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H24 年度ゼミ論文

EU 加盟に向けたアルバニアの挑戦

―「欧州の最貧国」から繁栄の 21 世紀へ―

九州大学経済学部

経済・経営学科 4 年

指導教員:岩田健治

学籍番号:1EC09074W

氏 名:田久保克明

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I

目次

フローチャート EU 加盟に向けたアルバニアと EU の歩み .................................... Ⅲ

アルバニア共和国略史(1912 年―現在) .................................................................. Ⅳ

本論文で使用する地域名と各地域に属する国名の一覧および加盟予定国・加盟候補国・

潜在的加盟候補国 ....................................................................................................... Ⅴ

はじめに ..................................................................................................................... Ⅵ

第 1 章 EU の拡大 ...................................................................................................... 1

1.1 欧州統合の歩み ................................................................................................. 1

1.2 EU の東方拡大 ................................................................................................. 2

(1) 冷戦の終結と「ヨーロッパへの回帰」 .......................................................... 2

(2) 中東欧とバルカン地方 ................................................................................... 5

第 2 章 アルバニアと EU ........................................................................................... 8

2.1 アルバニアとバルカン諸国の経済 .................................................................... 8

(1) マクロ経済状況 .............................................................................................. 8

(2) バルカン諸国との比較 ................................................................................. 18

2.2 EU 拡大の文脈におけるアルバニア ................................................................ 27

(1) EU と西バルカンの接近 .............................................................................. 27

(2) EU 加盟に向けたアルバニアの取り組み ...................................................... 28

(3) アルバニアの EU 加盟へのプロセス ............................................................ 33

第 3 章 アルバニアの EU 加盟への試練 ................................................................... 36

3.1 政治的・経済的な課題の識別 ......................................................................... 36

(1) アルバニアの加盟申請に対する欧州委員会意見 .......................................... 36

(2) 外部機関の調査データから見るアルバニアの課題 ....................................... 37

(3) 課題のまとめ ............................................................................................... 49

3.2 アルバニア経済の展望 .................................................................................... 50

(1) EU 加盟のために求められる経済成長 ......................................................... 50

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II

(2) 直接投資の流入 ............................................................................................ 52

結びに代えて .............................................................................................................. 57

参考文献 ..................................................................................................................... 59

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III

フローチャート EU加盟に向けたアルバニアと EUの歩み

アルバニアのE

U

加盟に向けた取り組み

2004~ヨーロピアン・パートナーシップ

(EP:政治的枠組み、理事会の決定)

1993発効 マーストリヒト条約 1999 発効 アムステルダム条約:東欧の民主化革命などに対応

2003 発効 ニース条約 :中・東欧の EU 加盟に対応

2009 発効 リスボン条約:将来的

な EU 拡大〔西バルカン〕に対応

1993 コペンハーゲン基準

1999~ 安定化連合プロセス(SAP:西バルカンが EU 加盟に至るための政策枠組み)

1992 貿易・協力協定 2006~2009 安定化連合

協定(SAA)の暫定協定

2009~ SAA(包括的基準

提示・政治戦略、契約)

2006~ 第二次 EP

2008~ 第三次 EP

1989~2006 PHARE

2000~2006 ISPA

2000~2006 SAPARD

1996~2006 トルコ(MEDA) 2007~2013 加盟前支援措置(IPA) 2014~2020 IPAⅡ

2007~(3 年周期)多年指向型金融枠組み(MIFF:予算プロセス①)

2007~(3 年周期) 多年指向型計画文書(MIPD:予算プロセス②)

(注)点線の四角で囲ったプログラムは、アルバニアは受けていない。

(出所)各種資料をもとに報告者が独自に作成。

2006 欧州理事会:西バルカンの未来

は EUの中に見出される事を再確認

2003 テッサロニキ・アジェ

ンダ:西バルカン政策の礎石

合同評議会(SAC)

で履行状況監視

1999 EU理事会は SAPのコ

ンディショナリティを定義

2000 フェイラ欧州理事会:

西バルカンは潜在的候補国

候補国・潜在的候補国への

加盟前支援

(

貿易)

条約

加盟基準

下地提供

改革優先

事項

EU の西

バルカン

への発信

1995 マドリード基準(強化)

2009 アルバニアが EU加盟申請

2012 欧州委員会がアルバニアを加盟候補国に推薦

1999 貿易特恵措置

2014~2020

新たな金融枠組み

毎年 進捗レポート

(欧州委員会)

審査

技術的支援(ノウハウ移転・実物投資)

補完 多国受益的 MIPD

補完

1999~2006 CARDS

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IV

アルバニア共和国略史(1912年―現在)

(出所)外務省 HP より抜粋。

年月 略 史

1912 年 オスマン・トルコ帝国から独立

1939 年 イタリアの保護領、後に併合

1944 年 共産党臨時政府樹立、全土解放

1961 年 ソ連と断交

1976 年 中国の経済・軍事援助停止

1985 年 ホジャ勤労党第 1 書記死去

1990 年 野党設立許可、複数政党制導入、外貨導入解禁

1991 年 初の自由選挙、臨時憲法制定、米・英と国交回復、EC と外交関係、IMF・世銀・CSCE 加盟

1992 年 総選挙で初の非共産政権樹立、OIC に加盟

1994 年 PFP 包括協定、PFP 個別協定調印

1995 年 欧州評議会に加盟

1997 年 ねずみ講問題を発端とする騒乱が発生。6 月の総選挙の結果、社会党を中心とする連立政権成立

1998 年 新憲法制定

2000 年 WTO 加盟

2003 年 EU との間で安定化・連合協定(SAA)交渉を開始

2006 年 EU との間で安定化・連合協定(SAA)に署名

2009 年 NATO 加盟

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V

本論文で使用する地域名と各地域に属する国名の一覧および加盟予定国・加盟

候補国・潜在的加盟候補国

西バルカン (7 カ国)… アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、マケドニア旧ユーゴスラビア共和国(以下マケドニアと表記)、クロアチア、セルビア、モンテネグロ、コソヴォ共和国1(以下コソヴォと表記) (これらは同時に安定化連合プロセス(SAP)対象国と重なる)

東バルカン(2 カ国)… ブルガリア、ルーマニア バルカン(9 カ国)… 西バルカン + 東バルカン 中東欧(5 カ国)… ポーランド、ハンガリー、チェコ、スロヴァキア、スロヴェニア 中・東欧(8 カ国)… 中東欧 + バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア) 東欧 10 カ国(10 カ国)…中・東欧 + 東バルカン 東欧(17 カ国)… バルカン + 中・東欧 加盟予定国… クロアチア(2013 年 7 月予定) 加盟候補国… マケドニア、アイスランド、モンテネグロ、セルビア、トルコ 潜在的加盟候補国… アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソヴォ

各地域の位置と関係のイメージ図

(出所) 各地域に属する国の分類とイメージ図は報告者が独自に作成。

1 日本は 2008 年に国家として承認。承認しているのは 2012 年 11 月現在 91 カ国。

バルト

三 国

(3)

中・東欧(8)

バルカン(9)

東欧 10 カ国(10)

東欧(17)

西バルカン

(7)

東バル

カ ン

(2)

中東欧(5)

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VI

はじめに

ヨーロッパの裏庭バルカン半島の南西部に位置し、西ではアドリア海を挟んでイタリア

の長靴の踵と向かい合い、東ではアレクサンダー大王の導きにより、かつて覇を唱えたマ

ケドニアと隣り合い、南においては欧州の文明が発祥したギリシャと国境を接する国、そ

れはアルバニア共和国である。建国から 101 年、共産主義政権が倒れてから 21 年、アルバ

ニアは今、貧困から抜け出さんと発展の道を邁進する途上にある。2000 年代において、平

均の経済成長率は凡そ 5%に達して、失業率は逓減しており、全国各地で対外援助を活用し

た各種プロジェクトが進行中である。将来的な EU 加盟を見据えた改革も怠らない。順調

な様子を見せているその経済社会も、少し前までは悲惨な状況が続いていた。歴史的に続

いていた、といってもいいかもしれない。

アルバニア人は古くからバルカン半島に住んでいた古代イリュリア人の末裔と云われて

いる。今のアルバニアの地域に住むようになったのは、6 世紀に南スラブ人がバルカン半島

に進出し、追われるように、山岳地帯に逃げ込んでからである。バルカン半島は様々な国

が勃興しては滅亡し、大国が侵略してきては撤退し、という国境線や民族が不安定で流動

的な地域であった。現在のアルバニアのある場所も、古代ローマ帝国やビザンツ帝国、ブ

ルガリア帝国、セルビア王国、オスマン・トルコ帝国といった国が代わる代わる支配した。

そのような大国の支配に対して、15 世紀半ばにオスマン・トルコ帝国からの独立を求めて

立ちあがったスカンデルベグは、民族的英雄として今でも尊敬されている。その結果アル

バニアは広汎な自治権を得ることにはなったものの、その後も支配は続き、第一次バルカ

ン戦争が勃発した 1912 年になって、漸く独立を果たしたのであった。だが安閑な時が訪れ

る間もなく、第一世界大戦がはじまり、そして第二次世界大戦にも巻き込まれた。後者に

おいては、イタリアに武力で併合され、ドイツにも侵略された。そのドイツ軍の攻勢に対

して、人民解放運動を指揮して、反ファシスト会議を開き、臨時政府を樹立したのが、エ

ンベル・ホジャであった。1944 年、ホジャを首相とした労働党を中心とする組閣がなされ

た。ホジャは厳格なマルクス=レーニン主義に基づく政治を行い、西側陣営だけではなく、

修正主義的な側面が見られた東側陣営の諸国とも関係を断っていった。経済発展は芳しく

なく、外国からは、欧州の「第三世界」、欧州の「最貧国」と揶揄された。ホジャによる独

裁は 1985 年の彼の死まで続いたのであった。

ホジャの死後も共産主義政権による支配が続いたが、1980 年代末の東欧の「民主化の波」

にアルバニアも押されて、1991 年には遂に複数政党制による選挙が実施された。翌年の選

挙においてようやく、非共産主義的政党である民主党が政権を奪取するに至り、労働党は

その地位を追われることとなった。そして 1990 年代以降、アルバニアは社会主義体制から

の転換を図った。それと同時に、「鎖国」的な独裁政権時代とは決別し、次々と諸外国や国

際機関との関係構築に邁進した。2000 年以降、特に EU との接近を試みているアルバニア

は、EU と様々な協定を結び、援助プログラムを積極的に受けている。2009 年には欧州委

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VII

員会に加盟申請を申し出るまでになった。EU 加盟の条件を満たしていないとして、その申

請は却下されたものの、欧州の「最貧国」と呼ばれたアルバニアが EU 加盟を見通せる段

階にまでなったことは注目に値するだろう。その加盟申請に対して、欧州委員会が提出し

た意見書は、アルバニアの今後の課題を浮き彫りにした。本稿では、アルバニアが市場経

済化、民主化、自由化を図りつつも、将来的には EU 加盟を目標としている現状を踏まえ、

アルバニアの EU 加盟への障壁を明らかにする事を意図している。その際には、EU 拡大の

文脈の中での西バルカンやアルバニアの位置付け、またバルカン地域におけるアルバニア

の存在、という視点を意識することで、より客観的・相対的にアルバニアという国を捉え

たい。

まず第 1 章では、EC/EU の拡大政策の歩みと、その東方拡大の意義をみることで、アル

バニアまでも EU の射程圏に入れるようにまでになる、その歴史的背景を確認する。第 2

章では、アルバニアと EU との現在までの関係に焦点を当てる。アルバニアは 1990 年代か

ら EU と様々な形で関係を持ってきたため、協定や援助プログラムの相互の位置・意味関

係が複雑であるので、それを可能な限り体系的、経路的に整理して説明を試みる。この章

ではまた、そもそもアルバニアの経済はどのような状況であるかについて、他のバルカン

諸国と比較しながら述べられる。最後の第 3 章では、これまでの章を踏まえて、EU に加盟

するために乗り越えなければならない壁について、欧州委員会の意見や各種定量的リサー

チを参考にして、その意味する所に注意しながら分析がなされる。その上で特に経済面に

的を絞り、発展が遅れている地域には必要といわれる直接投資について若干の考察が試み

られる。

日本にとってアルバニアは縁の薄い存在であるため、一般的にその存在はあまり知られ

ていない。日本語の研究資料も限られている。バルカン地域を研究する際には、かつての

隣国の旧ユーゴスラビア社会主義連邦共和国の陰に埋もれてしまっており、アルバニアへ

の言及が無い事もしばしばである。EU とアルバニアの関係、及び EU 加盟への課題を、体

系的・総合的に論じたものは日本語文献においてはないと思われるので、その意味で本稿

は挑戦的なものとなっている。しかし EU 拡大の文脈においては、アルバニアはその「最

終ランナー」に位置しており、EU 統合の終着点を見極めるには知る必要のある国である。

無論、EU 加盟を前提としない欧州近隣諸国政策の対象国も、将来的な EU 加盟の可能性が

完全に閉ざされている訳ではないが、西バルカンで EU の拡大政策に一区切り付く事に変

わりはない。「西バルカン諸国が EU の加盟国になるまでは、ヨーロッパの統一のプロセス

は完結しない」2とかつて述べた人もいた。EU 統合の行く末、西バルカンの運命、アルバ

ニア躍進の鍵、拙稿はそういった観点に関心を持たれた方の理解の一助になれば幸いであ

る。

2 ロマーノ・プロディ元欧州委員長の発言。田中俊郎・庄司克宏編著[2006]p.71 より引用。

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第 1 章 EU の拡大

1

第 1 章 EU の拡大

1.1 欧州統合の歩み

欧州連合(EU)を語る時には、「深化」と「拡大」という言葉が使われる。前者は単一市場

や共通通貨といった、統合の発展・制度の深まりを指し、後者は、加盟国の増大を意味す

る。EU は、欧州共同体(EC)と呼ばれた時代やそれ以前の時代から、両者が密接に絡まり合

って発展を続けてきた。

欧州統合の起源は、第二次世界大戦後の 1952 年に設立された、欧州石炭鉄鋼共同体

(ECSC)にまで溯る事が出来る。その基になった ECSC 条約は、1951 年にパリで調印され、

フランスと西ドイツ、イタリア、ベネルクス諸国(オランダ、ベルギー、ルクセンブルク)

を共同体の中に一つにまとめ、石炭と鉄鋼の自由な移動と生産資源への自由なアクセスの

組織化を狙いとした。こうした背景には、圧倒的なパワーをもつアメリカとその対抗軸と

しての社会主義国ソ連の狭間における欧州の影響力低下への懸念や、欧州の東側がソ連の

支配下におかれた事による安全保障問題、戦争により荒廃した経済・社会の急がれる立て

直し、という事態が存在した。構想したのは「欧州統合の父」と呼ばれるフランスのジャ

ン・モネであり、具体化したのは、フランスの外相、ロベルト・シューマンであった。そ

の後、1957 年に欧州連合機能条約、つまりローマ条約が調印され、欧州経済共同体(EEC)

