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121 パーク24株式会社 パーク24株式会社(以下、同社)は駐車場事業やモビリティ事業を手掛けている。2009 年に カーシェアリングサービス市場に参入、 47 都道府県でサービス展開している。 2018 年には会員数 100 万人を突破し、カーシェアを通じて資源有効利用に貢献するほか、電気自動車などの提供 により CO2 排出削減にも貢献する。近年では、保有する会員・自動車・駐車場等から得られる膨 大な情報を活用し、新たなサービスの立ち上げを行うとともに、交通安全に貢献するための取組 も実施している。 File 14 シェアリング ユーザーの利便性を追及した カーシェアリングを実現、 資源有効利用に貢献する

ユーザーの利便性を追及した - env.go.jp · を利用し始めることができるようにしている。また、ユーザーがエンジンをかけるだけで予約時

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パーク24株式会社

パーク24株式会社(以下、同社)は駐車場事業やモビリティ事業を手掛けている。2009 年に

カーシェアリングサービス市場に参入、47 都道府県でサービス展開している。2018 年には会員数

が 100 万人を突破し、カーシェアを通じて資源有効利用に貢献するほか、電気自動車などの提供

により CO2 排出削減にも貢献する。近年では、保有する会員・自動車・駐車場等から得られる膨

大な情報を活用し、新たなサービスの立ち上げを行うとともに、交通安全に貢献するための取組

も実施している。

File 14 シェアリング

ユーザーの利便性を追及した

カーシェアリングを実現、

資源有効利用に貢献する

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ポイント

既存の駐車場事業におけるリソースの有効活用やノウハウの水平展開によりカーシェア

リングサービスを拡大

社会的意義を考え、利便性向上を目指した顧客目線のサービスを設計。結果として、環境

負荷削減へ貢献する取組につながっている

パーク 24株式会社

所在地 東京都千代田区有楽町 2-7-1

従業員数 4,899 人

設立年 1985 年

資本金(百万円) 19,754(2018 年 10 月)

売上高(百万円)

