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VOL.158 2019 INSTITUTE OF   MATION SYSTEMS KANSAI INSTITUTE OF   INFORMATION SYSTEMS 一般財団法人 関西情報センター KANSAI INSTITUTE OF INFORMATION SYSTEMS KANSAI INSTITUTE OF INFORMATION SYSTEMS KANSAI INSTITUTE OF INFORMATION SYSTEMS KANSAI INSTITUTE OF INFORMATION SYSTEMS KANSAI INSTITUTE OF INFORMATION SYSTEMS 特集:ロボットの今とこれから

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VOL.1582019

KANSAI INSTITUTE OF    INFORMATION SYSTEMSKANSAI INSTITUTE OF  

INFORMATION SYSTEMSKANSAI INSTITUTE OF   INFORMATION SYSTEMS

一般財団法人 関西情報センター

KANSAI INSTITUTE OF INFORMATION SYSTEMSKANSAI INSTITUTE OF INFORMATION SYSTEMSKANSAI INSTITUTE OF INFORMATION SYSTEMSKANSAI INSTITUTE OF INFORMATION SYSTEMSKANSAI INSTITUTE OF INFORMATION SYSTEMSKANSAI INSTITUTE OF INFORMATION SYSTEMS

DIC 67s*

特集:ロボットの今とこれから

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定価¥5 0 0+税(送料込)(ただし、一般財団法人関西情報センター会員については、年間購読料は年間会費に含まれております。)

ごあいさつ

 一般財団法人関西情報センター 会長  森下 俊三 ……………………………  1

特集:ロボットの今とこれから

 大阪工業大学 ロボティクス&デザイン工学部長 大須賀美恵子 ………………  2

インフォテック2018の実施報告

「いのち輝く未来社会の構築に向けて  ~人とロボット・AIの共生に向けた新ビジネスの創出~」 ……………  9

賛助会員企業のご紹介

 一般社団法人iCD協会………………………………………………………………… 30

 大阪市高速電気軌道株式会社 ……………………………………………………  33

本誌は、当財団のホームページでもご覧いただけます。http://www.kiis.or.jp/content/info/magazine.html

KIIS Vol.158 ISSN 0912-87272019年 1 月発行人 田中 行男発行所 一般財団法人 関西情報センター    〒530-0001 大阪市北区梅田1丁目3番1-800号 大阪駅前第1ビル8F TEL. 06-6346-2441

