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Numerical Simulation of Mantle Convectionマントル対流における数値シミュレーション ~相変化が対流に与える影響~ Numerical Simulation of Mantle Convection

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  • マントル対流における数値シミュレーション ~相変化が対流に与える影響~

    Numerical Simulation of Mantle Convection ― Effect of Phase Transitions ―

    峰松 幸二

    Kouji Minematsu

    地球科学科 46期

    担当教官 岩瀬 康行

    平成 14年2月 27日

  • ii

    要 旨 本研究では、深さ 400km、670kmに相変化がある場合のマントルをモデル化し、

    マントル対流の時間変化を解析することによって、相変化がマントル対流にどのよ

    うな影響を及ぼしているのか数値計算を用いて解析した。モデルは、対流層を2次

    元箱型とし、マントルを非圧縮性流体と仮定する。対流層のアスペクト比は4:1

    とし、上下境界面(マントルと地殻底面及び核との境界)は自由滑り、温度一定、

    水平方向には反射境界条件を設定した。また、対流の強さを表わすレイリー数は

    Ra=106を用いた。マントル対流を支配する方程式は、(1)連続の式、(2)運動

    方程式、(3)熱輸送方程式である。計算方法は有限体積法を用いた。速度・温度

    場の解法に関しては運動方程式と連続の式を使って SINPLER法を用い、熱輸送方程

    式における移流項に関しては風上法を用いて数値計算を行った。数値計算によって

    得られたデータから(1)温度場の時間発展、(2)平均温度及びヌッセルト数の

    時間変化、(3)対流層内の水平方向に平均化した温度の鉛直分布等の解析を行っ

    た。その結果、(1)相変化が対流を遮る効果があること、(2)相変化がある場

    合、対流セルは、相変化がない場合に対して少なくなり長波の対流が生じるが、内

    部発熱を加えるとこの効果は弱くなり、対流セルは増えるということ、(3)相変

    化を考慮した場合、相変化がない場合に対し相変化強度が大きいほど温度上昇が大

    きくなること、(4)相変化強度が大きいほど、熱境界層を発達させる効果がある

    という結果を得た。

    本研究の結果から、相変化がない場合は1層対流であるのに対し、相変化を考慮

    した場合は、部分的(時間、領域)に2層対流を起こしていると考えられる。さら

    に、相変化がない場合に対して考慮していた相変化よりもさらに強度の強い相変化

    を与えた場合には、ほぼ完全な2層対流が生じることが示唆された。以上のことよ

    り、相変化はマントルに対し、対流構造を変化させる効果を持つことがわかった。

    また、本研究の解析で実際の地球に最も近いモデルでの結果より、地球は部分的2

    層対流をしていると考えられる。

  • iii

    目次

    要 旨 ........................................................................................................................................II

    1 序論 .................................................................................................................................... 1

    1-1 はじめに ................................................................................................................ 1 1-2 マントル構造 ........................................................................................................ 2 1-3 マントル対流 ........................................................................................................ 3 1-4 マントル対流の起こる条件 ................................................................................ 3 1-5 相変化 .................................................................................................................... 4

    2 基礎方程式 ........................................................................................................................ 5

    3 数値計算法 ........................................................................................................................ 7

    4 モデル ................................................................................................................................ 8

    5 結 果 ................................................................................................................................ 8

    5-1 平均温度の時間変化解析 .................................................................................... 8 5―2 温度場解析 ............................................................................................................ 9 5-3 水平方向に平均化した温度の鉛直分布 ............................................................ 9

    6 考 察 ................................................................................................................................ 9

    7 まとめ .............................................................................................................................. 10

    8 謝 辞 .............................................................................................................................. 10

    9 引用文献 .......................................................................................................................... 11

  • 1

    1 序論

    1-1 はじめに 地球表面は、様々なスケールの凹凸の地形で形成されており、その地殻変動の一

    般的要因の一つとしてプレートの相互作用によるプレートの衝突や離散、いわゆる

    プレートテクトニクスが挙げられてきた。しかし、全地球表面上には、プレートテ

    クトニクスだけでは説明できない地殻変動も多く起きている。例えば、アフリカ南

    部やその周辺の海洋低では 1億年前から現在までゆっくりと隆起し続けているにも

    関わらず、この周辺では 4億年近くもプレートの衝突が起きていない(Gurnis et al.,

    2000)。また、北米やオーストラリア大陸では、プレートテクトニクスが影響を及

    ぼす限界域(プレート境界から約 160km以内の範囲)を大きく超えた地域に大規模

    な上昇(隆起)・下降(沈降)運動が起こっている(Mitrovica et al., 1989)。このよ

    うな背景から、プレートテクトニクスが地表付近のダイナミクスを対象にしたのに

    対し、地球内部からの影響を考え、地震波トモグラフィーの発展とともにマントル

    と地球ダイナミクスにおける相互関係を解明する研究が進んだ(Karason and van der

    Hilst, 2000)。

    これまでの研究によって、マントルの構造、プルーム(巨大な上昇流や下降流)