※連結ベース

2016 年 10 月 194,398

2017 年 10 月 232,956

2018 年 10 月 298,517

① 事業概要

必要な時だけ簡単に利用することができるサービス設計

カーシェアリングサービスは、レンタカーサービスと異なり、利用の単位が 15 分 206 円から

(会社により異なる)となっており、短時間で設定できることから比較的安価で利用が可能なサ

ービスである。事前に会員登録すればスマートフォンなどを活用して簡単に予約・利用すること

ができる。また、ガソリン代・保険代は利用料金に含まれ、複雑な操作やメニューの選択の必要

が無い、利用しやすいサービス設計になっている。車種も利用者がシーンで使い分けることが可

能であり、コンパクトカー、電気自動車、バン、MINI や Audi のプレミアクラスまで約 30 車種が

用意されている。

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図 56 タイムズカープラス サービスイメージ

出所)パーク24

カーシェアリングを実現するための環境整備やドライブデータの活用を実施

同社はカーシェアリングサービスにおいて国内トップのシェアを誇る。その背景には、同社が

車両の置き場所となる駐車場を運営していることに加え、カーシェアリングサービスを実現する

ための環境整備をいち早く実施したことがある。同社は、カーシェアリングサービスを展開する

に当たり、ユーザーに身近な場所にサービスがあると感じてもらうことが重要であると考え、最

初のターゲットエリアとした都内において車両数の拡大に努め、クルマを使いたい時に使える環

境の整備を推進してきた。

さらに同社は、ドライブデータや利用者の声を活用し、サービスメニューに工夫を施している。

例えば、急加速、急ブレーキがない運転にはポイントを付与してユーザーに還元することで、エ

コドライブ推進や、事故の抑制の働きかけを行っている。また、ユーザーが利用中に給油や洗車

を行った際にもその情報を即座にユーザーデータに反映して利用料を割り引くサービスメニュー

としている。こうすることで、同社自らが手間をかけることなく、次の利用者が快適な状態で車

を利用し始めることができるようにしている。また、ユーザーがエンジンをかけるだけで予約時

に設定していた行き先がカーナビ上に設定されているなど、利用者にとってのちょっとした手間

が軽減され、手軽に利用できるような工夫も施されている。

さらに、運転に関する情報を集め、収集データから駐車場内で車を止めにくい場所を割り出し、

車庫の配置を変えて稼働率を改善させるなどして、サービス品質を向上させている。こうしたデ

ータは、将来は交通安全にも貢献できるものとして、活用方法の検討を行っている。

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図 57 ドライブデータの活用

出所)パーク24

電気自動車や自治体との連携など新たなサービスも

「Times Car PLUS×Ha:mo」と銘打ち、トヨタ車体製の COMS 十数台をカーシェアリングサービ

スのステーションに配置し、超小型電気自動車を利用した実証実験を行っている。また、自治体

と連携し、車両を庁舎駐車場内に設置し、職員と地域住民が共用できるサービスを提供するなど、

カーシェアリングの特性を生かした取組も開始している。

図 58 超小型電気自動車 Ha:mo を利用したカーシェアサービス

出所)パーク24

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② 事業参入の経緯

カーシェアリングに近いサービスの構想は 1995年頃から

1971 年に創業し、駐車場機器の製造・販売を経て、1991 年に 24 時間無人時間貸駐車場を日本

で初めてオープンさせるなどして事業を拡大してきた。第二次 EV ブームであった 1995 年頃に

EV で駐車場間を自由に移動できたらベンリなサービスではないかと、カーシェアリングに近い構

想が生まれた。そんな構想を持ち続けていた中で、2009 年 3 月、国内 385 店舗・車両 2 万台を保

有し、レンタカー・カーシェアリングサービスを既に行っていたマツダレンタカーを買収しカー

シェアリングサービスに本格参入した。

既存事業で保有していた「駐車場」を有効活用することで事業を拡大

主力事業である駐車場事業で運営している駐車場の一角に車両を設置しステーション化したこ

とや、駐車場運営を行っているスーパーマーケットや病院の一角、大規模マンションにステーシ

ョンを展開するなどして事業を拡大した。2018 年 12 月時点で、ステーション数は全国約 1.1 万か

所、車両台数は 2.3 万台を超えた。サービスの利用方法や利点を訴求する地道な活動が実を結び、

2014 年 10 月期に黒字転換するに至った。2018 年 6 月に会員数は 100 万人を突破した。

③ 成功・差別化要因

市場が形成される前から大規模投資を実行して規模の経済を実現

同社によると、同社がカーシェアリングサービスを開始した当時、まだカーシェアリングが消

費者に認知されておらず、市場が形成されていなかったという。公益財団法人交通エコロジー・

モビリティ財団の調査によると、2008 年時点で、カーシェアリングサービス全体の会員数はわず

か 3 千人程度にすぎなかった。2009 年のサービス提供開始後、大規模な投資を実施しサービス拡

大を続け、2014 年 10 月期には事業が黒字に転じ、2018 年 6 月に会員数 100 万人を突破した。同

社は、市場が形成される前から今後伸びるであろうサービスに着眼し、時間貸駐車場と同様に先

行優位性を保ちサービスを展開することが重要であると分析している。

既存の駐車場事業におけるリソースの有効活用やノウハウの水平展開

カーシェアリングサービスの成功を支える要素としてよく語られるのが、既存事業における駐

車場の活用とノウハウの水平展開である。カーシェアリングサービスを展開するに当たり、既存

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事業で運営していた駐車場の一角に車両を設置、駐車場を管理する拠点と人材を活用することで、

