駆動が求められた.そして,低電圧でプラ

ズマを発生させるための高電界強度を得るため,誘電体厚

さを 25 μmに設定する.本プラズマアクチュエータでは,上部電極からのプラズマの進展距離がサブミリの領域

であり,典型的なミリスケールの進展距離と比較して一桁

小さい.

このような,サブミリの特性長の放電をマイクロプラズ

マと通称している[1].本プラズマアクチュエータを平板

上に設置し,周りにトレーサ粒子として線香の煙(サブミ

クロン粒子)を分布させる.波長 532 nmの Nd:YVO4 レー

ザーを粒子に照射し,散乱光をハイスピードカメラ(Red-

lake,MotionScope M3)で撮影し,気体流れの可視化画像

を Particle Tracking Velocimetry(PTV)により速度ベク

トルを解析する[2].

電源電圧を1.4 kV,20 kHzの正弦波高電圧に設定した際

に,誘起された気体流れの可視化を行った結果を以下に示

す.チャンネルは,半導体スイッチによりON/OFFを行

う.Ch1 と Ch3 を駆動すれば,図2に示すように,右向き

流れが得られる.図3はカメラの露光時間を 10 ms に設定

したときの可視化した流れを示しており,各々のプラズマ

への吸い込み・吐き出しが認められる.これは,プラズマ

により加速された流れが,次のプラズマによる再加速を繰

り返すことを意味する.次に,個々の粒子の運動から流速

を求めた結果を図4に示す.水平(�軸)方向について,右

に進むほど流速が増すことが分かる.これは,図3に示し

た通り,各プラズマによる流れの加速が重畳されたためで

あ る.��-11 mmで は 流 速 は 0.9 m/s で あ っ た が,

小特集 プラズマアクチュエータの動向

5.プラズマアクチュエータの産業応用

5. Industrial Applications of Plasma Actuators

瀬川武彦1),清水一男2),松田 寿3),光用 剛4),松沼孝幸1)

SEGAWA Takehiko1), SHIMIZU Kazuo2), MATSUDA Hisashi3),

MITSUMOJI Takeshi4)and MATSUNUMA Takayuki1)

1)産業技術総合研究所,2)静岡大学,3)東芝,4)鉄道総合技術研究所

(原稿受付:2015年7月10日)

プラズマアクチュエータの産業応用に向けては,電極及び絶縁部の材料や構造の多様化による誘起ジェット高速化や耐久性向上といった取り組みに加え,様々な条件下で作動する流体機械表面への展開を図る必要がある.そこで,本章では流体機械への実装に向けた多チャンネルマイクロプラズマアクチュエータの開発をはじめ,風車出力増加技術,パンタグラフ騒音低減技術,タービン動翼先端漏れ流れ抑制技術について紹介する.

Keywords:plasma actuators, multi-channel, wind turbine, pantograph, tip leakage

AIST, Tsukuba, IBARAKI 305-8564, Japan

Corresponding author’s e-mail: [email protected]

J. Plasma Fusion Res. Vol.91, No.10 (2015)665‐670

図1 多チャンネルマイクロプラズマアクチュエータ.

�2015 The Japan Society of PlasmaScience and Nuclear Fusion Research

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��11 mmでは 1.5 m/s まで加速される.

Ch2とCh4を駆動させた場合,先程とは逆向きの左方向

への流れが得られる.しかし,電極構造の対称性から流速

分布は左右反対称になるので,ここでは詳細な説明は省く.

Ch1 と Ch4 を駆動させた場合,図5に示すように,アク

チュエータ中央で二つの流れが衝突し,上向きの流れが生

じる.可視化流れを図6に,流速分布を図7に示す.中央

部,高さ 0.25 mmの位置では流れはほとんど生じない.ア

クチュエータの中央では,電極の対称性より流速の水平成

分はゼロになると考えられる.即ち,流れは垂直成分のみ

になるが,アクチュエータ表面近傍において流れの連続の

式を考慮すると,垂直成分もゼロになると考えられる.

Ch2とCh3を駆動した場合,図8に示すような下向きの流

れが得られる.可視化した流れを図9に,流速分布を図10

に示す.中央部,高さ 0.25 mmの位置では,上向き流れと

同様の理由で流れはほとんど生じない.

右向き流れにおいて,速度分布を用いて本アクチュエー

タのエネルギー変換効率�を近似的に算出した.近似式は

以下のとおりである[3].