目 次

Vol.158

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1

ご あ い さ つ

 年頭にあたり謹んで新年のご挨拶を申し上げます。

 賛助会員の皆様方をはじめ関係各位におかれましては、輝かしい新年をお迎えのこととお喜び

申し上げます。また、平素から弊財団の活動に格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。

 さて、情報通信分野について、昨年を振り返りますとIoT、ロボット、AIやビッグデータ等といっ

た先端技術がいよいよ実用段階に入り、あらゆる産業や社会生活に取り入れられ、経済発展と社

会的課題の解決を両立していく新たな社会の訪れを予感させました。

 一方、我々の身近な環境を見てみますと、 6 月に大阪北部を震源とする地震が発生し、 7 月には

西日本を中心に甚大な被害をもたらした豪雨があり、9 月には北海道胆振東部地震が発生しました。

また、非常に強い勢力の台風が連続して日本列島を襲うなど、自然災害への備えが重要であると

ともに、災害発生時における情報共有の重要性が認識させられた年でもありました。

 また、11月には2020年の東京オリンピック・パラリンピックに続く国際的なイベントである、

「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマとした2025年大阪万博の開催が決定し、大規模な

万博としては2005年の愛知万博以来で、大阪での開催は1970年以来55年ぶりとなり、 2 兆円前後の

経済波及効果があるといわれております。また、1970年は私ども一般財団法人関西情報センターが、

情報化の推進拠点として、関西の財界が中心となり、経済産業省、大阪府、大阪市、地元大学等の

ご支援を受けて設立された年でもあり、2020年には、おかげさまで創立50周年を迎えます。

 今後とも情報化の推進拠点として、社会の課題やニーズを的確にとらえ、賛助会員の皆様や

地域の皆様の共通課題の解決、共同的事業の実施を推進して参りますので、一層のご支援、お引

立てを賜りますようお願い申し上げます。

 末筆ではございますが、2019年が皆様にとりまして、大いなる飛躍の一年となりますようお祈り

申し上げ、新年のご挨拶とさせていただきます。

一般財団法人関西情報センター

会長 森下 俊三

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2

1.はじめに

 この原稿を執筆しているときに、「LOVOT(ラボッ

ト)」の来秋発売が発表され先行予約分完売という

ニュースがはいりました。 LOVOT は高度な AI(人

工知能、Artificial Intelligence)と車輪による移動手

段をもちながら、家族の一員として愛されることだけ

をめざした新しいコンセプトのロボットです(Groove

X, http://www.labot.co.jp/)。これまでにも、PARO(独

立行政法人産業技術総合研究所、https://ja.wikipedia.

org/wiki/ パロ _(ロボット))や AIBO (https://aibo.

sony.jp/)など、癒しや人同士のコミュニケーション

を促進するロボットがありましたが、LOVOT はより

人に近い生き物(生命感)を感じさせるものです。

 岡田美智男教授(豊橋技術科学大学)は「弱いロ

ボット」というコンセプトを提唱しています(https://

www.icd.cs.tut.ac.jp/)。単独では何もできないけれど、

まわりの人を巻き込むことで何かできてしまうロボッ

トを研究されています。たとえば、ごみ箱型ロボット

はごみを拾う機能を持たせず、ごみの前で人にごみを

拾って入れることを促すような動きをします。これか

らのロボットの一つの方向性を示すものと考えます。

2.ロボットとは

 ロボットにはさまざまな定義があります(国立研究

開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構

(NEDO)、https://www.nedo.go.jp/content/100563895.

pdf)。代表的なものは「センサ系、知能・制御系、駆

動系の 3 つの技術要素を有する機械システム」(図 1 )

です。

 近年は、センサとしてマイクやカメラ、知能系とし

て音声・画像の認識、必ずしも動きを伴わない出力系

(音声や画像)からなり、さらにこの 3 つの機能が分

散して存在するもの、特に通信機能を有しクラウドに

ある知能系を利用するもの(クラウド / ネットワーク

ロボット)、環境に埋め込まれていて実体の見えない

ものもロボットと呼ばれるようになっています。

 前者のロボットと後者とロボットは開発要素として

は多くの共通部分がありますが、進むべき方向や人と

の関わり(インタラクション)という観点では分けて

考える必要があります。

3.人とロボットの関わり

 現段階では、製造分野(産業用ロボット)がロボッ

ト産業市場のほとんどを占めていますが、2035年に

はサービス分野がこれを超えるという予測があります

(図 2 )。

 製造分野のロボットは、主に人のいないところで人

の代わりに人が嫌がる仕事、不得意な仕事、あるいは

人よりも効率よくこなせる仕事を代替するものです。

人と比べてロボットが得意なこととしては、重労働

(身体能力、悪環境、疲れない)、正確・高速作業(位

置決め、最適軌道)、繰り返し作業(飽きない、腹を

立てない、手を抜かない)、ルールベースの作業 (違

反しない)、大容量記憶(忘れない、間違えない)、検

索作業(高速・大量データの処理)が挙げられます。

 サービスロボットは人へのサービスを提供するもの

で、現在産業として成立しているのはお掃除ロボット

位ですが、接客や介護、家事支援、警備、レスキュー

などさまざまな目的のロボットが開発され、実証実験

を経て本格導入の段階に来ているものもあります。

(日本ロボット工業会:サービスロボット事例紹介、

https://www.jara.jp/various/example/service/index.

html)。この分野のロボットは、人との関わりが大き

く、人と社会に受け入れられること(受容性)が重要

になります。受容性には文化や国民性も影響し、物

珍しさで話題になるだけでなく継続して利用しても

らえるようにするには多くの課題があります。 2016

年の調査(ITmedia, http://www.itmedia.co.jp/news/

大阪工業大学 ロボティクス&デザイン工学部長 大須賀美恵子

ロボットの今とこれから

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特集:ロボットの今とこれから

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articles/1606/01/news180.html)では、ロボットの接