と欧州原子力共同体(EURATOM)が創設された。これ以降出てくる条約は全て、ローマ条約

の上に築かれたものであり、1992 年に調印される欧州連合条約、いわゆるマーストリヒト

条約と並んで EU を構成する主要な条約である。1967 年に発効したブリュッセル条約によ

り、ECSC 及び、EURATOM、EEC は欧州共同体(EC)の下に統合され、1987 年調印の単

一欧州議定書では 1992 年までに域内市場を達成するという野心的な目標が定められた。前

出のマーストリヒト条約において、遂に EU が設立され、経済・通貨同盟と、外交・貿易

政策の分野、警察・司法の領域の三本柱が打ち立てられ、EU はそれを基盤として欧州統合

を進めることとなった。その後のアムステルダム条約(1999 年発効)におけるもっとも象徴

的な改正は、中・東欧など 10 カ国の将来の加盟のために枠組みが書かれたことである。2001

年発効のニース条約においては拡大した EU を想定して、それを適切に運営できるように

した。それらの国々は後述するように、元社会主義国であった。最新の条約は、2009 年に

発効したリスボン条約である。それは加盟国の批准手続きの過程で挫折した欧州憲法条約

に代わるものであったが、内容的にはほぼ同一のものである。先に述べた、三本柱構造を

変更し、EU に一本化したことで、EU は法人格を有し、条約や協定を諸外国と結べるよう

になった。また、この条約は将来的な更なる EU の拡大を見据え、加盟国増大に伴い予想

される弊害に対処するものとなった。以上のように EU の統合の「深化」の側面を見てき

たが、次は「拡大」についてみてみよう。

最初の EU の拡大は、1973 年になされた。デンマーク、アイルランド、イギリスが原加

盟国に加えて新たなメンバーとなって、EU は巨大な経済圏を構築し、他の欧州諸国に圧倒

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第 1 章 EU の拡大

2

的な影響力をもつようになった。第二次拡大と第三次拡大は、1981 年と 1986 年になされ、

「南への拡大」と呼ばれた。1970 年代は右翼独裁政権の失墜が起り、民主主義の復活がな

された時期であった。その過程の中にいたのが、第二次拡大メンバーのギリシャであり、

第三次拡大のメンバーであるスペインとポルトガルであった。これらの国は EU に入るこ

とで、民主化と経済発展の道を切り開こうとしたのである。「北への拡大」と評される 1995

年の第四次拡大においては、オーストリア、フィンランド、スウェーデンが加盟した。こ

れらの国は欧州自由貿易連合(EFTA)を構成する国であった。次に、20 世紀末の冷戦の崩壊

により、社会主義国から民主化・市場経済化を図った東欧諸国が EU に加盟したのが、第

五次拡大である。それは二度に分けられ、2004 年は、中東欧のポーランド、チェコ、ハン

ガリー、スロヴァキア、スロヴェニアの 5 カ国に加えて、エストニア、ラトビア、リトア

ニアのバルト 3 カ国、島国であるキプロス、マルタの計 10 カ国が加盟した。それに遅れる

こと 3 年、加盟条件を満たせなかったことで 2004 年に入る事が出来なかった、ブルガリア

とルーマニアの東バルカン 2 か国が 2007 年に加盟した。こうした東欧諸国の加盟は EU の

「東方拡大」と呼ばれているが、その経緯や意義については次の節に回す。さらに、2013

年 7 月 1 日には、西バルカン地域のクロアチアの加盟が予定されており、EU は 28 カ国体

制を迎えることとなる。

このような拡大は EU に何をもたらすのだろうか。一般に言われることは、加盟国が増

えることで、欧州は「平和・安定・繁栄」を享受できるということである。なぜなら EU

の拡大過程においては、EU が大事にする民主主義や人権の尊重、マイノリティの保護とい

った価値を広めることとなり、そのことが加盟国、ひいてはその外側の領域にある国々に

まで影響を及ぼすからである。また、また新たな国が入ることで、企業が低コストの生産

基地を確保でき、貿易が増大するといった経済的利益も指摘される。一方で、拡大に否定

的な意見もあり、旧加盟国の労働市場への悪影響や社会的・政治的緊張の高まりにより、「欧

州の結束」が浸食されるといったことも言及される。現に EU の拡大は利益だけをもたら

してはいないが、それでも深化を伴って EU は今日まで発展してきており、これからも EU

はその「拡大」と「深化」の歩みを止めることはないであろう。

1.2 EU の東方拡大

(1) 冷戦終結と「ヨーロッパへの回帰」

東欧がまだ社会主義国であった時代は、冷戦によりヨーロッパが分断されている状態で

あった。西欧では民主主義・資本主義を謳歌していたが、東欧はソ連の軍事力による支配

下におかれ、政治的自由も、経済的自由もなかった。東欧諸国はそれまで幾度か独立への

試みを敢行したが、いずれも失敗に終わった。その流れが変わるのが、ソ連のゴルバチョ

フが主導したペレストロイカと呼ばれる一連の改革であった。ソ連は「体制選択の自由」

を許可すると、それまで抑えつけられ、苦難に耐えていた東欧諸国は、自立の方向へ走っ

た。民主化革命の始まりである。ソ連が崩壊し、彼らが主権を回復すると、「ヨーロッパへ

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第 1 章 EU の拡大

3

の回帰」を志向し、EU や NATO への加盟を求めた。東欧諸国は、市場経済化、自由化、

民主化へと舵を切ったのであった。

困惑したのは EU であった。当時 EU は市場統合が進展中であり、通貨統合もプログラ

ムとして浮上していた。だが東欧諸国の加盟申請を断るわけにはいかなかった。「東方」は

第二次世界大戦後、西側から分断されたという歴史的事実があり、それを修復し、冷戦を

克服しなければならないという規範的意識があったからである3。「価値」をこれまで発信し

てきた EU は、この地域にも平和と民主主義、安定を浸透させる責務があり、それは同時

に EU の利益にも結びついていた。EU は欧州協定を中・東欧各国と結び、将来の EU 加盟

を明確に確約したわけではなかったものの、一先ずは援助と貿易により関係を深めようと

した。それぞれの国の改革を金融支援するプログラムとしては、PHARE プログラムが計画

された。これは元々ポーランドとハンガリーが対象だったが、後に名前はそのままその他

の国にも適用され、民主主義と市場経済の建設を援助した。また中・東欧諸国は、体制転

換をしており、経済水準も低かったため、そういった国を加盟させるのは EU にとって挑

戦であった。そこで EU は 1993 年の欧州理事会で、「コペンハーゲン基準」と呼ばれるも

のを打ち出し、中・東欧にこの基準を満たすよう求めた。これを以下に記す。

「各国は以下に要求される経済的・政治的条件を満たすことによって、加盟国の義務

を果たすことが出来ると思われるとただちに、加盟は行われるだろう。

・民主主義、法の支配、人権、マイノリティの保護と尊重を保証する安定的な制度

・正常に機能する市場経済の存在、及び EU 内での競争圧力と市場の力に対処する

だけの能力

・政治、経済、通貨の同盟という目的に忠実であることを含めた、EU 構成国として

の義務を引き受ける能力

欧州統合の勢いを維持しつつするためにも、EU の新加盟国を吸収できる能力もまた、

EU と加盟候補国の一般的利益において、考慮されるべき重要なことである。」

またそれから 2 年後のマドリードにおける欧州理事会において、「欧州共同体の法制度を実

行するだけの適切な行政と司法組織の存在」が第 4 番目の条件として追加された。これは

旧社会主義国の中・東欧が、特に農業政策や構造的政策において、EU の法制度を採用する

のはともかく、実践する能力が不安に思われたからである。コペンハーゲン基準に話を戻

すと、1 番目の基準は政治的条件と呼ばれ、2 番目は、経済的条件、3 番目は、アキ・コミ

ュノテール4(以下アキ)を受容する能力のことを指すので、法的条件と言われることがある。

経済的条件における、「正常に機能する市場経済の存在」とは、EU の見解によると、貿易

と価格の自由化、企業の新規参入と退出に大きな障害が無い、経済的権利と契約が法的に

3 羽場・小森・田中[2006]pp.128-129 参照。 4 アキとは、「EU の法体系の総体をさし、全加盟国を拘束する共通の権利・義務をいう。EU に加盟を希

望する国はこれを尊重し、自国において適用しなければならない。」佐藤[2006]p.109 より引用。

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第 1 章 EU の拡大

4

保証されている、マクロ経済の安定性の 4 項目で計られる5。「EU 内での競争圧力と市場の

力に対処するだけの能力」は、「正常に機能する市場経済の存在」に加えて、インフラ(エネ

ルギー、通信、輸送など)、金融環境、教育・研究が充分に発達していることをいう6。この

厳格な導入された背景には、「拡大は深化を犠牲にしてはならない」という EU の思想があ

る7。この基準は EU が信奉する「価値」を表現したものだが、元々はマーストリヒト条約

の条文を下地にしたのであった。この条約は非常に大事な内容で、これからの EU の拡大

にもかかわる原則なので、ここで引用しよう。なお、マーストリヒト条約ではなく、後々

の議論のためにもリスボン条約からとるが、内容に実質的な変化はない

「49 条

2 条に言及された価値を尊重し、かつその価値を促進することを約束する欧州のいずれ

の国も、同盟への加盟を申請することができる。

2 条

欧州同盟は、人の尊厳、自由、民主主義、平等、法の支配の尊重、および少数者に属

する人々の権利を含む人権の尊重という価値に基礎を置く。これらの価値は、多元主

義、非差別、寛容、公正、連帯および男女平等により特徴づけられる社会にある加盟

国に共通のものである。」8

ここで、話を中・東欧に戻そう。EU と協定を結び、資金・技術支援も受けた各国は、改

革を進めていった。1997 年には、「アジェンダ 2000」が発表され、次の世紀の拡大、つま

り中・東欧諸国の加盟に伴う問題点を踏まえて、農業政策や地域開発政策の改革の指針が

与えられた。EU が突きつけた加盟基準は、中・東欧諸国に民主主義や市場経済を早期に定

着させる要因となったが、ただその道のりは順調であったわけではなく、同時に加盟候補

国の国民の間では、EU の要求を飲んで国益を犠牲にしているという風潮も広がり、ナショ

ナリズムや右翼的な政党が台頭するきっかけとなった。こういった感情的な問題はあった

ものの、経済的には EU と中・東欧は明らかに利益を享受した。中・東欧は低賃金の生産・

輸出基地を西欧に提供することで、貿易の増大と経済成長が進み、西欧の製造業はそのお

かげで競争力強化を図れて、有望な消費市場も確保できた。こういった多国籍企業任せの

成長は「借り物経済」とも呼ばれるが、一方でルーマニアやブルガリアなどの東バルカン

の経済は直接投資の流入がそれほど進まないで、労働者の流出が起きている。これには未

だ民主主義が不完全であることや汚職、組織犯罪の蔓延、不十分な司法制度、西欧との地

理的な距離といった要因が考えられる。

5 田中[2007]p.16 参照。 6 同上。 7 小山[2004]p.15 参照。 8 鷲江[2009]p.110,153 より抜粋。

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第 1 章 EU の拡大

5

(2) 中東欧とバルカン地方

1990 年代に改革を推し進め、無事 EU に加盟した中東欧だったが、アルバニアを除く西

バルカン諸国の 1990 年代は紛争の時代であった。旧ユーゴスラビア社会主義連邦共和国の

崩壊は、多様な民族で構成されていたこの国を争いの渦に巻き込んだ。1991 年はスロヴェ

ニアで、1991~1995 年はクロアチアで、1992~1995 年はボスニア・ヘルツェゴビナで、

1999 年はコソヴォで紛争が起きた。スロヴェニアの被害は軽微だったものの、クロアチア

人とセルビア人との争いは激烈だった。アメリカの PR 会社によって、「民族浄化」という

言葉が開発され、世論の感情は逆なでされたが、内実はどちらが悪いという白黒つくよう

な侵略的なものではなく、本質は内戦であった。これにより旧ユーゴスラビアの国土は痛

み、体制移行のための改革が遅れたのであった。

そもそも中東欧とバルカン地方とでは様々な面で差異がある。中東欧はカトリック文化

圏であり、ハプスブルク帝国の範囲とほぼ一致する。EU の分類に従って、クロアチアを西

バルカン地域の中に含めているが、文化的には中東欧側である。教会は国家権力と密接に

結びついていなかったため、市民社会が発展する素地があった。所有権を正当化するロー

マ法が伝わっていたため、これは市場経済発展の基礎となったとも言われている。それに

対して、バルカン地方は、ビザンチン帝国の支配を長きに渡り受け、ギリシャ正教が根付

いた。後の時代にはオスマン・トルコ帝国の支配を受けたので、イスラム教も普及したが、

宗教には寛容な態度をとったため、バルカン地方はギリシャ正教は生き残り続けた。ギリ

シャ正教は国家権力と分かち難い関係にあったので、市民社会が発達する機会がなかった。

またローマ法は伝授されておらず、所有権概念が普及しなかった。こういったことから、

社会主義以前の時代において、バルカンは中東欧に比べて、市民社会・市場経済の面で後

れをとっており、他にも様々な要因はあるが、それが冷戦崩壊後の、両地域の発展の差に

つながったと考えられる。実際、バルカン諸国の方が農業の比重が高く、経済が脆弱であ

る。このように歴史的、政治的、経済的、文化的、宗教的違いが両地域にあることが分か

ったが9、これを視覚的に示したものが図表 1-2-1 である。第五次拡大の第一陣の国々(ここ

では中・東欧 8 カ国)は、境界線の上側に描かれ、バルカン諸国は下側に位置している。第

五次拡大の第二陣によって、この境界線が突破されたわけであるが、東バルカン諸国は加

盟後も付随措置として欧州委員会の監視下に置かれるという条件付きでの加盟であった。

これからの EU の拡大は、そういった合格点には程遠い国々が入ってくることになる。

9 このあたりの記述は小山[2004]、田中[2007]を参考にした。

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第 1 章 EU の拡大

6

図表 1-2-1 欧州の「新境界線」

(注)赤丸がアルバニア。セルビアの南部に現在ならコソヴォがある。

(出所)小山(2004)より抜粋。元データは『日本経済新聞』1995年 7 月 11日付。

最後に、中東欧とバルカン地方との定量的な比較を、経済と人口規模の面において行う(図

表 1-2-2)。一見すれば明瞭であるが、西バルカン 7 カ国は、中東欧 8 カ国に人口、GDP、

一人当たり GDP で圧倒的に差をつけられている。西バルカンは、人口においては中・東欧

の 3 分の 1、GDP においては 7 分の 1、一人当たり GDP においては 2 分の 1 である。因

みに西バルカンの人口はルーマニアの人口より少し多いくらいである。中東欧が加盟した

時には、特に経済的な観点から大きな衝撃をもって迎えられたが、西バルカンの場合、将

来は成長していることを考慮しても、加盟後の EU へのインパクトは小さいように思われ

る。前向きにとらえれば、まだまだ経済成長の余地があるということであり、旧加盟国の

市民感情の多少の緩和になる(移民の影響など)。現実的な課題としては、EU の経済水準と

開きがあり過ぎるので、加盟のためにはより一層の成長が求められ、市場規模は大きくな

いので、外資を惹きつけるためにはさらなる努力が必要ということである。それでも EU

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第 1 章 EU の拡大

7

がこの地域に拡大を進めるのは、先取りして言うならば、経済的利益はともかく、安定の

利益を確保したいからである。

図表 1-2-2 西バルカン、中東欧、東バルカンの人口・経済規模比較(2012年)

人口 GDP PPP 換算一人当たり GDP

西バルカン 7 カ国 2258 万人 1444 億ドル 9614 ドル

中・東欧 8 カ国① 7280 万人 1 兆 191 億ドル 22535 ドル

東バルカン 2カ国② 2863 万人 2222 億ドル 13536 ドル

① + ② 1 億 143 万人 1 兆 2413 億ドル 20735 ドル

EU27 5 億 184 万人 16 兆 4145 億ドル 31168 ドル

(注)西バルカン 7カ国の一人当たり GDP は、コゾヴォのデータが手に入らなかったため、その他の 6カ国で算出した。

(出所)IMF, World Economic Outlook Database October 2012 より報告者作成。

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第 2 章 アルバニアと EU

8

第 2 章 アルバニアと EU

2.1 アルバニアとバルカン諸国の経済

(1) マクロ経済状況

アルバニアのマクロ経済についてみる前に、まずは簡単にこの国のプロフィールを確認

しておく。アルバニアは地中海に接しており、イタリアやギリシャと古くから密接な関係

を築いている。面積は四国の 1.5 倍程度で、銅やクローム鉱などの地下資源を有する。人種

としては、アルバニア人がほとんどであるが、ギリシャ人、マケドニア人、ロマ(ジプシー)

などの民族も住んでいる。推計では、欧州では特異なことに、アルバニア人の 6,7 割がム

スリムであると言われているが、他にもカトリック、ギリシャ正教、プロテスタント、ベ

クタシズム(アルバニア独特のイスラム系宗教)といった多くの宗派の人がいる。宗教的態度

は寛大で、対立はなく、それぞれの宗教の年中行事が頻繁にある他、ムスリムの人の信仰

心はそれほど厚くない。こういった面では、日本と似通っている部分がある。ちなみに、

欧州で唯一、イスラム諸国会議機構に正式加盟をしている。

アルバニアは社会主義が崩れてから、他の旧社会主義国よりも比較的高い成長を遂げて

きた。2000 年代のアルバニアの GDP 平均成長率は約 5%である(図表 2-1-1)。1997 年のマ

イナス 10%成長は、いわゆる「ねずみ講」事件の影響である。1992 年の選挙で民主党が勝

利すると、政権与党として市場経済を推し進めていったが、その中で 1990 年代前半に、超

高利を謳う投資会社が 10 数社出現してきた。当時、多くのアルバニア人はこの話にのせら

れた。その理由としては、市民の投資のリスクに関する知識不足、投資会社が最初のうち

は配当を支払っていたこと、そして最大と思われる理由が、当時の政権がこの投資会社の

活動を黙認、あるいは推奨している節があったことなどが挙げられる10。被害としては、人

口 340 万人中 50 万人で、GDP の約 4 割にも達するほどの預金総額であったという。これ

らの会社が配当を支払わなくなった暁には、各地で大規模なデモ・暴動が起き、国土の一

部が一時無政府状態に陥るなど、大混乱をきたしたのであった。話を元に戻すと、アルバ

ニアは世界金融危機後の南東欧において唯一、2009 年から 2011 年まで 3%を超える成長を

達成していた。インフレ率においても、中央銀行が目標としている 2~4%の範囲内で 2000

年代は順調に推移していた(図表 2-1-2)。

ところが最近では、欧州債務危機という外的環境の悪化で、成長は大幅減速を余儀なく

され、中央銀行は一連の基準金利引き下げを行い、2012 年には 4%まで下げた。これは歴

史的な低水準であった。こうしたことには、深刻な債務危機と経済悪化に見舞われている

ギリシャや、経済の低迷で苦しむイタリアとアルバニアが親密な経済関係であることが背

景にある。貿易や投資、それらの国の移民からの送金額などが大きく影響を受けている。

送金はアルバニアに住む多くの家族にとって必要不可欠な収入であり、2000 年代において

は順調に金額は伸ばしていた(図表 2-1-3)。なお外国への出稼ぎ労働者から本国への送金は、

10 井浦[2009]参照。

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第 2 章 アルバニアと EU

9

経常収支の中の経常移転収支という項目に含まれ、民間移転収支というのは、経常移転収

支から公的移転収支を除いたものである。さらに、政府の財政も悪化しており、マクロ経

済環境は不安定さを増している。政府は財政収支の赤字を、GDP 比でマイナス 3%以内と

定めているが、世界金融危機による悪化以降徐々に健全化の方に向かっていると思われて

いた財政収支は、税収の減少も予測され、今後また赤字を拡大させる可能性が高い(図表

2-1-4)。政府は債務水準についても、また GDP 比で 60%以内と予算法で約束しているが、

それを守れない可能性も高いだろう(図表 2-1-5)。とはいうものの、世界金融危機が起こる

まで、順調に債務比率を下げてきていたことは褒められるべきである。また、2000 年代以

降着実に改善していた失業率の方も、企業が外部環境の悪化による収益減少のあおりを受

けて、また上昇する恐れがある(図表 2-1-6)。

図表 2-1-1 アルバニアの経済成長率(1980年―2012年) (単位:%)

(注)2011、2012年は推定値。

(出所)IMF, World Economic Outlook, April 2012 より報告者作成。

図表 2-1-2 アルバニアのインフレ率(1999年―2012年) (単位:%)

(注)2011、2012年は推定値。

(出所)IMF, World Economic Outlook, April 2012 より報告者作成。

-30

-25

-20

-15

-10

-5

0

5

10

15

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1

2

3

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5

6

1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012

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第 2 章 アルバニアと EU

10

図表 2-1-3 民間移転収支の推移(1996~2009 年) (100 万ユーロ)

(出所)Bank of Albania,より報告者作成。

図表 2-1-4 アルバニアの財政収支(1997年―2012年)

(単位:左軸=財政収支対 GDP比%、右軸=10億レク)