    の発生、マントル対流及びプルームが大陸に与える影響等様々なことが分かり(例

    えば、Gurnis and Zhong, 1991)、マントルが地球ダイナミクスに大きく影響を与えて

    いることが確立された。しかし、まだ、マントルには未解析な部分が多い。プルー

    ムが実際にどのように発生し、その構造はどのようなものなのか。マントルはどの

    ように対流を起こしているのか(1層対流なのか、2層対流なのか、また別の対流を

    起こしているのか)。マントルは非常に長い時間スケールの解析を要するため、目

    に見える測定ができず、未だに空想の域を越えていない部分が多くある。

    このような発展段階のマントル解析の中で、本研究ではマントル中の相変化が対

    流に与える影響を調べる。マントルは深さ約 400km、約 670km、その他の深さで相

    変化が起きていると考えられている(Ringwood, 1991)。これまで、マントルがどの

    ような対流をしているのかという問題に対して、670kmの境界層の上部と下部で 2

    層対流を起こしているのではないかと考える研究者も多くいた(例えば、King et al.,

    1997)。現在は、高精度地震波トモグラフィーの映像から 1層対流をしているとい

  • 2

    う考え方が有力となっているが、相転移が例えば対流構造の変化やプルームの発生

    等マントルに対して何らかの影響を及ぼしているのではないかと考えられている

    (例えば、Karason and van der Hilst, 2000)。

    本研究では、数値計算を用いて、相変化がない場合と深さ 400km、670kmに相変

    化がある場合のマントル対流をシミュレーションし、マントルの温度場の時間変化

    を解析することによって、相変化がマントル対流にどのような影響を及ぼしている

    のかを考察する。

    1-2 マントル構造 地球内部は、物質の構成元素(化学成分)や相(結晶構造)の違いで区分する場合(化

    学区分)、地殻、マントル、核に分かれる(第 1図)が、これらはさらにそれぞれ

    上部地殻と下部地殻、上部マントルと下部マントル、外核と内核に細分される。そ

    の中でマントルは、地殻底面から深さ約 2900kmまでを占める層で、深さ約 670km

    の相変化を起こす深さで上部マントルと下部マントルに分けられる。また、マント

    ルは深さ約 400kmにも相転移があり、深さ約 400kmから 670kmまでを遷移層と呼ぶ。

    しかし、地震波トモグラフィー(第 2図。マントル中の地震波速度を測定し、その

    速度異常によりマントルを映像化する手法)によりマントルを解析した場合、密度

    の不均質性やスラブの沈み込み(スラブは深さ約 670kmで多く滞留が見られるが、

    深さ 1000km付近でも滞留している場合がある)により、深さ約 400kmや約 670km

    の他にも相転移が起きていると考えられている(Karason and van der Hilst, 2000)。

    マントル中の岩石は、上部マントルにおいてはカンラン岩と輝石を主体に構成さ

    れている。下部マントルにおいては、2つの説がある。1つは上部マントル物質がマ

    グネシウムペロブスカイトとマグネシウムの酸化物とに相転移したものという説で

    あり、もう1つは、元素組成としては上部マントルとは異なり、輝石を主としたも

    のでその高圧相(マグネシウムペロブスカイト)からなるという説であるが確定はされ

    ていない(Ringwood, 1991)。

    これまでの相変化に関する研究によって、深さ約 400km、約 670kmの相変化はそ

    れぞれ発熱反応、吸熱反応であること(Ito and Takahasth, 1989)や沈み込んだスラブ

    が深さ約 670kmの上部・下部マントル境界でいったん滞留し、その後崩落して核・マ

    ントル境界面上に堆積すること(Honda, 1993)等が分かっている。しかし、深さ約

  • 3

    670kmの相変化により対流が遮られていないという研究結果(Jordan et a l., 1993)も

    あれば、相変化とマントル対流構造の変化に相関関係が現れているという研究結果

    (King et al., 1997)もあり、相変化が対流に与える影響に関する結論は未だ完結して

    いない。

    1-3 マントル対流 マントルは短時間で起こる現象に対しては固体としての性質を示すが、地質学的

    な非常に長い時間スケールでは粘性流体として振舞うと推定されている。また、マ

