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17 新風 2018.4  新 風(かぜ) 松原泰道師揮毫 2018.4 vol. 110 電子自治体推進を支援する情報誌 2018年4月1日発行 (年4回発行) 編集発行:株式会社TKC クラウド導入実績No.1 http://www.tkc.jp/lg/ 特 集 寄 稿 内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室内閣参事官 柴崎哲也氏 三菱総合研究所社会ICTイノベーション本部主席研究員 村上文洋氏 100% デジタル化へ ──転換点を迎えた行政サービス インタビュー サービスデザイン思考による 行政サービス改革 TREND VIEW セキュリティーリスクにどう備えるか/埼玉県鶴ヶ島市の取り組み レポート マイナンバーカード利活用/姫路市高齢者バス等優待乗車実証 TKC Support Information 法制度改正等の概要と対応 寄稿 財務書類の早期作成へ、予算科目の細分化を 熊本県宇城市総務部次長 天川竜治氏

新風Vol 110 18-04月号 - TKC/media/Tkc/lg/kaze/docs/kaze_vol110...熊本県宇城市総務部次長 天川竜治氏 柴崎す。その背景を教えてください。国のIT施策の重点課題となっていま

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17 新風 2018.4 

新 風(かぜ)松原泰道師揮毫

2018.4 vol.110電子自治体推進を支援する情報誌2018年4月1日発行(年4回発行) 編集発行:株式会社TKC

27クラウド導入実績No.1 http://www.tkc.jp/lg/

特 集

寄 稿

内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室内閣参事官 柴崎哲也氏

三菱総合研究所社会ICTイノベーション本部主席研究員 村上文洋氏

100%デジタル化へ──転換点を迎えた行政サービス

インタビュー

サービスデザイン思考による行政サービス改革

TREND VIEWセキュリティーリスクにどう備えるか/埼玉県鶴ヶ島市の取り組みレポートマイナンバーカード利活用/姫路市高齢者バス等優待乗車実証TKC Support Information法制度改正等の概要と対応寄稿財務書類の早期作成へ、予算科目の細分化を熊本県宇城市総務部次長 天川竜治氏

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──「行政サービスのデジタル化」が

国のIT施策の重点課題となっていま

す。その背景を教えてください。

柴崎 わが国では2000年以降、世

界最先端のIT国家を目指した取り組

みが進められてきました。この間、情

報システム改革や業務の見直しなどで

は一定の成果を挙げています。しかし、

行政サービスのデジタル化という点で

は、その多くがいまだ“紙”の書類の

提出を求めています。インターネット

が社会の隅々にまで広がっているのに、

行政がそれに対応できていないのは、

多くの住民・事業者にとって不便なの

ではないでしょうか。また、市区町村

の業務効率化の観点からも改善すべき

課題です。

 

こうした現状を踏まえ、昨年5月に

策定された「世界最先端IT国家創造

宣言・官民データ活用推進基本計画」

において、添付書類も含めてこれまで

の紙文化から脱却し、行政手続きなど

の“原則オンライン化”を推し進める

との方針が示されました。

 

また、基本計画の重点分野の一つで

ある電子行政について、方向性や活動

計画を示した「デジタル・ガバメント

推進方針」と「デジタル・ガバメント

実行計画」では、行政のあり方そのも

のをデジタル前提で再設計することを

宣言しています。これを受け、各府省

に対して今年6月をめどに中長期の実

行計画の策定を求めています。

──そして昨年末には「IT新戦略の

策定に向けた基本方針」も示されまし

た。毎年夏頃に公表されるIT戦略を

待つことなく、こうした方針が先に示

されるのは異例といえますね。

柴崎 そうですね。行政サービスのデ

ジタル化は掛け声だけでは進みません。

すでに各府省が中長期計画の策定に動

き出しています。計画に掲げられた事

項の中には、その実現に法律改正が必

要となるものもあります。

 

基本方針は昨年末に、内閣総理大臣

をトップとする「高度情報通信ネット

ワーク社会推進戦略本部」と「官民デー

タ活用推進戦略会議」で決定されたも

のです。その場で、安倍晋三総理から

「電子申請にかかる紙の添付を一括し

て撤廃」する法案の作成に着手するよ

う指示がなされました。われわれは、

これを仮称として「デジタルファース

ト法案」と呼んでいますが、今秋の臨

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特 集 100%デジタル化へ──転換点を迎えた行政サービス内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室内閣参事官 柴崎哲也氏インタビュアー 本誌編集人 湯澤正夫

e-Japan戦略の策定から17年。いまや国民の8割以上がインターネットを利用し、ライフスタイルや仕事のあり方も大きく様変わりした。こうした時代環境の変化を踏まえ、行政サービスも国民・利用者視点に立って「デジタルファースト」へと舵を切らなければならない。国は、昨年末に「IT新戦略の策定に向けた基本方針」を示し、その動きをますます加速させている。今、市区町村は何をすべきか──内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室の柴崎哲也内閣参事官に聞く。

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3 新風 2018.4 

時国会にも関連法案が提出できるよう

準備を進めています。

 

基本方針は、この一連の動きの起点

に位置付けられます。

■■

“デジタル改革”断行へ

■■

基本方針が掲げた三つのテーマ

──基本方針の内容を教えてください。

柴崎 基本方針では、今夏に策定する

IT新戦略の軸に「ITを活用した社

会システムの抜本改革」を据え、その

ため①行政サービスのデジタル改革断

行②民間部門のデジタル改革およびI

T・データ活用ビジネスの推進③地方

のデジタル改革──へ取り組むことを

明言しました。このうち行政サービス

のデジタル改革断行では、「行政サー

ビスの100%デジタル化」「行政保

有データの100%オープン化」「デ

ジタル改革の基盤整備」──の三つの

テーマが掲げられています。

 

第一に、中で最も重要なのが「行政

サービスの100%デジタル化」です。

 

昨年、内閣情報通信政策監(政府C

IO)の指揮の下で各府省庁の行政手

続きの棚卸し(実態調査)を行いまし

た。その結果、約4万3000ある行

政手続きのうち、デジタル化されてい

るのは約5000件(12%)にとどまっ

ていることが分かりました。また申請

内容を詳細に分析すると、395(0・

9%)の手続きで申請件数全体の98・

2%を占めていました。つまり、この

わずか0・9%の行政手続きをデジタ

ル化するだけでも、現状が大きく改善

されるわけです。

 

今後、デジタル・ガバメント推進方

針で示された「デジタル化3原則」(デ

ジタルファースト、ワンスオンリー、

コネクテッド・ワンストップ)に沿っ

て、行政のあらゆるサービスを最初か

ら最後までデジタルで完結させます。

 

まずは、オンライン化を徹底するた

め本人確認手続きの見直しと、行政事

務の慣習を一から見直す業務改革(B

PR)を進めます。

 

