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ata- Driven Innovation...ata- Driven Innovation 欧州エネルギービジネスの新潮流 D 2011年にドイツが国を挙げて提唱した「インダストリー4.0」。スマートファクトリーやIoTなどを打ち

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ata- DrivenInnovation

欧州エネルギービジネスの新潮流DD

Page 2: ata- Driven Innovation...ata- Driven Innovation 欧州エネルギービジネスの新潮流 D 2011年にドイツが国を挙げて提唱した「インダストリー4.0」。スマートファクトリーやIoTなどを打ち

 2011年にドイツが国を挙げて提唱した「インダストリー4.0」。スマートファクトリーやIoTなどを打ち出した概念はあらゆる産業基盤をデジタルプラットフォームに変えていった。エネルギー産業においても、再生可能エネルギーの急増による「De-Carbonization(脱炭素化)」「Decentralization(分散化)」と、これを従来型システムに調和させる技術として、また、新たなビジネスを創出するためのカギとして「Digitalization(デジタル化)」が進む。設備やセンサー、メーターから得る膨大なデータを分析し効率化や新ビジネスの創出に活用する「Data driven」の変革。有望なデータを扱う企業には熱い視線が注がれ、様々なモノと情報がつながる次世代プラットフォーム構築への投資も活況だ。英独企業を訪ね、その戦略からエネルギービジネスの新潮流について、3部にわたりレポートする。

 第1部は今、最も注目が集まる配電プラットフォームのイノベーションを体現する、ドイツの2つの企業の挑戦を紹介する。

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[ もくじ ]

第1部:配電プラットフォームのイノベーション

◆「供給者⇒需要家」から双方向に変革迫られる 配電ネットワーク Westnetz、DigiKoo

◆「VPP」という名のIoT事業 運用データの蓄積が強み Next Kraftwerke

第2部:電力データ活用への挑戦 ―― 英国の事例から

◆電力使用料データ 収集と提供を集約 英DCC◆顧客との接点拡大に向けたツール 大手電力・ガスCentricaも模索中◆IoT時代のエネルギー 半導体とクラウドの両輪で安全を守る Arm

第3部:「インフラ」革新とエネルギー産業 学びか、競合か

◆ブロックチェーンはエネ取引基盤となるか 国際規格組織 EWF◆自動運転レベルの競争 インフラ産業を巻き込み強み発揮 BOSCH◆さらに広がるデータビジネス 社会と業界の構造変化を見せる SAP

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2頁

・・・・・・・・6頁

・・・・・・11頁

【本文の内容は2019年7月時点のものです】

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 プロジェクターに映る住宅街の配電系統図。電力会社の制御システム上では良く似た画面を見ることができるが、ここでは当該エリアの「今の電力系統の状況」だけでなく「近い将来の姿」までも具体的に見せることができる。その街区の各世帯に関するあらゆる情報を集めてシミュレーションを行うのだが、用いるデータは、家族構成や所得水準、敷地の空き具合や屋根の形状、住人の政治思想やライフスタイル志向に関する情報などまで、幅広い。そこから、街区における太陽光発電の出力予想や、将来的に電気自動車(EV)を購入して充電設備を置く可能性がありそうかといった内容を推定し、電力系統への影響度合いを推し量る。

 「過去40年間の様々なアンケート、国勢調査のような内容も含め、正当に入手できるデータを幅広く入手する。シミュレーションの精度を上げるためには、質の良いデータをより多く集めることが大事」。こう話すのは、システムを開発した会社、「DigiKoo(ディジコー)」の社長、ピーター・マティス氏。同社はドイツ電力大手、innogy(イノジー)が出資するスタートアップで、マティス氏はドイツ最大規模のDSO(配電網運用事業者)、Westnetz(ウエストネッツ)の出身だ。ウエストネッツではディジコーのシステムを運用エリアすべてで展開しているが、実際の配電系統を運用するSCADAシステムとは連係させていない。目的とするのは「今」の最適運用ではなく、再生可能エネルギーや分散型エネルギー資源が大量に導入されていく今後の配電ネットワークを社会的に最も効率的に形成して

いくことに狙いを置いているからだ。

 「このツールの開発目的は、今後、ネットワークに一切の追加投資をしないようにすること」(マティス氏)。2030年までに1990年比14%のCO2削減に本気で取り組むドイツ政府は今後、モビリティ部門での排出削減強化に向けてエネルギーとのセクターカップリングを強化する方向を打ち出している。政策的な後押しもあり、配電ネットワークに接続するEVと急速充電器は急増が予想されるが、これを顧客側の意のままに受け入れ、その結果、設備の増強や出力抑制の発生が頻発するような無駄はできるだけ避けたい。そのためには、急速充電器や太陽光発電のオーナーに対し、エリア内の電圧や負荷率をシミュレーションした結果を開示し、適切な系統のあり方を伝えていく必要があるという。ディジコーのシステムは顧客を含めた配電ネットワークを取り巻くステークホルダー全体を巻き込み、系統の最適な状況をあえて『見せる化』し、合意形成や意思決定を透明化・迅速化していくツールともいえる。

 「配電事業は変わる。変化に対応していくためには、配電系統の潮流や電圧の現況、需要家であり発電者である世帯の動向、さらには配電設備自体の老朽化や保守管理の状態という3つを同時に管理して、系統維持へのコストを最も低く抑える方策をとらなければならない。双方向化する配電ネットワークを最適に管理するためには、顧客に強く関与していく必要がある」(ウエストネッツのデータ&系統システムマネジメント部門長、ベンジャミン・ジャンボール氏)。

 増強コストを抑えたい配電会社側の都合のように見えなくもないが、ドイツの場合、配電網の設備所有権が基本的に地方自治体にあるという体制も影響しているようだ。DSOはその運営委託を受けているケースが多く、自治体のエネルギー政策と設備形成の連関が強い。ディジコーのシステムを自治体が導入すれば住民側への関与もしやすいうえ、自治体側にとっても防

災や都市整備計画などと一体的に活用ができる。同システムには今後、さらに上位系統の中圧ネットワーク情報に加え、ガス導管系統の情報も取り込まれ、暖房設備をガスからヒートポンプに切り替えた場合などもシミュレーションできるようになる。地域全体での負荷管理についても、EVの急速充電器の設置についてはDSOが介入する権利もあり、ウエストネッツでは時間帯別に充電を行うことで街区全体での負荷管理をしやすい料金体系をすでに導入しているという。 ライフスタイルを変えるために電力ネットワークに関与するのであれば、需要家も「電気事業者」の一員として、系統の維持と最適構成に貢献するために果たすべき義務がある――。ドイツらしい思想の下で生まれた分散型エネルギー時代の新たなデータビジネス。ドイツを中心に欧州では配電事業者や自治体への導入が進められており、今後は世界のエネルギー事業者にも展開を目指すと力をこめる。

第1部:配電プラットフォームのイノベーション

「供給者⇒需要家」から双方向に変革迫られる配電ネットワーク Westnetz、DigiKoo

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自社システムを紹介するDigiKooの社長、マティス氏

Page 4: ata- Driven Innovation...ata- Driven Innovation 欧州エネルギービジネスの新潮流 D 2011年にドイツが国を挙げて提唱した「インダストリー4.0」。スマートファクトリーやIoTなどを打ち

 プロジェクターに映る住宅街の配電系統図。電力会社の制御システム上では良く似た画面を見ることができるが、ここでは当該エリアの「今の電力系統の状況」だけでなく「近い将来の姿」までも具体的に見せることができる。その街区の各世帯に関するあらゆる情報を集めてシミュレーションを行うのだが、用いるデータは、家族構成や所得水準、敷地の空き具合や屋根の形状、住人の政治思想やライフスタイル志向に関する情報などまで、幅広い。そこから、街区における太陽光発電の出力予想や、将来的に電気自動車(EV)を購入して充電設備を置く可能性がありそうかといった内容を推定し、電力系統への影響度合いを推し量る。

 「過去40年間の様々なアンケート、国勢調査のような内容も含め、正当に入手できるデータを幅広く入手する。シミュレーションの精度を上げるためには、質の良いデータをより多く集めることが大事」。こう話すのは、システムを開発した会社、「DigiKoo(ディジコー)」の社長、ピーター・マティス氏。同社はドイツ電力大手、innogy(イノジー)が出資するスタートアップで、マティス氏はドイツ最大規模のDSO(配電網運用事業者)、Westnetz(ウエストネッツ)の出身だ。ウエストネッツではディジコーのシステムを運用エリアすべてで展開しているが、実際の配電系統を運用するSCADAシステムとは連係させていない。目的とするのは「今」の最適運用ではなく、再生可能エネルギーや分散型エネルギー資源が大量に導入されていく今後の配電ネットワークを社会的に最も効率的に形成して

