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COM Express Type6 規格に対応した システム オン モジュール「AM120 モデル 210H」COM Express Type 6 Compliant System-On-Module AM120 model 210H

中川幾夫 *Ikuo Nakagawa

沼田祐志 *Yuuji Numata

* ProDeSグループ　エンベデッドプロダクト事業部　コアプロダクト開発部

1 まえがき

システム オン モジュールは，組込み用に開発した

COM Express 規格注１）準拠の小型 CPU モジュールで

あり，PFU は，COM Express 規格モジュール製品

の累計出荷台数が 35 万台を超え，国内シェア No.1注２）

の販売実績を築いている参１），参２）．

このたび，高性能と低消費電力を特長とする「第

3 世代インテル ®Core™注３）プロセッサ」を搭載した

COM Express Type6 準拠の新モデル「AM120 モ

デル 210H」（以降，本製品）を製品ラインナップに追

加した．

本稿では，本製品の仕様を紹介した上で，本製品に活

用されている技術について解説する．

注１）COM Expressは，PICMGが制定した次世代COM（Computer On Module）の標準規格で PCI Express やシリアル ATA 等の新しいテクノロジーを採用したものである．

注２）COM Express 規格準拠製品の国内シェア No.1：株式会社富士経済「エンベデッドシステムマーケット 2009」による．

注３）インテル，インテル Core は，米国およびその他の国における Intel Corporation の商標である．

PFU のシステム オン モジュールは，COM Express 規格準拠の小型 CPU モジュールである．このたび，

COM Express 規格に追加された COM Express Type6 に準拠する新モデル「AM120 モデル 210H」を開

発した．

PFU's System-On-Module is a COM Express compliant small CPU module. PFU has

developed a new model "AM120 model 210H", which is compliant with COM Express Type 6,

the new COM Express standard.

2 開発の狙い

COM Express は PICMG注４）が制定した COM

（Computer On Module）の標準規格である．制定

当初の COM.0 Rev 1.0 では，コネクタ信号定義とし

て，Type1 から Type5 までの 5 種類の Type が定義

されていたが，現在の COM.0 Rev 2.0 では，新たに

Type6 と Type10 の 2 種類が追加された．

中でも Type6 はインターフェースの高速シリアル化

に対応した規格で，従来の主流だったパラレルインター

フェースである PCI バスや IDE インターフェースの

サポートを廃止し，シリアルインターフェースである

PCI Express ポートの増設，USB3.0 インターフェー

スの追加，デジタルディスプレイインターフェースの追

加などを行っている．

これまで PFU が開発したシステム オン モジュール

は，COM Express 規格の Type2 に準拠していた．

しかし，I/O の高速化に伴い PCI Express の普及が進

んでいること，画像表示デバイスのインターフェース

注４）PICMG（PCI Industrial Computer Manufactures Group）

は，高性能テレコミュニケーションと産業コンピュータの利用のために，オープンな標準規格を開発することを目的に 450 を超える企業が参画する団体である．これまでに，CompactPCI，AdvancedTCA，COM Express などを標準規格化した実績がある．

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COMExpressType6規格に対応したシステムオンモジュール「AM120モデル210H」

PFU Tech. Rev., 23, 2, (11,2012)