客に「非常に抵抗がある」「抵抗がある」と答えた人

が1/4、「抵抗はないが違和感がある程度」と答えた人

は半数程度ありました。その理由として微妙なニュア

ンスの会話ができない、人のより手間がかかることが

挙げられています。ロボットがまだ不得意なこととし

て、スムーズな受け答え(自然言語理解、自然なイン

トネーションや間・話速)、意図を汲んだ対応(文脈

に応じた解釈、誘導)、ノンバーバル情報の理解と表

現(表情、身振り・手振り、話し方) 、人の気持ち・

状態や環境・場の雰囲気を汲んだ(空気を読んだ)対

応があり、これらの改善が受容性向上につながると考

えられます。

4.人と共存・協働するロボットに求められること

 人と接するロボットには、まずは「安全」である(人

に危害を加えない)ことと安心できることが求められ

ます。「安全・安心」とまとめて取り上げられること

がありますが、「安全」と「安心」は異なります。講

義でこれらの関係性を示すベン図を描かせると 3 つの

パターンの回答が出ます(図 3 )。下図を正解として

おり、この図の※ 1 は安全だけれど安心できない「不

信」の領域です。たとえば、高度なセンサと制御能力

のあるロボットアームが高速で眼前に近づき寸止めす

るという状況はよほど慣れないと受け入れられませ

ん。※ 2 は「過信」で安全ではないのに安心している、

システムの性能を過大評価しているという状況です。

もとは航空機のオートパイロットシステムの課題とし

て研究されていましたが、最近では自動運転の車の事

故で大きな問題として取り上げられています。ハード

ウェアが柔らかい素材でできていると、安全性が高ま

り、触れたとき、持ち(抱き)上げたときの安心感が

図1 ロボット技術の定義(ロボット産業政策研究会 報告書(2009年3月25日、ロボット産業政策研究会)を参考に三菱総合研究所が作成したもの、https://www.mri.co.jp/opinion/column/tech/tech_20140724.html より)

ロボテク動く

(駆動系)

感じる(センサ系)

考える(知能系)

・多軸/多関節制御・安全制御・アクチュエータ・材料、構造・電源

・言語理解・画像認識・学習機能・通信/制御

・音声認識・画像認識・自己位置同定・周囲環境認識

ロボット

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特集:ロボットの今とこれから

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違います。ソフトロボティクスの研究が期待されます。

 リスク低減と万一に備えた対策が必要なのはいう

までもありませんが、リスクが全くないシステムは

ありません。リスクを超える(リスクが生命の危機

の場合ははるかに超える)ベネフィットがあるかど

うかというのが受容性のポイントとなります。ベネ

図3 安全と安心の関係

図2 2035年までのロボット産業の将来市場予測平成22年度ロボット産業将来市場調査(経済産業省・NEDO)