いくことに狙いを置いているからだ。

 「このツールの開発目的は、今後、ネットワークに一切の追加投資をしないようにすること」(マティス氏)。2030年までに1990年比14%のCO2削減に本気で取り組むドイツ政府は今後、モビリティ部門での排出削減強化に向けてエネルギーとのセクターカップリングを強化する方向を打ち出している。政策的な後押しもあり、配電ネットワークに接続するEVと急速充電器は急増が予想されるが、これを顧客側の意のままに受け入れ、その結果、設備の増強や出力抑制の発生が頻発するような無駄はできるだけ避けたい。そのためには、急速充電器や太陽光発電のオーナーに対し、エリア内の電圧や負荷率をシミュレーションした結果を開示し、適切な系統のあり方を伝えていく必要があるという。ディジコーのシステムは顧客を含めた配電ネットワークを取り巻くステークホルダー全体を巻き込み、系統の最適な状況をあえて『見せる化』し、合意形成や意思決定を透明化・迅速化していくツールともいえる。

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 「配電事業は変わる。変化に対応していくためには、配電系統の潮流や電圧の現況、需要家であり発電者である世帯の動向、さらには配電設備自体の老朽化や保守管理の状態という3つを同時に管理して、系統維持へのコストを最も低く抑える方策をとらなければならない。双方向化する配電ネットワークを最適に管理するためには、顧客に強く関与していく必要がある」(ウエストネッツのデータ&系統システムマネジメント部門長、ベンジャミン・ジャンボール氏)。

 増強コストを抑えたい配電会社側の都合のように見えなくもないが、ドイツの場合、配電網の設備所有権が基本的に地方自治体にあるという体制も影響しているようだ。DSOはその運営委託を受けているケースが多く、自治体のエネルギー政策と設備形成の連関が強い。ディジコーのシステムを自治体が導入すれば住民側への関与もしやすいうえ、自治体側にとっても防

災や都市整備計画などと一体的に活用ができる。同システムには今後、さらに上位系統の中圧ネットワーク情報に加え、ガス導管系統の情報も取り込まれ、暖房設備をガスからヒートポンプに切り替えた場合などもシミュレーションできるようになる。地域全体での負荷管理についても、EVの急速充電器の設置についてはDSOが介入する権利もあり、ウエストネッツでは時間帯別に充電を行うことで街区全体での負荷管理をしやすい料金体系をすでに導入しているという。 ライフスタイルを変えるために電力ネットワークに関与するのであれば、需要家も「電気事業者」の一員として、系統の維持と最適構成に貢献するために果たすべき義務がある――。ドイツらしい思想の下で生まれた分散型エネルギー時代の新たなデータビジネス。ドイツを中心に欧州では配電事業者や自治体への導入が進められており、今後は世界のエネルギー事業者にも展開を目指すと力をこめる。

ドイツ電力市場における主要なプレイヤードイツにおける送電事業においては、法的分離に加え所有権分離に進展している企業もあり、また配電事業においては、地域経営会社や地方経営会社が多数参画している。

政府機関主要事業者

【連邦経済技術省(BMWi)】

【連邦ネットワーク規制庁(BNetzA)】(規制当局)

【連邦カルテル庁(BkartA)】(競争担当局)

【独占禁止委員会】

【ドイツエネルギー機構(dena)】

BMWi: Bundesministerium für Wirtschaft unddena: Deutsche Energie AgenturEnergie BNetzA: BundesnetzagenturBkartz: Bundeskartellama

出資

外局(送配電部門の   規制執行権の委任)

規制・監視

市場監視助言

発電

送電広域調整機関

需給調整

【法的分離】AmprionTransnetBW

【所有権分離】TenneT50Hertz

配電4大電力会社系配電会社

地域経営会社(約200社)

地方経営会社(700社)

小売4大電力会社系小売会社

小売業者

需要家

IPP/輸入

4大電力会社E.ON / RWE

EnBW / Vattenfall

出所:経済産業省 資料

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商機となるが、同じようなシステムも多くあり、競合は激しい。しかし、ネクスト社では欧州での実績を掲げ、アジアなどでの展開も視野に入れていると強気だ。

 システムを視察した日本の電力関係者によると「機器制御やモニタリングの精度は即戦力」「再生可能エネルギーの予測精度はもう一つ」など、評価はさまざま。しかし、一様に指摘するのはこの10年間で蓄積したデータの強みだ。電力会社には従来型の大規模送配電システムにおけるデータは沢山あるが、VPPに接続される規模の発電機の詳細な挙動データまでは把握できていない。一方のネクスト社にはそうした中小規模の発電設備や負荷造成用のポンプなどまで、6千基の規模で接続されている。「多様なメーカーの多様な機器について、実運用の中で得られたデータ。10年間、欧州の市場で

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「VPP」という名のIoT事業運用データの蓄積が強み Next Kraftwerke

 発足からまだ2年のディジコーに比べ、すでにエネルギーのスタートアップとしてはグローバルレベルで名を馳せているのが、Next Kraft-werke(ネクスト・クラフトヴェルケ)だ。「これまで様々な欧州市場でVPP(Virtual Power Plant、仮想発電事業)で

携わってきた。すでに集まっている膨大なデータの解析により、発電量予測や蓄電池、発電機の制御についての精度を高めている」と話すのは、社長のヘンドリック・サーミッシュ氏。会社設立から約10年、蓄積したデータ群の「厚み」に自信をみせる。

 欧州有数の研究機関であるフラウンフォーファー研究所出身の技術者らが2009年に設立。ドイツを中心にフランス、イタリアなど約10カ国でVPP事業を展開している。自らは発電設備を持たないが、現段階で約7000件、計600万キロワット分の蓄電池や発電機を集約して一元管理する。顧客側には「The Next Box(ネクストボックス)」という通信・制御装置を置き、ドイツ・ケルンにある拠点から欧州各所に点在する設備に運転指示を出す。ネクスト社は、顧客設備の特徴を勘案し、スポット市場などで電力を取引するほかプライマリー、セカンダリーなどと呼ばれる調整力市場で「発電可能容量」として売るなど、最も収益が上がる形に整え、得た利益を設備オーナーと分け合う。

 登録電源には中小規模のバイオマス発電設備や水力も多く抱えるほか、需要造成用に水道事業用の循環ポンプなどもラインアップしており、7つのTSO(送電系統運用事業者)での周波数調整業務にも参画。「VPPは本当に調整力を出せるのかという議論は欧州でもあったが、ドイツやベルギーのTSOからは、従来電源よりも調整力の質が良い、反応が早いなどの評価を得ている」(開発チームマネージャーのアレクサンダー・クラウツ氏)と胸を張る。

 ネクスト社はこれらの調整力市場や電力取引の最適化により収益を上げてきたが、ここ数年、市場に参加する電源の増加によりマーケット価格が低下してきた。そこで、事業の第3の柱として、本格的に展開を始めたのが「Nemocs」というVPPシステムの統合ソリューションの販売だ。これまでの同社の事業運営ノウハウを詰め込んだ汎用のシステムで、設備ごとの発電量のモニタリングや予測を行う。リアルタイムの設備監視や天候を踏まえた発電量予測、市場価格予測を提供するほか、再生可能エネルギーの出力制御も含めた系統運営計画の立案と需給調整などを総合的に運用し、最適化する。今後、エネルギーの分散化が世界中で進めばVPPの統合ソリューションビジネスは

Next Kraftwerke社長のサーミッシュ氏

NextBoxのデモ機

蓄積したこれらのデータは信頼性が高く、価値は高い」(国内の電力関係者)。このデータIoTビジネスの肝は「データ」と「プラットフォーム」にあるが、ネクスト社のVPP事業の核もそこにある。調整力市場を含む電力市場価格が低迷する中でも、依然としてネクスト社が多くの投資家をひきつけているのは、「データの厚み」への期待感の表れなのだろう。

 「エネルギービジネスの転換は、従来型のシステム思考ではなく、データ思考が重要」(ディジコーのマティス社長)。今、大きく動き出している電気事業におけるイノベーションも、カギはやはりデータのようだ。第2部では、スマートメーターとそのデータを巡る動きについて、英国の事例を踏まえて紹介する。

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商機となるが、同じようなシステムも多くあり、競合は激しい。しかし、ネクスト社では欧州での実績を掲げ、アジアなどでの展開も視野に入れていると強気だ。