次に、ワンスオンリーの具体的な取

り組みとして添付書類の廃止がありま

す。これは先述の法律改正と、行政機

関同士の情報連携のためのシステム整

備の2段階で進めます。

 

さらに、コネクテッド・ワンストッ

プということでは、すでに子育てワン

ストップサービスがスタートしていま

す。これを成功モデルとして、介護、

死亡・相続、引っ越しのライフイベン

トを基幹プロジェクトと位置付け、民

間サービスとの連携も含めたワンス

トップ化の実現へ取り組みます。

──なるほど。

柴崎 第二のテーマが「行政保有デー

タの100%オープン化」です。これ

は行政保有データの原則オープンデー

タ化を徹底し、データを活用したイノ

ベーションや新ビジネスの創出を後押

●柴崎哲也(しばざき・てつや)

柴崎哲也(しばざき・てつや)兵庫県出身。1993(平成5年)総務省(旧郵政省)入省。総合通信基盤局データ通信課課長補佐、大臣官房総務課課長補佐、内閣府沖縄政策担当政策統括官付企画官、総合通信基盤局事業政策課市場評価企画官などを経て、2017年より現職。

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ししようというものです。

 

当たり前の話ですが、オープンデー

タの前提条件として、公開しようとす

る行政保有データが電子的に保管・管

理されていなければなりません。しか

し、国の実態調査の結果、電子的に保

管・管理されているデータは20%程度

でした。また、オープンデータへ取り

組んでいる自治体は42都道府県が10

0%であったのに対し、市区町村は

15%程度にとどまっています。

 

一方、オープンデータが民間ニーズ

に対応したものとなる工夫も必要です。

このため、今年に入り観光・移動イン

フラ・防災など多分野について官民ラ

ウンドテーブルを2回開催しました。

今後、行政保有データの棚卸しリスト

を公開して潜在的なニーズの掘り起こ

しなどにも取り組む考えです。

 

第三が「デジタル改革の基盤整備」

です。これは国と地方、民間の全てが

デジタル改革やデータ連携に取り組む

上での基本ルール(語ご

彙い

やコード、文

字などの標準化)を整備するものです。

先行分野として医療・農業分野でのデ

ジタル改革・データ連携を進め、ベス

トプラクティスの創出を目指します。

■■

5年後の実行計画のゴールへ

■■

市区町村がなすべきこと

──そうした国の取り組みを地方へも

横展開しようというのが、基本的方向

性の三つ目に掲げられた「地方のデジ

タル改革」ですね。

柴崎 そうです。行政サービスを提供

する上で、国民・利用者と最も接する

機会が多いのは市区町村の皆さんです。

したがって、利用者視点で考えれば、

地方の行政サービスについても原則デ

ジタル化の推進と手続きの見直しが欠

かせません。

 

そのため基本方針では、地方のデジ

タル改革として①地方の行政サービス

の原則デジタル化②オープンデータの

推進・活用(原則オープン化)③IT・

データ活用による行政・生活サービス

の高度化──へ取り組むことを打ち出

しました。

 

市区町村はそれぞれ地域特性や抱え

ている課題などが異なり、なすべき取

り組みは一様ではありません。ただ、

可能な限り国と歩調を合わせたデジタ

ル改革を進めていただきたいというこ

とです。

 

中でも行政サービスのデジタル化に

ついては、添付ファイルも含めて原則

デジタル化を進めるとともに、その前

提として業務システムのクラウド化に

よりコスト削減や業務の標準化を図る

ことが大切といえるでしょう。

──基本方針では、それらの取り組み

が円滑に進むよう、地方公共団体の「官

民データ活用推進計画」の策定も支援

するとしています。

柴崎 話は前後しますが、16年末に公

布・施行された「官民データ活用推進

基本法」では、国のほか都道府県にも

「官民データ活用推進計画」の策定を

求めています。都道府県については20

年度末までが一つのゴールと期待され

る一方、市区町村については努力義務

としています。

 

しかし、利用者から見れば国も地方

も同様にデジタル化されるのが理想で

す。その意味では、市区町村も計画策

定に着手していただきたいですね。実

際、当室へ市区町村からの問い合わせ

も増えており、そうした先進的自治体

から全国へ計画策定の動きが広がって

いくことを期待しています。

 

また、そのための参考としていただ

2018.4 新風 4

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デジタル化へ──転換点を迎えた行政サービス

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けるよう『市町村官民データ活用推進

計画策定の手引』をとりまとめ、推進

計画のひな型も例示しました。

 

ひな型では推進計画に盛り込む個別

施策として、①オンライン化原則②

オープンデータの推進③マイナンバー

カードの普及・活用④デジタルデバイ

ド対策等⑤システム改革、BPR──

の五つを例示しました。これらはいず

れもデジタル改革実現に不可欠な要素

であり、計画を策定する際にはぜひ検

討していただきたいと考えています。

──計画策定にはかなりの労力と時間

がかかり、特に小規模団体にとっては

ハードルが高いといえそうです。

柴崎 今年2月、全国の市区町村に対

して推進計画に関する意向調査を実施

したところ、都道府県とは対象的に厳

しい結果でした。結果については今後、

地方ごとに丁寧にご説明していきます。

 

計画を策定するといっても必ずしも

ゼロから作る必要はありません。すで

に情報化計画を策定しているところで

は、既存の計画に基本法が掲げる要素

を追加する方向で検討いただければい

いでしょう。また情報化計画を策定し

ていない場合は、ぜひこの機にひな型

を活用して計画を策定していただきた

いところです。とはいえ、最初から完

璧な計画を目指すのではなく、五つの

施策についてもまずはできるところか

ら着手するスモールスタートで構いま

せん。

 

大切なのは計画策定をきっかけとし

て、これからの行政やサービスのあり

方を再考することなのです。

■■

Society5・0の時代へ

■■

利用者目線で考える

──今後の推進策として、地方公共団

体に対してどのような働きかけを行っ

5 新風 2018.4 

■ 地方公共団体に求められる取り組みとその効果地方公共団体における取り組み 効果

1手続きにおける情報通信の技術の利用等にかかる取り組み(オンライン化原則)

「行政情報の電子的な提供および行政情報の社会的有効活用」「企業および個人の負担軽減」「行政事務の簡素化・合理化」

2官民データの容易な利用等にかかる取り組み(オープンデータの推進)

「国民参加・官民協働の推進を通じた諸課題の解決、経済活性化」「行政の高度化・効率化」「透明性・信頼の向上」

3

個人番号カードの普及および活用にかかる取り組み(マイナンバーカードの普及・活用)

住民票の写し等のコンビニ交付や図書館利用など行政サービスの利用、マイキープラットフォームを活用した地域経済応援ポイントの導入による住民の利便性の向上

4利用の機会等の格差の是正にかかる取り組み(デジタルデバイド対策等)