    ントルは核から解放される熱やマントル内部に存在する放射性熱源により加熱され、

    それらの熱は地表から放出される。このような性質により、マントルは対流を起こ

    していると考えられている(Holmes, 1931)。また、マントル対流は 1年間に数 cm

    という非常に長いスケールで対流を起こっている。

    1-4 マントル対流の起こる条件 ある 3次元の直方体の領域を考えてみる。表面と下面は一定であり、下面の温度

    の方が高いと仮定する。この領域内の物質の動粘性率ν、熱膨張率α、熱拡散率κ

    は一定とする。この領域内で対流の起こる条件を考える。まず、上面と下面の温度

    差 Tが十分大きいこと(熱源が十分あること)が必要である。粘性率が小さいこと

    (流体として運動しやすいこと)や熱膨張率αが大きいこと(下面で暖めた時、温

    度差による浮力が十分働くこと)も対流運動を起こすかどうかを左右する。熱拡散

    率κが小さく、層の深さ Dが十分大きいこと(熱伝導に時間がかかること)も必要

    である。これらの条件を満たした時起こる対流をレイリー・ベナール対流と呼ぶ。

    対流を支配する運動方程式を無次元化すると、対流の起こりやすさは、下に示すレ

    イリー数 Raの大きさで表される。

    TDg

    Ra3

    (1)

    ここで gは重力加速度である。対流の起きていない熱伝導の状態に小さな擾乱を加

    え、擾乱が発達するかどうかを解析すると、対流が発生し始める限界レイリー数が

    あり、直方体領域の表面と下面を自由滑り(せん断応力 0)としたとき、限界レイリ

    ー数のオーダーは 103(球殻では 700程度)である(Chandrasekhar, 1961)。地球の

    内部の対流は今まで述べてきたレイリー・ベナール対流と比べると、マントル内部

  • 4

    に放射性同位元素に伴う発熱源を持つこと、粘性が温度・圧力・応力によって変化

    すること、直方体ではなく球殻であるということ等もう少し複雑であるが、ここで

    はレイリー・ベナール対流とみなして考える。地球内部で推測される物性値(g

    =9.8m/s2、 =3×10-5/K、D=2900km、 T=1500~3000K、 =1018m2/s、 =10-6m2/s)を

    用いると、Raは 105~107となる(瀬野, 1995)。これは限界レイリー数をはるかに

    超えている。したがって、地球内部では熱対流が起きているということになる。

    1-5 相変化 ここで、本研究の焦点となる相変化について述べる。

    相変化とは、ある相が圧力、温度の変化によりそれとは異なる相へ変化する現象

    をいう。例えば、水であれば水蒸気、水、氷間の変化である(第 3図は、水とマント

    ルの相変化を模式化したものである)。

    マントル中では、地震波速度が深さ約 400km、約 670kmで急激に変化する。この

    速度変化の原因として、(1)温度変化、(2)温度変化に伴う相変化、(3)化

    学組成変化が考えられている(Anderson, 1989)。化学組成の変化としては例えば Fe

    とMgの相対量の変化が提案されている。マントルを構成すると考えられている鉱

    物は高温・高圧化で様々な固体相変化(結晶構造の変化)を行うが、その中で最もマン

    トル中に多く存在する鉱物オリビンの相変化が重要であると考えられている。オリ

    ビンの高圧・高温化での実験結果によると、オリビンは深さ 400km付近でスピネルに

    変化し、670km付近ではスピネルがペロヴスカイトとマグネシオヴスタイトに転移

    することが挙げられている。深さ約 400kmの相変化は発熱反応、深さ約 670kmの相

    変化は吸熱反応であることが室内実験により確かめられている(Ito and Takahashi,

    1989)。また、対流の上昇流又は下降流は温度が周りに比較してそれぞれ高い又は低

    い。このため、相変化の起こる深さは必ずしも一定ではない。例えば、深さ 400km

    と深さ 670kmで相変化が起こる場合、遷移層厚は 270kmであるが、カリマンタンや

    スラウェシ島西部では遷移層厚は約 200km(大滝・他, 2001)、トンガ・ケルマデック海

    溝周辺では東側とそれ以外の周辺で約 20km~40kmの遷移層厚の差がある(末次・他,

    2001)ことが分かっている。

  • 5

    2 基礎方程式 マントルを粘性流体とみなしたとき,マントル対流を支配する方程式は、(1)