 システムを視察した日本の電力関係者によると「機器制御やモニタリングの精度は即戦力」「再生可能エネルギーの予測精度はもう一つ」など、評価はさまざま。しかし、一様に指摘するのはこの10年間で蓄積したデータの強みだ。電力会社には従来型の大規模送配電システムにおけるデータは沢山あるが、VPPに接続される規模の発電機の詳細な挙動データまでは把握できていない。一方のネクスト社にはそうした中小規模の発電設備や負荷造成用のポンプなどまで、6千基の規模で接続されている。「多様なメーカーの多様な機器について、実運用の中で得られたデータ。10年間、欧州の市場で

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 発足からまだ2年のディジコーに比べ、すでにエネルギーのスタートアップとしてはグローバルレベルで名を馳せているのが、Next Kraft-werke(ネクスト・クラフトヴェルケ)だ。「これまで様々な欧州市場でVPP(Virtual Power Plant、仮想発電事業)で

携わってきた。すでに集まっている膨大なデータの解析により、発電量予測や蓄電池、発電機の制御についての精度を高めている」と話すのは、社長のヘンドリック・サーミッシュ氏。会社設立から約10年、蓄積したデータ群の「厚み」に自信をみせる。

 欧州有数の研究機関であるフラウンフォーファー研究所出身の技術者らが2009年に設立。ドイツを中心にフランス、イタリアなど約10カ国でVPP事業を展開している。自らは発電設備を持たないが、現段階で約7000件、計600万キロワット分の蓄電池や発電機を集約して一元管理する。顧客側には「The Next Box(ネクストボックス)」という通信・制御装置を置き、ドイツ・ケルンにある拠点から欧州各所に点在する設備に運転指示を出す。ネクスト社は、顧客設備の特徴を勘案し、スポット市場などで電力を取引するほかプライマリー、セカンダリーなどと呼ばれる調整力市場で「発電可能容量」として売るなど、最も収益が上がる形に整え、得た利益を設備オーナーと分け合う。

 登録電源には中小規模のバイオマス発電設備や水力も多く抱えるほか、需要造成用に水道事業用の循環ポンプなどもラインアップしており、7つのTSO(送電系統運用事業者)での周波数調整業務にも参画。「VPPは本当に調整力を出せるのかという議論は欧州でもあったが、ドイツやベルギーのTSOからは、従来電源よりも調整力の質が良い、反応が早いなどの評価を得ている」(開発チームマネージャーのアレクサンダー・クラウツ氏)と胸を張る。

 ネクスト社はこれらの調整力市場や電力取引の最適化により収益を上げてきたが、ここ数年、市場に参加する電源の増加によりマーケット価格が低下してきた。そこで、事業の第3の柱として、本格的に展開を始めたのが「Nemocs」というVPPシステムの統合ソリューションの販売だ。これまでの同社の事業運営ノウハウを詰め込んだ汎用のシステムで、設備ごとの発電量のモニタリングや予測を行う。リアルタイムの設備監視や天候を踏まえた発電量予測、市場価格予測を提供するほか、再生可能エネルギーの出力制御も含めた系統運営計画の立案と需給調整などを総合的に運用し、最適化する。今後、エネルギーの分散化が世界中で進めばVPPの統合ソリューションビジネスは

蓄積したこれらのデータは信頼性が高く、価値は高い」(国内の電力関係者)。このデータIoTビジネスの肝は「データ」と「プラットフォーム」にあるが、ネクスト社のVPP事業の核もそこにある。調整力市場を含む電力市場価格が低迷する中でも、依然としてネクスト社が多くの投資家をひきつけているのは、「データの厚み」への期待感の表れなのだろう。

 「エネルギービジネスの転換は、従来型のシステム思考ではなく、データ思考が重要」(ディジコーのマティス社長)。今、大きく動き出している電気事業におけるイノベーションも、カギはやはりデータのようだ。第2部では、スマートメーターとそのデータを巡る動きについて、英国の事例を踏まえて紹介する。

Next Kraftwerkeのオフィス

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第2部:電力データ活用への挑戦 ―― 英国の事例から

電力使用量データ収集と提供を集約 英DCC

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 電気事業のデジタルイノベーションを進める上で、各世帯の電力使用量データをどう活用していくかは大きなポイントになる。日本でも、経済産業省の研究会(次世代技術を活用した新たなプラットフォームのあり方研究会)を設け、活用の可能性や課題を探っている。この中でも「消費電力量を用いて人の活動が見える化できる」とし、「電気事業にとどまらず、第三者の他産業における活用ニーズが広く想定される」と指摘。例えば、宅配便の在宅傾向を分析して再配達を削減できる、飲食店やショッピングセンターなどの出店計画では住民の行動分析が精緻化できるなどの効果が見込まれている。 一方で、スマートメーターデータの活用には課題も多い。個人情報保護やセキュリティ体制の確保、競争

上の公平性の維持、データの第三者提供を行う場合の組織体制や費用負担のあり方などが挙げられており、今後の検討に注目が集まっている。

 こうした中で、英国では電力量データの集約と提供について、比較的早くから体制を整えてきた。中核となる組織がDCC(データ・コミュニケーションズ・カンパニー)で、政府が主導して2016年に設立。メーターデータの収集と提供事業を一手に担う、世界的にも珍しいモデルだ。英国ガス電力市場規制庁(Ofgem)による監視と規制の下、集約したデータを小売電気事業者や系統運用者、のほか、認可を受けた第三者などに提供している。 英国では小売事業者がメーターを設置する方式で、

自由化が進む中で顧客が供給者を切り替えるたびにメーターの取り換えやデータ収集の業務が煩雑になる問題が浮上。このため政府は、2010年頃からスマートメーター導入プログラムを開始し、スマートメータリングシステム運営会社としてDCCを設置した。傘下には通信インフラを提供する会社と、認証システムやデータ加工を行うなどのITサービスを提供する会社の2部門を置くが、基本的にこうしたインフラを提供する立場で、小売電気事業者や系統運用事業者からスマートメーターの登録数に合わせてデータ取得料金を徴収する。第三者の新規利用者からも同様のデータ取得分に課金する考え方に基づき、個別にサービス料を受け取る。

 DCCのディレクター、ジュリアン・ドット氏は「ここに集まったデータを使った新サービス、イノベーションの創出に期待している」と話す。スマートメーター自体の

数も急速に増加しているが、集まったデータに2倍、3倍と価値を膨らませていくのは電気事業以外の新たなデータ利用者だ。すでに顧客にはグーグルやアマゾンなど、データ利用の巨人もいる。DCCでは「3つの分野について調査している。ひとつはホームモニタリングで、高齢者のケアサービスなどへの展開が期待できる。2つ目は配電ネットワークの見える化など、電力設備の効率運用につながるシステムへの活用。例えば電気自動車の充電を遠隔操作するアプリの開発などはどうか」(ドット氏)。第1回で紹介した独ディジコーの配電ネットワークの見える化システムのように、ある街区内でのEV充電ピークが発生しないようプログラムを組み、無駄な投資を抑えようという取り組みは英国でも検討が進んでいる。3つめは、なんと「水」。水の消費量をスマートメーターでモニタリングすることで、農業のスマート化などに展開できるのではと期待を寄せる。

DCCは政府より”Smart Meter Communication License”を基に設立

宅内ディスプレイ

通信サービス事業者

データサービス事業者

スマート電力メーター

スマートガスメーター

スマート家電

スマートメーター主要インフラ

解析・相関ソフトウェア

基幹システム

エネルギー供給事業者

電気・ガス導管事業者

認可第三者

ArqivaTelefonica

CGI

BT

Critical Software

Capita

uSwitch

Data Communications Company npowerScottishPowerEDF Energy

SSE Enterprise TelecomsE.ON

British GasCo-op Energy

Shell Energy (旧First Utility)

エネルギー消費者 Data Communications Company (DCC) DCCサービス受益者

など

など

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顧客との接点拡大に向けたツール大手電力・ガスCentricaも模索中 顧客データを活用し競争を勝ち抜こうという戦略は、大手エネルギー事業者も当然描いている。ブリティッシュガスから変遷を遂げ、現状ではただ2つだけの英国資本のエネルギー事業者として奮闘するセントリカは、送配電事業は持たず、発電や燃料

