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第3章 生物処理 194 維持のため,アルカリ添加が必要となる場合があります。 硝化工程に関与する微生物は,アンモニア態窒素や亜硝酸態窒素を酸 化してエネルギーを獲得,無機炭素化合物を利用して増殖する独立栄養 細菌ですアンモニア態窒素の酸化 → Nitrosomonas sp. 亜硝酸態窒素の酸化 → Nitrobacter sp. ⑵ 脱窒素工程 硝化工程で生成した亜硝酸硝酸嫌気条件下正確には無酸素条件 N2 ガスに還元する工程です。その反応は,式 192 に示すとお りです。 NO2 3H 水素供与体1 2 N2H2OOH NO3 5H 水素供与体1 2 N22H2OOH 192この式から分かることは, ① NO2 NO3 N2 に還元するには,水素供与体が必要です。こ れは一般に,メタノールや酢酸などの安価な有機物,排水中の BOD 成分が使用されます② 水素供与体としてメタノールを用いた場合,メタノールの水素供 与能力は 1 6 CH3 OH + 1 6 H2 O = 1 6 CO2 + H + + e 193 として評価され,メタノール 1 /6 mol 1 mol の水素供与を行いま す。したがって,NO3 1 mol N2 に還元するには式 192 より 5 /6 mol のメタノールが必要になり,NO2 1 mol N2 に還元するには 192 より 3 /6 mol すなわち 1 /2 mol のメタノールが必要になり ます。 酢酸が水素供与体の場合,供与体としての評価反応式は 1 8 CH3 COO 3 8 H2 O = 1 4 CO2 + 1 8 OH + H + + e 194 となりますから,NO2 NO3 1 mol N2 に還元するには式 192 より 3 /8 mol 及び 5 /8 mol の酢酸が必要になります。 BOD 成分が水素供与体として使用される場合は,組成が明確で はないため BOD 量をその酸素消費量として評価します。 生物的硝化脱窒素法は ①硝化工程 アンモニア 態窒素などを硝酸イオ ンに酸化する工程後に ②脱窒素工程 無酸素条 下で硝酸イオンを窒 素に還元する工程行われて実現します。 ①②は主役の微生物が全 く異なるため,反応条件 等は全く異なります。そ こに注意して学習してく ださい。 ココが重要 Important 嫌気条件と酸化還元電 位:水中に溶存酸素が存 在する条件を好気条件と 呼びます。逆に溶存酸素 がない条件を嫌気条件と 呼びます。通常好気条件 下では酸化還元電位はプ ラス値になり,嫌気条件 下ではマイナス値になり ます。酸化還元電位が低 いほど嫌気条件が強くな るといえます。脱窒素が 行われる酸化還元電位の 領域は-50 ~-200 mV の領域です。通常この領 域を無酸素状態と呼び, 無酸素状態と嫌気状態の 両者が使用される場合, 嫌気状態は無酸素状態よ りも嫌気性が強いという ことになります。 補 足 Supplemental

Nitrosomonas NitrobacterBOD酸化,硝化,脱窒素を混合系で行う循環式硝 化脱窒素法が代表例 好気状態(硝化工程),無酸素状態(脱窒素工程)

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第 3 章 ■ 生物処理法 194

維持のため,アルカリ添加が必要となる場合があります。

硝化工程に関与する微生物は,アンモニア態窒素や亜硝酸態窒素を酸

化してエネルギーを獲得,無機炭素化合物を利用して増殖する独立栄養

細菌です。

・ アンモニア態窒素の酸化 → Nitrosomonas sp.

・ 亜硝酸態窒素の酸化 → Nitrobacter sp.

⑵ 脱窒素工程硝化工程で生成した亜硝酸,硝酸を嫌気条件下(正確には無酸素条件

下)で N2ガスに還元する工程です。その反応は,式 19⊖2に示すとお

りです。

NO2-+3H(水素供与体)→  12

N2↑+H2O+OH-

NO3-+5H(水素供与体)→  12

N2↑+2H2O+OH- 

(19⊖2)