    連続の式、(2)運動方程式、(3)熱輸送方程式である。

    質量保存則は

    0vt

    r (2)

    (時間:t、密度: 、速度: vr)

    である。非圧縮性流体の場合、密度が一定なので

    0vr

    (3)

    となる(連続の式)。

    次に、運動方程式(運動量保存則)は、圧力を p、i方向の座標を xi、重力加速度

    ベクトルを gr、物体の変形によって生じる応力を ijとすると、

    gpDt

    vDij

    rr

    (4)

    である。ただし、

    vtDt

    D r (5)

    と定義される。

    ここで、構成方程式(物体の変形とそれに要する応力の関係式)

    ijijij 31

    2 (6)

    は、

    ii (7)

    i

    j

    j

    iij x

    vxv

    21

    (8)

    より、

    ijiji

    j

    j

    iij x

    vxv

    32

    (9)

    となる( ;粘性率、 i j;歪速度テンソル、 ij;クロネッカーデルタ(i≠jの時、 ij

    =0、i=jの時、 ij =1)。

    ここで、粘性率が一定であると仮定すると

  • 6

    gvpDt

    vD rrr 2 (10)

    となる。

    無次元化しブジネスク近似(圧縮性及び粘性発熱を無視した近似)を行うと運動

    方程式は、

    zeTTRavpDtvD rrr

    02 (11)

    (T:温度、T0:基準温度、 zer:鉛直方向単位ベクトル)

    となる。ここで、無次元化には以下の方法を用いた。

    tD

    t2

    (12)

    vD

    vrr

    (13)

    TTT (14)

    ijij D 2 (15)

    pD

    p 2 (16)

    ( :熱拡散率、D:対流層の深さ)

    「'」値は無次元量を示すが、以降、記号の煩雑さをさけるために「'」を省略する。

    無次元化とは、時間、長さ、速度等次元を持つ変数同士を掛け合わせることにより

    次元を持たない変数にすることである。

    運動方程式(11)の左辺は慣性項であり、マントルは熱拡散率に対して粘性が非

    常に高い(μ=1021~1023Pa)ので慣性項を無視すると、運動方程式は

    zeTTRavprrr

    020 (17)

    となる。尚、数値計算においてマントルに相変化を与える場合は、熱膨張率αを変

    え、浮力を変化させることによって相変化を近似的に表わすこととする(Reuteler et

    al., 1993)。本研究では深さ 400km、670kmの相転移を考慮し、みかけの熱膨張率を

    2670

    2670

    6702400

    2400

    4000 expexp1yy

    Ayy

    A (18)

    と与える。ここで、 0は基準熱膨張率、A400、A670はそれぞれ 400km、670km相転移

    に対する相転移強度、 400、 670はそれぞれ 400km、670km相転移に対する相転移の

  • 7

    起こる幅、y400、y670はそれぞれ 400km、670km相転移の起こる深さであり、yは深さ

    である。マントル物質のクラペイロンスロープに対する相変化強度は A400=-5、

    A670=5程度となる。

    熱輸送方程式(熱量保存則)は、定圧比熱Cp、温度 T、熱伝導率 k、単位質量、

    単位時間当りの内部発熱量 Hを用いると

    HTkDtDp

    TDtDT

    C ijijp (19)

    と記述される。運動方程式と同様に、熱輸送方程式を無次元化しブジネスク近似を

    行うと、

    RTDtDT 2 (20)

    となる。

    ここで、Rは内部発熱を表わすパラメータであり、

    TkHD

    R2

    (21)