が，従来のアナログ VGA からデジタルインターフェー

スであるディスプレイポートや HDMI に移行しつつあ

る市場の状況を踏まえ，2011 年に，COM Express

規格のType6に準拠した製品シリーズの第1弾として，

AM120 モデル 210G を開発した．そして 2012 年，

シリーズ第2弾としてCPUとチップセットのエンハン

スを行った AM120 モデル 210H を開発し，Type6

製品のラインナップの拡充を図った．図 - １に本製品の

外観を示す，

3 特長と仕様

3.1 製品概要システム オン モジュールは，CPU，チップセット，

メモリ部分を小型に凝縮したモジュールで，I/O コネク

タ等を搭載したキャリアボードと組み合わせることによ

り，希望する大きさと機能を持つマザーボードを実現で

きる．図 - ２に本製品のブロック図，表 - １に，本製品

の仕様概要を示す．

3.2 特長（１） COM Express 規格 Type6 に準拠

本製品は従来製品と同様，COM Express 規格に準

拠しており，標準規格製品として安心して使っていた

だける製品である．従来製品が COM Express 規格の

Type2 に準拠していたのに対し，本製品は Type6 に

準拠したものになっていることが，大きく異なる点であ

る．Type6 では，Type2 で PCI バスや IDE インター

フェースとして使われていたコネクタ信号を，追加され

た機能である PCI Express ポート，デジタルディスプ

レイインターフェース，USB3.0 インターフェースと

して使用している．表 - ２に Type2 と Type6 の違い

について示す．

（２） 新世代インテルプラットフォームの採用

本製品は，インテル第 3 世代 Core シリーズプロ

セッサと組込み向け HM76 チップセットを採用し，

DDR3-1600（従来製品比 1.2 倍），PCI Express 3.0

（従来製品比 1.6 倍），USB3.0（従来製品比 10.7 倍）

により，従来製品に対し大幅な性能強化を図っている．

（３） オンボードグラフィックス機能の強化

本製品で採用したインテル CPU 内蔵のグラフィック

スコントローラは高い性能を持ち，特筆すべき機能とし

て 3 画面同時出力が可能なため，従来外付けコントロー

ラが必要であった 3 画面同時出力をシステム オン モ

ジュールのみで実現可能である．

（４） 基本レイアウト

サポートするメモリが，従来の DDR3-1333 から

DDR3-1600 に高速化すること，メモリコントローラ

が CPU に統合されたことから，設計ルールが厳しく

なっており，従来の Type2 製品の基本レイアウトでは

実現が難しいことが判った．

今後，インターフェースの高速化がさらに進むことも

考慮し，Type6 製品では，基本レイアウトの変更を決

断した．電源設計，伝送設計，熱設計の観点で，シミュ

レーションを活用した検討を行い，将来を見越した最適

な基本レイアウトを決定した．

図 - ３に Type2 と Type6 の基本レイアウトを示す．

（５） 開発支援

システム オン モジュールを利用するには，モジュー

◆図 -１　AM120モデル210H外観◆

（Fig.1-AM120model210Hexternalview）

◆図 -２　AM120モデル210Hブロック図◆

（Fig.2-AM120model210Hblockdiagram）

STACKING CONNECTOR

IntelHM76PCH

SPI

LPC EXPANSION

10/100/1000 Ethernet

GPIO/POWER MANAGEMENT

USB3.0×4

High Definition Audio

Serial ATA/300×2

Serial ATA/600×2

DisplayPort/HDMI/DVI×3

×1 Lane（PCI Express 2.0，5.0GT/s）×7

※1 Intel は，米国およびその他の国における Intel Corporation の商標である .

CRT

LVDS

×16 Lane（PCI Express 3.0）×1

USB2.0×4

I2C

SMBus

DMI

DDR3Memory

DDR3-1600

3rd

GenerationIntel®※1 CoreTM

SeriesProcessor

PHY

SMBusHUB

SPI Flash

VRM

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COMExpressType6規格に対応したシステムオンモジュール「AM120モデル210H」

◆表 -１　AM120モデル210H仕様概要◆

機能 内容

商品名 AM120モデル210H

CPU インテルCorei7-3615QEプロセッサ（IvyBridge）

インテルCorei5-3610MEプロセッサ（IvyBridge）

動作周波数 2.3GHz（インテルターボ・ブースト・テクノロジー2.0 対応：最大3.3GHz）

2.7GHz（インテルターボ・ブースト・テクノロジー2.0 対応：最大3.3GHz）

コア数／スレッド数 4コア／8スレッド 2コア／4スレッド

キャッシュ L3-6MB L3-3MB

チップセット モバイルインテルHM76Express チップセット

メモリ 2GB/4GBDDR3-1600UnbufferedSO-DIMM×2（Max.8GB）ECCなし

表示制御 グラフィックコントローラ CPU内蔵グラフィックコントローラ（VRAMはメインメモリ使用）（インテルHDグラフィックス4000）

CRT最大解像度及び表示色 QXGA（2,048× 1,536）：1,677万色

LCD最大解像度及び表示色 シングルチャネルXGA（1,024× 768）：1,677万色デュアルチャネルQXGA（2,048× 1,536）：1,677万色

HDMI/DVI 最大解像度及び表示色 WUXGA（1,920× 1,200）：1,677万色

DisplayPort 最大解像度及び表示色 WQXGA（2,560× 1,600）：1,677万色

拡張インターフェース

PCIExpressGraphics × 16レーン（PCIExpress3.0）：1本（×8レーン：2本としても使用可能）

PCIExpress × 1レーン（PCIExpress2.0，5.0GT/s）：7本（×4レーン：1本，×1レーン：3本としても使用可能）

PCI －

LPC 1（SuperI/O 接続可能）

I/Oインターフェース

CRT（VGA） 1

LCD（LVDS） 1（LVDSLCDI/F，デュアルチャネル）※１

DisplayPort/HDMI/DVI 3

LAN 1（1000BASE-T/100BASE-TX/10BASE-T）

USB 4（USB3.0），4（USB2.0）

IDE －

シリアルATA 2（シリアルATA/600），2（シリアルATA/300）

オーディオ あり（IntelHighDefinitionAudio，外部Audio-CODEC必須）

ブザー 1

SPI 1

SMBus 1

I2C 1

GPIO GPI：4，GPO：4

RAS機能 専用ソフトウェアEmbedWare/SysMon® による状態表示，異常通知機能：CPU温度監視，HDD監視（S.M.A.R.T. ステータス），S.M.A.R.T. アトリビュートの取得，