 電気事業のデジタルイノベーションを進める上で、各世帯の電力使用量データをどう活用していくかは大きなポイントになる。日本でも、経済産業省の研究会(次世代技術を活用した新たなプラットフォームのあり方研究会)を設け、活用の可能性や課題を探っている。この中でも「消費電力量を用いて人の活動が見える化できる」とし、「電気事業にとどまらず、第三者の他産業における活用ニーズが広く想定される」と指摘。例えば、宅配便の在宅傾向を分析して再配達を削減できる、飲食店やショッピングセンターなどの出店計画では住民の行動分析が精緻化できるなどの効果が見込まれている。 一方で、スマートメーターデータの活用には課題も多い。個人情報保護やセキュリティ体制の確保、競争

上の公平性の維持、データの第三者提供を行う場合の組織体制や費用負担のあり方などが挙げられており、今後の検討に注目が集まっている。

 こうした中で、英国では電力量データの集約と提供について、比較的早くから体制を整えてきた。中核となる組織がDCC(データ・コミュニケーションズ・カンパニー)で、政府が主導して2016年に設立。メーターデータの収集と提供事業を一手に担う、世界的にも珍しいモデルだ。英国ガス電力市場規制庁(Ofgem)による監視と規制の下、集約したデータを小売電気事業者や系統運用者、のほか、認可を受けた第三者などに提供している。 英国では小売事業者がメーターを設置する方式で、

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自由化が進む中で顧客が供給者を切り替えるたびにメーターの取り換えやデータ収集の業務が煩雑になる問題が浮上。このため政府は、2010年頃からスマートメーター導入プログラムを開始し、スマートメータリングシステム運営会社としてDCCを設置した。傘下には通信インフラを提供する会社と、認証システムやデータ加工を行うなどのITサービスを提供する会社の2部門を置くが、基本的にこうしたインフラを提供する立場で、小売電気事業者や系統運用事業者からスマートメーターの登録数に合わせてデータ取得料金を徴収する。第三者の新規利用者からも同様のデータ取得分に課金する考え方に基づき、個別にサービス料を受け取る。

 DCCのディレクター、ジュリアン・ドット氏は「ここに集まったデータを使った新サービス、イノベーションの創出に期待している」と話す。スマートメーター自体の

数も急速に増加しているが、集まったデータに2倍、3倍と価値を膨らませていくのは電気事業以外の新たなデータ利用者だ。すでに顧客にはグーグルやアマゾンなど、データ利用の巨人もいる。DCCでは「3つの分野について調査している。ひとつはホームモニタリングで、高齢者のケアサービスなどへの展開が期待できる。2つ目は配電ネットワークの見える化など、電力設備の効率運用につながるシステムへの活用。例えば電気自動車の充電を遠隔操作するアプリの開発などはどうか」(ドット氏)。第1回で紹介した独ディジコーの配電ネットワークの見える化システムのように、ある街区内でのEV充電ピークが発生しないようプログラムを組み、無駄な投資を抑えようという取り組みは英国でも検討が進んでいる。3つめは、なんと「水」。水の消費量をスマートメーターでモニタリングすることで、農業のスマート化などに展開できるのではと期待を寄せる。

トレーディング、小売りを行う。 「脱炭素化」「分散化」「デジタル化」というトレンドを反映した新たな経営戦略では、IoT事業での収益拡大を打ち出した。Connected Home(コネクテッドホーム)事業では、家電の遠隔制御による快適性の創出、温度管理や省エネ制御、高齢者や子供の見守りを提案。同社が独自に開発したスマートスピーカーによる制御ユニット「Hive Hub(ハイブ・ハブ)」は、既に英国内では100万台を設置しているという。 配電系システムの部長を務めるマーク・フューチャン氏は「ハイブ・ハブの活用では、グーグルを凌駕する形になっている」と胸を張るが、スマートフォンによるエアコンの遠隔操作、ガス漏れ検知などの有料オプションは「顧客の反応が鈍い。収益化はなかなか難しい」。モノがネットで繋がって制御する経験に対して顧客が快適さを感じてくれれば、定額制Centricaの本社ビル

注目され始めたスタートアップ4社を買収し、セントリカの顧客向け統合ソリューションプラットフォームとして整備した。 「すでにそれぞれの事業が収益を上げている。今後はすべての法人顧客に、このプラットフォームを活用するよう働きかけていくつもり」(フューチャン氏)。法人向けでは、デジタル技術を活用したエネルギー効率運用サービスはすでに活況だ。顧客のニーズに応える統合サービスとしてどう育てていくか。目利き力と機動的なプラットフォーム整備がカギになる。

サービスとして安定した収益を上げられると言い、「そうした洗練されたビジネスモデルをどう構築できるかが重要」と話す。 日本でもコネクテッドホーム事業に注目が集まっているが、家電の遠隔操作や空き巣防止などのホームセキュリティ、もしくは高齢者や子供を対象にした見守りなど、サービス内容も似通っており、収益化が難しい点も同様だ。コネクテッドホーム事業でのブレイクスルーは、エネルギー業界の外側の枠組み、例えば通信や接続規格の統合、さまざまな法規制の改革などが必要なのかもしれない。

 セントリカの場合、法人向けにはソリューションプラットフォームを提供している。顧客が自社設備の電力使用量を把握したり、再生可能エネルギーやコージェネレーションの発電量や蓄電池の管理をしたり、ということが可能。欧米のエネルギー業界で

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 顧客データを活用し競争を勝ち抜こうという戦略は、大手エネルギー事業者も当然描いている。ブリティッシュガスから変遷を遂げ、現状ではただ2つだけの英国資本のエネルギー事業者として奮闘するセントリカは、送配電事業は持たず、発電や燃料

トレーディング、小売りを行う。 「脱炭素化」「分散化」「デジタル化」というトレンドを反映した新たな経営戦略では、IoT事業での収益拡大を打ち出した。Connected Home(コネクテッドホーム)事業では、家電の遠隔制御による快適性の創出、温度管理や省エネ制御、高齢者や子供の見守りを提案。同社が独自に開発したスマートスピーカーによる制御ユニット「Hive Hub(ハイブ・ハブ)」は、既に英国内では100万台を設置しているという。 配電系システムの部長を務めるマーク・フューチャン氏は「ハイブ・ハブの活用では、グーグルを凌駕する形になっている」と胸を張るが、スマートフォンによるエアコンの遠隔操作、ガス漏れ検知などの有料オプションは「顧客の反応が鈍い。収益化はなかなか難しい」。モノがネットで繋がって制御する経験に対して顧客が快適さを感じてくれれば、定額制

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Centricaのフューチャン氏

イギリス電力市場における主要なプレイヤーイギリス(イングランド・ウェールズ地方)の送電事業は、分割民営化によって所有分離され送電会社となった後、ガス導管網会社と合併し、現在は送電とガス導管事業を行う系統運用者(National Grid Electricity Transmission: NGET)となっている。

政府機関

主要事業者

【ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)】

【ガス・電力市場規制庁(Ofgem)】

【競争・市場局】

【金融行為規制機構(FCA)】

【ガス・電力市場委員会(GEMA)】

監視

規制

規制

監視

Ofgemを通じた市場の監視・規制

調査依頼調査結果

発電

送電 系統運用者(National Grid Electricity Transmission: NGET)

配電 配電会社

小売 小売会社

需要家 大口需要家

RWEnPower(独系)

E.ON UK(独系)

EDFEnergy(仏系)

ScottishPower(西系)

Scottish&

SouthemEnergy(英)

Centrica(英)

その他発電事業者

送電所有者①NGET②SPT③SHETL

協調し制作を実行

BEIS: Department for Business, Energy and Industrial StrategyGEMA: Gas and Electricity Markets AuthorityOfgem: Office of Gas and Electricity MarketsFCA: Financial Conduct Authority

注目され始めたスタートアップ4社を買収し、セントリカの顧客向け統合ソリューションプラットフォームとして整備した。 「すでにそれぞれの事業が収益を上げている。今後はすべての法人顧客に、このプラットフォームを活用するよう働きかけていくつもり」(フューチャン氏)。法人向けでは、デジタル技術を活用したエネルギー効率運用サービスはすでに活況だ。顧客のニーズに応える統合サービスとしてどう育てていくか。目利き力と機動的なプラットフォーム整備がカギになる。

サービスとして安定した収益を上げられると言い、「そうした洗練されたビジネスモデルをどう構築できるかが重要」と話す。 日本でもコネクテッドホーム事業に注目が集まっているが、家電の遠隔操作や空き巣防止などのホームセキュリティ、もしくは高齢者や子供を対象にした見守りなど、サービス内容も似通っており、収益化が難しい点も同様だ。コネクテッドホーム事業でのブレイクスルーは、エネルギー業界の外側の枠組み、例えば通信や接続規格の統合、さまざまな法規制の改革などが必要なのかもしれない。