https://www.nedo.go.jp/content/100080673.pdf より

兆円

10.0

9.0

8.0

7.0

6.0

5.0

4.0

3.0

2.0

1.0

0.02010 2015 2020 2025 2030 2035 年

サービス分野

農林水産分野

ロボテク(RT)製品

製造分野

2035年までのロボット産業の将来市場予測

2015年1.6兆円

2035年9.7兆円

2020年2.9兆円

2025年5.3兆円

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特集:ロボットの今とこれから

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フィットは人にとって「うれしい」機能です。「うれ

しい」には役に立つ(自分の代わりに何かしてくれる

自分ができないことをしてくれる)だけでなく、ポジ

ティブな気分にさせてくれる(楽しい、癒される)こ

とも含まれます。人は往々にして客観的、定量的な値

からリスクとベネフィットを評価するのではなく、感

情で捉えがちです。 1 件の不幸な事故(あるいは時期

尚早な実践)で実用化だけでなく研究開発が止まって

しまうこともありえます。また、受容性には文化や国

民性も大きく影響します(野村総合研究所:ロボッ

ト・AI 技術の導入をめぐる生活者の受容性と課題、

https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/

PDF/knowledge/publication/chitekishisan/2016/05/

cs20160509.pdf)。 法規制や補償制度、メディア報道

の在り方も含め議論が必要です。

 実体のあるロボットでは、見た目や動き方も重要

で、機能に応じて設計されます。ヒューマノイド(人

型ロボット)の場合、子どもっぽい愛らしい顔にした

方が、失敗しても許される度合いが高いと言われてい

ます。そのためコミュニケーションロボットではデ

フォルメした子どもを模した顔がよく用いられていま

す。人との類似度が上がるとともに人が感じる親和感

も上がりますが、類似度が上がって人に近づいたとき

に急激に親和感が下がり、気持ち悪さを感じる現象が

あります。これは、森 政弘博士(現東京工業大学名

誉教授)が1970年に「不気味の谷」と名付けた現象で

す。これを避けるには、谷を越えて実物と間違える領

域に到達するか、エッセンスを抽出し不気味の谷の手

前にとどめるかどちらかになります。石黒 浩教授(大

阪大学)は、形も質感も動きも細部まで人そっくりな

アンドロイド(ご本人を模したジェミノイドほかマツ

コロイド、エリカなど多数)だけでなく、必要最低限

の見かけと動きの要素に絞ったテレノイドも開発して

います(https://www.irl.sys.es.osaka-u.ac.jp/robot)。

LOVOT では人に愛されることを主眼に形、身振り、

顔(目)の表情のエッセンスを生き物に学んで開発し、

AI を導入してユーザ(家族)の対応に応じて進化す

るしくみを取り入れたとのことです。

 このように、ロボットが人の特性や状態に適応して

変化していくことが期待されます。人の特性には属

性やパーソナリティ、行動特性、価値観などを、人の

状態には意図、気分、感情、覚醒度などを含みます。

前述のようにロボットはまだこれらの検知・推定が不

得意です。実用化には日常現場でユーザに意識されず

に(少なくても余分な負担を与えず)計測することが

必要で、顔表情、姿勢・身振り手振りの画像を用いた

非接触計測、ウェアラブルセンサや環境・モノに組み

込んだセンサによるアンビエントな計測が必要になり

ます。場の計測では複数の人の計測に加え、人同士の

関係性の解析が必要です。動画からのリアルタイムで

の複数の人の認識や骨格抽出(たとえば https://www.

next-system.com/ai/visionpose)が可能になり、ロボッ

トの行動決定のための計測にも適用できるようになっ

ています。

 ロボットに人の感情を検出・推定させることができ

れば、それを模してロボットに感情を表出させること

は可能です。ロボット自身に感情や意識を持たせるか

どうかということは議論の分かれるところですが、究

極的には自我のあるロボットもありえるのではないか

と考えています。

 その次に来るのは、ソフトウェアだけでなくハード

ウェアも成長するロボットです。ロボットが家族の一

員になると故障やバージョンアップで買い替えるとい

うことには違和感が生じます。特に子どもをユーザと

するロボットの場合、子どもの成長に合わせてロボッ

トも成長することが求められます。 3 D プリンタを

自ら操り成長するロボットの研究が行われています

(https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20130820/

361897/)。

5.ロボットの知能

 ロボットの構成要件としての「知能」の機能を人が

担うロボットもあります。自分の代わりをさせるため

のロボットで、分身ロボット・テレプレゼンスロボッ

トとも呼ばれます。オリィ研究所の分身ロボットは、

生活や仕事の都合で離れた場所にいる人と人(々)

のコミュニケーションと、障がいや入院などで移動

の制約がある人の社会参加を実現しています(http://

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特集:ロボットの今とこれから

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orylab.com/)。リアルな顔・音声を伝えるのではなく、

ユーザの状況に合わせて、存在感のみを伝えるもの、

テレワークのための情報伝達に重きを置いたもの、移

動手段とアームを備え遠隔で接客やものを運ぶなど身

体労働を伴う業務が行えるものも開発されています。

 一方、ロボットの知能は AI の進歩により急速に

進化しつつあります。今、AI は第 3 次ブーム、その

牽引力となっているのが深層学習(Deep Learning :