USBストレージデバイス着脱監視，ウオッチドッグタイマ機能

冷却機構 ヒートシンク（ヒートシンク搭載モデルのみ）

供給電源 12V，5V（スタンバイ）及び3.3V（バックアップ）DC

最大消費電力 91.2W 75.2W

対応OS Windows®※２7Professional32bit 版／ 64bit 版SP1以降，WindowsEmbeddedStandard732bit 版／ 64bit 版SP1以降，

Ubuntu12.04LTSDesktop32bit 版／ 64bit 版

質量 115g（ヒートシンク，メモリなし）

外形寸法（W×D） 125mm×95mm

適合規格 PICMGCOMExpressR2.0Basic フォームファクタ，Type6

環境対応 RoHS指令対応

※１ LCDの機種によっては，ファームウェアのカスタマイズが必要になる場合がある．※２ Windowsは，米国MicrosoftCorporation の，米国，日本およびその他の国における登録商標または商標である．

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COMExpressType6規格に対応したシステムオンモジュール「AM120モデル210H」

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ルを搭載するキャリアボードが必要である．キャリア

ボードはお客様が開発するものであり，スムーズなキャ

リアボード開発のためには，様々な設計ノウハウが必要

となる．PFU では，長年の経験を基にお客様の製品開

発を手厚く支援している．

１） デザインガイドの提供

キャリアボード設計において重要な参考回路図や熱

設計の指針を記載したデザインガイドを提供して，お

客様の短期開発を支援している．

２） 評価ボードの提供

キャリアボードを開発する前に，お客様のアプリ

ケーションソフトウェアの先行開発用に，評価ボード

を提供している．評価ボードは，お客様が使いたいデ

バイスやカードとシステム オン モジュールとの組合

せ評価にも使用できる．

３） ソフトウェアサポート

OS と BIOS のカスタマイズ参３）による柔軟な対応

に加え，PFU が組込みシステム向けに提供している

ソフトウェア EmbedWare® ／ SysMon™ シリー

ズ参４）により，リモートシステム監視と電源制御監視

を提供している．

4 本製品開発での活用技術

（１） PI（Power Integrity）解析

PI とは「電源品質」のことで，PI 解析は電源回路・

◆表 -２　Type2と Type6の違い◆

項目 Type2 Type6本製品のサポート

状況

PCI あり なし なし

IDE あり なし なし

SDVOと PEGのマルチプレクス

あり なし なし

USB3.0（オプション）

なし あり あり

SDVO，HDMI，DVI，DPのどれか

なし あり あり（SDVOは非対応）

Mode DPonly なし メーカー選択

Dual をサポート（HDMI/DVI 使用時は，キャリアボードにレベルシフタを搭載）

HDMI/DVI

Dual

PCIEx1 6 8 あり（サポート数は7）

TPM検出信号（オプション）

なし あり なし

FAN制御信号（オプション）

なし あり あり（キャリアボード上の FANコネクタに接続）

LID信号（ノートPCの LCD開閉検出）（オプション）

なし あり あり

SLEEP信号（ノートPCのSLEEPボタン）（オプション）

なし あり あり

シリアルポート（5V，12Vトレラント）（オプション）

なし あり あり

SDIO（GPIO とマルチプレクス）（オプション）

なし あり なし

◆図 -３　Type2と Type6の基本レイアウト◆

（Fig.3-BasiclayoutforType2andType6）

CPUチップセット電源

※Type6では設計ルールが厳しく，このレイアウトが実現困難と判断

Type6製品のレイアウト

Type2製品のレイアウト

CPUチップセット電源

メモリスロット1

メモリスロット2

メモリスロット2

メモリスロット1

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COMExpressType6規格に対応したシステムオンモジュール「AM120モデル210H」