IT を十分に活用できない人々に配慮したサービス開発等により、IT や官民データ活用による恩恵を全ての国民が享受できる環境の実現

5

情報システムにかかる規格の整備および互換性の確保等にかかる取り組み(標準化、デジタル化、システム改革、BPR)

国や地方公共団体において共通的に導入できる規格の策定や、自治体クラウドのさらなる促進によるシステム間連携、分野横断的なデータ流通の促進

⑴行政サービスの100%デジタル化❶システムを作るだけでなく、サービス利用者の視点から

手続きを見直し。業務フローを徹底的に見直した上で、100%のデジタル化を目指し、行政のあらゆるサービスが最初から最後までデジタルで完結する社会を実現

•デジタル化の前提として、BPRを徹底的に推進•デジタルファースト関連一括整備法案も視野に、法令

の見直し

【デジタル化3原則】•デジタルファースト:国民が、個々の手続き・サービ

スについて最初から最後まで一貫してデジタルで完結できる社会の構築

•ワンスオンリー:一度提出した情報は再提出不要。バックオフィス連携により添付書類を撤廃

•コネクテッド・ワンストップ:民間サービスを含め、1カ所でサービスを完結

(例)個人のライフイベント(転居、死亡・相続等)、法人のイベント(法人設立、役員変更等)

❷このため、マイナンバー制度等を活用し、特に多くの手続きで添付が求められている登記事項証明書(商業法人)や戸籍謄抄本などの添付を不要とするための所要の法令改正作業に関係閣僚が直ちに着手❸社会保険・税手続きにおける提出書類のデジタル化・

民から官へのデータ連携⑵行政保有データの100%オープン化❶行政保有データの原則オープンデータ化を徹底し、

データを活用したイノベーションや新ビジネスの創出を後押し❷2017年度中に官民ラウンドテーブルを開催し(観光・

移動分野等)、民間ニーズに対応したデータのオープン化を加速化❸行政保有データの棚卸しリストを公開し、潜在的な公

開ニーズを掘り起こし、オープンデータの取り組みを深化⑶デジタル改革の基盤整備❶国・地方公共団体・民間等の全てが、デジタル改革・

データ連携に取り組む上での基本ルールを構築(語彙、コード、文字等の標準化)❷先行して、医療・農業の分野でのデジタル改革・データ

連携を実施。データ利活用による社会システムの抜本改革のベストプラクティスを創出

都道府県

2017年度 2018年度中2019年度中 2020年度以降計画策定時期未定

地方版計画の検討・策定状況計画策定予定時期(合計値)都道府県有効回答数:42市区町村有効回答数:319

100%80%60%40%20%0%

市区町村 24 60 23 43 169

5 19 8 1 9

出典:都道府県・市区町村への官民データ活用推進計画に関する意向調査(2018年2月)

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ていくのでしょうか。

柴崎 現在、全国行脚をしながら、こ

れまで国が取り組んできた業務システ

ム改革の方法やノウハウなどの情報共

有を図るとともに、三つのテーマに取

り組んでいただくようお願いをしてい

るところです。

 

その1点目が「オープンデータの推

進」です。これまでもガイドラインや

手引き書、事例集の提供に加えて、“伝

道師”の派遣などを行ってきましたが、

今後もこれを継続します。

 

2点目が「マイナンバー制度の活用」

です。特にマイナンバーカードは行政

サービスのデジタル化の“生命線”と

いえ、まずはより多くの国民に取得し

てもらうことが重要です。総務省が先

進事例を公開していますので、ぜひ参

考にしていただきたいですね。

 

3点目が「自治体クラウドの推進」

です。これについては総務省と連携し

て先進事例を分析し、その結果を「自

治体クラウドの現状分析とその導入に

当たっての手順とポイント」としてま

とめ公表しています。

──行政サービスのデジタル化はもは

や避けようがなく、その動きはますま

す加速していきそうです。市区町村は

今、e-

Japan戦略以来の大きな

転換期を迎えているということですね。

柴崎 02年の行政手続オンライン化関

係三法など、これまでもデジタル化を

推進する施策はありましたが、デジタ

ル化を「第一=ファースト」としたの

は初めての取り組みです。これを推進

する上では行政機関の縦割りや、国と

地方、官と民という枠を超えて行政

サービスを見直し、行政の在り方その

ものを変革していくことが必要でしょ

う。

 

ただ、誤解しないでいただきたいの

はデジタルファーストや100%デジ

タル化といっても、それは「デジタル

オンリー」ではないということです。

 『平成28年通信利用動向調査』(総務

省)を見ると、インターネットを利用

する個人の割合は83・5%に達してい

ます。これを詳しく見ていくと、やは

りデジタル利用には世代間格差がある

ことも否めません。10代後半〜50代の

インターネット利用率は90%以上と、

ほとんど心配はありません。また60代

でも75・7%の方が利用しています。

しかし、70代以上の高齢者の方になる

とがくんと利用率が落ちてしまいます。

一口にデジタルデバイドといってもい

ろんな課題がありますが、行政手続き

のデジタル化を本格化する上では、こ

の年齢によるデバイドは重要な課題と

いえるでしょう。

──そうしたデジタル利用の格差を可

能な限りなくす取り組みが求められま

すね。市区町村にシステムを提供する

事業者としても、そうした方も含めて

利用者視点にたった製品・サービスの

研究が重要なテーマです。

柴崎 e-

Japan戦略策定から17

年が経過し、当時と今ではICTの進

歩やそれに伴う利用者の価値観の変化

において隔世の感があります。その点、

行政サービスの本当の意味でのデジタ

ル化は時代の要請といえるでしょう。

 

これまでの行政手続きの電子化は、

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本誌編集人 湯澤正夫

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デジタル化へ──転換点を迎えた行政サービス

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必ずしも国民の利便性向上や行政事務

の効率化につながっていませんでした。

いまだなすべきことは多いと捉えてい

ます。この反省を踏まえ、基本方針で

は「Society5・0時代にふさ

わしい行政サービスを国民一人ひとり

が享受できるよう、非効率なシステム

化や書面による申請などにより、申請

者の手間のみならず、行政のバックオ

フィス作業も含めて生じる官民のコス

トを削減しなければならない」と明言

しています。

 

そのために、行政サービスを一気通

貫でデジタル化するという大改革を断

行し、国を起点として改革の波を地方

や民間へ広げていく──それには、行

政サービスの利用者と最も接する機会

が多い市区町村の取り組みが鍵を握っ

ているといっても過言ではありません。

 

市区町村において行政サービスのデ

ジタル化を進める過程では、都道府県

と国の支援が必要となるかもしれませ

ん。民間事業者の皆さんの役割も大き

いでしょう。関係機関が、100%デ

ジタル化という共通目標に向かって協

力していければと願っています。

(横山

良)

7 新風 2018.4 

■ IT新戦略の策定に向けた基本方針(概要)