効率的にカーシェアリングサービスのステーション数を拡大することができた。既存事業で運営

している「無人駐車場」は、現場は「無人」でも管理には人手が掛かる。同社は、全国に拠点を設

け、人材を配置して駐車場事業を行ってきた。カーシェアリングサービスにもこうした人材を活

用している。さらに、カーシェアリングサービスにおいては、24 時間無人営業を実現することが

重要な要素となるが、同社は駐車場運営事業で稼働率管理等のシステムを構築、ノウハウを蓄積

していた。このように、既存事業である駐車場事業で蓄積した不動産資産・人材・システムノウ

ハウなどを水平展開した。

コールセンターやシステム開発を含め自社で担うことで、継続的にサービス内容を改善

カーシェアリングサービスに必要なコールセンターやシステム開発等の機能を、基本的に全て

自社で保有している。そうすることで、ユーザーのニーズを詳しく逐一把握し、サービスの改善

に役立てている。例えば、サービス開始当初、ユーザーが車を借り終わった後の忘れ物に関する

問い合わせが非常に多かったという。当初は、ユーザーが車を借り終わり一度返却手続きをして

しまうと、扉が開かなくなる仕組みであったからである。これを受け、ユーザーが車を借り終わ

った後、一度に限り会員カードをかざすと扉を開けることができるようなシステムに変更した。

同社はコールセンター機能を外部に依頼すると、こうしたユーザーに寄り添ったサービス改善に

時間を要すると考えている。提供するサービスは、利便性向上を目指した顧客目線の設計となっ

ている。

個人情報の取り扱いを強化

カーシェアリングサービスでは、ユーザーが Web に必要事項を記入し、運転免許証の画像をア

ップロードすると、店舗まで足を運ばずに自宅で会員登録することができる。そのため、会員の

個人情報を取り扱うことに伴うリスクを抱えている。これに対し、プライバシーマーク7を取得し、

データに関しては同社グループのデータベースにて集中的に管理処している。当該データベース

にアクセスできる社員の限定や、管理者に対する教育・研修などによる情報管理の重要性の周知

徹底、システム上のセキュリティ対策など、情報管理の強化とその取り扱いに十分な注意を払っ

ている。これらの施策により、ユーザーの利便性を担保しつつ、個人情報に関する管理体制を強

化することができている。

専任事業部を組成

サービスを立ち上げた後の早い段階で、カーシェアリングサービスを扱う組織を「推進部」か

7 プライバシーマークとは、企業や団体など(事業者)の個人情報保護の体制や運用の状況が適切であることを、消費者が把

握できるように、一定の要件を満たした事業者などの団体(医療法人など)に対し、一般財団法人日本情報経済社会推進協会

(JIPDEC) が使用を許諾する登録商標である。

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ら「事業部」に変革して収益目標を付与した。コストセンターとしての環境に置くのではなく、3

年で黒字化するという目標を課すことで、事業としての早期の立ち上がりを促した。

④ 事業ビジョン・展望

カーシェアリングサービスの車両数、2020年に 3万台

同社のカーシェアリングサービスにおける全国の車両数は、2018 年 12 月時点で約 2.3 万台だ

が、2020 年には車両数 3 万台を目指している。サービス内容の更なる向上を図ることで、ユーザ

ーにとってより身近で、より使いやすいサービスを提供することを目指す。

ドライブデータの活用

自社開発した車載器からドライブデータを収集している。例えば、「何歳の人が、いつ、どこで

急ブレーキをかけたか」といった情報を集め、運転しにくい場所などを特定することにより駐車

場内で車を止めにくい場所を割り出し、車庫の配置などを変えて稼働率を改善させた例がある。

将来的には、ユーザーの運転方法からタイヤの磨り減り具合を割り出して車両の予防保全に役立

てたり、ユーザーに合わせた適切な保険料を設定したりする等、ドライブデータの活用方法は多

岐にわたると考えられており、その活用方法を模索していく方針である。

⑤ 政府への要望

カーシェアリングサービスに関連する将来的な環境整備

同社は、政府に頼らない事業展開を基本方針としているため、現時点では特に政府に対する要

望はない。一方、将来的に世の中でカーシェアリングサービスに関連する何らかのニーズが現れ

た際には、それを支援するような環境整備が実施されることを期待する。

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タイムズ24株式会社

タイムズカーシェア事業部

部長

齋藤 章さん

2014 年タイムズ24に入社後、公共

交通機関とカーシェアとの各種連携プ

ロジェクトの立案・導入などカーシェ

アリング事業に携わる。2017 年 3 月

より現職。