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「s-house」 与件 「ネットワーク型の空間」を実現させたい Process 1 / Conversation 建築としての実現が目指されたのはネットワークの概念「Small-world- network」。1998年に複雑ネットワークの研究者であるダンカン・ワッツとス ティーヴン・ストロガッツが発見した、「短い距離」と「長い距離」が共存し、多 様性と秩序のバランスがよい自然界のネットワーク構造の図式。この構造は、 インターネットや、人体の細胞などのあらゆる自然界のネットワークに普遍的 に見出されるものであるといわれている。 柄沢祐輔さんと、大学で「ネットワーク哲学」を教える建主は、このダイア グラムから「短い距離」と「長い距離」の共存という要素を抽出し、建築とし て「ネットワーク型の空間」の実現を目指した。 配置図 設計依頼後、建主と建築 家とで一緒に探した土地。 密集地の袋小路のため、 周囲からの視線はさえぎ られている立地である。 スキップフロアが南側と 北側とでずれて積層して いる。そのため、視覚的 に「短い距離」でも、動 線としては「長い距離」 になることがある。 土地概要 所在地 地域地区 道路幅員 敷地面積 備考 埼玉県さいたま市大宮区 第二種住居地域 北4.0m 89.46㎡ 土地購入前に依頼 「ネットワーク型の空間」の 実現を目指したもの。 「s- house」のマスに対し、 ヴォイドによるネットワ ーク構造を再現。 「villa kanousan」 格差が生じたとき、肥大 化する前に都市の中心が 移動する都市計画のコン セプトを表現したインス タレーション。 「瀋陽市方城地区計画」 フィボナッチ級数を用い て地下動線を立体的に錯 綜させる都市計画。上記 のインスタレーションを 応用したもの。 「中心が移動し続ける 都市」 設計依頼の きっかけとなった 過去の作品 [ 家族構成 ] 男性1人 部屋の機能よりも、とにかく前代未 聞の「ネットワーク型の空間」を実 現させること、それが与件だった。 0 20 40m N s-house 写真提供:柄沢祐輔建築設計事務所 2009 2009 2009 「Small-world-network」の 概念を表すダイアグラム。 秩序ある規則(Regular) と多様性のあるランダム (Random)という両極端 なネットワークの中間の モデルである。 「Regular」 は最も近い頂点同士が結 ばれる規則的なもので、 「Random」はランダムに 各頂点をつなぎかえたも Regular Small-world Random p = 0 p = 1 Increasing randomness の。それらに対し、真ん 中の「Small-world」では、 一定の確率(p)で「Rand om」のように各頂点をつ なぎかえ、その逆の確率 (1-p)で「Regular」のよう に近い頂点を結びつけて いる。この秩序とランダ ム性がバランスを保った 状態が「Small-world- network」である。

Process 1 / Conversation 与件 - Toto Ltd.「s-house」 与件 「ネットワーク型の空間」を実現させたい Process 1 / Conversation 建築としての実現が目指されたのはネットワークの概念「Small-world-network」。1998年に複雑ネットワークの研究者であるダンカン・ワッツとス

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Page 1: Process 1 / Conversation 与件 - Toto Ltd.「s-house」 与件 「ネットワーク型の空間」を実現させたい Process 1 / Conversation 建築としての実現が目指されたのはネットワークの概念「Small-world-network」。1998年に複雑ネットワークの研究者であるダンカン・ワッツとス

「s-house」

与件「ネットワーク型の空間」を実現させたい

Process 1 / Conversation

 建築としての実現が目指されたのはネットワークの概念「Small-world-network」。1998年に複雑ネットワークの研究者であるダンカン・ワッツとスティーヴン・ストロガッツが発見した、「短い距離」と「長い距離」が共存し、多様性と秩序のバランスがよい自然界のネットワーク構造の図式。この構造は、インターネットや、人体の細胞などのあらゆる自然界のネットワークに普遍的に見出されるものであるといわれている。 柄沢祐輔さんと、大学で「ネットワーク哲学」を教える建主は、このダイアグラムから「短い距離」と「長い距離」の共存という要素を抽出し、建築として「ネットワーク型の空間」の実現を目指した。

配置図設計依頼後、建主と建築家とで一緒に探した土地。密集地の袋小路のため、周囲からの視線はさえぎられている立地である。

スキップフロアが南側と北側とでずれて積層している。そのため、視覚的に「短い距離」でも、動線としては「長い距離」になることがある。

土地概要

所在地

地域地区

道路幅員

敷地面積

備考

埼玉県さいたま市大宮区

第二種住居地域

北4.0m

89.46㎡

土地購入前に依頼

「ネットワーク型の空間」の実現を目指したもの。「s-house」のマスに対し、ヴォイドによるネットワーク構造を再現。

「villa kanousan」

格差が生じたとき、肥大化する前に都市の中心が移動する都市計画のコンセプトを表現したインスタレーション。

「瀋陽市方城地区計画」

フィボナッチ級数を用いて地下動線を立体的に錯綜させる都市計画。上記のインスタレーションを応用したもの。

「中心が移動し続ける都市」

設計依頼のきっかけとなった過去の作品

[ 家族構成 ] 男性1人

部屋の機能よりも、とにかく前代未聞の「ネットワーク型の空間」を実現させること、それが与件だった。

0 20 40m

N

s-house

写真提供:柄沢祐輔建築設計事務所

2009

2009

2009

「Small-world-network」の概念を表すダイアグラム。秩序ある規則(Regular)と多様性のあるランダム(Random)という両極端なネットワークの中間のモデルである。「Regular」は最も近い頂点同士が結ばれる規則的なもので、「Random」はランダムに各頂点をつなぎかえたも

Regular Small-world Random

p = 0 p = 1Increasing randomness

の。それらに対し、真ん中の「Small-world」では、一定の確率(p)で「Random」のように各頂点をつなぎかえ、その逆の確率(1-p)で「Regular」のように近い頂点を結びつけている。この秩序とランダム性がバランスを保った状態が「Small-world-network」である。