DL)と呼ばれるアルゴリズムです(図 4 )。多層の

ニューラルネットワークを用いることで、教師信号

(正解)がなくても大量のデータを用いた学習により

適切な分類(パターン認識)ができるようになるもの

です。 DL の元となるアルゴリズムは甘利俊一元東京

大学教授や福島邦彦元大阪大学教授により1980年代

に提案されたものですが、コンピュータの計算パワー

の向上とクラウドのビッグデータの蓄積によりその有

効性が実証され、さまざまな分野に応用が進んでいま

す。ロボットも「知能系」は言うまでもなく、「セン

サ系・駆動系」でも DL により高度・高速な処理がで

きるようになりました。

 身の回りのモノがクラウドにつながり(モノのイ

ンターネット、Internet of Things :IoT)、クラウド

の AI を利用することで知能化されます。一方、多数

のモノから得られるデータはクラウドに蓄積され AI

の学習に用いられます(図 5 )。ロボットはいわゆる

IoT とは違いますがクラウドの AI を利用し、ロボッ

トからの情報はクラウドの AI の学習に役立ちます。

しかしながら DL は万能ではなく、特にダイナミクス

を含む対象は不得意です。 DL でできることとできな

いことを見極め、新しいアルゴリズムの開発に取り組

図4 AI の進化と期待値(週刊ダイヤモンド 2016.8.27号より)

AIの進化と期待値AIの進化と期待値

16年3月、グーグル子会社のAIが囲碁のトップ棋士に勝利8月、IBMのワトソンが日本で特殊な白血病を見抜き、命を救ったニュース

15年、画像認識の精度でAIが人間を超える

12年、将棋ソフトが日本将棋連盟会長に勝利

11年、IBMのワトソンが米国のクイズ番組で歴代王者に勝利

97年、IBMのAIがチェスの世界チャンピオンに勝利

冬の時代冬の時代冬の時代冬の時代

ディープラーニング(深層学習)

ディープラーニング(深層学習)

迷路やゲームをクリア

迷路やゲームをクリア

第1次ブーム第1次ブーム 第2次ブーム第2次ブーム 第3次ブーム第3次ブームAIに知識をインプットし専門家にしたい

AIに知識をインプットし専門家にしたい

データから学ぶ技術でブレーク

データから学ぶ技術でブレーク

1960年代1960年代 1970年代1970年代 1980年代1980年代 1990年代1990年代 2000年代2000年代 2010年代2010年代

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特集:ロボットの今とこれから

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むことも必要です(http://www.sankeibiz.jp/aireport/