(注)2011、2012年は推定値。

(出所)IMF, World Economic Outlook, April 2012 より報告者作成。

0

200

400

600

800

1000

1200

1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009

-90

-80

-70

-60

-50

-40

-30

-20

-10

0

-14

-12

-10

-8

-6

-4

-2

0

財政収支(%)左軸 財政収支(額)右軸

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第 2 章 アルバニアと EU

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図表 2-1-5 アルバニア政府の総債務(1997年―2012年)

(単位:左軸=債務残高対 GDP比%、右軸=10億レク)

(注)2011、2012年は推定値。

(出所)IMF, World Economic Outlook, April 2012 より報告者作成。

図表 2-1-6 アルバニアの失業率(1980年―2012年) (単位:%)

(注)2011、2012年は推定値。

(出所)IMF, World Economic Outlook, April 2012 より報告者作成。

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

0

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50

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70

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90

19

97

19

98

19

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20

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20

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06

20

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20

10

20

11

20

12

債務(額)(右軸)

債務(%)(左軸)

0

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第 2 章 アルバニアと EU

12

次に、アルバニアの産業と貿易構造を概観する。アルバニアは産業の中で、元々農業の

ウェイトが高い国だったが、2000 年以降は建設業や工業、貿易といった産業の生産額が伸

長していることが読み取れる(図表 2-1-7)。次に付加価値額の構成比でみても、1996 年から

農業の割合はどんどん下がっていることがわかる(図表 2-1-8)。その代わりに工業や建設業、

その他サービス業という第 3 次産業が 1990 年代以降勢いをつけてきており、アルバニアに

おいて「産業の高度化」が進展している証左となっている。翻ってアルバニアは独裁政権

が 1991 年に倒れるまで、ほとんど「鎖国」に近い外交・貿易関係の状態だったので、経常

収支の赤字の問題に悩まされていなかったが、1990 年代以降民主化・市場経済化を図る中

で、経常収支はその赤字額を拡大させていった(図表 2-1-9)。これは企業の対外競争力が無

いためであるが、同時に貿易取引が活発になり、世界に開かれた国となっていること、国

民の所得が増えて、財・サービスを外国から購入できるようになっていることを示す。ア

ルバニアは 1992 年に EU と貿易・協力協定を結び、1999 年からは EU 市場に関税なしで

製品を輸出できる貿易特恵措置も受けた。現在では 2006 年からの暫定協定と 2009 年から

の安定化・連合協定(SAA)により、EU はアルバニアとの貿易を促進している。またアルバ

ニアは西バルカンでは珍しく、変動相場制を採用しているが、送金や直接投資の流入に支

えられて、安定的な動きを示していることも、貿易に有利に働いているだろう(図表 2-1-10)。

ここで、製品別の貿易をみてみると、どの製品も年々その貿易額を増大させているが、特

に機械・設備・部品、飲食物・煙草、化学・プラスチック製品が顕著である(図表 2-1-11)。

この図表は特定製品の輸出額から輸入額を引いたものであるため、その 3 種類の製品の需

要がアルバニアにおいて高まっているということを意味する。ではアルバニアはどこの

国々と貿易取引をしているのか。まずは製品の輸入先国からみてみる(図表 2-1-12)。アルバ

ニアはイタリアやギリシャ、ドイツ、トルコといった経済規模の大きい国または地理的に

近い国から製品を輸入していることが判明するが、トルコも含めると約 8 割は欧州からの

輸入であることがわかる。アルバニアにとってそれらの国々は重要な貿易パートナーであ

るが、一方で相手国からしてみれば GDP も小さく、人口も約 320 万人のアルバニアは取る

に足らない輸出市場に違いない。今度は逆に、アルバニアがどこの国に製品を輸出してい

るかを、1996 年、2006 年、2011 年と時間を追って調べてみる(図表 2-1-13,14,15)。やはり

重要な輸出相手国は、イタリアやギリシャ、ドイツであり、イタリアの存在感はずば抜け

ている。2006 年はその傾向が拡大していると同時に、隣国コソヴォが輸出市場として台頭

している。金融危機後の 2011 年においては、イタリアの比率は下がり、他の欧州諸国が均

等に割合を伸ばした。また 2011 年は高成長するトルコ市場が第 3 位の輸出先国として浮上

していることも注目に値するだろう。どの年にも共通して、欧州諸国への輸出がほとんど

であるということができるが、ユーロ圏が債務危機で苦しみ、周りの西バルカン諸国は有

望な市場でない中、7500 万人ほどの人口を抱える発展途上国トルコと地理的に近いことは

アルバニアにとって幸運であった。今後も債務危機の影響はイタリアやギリシャを含め、

ユーロ圏各国に尾を引くと予想されるため、その方面への輸出の伸長はあまり期待できな

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第 2 章 アルバニアと EU

13

い。それらの国からの送金や投資の増大も覚束ないため、今後アルバニアにとって益々ト

ルコの存在感が大きくなると思われる。

図表 2-1-7 アルバニアにおける産業別の生産高(1996年―2010年) (単位:100万レク)

(出所)アルバニア統計局より筆者作成。

図表 2-1-8 アルバニアにおける付加価値額の産業別構成比(1996年―2010年) (単位:%)

(出所)アルバニア統計局より筆者作成。

0

500,000

1,000,000

1,500,000

2,000,000

2,500,000

19

96

19

97

19

98

19

99

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00

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03

20

04

20

05

20

06

20

07

20

08

20

09

20

10

その他サービス

郵便・通信

輸送

貿易・ホテル・外食

建設

工業

農業・狩猟・林業

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

70.0

80.0

90.0

100.0

19

96

19

97

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19

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20

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20

01

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02

20

03

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04

20

05

20

06

20

07

20

08

20

09

20

10

その他サービス

郵便・通信

輸送

貿易・ホテル・外食

建設

工業

農業・狩猟・林業

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第 2 章 アルバニアと EU

14

図表 2-1-9 アルバニアの経常収支(1980年―2012年)

(単位:左軸=経常収支対 GDP比% 右軸=10億ドル)

(注)2011、2012年は推定値。

(出所)IMF, World Economic Outlook, April 2012 より報告者作成。

図表 2-1-10 製品別の外国との貿易額(輸出マイナス輸入)(1993年―2011年)

(単位:100万レク)

(出所)アルバニア統計局より筆者作成。

-2.5

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

-16

-14

-12

-10

-8

-6

-4

-2

0

2

4

経常収支% 経常収支額

-400,000

-350,000

-300,000

-250,000

-200,000

-150,000

-100,000

-50,000

0

50,000

19

93

19

94

19

95

19

96

19

97

19

98

19

99

20

00

20

01

20

02

20

03

20

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20

05

20

06

20

07

20

08

20

09

20

10

20

11

その他

機械・設備・部品

建設資材・金属

織物・履物

木材・紙

皮革製品

化学・プラスチッ

ク製品

鉱物・燃料・電力

飲食物・煙草

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第 2 章 アルバニアと EU

15

図表 2-1-11 レクの対ドル相場(1993年―2009年) (単位:レク / ドル)

(出所)アルバニア統計局より筆者作成。

図表 2-1-12 アルバニアの国別輸入先(2011年) (単位:100万レク)

(出所)アルバニア統計局より筆者作成。

0.00

20.00

40.00

60.00

80.00

100.00

120.00

140.00

160.00

イタリア,

166045

ギリシャ, 57796

ドイツ,

31163トルコ,

30200

セルビア・モン

テネグロ, 20988

その他欧州,

140206

アジア, 73264

アメリカ大陸,

20015

アフリカ, 3078 オ

ア,

594

その他, 655

2011

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第 2 章 アルバニアと EU

16

図表 2-1-13 アルバニアの国別輸出先(1996年) (単位:100万レク)

(出所)アルバニア統計局より筆者作成。

図表 2-1-14 アルバニアの国別輸出先(2006年) (単位:100万レク)

(出所)アルバニア統計局より筆者作成。

イタリア,

12727ギリシャ, 2859

ドイツ, 1524

トルコ, 684

マケドニア,

677

その他欧州,

2491

アメリ

カ大

陸,

640

アジア, 69オセアニア, 36 その他, 295

1996

イタリア,

56342

ギリシャ, 7319

コソヴォ, 2920

ドイツ, 2456

マケドニア,

1235

その他

欧州,

5276

アジア, 1460 アメリカ

大陸, 372

アフリカ,

22オセアニア, 1

その

他, 3 2006

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第 2 章 アルバニアと EU

17

図表 2-1-15 アルバニアの国別輸出先(2011年) (単位:100万レク)

(出所)アルバニア統計局より筆者作成。

イタリア,

104998

コソヴォ,

14657

トルコ,

14484

ギリシャ, 9978

スペイン, 7010

その他欧州,

36544

アジア, 5848

アメリカ大

陸, 2312

アフリカ, 983 オ

ア,

6

その他, 772011

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第 2 章 アルバニアと EU

18

(2) バルカン諸国との比較

ここではアルバニアとその他のバルカン諸国の経済の比較を行う。まず旧社会主義国の

1990 年代における、資本主義移行に伴う生産の落ち込みや高インフレに襲われるといった

「体制転換不況」の程度はどのようであったかを確認する(図 2-1-16)。このデータをみると

旧社会主義国はどの国も、1990 年から 1993 年にかけて激烈な GDP の低下に見舞われてい

ることがわかる。アルバニアは 1990 年にマイナス 10%成長、1991 年にマイナス 27.7%成

長を記録しているが、そのどちらの年においてもショックの程度が大きい部類に入る。そ

れ以降は失った GDP を取り戻す形で、高成長が続き、国内外で「ライジングスター」や「模

範生」と評された。1989 年の GDP 水準を 100 としたときの 1996 年の GDP 水準は、89

であり、25 カ国中 8 番目に高い水準であった。さらに 1996 時点の GDP に占める民間部門

の割合は、チェコと並ぶ 75%で一番の成績を残した。これは民主党政権の改革の賜であっ

た。しかし、翌年は先に述べた「ねずみ講」事件の影響により、GDP は急減した。

アルバニアよりも GDP の回復が早かった国は、ポーランドやハンガリー、チェコ、スロ

ヴァキア、スロヴェニア、ルーマニア、ウズベキスタンであった。その中でもポーランド

は好成績をマークしているが、これは「ショック療法」の中で国営企業の民営化や自由化、

マクロ経済の安定化を進め、1994 年以降は市場制度の構築のための改革も積極的に進めた

からであった。上記の中東欧 5 カ国の立ち直りが早かったのは従来から産業がそれなりに

工業化されていたためであり、不思議はない。アルバニアは中東欧諸国には及ばなかった

ものの、バルカン地域ではまずまずの経済改革の成果を 1990 年代に収めていたのだが、注

意しておきたいことは、1990 年代の旧ユーゴスラビア連邦では先に述べたように紛争が勃

発していたのであり、アルバニアはその被害を直接的に受けなかったからこそ、こういう

結果を得る事が出来たということである。

時系列でみた分野別の移行の度合いの図表で、より詳細にアルバニアと他のバルカン諸

国との経済改革の進展の差をみてみよう。まず「大規模民営化」の分野においては、アル

バニアは図表の内の 7 カ国の中で比較的早い段階で改革を進めており(図表 2-1-17)、小規模

な企業の民営化においても行動は早かった(図表 2-1-18)。同じように「ガバナンスと企業改

革」の部門においても、取り組みは早かったが、現在においてもなお十分になされている

とは言えない状況である(図表 2-1-19)。社会主義時代の価格の統制をやめ、「価格の自由化」

に向けての動きはどの国も早々に実行に移している(図表 2-1-20)。「貿易と為替システム」

の領域では、EU と貿易協定を結ぶなどの取り組みが評価された結果、ポイントが高いので

あろう(図表 2-1-21)。企業同士の競争に基づく市場経済を発達させるために必要な「競争政

策」の導入は、開始こそ早かったものの、現時点においては低評価を受けており、今後の

課題とすべきところである(図表 2-1-22)。

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第 2 章 アルバニアと EU

19

図表 2-1-16 市場経済移行期の旧社会主義国における GDP成長率と民間部門のシェア

(1990~1996年)

(注)1995 年は推定値、1996 年は予測値。GDP 水準は、1989 年を 100 としたときの 1996 年予想実質 GDP の水準。

民間シェアは、GDP に占める民間部門の比率を 1996年時点で推定したもの。 (出所)堀江[1997]に手を加えて作成。

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 GDP水準%

民間シェア%

アルバニア -10.0 -27.7 -9.7 11.0 9.4 8.6 5.0 81 75

アルメニア -7.4 -10.8 -52.4 -14.8 5.4 6.9 6.5 40 50

アゼルバイジャン -11.7 -0.7 -22.6 -23.1 -21.2 -8.3 -3.5 36 25

ベラルーシ -3.0 -1.2 -9.6 -10.6 -12.2 -10.2 -5.0 58 15

ブルガリア -9.1 -11.7 -7.3 -2.4 1.8 2.6 -4.0 73 45

クロアチア -8.6 -20.0 -10.0 -3.7 0.8 2.0 5.0 68 50

チェコ -0.4 -14.2 -6.4 -0.9 2.6 4.8 5.1 90 75

エストニア -8.1 -11.0 -14.2 -8.5 -2.7 3.2 3.0 66 70

マケドニア -9.9 -12.1 -21.1 -8.4 -4.0 -1.5 3.0 56 50

グルジア -12.4 -13.8 -40.3 -39.0 -35 2.4 8.0 20 50

ハンガリー -3.5 -11.9 -3.1 -0.6 2.9 1.5 1.5 87 70

カザフスタン -0.4 -13 -13.0 -12.0 -25.0 -8.9 0.5 46 40

キルギスタン 3.2 -5.0 -19.0 -16.0 -26.5 1.3 2.0 51 50

ラトビア 2.9 8.3 -35.0 -16.0 0.6 -1.6 1.0 52 60

リトアニア -5.0 -13.4 -37.7 -24.2 1.0 3.1 1.5 41 65

モルドバ -2.4 -17.5 -29.0 -1.0 -31 -3.0 4.0 39 40

ポーランド -11.6 -7.0 2.6 3.8 5.2 7.0 5.0 103 60

ルーマニア -5.6 -12.9 -8.8 1.3 3.9 6.9 4.5 88 60

ロシア -4.0 -13 -14.5 -8.7 -12.6 -4.0 -3.0 53 60

スロヴァキア -2.5 -14.6 -6.5 -4.1 4.8 7.4 5.5 89 70

スロヴェニア -4.7 -8.1 -5.4 1.3 5.3 3.5 3.0 94 45

タジキスタン -1.6 -7.1 -29.0 -11.1 -21.5 -12.5 -7.0 37 20

トルクメニスタン 2.0 -4.7 -5.3 -10.0 -20.0 -10.0 0.0 60 20

ウクライナ -3.4 -9.0 -10.0 -14.0 -23.0 -11.8 -7.0 43 40

ウズベキスタン 1.6 -0.5 -11.1 -2.3 -4.2 -1.2 -1.0 82 40

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第 2 章 アルバニアと EU

20

図表 2-1-17 工業国市場経済を基準にした南東欧の移行評価(大規模民営化)(1989~2012年)

(単位:ポイント)

(注)1が計画経済で、4+になるほど工業国に近づく。

(出所)EBRD, Transition indicators より報告者作成。

図表 2-1-18 工業国市場経済を基準にした南東欧の移行評価(小規模民営化)(1989~2012年)

(単位:ポイント)

(注)1が計画経済で、4+になるほど工業国に近づく。

(出所)EBRD, Transition indicators より報告者作成。

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

4.5

19

89

19

90

19

91

19

92

19

93

19

94

19

95

19

96

19

97

19

98

19

99

20

00

20

01

20

02

20

03

20

04

20

05

20

06

20

07

20

08

20

09

20

10

20

11

20

12

アルバニア

ボスニア・

ヘルツェゴ

ビナブルガリア

マケドニア

モンテネグ

ルーマニア

セルビア

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

4.5

198919911993199519971999200120032005200720092011

アルバニア

ボスニア・ヘル

ツェゴビナ

ブルガリア

マケドニア

モンテネグロ

ルーマニア

セルビア

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第 2 章 アルバニアと EU

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図表 2-1-19 工業国市場経済を基準にした南東欧の移行評価(ガバナンスと企業改革) (1989~2012年) (単位:ポイント)

(注)1が計画経済で、4+になるほど工業国に近づく。

(出所)EBRD, Transition indicators より報告者作成。

図表 2-1-20 工業国市場経済を基準にした南東欧の移行評価(価格自由化)

(1989~2012年) (単位:ポイント)

(注)1が計画経済で、4+になるほど工業国に近づく。

(出所)EBRD, Transition indicators より報告者作成。

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

4.5アルバニア

ボスニア・ヘル

ツェゴビナ

ブルガリア

マケドニア

モンテネグロ

ルーマニア

セルビア

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

4.5

198919911993199519971999200120032005200720092011

アルバニア

ボスニア・ヘル

ツェゴビナ

ブルガリア

マケドニア

モンテネグロ

ルーマニア

セルビア

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第 2 章 アルバニアと EU

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図表 2-1-21 工業国市場経済を基準にした南東欧の移行評価(貿易と外国為替システム)

(1989~2012年) (単位:ポイント)

(注)1が計画経済で、4+になるほど工業国に近づく。

(出所)EBRD, Transition indicators より報告者作成。

図表 2-1-22 工業国市場経済を基準にした南東欧の移行評価(競争政策)

(1989~2012年) (単位:ポイント)

