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機能性高体温症を疑う1例
喜界徳洲会病院 初期研修医
牧 秀則
症例
44歳男性
【主訴】
ふらつき 全身倦怠感 食欲低下 発熱
【現病歴】
5月頃から発熱がある。
4-5日前からふらふらして、壁伝いでないと
歩けない。
3-4日前からは食事量が急激に減り水分摂取だけしていた。尿はよく出ていたが口渇感はある。
【既往歴】 高血圧症 クモ膜下出血(2012年 Clipping)
【薬歴】 オルメテック20mg アムロジピン5mg フルイトラン1mg ランソプラゾール
環境
•普段は高校の用務員をしていて、9-15時で簡単な作業をしている
•体温をこまめに計測し、上昇傾向にある時は屋内で休憩している
•家にはクーラーがない
•水分は2L/日程度飲んでいる
よくわからない発熱
本人曰く・・・ 毎年夏になると発熱がある ・自然解熱することが多い ・今年も5月頃から38℃台の発熱が 出たり収まったりしている ・・・・らしい
入院時所見
【vital】
BP 71/41mmHg HR 95bpm
SpO2 97% BT 38.3℃
【身体所見】
頭部:眼瞼結膜貧血(-) 眼球結膜黄染(-)
頸部:頸静脈怒張(-) リンパ節腫脹(-)
口腔内:舌乾燥(+)
頭頚部:副鼻腔叩打痛(-) 項部硬直(-)
肺:air入り良好、左右差(-)
心音:整 雑音(-)
腹部:平坦 軟 腸蠕動正常
圧痛(-) 筋性防御(-) 反跳痛(-)
肝脾叩打痛(-) Murphy徴候(-)
CVA叩打痛(-) Mcburney(-) Lanz(-)
四肢:末梢冷感湿潤(-) チアノーゼ(-)
下腿浮腫(-) 把握痛(-) 関節腫脹(-)
皮膚:皮疹(-) 褥瘡(-) 湿潤(++)
【神経所見】
瞳孔(3+/3+)
上肢barre(右でやや回内)
Mingazzini(筋力低下のため評価不能)
Babinski(-) Chaddock(-)
指鼻(右やや稚拙)
膝踵(両側smooth)
回内回外試験:右やや稚拙
12神経異常はなし
【labo data】
CK 873 Glu 118
LDH 300 CRP 0.22
AST 16 Na 190
ALT 14 K 3.1
ALP 107 Cl 138
TP 7.3 WBC 6200
BUN 99.9 Hb 13.6
Cre 4.30
【尿検査】
尿浸透圧 669 mOsm
pH 5.0
比重 1.030
RBC 1-4/HPF
WBC 10-19/HPF
細菌 (-)
神経所見に関しては・・
•普段と変わりないとのこと
•2009年 SAHから同様の症状
•新規の神経症状はなし
•筋力低下はありそう
身体所見上、熱源は不明・・・
とりあえず、Naがえらいことになっている!
血圧も低いし・・・
身体所見、病歴からは明らかな脱水
→外液補充をメイン
Naの推移
100
110
120
130
140
150
160
170
180
190
200
1 2 3 4 7 9 11 12 21 25
発熱は続いた
・Na補正後も持続的な37~38℃台の発熱は継続
・途中尿路感染が発覚、加療後も変わらず
・炎症反応は正常
・毎年、夏季に同様の熱が出る
熱源は不明・・
頭部MRI 明らかな異常なし
胸腹部CT 明らかな異常なし
当然身体所見も何もなし・・・
追加検査
TSH 0.642 抗核抗体 陰性
FT3 3.3 ANCA関連 陰性
FT4 1.00 Ig-G 陰性
GH 0.53 Ig-A 陰性
PRL 49.8 Ig-M 陰性
ACTH 38.7 CH5 陰性
コルチゾール 22.5 リウマチ因子 陰性
ADH 3.2 抗CCP抗体 陰性
尿検査追加
尿中アドレナリン 8.8
尿中ノルアドレナリン 81.7
尿中ドーパミン 506.1
???
カルテを見返すと確かに夏に発熱・・・
「体温日記」 がつけてあった・・・
3-5回程度/日
職場で体温計測されているとのこと
7月の体温変動
36
36.5
37
37.5
38
38.5
39
月毎の平均体温
36.4
36.6
36.8
37
37.2
37.4
37.6
37.8
38
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月
発熱の特徴
•SAHのclipping後からの症状
•7-8月に発熱、9月頃になると引いていく
•気温の上昇に比例している
•日内変動は±1℃程度
•全身状態は比較的良好なことが多い
機能性高体温症
•病的意義が明らかではない不明熱の一種
分類(一例)
■neurogenic fever
■not neurogenic fever
ー小児思春期型
ー成人型(身体的併存症 +/- )
Neurogenic Fever(NF)
•頭部外傷の後に起こる非感染性の不明熱
•頭部外傷後患者の4-37%に起こる
•視床障害によるset pointの異常が原因
“Neurogenic fever”
Agrawal A, Timothy J,Thapa A Singapore Med 2007;
48(6) 492-494
Neurogenic fever
•外傷性脳損傷後に生じた不明熱
• 18歳以上であること
•悪性高熱の除外がされていること
•外傷性脳損傷
「入院2週間後に生存が得られたもの」 Neurogenic fever after traumatic brain injury:an
epidemiologicai study H J Thompson, J Pinto-Martin,
M R Bullock J neurosurg Phychiatry 2003 74:614-619
考察
•来院時の症状は脱水に伴う、高Naによるものと思われる
•熱源は不明だが、明らかにSAHのclippingが関係している
•厳密にはNFの定義にはあたらないが類似 要素がある
•出血もしくは手術が視床に影響した可能性がある
•左前頭葉が体温調節に関わっている可能性がある
結語
•季節性があり、発熱パターンからしても 薬剤性やNFにあたらない部分もある。
•周囲の方からの情報収集(発熱カレンダー)が本当に助けになった。情報収集は大切。
•珍しい症例であり、NFという概念の勉強をすることができた