「ITを活用した社会システムの抜本改革」

行政サービスのデジタル改革断行 推進体制行政サービスのデジタル改革のためのeガバメント閣僚会議•「デジタル・ガバメント実行計画」決定(2017年度中)•登記事項証明書等の添付を不要とする法律改正案の、可能な限り速やかな提出

オープンデータ推進のための官民ラウンドテーブル•観光・移動等の分野で開催(2017年度中)

デジタル改革・連携プロジェクト関係省庁連絡会議•農業・物流・港湾等の連携プロジェクト等推進

IT新戦略起草委員会(仮称)•IT新戦略策定 (2018年春~夏めど)

民間部門のデジタル改革およびIT・データ活用ビジネスの推進

デジタル化3原則(デジタルファースト、ワンスオンリー、コネクテッド・ワンストップ)を徹底。この取り組みを民間・地方にも波及させ、非効率なシステム化や書面による申請などにより生じる官民のコストを削減し、国民生活の質的向上を実現する。

ITを最大限活用し簡素で効率的な社会システムへ

官民通じた社会コスト削減・生活の質の向上

取組の横展開

取組の横展開

取組の横展開

取組の横展開

取り組みの  横展開

取り組みの  横展開

取り組みの  横展開

取り組みの  横展開

取組の横展開

取組の横展開

⑴行政サービスの100%デジタル化❶システムを作るだけでなく、サービス利用者の視点から手続きを見直し。業務フローを徹底的に見直した上で、100%のデジタル化を目指し、行政のあらゆるサービスが最初から最後までデジタルで完結する社会を実現•デジタル化の前提として、BPRを徹底的に推進•デジタルファースト関連一括整備法案も視野に、法令の見直し

【デジタル化3原則】•デジタルファースト:国民が、個々の手続き・サービスについて最初から最後まで一貫してデジタルで完結できる社会の構築•ワンスオンリー:一度提出した情報は再提出不要。バックオフィス連携により添付書類を撤廃•コネクテッド・ワンストップ:民間サービスを含め、1カ所でサービスを完結

(例)個人のライフイベント(転居、死亡・相続等)、法人のイベント(法人設立、役員変更等)

❷このため、マイナンバー制度等を活用し、特に多くの手続きで添付が求められている登記事項証明書(商業法人)や戸籍謄抄本などの添付を不要とするための所要の法令改正作業に関係閣僚が直ちに着手❸社会保険・税手続きにおける提出書類のデジタル化・民から官へのデータ連携⑵行政保有データの100%オープン化❶行政保有データの原則オープンデータ化を徹底し、データを活用したイノベーションや新ビジネスの創出を後押し❷2017年度中に官民ラウンドテーブルを開催し(観光・移動分野等)、民間ニーズに対応したデータのオープン化を加速化❸行政保有データの棚卸しリストを公開し、潜在的な公開ニーズを掘り起こし、オープンデータの取り組みを深化⑶デジタル改革の基盤整備❶国・地方公共団体・民間等の全てが、デジタル改革・データ連携に取り組む上での基本ルールを構築(語彙、コード、文字等の標準化)❷先行して、医療・農業の分野でのデジタル改革・データ連携を実施。データ利活用による社会システムの抜本改革のベストプラクティスを創出

⑴ビジネスにおける IT・データの最大限の活用❶基本ルールに基づくデータ連携を推進し、バリューチェーン全体を効率化。農業、物流、港湾等の連携プロジェクトを推進❷マイナポータルの活用によるデータを用いた健康づくり・病気予防の強化❸テレワークなどITを活用した働き方改革・BPRの推進⑵オープンデータの活用促進❶民間保有データとの組み合せを含めたデータ活用を促進することで、イノベーション・新ビジネスを創出⑶官民協働による手続きコスト削減❶官民が協力して、法定の民間手続き等の簡素化に向けた取り組みを展開

⑴地方の行政サービスの原則デジタル化❶地方の行政サービスについても、添付書類を含め、原則デジタル化❷地方公共団体のクラウド導入を推進し、コスト削減や業務の標準化⑵オープンデータの推進・活用(原則オープン化)❶全地方公共団体が行政保有データを原則オープン化し、オープンデータを活用した地方発ベンチャーの創出を促進❷ガイドラインや推奨データセットの策定⑶IT・データ活用による 行政・生活サービスの高度化❶自動運転移動サービス等による移動手段の確保❷遊休資産の活用(シェアリングエコノミー)による、空き施設・空き家等の活用、女性・高齢者の働き場の創出

地方のデジタル改革(全国展開)地方公共団体における官民データ活用推進計画策定の支援

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2018年1月16日に閣議決定され

た「デジタル・ガバメント実行計画」

では、政府として初めて「サービスデ

ザイン」の正式な導入が示された。

 

これまでの電子行政の取り組みは、

どちらかといえば提供者目線で、縦割

り、紙前提の既存の制度の見直しを十

分に検討しないまま、しかも「行政手

続き」という断面のみを切り取って電

子化を考えていた。これに対し、今後

は利用者(国民や事業者など)の立場

に立って、より便利なサービスを提供

しようとあらためて宣言したのが今回

の実行計画である。

 

具体的には、「サービスデザイン思

考を導入し、利用者中心の行政サービ

ス改革を推進」し、「一連のサービス

全体における利用者の体験(ユーザー

エクスペリエンス)を最良とするサー

ビスの実現を目指す」として、「サー

ビス設計12箇条」が示された。

 

提供者目線ではなく利用者目線で考

えるこのような取り組みは、国だけで

なく地方公共団体でも今後積極的に推

進すべきであるが、その際、行政サー

ビスの中だけで閉じて考えないことが

肝要である。

サービスデザイン思考を

いかに身につけるか

 

われわれの生活や企業活動は、多く

の民間サービスの中で行われており、

行政との接点よりはるかに多い。

 

例えば引っ越しをする場合、これま

での電子行政の検討では、転出・転

入・転居届といった、行政手続きをい

かにオンラインでワンストップ化する

かが考えられてきた。しかし、引っ越

しする人の立場に立って考えてみると、

引っ越し先の地域や住まいの選定から

住宅の契約手続き、引っ越し業者の選

定、家具の購入や粗大ごみの始末、電

2018.4 新風 8

■ サービスデザイン12箇条第1条 利用者のニーズから出発する第2条 事実を詳細に把握する第3条 エンドツーエンドで考える第4条 全ての関係者に気を配る第5条 サービスはシンプルにする第6条 デジタル技術を活用し、サービスの価値を高める第7条 利用者の日常体験に溶け込む第8条 自分で作りすぎない第9条 オープンにサービスを作る第10条 何度も繰り返す第11条 一遍にやらず、一貫してやる第12条 システムではなくサービスを作る