 セントリカの場合、法人向けにはソリューションプラットフォームを提供している。顧客が自社設備の電力使用量を把握したり、再生可能エネルギーやコージェネレーションの発電量や蓄電池の管理をしたり、ということが可能。欧米のエネルギー業界で

出所:経済産業省 資料

Page 10: ata- Driven Innovation...ata- Driven Innovation 欧州エネルギービジネスの新潮流 D 2011年にドイツが国を挙げて提唱した「インダストリー4.0」。スマートファクトリーやIoTなどを打ち

IoT時代のエネルギー半導体とクラウドの両輪で安全を守る Arm

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 「顧客側」「事業者側」などを問わず、多様な電力機器がネットでつながり、リアルタイムで管理や制御を行うIoTのビジネスモデルが電力・エネルギー業界にも浸透しつつある。VPP(仮想発電事業)の発電所のほか、将来的には電気自動車(EV)なども含まれれば、電力系統に接続する機器の数は膨大になる。それぞれの機器の稼働データを蓄積するデバイス、また家庭用の電力メーターも急速にスマートメーターに切り替えが進んでおり、電力供給基盤におけるデジタル端末の数はこれから飛躍的に拡大する見通しだ。  電力系統は従来、インターネットから独立した通信システムを構築しシステム全体でサイバーセキュリティを担保してきたが、電力の分散運用の仕組みの拡大、また電力データを活用する新ビジネス創出機運の高まりによって、インターネット空間との融合にも踏み込まざるを得ない状況を迎えている。そうした中で、「半導体の設計段階から、安全性を確保する多様な機能を付加していく発想を」と呼びかけるのは、英のArm(アーム)社だ。 科学・工学系分野では古くから世界に冠たる実績を持つ英ケンブリッジ大に程近い場所にある本社は同

社の頭脳だが、全社的にハードウエアの製造設備は持たない。現在はソフトバンクグループの傘下にあり、スマートフォンなど、モバイル機器に組み込む半導体のベース設計では圧倒的な世界シェアを持つ。半導体の基盤設計やプログラミングツールの提供を行うが、自動車の電動化技術にも多くのアームの車載向け半導体IP(設計資産)が採用されており、他産業で蓄積した知見を電力・エネルギー業界にも活かせるとみている。そ

の同社が新たに立ち上げた事業がIoT向けのクラウドサービスだ。 「電力事業がIoT化し、機器やセンサー、メーターとさまざまな種類のデバイスが大量に繋がる時代。私たちの技術が、利便性と安全性の両立のためにどう使ってもらえるかを一緒に考えたい」と話すのは、同社IoTサービスグループでユーティリティセクター担当部長を務めるトーマス・ハブス氏。電力機器のなかでも、技術導入の呼びかけに力を入れているのが、スマートメーターだ。

 世界中で約20億台が設置されているといわれる電力のメーターだが、このうち通信が接続されているメーターは約2億台にすぎない。残り18億台のうち、およそ5億台が中国。おそらく「独自路線」を歩むと見られ、市場のターゲットとなるのは13億台。このうちインドに3億台の需要があるとみられている。欧州でみても、ドイツでは2017年時点でアナログの電力量計が85%を占め、スマートメーターの導入はこれから本格化する。英国も同様に電力・ガスのメーターが計5300万台あるが、現状でスマート化されたメーターは5%未満で、今後は1日当たり数千台単位で導入が進むと試算されている。

IoT時代の電力事業について語るArmのハブス氏、左が春田氏

 現在のスマートメーターはいわば第一世代で、通信機能を付与したシンプルな設計とし、低コスト化を志向してきた。今後の第二世代では国際標準化の流れもあり、電力の使用量を集めて送るだけでなく、コネクテッドホーム事業への入り口機能を担う可能性が高まっている。ここでは人工知能(AI)の活用が検討課題になっており、AIが加わるとメーターによる家電の性能分析なども可能になり、メーター側から省エネルギー化や効率活用の提案が行うことができる。 「スマートメーターには今後、ある程度のインテリジェンスさが求められる」。アームでIoTサービスグループの日本担当事業開発ディレクターを務める春田篤志氏はこう話す。「コネクテッドホームの入り口として設置され、さまざまな家電機器と接続されてもセキュリティを確保し、日常のデータを暗号化して収集する。電力供給のスイッチングがあっても安全に再設定ができ、年数経過で交換、廃棄に至ったときにも安全に機能を失効させる。スマートメーターを、その製造から実地配備、運用、撤去まで、ライフサイクルを通してセキュアに管理する技術基盤をクラウドサービスとして提供したい」

 アームがスマートメーターの安全性確保に関わる強みは、製品の中身の半導体に設計時点で『指紋』を残し、それを鍵として機能させることができる点にあるという。その鍵を用いることで「スマートメーターが内蔵するソフトウエアをネットワーク越しに遠隔から更新できる。機能をアップデートできるので新製品に交換する

必要がなくなり、セキュリティ対策も攻撃に応じて追加導入できる」(ハブス氏)。産業デバイスの市場サイクルへの対応で蓄積した技術だが、「グーグルやアップルが見ているセキュリティはパソコンやモバイル機器が安全対策の終点だが、アームは半導体チップのレベルが最終ポイント」(春田氏)。ホワイトラベルのスマートメーターを共同で開発し、出荷時は汎用品だが、顧客につなぐ時点で事業者設定をする仕組みも考えられるので、国内でも第二世代のメーター移行を踏まえ、今後本格的に検討される可能性もある。 また、こうした半導体レベルでの安全管理の確実性が実証されれば、電力系統に接続する機器が増えてもクラウド上で安全に管理することが可能。スマートメーターを含む産業デバイス向けにクラウドサービスとして立ち上げた同社のIoTプラットフォームでは、発電設備のモニタリングやリアルタイムデータの蓄電池も連携すれば、スマートメーターを核にVPP事業にも対応できるとしている。アームは2018年度に韓国電力と提携、クラウドで安全にデータを管理する半導体IPの提供を含めたコネクテッドホームに関する統合サービスを開始しており、今後の動向も注目を集めそうだ。

エネルギー業界のIoTは、他の産業のIoT化とも大きく関わっている。金融、製造業、モビリティ…。第3部はこれらの業界の動きを踏まえ、エネルギービジネスの転換をリードする事業者たちの戦略を紹介する。

Page 11: ata- Driven Innovation...ata- Driven Innovation 欧州エネルギービジネスの新潮流 D 2011年にドイツが国を挙げて提唱した「インダストリー4.0」。スマートファクトリーやIoTなどを打ち

 「顧客側」「事業者側」などを問わず、多様な電力機器がネットでつながり、リアルタイムで管理や制御を行うIoTのビジネスモデルが電力・エネルギー業界にも浸透しつつある。VPP(仮想発電事業)の発電所のほか、将来的には電気自動車(EV)なども含まれれば、電力系統に接続する機器の数は膨大になる。それぞれの機器の稼働データを蓄積するデバイス、また家庭用の電力メーターも急速にスマートメーターに切り替えが進んでおり、電力供給基盤におけるデジタル端末の数はこれから飛躍的に拡大する見通しだ。  電力系統は従来、インターネットから独立した通信システムを構築しシステム全体でサイバーセキュリティを担保してきたが、電力の分散運用の仕組みの拡大、また電力データを活用する新ビジネス創出機運の高まりによって、インターネット空間との融合にも踏み込まざるを得ない状況を迎えている。そうした中で、「半導体の設計段階から、安全性を確保する多様な機能を付加していく発想を」と呼びかけるのは、英のArm(アーム)社だ。 科学・工学系分野では古くから世界に冠たる実績を持つ英ケンブリッジ大に程近い場所にある本社は同

社の頭脳だが、全社的にハードウエアの製造設備は持たない。現在はソフトバンクグループの傘下にあり、スマートフォンなど、モバイル機器に組み込む半導体のベース設計では圧倒的な世界シェアを持つ。半導体の基盤設計やプログラミングツールの提供を行うが、自動車の電動化技術にも多くのアームの車載向け半導体IP(設計資産)が採用されており、他産業で蓄積した知見を電力・エネルギー業界にも活かせるとみている。そ

の同社が新たに立ち上げた事業がIoT向けのクラウドサービスだ。 「電力事業がIoT化し、機器やセンサー、メーターとさまざまな種類のデバイスが大量に繋がる時代。私たちの技術が、利便性と安全性の両立のためにどう使ってもらえるかを一緒に考えたい」と話すのは、同社IoTサービスグループでユーティリティセクター担当部長を務めるトーマス・ハブス氏。電力機器のなかでも、技術導入の呼びかけに力を入れているのが、スマートメーターだ。