    である。マントル物質での典型的値( =4.5×103kg/m3、H=5×10-12W/kg、D=2900km、

    k=4~8W/m/K、 T=2.4~4×103K) を代入すると、R=6~20となる。

    地球のマントル対流がレイリー・ベナール対流とは実際には異なるということは、

    「1-4 マントル対流の起こる条件」で述べた。その異なる原因の一つとして考えられて

    いるのが対流を駆動する熱エネルギーの違いである。レイリー・ベナール対流では下

    面の温度を上面の温度より高くすることにより、下面から内部へ熱エネルギーが渡

    される。マントル内部の放射性同元素の壊変に伴う発熱の地表から放出される全熱

    流量に対する割合をユーレイ比というが、地球のユーレイ比は放射性同位元素の存

    在量から約 50~80%と推定されている(Christensen, 1985)。つまり、地球の場合、

    熱源は下面から受けるよりも内部発熱の方が大きいか、ほぼ同等であり、内部発熱

    がマントルに与える影響は大きいと考えられている(瀬野, 1995)。

    3 数値計算法 本研究では、連続の式(式(3))、運動方程式(式(11))、熱輸送方程式(式

    (19))を用いて数値計算を行うが、それらの方程式を解く上で、式の離散化には

  • 8

    有限体積法を用いる(Patankar, 1980)。有限体積法とは、微分方程式の形で書かれ

    る基礎方程式を積分してから離散化する方法である。 有限体積法の利点は、運動

    量・質量・エネルギー等の物理量が保存されるということである。速度・温度場の

    解法に関しては SIMPLER法を用い、熱輸送方程式における移流項に関しては風上法

    を用いて数値計算を行った。時間刻みはクーラン条件を満たすように設定した。

    4 モデル マントル対流層はアスペクト比 4:1の2次元箱型(第 4図)とする。熱膨張係数

    に基準膨張率 0を用いた場合のレイリー数は Ra=106とした。

    境界条件は、上下面(マントルと地殻及び核との境界)で温度一定(地殻底面と

    マントル境界は温度 T=0、CMBは T=1)で自由滑り(せん断応力が 0)とする。

    水平方向境界条件は反射面であり、対流層で物体の出入りは無視する。密度、熱膨

    張率、熱拡散率、重力加速度は空間的に一定、温度・圧力・応力等に対する粘性率の

    変化に関しても考慮しない。初期条件は

    yxyyxT sin2cos5.01),( (22)