(注)1が計画経済で、4+になるほど工業国に近づく。

(出所)EBRD, Transition indicators より報告者作成。

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

4.5

198919911993199519971999200120032005200720092011

アルバニア

ボスニア・ヘル

ツェゴビナ

ブルガリア

マケドニア

モンテネグロ

ルーマニア

セルビア

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

4.5

19

90

19

91

19

92

19

93

19

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19

95

19

96

19

97

19

98

19

99

20

00

20

01

20

02

20

03

20

04

20

05

20

06

20

07

20

08

20

09

20

10

20

11

20

12

アルバニア

ボスニア・ヘ

ルツェゴビナ

ブルガリア

マケドニア

モンテネグロ

ルーマニア

セルビア

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第 2 章 アルバニアと EU

23

次は、現在におけるアルバニアとバルカン諸国の経済環境や、体制移行の進展度合いを

比較する。EBRD が出した各国の、自由化と民営化、ビジネス環境と競争、インフラ、金

融部門、社会改革に関する制度の調査レポートは、経済的側面に着目しており、その国に

おいてビジネスをしやすいか否かを計る事ができる(図表 2-1-23)。どの国も割と広範な分野

で改革が進んでいることが見て取れる。対内直接投資に対する規制を設けている国もある

が、アルバニアは規制していない点は、今後の成長の観点から評価できる。金融機関に求

める適切な資本比率は 12%と最も高く、これは「ねずみ講」事件と言う忌まわしい過去の

教訓からきていると推測される。EU は新自己資本規制(バーゼルⅢ)に沿う形で EU 法を施

行しようとしており、そこでは最低 7%のコアティア 1 比率を求められることになるので、

アルバニアはこの基準を十分に満たしているといえよう。その他にも健全性への取り組み

として、アルバニア政府は、2011 年に欧州債務危機のリスクに対処するための法制度改革

を行って、外国銀行の子会社の監視を強化し、突然の資本流出に備えるなどの取り組みを

始めた。アルバニアの銀行資産の 90%は外資の所有であり、そのうちの 30%がギリシャと

イタリアの銀行に占められているため、政府は危機感を強めたのだと考えられる。図表に

戻ると、一方で、アルバニアは土地の取引に制限や、各種インフラ部門で運営と規制の分

離が中途半端であるなどの問題が見受けられる。また他国と比べたときの貧困層の多さや、

健康への政府支出の少なさが指摘できる。日本の公財政教育支出は、GDP の 3.3%であり、

OECD 平均は 4.9%であるので、アルバニアは途上国としてはまずまずの教育支出だと思わ

れるが、マケドニアやモンテネグロがかなり高い割合を支出していることを鑑みると、ア

ルバニアも一層の教育への支出を検討すべきであろう。

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第 2 章 アルバニアと EU

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図表 2-1-23 移行国の進展度合いを示したスナップショット

自由化と民営化 ビジネス環境と競争 経常収支交換性

対内直接投資の規制

金 利の 自由化

為替相場体制

賃 金規制

土地の取引性

競争推進局

破産法の質

保 証 され た 取引法

アルバニア 完全 なし 完全 変動 なし 事 実 上

制限

あり 高い 進歩

ボスニア・

ヘルツェゴ

ビナ

完全 あり 完全 ユーロペッ

グのカレン

シーボード

なし 形 式 上

制限

あり 高い 現代的。

やや欠陥

マケドニア 完全 あり 完全 事実上ユー

ロに固定

なし 形 式 上

制限

あり 高い 現代的。

やや欠陥

モンテネグ

完全 なし 完全 一方的ユー

ロ化

なし 形 式 上

制限

建設中 かなり高

現代的。

やや欠陥

セルビア 完全 なし 完全 管理性フロ

ート

なし 形 式 上

制限

あり 中位 現代的。

やや欠陥

トルコ 完全 あり 完全 変動 なし 完全 あり 中位 機能不全

インフラ 金融部門 社会改革 通信に関する評価と法令遵守の規定

電力規制の独立性

鉄道インフラの運営からの分離

道路管理者の独立性

適切な資本比率

預金保証

民間年金基金

人 口に 占め る貧 困層 の割合

健康への政府支出の割 合( 対GDP)

教育への政府支出の割 合( 対GDP)

電 力 と水 道 への 家 計支 出 の割合

アルバニア 高い 部分的

なし 部分的

12% あり あり 7.8% (2005)

2.7% (2008)

3.8% (2008)

5%

ボスニア・ヘルツェゴビナ

高い 部分的

部分的

完全 12% あり なし 2% (2004)

9.5% (2006)

- 4.9%

マケドニア 高い 部分的

あり 部分的

8% あり あり 3.2% (2003)

4.8% (2008)

5.1% (2008)

6.6%

モンテネグ

中位 部分的

完全 部分的

10% あり なし 8% (2007)

6.2% (2005)

5.4% (2004)

11.7%

セルビア 低い 部分的

なし なし 8% あり あり - 5.7% (2008)

3.8% (2008)

9.3%

トルコ 高い 完全 なし なし 8% あり あり 9% (2005)

3.6% (2006)

3.1% (2006)

28.4% (2007)

(注)コソヴォは EBRD のデータになし。潜在的候補国は、アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソヴォの三カ国。

候補国は、マケドニア、モンテネグロ、セルビア、トルコ、アイスランド(未掲載)の五カ国。

(出所) EBRD より報告者作成。

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第 2 章 アルバニアと EU

25

今度は、マクロ的な経済指標を 3 つの図表を使って比較する。前に述べたとおり、2010、

2011 年のアルバニアの経済成長率はバルカン諸国の中で好調な方だ(図表 2-1-24)。2012 年

は大幅な下落が予想されているが、それは他国も同様である。その上、経済成長が高い割

には他国よりもインフレ率を抑えることに成功しており、アルバニア中央銀行の適切な金

融政策のおかげと言えよう。直接投資はバルカン諸国の中で、モンテネグロに次ぎ 2 番目

に惹きつけている。不安定要因なのが、政府債務と経常収支赤字である。歳入に対する債

務の割合は唯一 200%を超えている。欧州債務危機においては、高い政府債務水準と大幅な

経常収支赤字を抱えていたギリシャなどの国が危機に陥った。それらの国に比べてもアル

バニアは遥かに脆弱な経済をもっているので、今後の成り行きを注視する必要がある。ま

た、この図表をみるとアルバニアと相似的な経済状況であるのが、モンテネグロというこ

とが読み取れる。次に、バルカン諸国の「脆弱性」に関するデータを一緒にみる(図表 2-1-25,

26)。これらの図表でまず誉められる所は、外国に対する短期債務が少ない事や、外貨準備

が輸入可能月数で計ると 4.2 カ月分保有していることである。外貨準備高の必要額は、短期

債務残高以上または輸入の 3 カ月分以上と言われる。この観点から言えば、若干データが

不十分だがモンテネグロが好ましくない状況である。またアルバニアは政府債務の GDP に

対する割合では一番悪いが、対外債務の割合となると一番少なく、つまり外国にあまり依

存せず国内で賄っているということなので危機に対する脆弱性は多少低くなっている。し

かしながら、銀行の不良債権比率が 2 割を超えていて、バルカン諸国中最悪であり、これ

は今後の金融システムの最大のリスク要因といえる。失業率は他国と比べると低い方だが、

今後ギリシャやイタリアに出稼ぎに行った労働者が不況のために帰国する可能性もあり、

楽観視はできない。以上のようなことを踏まえて、カントリーリスクは B+、つまり「信用

リスクが高い」と格付けされていると考えられる。アルバニアより下の格付けはボスニア・

ヘルツェゴビナだけである。こうしたデフォルト・リスクには注意を払わねばならないが、

その他に預金額に対する融資額の圧倒的な低さが目につく。これはつまり間接金融を通し

て、実体経済にお金が回っていないことを示すものであり、企業のさらなる設備投資や新

規事業立ち上げなどの障害となることで、成長制約要因になっていると推察される。金融

機関の健全性を確保しつつ、どれだけ民間にお金を供給できるかが、今後のアルバニア経

済の成長のカギとなる。

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第 2 章 アルバニアと EU

26

図表 2-1-24 バルカン諸国の基本的な経済指標

GDP 成長率(年平均、%)

インフレ (年平均、%)

財 政 収支 対GDP(%)

基 礎 的財 政 収支 対GDP(%)

政 府債 務残高 /歳 入(%)

経 常 収支 対GDP(%)

ネ ッ トFDI 対GDP(%)

2010 2011 2012 2011 2012 2011 2011 2011 2011 2011

アルバニア 3.5 3.1 0.6 3.5 2.1 -3.5 -0.3 233.7 -12.3 7.6

ボスニア・ヘ

ルツェゴビナ

0.7 1.3 0.1 3.7 1.9 -3.1 -2.4 86.8 -8.8 2.3

ブルガリア 0.4 1.7 1.2 3.4 2.8 -2.0 -1.3 47.6 0.9 3.1

マケドニア 2.9 2.9 0.3 3.9 3.5 -2.5 -1.7 96.7 -2.7 4.0

モンテネグロ 2.5 3.2 0.3 2.9 3.2 -6.5 -4.9 124.4 -19.5 11.9

ルーマニア -1.7 2.5 0.5 5.8 3.5 -4.1 -2.6 105.0 -4.4 1.4

セルビア 1.0 1.6 -0.7 11.1 7.1 -4.2 -2.9 122.0 -9.5 5.8

(注)2012年の数値は推定値。

(出所)EBRD, Forecasts and annual indicators より報告者作成。

図表 2-1-25 バルカン諸国の脆弱性に関する指標 その一(2012年)

公的・対外債務(2011 年末) 外貨準備 銀行システム

政 府債務 (%)

対外債務(%) 総 額(10 億ドル)

割合(%) 輸入可能月数(月)

銀 行 預金

融 資 /預 金(%)

合計 民間 短期 対GDP

対短期債務

対GDP(%)

民間部門

アルバニア 58.6 33.7 8.9 3.3 2.4 18.3 553.5 4.2 67.0 58.3 ボスニア・ヘ

ルツェゴビナ

40.3 46.5 22.2 11.8 3.6 19.9 167.9 4.0 41.6 140.3

ブルガリア 15.5 87.1 80.2 30.2 16.8 31.5 104.3 5.6 62.7 112.8

マケドニア 27.7 65.0 45.5 24.0 2.3 21.5 89.8 3.6 49.2 95.9 モンテネグロ 46.9 94.6 - - 0.5 11.0 - 2.2 51.5 108.2

ルーマニア 33.0 68.4 45.3 24.5 38.9 20.5 83.7 6.1 31.2 126.7 セルビア 50.1 84.9 59.8 18.8 11.7 27.0 143.2 6.3 43.6 137.3

(出所)EBRD, Vulnerability indicators より報告者作成。

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第 2 章 アルバニアと EU

27

図表 2-1-26 バルカン諸国の脆弱性に関する指標 その二(2012年)

カントリーリスク 国内 FX ローン残高 不良債権(%)

失 業率(%)

CDS スプ レ ッド (bps) (2012/10/11)

S&P格 付け(最新)

フ ィッ チ格 付け (最新)

民間部門合 計 ( 対GDP、%)

民間部門の内訳

総ローン残高のうち FX 信用の割合 ( 対GDP、%)

企業 家計

アルバニア - B+ - 26.4 20.5 5.9 64.5 21.4 13.3 ボスニア・ヘル

ツェゴビナ

- B - 36.4 19.0 17.3 66.8 12.6 27.6

ブルガリア 147.7 BBB BBB- 45.1 35.0 10.2 63.8 14.9 12.3 マケドニア - BB BB+ 26.7 17.9 8.7 57.4 10.0 31.6 モンテネグロ - BB- - - - - 0.0 15.0 18.1 ルーマニア 258.6 BB+ BBB- 24.7 12.4 12.3 63.6 17.3 7.2 セルビア - BB- BB- 43.5 29.5 14.0 72.2 20.4 25.5

(出所)EBRD, Vulnerability indicators より報告者作成。

2.2 EU 拡大の文脈におけるアルバニア11

(1) EU と西バルカンの接近

EU にとって、西バルカン諸国を迎え入れる決断を下すことは、挑戦であった。1990 年

代は、中・東欧諸国が体制転換に邁進しているときに、西バルカンは紛争に明け暮れてい

た。社会は分断され、経済は脆弱で、政治は不安定性をはらみ、とても EU 加盟候補国に

なる資格を有していなかった。EU 加盟を希望する国家による自己利益に基づく加盟申請が、

EU の拡大を後押しする主要なファクターであり、EU は「受け身」の拡大政策を行ってき

たのである。しかし西バルカン諸国に対する EU のスタンスは違った。1989 年末から激化

し始めたコソヴォ紛争により、他のバルカン地域に飛び火するリスクが高まったことが、

極めて重大な安全保障上の問題として、EU 側に受け止められたのである。そこで欧州委員

会は 1995 年 5 月に、「新たなタイプの連合協定」を西バルカン諸国と締結することを提案

した。なぜならこうして EU 加盟の見通しをこれらの国々に与えることが、この地域の安

定化につながると考えたからである。こうした背景には、第五次拡大の局面において、旧

社会主義諸国に加盟の見通しを与えたことで、民主化への改革を加速させた経緯があった。

EU はその加盟という「引力」による成功体験を西バルカン地域でも再現して、平和・安定・

制度改革をもたらそうとした。またその地政学的リスクに対して、「バルカン諸国内部にお

ける安全保障上の困難を、EU の支配の外ではなく EU 内部におき、組織を結合することで

EU はより巧みにその問題に対処することが可能である12」という意見が当時支配的であっ

た。つまり、ここで言いたいのは、EU から西バルカンに対して働きかけたのは、EU 自身

が「安全の利益」を得るためであり、その逆、つまり西バルカン諸国が安全の利益を求め

て EU 加盟を望んだわけではなかったのである。EU は紛争の悪化が経済上も悪影響を及ぼ

11 フローチャート「EU 加盟に向けたアルバニアと EU の歩み」に基づく。 12 The Quaker Council for European Affairs[2009]より引用。

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第 2 章 アルバニアと EU

28

すことを懸念していたのかもしれない。なぜなら 1999 年には単一通貨ユーロが導入され、

同じ欧州の庭での争いはその壮大な実験のリスク要素となりうるからである13。このような

EU の主体的な行動は、「加盟に向けた取り組みの過程における安定化作用」と「加盟後の

EU が統制することによる安定化作用」という 2 つの段階での、安全の利益が想定されたの

であった。

2000 年 6 月のフェイラ欧州理事会では、安定化連合プロセス14(SAP)に参加している西バ

ルカン諸国は潜在的 EU 加盟候補国であることが認められた。そこでは「EU は、SAP や

政治的対話、貿易の自由化、司法・内務協力を通して、西バルカン諸国がヨーロッパの政

治的・経済的メインストリームに可能な限り統合されることを目標としていることを確認

する15」と述べられた、2003 年 6 月のテッサロニキ欧州理事会は、西バルカンが将来 EU

加盟国になれる可能性について、正式な確約をした。「EU は西バルカン諸国の EU 加盟の

見通しについて明白に支持を与えていることを念を押して述べる。バルカン諸国の未来は、

EU の内に見出される」と宣言され、その欧州理事会で是認された「西バルカン諸国のため

のテッサロニキ・アジェンダ」はこの地域に対する EU 政策の礎石として今でも影響力を

もっている。アジェンダでは、SAP が各国にとって EU 加盟につながる政策枠組みである

ことが確認された。2006 年 12 月に開かれた欧州理事会では、改めて西バルカンの未来が

EU の中にあることが確認され、コペンハーゲン基準と SAP のコンディショナリティに従

った各国の努力と、安定化連合協定(SAA)の義務の申し分のない遂行実績があって、EU 加

盟申請への道が開かれることが強調された。2010 年 6 月のサラエヴォ EU・西バルカン大

臣会議においても、EU のうちに西バルカンの未来が横たわっている、と繰り返し言及がな

されたことからわかるように、時期は差こそあれ、いずれ西バルカン地域一帯が EU の色

で塗りつぶされる日が来ることは間違いない。

(2) EU 加盟に向けたアルバニアの取り組み

アルバニアは、そもそも、独裁政権が崩壊した 1991 年に欧州共同体と関係を構築した。

1992年にはEUとの間の貿易・協力協定が発効し、1999年には貿易特恵措置が講じられて、

アルバニアの輸出製品は EU 市場に無関税でアクセスできるようになった。その同年にお

いて、EU が西バルカンに加盟の見通しを与えようと、1999 年に SAP16創設を勧告したが、

アルバニアの EU 加盟へ向けた取り組みもここから始まったと考えてよい。SAP は、民主

主義や法の支配の強化、市場経済の発展のための支援を提供することによって、西バルカ

ンの平和と安定を確かなものにすることを意図していて、自由貿易地域や政治対話といっ

13 この点は私があたった文献では指摘されてないので推測の域を出ないが、論理的にそう考えられる。

14 次の項で内容が語られる。「安定化」とは、安定的で持続的な平和と、その平和を維持・促進するための

安定的な国家制度の 2 つを構築することである。「連合」とは、EU と関係国の二国間関係であり、ここ

ではその国が価値と実践の両面から政治的・経済的・法的・社会的分野で EU に前進的に働きかけるこ

とを言う。 15 The Quaker Council for European Affairs[2009]より引用。 16 西バルカン諸国と SAP 対象国は一致している。