��

����

�������

������

(1)

ここで,�:空気の密度1.203 kg/m3,�:アクチュエータの

長さ(20 mm),����:流速である.式(1)の右辺の分子

は誘起された気体流れの仕事率を表す.�は電圧,は電流

であり,式(1)の右辺の分母はプラズマの消費電力とな

る.計算した結果,消費電力は 5Wである.エネルギー変

換効率を計算した結果,効率は10-3%となり,従来の

10-2~10-1%という報告[3,4]と比較して低い値を示す.

一般に,同一のプラズマアクチュエータに対し,印加電圧

が高いほど,エネルギー変換効率が高くなることが知られ

ている.

本デバイスは,各チャンネル同士でのスパーク防止のた

め,印加できる電圧の値が 1.5 kV 程度に制限されてお

図2 右向き流れの模式図. 図5 上向き流れの模式図.

図6 上向き流れの可視化の例.図3 右向き流れの可視化の例.

図4 右向き流れの速度ベクトル分布. 図7 上向き流れの速度ベクトル分布.

図8 下向き流れの模式図.

図9 下向き流れの可視化の例.

図10 下向き流れの速度ベクトル分布.

Journal of Plasma and Fusion Research Vol.91, No.10 October 2015

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り,印加電圧を低く設定したため,エネルギー変換効率が

低い値を示す.しかし,空間的に高い制御性を実現するた

めには,電極を密に配置する必要がある.印加電圧を

数十kVに設定すれば誘起流速,効率ともに上昇するが,絶

縁距離を長くする必要が生じるため,電極を複数並べた際

の電極同士の間隔が数十mm程度になる[5].そのため,

流れの制御性と,誘起流速・エネルギー変換効率はトレー

ドオフの関係にあると考えられる. (清水一男)

5.2 プラズマ気流制御技術の風車応用研究再生可能エネルギーの柱の一つとして,風力発電システ

ムの導入量増大を実現する必要がある.出力変動が大きな

風力発電システムの更なる性能改善をめざし,各国でアク

ティブ流体制御技術を用いたスマートロータ研究が進めら

れている[6].株式会社東芝ではアクティブ流体制御技術

の一種として,プラズマ気流制御技術に着目し,風車応用

に向けて研究を進めている.

プラズマ気流制御技術は,1)故障の原因となる機械的

駆動部を持たない,2)時定数の短い電気的制御が可能で

ある,3)装置をコンパクト化できる等の特長を備えてお

り,剥離流れを頻繁に伴う風車翼周りの流れ制御に期待が

持たれる.3章でも示したが種々の流れ場に対してプラズ

マ誘起流を間歇的(流れの変動に同調したパルス変調制

御)に活用することが効果的であると知られており[7,8],

小さなエネルギーで流れを制御できるのが特長である.

本技術の風車適用として,風車翼前縁に放電電極を取り

付けた小型風車に対する風洞実験をまず行った(図11).

本実験ではプラズマ気流制御により風車翼の動的失速が抑

制され,風車性能が著しく向上することが示された(図12)

[9].

続いて,第2の実験を三重大学所有の定格 30 kW,直径

10 mの3枚羽根水平軸アップウィンド型風車を利用して

行った.風車ナセル上にプラズマアクチュエータの制御装

置を装備した(図13).本実験では,プラズマ気流制御に

よって風車翼の剥離流れを抑制でき,放電入力より十分大

きな発電量向上が実風況下においても見込まれることを定

量的に明らかにした(図14)[10].

最後に大型風車への適用可能性を確認するために,鹿児

島風力発電研究所(�北拓)所有の商用風車(1.75 MW,

ロータ直径 66 m)にプラズマ気流制御技術を適用した.実

機大型風車に適用するために耐候性,柔軟性などを考慮し

た 8 m長のプラズマアクチュエータを特別開発した.電極

装着時の様子を図15に示す.同一風速帯においてプラズマ

ONの場合には風車回転数が増大することが確認され

(図16),10の6乗を超える高Re数流れ場に対してもプラ

図12 PA稼働/非稼働によるブレード回転数の時間変化.

図13 30 kW級風車を用いた PA性能試験.

図14 PA稼働・非稼働による風速に対するトルク変化.

図15 1.75 MW級風車ブレードへの PA電極設置.図11 小型風車の風洞実験.

Special Topic Article 5. Industrial Applications of Plasma Actuators T. Segawa et al.