寄 稿

サービスデザイン思考による行政サービス改革株式会社三菱総合研究所 社会ICTイノベーション本部 主席研究員 村上文洋

行政サービス改革で、にわかに注目されるようになった「サービスデザイン思考」。システム開発をはじめ“ものづくり”の観点では広く浸透している考え方だ。多くの市区町村にとって未知の世界といえるサービスデザイン思考について考える。

出所:『デジタル・ガバメント実行計画』   (2018年1月26日/eガバメント閣僚会議決定)

ServiceDesignThinking

ServiceDesign

DesignThinking

Page 9: 新風Vol 110 18-04月号 - TKC/media/Tkc/lg/kaze/docs/kaze_vol110...熊本県宇城市総務部次長 天川竜治氏 柴崎す。その背景を教えてください。国のIT施策の重点課題となっていま

気・ガス・水道の手続き、銀行やクレ

ジットカード、携帯電話、運転免許証

の住所変更など、行政関係だけでなく

民間サービスに関わるものがたくさん

ある。これら官民にまたがるさまざま

な作業や手続きを、時間軸に沿ってい

かに便利にするかがポイントになる。

 

また、行政が提供す

るオンラインサービス

には、使い勝手のよく

ないものも少なくな

い。日々、競争にさら

されている民間サービ

スの方が圧倒的に使い

勝手がいい。これから

は行政の自前主義はや

めて、民間サービスを

積極的に活用するよう

にした方がいい。行政

手続きをワンストップ

化するのではなく、

「民間サービスのつい

でに行政手続きも済ま

すことができるように

する」のが、本当の意

味でのサービスデザイ

ンである。

 

サービスデザイン思考を身につける

方法はさまざまで、関連書籍も多数発

行されているが、最も効果的な手法の

一つとして、利用者を巻き込んだワー

クショップの開催が挙げられる。

 

その方法はいろいろあるが、例えば

内閣官房IT総合戦略室が開催した

サービスデザインワークショップでは、

「子育て」「引っ越し」「死亡・相続」

の各テーマでグループに分かれ、約4

時間かけて、「ペルソナ設定」→「サー

ビス分析」→「サービスデザイン」→

「発表・講評」の流れでワークショッ

プを行った。

 

今後はさまざまなサービスがAPI

(Application Program

Interface

:人

手を介することなくコンピューター同

士がデータをやり取りするなどして

サービスを自動化すること)でつなが

るようになる。民間サービスでは既に

さまざまな分野でAPIによる連携が

進みつつある。このようなAPIでつ

ながったサービス群を「APIエコノ

ミー」という。これからはAPIエコ

ノミーの中のどこに、どのような形で

行政サービスを組み込むか、組み込ん

でもらうかを考える必要がある。

まずは利用者目線で

全体を俯瞰することから

 

人口減少社会では、社会全体の働き

手が減少し、行政職員も不足する。行

政サービスを維持するためには、行政

職員の大幅な生産性向上が不可欠であ

る。小規模な生産性向上であれば職場

のカイゼン活動などでも実現できるが、

大幅な生産性向上の実現には、大胆な

発想の行政サービス改革が必要である。

 

そのためには、以下の3点が重要と

なる。

1. 利用者目線のサービスデザイン思

考(加えてAIでもIoTでも使

える技術は何でも総動員)

2. 自前主義からの脱却(民間サービ

ス経由での行政サービスの提供)

3. APIエコノミーへの参加(AP

Iでつながったサービス群にいか

に行政サービスを組み込んでもら

うか)

 

常に利用者の立場に立ち、全体を俯

瞰して、全体最適の視点でものを考え

ることが、サービスデザイン思考を習

得する第一歩である。

9 新風 2018.4 

生活・体験

サービス

法律・制度

手 続 きサービス

法律・制度

手 続 き

国民一人一人

国・自治体

国民

APIを介して民間サービス経由で提供

APIを介して民間サービス経由で提供

民間サービス

民間サービス

役所・役場

■ 提供者目線から利用者目線へ 出所:株式会社三菱総合研究所

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2018.4 新風 10

情報漏えいで

“紙”が7割を占める

 『2016年

情報セキュリティイン

シデントに関する調査報告書』(日本

ネットワークセキュリティ協会)によ

れば、14年には年間約1600件の個

人情報漏えいインシデントが発生。そ

の経路では約7割を紙媒体が占める。

インシデントそのものは年々減少傾向

にあるものの、紙媒体による漏えいが

依然最も多い。

 

ネットワーク分離などの取り組みが

進んでいるとはいえ、機微な情報を紙

媒体で取り扱う地方公共団体にとって

人ごとではないはずだ。

ICカードを用いた認証印刷で

セキュリティーを高める

 

埼玉県鶴ヶ島市では12年度より、な

りすまし防止のためにICカードを導

入した。これによりIDとパスワード

による認証にICカードを加えた二要

素認証を実現。離席時には画面ロック

する仕組みとすることで、情報漏えい

対策は進んだが、“紙”に対するセキュ

リティー対策は十分とは言い難く、印

刷物の取り忘れなどによる書類紛失の

懸念は残されていた。

 

その対策として、13年度よりまずは

インターネット系ネットワークの範囲

でICカードを用いた認証印刷システ

ムを稼働させた。これは印刷命令後、

プリンターや複合機に設置されている

ICカードリーダーにカードを挿入す

ることで印刷物が出力されるもので、

取り忘れ防止などにつながる。

 

印刷時にカードを用いることに「職

員の抵抗がなかったわけではない」と、

岸田聡市政情報課主幹は当時を振り返

る。しかし、「セキュリティーを高め

ることは、市民からの信用を守ること

に加えて、職員の身の潔白を証明する

ことにつながる」と、その必要性を強

調する。

 

職員への説明を地道に続けたことで、

今ではカードを用いて印刷するスタイ

ルが庁内に定着した。

 

また、システム導入前は各課に1台

プリンターが設置されていたが、導入

後はフロアに設置されている複合機へ

集約が加速したことで、結果的にコス

ト削減にもつながっていったという。

システム更新を

業務改革のきっかけに

 

認証印刷システムの更新期が迫り、

鶴ヶ島市では新たなシステム調達に動

き始めた。特徴的なのは単なる更新で

はなく、関連部門が協力して選定作業

埼玉県鶴ヶ島市の取り組み

セキュリティーリスクにどう備えるか埼玉県鶴ヶ島市 総合政策部 市政情報課 課長 河村治人 氏 / 主幹 岸田 聡 氏 / IT 推進担当 鈴木 玄太郎 氏 / 木下裕太 氏 / 野上詩織 氏 / 山根栄三郎 氏

写真左から鈴木玄太郎氏、岸田 聡主幹、河村治人課長、野上詩織氏、山根栄三郎氏、木下裕太氏

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11 新風 2018.4 

を進めたことだ。

 

具体的には「今後の業務改善の動き

につながることを願って、IT施策を

推進する市政情報課に、資産管理、企

画立案の所管部門を加えた体制で選定

時の評価を行った」と、河村治人市政

情報課長はその意義を強調する。

 