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第 2 章 アルバニアと EU

29

た地域協力の場面においても重要視されている。また SAP の目的は、対象国と EU との間

に加盟に向けた改革を通して、親密な関係を築くことであある。その改革は各国の法制度

をより共同体の法制度に近付けるためになされる。さらに SAP は 2003 年のテッサロニキ

欧州理事会で強化された。対象国の評価は特に貿易上の規定に関する法令遵守の度合いに

基づくことや、地域レベルや EU との間での貿易関係において、EU は西バルカン諸国に貿

易特恵を認めること、金融支援手段が、再建・民主化および安定化のための共同体支援

(CARDS)から加盟前支援措置(IPA)に置き換わることが新たに定められた。アルバニアは

EU の潜在的加盟候補国であるが、候補国に格上げになってもこの SAP を引き続きうける

ことになる。

この安定化連合プロセスの中心的な柱と呼ばれるのが、安定化連合協定(SAA)である。

SAA は EU と対象国との間の、基本的な契約関係を結び、相互の権利と義務の関係を正式

に規定する。国によって締結時期はまちまちであるが、アルバニアの SAA は 2009 年 4 月

に発効した。クロアチアとマケドニアは 2001 年に締結をした。潜在的加盟候補国は、特定

の部門が EU 市場に対して開かれるので、貿易を活発化させることができるという経済的

利益を享受でき、EU へのビザなしでの旅行や留学に関しても便益を受ける。また SAA は、

人権から市場規則まで幅広い政策分野に跨っている EU の価値や基準を導入させることに

よって、各国に加盟前の準備をさせるという側面も持つ。アルバニアは現在までのところ、

比較的順調に SAA の義務を遂行している模様である。SAA 発効までの暫定協定は、2006

年に発効したが、それは主に貿易関係の取り決めであり、SAP 発効とともに置き換わった。

次に同じく SAP を構成するヨーロピアン・パートナーシップ(EP)についてみる。EP は

各国ごとに作成され、加盟基準を満たすためにとるべき処置を分野ごとに識別する。アル

バニアは、最初の EP を 2004 年に採用し、2 回目を 2006 年、そして現在まで続く第三次

EP は 2008 年に採択された。要求されるアクションは、主要優先事項、短期優先事項(1~2

年以内)、中期優先事項(3~4 年以内)に分けられる。EP はまた、対象国への金融支援に対

する指導も行い、各国それぞれの多年指向型計画文書(MIPD)に手筈を伝える役目も担う。

EP の実施状況に関しては、同じく SAP の下につくられた、欧州委員会によって毎年発行

される「進捗レポート」によって点検される。なお、EP もしくは加盟パートナーシップと、

SAA の違いは、前者(パートナーシプ)が短期から長期の改革優先課題を識別する「理事会の

決定事項」であり、後者は各国が求めなければならない幅広い基準を設定した「契約」で

ある点ということができる。

SAP を構成する要素として SAA と EP、そして進捗レポートの存在を挙げたが、最後に

金融支援の仕組みである、CARDS と IPA の中身に迫る。中・東欧に対する金融支援であ

る PHARE は 1989 年に始まり、IPA に統合される 2006 年まで続いたが、それに対応する

西バルカン向けの金融支援が CARDS である。この単一の共同体援助プログラムは、投資

や制度作りを通して、SAP を促進する目的のために作られた。以下にファイナンスをする

4 つの分野を並べる。

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第 2 章 アルバニアと EU

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・再建、民主的安定化、和解及び難民の帰還

・民主主義と法の支配、人権、市民社会とメディア、および自由な市場経済の運営を支

えるための、EU 規範やアプローチとの調和化を含む、制度的・法制的発展

・構造改革を含む持続的な経済的・社会的発展

・SAP 諸国相互間、およびそれらと EU ならびに中欧の候補国との間のより密接な関係

と地域協力の促進17

アルバニアは 1991 年から金融支援を受けていたが、1999 年から 2006 年までの CARDS

による資金受取額は 2 億 5960 万ユーロであった。

2007 年から新たに候補国・潜在的候補国向けに資金提供を始めたのが、IPA である。こ

のプログラムは CARDS に加えて、加盟前構造政策制度(ISPA)と農業および農村開発のた

めの特別加盟前支援 (SAPARD)、ポーランド・ハンガリー経済再建支援プログラム

(PHARE)18、トルコ向けの EU の地中海諸国に対する経済支援のためのプログラム(MEDA)

の合計 5 つが統合してできたものである。2007 年から 2013 年までをプログラムの実施期

間としており、EU の拡大政策において主要な金融手段として機能している。EU によって

用意されている金額は、総額で 115 億ユーロであり、アルバニア、マケドニア、ボスニア・

ヘルツェゴビナ、クロアチア、セルビア、コソヴォ、モンテネグロ、アイスランド、トル

コの 9 カ国がこのプログラムの恩恵にあずかっている。アルバニアは 2007 年から 2013 年

の間に総額約 5 億 9450 万ユーロの資金を受け取る予定だ。同じく潜在的加盟候補国である

ボスニア・ヘルツェゴビナは約 6 億 5549 万ユーロ、コソヴォは約 6 億 3536 万ユーロを受

け取ることになっている。IPA の目的は、制度作りや EU アキの導入、社会経済状況の改

善、環境保護、持続的発展といった幅広い分野に渡って、欧州統合の文脈の中で、各国が

改革を進展させるのをサポートすることである。支援の主要な焦点は、政治改革である。

具体的には、制度構築、法の支配の強化、人権、マイノリティの保護、市民社会の発展な

どである。これらを達成するために、IPA は「5 つの構成要素」を通して支援を届けること

になる。これは一つのフレームワークで、区別したアプローチと言える。因みに構成要素

Ⅰ、Ⅱは候補国も潜在的候補国も受けられるが、構成要素Ⅲ、Ⅳ、Ⅴは候補国のみである。

17 小山[2004]p.228 より抜粋。 18 後に東欧 10 カ国にまで対象が広がった。

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第 2 章 アルバニアと EU

31

・構成要素Ⅰ 移行支援と制度構築

・構成要素Ⅱ クロスボーダー協力(加盟国や IPA 対象国と)

・構成要素Ⅲ 地域的発展(輸送、環境、経済発展)

・構成要素Ⅳ 人的資源開発(人的資本の強化と戦闘除外)

・構成要素Ⅴ 農村開発

次に IPA の構造を確認する。それは三層構造からなっており、政治的枠組み、予算プロ

セス、加盟前援助の施行に分けられる(図表 2-2-1)。IPA の政治的枠組みというのは、EP あ

るいは候補国が締結する加盟パートナーシップによって幅広く定義づけられている、加盟

前一般的政策枠組みに沿う形となっている。先に EP は金融支援の指南も行うと述べたが、

それはつまり技術的援助であれ、プロジェクトを提案するものであれ、IPA を通して提供さ

れる加盟前支援はパートナーシップが識別した優先事項の範囲内で行われなければならな

いということを意味する。第二層目の、IPA の予算プロセスは第二段階に分けることが出来

る。第一段階においては、多年指向型金融枠組み(MIFF)によって、政治的枠組みで設定さ

れた政治的優先事項が金融の観点に翻訳される。それは 3 年周期で計画され、国ごとや構

成要素ごとの 3 年間の資金配分表が作成される。その際には、各国のニーズや行政的・マ

ネジメント能力やコペンハーゲン基準の遵守状況が考慮される。第二段階の予算プロセス

は、多年指向型計画文書(MIPD)で表される。MIPD はパートナーシップで示されたときよ

りも具体的な行動の優先事項を定め、その優先事項は IPAの構成要素に照らし合わされる。

また支援に介入する分野に関して詳細な資金必要額を明らかにするので、MIPD は MIFF

と現場での行動の橋渡しという戦略的文書の性格をもつ。さらに MIPD を補完するものと

して、多国受益的 MIPD がある。それは国家単位では対処しにくいクロスボーダーの次元

の問題に対処するものであり、各分野における地域協力の発展の補完を意図している。最

後に、IPA の構造の第三層目、構成要素を通じた IPA 施行について述べる。IPA の施行は、

5 つの構成要素ごとに行われるが、構成要素Ⅰは IPA 資金の 50%以上を占める。なぜなら

構成要素Ⅰは SAP において要求される政治的条件に対処することにつながり、ひいては欧

州における一般的な基準を満たすことにもなるからである。この重要性に鑑みて、以下に

そのプロジェクト形態を記す。

・民主制度の発達

・行政改革支援

・法の支配の強化

・司法制度の改革

・汚職の撲滅

・警察改革

潜在的候補国

候補国

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第 2 章 アルバニアと EU

32

・人権とマイノリティ保護の促進

・市民社会の支援

・メディアとの協働

・アキの施行(候補国のみ)

その他の構成要素についても簡単に紹介すると、構成要素Ⅱはクロスボーダー協力で実行

され、小規模のインフラプロジェクトや、環境プロジェクトなどがなされる。構成要素Ⅲ

は欧州地域開発基金(ERDF)と結束基金に相似た手段であり、地域開発を主眼とする。構成

要素Ⅳは欧州社会基金(ESF)と似通っており、人的資源の開発を意図する。構成要素Ⅴは、

共通農業政策(CAP)に備えるため、農村開発に焦点を置く。このように構成要素Ⅲ~Ⅴは、

受益国が将来 EU の各種基金を正しく、有効に活用するための能力を身につけられるよう

に設計されたものである。このような「地域の所有権」を志向した拡大政策は、第 6 次拡

大の特徴であり、「やりながら学ぶ」ことを加盟準備国に求めるのは EU の各国に対する能

力構築において見逃せないアプローチ方法である。

IPA は 2013 年末で期限が切れるので、2014 年から 2020 年を対象に新たな技術的・金融

的加盟前支援が計画されており、それは IPAⅡと呼ばれる。同期間に新たな金融フレームワ

ークも創設される。IPAⅡは今後の EU の拡大政策を担う役目があり、欧州の安定と安全、

繁栄を促進することで、EU の重要な対外政策の一つとして位置付けられる。アルバニアは

IPA に引き続き、この新たな仕組みの下で EU の支援を借りて、加盟への道を進むことに

なるだろう。

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第 2 章 アルバニアと EU

33

図表 2-2-1 IPA支援の全体の構成

(出所)The Quaker Council for European Affairs[2009]より加筆・修正して報告者作成。

(3) アルバニアの EU 加盟へのプロセス

この節では、今後アルバニアが EU 加盟までに辿るであろう過程について述べる(図表

2-2-2)。西バルカン諸国は 2000 年のフェイラ欧州理事会で潜在的加盟候補国として認知さ

れた。そうして各国は SAP の下で EU 加盟に向けた取り組みをしていくことになる。EP

は SAP のコンディショナリティやコペンハーゲン基準、テッサロニキ・アジェンダを参考

して作られ、それぞれの加盟準備国のために、主要・短期・中期優先課題を明示するもの

である。その履行状況は欧州委員会による進捗レポートで報告される。EP を尊重して実行

される加盟前支援は、加盟準備国の改革の大きな助けとなる。IPA は加盟前支援の主要なプ

ログラムであり、「ノウハウの移転」や「実物への投資」を受けながら、各国は制度構築な

どに取り組んでいく。EU 理事会の決定ではなく、EU との契約として、達成すべき条件や

守るべき包括的な基準を提示するのが、SAA である。この進行状況は、合同評議会(SAC)

を通じて監視される。アルバニアは 1999 年から CARDS の支援を受け始め、2007 年以降

はそれに代わって IPAがその役目を務めた。また2004年において最初のEPを締結し、2009

年に SAAが発効した。このプロセスのタイミングは、各国の様々な事情から異なっている。

潜在的加盟候補国

ヨーロピアン・パートナーシップ

加盟候補国

加盟パートナーシップ

MIFF

MIPD 多国受益的 MIPD

IPA

構成要素Ⅰ

構成要素Ⅱ

構成要素Ⅲ

構成要素Ⅳ

構成要素Ⅴ

構成要素Ⅰの

クロスボーダ

ーの側面

政治的フレームワーク

予算プロセス

加盟前援助の施行

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第 2 章 アルバニアと EU

34

ボスニア・ヘルツェゴビナは 2004 年に EP を締結し、SAA は未発行だが、暫定協定は 2008

年に発効した。コソヴォは事情が特殊であるため、両者とも締結されていない。クロアチ

アは他の国よりも発展をしていたため、2005年には SAAが発効された。マケドニアは 2004

年に SAA の発効があり、2006 年に EP を採決した、2008 年には EP が格上げされて加盟

パートナーシップとなった。モンテネグロは、2007 年に EP を採択、2010 年において SAA

が発効した。セルビアは 2008 年に EP 発効、SAA は未発行のままである。

現在潜在的加盟候補国であるアルバニアが、改革の進展が評価され、候補国としての立

場を EU に認められたら、欧州理事会により遅かれ早かれ、加盟交渉の開始が決定される。

すると今度は EP に代わって加盟パートナーシップが締結されることになる。これは EP と

同様に機能するものである。加盟候補国の地位を手に入れたアルバニアは、IPA の全構成要

素の支援を受けることが可能になり、改革を加速させることになる。加盟交渉が始まると、

「交渉フレームワーク」が作成され、候補国が自国の法律を整合させるべき、35 の分野も

しくは章に分かれたアキがリストアップされる。交渉過程と並行してスクリーニングと呼

ばれる作業が行われる。アルバニアの法律と EU 法の差異が厳密に調べ上げられ、十分に

情報が得られたと欧州委員会が判断したら、アキの導入のための交渉が始まる。アルバニ

アが EU の基準に沿って、EU 法を採択し、国内法に統合すると、EU 理事会の全会一致を

得た後で、アキに関する交渉が終わる、つまり章が閉じられることになる。ここまで順調

に行ったあとは、加盟条約が作成され、欧州委員会に意見を求め、欧州議会の承認を得て、

EU 加盟国とアルバニアがそれを批准すると、加盟条約は漸く発効する運びになる。これで

アルバニアは晴れて EU 加盟国となれる。加盟国になった後も、移行ファシリティーによ

って金融支援を受けることができる。以上のように候補国になった後でも、加盟までの道

のりは決して平坦ではない。

アルバニアは 2009 年 4 月 28 日に EU 加盟申請をした。2009 年 11 月 16 日には EU

理事会はこの加盟申請に対して意見を出すよう欧州委員会に求めた。欧州委員会はマース

トリヒト条約の 49 条と 2 条19に則って、2010 年 11 月 9 日に意見を提出した。委員会はア

ルバニアにおける改革の不十分な点を指摘し、候補国としての地位を与えるにはまだ早い

と判断した。そこでは特に大事な優先改革事項が 12 個挙げられたが、その内容は次章でふ

れることにする。その課題に対してアルバニアは「12 の勧告に対処するための行動プラン」

を制定し、改善に努めてきた。その実績が評価されるに至り、司法制度や行政改革、議会

の手続き法の改正を含む特定の主要項目の改革が完了したらという条件付きではあるが、

欧州委員会はアルバニアを EU 加盟候補国として認めるよう推薦した。委員会はアルバニ

アとの政治対話を歓迎している。今年中にはその推薦に対する返答が欧州理事会によって

なされると思うので、今後の行方に注目したい。

19 第1章で抜粋した。

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第 2 章 アルバニアと EU

35

図表 2-2-2 SAPを通じた EU加盟までの道のり

(出所)The Quaker Council for European Affairs[2009]より加筆・修正して報告者作成。

MIPD’s ・IPA 構成要素 Ⅰ&Ⅱ

・技術的支援

MIPD’s ・IPA 構成要素 Ⅰ,Ⅱ,

Ⅲ,Ⅳ&Ⅴ

・技術的支援

チャプターを開く スクリーニング

(アキの分析的審査) 交渉開始

加盟条約 35 のチャプター チャプターを閉じる

条約の批准

連合協定

ヨーロピアン・パートナーシップ(EP) MIFF

SAA

加盟パートナーシップ MIFF

潜在的候補国

候補国

新規 EU 加盟国

現在アルバニアはここまで完了↓

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第 3 章 アルバニアの EU 加盟への試練

36

第 3 章 アルバニアの EU 加盟への試練

3.1 政治的・経済的な課題の識別

(1) アルバニアの加盟申請に対する欧州委員会意見

前章で述べたように、2009 年にアルバニアは加盟申請を行ったが、欧州委員会は課題を

提示することで答えた。本節では特に優先的に取り組むように勧告された 12 の項目につい

てみる。だがその他にも改革の必要性が指摘された分野は多くあったことを注意しておき

たい。アルバニアはコペンハーゲン基準20や SAP で定められた条件に関して、まだまだ努

力が必要なものの、一定の進展があることは認められた。コペンハーゲン基準の経済的基

準に照らし合わせて、労働市場改革や所有権の問題、インフラや人的資本の脆弱性をアル

バニアは指摘された。アキと整合性を保つような国内法の整備についても、さらなる努力

を求められ、とりわけ、環境の分野の基準を満たすには、長い時間とより大規模な投資が

必要とされた。欧州委員会が重視するのは、特にコペンハーゲン基準において民主主義や

法の支配の保証する安定的な制度の要求などが書かれた、政治的基準の分野であった。他

の基準も含め、とりわけこの基準が一定程度達成されれば、EU 加盟交渉を開始する用意が

あると委員会は述べた。その政治的基準に基づいて示されたのが、12 の主要な優先改革事

項である。それを以下に記す21。

1.全ての政党間における建設的で持続的な政治対話を基にした、議会の適切な運営を

確実にすること。

2.議会における多数派の立場を強化するための懸案の法律を採択すること。

3.オンブブズマンを任命すること、また憲法裁判所・高等裁判所の裁判官を任命する

ために秩序ある聴講と投票プロセスを確実にすること。

4.OSCE-ODIHR(民主制度・人権事務所)の推薦に沿う形で、選挙のための法的枠組み

を修正すること。

5.欧州の基準や国際的基準に沿う形での選挙管理を確実にすること。

6.行政機関に関する法律を修正することを含めた行政改革と行政部門の強化に必要な

処置を完了すること。それは行政の専門化と非政治化を高める目的を有し、任命や

昇進において透明性ある功績ベースのアプローチを強めることを意図する。

7.司法の独立性と効率性、説明責任を確実なものにするための、司法改革戦略の採択

と実施を通して、法の支配を強めること。

8.政府の反汚職戦略と行動プランを効果的に実行し、特に裁判官や大臣、国会議員と

いった人たちを調査する際に障害となる要素を取り除くこと。あらゆるレベルの汚

職事件において、先行的な調査や起訴、有罪判決といった堅実な実績を積み上げる

20 第 1 章で紹介した。 21 European Commission[2010b]より引用。

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第 3 章 アルバニアの EU 加盟への試練

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こと。

9.組織犯罪の脅威の評価や先行的な調査に基づき、組織犯罪撲滅の動きを強めること。

地域や EU のパートナーとの協力を一層密にし、法執行機関とのよりよい協調関係

を図ること。

10.所有権に関する国家戦略と行動プランを準備・採択・実行すること。それは幅広

い利害関係者との調整をし、ECtHR(欧州人権裁判所)判例法を考慮して、返還・

補償・法律を尊重したプロセスということにまで踏み込むべきである。

11.特に女性や子供、ロマといった人たちの人権の保護を強化し、反差別政策を効果

的に実行するための具体的な処置をとること。

12.警察署にいる拘留者や公判前の留置者、囚人といった人々の待遇改善に向けた追

加的措置をとること。また虐待事件に関する司法的追跡調査の仕組みを強化し、

この分野に関するオンブズマンの推薦の申請を改善すること。

アルバニアは 2011 年に、それまで険悪に対立をしていた与党と野党の雪解けが始まった

ことで、政治対話が進み、そのおかげで政治的基準を満たすための改革を次々と実行する

ことができた。アルバニアは 4 つの優先事項を満たした。その 4 つとは、「1」と「2」、「3」、

「4」の項目である。よく進展している項目は 2 つで、「6」と「12」である。残りの項目に

ついても進展は多少みとめられるが、不十分だとされている。こうした実績を鑑みて、欧

州委員会は2012年10月に、「条件付き」でアルバニアを加盟候補国に推薦したのであった。

2013 年にアルバニアは議会選挙が予定されているが、伝統的に繰り返されている激しい政

治的対立を回避して、改革を滞らせることのないようにしなければならない。アルバニア

の EU 加盟の未来は、民主党等 DP)と社会党(SP)間の協調的な政治対話の継続で実現する

「政治の安定」にかかっている。

(2) 外部機関の調査データから見るアルバニアの課題

この節では、Bertelsmann Stiftung による「BTI 2012 Albania Country Report」と

World Economic Forum による「The Global Competitiveness Report 2012-2013」の 2つ

のレポートを参考にして、アルバニアの課題を探っていく。欧州委員会はどこに問題があ

るのかを文章では示してくれるが、これらのように政治的・経済的なパフォーマンスの評

価を定量的に数値として明示はしてくれていない。その数値を標準や他国と比べることで、

アルバニアの課題がより明瞭にわかると考えた。本節ではそれぞれのレポートを研究して

問題を明らかにすることにし、それらのまとめは、次項で行うものとする。

まずは「BTI 2012 Albania Country Report」からみていく。BTI では、世界 128 の体

制移行国や発展途上国において民主制度や市場経済、政治的マネジメントの質の観点から、

移行過程を評価される。初めにアルバニアと西バルカン諸国の移行評価を比較する(図表

3-1-1.2)。ステータス指数とは、政治的、及び経済的移行状態を計ったものであり、マネジ

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第 3 章 アルバニアの EU 加盟への試練

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メント指数とは、移行、つまり改革の困難さとマネジメントにおけるパフォーマンスを評