この式から分かることは,

① NO2-,NO3

-を N2に還元するには,水素供与体が必要です。こ

れは一般に,メタノールや酢酸などの安価な有機物,排水中の

BOD成分が使用されます。

② 水素供与体としてメタノールを用いた場合,メタノールの水素供

与能力は

  16 CH3 OH +

16 H2 O =

16 CO2 + H+ + e– (19ー3)

 として評価され,メタノール 1 /6 molで 1 molの水素供与を行いま

す。したがって,NO3– 1 molを N2に還元するには式 19ー2より 5 /6

molのメタノールが必要になり,NO2– 1 molを N2に還元するには

式 19ー2より 3 /6 molすなわち 1 /2 molのメタノールが必要になり

ます。

  酢酸が水素供与体の場合,供与体としての評価反応式は

  18 CH3 COO–+

38 H2 O =

14 CO2 +

18 OH– + H+ + e– (19ー4)

 となりますから,NO2–,NO3

–各 1 molを N2に還元するには式 19ー

2より 3 /8 mol及び 5 /8 molの酢酸が必要になります。

  BOD 成分が水素供与体として使用される場合は,組成が明確で

はないため BOD量をその酸素消費量として評価します。

⎫||⎬||⎭

生物的硝化脱窒素法は①硝化工程(アンモニア態窒素などを硝酸イオンに酸化する工程)の後に②脱窒素工程(無酸素条件下で硝酸イオンを窒素に還元する工程)が行われて実現します。①②は主役の微生物が全く異なるため,反応条件等は全く異なります。そこに注意して学習してください。

ココが重要Important

嫌気条件と酸化還元電位:水中に溶存酸素が存在する条件を好気条件と呼びます。逆に溶存酸素がない条件を嫌気条件と呼びます。通常好気条件下では酸化還元電位はプラス値になり,嫌気条件下ではマイナス値になります。酸化還元電位が低いほど嫌気条件が強くなるといえます。脱窒素が行われる酸化還元電位の領域は-50~-200 mVの領域です。通常この領域を無酸素状態と呼び,無酸素状態と嫌気状態の両者が使用される場合,嫌気状態は無酸素状態よりも嫌気性が強いということになります。

補 足Supplemental

#水質03_汚水処理.indb 194 16/12/27 14:23

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↓ 追加
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汚水処理特論_別紙2
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Lesson 19 ■ 生物的硝化脱窒素法 195

  14 O2 + H+ + e– =

12 H2 O (19ー5)

  このため,1 molの NO3– と 5 /4 (1.25)molの O2 が当量関係

にあるため,例えば,1 mg/Lの NO3–ーNを還元するために必要

な BOD成分は,完全酸化された場合の理論酸素要求量として

2.86 mg/L となります。

③ 反応によって,OH-が生成しますから,脱窒素工程では硝化工

程とは逆に pH値が上昇します。

脱窒素工程に関与する微生物は,増殖に有機物を必要とする従属栄養

細菌です。また,好気条件下では酸素呼吸を行い,嫌気条件下では NO3-

や NO2-を電子受容体とする,硝酸呼吸ができる通性嫌気性細菌です。

脱窒素工程がうまく進むためには,酸素呼吸ではなく硝酸呼吸(硝酸イ

オン分解)が必要です。

プロセスの構成生物的硝化脱窒素法は,その発展段階で最初は BOD酸化,硝化,脱

窒素とそれぞれの機能ごとに構成された三相システムに始まり,次いで

BOD酸化と硝化の好気状態と脱窒素の無酸素状態の二相システムが開

発されました。

図19−1  生物的硝化脱窒素法の進展

三相システム

二相システム

単相システム

初期のシステムBOD酸化,硝化,脱窒素:機能ごとに構成

BOD酸化,硝化,脱窒素を混合系で行う循環式硝化脱窒素法が代表例

好気状態(硝化工程),無酸素状態(脱窒素工程)

図19−2  循環式硝化脱窒素法のフロー

脱窒素槽 硝化槽 再曝気槽沈殿槽

処理水排水 二次脱窒素槽

水素供与体循環硝化液 50~70 %

返送汚泥

3

循環式硝化脱窒素法のフローは図 19−2 に示すとおりです。硝化脱窒素法の原理から考えると,「硝化槽→脱窒素槽」の順になるように考えられますが,フローでの槽の配置は逆順になっています。フローでは,硝化槽(ここで BOD酸化も同時に行われます)を出た処理液の半分以上が循環されているために「硝化槽→脱窒素槽」と同じ働きをします。この配置が現在最も一般的ですから,この配置を暗記してください。また,循環硝化液の循環(返送)位置,返送汚泥の返送位置も必ず暗記しておいてください。この配置,汚泥,硝化液の返送位置に関しては過去に数多く出題されています。

ココが重要Important

#水質03_汚水処理.indb 195 16/12/27 14:23

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