 世界中で約20億台が設置されているといわれる電力のメーターだが、このうち通信が接続されているメーターは約2億台にすぎない。残り18億台のうち、およそ5億台が中国。おそらく「独自路線」を歩むと見られ、市場のターゲットとなるのは13億台。このうちインドに3億台の需要があるとみられている。欧州でみても、ドイツでは2017年時点でアナログの電力量計が85%を占め、スマートメーターの導入はこれから本格化する。英国も同様に電力・ガスのメーターが計5300万台あるが、現状でスマート化されたメーターは5%未満で、今後は1日当たり数千台単位で導入が進むと試算されている。

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 現在のスマートメーターはいわば第一世代で、通信機能を付与したシンプルな設計とし、低コスト化を志向してきた。今後の第二世代では国際標準化の流れもあり、電力の使用量を集めて送るだけでなく、コネクテッドホーム事業への入り口機能を担う可能性が高まっている。ここでは人工知能(AI)の活用が検討課題になっており、AIが加わるとメーターによる家電の性能分析なども可能になり、メーター側から省エネルギー化や効率活用の提案が行うことができる。 「スマートメーターには今後、ある程度のインテリジェンスさが求められる」。アームでIoTサービスグループの日本担当事業開発ディレクターを務める春田篤志氏はこう話す。「コネクテッドホームの入り口として設置され、さまざまな家電機器と接続されてもセキュリティを確保し、日常のデータを暗号化して収集する。電力供給のスイッチングがあっても安全に再設定ができ、年数経過で交換、廃棄に至ったときにも安全に機能を失効させる。スマートメーターを、その製造から実地配備、運用、撤去まで、ライフサイクルを通してセキュアに管理する技術基盤をクラウドサービスとして提供したい」

 アームがスマートメーターの安全性確保に関わる強みは、製品の中身の半導体に設計時点で『指紋』を残し、それを鍵として機能させることができる点にあるという。その鍵を用いることで「スマートメーターが内蔵するソフトウエアをネットワーク越しに遠隔から更新できる。機能をアップデートできるので新製品に交換する

必要がなくなり、セキュリティ対策も攻撃に応じて追加導入できる」(ハブス氏)。産業デバイスの市場サイクルへの対応で蓄積した技術だが、「グーグルやアップルが見ているセキュリティはパソコンやモバイル機器が安全対策の終点だが、アームは半導体チップのレベルが最終ポイント」(春田氏)。ホワイトラベルのスマートメーターを共同で開発し、出荷時は汎用品だが、顧客につなぐ時点で事業者設定をする仕組みも考えられるので、国内でも第二世代のメーター移行を踏まえ、今後本格的に検討される可能性もある。 また、こうした半導体レベルでの安全管理の確実性が実証されれば、電力系統に接続する機器が増えてもクラウド上で安全に管理することが可能。スマートメーターを含む産業デバイス向けにクラウドサービスとして立ち上げた同社のIoTプラットフォームでは、発電設備のモニタリングやリアルタイムデータの蓄電池も連携すれば、スマートメーターを核にVPP事業にも対応できるとしている。アームは2018年度に韓国電力と提携、クラウドで安全にデータを管理する半導体IPの提供を含めたコネクテッドホームに関する統合サービスを開始しており、今後の動向も注目を集めそうだ。

エネルギー業界のIoTは、他の産業のIoT化とも大きく関わっている。金融、製造業、モビリティ…。第3部はこれらの業界の動きを踏まえ、エネルギービジネスの転換をリードする事業者たちの戦略を紹介する。

Arm社は同社のIoTプラットフォーム「Pelion」のデバイス管理サービスを韓国電力公社(KEPCO)に提供している。出所:Arm社

アジア最大級の電力/ユーティリティ・プロバイダーニーズ:3,000万個のAMI(スマートメーター)を配備する必要がある。「電力会社」から「エネルギープラットフォームとサービス」を提供する企業に進化したいと考えている。

ソリューション:Pelionデバイス管理サービスをオンプレミス環境に導入。Wi-Sun接続のMbed OS搭載スマートメーターをPelion Edge Gatewayを介してオンボーディング、管理、アップデート。

結果:開発のトータルコストを削減しつつ、市場導入までの期間を短縮し、効率とセキュリティも高めた。実地配備されたメーターをフルコントロールできるようになり、メーターとユーザーに関するデータをユーザーやパートナーとセキュアに共有することが可能に。

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第3部:「インフラ」革新とエネルギー産業 学びか、競合か

ブロックチェーンはエネ取引基盤となるか国際規格組織 EWF

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 複数の電源をIoT技術でネットワーク制御し、ある一定の規模でバランスさせるのがVPP事業だが、その中央で仲介役をするアグリゲーターもいなくなり、「お隣同士」などで、余った電気を売り買いする最小の取引モデルが「P2P」(peer to peer)。こうした最小単位でのエネルギー取引を実現するプラットフォームとして、ブロックチェーンを活用する取り組みも動き出している。 ベルリンに拠点を置く国際組織のEWF(エナジー・ウェブ・ファウンデーション)は、米国のロッキーマウンテン研究所とブロックチェーンの開発事業者であるグリッドシンギュラリティが設立した団体。エネルギーとブロックチェーンの融合が研究テーマで、世界のエネルギー関連企業やスタートアップ企業などおよそ100社が加盟し、日本からも、東京電力ホールディングスと中部電力が参加している。

 ブロックチェーンは、分散型台帳とも呼ばれる。電子的に集約したデータの単位をブロックと考え、前後のデータブロックの中に重なる情報を鎖のように連結していく仕組み。データを一部分だけ改ざんすることが理論上できないため、取引情報の信頼性が高いとされる。ビットコインで話題になった技術で、いくつかの技術アプローチ手法があるが、EWFではプラットフォームとしてイーサリアムを採用している。 既存の電力システムにおいて、商用ベー

スでブロックチェーンを活用するには規制や既存の法体系などとの整合が必要で、いまだ課題は多い。事業開発部門長のオリオル・プジョルデバル氏は、「まずEWFが仮想プラットフォームを構築した。これを使って、さまざまな課題の抽出と技術開発や利害調整などを参加企業と一緒に解決する形で進めていきたい」と話す。最終的には「エネルギーフローとキャッシュフローを、ひとつのシステムとして調整、管理できる」(同)ことをめざすが、まずは環境価値の証書取引に関する検証を行うとしている。

 エルベ・トワティ最高経営責任者(CEO)は、ブロックチェーンを使って100万件以上の家庭がそれぞれ電力を自由に取引することができる将来像が描けると意気込む。米国ではLO3Energyというスタートアップが数年前からニューヨークで小規模の分散型系統で実証を行っており、ドイツのTSO,TenneT(テネット)も、蓄電池事業のスタートアップSonnen(ゾネン)・IBMと共同で、ブロックチェーンと住宅用蓄電池を活用した系統安定化実証試験を実施。家庭用蓄電池の充放電の記録は、IBMが運用するプライベートブロックチェーン上において管理されていると発表している。 そうした中でも、ブロックチェーンは「現実の世界との折り合いが難しいのでは」と見る識者は多い。同時同量を堅持することが前提の電力を扱うにはスピードがネックになるとの指摘もあり、「電力分野ではあまり意味があると思えない。ファッションではないか」と手厳しい技術者もいる。エネルギー取引とブロックチェーンの調和については、現状ではいまだ課題が多いようだ。にもかかわらず、EWFにはシェルやシーメンス、GEなどの名だたる企業のほか、エクセロン、エンジー、E.ON など主だった欧米の電力会社や、TSO、

DSOも参画している。 EWFの経営陣には、エネルギー事業出身だけでなく、金融、通信、研究機関などから集まった多彩な人材が顔をそろえる。トワティCEOは、「EWFのエコシステムの中心には投資家がおり、私たちは彼らに対し、ブロックチェーン技術によって市場で何が起こるかの見通しを提供すると同時に、参画しているスタートアップへの投資機会を常に提供している。これは事業会社にも同様の対応をしている」と話す。 何かのきっかけで革新が起これば影響はエネルギー業界だけでなく、世界の仕組み