価したものである。アルバニアはこの調査対象国の中では、どの指数も大体上位 4 分の 1

の位置にいるので、まずまずの評価と言える。一方でこの 6 カ国でランク付けしてみると、

アルバニアはステータス指数では 4 位、政治的移行では 4 位、経済的移行でも 4 位、はた

またマネジメント指数においても 4 位である。西バルカンの中では改革が遅れている方と

言わざるを得ない。このようにして総合的に順位をつけてみると、一番改革が進んでいる

のは、セルビアとマケドニアであり、2 番目はモンテネグロ、3 番目にアルバニア、4 番目

にボスニア・ヘルツェゴビナとコソヴォがくる。やはり加盟候補国 3 カ国が上位 3 位まで

を占めている結果となった。アルバニアの西バルカンにおける立ち位置がわかったところ

で、次はその評価指数の具体的な中身に踏み込んでいく。

図表3-1-1 潜在的加盟候補国(アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソヴォ)のBTI移行評価

指数(2012年)

アルバニア ボスニア・ヘルツェゴビナ コソヴォ スコア(1~10)

ランク (128 国中)

スコア ランク スコア ランク

ステータス指数 7.02 31 6.41 39 6.28 41

・政治的移行 7.25 34(→) 6,40 49(→) 6.70 43(→) ・経済的移行 6.79 37(→) 6.43 42(→) 5.86 58(→)

マネジメント指数 5.42 50 4.03 95 5.35 57

(注)BTI = Bertelsmann Stiftung’s Transformation Index。128の移行・途上国が対象。スコアは 1が悪く、10が良い。

ランクの隣にある矢印はトレンドを示す。

(出所)BTI 2012 Albania Country Report, BTI 2012 Bosnia and Herzegovina Country Report, BTI 2012 Kosovo

Country Report より報告者作成。

図表 3-1-2 加盟候補国(マケドニア、モンテネグロ、セルビア)の BTI移行評価指数(2012年)

マケドニア モンテネグロ セルビア スコア(1~10)

ランク (128 国中)

スコア ランク スコア ランク

ステータス指数 7.35 25 7.28 27 7.51 21

・政治的移行 7.60 29(→) 7.60 29(→) 8.05 23(→) ・経済的移行 7.11 28(→) 6.96 31(→) 6.96 31(→)

マネジメント指数 6.45 21 6.09 27 6.01 31

(注)BTI = Bertelsmann Stiftung’s Transformation Index。128の移行・途上国が対象。スコアは 1が悪く、10が良い。

ランクの隣にある矢印はトレンドを示す。

(出所)BTI 2012 Macedonia Country Report, BTI 2012 Montenegro Country Report, BTI 2012 Serbia Country

Report より報告者作成。

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第 3 章 アルバニアの EU 加盟への試練

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図表 3-1-3 において、各領域の中における、さらに細かく分けた分野の評価指数が記され

ている。政治的移行の分野でまず気になるのが、「三権分立」、「司法の独立性」、「職権乱用

の訴追」といった互いに司法制度に関わる分野の点数の低さである。通常の民主国家では、

立法府と行政と司法は権力が分かれ、バランスしている。しかしアルバニアではそのとき

どきの支配政党にとって利益になるようにそれらの機関が動くのである。アルバニアの民

主主義の脆弱性の背景にはこのことがある。EU は憲法的対策があるにもかかわらず、行政

に対する有効な議会の監視が働いておらず、議会は独立した機関として機能していないと

批判した。また司法制度の独立性は憲法や関連法律によって規定されているが、政治的干

渉を受けるのが常である。三権分立の機能障害や司法の場への政治的脅迫は、職権乱用に

対する有効な法的起訴をも危うくしており、政治家の汚職が露呈しても起訴されない、有

罪にならないといった事態が起きている。また、「民主制度のパフォ-マンス」も低いが、

これは近年の政治対立による、野党の 6 カ月に及ぶボイコットや、多数決の原理の質を高

める法案の否決、議論が分裂して立法議会が正常に機能しなくなったという事例に象徴さ

れる。一方で共産主義の崩壊後、アルバニア人の民主主義の信奉は堅固であり、政治危機

が発生しても民主主義への熱意は衰えていない。それを示しているのが、「民主制度へのコ

ミットメント」や「民主主義への支持」の点数の高さである。しかしアルバニア人の自国

の制度への信頼は低く、外国の制度への信頼が厚いという傾向があり、政府が国民の信頼

を取り戻すのは時間がかかりそうである。BTI のレポートには書いていないが、こうした

国民感情がEUという外国の組織の信頼につながり、その加盟を後押ししているのではな

いか。だとすると中・東欧のように EU の要求に対する、反発、すなわちナショナリズム

がアルバニアでは盛り上がりにくい可能性がある。つまり皮肉なことに、自国の制度への

信頼の低さがアルバニアの将来の EU 加盟の好材料になっていると推察されるのである。

次に経済的移行に目を移す。コペンハーゲン基準にも記されている、「市場原理に基づく

競争」の評価が低い。アルバニアは開かれた経済発展を志向しており、生産要素の移動に

関してはほとんど障壁がない。しかし、農業製品や他の特定の製品は協定の保護下にある。

また企業を倒産させる際や契約を執行する際のコストやリスクが高くなっている。さらに

非公式経済の大きさも見逃せず、経済全体の約 4 割を占めるとも言われており、このこと

が市場経済の発展を阻害していると指摘される。「社会のセーフティーネット」の点数も低

いが、公的な社会福祉システムは、アルバニアにおいて機能しているといわれている。し

かし汚職や脆弱な司法による、税収の減少と貧困層の被害が指摘されており、先ほど述べ

た政治的な問題がここでも顔をのぞかせている。また、アルバニアにおいてはいくつかの

国家資格もしくは公務員としての地位が「お金」で買われており、これは汚職の蔓延を示

すとともに、人々の「平等な機会」を侵害しているといえよう。アルバニアにおける「環

境政策」への取り組みが不十分であることは前にも述べたが、実際環境政策の立案や資金

配分などは、外国の機関に頼り切っているのが現状であり、政府の積極的な関与が求めら

れている。アルバニアは共産主義政権から良好な教育インフラを引き継いでいて、識字率

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第 3 章 アルバニアの EU 加盟への試練

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も地域の平均より高い。だが R&D には予算をあまり割いておらず、また共産主義政権から

受け継いだ生産設備なども、リソース不足や資金不足で壊されたりしたため、「教育政策・

R&D」の評価が低くなっている。

最後に、移行マネジメントの評価である。ここでとりわけ目を引くのが「対立の激しさ」

の項目の 2 点である。これは項目中で圧倒的最低点だ。アルバニアには民族や宗教的対立

といったものはほとんど存在しない。しかしながら、前共産主義派か反共産主義派かによ

って、地域的分断、一族の構成、政治的対立が起っている。北部には反共産主義、つまり

民主党の支持層が多く、南部には前共産主義、つまり社会党の支持層が多い。2009 年に争

われた選挙では、アルバニアの深刻な政治闘争が甦り、政治的口論にエネルギーが割かれ、

民主制度の構築が立ち往生した経緯もある。「資産の有効活用」ができていないとは、専門

的で効率的な官僚制が育っていないということである。共産主義政権の倒壊以降、支配政

党は忠実な支持者だけを厚遇してきて、専門的で功績ベースの行政部の構築を阻害してき

た。政府による「反汚職政策」も不十分である。「縁故主義と腐敗というバルカン的伝統22」

と呼ばれるくらいルーマニアなどの他のバルカン諸国でも汚職が問題になっている。EU は

再三に渡って、アルバニアの EU 統合の過程において、汚職は主要な障害の一つであると

注意を促してきた。国家制度の脆弱さと曖昧なチェック・アンド・バランス機能が汚職を

助長する要因となっている。これまでにも多くの戦略が寝られ、法案が可決してきたが、

未だ十分な撲滅には至っておらず、これからも汚職との長い戦いを強いられそうである。

22 田中[2007]p.267 より引用。

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第 3 章 アルバニアの EU 加盟への試練

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図表 3-1-3アルバニアにおける政治的・経済的移行と移行マネジメントの詳細な評価(2012年)

移行状態 (ステータス指数:7.02)

政治的移行 (指数:7.25)

権力行使の独占性 9 国家アイデンティティ 9 宗教教義への不干渉 10 基本的行政 7 自由かつ公正な選挙 7 支配のための有効な力 7 集会・結社の権利 9 表現の自由 7 三権分立 6 司法の独立性 5 職権乱用の訴追 5 市民権 8 民主制度のパフォーマンス 6 民主制度へのコミットメント 9 政党システム 6 利権団体 6 民主主義への支持 8 社会資本 6

経済的移行 (指数:6.79)

社会経済的な障壁 6 市場原理に基づく競争 6 反独占政策 7 外国貿易の自由化 10 銀行システム 7 反インフレ・外国為替政策 9 マクロ経済の安定性 8 所有権 7 企業の民営化 8 社会のセーフティーネット 6 平等な機会 6 生産の強み 7 環境政策 5 教育政策・R&D 5

移行マネジメント (マネジメント指数:5.42)

困難のレベル

構造的制限 6 市民社会の伝統 8 対立の激しさ 2

マネジメントパフォーマンス

優先度 6 実行力 6 政策学習 5 資産の有効活用 4 政策協調 6 反汚職政策 4 目標へのコンセンサス 8 反民主的行為者 7 マネジメントの分裂や対立 6 市民社会の参加 6 和解 5 支援の有効活用 7 信頼性 7 地域的協力 10 (注)スコアは 1が悪く、10が良い。

(出所)BTI 2012 Albania Country Report より報告者作成。

今度は、「The Global Competitiveness Report 2012-2013」からアルバニアの課題を炙り

出す。図表 3-1-4 はアルバニアとボスニア・ヘルツェゴビナを対象とした分野別の世界競争

力指数のレーダーグラフである。次の図表 3-1-5 は、そのスコアとランクが数値で書かれて

いる。これを見るに、両国ともグラフの形状が似通っていて、保健医療と初等教育の分野

以外は、あまり競争力がないということができる。世界と比べてみると、アルバニアは、「革

新性」の項目が一番悪く、次に「金融市場の発達」、「マクロ経済環境」、「市場規模」、「ビ

ジネスの洗練性」といった分野がよろしくない。一番マシなのは、「財市場の効率性」であ

る。旧社会主義国の小国であるから仕方ない面はあるが、世界と比べて全般的に劣ってい

る。全体の分野と世界におけるアルバニアの位置を確認したところで、次から 12 の柱別に

競争力指数をチェックしていく。

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第 3 章 アルバニアの EU 加盟への試練

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図表 3-1-4 アルバニアとボスニア・ヘルツェゴビナの分野別の世界競争力指数

(注)点数は1が最も悪く、7に近づくほど望ましい。

(出所) The Global Competitiveness Report 2012-2013より報告者作成。

図表 3-1-5 アルバニアとボスニア・ヘルツェゴビナの世界競争力指数

アルバニア ボスニア・ヘルツェゴビナ ランク スコア(1~7) ランク スコア(1~7)

GCI 2012-2013(144カ国中) 89 3.9 88 3.9 GCI 2011-2012(142 カ国中) 78 4.1 100 3.8 GCI 2010-2011(139 カ国中) 88 3.9 102 3.7

基本条件 87 4.2 81 4.3

1. 制度 84 3.6 85 3.6 2. インフラ 91 3.5 94 3.4 3. マクロ経済環境 98 4.3 97 4.3 4. 保健医療と初等教育 79 5.6 48 5.9

効率性上昇指標 92 3.8 97 3.7

5. 高等教育と職業訓練 76 4.1 72 4.2 6. 財市場の効率性 58 4.3 109 3.9 7. 労働市場の効率性 69 4.4 99 4.1 8. 金融市場の発達 120 3.4 119 3.4 9. 技術向上への取組み 77 3.7 68 3.8 10. 市場規模 98 2.9 93 3.1

革新性と洗練性指標 113 3.1 99 3.3

11. ビジネスの洗練性 98 3.6 109 3.5 12. 革新性 129 2.6 90 3.1

(出所) The Global Competitiveness Report 2012-2013より報告者作成。

-1

1

3

5

7制度

インフラ

マクロ経済環境

保健医療と初等教育

高等教育と職業訓練

財市場の効率性

労働市場の効率性

金融市場の発達

技術的成熟

市場規模

ビジネスの洗練度

革新性

アルバニア ボスニア・ヘルツェゴビナ

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第 3 章 アルバニアの EU 加盟への試練

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図表 3-1-6 は、制度の分野である。「所有権」と「知的財産の保護」という相互に関連す

る項目は、ともに 100 番台で評価が悪い。アルバニアでは、共産主義政権時代に没収され

た土地の問題が解決されずに現代まで残っているなど、土地の権利の不確実性が、経済社

会発展の重大な障害となっている。政治的利害や汚職の蔓延、脆弱な制度といったことが、

法の執行を阻害しており、所有権問題は早期には解決できない見込みである。また他には、

「司法の独立性」や「もめ事を調停する法的枠組みの効率性」、「組織犯罪」、「監視機関の

監視能力」といった項目の評価の悪さが目立つ。組織犯罪については、欧州委員会が 12 の

優先課題に挙げていたように、アルバニアにとって喫緊の課題であり、背景では非公式経

済の存在も関わっている。

図表 3-1-6 アルバニアの詳細な世界競争力指数(1. 制度)

第一の柱・制度 スコア(1~7) ランク(144 カ国中) 所有権 3.1 129 知的財産の保護 3.0 103 公的基金の流用 2.8 97 政治家に対する国民の信用 2.6 75 不法な支払いと賄賂 3.6 84 司法の独立性 2.6 121 政府役人の決定の依怙贔屓 2.9 84 政府支出の浪費 3.3 66 政府規制の負担 4.1 26 もめ事を調停する法的枠組みの効率性 3.3 98 規制に異議を唱えるための法的枠組みの効率性 3.3 93 政府の政策立案の透明性 4.3 67 ビジネスパフォーマンス改善のための政府サービス - ― テロリズムに対する事業コスト 5.6 69 犯罪と暴力に対する事業コスト 4.7 80 組織犯罪 4.7 99 警察サービスの信頼性 4.0 77 企業の倫理的振る舞い 3.9 71 監視機関の監視能力 4,2 101 取締役会の有効性 4.7 56 少数株主の利益の保護 4.2 70 投資家保護の度合い(1~10) 7.3 16

(注)マーカーは 50位以内。

(出所) The Global Competitiveness Report 2012-2013より報告者作成。

アルバニアのインフラの質と量の悪さは各種文献で指摘されており、経済成長のボトル

ネックとなっている。図表 3-1-7 では特に、「鉄道網の質」と「港湾設備の質」、航空座席数

の少なさなどが低く評価されている。EBRD の調査では、通信は比較的整備されていると

しながらも、鉄道や道路、水・廃水のインフラの評価が低かった。電力供給に関しては、

アルバニアは再生可能エネルギー市場の地域プレイヤーになれる潜在的可能性を秘めてい

ると指摘されている23。しかし、電力供給の部門において民間企業の参入が少ないことや、

23 EBRD[2012],参照。

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第 3 章 アルバニアの EU 加盟への試練

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法的規制枠組みの質の低さなどが指摘され、成長産業化は一筋縄にはいかないようである。

図表 3-1-7 アルバニアの詳細な世界競争力指数(2. インフラ)

第二の柱・インフラ スコア(1~7) ランク(144 カ国中) 全体的なインフラの質 4.2 77 道路の質 4.3 59 鉄道網の質 1.2 119 港湾設備の質 3.7 96 航空輸送インフラの質 4.8 66 1 週間 1km当たりに利用できる航空機座席数(100 万) 22.4 118 電力供給の質 4.8 71 100 人あたりの携帯電話数 96.4 92 100 人あたりの固定電話数 10.5 91

(出所) The Global Competitiveness Report 2012-2013より報告者作成。

図表 3-1-8 の「マクロ経済環境」については 2 章 1 節でも概観した。やはり気になるのは、

財政の不健全さであるが、アルバニア政府は、財政赤字をファイナンスするための「ラス

トリゾート」として国内の民間銀行からお金を借り入れる傾向がある。これは IMF との縁

が切れた 2009 年以降から顕著になった。こうした行動は、民間企業に回るはずのお金がな

くなることを意味するので、実体経済の成長にとってよくない上、金融機関の収益にとっ

ても、政府の財政規律に対しても不健全なことであり、改められる必要がある。また、貯

蓄額が少ないということは、国内への投資のために十分な資金が行き渡りにくいというこ

とを意味するので、これも実体経済にとってはマイナス要素である。

図表 3-1-8 アルバニアの詳細な世界競争力指数(3. マクロ経済環境)