news/160605/aia1606050700001-n3.htm)。

 知能の発達には身体性が重要という考え方がありま

す。ロドニー・ブルックス博士は知的能力は「生存と

生殖を最低限保持するのに十分なほど周囲を知覚し、

動的な環境世界を動き回る能力」を土台として築かれ

るとし、ロボットの行動におけるモジュール分散型知

能化の概念「サブサンプション・アーキテクチュア」

を提唱しました。彼が創業した iRobot 社のお掃除ロ

ボット「ルンバ」も条件反射レベルの知能モジュール

の組み合わせで実現したそうですが、生き物らしい振

舞いが感じられユーザが独自の名前をつけてかわいが

るなど愛着をもたれています。

 身体性の考え方は、バイオ・インスパイアード・ロ

ボティクスにつながります。生体のしくみに触発され

てロボットを創るという意味です。ロボットの電源供

給の問題は解決しておらず、効率のよい駆動システム

の研究は重要です。生体は適したハードウェアに進化

することで脳の情報処理負荷を低減していると言われ

ています。特に感覚器の構造と情報処理アルゴリズム

は密接に関係しています。計算機パワーの向上がある

にしても、生体に学び効率のよいアルゴリズムを考え

ることは有用です。人の大脳は左脳と右脳からなり脳

梁で情報交換しています。論理的なアルゴリズムによ

る左脳的な AI とパターン認識を主とする右脳的な AI

が協調・競合しながら動き、本能的な役割を担う AI

がその結果の評価(価値判断)を下し学習(適応・進

化)に用いるという方向性が考えられます。

6.我々の取り組み

 話は変わりまして、大阪工業大学は2017年 4 月に

ロボティクス&デザイン工学部を梅田茶屋町に開設

し、工学部からロボット工学科と空間デザイン学科

を移設、システムデザイン工学科を新設しました。

ロボティクス(ロボット、AI、IoT)を核に豊かな生

活・社会のデザインし人々の幸せを実現したいという

思いです。実世界で人の暮らしを助ける親しみのある

ロボット(コミュニケーションロボット研究室、生活

支援ロボット研究室)、形状記憶合金や機能性流体な

どを用いたロボット(フレキシブルロボティクス研究

室)、生物の仕組みのモデル化とロボットの機構・制

御設計への応用(生体模倣ロボティクス研究室)、人

の気持ちを汲んで動くロボットの開発のためのヒュー

マンセンシング(ウエルネス研究室、ヒューマンセン

図5 IoT とクラウドの AI/ ビッグデータ

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特集:ロボットの今とこれから

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シング研究室)など多彩な研究を行っています。企業

の方から実社会の課題をいただき、学生がグループ

を組んでデザイン思考をツールとして課題解決に取り

組むプロジェクトも行っています。ぜひ web サイト

(http://www.oit.ac.jp/rd/)をご覧ください。

7.おわりに

 AI やロボットに人の仕事が奪われるという悲観的

な見方もありますが、専門家の間ではいわゆる万能

AI の実現は近未来には難しいであろうという見方が

主力です。 AI やロボットによって代替される仕事も

ありますが、新たに生まれる仕事もあります。人がや

りたくない仕事が代替され、人がやりたいことと人に

やってもらいたい仕事が残る、あるいは人々が価値観

に応じてロボットと人を選べる、人の方がコストが安

いという理由で人が仕事することはない、そういう未

来が理想です。ワーカホーリック、ブラック企業、働

き方改革などという言葉が死語になることを期待しま

す。余裕ができた時間を何に使うか、人々はそれぞれ

の well-being をどう設計していくかということが課題

になります。ロボットの研究を通して、人とは何か、

自分はどう生きるべきかを考えていきたいと思います。

大須賀 美恵子(おおすが みえこ)大阪工業大学 ロボティクス&デザイン工学部長

ロボティクス&デザイン工学研究科長

ロボット工学科 教授

1979年 東京大学工学部計数工学科卒業

三菱電機㈱入社。中央研究所、先端技術総合研究所

にて通産省「人間感覚計測応用技術」プロジェクト

などヒトのセンシング技術の研究に従事。

1994年 東京大学博士(工学)

1997年より神戸大学大学院自然科学研究科情報メ

ディア科学専攻客員助教授を兼任。

2002年4月大阪工業大学情報科学部情報メディア学

科教授。工学部生体医工学科、工学部ロボット工学

科を経て現職。

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基調講演

「脳科学と人工知能が創るスマートカンパニーとス

マートビジネス」

  萩原 一平 氏

(株式会社エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所

研究理事 情報未来イノベーションセンター長)