新たなシステムで重要視したのは、

まず印刷速度。認証印刷システムを経

由することで、システム導入前と比較

して出力までの時間を要していたため、

現状よりも高速に印刷できるシステム

構築を目指した。

 

次にコスト抑制につなげられる仕組

みであるかどうか。各課設置のプリン

ターを複合機に集約したものの、依然

として印刷枚数が多く、これを抑制し

てコストを削減したかったのだ。その

ため、どの部署の誰がいつ何枚印刷し

たかなどを“見える化”できる仕組み

をさらに推進することで、印刷枚数の

抑制に努めるとともに、複合機やプリ

ンターの設置場所の最適化を図ろうと

した。

 

そして汎用的なシステムであること

も重要視した。鶴ヶ島市では接触型の

ICカードを導入している。しかし、

ICカードを活用したさまざまなシス

テムは、非接触型のICカードに対応

していることが多いという。そこで今

回の調達では、非接触型I

Cカードも範囲に含めた。

さらに今回はインターネッ

ト系ネットワーク以外の今

後の展開を見据えて、基幹

業務システムなど同市で稼

働しているシステムとの親

和性も重視した。

 

これらを解決する手段と

してシステム選定を実施し

た結果、「Secure Print Ex.

の採用を決めた。

 

さまざまなセキュリティー対策を打

つ鶴ヶ島市も「最終的に重要となるの

は職員のセキュリティー意識」(岸田

主幹)と語る。対策を施しても、職員

の意識が低ければ、情報漏えいは起こ

り得るということだ。そのために職員

研修にも力を入れている。新規採用職

員に対する個人情報保護研修、全職員

を対象としたeラーニングを毎年実施

することで職員の意識を高めている。

18年度からは三役や部長級への研修も

充実させていく方針だ。

 

組織体制も刷新する。これまで市政

情報課はIT施策、統計、広報を担当

してきたが、18年度からはIT施策に

特化させていく。これにより情報セ

キュリティーと業務効率の最適化を

図っていく考えだ。

 「ICTを活用して業務改善できる

という気運を醸成したい」(河村課長)

と抱負を語る。また、「認証印刷シス

テムは、校務系や基幹業務系ネット

ワークへの拡張も検討したい」(岸田

主幹)と意欲的だ。

 

セキュリティー対策に終わりはない。

鶴ヶ島市のこれからの取り組みにも注

目していきたい。

(横山

良)

TREND VIEWトレンドビュー セキュリティーリスクにどう備えるか

埼玉県鶴ヶ島市 総合政策部 市政情報課 課長 河村治人 氏 / 主幹 岸田 聡 氏 / IT 推進担当 鈴木 玄太郎 氏 / 木下裕太 氏 / 野上詩織 氏 / 山根栄三郎 氏

City Data

埼玉県鶴ヶ島市埼玉県のほぼ中央に位置する鶴ヶ島市は、鉄道のほか二つの高速道路が交差する抜群の利便性を生かし交通の要所として発展してきた。一方、武蔵野の原風景の中で行われる「高倉獅子舞」と4年に一度開催される「脚

すね

折おり

雨あま

乞ごい

」などの伝統行事がある。身近な自然と整備された居住空間が同居するまちである。写真は「脚折雨乞」(左)と「高倉獅子舞」(右)

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2018.4 新風 12

 2月20日、兵庫県姫路市内にお

いて、姫路市(市長・石見利勝)