第三の柱・マクロ経済環境 スコア(1~7) ランク(144 カ国中) 財政収支(%GDP) -3.5 80 総貯蓄高(%GDP) 11.8 116 インフレ(年平均、%) 3.4 43 一般政府債務残高(%GDP) 58.9 104 国家信用格付け(0~100) 38.9 81 (注)マーカーは 50位以内。

(出所) The Global Competitiveness Report 2012-2013より報告者作成。

図表 3-1-9 における「保険医療」の項目は、アフリカの貧困国とは環境が違うため、文句

なしの成績である。「初等教育」で気になるのは、初等教育の質は高い一方で、入学率が悪

いことである。前者の訳は、共産主義政権の唯一と言っていいほどの「正の遺産」のおか

げであろう。入学率が低いのは、ロマの子供たちがあまり学校に通っていない影響が出て

いると推測される。

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第 3 章 アルバニアの EU 加盟への試練

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図表 3-1-9 アルバニアの詳細な世界競争力指数(4. 保健医療と初等教育)

第四の柱・保健医療と初等教育 スコア(1~7) ランク(144 カ国中) マラリアのビジネスへの影響 該当せず 1 10 万人あたりのマラリア件数 脅威なし 1 結核のビジネスへの影響 6.7 5 10 万人あたりの結核件数 14.0 34 HIV・AIDS のビジネスへの影響 6.6 4 大人の人口に占める HIV 患者の割合(%) 0.1 未満 1 1000 人の出生あたり幼児の死亡数 16.4 73 平均寿命(歳) 76.9 38 初等教育の質 4.4 47 初等教育入学率(%) 79.9 125

(注)マーカーは 50位以内。

(出所) The Global Competitiveness Report 2012-2013より報告者作成。

図表 3-1-10 においても初等教育と同様に、教育の質はいいが、入学率は悪いという傾向

を踏襲している。特に理数系教育や社内での教育が高評価だ。こうした現状を踏まえると、

教育を受けた人とそうでない人は、後々相当な学力格差が生まれることが容易に想像され

る。後者は職業に就くのが難しくなるだろうし、やがては所得格差の拡大につながってい

く可能性がある。

図表 3-1-10 アルバニアの詳細な世界競争力指数(5. 高等教育と職業訓練)

第五の柱・高等教育と職業訓練 スコア(1~7) ランク(144 カ国中) 中等教育入学率(%) 88.9 69 第三次教育入学率(%) 18.4 93 教育システムの質 4.0 52 理数系教育の質 4.5 40 経営スクールの質 4.3 61 学校でのネットアクセス 4.5 54 研究と訓練サービスの利用可能性 3.3 118 社員訓練の程度 4.4 36 (注)マーカーは 50位以内。

(出所) The Global Competitiveness Report 2012-2013より報告者作成。

図表 3-1-11 において、上から 3 つの項目の評価の低さから、市場原理に基づいた経済が

まだアルバニアに根付いていないことがわかる。比較的少数の企業が市場を支配していて、

そうした独占的、寡占的状況に対して政府も有効な対策を行っていない状況が見て取れる。

アルバニアでは汚職が盛んであり、財界と政界も密接につながっているので、そうした背

景から思い切った反独占政策を政府が打ち出せないのではないかと推測される。また、ア

ルバニアは 2 章 1 節でみたように、年々農業の割合が下がっているが、依然産業の中では

高い割合を占めていることから、農業政策のコストが高くついていることを調査は示して

いる。伝統的に農業国家であるため、既得権益の力の大きさも関係があるだろう。EU に入

ると CAP による多額の資金援助を受けることができるので、アルバニアの農業従事者は

EU 加盟を歓迎しない理由はないと思われる。

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第 3 章 アルバニアの EU 加盟への試練

46

図表 3-1-11 アルバニアの詳細な世界競争力指数(6. 財市場の効率性)

第六の柱・財市場の効率性 スコア(1~7) ランク(144 カ国中) 地元競争の激しさ 3.9 128 市場支配の程度 3.3 100 反独占政策の有効性 3.6 99 税制の範囲・影響 3.9 42 収益に対する課税割合(%) 38.5 71 事業開始までの手続き数 5 29 事業開始までに要する日数 5 10 農業政策のコスト 3.6 92 貿易障壁 4.5 63 関税(%) 3.1 46 外資による所有の普及度合い 4.1 103 FDI の規則のビジネスへの影響 4.7 66 関税手続きの負担 3.7 92 GDP に占める輸入額 60.0 42 顧客志向の程度 5.0 38 買い手の洗練性 3.5 62 (注)マーカーは 50位以内。

(出所) The Global Competitiveness Report 2012-2013より報告者作成。

図表 3-1-12 においては、「頭脳流出」が進んでいることが示されている。これは国内で高

い質の教育を受けた層が、EU 側の後押しもあって、外国のより高い大学に進学して、まと

もな産業が無い自国を見限り、外国で就職しているものと推察される。また、女性労働者

の少なさも指摘されているが、少ない人口の中で今後も成長を続けていくアルバニア経済

からすると、女性も労働力として登用する必要性が大いにあると思われる。

図表 3-1-12 アルバニアの詳細な世界競争力指数(7. 労働市場の効率性)

第七の柱・労働市場の効率性 スコア(1~7) ランク(144 カ国中) 労使間の協調関係 4.8 30 賃金決定の柔軟性 4.7 95 雇用・解雇の実施 4.7 26 週給換算した解雇コスト(週) 21 94 給料と生産性 4.4 33 専門経営者に対する信頼 4.2 73 頭脳流出 3.1 96 男性に対する女性労働者の割合(%) 0.72 92 (注)マーカーは 50位以内。

(出所) The Global Competitiveness Report 2012-2013より報告者作成。

図洋 3-1-13 は金融市場に関する調査であるが、一見しただけで、大いに改革の必要性が

あることがわかる。企業や個人は、金融サービスを受けようと思っても、種類が限られて

いたりして不便だったり、高くつくので利用しないという事態に直面していると考えられ

る。企業はまた、直接金融においても、間接金融においても、資金調達をする事が困難な

状況に置かれており、設備投資や企業の成長の抑制につながっていることは間違いない。

ベンチャーキャピタルの利用可能性も低いため、次世代を担う新しい企業の出現を妨げて

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第 3 章 アルバニアの EU 加盟への試練

47

いるといえる。また銀行の健全性の悪さは、大いに実体経済にとってもリスク要因であり、

今後のアルバニア経済の成長にとっては、金融市場の全般的な改革が肝であるといっても、

過言ではないであろう。

図表 3-1-13 アルバニアの詳細な世界競争力指数(8. 金融市場の発達)

第八の柱・金融市場の発達 スコア(1~7) ランク(144 カ国中) 金融サービスの利用性 3.8 108 金融サービスのお手頃さ 3.3 125 地元の株式市場を通じた資金調達 1.6 143 融資の受けやすさ 1.8 136 ベンチャーキャピタルの利用可能性 1.8 132 銀行の健全性 4.2 124 証券取引の規制 2.2 141 法的権利指数(1~10) 9 11

(注)マーカーは 50位以内。

(出所) The Global Competitiveness Report 2012-2013より報告者作成。

図洋 3-1-14 をみると、「最先端科学技術の利用可能性」が低いということが明示されてい

る。地理的に西欧から遠い事も最先端技術が入ってこない、1 つの要因であろう。アルバニ

アはまだ途上国であるため、最先端の技術を駆使したような製品を作ることを求められる

段階ではないが、将来のことを見据えて、国が戦略的に技術水準を引き上げていくことが

重要である。

図表 3-1-14 アルバニアの詳細な世界競争力指数(9. 技術的成熟)

第九の柱・技術的成熟 スコア(1~7) ランク(144 カ国中) 最先端科学技術の利用可能性 4.4 106 企業レベルでの科学技術消化力 4.6 80 FDI と技術移転 4.7 62 国民のネット利用率(%) 49.0 57 100 人あたりのブロードバンドインターネット契約者数

4.3 77

ユーザーあたりの国際インターネット帯域幅(キロバイト)

19.0 62

100 人あたりの携帯ブロードバンド契約者数 8.8 72

(出所) The Global Competitiveness Report 2012-2013より報告者作成。

図表 3-1-15 は市場規模を表している。アルバニアは人口凡そ 320 万人の小国であり、一

人当たり GDP もバルカン諸国の中で一番低いので、外国企業にとっては魅力的な消費市場

では全然ないに違いない。アルバニア内の企業は、国内需要だけでは成長することが不可

能であるので、韓国のように輸出を志向していくしかない。幸いなことにアルバニア政府

は貿易の自由化については熱心なので、この点では国内企業の成長に寄与しているといえ

るであろう。

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第 3 章 アルバニアの EU 加盟への試練

48

図表 3-1-15 アルバニアの詳細な世界競争力指数(10. 市場規模)

第十の柱・市場規模 スコア(1~7) ランク(144 カ国中) 国内市場規模指数(1~7) 2.7 97 外国市場規模指数(1~7) 3.3 109

(出所) The Global Competitiveness Report 2012-2013より報告者作成。

図表 3-1-16 をみると、地元サプライヤーの量も質も悪いので、民間企業の競争力に悪影

響を及ぼしているということが読み取れる。また特定の分野の会社が地理的に近く集まっ

て、製品や研究開発をしたりすることで、相乗効果を生んで、高い効率性やイノベーショ

ンを生むといった「集団開発」が進んでいないので、これもまた企業の競争力にマイナス

の事態となっているだろう。

図表 3-1-16 アルバニアの詳細な世界競争力指数(11. ビジネスの洗練性)

第十一の柱・ビジネスの洗練性 スコア(1~7) ランク(144 カ国中) 地元サプライヤーの量 3.9 128 地元サプライヤーの質 3.9 115 集団開発度 2.0 144 競争優位性 2.9 110 バリューチェ-ンの広さ 2.6 134 国際的流通の支配度 4.4 37 生産プロセスの洗練性 3.8 60 マーケティングの程度 4.5 42 権限委任の意欲度 3.9 49 (注)マーカーは 50位以内。

(出所) The Global Competitiveness Report 2012-2013より報告者作成。

最後の図表 3-1-17 は、「革新性」に関してである。アルバニアは特に理数系の教育の質が

高い割には、科学研究機関の質は劣っていることがわかる。企業や大学の R&D への関心の

薄さが読み取れるが、政府も R&D の政策に力を入れておらず、割り当てられる予算は少な

い。また R&D の部門は FP7 と呼ばれる EU の資金援助プログラムから現在では便益を受

けている。

図表 3-1-17 アルバニアの詳細な世界競争力指数(12. 革新性)

第十二の柱・革新性 スコア(1~7) ランク(144 カ国中) イノベーションの能力 2.4 128 科学研究機関の質 2.4 132 企業の R&Dへの支出 3.0 83 R&D での産学連携 2.3 138 先進的技術による製品の政府調達 3.9 46 科学者とエンジニアの利用可能性 3.3 123 100 万人あたりの PCT 特許申請数 0.0 119 (注)マーカーは 50位以内。

(出所) The Global Competitiveness Report 2012-2013より報告者作成。

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第 3 章 アルバニアの EU 加盟への試練

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(3) 課題のまとめ

3 章 1 節では、以上のように、欧州委員会意見と BTI のレポート、世界競争力指数のレ

ポートを使って、アルバニアの課題を総合的、多角的にみてきた。ここではそれらで判明

した特に改革が必要とされるような問題について、簡単にまとめて以下に提示しようと思

う。

・法の支配の弱さ・三権分立の曖昧さ・民主主義が正常に機能していないこと・政治の

影響を受ける司法の独立性・党派間の対立の激しさ・汚職の蔓延・非公式経済を背景

に蔓延る組織犯罪・土地を巡る所有権問題・市場原理に基づく競争の未定着・脆弱で

未発達な金融システム・外国依存的な環境政策・R&D 政策への関心薄・積み上がる政

府債務・全般的なインフラの未整備

上記の項目が、報告に共通する公約数的なアルバニアの重要な課題である。これにはコペ

ンハーゲン基準にも記載されている事柄も含まれていることがわかる。汚職に関しては、

本稿でも何度か言及してきたが、トランスペアレンシー・インターナショナルが公表して

いる「腐敗度認識指数」を参考にして、改めてアルバニアと他国との汚職の度合いを確認

する24。2012 年のアルバニアの腐敗度認識指数は 176 カ国中 113 位 100 点中 33 点であ

る。100 点に近づくほど「清潔」を表現する。この結果をみるとやはりアルバニアの汚職は

国際的にもひどい方だということがわかる。他のバルカン諸国はどうだろうか。モンテネ

グロは 75 位・41 点、マケドニアは 69 位・43 点、コソヴォは 105 位・34 点、セルビアは

80 位・39 点、クロアチアは 62 位・46 点、ボスニア・ヘルツェボビナは 72 位・42 点、ス

ロヴェニアは 37 位・61 点、ブルガリアは 75 位・41 点、ルーマニアは 66 位・44 点、ギリ

シャは 94 位・36 点である。他のバルカン諸国も汚職に悩まされているのは判明したが、同

時にバルカン諸国の中でアルバニアにおいて一番汚職が蔓延していることも判明した。こ

の根深くて、厄介な問題を克服しない限りは、加盟国への距離が縮まらないだろう。また、

その他のことについても、どれも短期では解決できるようなものではなく、中・長期的な

戦略に基づいた政府の地道な取り組みが要求される。

24 トランスペアレンシー・インターナショハル HP(http://www.transparency.org/)。

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第 3 章 アルバニアの EU 加盟への試練

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3.2 アルバニア経済の展望

(1) EU 加盟のために求められる経済成長

EU は単一市場を構成している。EU に加盟するとは、すなわちその単一市場に入ること

を意味する。そこでは競争圧力や市場の力に対応できるような競争力が企業に求められる。

あまりに経済が発展していない国がうっかり加盟してしまうと、その国の企業が環境変化

に対応できずに、苦しむ結果となるかもしれない。それはその国とっての雇用問題にもつ

ながる。そういった観点から、EU に加盟する国は、一定の経済力が必要とされる。明示的

な基準はないが、これまでのEUの拡大の歴史の中では、新規加盟国の一人当たりGDP(PPP

換算、以下も同様)は EU の一人当たり GDP の「約 6 割」というのが平均値であった。一

人当たり GDP はその国の経済的豊かさを表していると考えて差支えがない。EU が東方拡

大をしてからは、低水準の一人当たり GDP をもつ国が多く入ってくることになる。

それでは、現在のバルカン諸国の一人当たり GDP は EU に対してどれくらいの割合であ

るのだろうか。図表 3-2-1 で確認すると、バルカン諸国の割合は軒並み低く、つまり経済の

発展があまり進んでおらず、中・東欧に水をあけられている。2007 円に第五次拡大として

EU 加盟した東バルカン 2 か国は、バルカン諸国の中では豊かな部類だ。アルバニアはとい

うと、最下位である。これは 1999 年時点のブルガリア(24%)やルーマニア(28%)と同水準

であるが、両国は加盟前年においては、ブルガリア(37.5%)、ルーマニア(35.9%)の水準に

到達しているので、単純に見積もれば、8 年後ぐらいにはアルバニアも加盟が許容されるほ

どの経済水準に到達できる可能性がある。一番「貧しい状態」で、つまり歴代新規加盟国

の中で一人当たり GDP が最も低くて加盟をした国は、ラトビアである。その割合は 33.7%

であった。図表 3-2-2 にこれまでに述べた、アルバニアと平均値、最低値の一人当たり GDP

の EU に対する割合を整理した。

また、図表 3-2-3 では 3 つの経済成長率を仮定して、一人当たり GDP の水準が EU 加盟

にとって満足のいく水準になるまで何年間かかるか、ということをシミュレーションした。

共産主義政権が倒れてから現在までの平均経済成長率と、経済が順調に成長した 2000 年代

の平均成長率、世界金融危機後の平均成長率といった 3 つの数値が、今後のアルバニアの

経済成長の参考としてとられている。共産主義政権が倒れてから現在までの平均経済成長

率 5.2%が今後続くと想定すれば、最低値だったラトビアの 33.7%の水準に成長するまで 6

年弱かかり、平均値 60.05%の水準に追い付くには約 17 年かかることがわかる。そういう

風にシナリオ A、B、C において平均値と最低値到達までをそれぞれ目標としたときに要す

る年数を順に見ていくと、一番短くて 6 年弱、一番長くて 34 年弱という結果を得た。それ

を加盟可能な西暦に直すならば、それぞれ 2019 年と 2047 年である。だが実際は EU の一

人当たり GDP も年々増えていくので、追いつく時間はこれより長くかかる。ただアルバニ

アは発展途上国なので他国よりは高い成長を維持できる可能性は高い。一方で 2007 年に経

済が未熟な国が大量加盟したことによってEUの一人当たりのGDP水準が低下したように、

アルバニアより先に他の多くの国が加盟することでEU全体としての一人当たりGDPが下

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第 3 章 アルバニアの EU 加盟への試練

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がる可能性もあるが、本質的な議論ではない。あくまで EU 加盟するにはどれほどの経済

的豊かさが必要か、という参考指標としてみているわけだから、こういった瑣末を気にす

る必要はない。

結局このシナリオから言えるのは、経済水準の観点からすれば、アルバニアが 2010 年代

に EU 加盟するのは厳しいということである。しかも 5%前後の成長が約束されるとは限ら

ない。欧州債務危機が長引き、アルバニアと強い結びつきのあるイタリア、ギリシャ経済

が停滞したままだと、成長の下振れリスクとなる。貿易やその国からの投資、送金に悪影

響を及ぼすだけでなく、それらの国の銀行はアルバニアでのプレゼンスは高いので、本国

での収益悪化を通して、アルバニアにおいても信用収縮をまねき、アルバニアの実体経済

にお金が回らないリスクが予想される。このような状況を勘案すると、2020 年代において

も、経済水準の観点でいえば、EU に加盟するための合格点に達することができない可能性

は大いにある。だが実際には EU による政治的配慮が働いたり、経済は成長していなくて

も政治的・経済的な改革の進展が評価されたりすることで、少なくとも 2020 年代までには

アルバニアは EU 加盟することになるだろう。そしてそれは同時に、全欧州が EU の色で

塗り尽くされることを意味するのかもしれない。ただ注意しておきたいのは、第五次拡大

が起きた 2004、2007 年は EU 経済が好調であったときであり、今後は不景気が続くと予想

され、EU の予算も限られてくるので、コストをなるべく抑えるために、加盟の際には経済

的側面がより考慮されることで、それが候補国の加盟を遅らせることにつながる可能性も

あるということである。

図表 3-2-1 南東欧、及び各地域における PPP換算一人当たり GDPの比較(2012年)