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ズマ気流制御が期待できることが示された[11,12].なお,

上述の成果の一部は独立行政法人新エネルギー・産業技術

総合開発機構(NEDO)の委託業務の結果得られたもので

ある. (松田寿)

5.3 パンタグラフ舟体の空力音低減手法新幹線の沿線環境負荷低減や高速化にとって,沿線騒

音,特に空力音の低減は重要な課題となっている.新幹線

車両の構成部材のうち,パンタグラフは主要な空力音源の

ひとつであり,なかでも舟体(図17)についてはその寄与

が大きい[13].舟体から生じる空力音は,主として舟体背

後に生じるカルマン渦に起因するエオルス音と,乱流に起

因する広帯域音の複合した音である.このうち,前者は狭

帯域の卓越した音であるため,その発生抑制が重要であ

る.過去の研究[14]で,舟体断面形状の平滑化や貫通孔の

設置により,カルマン渦の発生を抑制してエオルス音を低

減できることが示されている.一方,舟体は空力音の低減

だけでなく,しゅう動部の摩耗に伴う形状変化や風向変化

に対して揚力変化量が小さいこともまた重要であり,舟体

形状を大幅に平滑化することは容易ではない.そこで,鉄

道総研では現状の舟体形状を維持したうえで,舟体周りの

流れを能動的に制御して空力音を低減する手法の一つとし

て,プラズマアクチュエータを舟体に適用することを検討

している.本節では,その検討結果[15]について紹介す

る.なお,本節で紹介する内容は鉄道総研と慶應義塾大学

深潟研究室とで実施した共同研究の成果である.

本研究で対象とする舟体は,新幹線用パンタグラフ舟体

を模擬した図17(b)の断面形状を有する舟体とし,流れの

剥離点となる舟体の上流側角部直後の位置に剥離を抑制す

る目的でプラズマアクチュエータを適用した.図18および

図19に,風速 4.6 m/s において測定した舟体後流の可視化

結果および流速変動分布測定結果を示す.なお,プラズマ

アクチュエータは印加電圧8 kV,周波数4 kHzで動作させ

た.このとき,プラズマアクチュエータにより約 1 m/s

程度の誘起流が得られることを別途確認している.これら

の図より,舟体の剥離点近傍にプラズマアクチュエータを

適用することで,カルマン渦の巻込みが弱まり,後流の乱

れが低減する様子を確認できる.したがって,舟体にプラ

ズマアクチュエータを適用することで,原理的にはカルマ

ン渦に起因するエオルス音を低減できると考えられる.し

かし,本風洞試験において適用したプラズマアクチュエー

タの出力が小さいため,風洞試験において空力音低減効果

を評価することは困難であった.

そこで,高速域における流れ場制御効果および空力音低

減効果については,CFD解析による検討を行った.図20に

風速 36.1 m/s(130 km/h)におけるCFD解析結果を示す.

プラズマアクチュエータの流れ場に対する力学的作用は

Shyy らによって提案されている定常体積力モデル[16]を

簡略化して用いることで模擬し,主流速の約 1.6 倍の誘起

流速が得られる条件でプラズマアクチュエータを動作させ

た.図20より,プラズマアクチュエータによって流れの剥

離が抑制され,後流のカルマン渦の巻込みを弱められるこ

とが確認できる.図21はCFD解析結果から,コンパクト近

似したCurle の式[17]によって舟体から放射される空力音

を予測した結果である.図21より,舟体にプラズマアク

チュエータを適用することで,無次元周波数 0.1 付近に生

じているエオルス音のピークレベルの顕著な低減が確認で

きる.したがって,十分に大きな出力のプラズマアクチュ

図16 PAによるブレード回転数向上効果.

(a)PA非動作 (b)PA動作.

図18 舟体後流の可視化結果(風速 4.6 m/s).

(a)PA非動作 (b)PA動作.

図19 舟体後流の流速変動分布.(主流直角方向流速標準偏差,風速 4.6 m/s).

(a)PA非動作 (b)PA動作.

図20 舟体まわりの CFD解析結果.(渦度のスパン方向成分,風速 36.1 m/s).

(a)パンタグラフの構成部材 (b)舟体と PA適用位置.

図17 新幹線用パンタグラフの概要と PAの適用位置.

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エータを適用できれば,プラズマアクチュエータにより舟

体からの空力音を低減可能と予測される.

現在のところ,プラズマアクチュエータをパンタグラフ舟

体に直ちに適用するためには,出力面,実装面においてま

だ解決すべき課題が多い.しかし,これらの課題を解決で

きれば,薄く,可動部をもたないという流体制御に適した

性質をもつプラズマアクチュエータは,新たな空力音低減

手法としての選択肢の一つとなると考えている.(光用剛)

5.4 リング型PAを用いた漏れ流れ能動制御従来型のプラズマアクチュエータは,図22(a)に示すよ

うに絶縁シートの表裏両面に電極を設置した構造であり,

風洞実験で用いる2次元翼への設置は比較的容易である.