を塗り変える可能性も秘めるブロックチェーン。変革に乗り遅れまいという緊張感が、ずらりと並ぶ参加企業のロゴから伝わってくるようだ。

EWFのエントランス

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 複数の電源をIoT技術でネットワーク制御し、ある一定の規模でバランスさせるのがVPP事業だが、その中央で仲介役をするアグリゲーターもいなくなり、「お隣同士」などで、余った電気を売り買いする最小の取引モデルが「P2P」(peer to peer)。こうした最小単位でのエネルギー取引を実現するプラットフォームとして、ブロックチェーンを活用する取り組みも動き出している。 ベルリンに拠点を置く国際組織のEWF(エナジー・ウェブ・ファウンデーション)は、米国のロッキーマウンテン研究所とブロックチェーンの開発事業者であるグリッドシンギュラリティが設立した団体。エネルギーとブロックチェーンの融合が研究テーマで、世界のエネルギー関連企業やスタートアップ企業などおよそ100社が加盟し、日本からも、東京電力ホールディングスと中部電力が参加している。

 ブロックチェーンは、分散型台帳とも呼ばれる。電子的に集約したデータの単位をブロックと考え、前後のデータブロックの中に重なる情報を鎖のように連結していく仕組み。データを一部分だけ改ざんすることが理論上できないため、取引情報の信頼性が高いとされる。ビットコインで話題になった技術で、いくつかの技術アプローチ手法があるが、EWFではプラットフォームとしてイーサリアムを採用している。 既存の電力システムにおいて、商用ベー

スでブロックチェーンを活用するには規制や既存の法体系などとの整合が必要で、いまだ課題は多い。事業開発部門長のオリオル・プジョルデバル氏は、「まずEWFが仮想プラットフォームを構築した。これを使って、さまざまな課題の抽出と技術開発や利害調整などを参加企業と一緒に解決する形で進めていきたい」と話す。最終的には「エネルギーフローとキャッシュフローを、ひとつのシステムとして調整、管理できる」(同)ことをめざすが、まずは環境価値の証書取引に関する検証を行うとしている。

 エルベ・トワティ最高経営責任者(CEO)は、ブロックチェーンを使って100万件以上の家庭がそれぞれ電力を自由に取引することができる将来像が描けると意気込む。米国ではLO3Energyというスタートアップが数年前からニューヨークで小規模の分散型系統で実証を行っており、ドイツのTSO,TenneT(テネット)も、蓄電池事業のスタートアップSonnen(ゾネン)・IBMと共同で、ブロックチェーンと住宅用蓄電池を活用した系統安定化実証試験を実施。家庭用蓄電池の充放電の記録は、IBMが運用するプライベートブロックチェーン上において管理されていると発表している。 そうした中でも、ブロックチェーンは「現実の世界との折り合いが難しいのでは」と見る識者は多い。同時同量を堅持することが前提の電力を扱うにはスピードがネックになるとの指摘もあり、「電力分野ではあまり意味があると思えない。ファッションではないか」と手厳しい技術者もいる。エネルギー取引とブロックチェーンの調和については、現状ではいまだ課題が多いようだ。にもかかわらず、EWFにはシェルやシーメンス、GEなどの名だたる企業のほか、エクセロン、エンジー、E.ON など主だった欧米の電力会社や、TSO、

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DSOも参画している。 EWFの経営陣には、エネルギー事業出身だけでなく、金融、通信、研究機関などから集まった多彩な人材が顔をそろえる。トワティCEOは、「EWFのエコシステムの中心には投資家がおり、私たちは彼らに対し、ブロックチェーン技術によって市場で何が起こるかの見通しを提供すると同時に、参画しているスタートアップへの投資機会を常に提供している。これは事業会社にも同様の対応をしている」と話す。 何かのきっかけで革新が起これば影響はエネルギー業界だけでなく、世界の仕組み

を塗り変える可能性も秘めるブロックチェーン。変革に乗り遅れまいという緊張感が、ずらりと並ぶ参加企業のロゴから伝わってくるようだ。

自動運転レベルの競争インフラ産業を巻き込み強み発揮 BOSCH 高度にデジタル化された金融・商品取引のプラットフォームは、社会を維持する重要なインフラ。同様に、大きなイノベーションが起これば、経済活動や社会に派生する影響の大きさでインパクトを持つのが自動車や電車などの移動体産業だ。「MaaS(Mobility as a Service)」、つまり「移動というサービス」を顧客に提供するという概念の下、データを活用した移動する

手段やサービにかつてない革命が起きているといわれている。

 自動車の電動化が進む中で技術を積み上げてきたドイツのBOSCH(ボッシュ)も、MaaS革命の有力プレーヤーとして注目を集めている企業のひとつだ。日本では電動工具メーカーなどのイメージもあるが、車

のセンサー技術を応用した多用なIoTビジネスの展開を志向している。特に自動運転技術については、世界でも先端のレベルにあり、ダイムラー社と完全自動運転(ドライバーがいない状態での運転)についての技術開発・研究を共同で行っている。 2017年からシュツットガルトのメルセデス・ベンツ博物館の地下駐車場で行っている公開実験では、一般の来場者の車が行き交う中、センサーを搭載した自動運転車が指示通りの場所に移動する。高級ホテルの玄関で車を止め、ベルスタッフに鍵をあずけて駐車場に移動してもらうサービスがあるが、ボッシュのシステムではこれをス

マートフォンのアプリを使って自分で移動させる仕組みだ。移動速度はゆっくりで、突然現れた歩行者やルール違反の動きをする車に反応し、しばしば停車するので時間はかかるが、完全にドライバーの手を必要としない状況で車が動く。駐車場内部に設置された多くのセンサーと通信技術はボッシュが開発。ダイムラーとボッシュは今後、システム全体でのインターフェースを整合していくため、公開実験から多くのデータを採るとしている。

 自動運転では、グーグルなどが主導して進めているデジタル地図とのオンデマンド連係で車を動かす手法が優勢で、自動運転レベルもリードしている。米シリコンバレー周辺の実証はオンデマンド型が多く、実際、ボッシュも2018年からサンノゼでオンデマンドのライドシェアサービスの試験も行っている。 周辺環境にセンサーを配置して通信・制御する手法を開発していく意義は、と聞くと「私たちは自動車部品

メーカーなので、車本体に多くの装置を載せたくない。(車そのものの)コストアップに繋がる手法は避けたい。また、周辺環境から車を動かすほうが良い場所もあり、どちらかに偏るというタイミングではないとみている」(コネクテッドパーキングサービス部門の副代表、ロルフ・ニコデマス氏)。 自動運転によって生じるコストアップを、車の購入者側への負担とするか、社会的な仕組みとして整備していくかという考え方の違いであり、それは自動運転によって生まれる膨大なデータを誰が使うかということにも当然繋がってくるだろう。センサーを外部に設けて車を制御する仕組みが搭載されれば、信号機の柱や電柱、配電用変電所などの社会インフラ設備は、センサーを設置する有力な候補。こうした場所から車を制御する信号が出せれば、歩道への暴走事故なども防げるかもしれない。ボッシュとしても「今後は多くの協力者が必要」としており、通信や電力といったインフラ事業者にも秋波を送る。

BOSCHによる自動運転の実証試験のようす

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 高度にデジタル化された金融・商品取引のプラットフォームは、社会を維持する重要なインフラ。同様に、大きなイノベーションが起これば、経済活動や社会に派生する影響の大きさでインパクトを持つのが自動車や電車などの移動体産業だ。「MaaS(Mobility as a Service)」、つまり「移動というサービス」を顧客に提供するという概念の下、データを活用した移動する

手段やサービにかつてない革命が起きているといわれている。

 自動車の電動化が進む中で技術を積み上げてきたドイツのBOSCH(ボッシュ)も、MaaS革命の有力プレーヤーとして注目を集めている企業のひとつだ。日本では電動工具メーカーなどのイメージもあるが、車

のセンサー技術を応用した多用なIoTビジネスの展開を志向している。特に自動運転技術については、世界でも先端のレベルにあり、ダイムラー社と完全自動運転(ドライバーがいない状態での運転)についての技術開発・研究を共同で行っている。 2017年からシュツットガルトのメルセデス・ベンツ博物館の地下駐車場で行っている公開実験では、一般の来場者の車が行き交う中、センサーを搭載した自動運転車が指示通りの場所に移動する。高級ホテルの玄関で車を止め、ベルスタッフに鍵をあずけて駐車場に移動してもらうサービスがあるが、ボッシュのシステムではこれをス

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マートフォンのアプリを使って自分で移動させる仕組みだ。移動速度はゆっくりで、突然現れた歩行者やルール違反の動きをする車に反応し、しばしば停車するので時間はかかるが、完全にドライバーの手を必要としない状況で車が動く。駐車場内部に設置された多くのセンサーと通信技術はボッシュが開発。ダイムラーとボッシュは今後、システム全体でのインターフェースを整合していくため、公開実験から多くのデータを採るとしている。