    と与えた。ここで、x、yはそれぞれ水平方向、鉛直方向の無次元化座標で、CMBで

    y=0、地表で y=1、左右の水平方向境界でそれぞれ x=0、x=1である。

    case1~8 の 8 つの解析モデルについて数値計算を用いて解析を行った(表)。有

    限体積数は case1~4では 200×50(水平方向×鉛直方向)、case5~8は 400×100で

    ある。case3、case4 および case8 では内部発熱を考慮し、それぞれ R=20(case3、

    case4)及び R =10(case8)の内部発熱を与えた。case1、5 は相変化を考慮しない

    (A400=A670=0)が、case2~4、6、8 では、A400=-5、A670=5、 400= 670=40km を与えた。

    比較のために case7では相変化強度を 2倍(A400=-10、A670=10)に設定した。

    5 結 果

    5-1 平均温度の時間変化解析 対流層の平均温度による解析を行った(第 5図、第 6図)。相変化の強度が強い

    ほど、相変化がない場合に対して平均温度が高くなることが分かる(第 6図)。相

  • 9

    変化強度が強い場合(case7)と内部発熱がある場合(case8)では、本研究の計算時

    間内には定常状態に達しなかった。

    5―2 温度場解析 第 7図~第 14図に対流層の温度場の時間発展を示す。

    相変化がない場合に対し、総じて、相変化がある場合では対流セル数が少なくな

    っている。特に、case5(第 11図、対流セル 2個)と case6(第 12図、対流セル 3

    個)はこの結果を顕著に示している。

    次に、相変化がある場合では、上昇流及び下降流が深さ 670kmを通る際に流れが

    遮られている(第 8、10、13、14図)。対流が妨げられる効果は、相変化の強度が

    強い場合(case7)では、深さ 670kmの上部下部マントル境界で広範囲にわたって確

    認できた(第 13 図)が、マントル物質に推測される相変化強度を仮定した場合には、

    時間的にも場所的にも部分的にしかこの対流が妨げられる効果は確認できない(第 8、

    10、14図)。また、対流が妨げられる効果は、下降流に強く影響していることが分

    かる(第 8、10、13、14図)。

    5-3 水平方向に平均化した温度の鉛直分布 水平方向に平均化した温度の垂直分布を第 15\図~第 18図に示す。

    相変化がある場合(case5)は、相変化がない場合(case6)に対し、マントル全体

    で温度が高いことが認められた。相変化強度が強い場合(case7)には、相変化を考

    慮しないモデルの結果と比べて、下部マントルで高温となるとともに、上部マント

    ルで大きな温度低下が見られ、上部マントルと下部マントルの平均的な温度差が大

    きくなることが確認できた。つまり、相変化が強ければ上部下部マントルの境界に

    熱境界層が発達することを示している。

    6 考 察 相変化がない場合の対流により形成される温度場には層構造は確認できない。ま

    た、定常状態になることや水平方向に平均化した温度の鉛直分布が対称であること

    から、相変化がない場合のマントル対流は1層対流であるといえる。これに対し、

    相変化がある場合には、深さ670kmの上下部マントル境界で上昇流、下降流が妨げ

  • 10

    られている効果が確認でき、上部マントルと下部マントルで平均的な温度の差が生

    じている。このことは、上部マントルと下部マントルそれぞれで対流(2層対流)

    が起こっていることを示唆している。そして、さらに相変化の強度が大きい場合、

    下部マントルでは熱の放出量が減少し、その結果温度上昇が起こり、上部マントル

    では下部マントルからの熱流入量が減少するために、温度降下が生じており、本研

    究では相変化強度が大きい場合にこの2層対流が発達することに伴う効果を確認で

    きた。また、その他の場合でも、相変化を考慮したモデルでは相変化強度が強い場

    合と比較すると熱境界層の発達は弱かったが、間欠的2層対流が生じた。以上のこ

    とより、本研究では相変化がマントルの対流構造を変化させるということが分った。

    7 まとめ 内部発熱及び相変化を加えた実際のマントルに最も近いモデル(case8)の結果は、

    部分的2層対流構造を示している。しかしながら、本研究はマントルをモデル化し、

    シミュレーションしたものであるので、マントル中の全ての事象を再現することは

    不可能であり、実際には「1-4 マントル対流の起こる条件」で述べたように、

    密度や粘性率の変化の影響も加わり、更に複雑である。一方、1年間に数 cmの変動

    という非常に長いタイムスケールのマントル対流を観測的手法により研究すること

    もまだ現実的に不可能である。このような状況の中で、高い精度でマントル対流を

    解明していくためには、地球物理学的見地からの考察のみならず、地質学、地球化

    学等、多方面の分野からの研究も必要であると考える。更には、マントル中の詳し

    い情報を解明するために、地球物理学の数値シミュレーション技術の向上等、地球

    ダイナミクスに関わるあらゆる分野の相互研究、相互協力が必要であると考えられ

    る。

    8 謝 辞 卒業研究によって、マントルの奥深さを知ると同時に研究の難しさを実感致しま

    した。何度も挫けそうになりましたが、担当教官である岩瀬先生の1年間にわたる

    熱血指導により、何とかやり遂げることができました。心より感謝致します。

  • 11

    また、五十嵐1尉、松田さんにも非常にご迷惑をおかけしました。1年間本当に

    ありがとうございました。よきアドバイザーになってくれた同期のみんなにも本当

    に感謝しています。

    振り返ってみるとたくさんの人たちに多大な迷惑をかけてしまいました。しかし、

    私の卒業研究はたくさんの人達に支えられたからこそやり遂げることができました。

    支えてくださった皆さんにこの場を借りてお礼申し上げます。

    9 引用文献 Anderson, D. L., 1989: Theory of the Earth. Blackwell Scientific, 366p.

    Chandrasekhar, S., 1961: Hydrodynamic and Hydromagnetic Stability, Oxford Univ. Press,

    652p.

    Chirstensen, U. R., 1985: Thermal evolution models for the Earth. J. Geophys. Res., 90, 2995-

    3008.

    Gurnis, M., 2001: Sculpting the Earth from inside out. Scientific American, March, 34-41.

    Gurnis, M and S. Zhong, 1991: Generation of long wavelength heterogeneity in the mantle by

    the dynamic interaction between plates and convection. Geophys. Res. Lett., 18, 581-584.

    Gurnis, M., J. X. Mitrovica, J. Ritsema, H. -J. van Heijst, 2000: Constraining mantle density

    structure using geological evidence of surface uplift rates: The case of the African

    Superplume, Geochem. Geophys. Geosyst., 1, Paper number 1999GC000035

    入船徹男・小室裕明・鈴木尉元・多田堯・西村敬一, 1995: 『地球内部の構造と運

    動』, 地学団体研究会編, 186p.