電源プレーン設計の妥当性を実設計前に確認するために

実施する．この解析での主な実施項目は以下のとおりで

ある．

１） 電圧降下解析

基板のアートワーク設計中に，電源プレーンの電圧

降下を予測検証し，設計にフィードバックすることで，

実機での電圧降下を 0.15% 以下に抑えた（図 - ４参

照）．

２） AC デカップリング解析

PI 解析を導入する以前は，インテルの推奨デザイ

ンに従った数と配置でデカップリングコンデンサを

使用する設計を行っていた．この方法では，システ

ム オン モジュールの場合，部品実装範囲に制約が大

きく，部品配置に大変苦労していた．本製品の開発で

は，PI 解析を行い，コンデンサの最適配置を行うこ

とで，推奨デザインからコンデンサを 5% 削減して

もデカップリング効果の高い設計ができることを見極

め，品質を保ちつつ，部品数の削減と余裕のある部品

配置を実現した．

（２） メモリの伝送解析

本製品ではサポートするメモリが DDR3-1600 に高

速化している．そのため，セットアップ時間やホールド

時間のマージン減少や，ノイズや波形歪みが発生しやす

くなることによって，伝送エラーの発生が高まるリスク

がある．そのリスク対策として活用した技術が伝送解析

である．PFUでは，従来から伝送解析を積極的に活用し，

高速配線の伝送品質確保に努めてきた．本製品では，メ

モリ伝送路のインピーダンス設計，メモリ配線の伝送損

失，クロストーク検証等を実施し，そこで得られた結果

を元にメモリの配線ルールを決定した．その配線ルール

を部品配置，配線設計に反映したことで，波形品質を確

保し，実機でのメモリデータのセットアップ時間やホー

ルド時間のマージン確保，ノイズや波形歪みの発生を抑

えた．

（３） 熱解析

本製品は，Type2 製品から基本レイアウトを大きく

変更しており，Type2 製品を搭載した装置との熱設計

における互換性を確認する必要があった．その際，試作，

実測，対策のサイクルの繰り返しによるカットアンドト

ライの開発では，開発サイクルに追従できず，試作評価

費用も膨大となる．そこで本製品の開発時にも，従来か

ら積極的に活用してきた熱解析を実施し，その結果とし

て，Type2 製品と同じ風向き（長手方向のフィン）の

ヒートシンクを本製品に搭載してダクトを装着すること

で，Type2 製品を搭載した装置と熱設計の互換性が確

保できることを確認した．

熱解析では解析精度が課題となるが，PFU は，これ

まで蓄積してきたノウハウにより 5.3% 以下の解析精

度を実現し，試作レスと開発期間短縮を実現している．

図 - ５に本製品の解析事例を示す注５）．

注５）図中に記載している解析誤差は，次の計算式で求めている．

（解析値－測定値）／測定値× 100 ＝解析誤差（%）

◆図 -４　電圧降下解析◆

（Fig.4-Voltagedropanalysis）

◆図 -５　解析事例◆

（Fig.5-Thermalanalysisexample）

風向き

温度分布Ta:60

測定箇所

プロセッサ

チップセット

48.0

28.5

46.0

30.0

2.0

1.5

4.2

5.3

測定値（℃） 解析値（℃） 誤差（℃） 解析誤差（％）

Temperature（degC）

1101051009590858075706560

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5 本製品の適用例（マルチディスプレイシステム）

本製品の特長である，強化されたグラフィックス機

能を使用して，グラフィックデバイスを増設することな

く，小型で安価に 3 画面のマルチディスプレイシステ

ムを実現できる．出力インターフェースとして，VGA，

LVDS，DisplayPort，HDMI，DVI の中から一定の

組み合わせを選択することができる．図 - ６に 3 画面の

マルチディスプレイシステム ブロック図例を示す．

6 むすび

AM120 モデル 210G/210H の投入により，シ

ステム オン モジュールの今後の製品ラインナップは

Type2 から Type6 へ移行する．今後も組込み市場の

動向に合わせて，新しいプロセッサやチップセットを搭

載する COM Express 規格準拠の製品をいち早く開発

し，お客様の様々なニーズに応える製品を提供し続けて

いく．

参考文献参１）システム オン モジュール ホームページ．

http://www.pfu.fujitsu.com/prodes/product/som/

参２）大谷，村井：COM Express 規格に準拠した次世代システム オン モジュール AM100 シリーズ，PFU Tech.Rev.,16,2, pp.9-15(2005)．

参３）番井，宇都宮：組み込み製品における BIOS，OS カスタマイズ・サービス，PFU Tech.Rev.,17,2,pp.26-30(2006)．

参４）ハードウェア監視ツール（EmbedWare/SysMon：エンベウェア／シスモン）ホームページ

http://www.pfu.fujitsu.com/prodes/product/embed/

◆図 -６　3画面マルチディスプレイシステムブロック図例◆

（Fig.6-Blockdiagramexamplefora3-screen

multi-displaysystem）

トランスミッタ

AM120

キャリアボード

DisplayPort

DisplayPort

HDMI

DDI

DDI

DDI