 自動運転では、グーグルなどが主導して進めているデジタル地図とのオンデマンド連係で車を動かす手法が優勢で、自動運転レベルもリードしている。米シリコンバレー周辺の実証はオンデマンド型が多く、実際、ボッシュも2018年からサンノゼでオンデマンドのライドシェアサービスの試験も行っている。 周辺環境にセンサーを配置して通信・制御する手法を開発していく意義は、と聞くと「私たちは自動車部品

メーカーなので、車本体に多くの装置を載せたくない。(車そのものの)コストアップに繋がる手法は避けたい。また、周辺環境から車を動かすほうが良い場所もあり、どちらかに偏るというタイミングではないとみている」(コネクテッドパーキングサービス部門の副代表、ロルフ・ニコデマス氏)。 自動運転によって生じるコストアップを、車の購入者側への負担とするか、社会的な仕組みとして整備していくかという考え方の違いであり、それは自動運転によって生まれる膨大なデータを誰が使うかということにも当然繋がってくるだろう。センサーを外部に設けて車を制御する仕組みが搭載されれば、信号機の柱や電柱、配電用変電所などの社会インフラ設備は、センサーを設置する有力な候補。こうした場所から車を制御する信号が出せれば、歩道への暴走事故なども防げるかもしれない。ボッシュとしても「今後は多くの協力者が必要」としており、通信や電力といったインフラ事業者にも秋波を送る。

SAPのマイヤー・ゼネラルマネージャー

さらに広がるデータビジネス社会と業界の構造変化を見せる SAP 2011年にドイツが提唱した工場のスマート化などの概念を織り込んだ「インダストリー4.0」。デジタル化をテコに工場自動化などによる生産効率の飛躍的向上を遂げたが、デジタル技術の発展は事業セクターのかたちや仕事の仕組みまで大きく変えつつある。 ドイツのヴァルドルフに拠点を置く欧州最大級のソフトウエア開発会社、SAPは、ERP(基幹業務システム)を中心とした事業を展開。世界規模で多くの電気事業者を顧客としており、エネルギーを重要なセクターのひとつと位置づける。日本の電力会社向けにも会計管理や人事労務系、工事量や資産・設備の管理、料金計算、コールセンターシステム運営まで、幅広い分野をカバーし、システムを提供してきた。 「電力業界は大きく変わっている。再生可能エネルギーと電力貯蔵の増加、デジタル化などで、事業体制も分散化が進む。システムの整備についても、例えば

営業であれば、これまでは料金計算とメーターの管理を中心にしてきたが、これからはマーケティングやセールスといった顧客へのサービスを軸に据えたシステムとなっていくだろう」。電力を含む産業インフラ全般を担当するゼネラルマネージャーのピーター・マイヤー氏は、こう強調する。従来の料金収納システムでも、顧客の家族構成や電力量データを分析することにより、それぞれの顧客にとって適切な料金メニューに加

え、ニーズに合った家電製品などの提案も可能になるという。 電力会社が持つ膨大な設備の管理についても、システムの進化が作業効率や安全面で貢献する役割は大きい。予兆監視や健全性の把握について、設備を監視する事業者と連携していくことで資産管理と保守・事故情報をつなぎ、電力系統ごとの不具合発生率と経年化の状況をよりきめ細かく分析しながら更新計画の立案を進めていくことができる。より多くの情報を設備関係者で素早く水平展開していくことで、安全な作業環境を整えていくこともスムーズに進むという。

 SAPの本社にあるPR施設では、仮想の街「SAP Immersive Experience」では、その中に訪れたゲストが未来の事業イメージを疑似体験できる。部屋に入ると、上下左右すべての面に映像が映り、仮想都市で生活する主人公がどのような未来の生活をしているかをその場に居るようにして体験する。流れる映像のシナリオは1000以上。エネルギー関係では電気自動車や太陽光発電などが頻繁に出てくるのはもちろん、設備の保守に関してはデータ解析技術を活用した余寿命診断、適切な部品交換時期の提案例などの詳細も紹介する。主人公の目を通して描かれる産業、生活

の変化を楽しんでイメージすることができる。 システムという技術は目で見たり、手にとったりすることはできないが、むしろ、対象の事業セクターの先行きを見通し、その流れに対応する仕事の形を提案していく商品。仮想の街が見せる未来のシナリオにはもはや、「電気事業」「自動車産業」「金融業」というような事業セクターの区分は見えにくい。そこに描かれているのは、中心にユーザー(顧客)がいて、生活や社会の利便性を高めるためのデジタル変革が多くの業際を破壊し、その中を大量のデータが飛び交う世界だ。

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 2011年にドイツが提唱した工場のスマート化などの概念を織り込んだ「インダストリー4.0」。デジタル化をテコに工場自動化などによる生産効率の飛躍的向上を遂げたが、デジタル技術の発展は事業セクターのかたちや仕事の仕組みまで大きく変えつつある。 ドイツのヴァルドルフに拠点を置く欧州最大級のソフトウエア開発会社、SAPは、ERP(基幹業務システム)を中心とした事業を展開。世界規模で多くの電気事業者を顧客としており、エネルギーを重要なセクターのひとつと位置づける。日本の電力会社向けにも会計管理や人事労務系、工事量や資産・設備の管理、料金計算、コールセンターシステム運営まで、幅広い分野をカバーし、システムを提供してきた。 「電力業界は大きく変わっている。再生可能エネルギーと電力貯蔵の増加、デジタル化などで、事業体制も分散化が進む。システムの整備についても、例えば

営業であれば、これまでは料金計算とメーターの管理を中心にしてきたが、これからはマーケティングやセールスといった顧客へのサービスを軸に据えたシステムとなっていくだろう」。電力を含む産業インフラ全般を担当するゼネラルマネージャーのピーター・マイヤー氏は、こう強調する。従来の料金収納システムでも、顧客の家族構成や電力量データを分析することにより、それぞれの顧客にとって適切な料金メニューに加

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え、ニーズに合った家電製品などの提案も可能になるという。 電力会社が持つ膨大な設備の管理についても、システムの進化が作業効率や安全面で貢献する役割は大きい。予兆監視や健全性の把握について、設備を監視する事業者と連携していくことで資産管理と保守・事故情報をつなぎ、電力系統ごとの不具合発生率と経年化の状況をよりきめ細かく分析しながら更新計画の立案を進めていくことができる。より多くの情報を設備関係者で素早く水平展開していくことで、安全な作業環境を整えていくこともスムーズに進むという。

 SAPの本社にあるPR施設では、仮想の街「SAP Immersive Experience」では、その中に訪れたゲストが未来の事業イメージを疑似体験できる。部屋に入ると、上下左右すべての面に映像が映り、仮想都市で生活する主人公がどのような未来の生活をしているかをその場に居るようにして体験する。流れる映像のシナリオは1000以上。エネルギー関係では電気自動車や太陽光発電などが頻繁に出てくるのはもちろん、設備の保守に関してはデータ解析技術を活用した余寿命診断、適切な部品交換時期の提案例などの詳細も紹介する。主人公の目を通して描かれる産業、生活

の変化を楽しんでイメージすることができる。 システムという技術は目で見たり、手にとったりすることはできないが、むしろ、対象の事業セクターの先行きを見通し、その流れに対応する仕事の形を提案していく商品。仮想の街が見せる未来のシナリオにはもはや、「電気事業」「自動車産業」「金融業」というような事業セクターの区分は見えにくい。そこに描かれているのは、中心にユーザー(顧客)がいて、生活や社会の利便性を高めるためのデジタル変革が多くの業際を破壊し、その中を大量のデータが飛び交う世界だ。

SAPが本社のPR施設に設けた仮想の街「SAP Immersive Experience」のデモンストレーション

 デジタル化による変革はあらゆる産業で起きている。ただ、アマゾンやウーバーなどのような、社会の仕組みを劇的に変えるブレイクスルーと呼べるイノベーションの数は、そう多くない。特に現状の電力業界においては、再生可能エネルギーや蓄電池などの分散型電源に関連する技術革新インパクトが強く、ここに起因する変革への対応と収益性の向上・効率化が先行しているのが実態かもしれない。欧州の電力事業者たちからも、イノベーションにどう対応していくべきか、焦りとも聞こえる言葉も時折聞かれたが、改めて顧客を中心に据えた事業への再構築を志向し、絶えずマーケティングを続けようとしている。エネルギー企業同士の競争に留まらず、他の業界から学び、業際を超えた大競争に挑もうとする姿から、学ぶものは多い。

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