2012 年 一人当たり GDP(ドル) EU の一人当たり GDP に対する各国(地域)のそれの割合

EU 31167.8 1

ユーロ導入国 34104.1 109.4%

中東欧 15945.1 51.2%

ブルガリア 14234.6 45.7%

ルーマニア 12838.4 41.2%

モンテネグロ 11717.2 37.6%

マケドニア 10717.5 34.4%

セルビア 10528.2 33.8%

ボスニア・ヘルツェゴビナ 8260.7 26.5%

アルバニア 7975.9 25.6%

(注)EU の一人当たり GDP は自己算出。ブルガリア、ルーマニアは EU 加盟国。コソヴォはデータなし。EU は 27 カ

国対象。ユーロ導入国は 17 カ国対象。ここでの「中東欧」は、アルバニア、 ボスニア・ヘルツェゴビナ、ブルガ

リア、クロアチア、ハンガリー、コソヴォ、 ラトビア、 リトアニア、 マケドニア、 モンテネグロ、ポーランド、

ルーマニア、セルビア、トルコの 14カ国対象。

(出所)IMF, World Economic Outlook Database October 2012 より報告者作成。

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第 3 章 アルバニアの EU 加盟への試練

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図表 3-2-2 EU加盟に向けた、一人当たり GDP水準の整理(2012年)

アルバニアの PPP 換算一人当たり GDP(1) 7975.9$

EU の PPP 換算一人当たり GDP(2) 31167.$

割合 (1)÷(2) 25.6%

EU 加盟前年における加盟予定国の、EU の PPP 換算一人当たり GDP に対するその割合の平均値(3)

60.05%

EU 加盟前年における加盟予定国の、EU の PPP 換算一人当たり GDP に対するその割合の中で、歴代最低値(4)

33.7%

(注) (3)は、データの都合上、イギリス、アイルランド、デンマークを除いた 18カ国を対象に計算。(4)は、2004年 EU

加盟のラトビアであった。

(出所)IMF, World Economic Outlook Database October 2012より報告者作成。

図表 3-2-3 経済的豊かさ(PPP換算一人当たり GDP)から評価したアルバニアの EU加盟に向け

た 3つの想定シナリオ(2012年基準)

シナリオ A (1992~2012 年の平均成長率参考)

シナリオ B (2000~2012 年の平均成長率参考)

シナリオ C (2009~2012 年の平均成長率参考)

年 5.2%成長すると仮定 年 5.1%成長すると仮定 年 2.6%成長すると仮定

平均値 60.05%

最低値 33.7%

平均値 60.05%

最低値 33.7%

平均値 60.05%

最低値 33.7%

到達年数 約 17 年 6 年弱 17 年超 6 年弱 34 年弱 約 11 年

加盟可能年 2030 年 2019 年 2031 年 2019 年 2047 年 2034 年

(注)PPP 換算の一人当たり GDP 成長率の代わりに、GDP 成長率を用いた。この表の見方は、例えば、シナリオ A の

平均値を見る場合、2012 年現在アルバニアの一人当たり GDP は EU のそれの 25.6%だから、これから年に 5.2%

ずつ成長していくとすると、EU の一人当たり GDP の 60.05%に到達するまでに約 17 年かかるので、純粋にこの

観点からだけ見れば、あくまで参考として、EU に加盟する資格を満たして、加盟できるのは 2030 年である、とい

う風に解釈する。

(出所)IMF, World Economic Outlook Database October 2012 より独自に計算して報告者作成。

(2) 直接投資の流入

途上国の経済が先進国にキャッチアップするためには、直接投資(FDI)が重要と一般によ

く言われる。そこで本節では、今後のアルバニアの成長にとって重要なファクターと思わ

れる FDI について考察が述べられる。

アルバニアへの直接投資額は、2000 年代前半に停滞していた時期もあったが、2006 年以

降しっかり上昇している(図表 3-2-4)。しかしながら、このグラフには載っていないが、世

界金融危機と欧州債務危機の影響で、2009 年以降 FDI は伸び悩んでいるのではないかと推

測される。また、バルカン地域への FDI を調べると、中・東欧より少ないことが分かって

いる。バルカン地域の中で比較すると、多い順から、ルーマニア、ブルガリア、セルビア

+モンテネグロ、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、アルバニア、マケドニアの順

になっている。アルバニアへの FDI は少なく、東バルカンは EU に加盟しただけあって、

依以前から FDI の流入は多かった。

このような FDI の流入は何をもたらすのだろうか。主に指摘されるのは、国内貯蓄が経

済成長を賄うのに不十分な場合における国内資本の補完、外資による技術やノウハウの移

転、それに伴う国内産業への波及効果、雇用や輸出の増加、労働者の能力引き上げなどで

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第 3 章 アルバニアの EU 加盟への試練

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ある。FDI は経済成長につながるので途上国には必要、とはよく言われることだが、それ

に対して懐疑的な研究もある。メンツィンガーの研究25によれば、FDI は経済成長に影響を

与えるが、成長が FDI を惹きつけるという因果関係は棄却され、他方で FDI と経済成長の

間には頑強な負の因果関係があるということが明らかにされた。したがって、この研究で

は 1994 年から 2001 年の中・東欧 8 カ国が対象なのだが、これらの国々の EU への実質的

な収斂が FDI によって妨げられている、と結論付けたのである。その原因としては、現地

企業が生産性のスピルオーバーを吸収するだけのキャパシティを有しないことや、多国籍

企業が輸出よりも輸入の増加に寄与することもあること、多国籍企業が現地の新たに出現

してくる企業の芽を摘み取ってしまうこと、人的資本形成への寄与したのかもしれないが

それは長期でしか計れないこと、などを挙げた。ただリトアニアだけは正の相関がみられ

たり、特定の時期には負の相関が現れなかったりとして、留意を促した。しかし、この研

究はこれから FDI をどんどん受け入れて、成長しようとする西バルカン諸国に重要な示唆

を与えることは間違いない。「FDIは経済成長を高める」ということを当然視しないことが、

今後の正しい発展の在り方を考える重要な一歩である。

図表 3-2-4 直接投資額の推移(1996~2009年) (100万ユーロ)

(出所)Bank of Albania,より報告者作成。

25 小山[2004]p.89-90 を参考にした。

0.0

100.0

200.0

300.0

400.0

500.0

600.0

700.0

800.0

1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009

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第 3 章 アルバニアの EU 加盟への試練

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次に、FDI を実施する側に着目する。FDI を行う動機に関して主に 4 つに分類すること

ができる。そしてそれぞれの戦略にとって、考慮されるべき投資先国の要素を分類したの

が図表 3-2-5 である。市場指向型 FDI では、投資家は市場を追い求めているので、受け入

れ国の市場に対して関心が高い。効率指向型 FDI では、投資家は低コストを求め、製品は

自国市場やその他の市場に輸出される。天然資源指向型 FDI では、コスト削減や天然資源

獲得という動機に裏付けられている。戦略的資産指向型 FDI は、投資先企業がその地域や

世界においてコアコンピタンスを維持・発展させるだけのリソースや潜在能力が求められ

ている。この分類に沿ってアルバニアに直接投資する動機を分析してみる。まずは市場指

向型 FDI であるが、アルバニアは人口も GDP も小さく、バルカン地域全体で見たときも

そのようであるから26、これだけの要素を考えるだけで、市場としての魅力はあまりないこ

とがわかるだろう。効率指向型 FDI においては、貯蓄率や、インフラの不十分な整備、所

有権の問題、地元サプライヤーの質と量の低さを鑑みるとマイナスであるが、生産コスト

は安く、インフレ率と為替相場は安定していて、貿易協定も EU と結んでいるので、FDI

実施側にとって今後のアルバニアはまずまずの市場にみえるのではないか。加えてトルコ

とうい巨大市場も地理的に近い。天然資源指向型 FDI に関しては、アルバニアはクローム

鉱や銅を保有しているので、基本的条件はクリアしているといえる。ただインフラや輸送

コストがここでもネックとなる。戦略的資産指向型 FDI は、アルバニアは R&D に関心が

薄く、知的財産の保護もままならないので、考慮外であろう。以上の分析から、今後のア

ルバニアへのFDIは、効率指向型や天然資源指向型のFDIが有力ではないかと推測される。

26 1 章参照。

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第 3 章 アルバニアの EU 加盟への試練

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図表 3-2-5 戦略的目標別に分類した、FDI実施の際考慮する要素

戦略的目標 経済的決定要素 政治的決定要素 その他の決定要素

市場指向型 FDI ・名目 GDP ・一人当たり GDP ・GDP 成長率 ・FDI の実績 ・実質賃金 ・生産コスト ・輸送コスト ・インフラ利用料とその他の輸入制限

・所有権に関する政策 ・価格規制 ・外貨の交換性 ・投資活動成果の要求 ・市場アクセス制限 ・特定セクターに対する規制

・地理的位置 ・文化の差異 ・言語の差異 ・人口 ・ローカルコンテント要求

・国特有の消費者選 好

効率指向型 FDI ・インフレ ・為替相場 ・実質賃金 ・貯蓄率と国内投資額 ・生産コスト ・インフラ(輸送)コスト ・FDI の実績

・市場アクセス制限 ・所有権に関する政策 ・税金と補助金 ・価格規制 ・投資活動成果の要求 ・FDI インセンティブ ・貿易協定 ・環境保護要求

・地理的位置 ・労働力利用の持続 性 ・サプライヤーの存 在

天然資源指向型FDI

・国際市場と比べた原材料の価格

・インフラ ・輸送コスト ・国内投資

・FDI インセンティブ ・FDI 制限 ・特定部門の規制

・原材料の存在と質

戦略的資産指向型 FDI

・インフラの存在と質 ・R&D 活動の活発さ

・知的財産権保護 ・FDI インセンティブや FDI 受け入れ国の資源の利用制限

・リスク水準 ・イノベーション政策

・特許権や貿易商標 などの存在

(注)ローカルコンテント要求とは、進出企業に対して、部品の一定比率以上を現地で調達するよう義務付ける要求の事。

(出所)Blendi Barolli, Koji Takahashi, Toshikatsu Tomizawa[2009]より報告者作成。

FDI 実施側の動機に関連して、アルバニアにおけるビジネスで障害と感じる要素を調べ

たものがあるので、それを検討する(図表 3-2-6)。一番の障害は「資金調達」であり、これ

は以前にも指摘したとおり、金通市場が未発達なせいである。株式市場にかんしてはデー

タがとれなかったが、それは存在しないこととほぼ同義であり、銀行は企業ではなく主に

政府にお金を貸している。二番目の汚職は、やはりビジネスの大きな障害となっていた。

政党間の対立や官僚制が効率的に機能していないことも前に課題として取り上げた。この

他にも、3 章 1 節で課題として検討された項目が軒を連ねており、経済の成長のためにも早

急に対処すべきである。なぜなら FDI 実施側がたとえどんな動機をもっていようと、この

調査で明らかにされた主に上位の障害を取り除かなければ、そもそも FDI 先の候補として

の検討の俎上にすら載らないからである。

アルバニアに FDI を呼び込むことを考える際には、バルカン地域全体で協力して、イン

フラ整備や、受け入れ態勢を整えることが肝要である。何より各国が民主化・市場経済化

を十分に実現して、安定した地域を構築しなければならない。中東欧は西欧の生産ネット

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第 3 章 アルバニアの EU 加盟への試練

56

ワークに組みこまれ、産業が発展した。これは、諸国間の貿易額を相互の「経済規模と距

離」の要因で説明するグラビティ・モデルによって一定の納得が出来る27。バルカンの場合、

中東欧より距離があるため、そのことも FDI の少なさに関係していると推測される。バル

カンがトルコなど中東方面や地中海諸国向けの低コストの輸出基地として、それでなくと

もコストがかかるようになった中・東欧に代わって、西欧企業により汎欧州生産ネットワ

ークに組み入れられれば、バルカン地域の産業は発達し、アルバニアにとっても恩恵は大

きい事だろう。そのためにもバルカン地域全体で、グッド・ガバナンス、つまり図表 3-2-6

にかかれているような要素の整備をすることが不可欠である。そして、現在地域協力の面

で EU から高い評価を受けているアルバニアこそが、地域一体となって FDI を呼び込む方

策を積極的に推し進めていかねばならない。

図表 3-2-6 アルバニアでのビジネスにとって最も障害となる要素(2012年)

(注)回答者は、アルバニアでビジネスをするにあたって最も問題だと感じている 5つを回答し、それらに 1位から 5位

まで順位づけをした。図表の数値は回答に順位でウェイト付けしたものである。

(出所) The Global Competitiveness Report 2012-2013より報告者作成。

27 羽場・小森・田中[2006]p.43 参照。

0.2

0.7

2

2.3

2.5

3

3

3.9

4.3

5.2

6.1

9.8

11.6

22.2

23.3

0 5 10 15 20 25

不十分な公的保険医療

制限的な労働規定

教育された労働者の不足

インフレ

政府の不安定性(政変)

労働者の低い労働倫理

インフラの未整備

犯罪と窃盗

外貨規制

税率

政策の不安定性

税規制

非効率な政府と官僚

汚職

資金調達

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参考文献

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結びに代えて

本稿では、EU 拡大の背景から入って、2000 年代に西欧の共同体が東欧を包摂するよう

になる経緯について触れ、同じ東欧に属する 2 つの地域、中・東欧とバルカンの差異を歴

史的・文化的・経済的観点から見出した。冷戦崩壊を契機として、中・東欧を自らの仲間

に加えることを受動的に決断した EU は、コソヴォ紛争をきっかけとしたときには、バル

カン諸国の未来を能動的に自らの内にみた。旧ユーゴスラビア社会主義連邦共和国を離別

し、自立を志向したはずの各国は、EU の傘下に入ることを決断する。侵略と従属、独裁の

歴史に喘いできたアルバニアは、EU を通して、平和と安定、そして繁栄を夢見る。

独立国家だった時代がなく、民主主義の経験もない、そして低開発の経済社会を有する

南東欧の小国、アルバニアは「民主化が最も難しい国」、「欧州の最貧国」と言われていた。

しかし、EU の中に活路を見出したアルバニアは、あらゆる分野で改革を推し進め、加盟に

向けて邁進している。政治危機による滞りもあった。本稿によって多くの深刻な課題も浮

かび上がった。危うい三権分立、脅かされる司法の独立性、蔓延する汚職と組織犯罪、頼

りない金融システム、不十分なインフラ整備、この他にも対処すべき課題は山積みである。

だが改革の歩を地道に進め続けてきたアルバニアは、2010 年に提示された優先改革事項を

精力的にこなして、2 年後の 2012 年には欧州委員会の加盟候補国推薦を獲得したのであっ

た。

西バルカン諸国からは、クロアチアが一抜けて、2013 年 7 月に EU 加盟予定である。経

済水準や改革の進展度から判断すると、第二陣はセルビア、モンテネグロ、そしてマケド

ニアが有力である。第三陣に、アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソヴォが含ま

れる。第三陣までの EU への加盟完了は、改革の多少の遅滞や、経済の予想通りの発展が

なくても、政治的配慮により 2020 年代までに完了すると予想される。つまり、それは「全

欧州」が EU の色で染められることを意味する。ただし、ルーマニアやブルガリアと同様

に「条件付き」での加盟ということは十分あり得るだろう。

政治的、経済的な移行度で評価すると、アルバニアが第三陣の中で頭一つ程度差をつけ

ている。しかしながら、アルバニアはバルカンの中で最も経済的に貧しい国である。つま

りこのことは、2000 年代に平均 5%の経済成長をしたものの、依然として欧州の中におい

て「最貧」であるという厳しい現実をさす。加盟のために明示的に要求される経済的豊か

さの基準はないものの、経済水準が低いまま EU に入ることは、アルバニアにとっても、

EU にとっても決して好ましいことではない。より一層の成長が求められる中、貿易額でみ

たようにアルバニアの経済に大きな影響力をもつギリシャとイタリアの経済不振が、今後

アルバニアを長年にわたって苦しめる恐れがある。そのような状況においても、成長の果

実を得るには、EU からの資金援助を有効に活用して、ビジネス環境を整え、外国からの投

資を呼び込み、また地理的に近くて、成長著しいトルコから分け前を頂戴しなければなら

ない。

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アルバニアは責められたり、問題点を突きつけられたりするだけでなく、称賛されるべ

き点も有している。欧州委員会は、アルバニアが強く地域協力にコミットしており、建設

的に地域の役割を担い、地域のイニシアチブを積極的にとっていると評した。かつてわず

かばかりの外交関係しか保っていなかった「鎖国」時代のアルバニアからは想像できない

変わりようである。また、EU に加盟することで、アルバニアだからこそ発信できる価値と

いうものがある。EU は多様性の中の統合を進めているが、そこに新たな価値を付け加える。

それはつまり、「欧州系イスラム人」の存在である。その先祖は 400 年ほど前まで溯り、バ

ルカン地域で見られる欧州人の多くは元々イスラム教徒である。そうした歴史的な背景に

加えて、アルバニアは、現在ムスリムが人口の 6、7 割を占め、欧州で唯一イスラム諸国会

議機構に正式加盟しているなど、特にイスラムに近い国である。こうした事情をアルバニ

アが持っていることは、現代におけるキリスト教徒とイスラム教徒の険悪な間柄を仲立ち

する「懸け橋」としての役割が期待できる。アルバニアは EU の中に積極的に自国の利益

を見出しているが、同時に EU に重要な価値を提供することもできる。21 世紀が、両者に

とって、また両教徒にとって、繁栄の時代となることを祈って、ここに筆を置く。

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