    Holmes, A., 1931: Radioactivity and earth movement, XVIII. Trans. Geol. Soc. Glasgow, 18,

    559-606.

    Honda, S., S. Balachandar, D. A. Yuen, D. Reuteler, 1993: Three-dimensional mantle

    dynamics with an endothermic phase transition. Science, 259, 1308-1311.

    Ito, E. and E. Takahashi, 1989: Postspinel transforms in the system Mg2SiO4-Fe2SiO4 and

    some geophysical implications. J. Geophys. Res., 94, 10637-10646.

    Jordan, T. H., P. Puster, G. Glatzmaier, and P. J. Tackley, 1993: Comparisons of seismic earth

    models and mantle flow models using radial correlation functions. Science, 261, 1427-

    1431.

  • 12

    Karason, H. and R. D. van der Hilst, 2000: Constraints on mantle convection from seismic

    tomography. in The History and Dynamics of Global Plate Motions, Geophysical

    Monograph 121, Am. Geophys. Union, 277-288.

    King, S. D., S. Balachandar, and J. J. Ita, 1997: Using eigenfunctions of the two-point

    correlation function to study convection with multiple phase transformations. 24, 703-

    706.

    Mitrovica, J. X., C. Beaumont, and G. T. Jarvis, 1989: Tilting of continental interiors by the

    dynamical effects of subduction. Tectonics, 8, 1079-1094.

    大滝壽樹・斉田智治・末次大輔・神定健二・竹中博士, 2001: 太平洋再縁沈み込み帯

    のマントル遷移層構造. 月刊地球, 23, 455-458.

    Patankar, S. V., Numerical Heat Transfer and Fluid Flow. Hemisphere Pub. Corp., 197p.

    Reuteler, D. M., D. A. Yuen, S. Balachandar, and S. Honda, 1993: Three-dimensional mantle

    convection: effects of depth-dependent properties and multiple phase transitions. Intr.

    Vid. J. Eng. Res., 3, 47-62.

    Ringwood, 1991: Phase transformations and differentiation in subducted lithosphere-

    implications for mantle dynamics, basalt petrogenesis, and crustal evolution. J. Geol., 90,

    611-643.

    瀬野徹三, 1995: 『プレートテクトニクスの基礎』, 朝倉書店, 190p.

    末次大輔・F. Niu・吉田康宏, 2001: 南太平洋下のマントル境界層構造. 月刊地球, 23, ,

    451-454.

    高橋栄一・巽好幸・谷本俊郎・玉木賢策・鳥海光弘・本蔵義守・本多了, 1997: 『地

    球内部ダイナミクス』, 岩波書店, 268p.

  • 13

    第 1図 地球内部の模式図。化学区分によって地球内部を分類したものである。

    (引用;http://www.wbs.ne.jp/cm/kenkei/osirase/bousai/bousai-h.htm)

  • 14

    第 2 図 地震波トモグラフィー。左図はハワイ諸島下のマントルの垂直断面トモ

    グラフィーであり、地表から核-マントル境界(CMB)までの地震波ト

    モグラフィーが示されている。赤い部分は地震波速度が低速度となる部分

    であり、青い部分は高速度となる部分として表されている。断面図の位置

    は世界地図に示されています。右図は CMBのトモグラフィー。黒三角は地

    表でのホットスポットの位置を示している。

    (引用;http://www.ehime-u.ac.jp/~grc/kenkyu2.html)

  • 15

    第 3図 相変化の模式図。左図は水の相変化を右図はマントル物質の相変化を示し

    ている。

  • 16

    第 4図 2次元箱型中のマントル対流数値シミュレーションモデル。対流層のアス

    ペクト比は4:1、上下境界面は自由滑りで温度一定、水平方向は反射境界

    面である。相変化を考慮する場合は、深さ 400km、670kmの相変化を考慮と

    する。

  • 17

    (a)

    (b)