と神姫バス株式会社(本社・姫路

市/取締役社長・長尾

真)の全

面的な協力の下、バス乗車におけ

る「マイナンバーカード」の利活

用の実証が行われた。これは、総

務省の『公共交通分野におけるマ

イナンバーカードの利活用実現に

向けた諸課題に関する調査研究』

事業の一つとして実施されたもの

(実証実施事業者はTKC)。

 当日は、高齢者等を対象とした

優待乗車カードとしての活用を想

定し、市民モニター27名が実証実

験用のマイナンバーカードを使っ

てバスへの乗車・降車などを体験

した。

実証の目的と概要

 実証の目的は、バスでのカード

利活用のニーズや課題を整理し、

すべての利用者(市民・行政・事

業者)にとって利便性向上につな

がるサービスの在り方を検討する

ことにある。そこで今回は、①カー

ドを使った優待乗車制度の利用申

し込み手続き②カードを使ったバ

スの乗車・降車体験③バス車両・

神姫バス姫路事業所・姫路市役所

間での運賃の精算││の三つにつ

いて実証を行った(図)。

 姫路市では、満75歳以上の高齢

者を対象にバスなどの乗車料金の

一部を助成する「高齢者バス等優

待乗車助成制度」を実施している。

現行の申請手続きは、誕生日の前

月初め頃に市が案内文と申請書を

市民に郵送し、利用を希望すれば

行政窓口へ申請書を提出。その後、

審査を経て、専用の交通系IC

カードの作成・郵送となるわけだ

が、この間約2カ月かかっている

そうだ。

 今回、申し込み手続きは申請書

レスとし、①申請書の記入・入力

の代わりにマイナンバーカードか

ら基本情報を取得②利用者証明用

電子証明書による本人確認③IC

チップの空き領域へ優待乗車に必

要な情報を書き込む││一連の流

れを実証した。また、スマート

フォンによる事前申請により、手

続き時間をさらに短縮する試みも

行った。

 さらにバスの乗車・降車体験で

は一部を無効なカードとしたり、

他の交通系ICカードなどと一つ

のパスケースに入れて使用してみ

るなど、実運用さながらの実証を

マイナンバーカードの利用拡大へ姫路市で行われた実証についてレポートする。

Report

高齢者バス等優待乗車姫路市でカード利用を実証

マイナンバーカード利活用

レポート

姫路市 バス優待乗車実証イメージ

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13 新風 2018.4 

実施。

 姫路市総務局情報政策室情報政

策担当の原秀樹課長補佐は、今回

の成果について「利用申請から

カード交付までにかかる時間が大

幅に短縮され、市職員やバス事業

者の手間やコストを削減できる。

市民にとっては申請後すぐに優待

乗車が可能となり、利便性向上が

期待できる」と語る。

 乗車・降車体験では、交通系I

Cカードと比べ読み取りに時間が

かかることを指摘

する声が聞かれた

が、使い勝手の点

では他のICカー

ドと変わらないた

めモニターが戸惑

うようなことはな

かった。

 サービスが実用

化されるまでには、

運賃収受システム

機器のカード対応

やそれを搭載した

バス車両の拡大が

欠かせないことか

ら、それ相当の時

間がかかると予想

される。とはいえ、

カード保有率が他

の世代より高い高

齢者を対象とした

今回の試みは有用

なユースケースであろう。

 マイナンバーカードは健康保険

証としての利用も検討されている

ことから、高齢者がカード1枚

持ってバスに乗って病院へ行き、

帰りに図書館で本を借りる││と

いった利用が当たり前になる日も

決して遠くない。

カードで生活をもっと便利に

 モニターアンケートの結果を見

ても、マイナンバーカード活用が

利便性向上につながると評価され

たことが分かる。特に評価が高

かったのは、「申請書の記入が不

要になる」(約62%)と「身分証

と乗車優待カードが1枚になる」

(約55%)で、今回参加した市民

モニターの半数が「マイナンバー

カードでバス乗車優待が実現した

ら利用したい」と回答している。

 姫路市は、生活に密着した分野

でマイナンバーカードの多目的利

用を積極的に進めている。例えば、

「コンビニ等における証明書交付

サービス」や「図書貸出サービス」

で、昨年秋には地方認証プラット

フォームを利用し自動貸出機の

カード対応も実現した。ほかに「市

民開放インターネット端末でのマ

イナポータル利用」や「申請書自

動作成サービス」など次々と市民

サービスを充実させている。先述

のモニターアンケートでも「コン

ビニ等における証明書交付サービ

ス」で約37%、「図書貸出サービ

ス」では約30%が、サービスを「利

用したことがある・知っている」

と回答している。

 こうした取り組みについて、原

課長補佐は「カードの普及ととも

に、市民のQOL*の向上を目指

したもの」と話す。サービスの充

実がさらなるカードの普及につな

がり、その結果として窓口サービ

ス等の効率化につながっていく│

│だからこそ、普及とサービスの

充実を同時にかつ継続的に行うこ

とが重要といえるのだ。

 姫路市では今回の実証もそうし

た取り組みの一つと捉えている。

この成果を他のサービスへ利用で

きないか継続して研究するととも

に、今後は近隣圏域と連携した

カード活用なども検討したいと意

欲的に語っていた

(肥後大輔)

姫路市 実証実験全体像:マイナンバーカードの優待乗車制度(敬老パス)利用

市民

神姫バス

TKC J-LIS

姫路市役所

(署名検証)

❾運賃支払い

❺資格情報送信❹資格情報送信

❻優待乗車利用

❼運行実績データ送信

❷申込情報の 登録・審査

❸資格付与(AP搭載)

❽運行実績データ送信(運賃請求)

❶利用申し込み

〈バス車両〉

申込シーン運行シーン精算シーン

* quality of life:一人一人の人生あるいは生活の質のこと

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年11月、情報連携やマイ

ナポータルの本格運用が

始まったことで「マイナンバー制

度」への対応も一つの区切りを迎

えた感があります。しかしながら、

2018年度も延期されていた一

部事務の情報連携への対応を行う

など、まだやるべきことが残され

ています。加えて、来年予定され

る改元をはじめさまざまな法制度

改正への対応も必要です。そこで

今後予定される主な法制度改正の

概要と、それに向けたTKCシス

テムの対応についてご紹介します。

1.マイナンバー制度

延期されていた一部事務の

情報連携への対応

 今年7月に住民税などのデータ

標準レイアウトが改版され、延期

されていた国民健康保険や介護保

険、障害者福祉などの事務の一部

に関して情報連携が始まります。

そのため市区町村では事務フロー

の見直しや、改版後レイアウトで

の副本再登録等が必要です。

 TKCでは事務効率向上のため、

各業務システムの事務フローに情

報連携を組み込んでいます。3月

にはデータ標準レイアウト改版に

対応したシステムを提供しており、

5月からは団体用検証環境下での

テストを実施します。

マイナンバーカード等への

旧氏記載

 住民の希望に応じて、マイナン

バーカードや住民票、印鑑登録証

明書(見込み)等への旧氏記載が

行えるようになります。これに伴

い、住基システムのほか自動交付

機やコンビニ交付システムの改修

が必要です。

2.改元

 