しかし,風車やガスタービンなどのターボ機械への実装を

想定した場合,従来型プラズマアクチュエータを3次元形

状や金属表面に対して安全かつ凹凸なく装着することは困

難である.一方,図22(b)に示すように,あらかじめ絶縁被

覆された金属線を利用したひも型プラズマアクチュエータ

は高い柔軟性を有しているため,様々な流体機械の3次元

形状表面への装着が可能になる[18].また,端面を除いて

絶縁被覆されているため,ターボ機械で想定される金属表

面と接する場合でも,短絡の危険性を低下させることがで

きる.

タービン翼列は,ガスタービンの主要な構成要素とし

て,航空推進用ジェットエンジンや発電用ガスタービンに

全世界で広範に利用されるため,わずかな性能向上でも高

い省エネルギー効果が期待できる.特に,タービン翼列の

翼先端から発生する漏れ流れは,空力性能を低下させる大

きな原因の1つであり,最近では従来型のプラズマアク

チュエータを用いて漏れ流れを抑える研究も行われている

が,産業応用に向けては多くの技術課題が残される[19].

ひも型プラズマアクチュエータの応用例として,環状ター

ビン翼列風洞のケーシングに絶縁被覆電線をらせん状にフ

ラッシュマウントすることでリング型プラズマアクチュエータ

を構築する(図23).図24(a)は,熱線流速計を用いて解析

した約 1 mmの翼先端隙間を有する直径 500 mmの環状

タービン翼列出口近傍の乱流強度分布(Mach 数:

0.0013)であり,プラズマアクチュエータ非稼働時に漏れ流

れに起因する乱流強度が大きい領域が存在することがわか

る.一方,12.0 kVp-p,8.4 kHz の疑似矩形電圧を絶縁被覆電

線に印加した場合,環状タービン翼列の翼先端とケーシン

グの間にのみ誘電体バリア放電が誘起され,図24(b)に示

すように乱流強度が低減される[20].今後は,より高マッ

ハ数における漏れ流れを低消費電力で抑制する条件を見出

すための実験を行う予定である. (松沼孝幸,瀬川武彦)

参 考 文 献[1]橘邦英:応用物理 75, 399 (2005).[2]S. Fu et al., Build. Environ. 87, 34 (2015).[3]大河内翔平他:ながれ 29, 271 (2010).[4]E. Moreau, J. Phys. D: Appl. Phys. 40, 605 (2007).[5]M. Forte et al., Exp. Fluids 43, 917 (2007).[6]D. Berg et al., AIAA2011-0636 (2011).[7]松田寿他:日本機械学会論文集B編 74 (744), 1667

(2008).[8]K. Mitsuo et al., Proc. 51st AIAA Aerospace Science

Meeting, AIAA 2013-1119 (2013).[9]H.Matsuda et al., Proc. AsianCongress onGasTurbines,

ACGT2012-1058 (2012).[10]M. Tanaka et al., Proc. Europe's Premier Wind Energy

Event (EWEA), Abstract ID: 53 (2013).

図21 舟体から放射される空力音の予測結果.(風速 36.1 m/s,観測点:舟体上方 5 m位置).

図23 環状タービン翼列に構築したリング型プラズマアクチュエータ模式図.

図24 ロータ出口における乱流強度分布,(a)PA非稼働,(b)PA

稼働.

図22(a)従来型 PA,(b)ひも型 PA.

Special Topic Article 5. Industrial Applications of Plasma Actuators T. Segawa et al.

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[11]M. Tanaka et al., Proc. Europe's Premier Wind EnergyEvent (EWEA), PO. 005 (2014).

[12]松田寿他:日本風力エネルギー学会論文集 38, 86 (2015).[13]山崎展博他:鉄道総研報告 17, 1 (2003).[14]吉田和重他:鉄道総研報告 19, 23 (2005).[15]光用剛他:鉄道総研報告 27, 11 (2013).[16]W. Shyy, et al., J. Appl. Phys. 92, 6434 (2002).

[17]N. Curle, Proc. Roy. Soc. A 231, 505 (1955).[18]瀬川武彦他:ながれ 31, 479 (2012).[19]D.K. Van Ness II et al., Proc. ASME Turbo Expo 2008,

GT2008-50703 (2008).[20]T. Matsunuma and T. Segawa, Proc. 43rd AIAA Fluid

Dynamics Conference, AIAA2013-2726 (2013).

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