    第 5図 平均温度の時間変化(case1~4)。(a)は case1、2の時間変化(内部発熱な

    し)、(b)は case3、4の時間変化(内部発熱あり)である。case1、3は相変化

    がない場合、case2、4は相変化がある場合である。横軸は時間、縦軸は温度で

    値は共に無次元化してある。

    0.48

    0.49

    0.5

    0.51

    0.52

    0.53

    0.54

    0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12 0.14 0.16

    時間

    温度

    0

    0.1

    0.2

    0.3

    0.4

    0.5

    0.6

    0.7

    0.8

    0.9

    1

    0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12 0.14

    時間

    温度

    case1

    case4

    case3

    case2

  • 18

    第6図 平均温度の時間変化(case5~case8)。横軸は時間、縦軸は温度で値は共に

    無次元化してある。青は相変化がある場合(case5)、赤は相変化がない場合

    (case6)、紫は相変化強度が大きい場合(case7)、緑は相変化及び内部発熱

    がある場合(case8)の結果を示している。

    0.45

    0.5

    0.55

    0.6

    0.65

    0.7

    0.75

    0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.3 0.35 0.4

    時間(無次元数)

    温度(無次元数)

    case8

    case7

    case6

    case5

  • 19

    (a)

    (b)

    (c)

    第 7図 温度場(case1)。(a) t=0.08、(b) t=0.10、(c) t=0.12の温度場。等温線間隔は

    0.1。アスペクト比は4:1。縦軸は対流層の深さであり、目盛りは 290km間

    隔。横軸の目盛りは 1450km間隔である。

  • 20

    (a)

    (b)

    (c)

    第 8図 温度場(case2)。(a) t=0.08、(b) t=0.10、(c) t=0.12の温度場。等温線間隔は

    0.1。アスペクト比は4:1。縦軸は対流層の深さであり、目盛りは 290km間

    隔。横軸の目盛りは 1450km間隔である。

  • 21

    (a)

    (b)

    (c)

    第 9図 温度場(case3)。(a) t=0.08、(b) t=0.10、(c) t=0.12の温度場。等温線間隔は

    0.1。アスペクト比は4:1。縦軸は対流層の深さであり、目盛りは 290km間

    隔。横軸の目盛りは 1450km間隔である。

  • 22

    (a)

    (b)

    (c)

    第 10図 温度場(case4)。(a) t=0.08、(b) t=0.10、(c) t=0.12の温度場。等温線間隔は

    0.1。アスペクト比は4:1。縦軸は対流層の深さであり、目盛りは 290km間

    隔。横軸の目盛りは 1450km間隔である。

  • 23

    (a)

    (b)

    (c)

    第 11図 温度場(case5)。(a) t=0.14、(b) t=0.18、(c) t=0.26の温度場。等温線間隔は

    0.1。アスペクト比は4:1。縦軸は対流層の深さであり、目盛りは 290km間

    隔。横軸の目盛りは 1450km間隔である。

  • 24

    (a)

    (b)

    (c)

    第 12図 温度場(case6)。(a) t=0.12、(b) t=0.14、(c) t=0.18の温度場。等温線間隔は

    0.1。アスペクト比は4:1。縦軸は対流層の深さであり、目盛りは 290km間

    隔。横軸の目盛りは 1450km間隔である。

  • 25

    (a)

    (b)

    (c)

    第 13図 温度場(case7)。(a) t=0.12、(b) t=0.14、(c) t=0.18の温度場。等温線間隔は

    0.1。アスペクト比は4:1。縦軸は対流層の深さであり、目盛りは 290km間

    隔。横軸の目盛りは 1450km間隔である。

  • 26

    (a)

    (b)

    (c)

    第 14図 温度場(case8)。(a) t=0.12、(b) t=0.18、(c) t=0.22の温度場。等温線間隔は

    0.1。アスペクト比は4:1。縦軸は対流層の深さであり、目盛りは 290km間

    隔。横軸の目盛りは 1450km間隔である。

  • 27

    (a) (b)

    (c) (d) 第 15図 水平方向に平均化した温度の鉛直分布(t=0.18)。(a):相変化がある場合

    (case5、t=0.26)、(b):相変化がない場合(case6、t=0.18)、(c):相変化強度

    が大きい場合(case7、t=0.16)、(d):相変化及び内部発熱がある場合(case8、

    t=0.22)。縦軸は深さ(km)、横軸は温度(無次元化温度)である。case5は

    青、case6は赤、case7は紫、case8は緑で表わされている。(a)~(d)には比較の

    ために case5の温度分布を青で示している。

    温度

    温度

    温度

    温度

  • 28

    表 マントル解析

    case1~4は有限体積 200×50、case5~8は有限体積 400×100

    モデル case1 case2 case3 case4

    相変化(A670) 0 5 0 5

    内部発熱(R) 0 20

    モデル case5 case6 case7 case8

    相変化(A670) 5 0 10 5

    内部発熱(R) 0 10