昨年末、「天皇の退位等に関す

る皇室典範特例法」の施行日を定

める政令が公布され、来年4月30

日に天皇陛下が退位し、5月1日

に皇太子殿下が即位して新元号へ

の改元が行われることが決まりま

した。これにより、市区町村では

システム改修とともに通知書等の

帳票印刷の対応が必要となります。

 TASKクラウドでは元号管理

を一元化できる機能を搭載してい

るため、新元号を登録するだけで

改元直前の作業は不要です。

3.税制関連

個人住民税

①セルフメディケーション税制

 健康の維持増進や疾病予防のた

め一定の取り組みを行う個人が、

自己または自己と生計を一にする

配偶者など親族にかかる特定一般

用医薬品の購入費を支払った場合、

1万2000円を超える部分の金

額(上限額8万8000円)につ

いて所得控除が適用されます。

 TASKクラウドでは、通常の

医療費控除とセルフメディケー

ション税制による特例控除のいず

れか有利な控除を判定する機能を

搭載しています。

②給与所得控除の改正

 給与収入が1000万円を超え

る場合、給与所得控除額が220

万円に引き下げられました。

③給与所得にかかる特別徴収税額

通知(特別徴収義務者用)の改正

●特徴義務者用通知を書面で送付

する場合、個人番号や法人番号は

記載しないこととなりました。な

2018.4 新風 14

TASKクラウド

システムへの影響大

法制度改正等の概要と対応

TKC Support Information

昨 i

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お電子的に送付する場合は個人番

号等を記載することとなります。

●特徴義務者用通知を「副本」と

してeLTAXを使用して送付す

る場合、「正本」として送付する

場合の仕様と同じになりました。

また、光ディスクなどで「副本」

として送付する場合も同様となり

ます。

固定資産税

①土地にかかる負担調整について

は現行措置のほか、据置年度の下

落修正も継続されます。

②新築住宅、バリアフリー・耐震

改修などを行った住宅にかかる減

額措置の適用期限が、2年延長さ

れます。

③特定市の市街化区域農地を転用

して新築した貸家住宅などの減額

措置が廃止されます。

④特定生産緑地の指定または指定

期限が延長されなかったものにつ

いて、宅地並み評価とした上で激

変緩和措置が講じられます。

⑤前述の他にも、特例等の新設・

廃止・縮減が予定されています。

軽自動車税

 05年に始まった自動車保有関係

手続きに加え、軽自動車について

も保有関係手続のワンストップ

サービスが始まります。19年1月

から継続検査分が、また9月から

新車新規検査分がそれぞれスター

トします。

 これについて、TASKクラウ

ドでは、継続検査のための納付額

情報の出力・連携機能の提供を予

定しています。

4.社会保障関連

国民健康保険

 4月から都道府県が財政運営の

責任主体となる「国保制度改革」

が始まりました。これは都道府県

がそれぞれ統一的な運営方針を示

し、市区町村が担う事務の効率化、

標準化、広域化を推進することで

安定的な制度運営を目指すもので

す。これに伴い資格管理が都道府

県単位となり、国保情報集約シス

テムとの連携が開始されました。

 また、8月からは高額療養費制

度の見直しも予定されています。

介護保険

 高額介護サービス費の見直しが

行われ、8月から年間上限額が設

定されます。また、高額医療・高

額介護合算療養費制度の見直しも

行われます。

障害者総合支援

 今年4月、自立生活援助や就労

定着支援などの新サービスの創設

を柱とした改正が行われ、これに

基づく審査支払いが5月から始ま

ります。

4

後期高齢者医療制度

 保険料における軽減措置に関し、

18〜19年度にわたって後期高齢者

医療制度の見直しが行われます。

18年度以降、所得割額に対する軽

減特例がなくなるとともに、被用

者保険の被扶養者(被保険者)に

対する均等割額の軽減割合が5割

となります。なお、19年度以降は、

均等割額の軽減措置が資格取得後

2年を経過する月までの間に限ら

れることとなります。

5

幼児教育無償化の関連施策

 17年度までに、幼児教育につい

て①第2子半額②第3子以降無償

化(年収360万円未満相当世帯

は子供の年齢制限が撤廃)③ひと

り親等世帯の負担軽減措置の拡充

││が実施されました。18年度に

おいては、1号認定の子どもにつ

いて年収360万円未満相当世帯

の利用者負担を軽減する措置が予

定されています。

◇   ◇   ◇

 このように多くの改正が予定さ

れるとともに、来年10月から始ま

る「地方税共通納税システム」へ

の対応や「国民投票」の行方も気

になるところです。TKCでは、

早期の情報発信と万全なシステム

対応で、お客さまをご支援してま

いります。

(坂本宗俊)

15 新風 2018.4 

TKCサポートインフォメーション

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2018.4 新風 16

新風 2018.4 vol.110 2018 年 4 月 1 日発行

●バックナンバーはホームページからご覧いただけます。●本誌は、環境に配慮した植林木からつくられた用紙を使用しています。●この印刷物は地球環境に優しい「大豆インキ」を使用しています。マークは米国大豆油協会認定(世界共通)を表します。

不許複製・株式会社TKC*2018.4 ■ 内容に関するお問い合わせは地方公共団体事業部 営業企画部(028-648-2111) またはホームページへ  URL  http://www.tkc.jp/lg/

角 一幸湯澤正夫丸田淳次/肥後大輔/楠 英朗坂井淳徳/横山 良/広報部飛鷹 聡/中村 浩/坂本宗俊吉澤 智/松下邦彦/林 克己松山正男

黒崎将広(埼玉営業課)/武長浩史(関西営業第二課)武井勝美(関東信越営業部)田熊宏行(首都圏・西日本営業部)熊木富男

 栃木県宇都宮市鶴田町1758番地 TEL 028-648-2111㈹

株式会社 TKC 地方公共団体事業部株式会社 エス・プランニング榊 敏盛/根子 縁東京ラインプリンタ印刷 株式会社

発 行 人編 集 人編 集 室

編集委員

取材協力

フォトグラフ発 行 所

編集制作デザイン

印刷製本

財務書類の早期作成へ、予算科目の細分化を

稿

熊本県宇城市総務部次長 天川

竜治

 

地方公共団体における予

算・決算にかかる会計制度(官

公庁会計)は、予算の適正・

確実な執行を図るという観点

から「現金主義会計」を採用

しています。

 

一方で、現金主義会計では

把握できないストック情報(資

産・負債)や見えにくいコス

ト情報(減価償却費等)を把

握する必要があり、その補完

のため「統一的な基準」によ

る発生主義・複式簿記が導入

されました。

 

しかし、職員の多くは仕訳

等の複雑さから公会計へ苦手

意識があります。

 

また、仕訳のタイミングに

よって「日々仕訳」と「期末

一括仕訳」の仕訳方式があり

ます。「日々仕訳」は伝票起票

時に仕訳を決定し、「期末一括

仕訳」は年度終了後に一括で

仕訳を決定する方式です。

 

宇城市では、2016年度

予算から日々仕訳方式の地方

公会計システムを導入してい

ます。統一的な基準による発

生主義・複式簿記を導入する

にあたり、日々仕訳方式を採

用した場合は伝票入力担当者

に仕訳判断が任されるため、

簿記知識が足りない職員に

とって業務負荷になると想定

されました。職員による仕訳

判断を極力避けるためには、

予算編成段階から仕訳変換表

に沿って予算科目体系を設定

しておく必要があります。

 

そこで、予算編成時点で歳

出歳入科目の説明レベルで全

て一対一の仕訳コードを割り

振り、自動で統一的な基準仕

訳のデータに変換されるよう

にしました。これにより、職

員は説明コードを選択するこ

とで仕訳の知識がなくても、

随時自動的に複式仕訳ができ

る体制を構築しました。

 

期末一括仕訳方式は年度末

に一括して仕訳を行います。

ここで危惧されるのは、1年

分の伝票データ(宇城市規模

で約6万件)の仕訳・内容確

認をまとめて行うため、決算

統計などの通常業務を行いな

がら出納整理期間後に全ての

仕訳行うのは相当な業務負荷

になることです。

 

例えば「委託料」だけを見

ても、学校の実施設計委託料

等の資産形成につながる委託

料と、清掃費等の施設管理委

託料等の行政コストにつなが

る委託料が混在しており、伝

票データを1件ずつ確認する

のはかなりの手間と時間を要

すると思われます。

 

また、財務書類等を次年度

予算や行政評価に活用するた

めには早期に作成し公表する

のが望ましいとされています

が、期末一括仕訳方式の場合

は非常に負荷がかかると想定

されます。

 

公会計導入は“備えあれば

患いなし”の言葉の通り事前

準備が重要です。

●天川竜治(あまかわ・りゅうじ)

1992年、熊本県宇城市(旧三角町)入

庁。行財政改革担当などを経て、2008

年に

早稲田大学パブリックサービス研究

所招聘研究員、監査法人トーマツ大阪事務

所パブリックセクタ─へ出向。「地方公会

計の活用の促進に関する研究会」委員など

を歴任。2018年4月から現職

 多くの自治体職員がなじみのない地方公会計(複式簿記)について、文章ではなく、豊富なイラストや図表を用いて「複式簿記アレルギー」を少しでも低減させることを第一の狙いとした図解入門書。 複式簿記会計の知識がなくても地方自治体の公会計の仕組みが理解できるよう、熊本県

宇城市の事例を参考に「公会計とはなにか」「最低限知っておくべきことは」「でき上がった財務書類をどのように活用するのか」について分かりやすく解説されています。 財政課や会計課の担当者だけではなく、「複式簿記」が苦手な職員の方にもお勧めの一冊です。 (明慶正範)

公会計関連書籍の紹介

『図解よくわかる自治体公会計のしくみ』(学陽書房) 柏木恵・天川竜治共著