1.知っておきたい脳の知識

 企業が製品やサービスを提供して消費者からお金を

頂くのは当たり前の行為ですが、実は製品やサービス

は単なる媒体にすぎません。ドラッカーは「企業が生

み出すものは満足した顧客である」と言っています。

言い換えれば、企業が生み出すものは満足した顧客の

「脳」ということになります。そして顧客の脳を満足

させるには、脳のことを知って、脳に聞き、脳を満足

させる取り組みが必要となります。

 人間の脳は、20W 程度の消費エネルギーで動いて

いるといわれています。一方、世界一の囲碁棋士にも

勝った AlphaGo は25万 W のエネルギーを使うので、

脳がいかに効率的かということになります。しかし、

人間の脳が超省エネで思考し、意思決定をし、体を動

かしているとはいえ、脳の使えるエネルギーは限られ

ているので、その配分が重要となります。こうしたこ

とを人間が非常にうまくできた結果が、今日の人間の

繁栄に繋がっているのではないでしょうか。

 意思決定から行動に移るまでのプロセスで一番重要

なのが、情動です。脳は基本的に環境の変化に対応し

て動くようにできています。変化があると即座に対応

しなければなりません。環境の変化によって身体内外

から信号や情報が脳内に入ってくると、その情報が脳

にとって快か不快かで快情動反応、もしくは不快情動

反応が起こります。そしてその反応に基づいて意思決

定をすると、快情動行動もしくは不快情動行動が起こ

ります。この快・不快は、人間の意思決定において非

常に重要な要素です。

一般財団法人関西情報センター 事業推進グループ

IT シンポジウム「インフォテック2018」の実施報告いのち輝く未来社会の構築に向けて

~人とロボット・AIの共生に向けた新ビジネスの創出~

KIIS 事業紹介

 当財団は、11月 8 日(木)大阪国際会議場にてITシンポジウムを開催致しました。近年、AI(人工知

能)、IoT、ビッグデータなどを相互に融合させ利活用してビジネス改革を実現することへの関心が高まっ

ています。また、これらを使って実現される未来社会を描く中で、人との協調、人の能力の拡張を支え

る技術への展開が注目されています。

 そこで今年度は、誘致活動を行っていた2025年大阪万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」

(Designing Future Society for Our Lives)を視野に入れつつ、現在起こりつつあるデジタル社会への

変革を展望し、これらの中で「人とロボット、AI の共生」をテーマに次世代技術や新ビジネスについて

具体的な事例及び、これらによるビジネスの創出について、講演やパネルディスカッションを実施しま

した。

 参加者は222名と大変盛況な中で、基調講演、招待講演、オープンディスカッション、交流会のいず

れにおいても活発な意見交換が行われました。以下では、シンポジウムの概要をご報告いたします。

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ITシンポジウム「インフォテック2018」の実施報告

10

 それから、人間の脳は、物事を完全に客観的に見る

ことはできないといわれています。つまり、脳内にあ

るバイアスによって、ある意味錯覚して判断し、意思

決定をしているのです。そしてその際には、脳にある

本能や学習、経験がバイアスになります。ですから、

学習や経験によって脳に蓄積される情報やその結果に

よるバイアスのかかり方は人によって全然違います。

 カナダの脳科学の先生が TED で講演しているのを

聴いてなるほどと思ったのですが、実は脳の研究はか

なり進んでいて、脳は壊れた脳の部分を回避、代償し

て別のところにコネクションができ機能するので、上

手にリハビリテーションを行なえば、それなりに回復

できるようです。ただし、それはかなり難しいことで、

なかなかうまくいきません。なぜなら、脳は一人一人

違うからです。その先生は「これからはもっと個に着

目しないと、一人一人に対応したリハビリテーション

の方法は見つからない」と言っていました。これはリ

ハビリ医療だけでなく、ビジネスも同じだと思います。

 脳には二つの意思決定システムがあって、システム

1 は無意識的、感情的、瞬時、習慣化の場合の動きで

す。一方、学習や経験によって意識的、理性的、思考

的に考え、行動する場合に働くのがシステム 2 です。

脳は、システム 1 とシステム 2 を自動的に切り替えて

判断しています。

 もう一つ重要なのは、習慣化するとシステム 1 が動

き、習慣化できていない状態はシステム 2 だというこ

とです。だから、習慣化できたことは苦もなくできる

し、すぐに動けます。ですから、習慣化は非常に重要

で、意思決定にも関係しているし、習慣化の出来具合

が個人の能力差にも繋がっていきます。

 2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・

カーネマンのプロスペクト理論も重要です。人間は同

じ 1 万円でも、得したときの満足感より、なくしたと

きの損失感の方を大きく感じるのです。また、100万

円を持っている人に1000円をあげてもさして喜ばれ

ないかもしれませんが、1000円しか持っていない人

に1000円をあげればおそらく喜ばれるでしょう。つ

まり、客観的な価値は同じでも、基準点から離れれば

離れるほど、主観的な価値の変化は小さくなるという

ことです。これは脳の特性を如実に表しています。

 もう一つ知っておいてほしいのは、報酬予測誤差で

す。例えば一生懸命仕事をして、自分が予想していた

よりも査定が良くなるととてもうれしいものです。こ

れは、人間が意思決定をして行動するときには、同時

に必ず結果を予測しているからこそ感じることです。

実はこの予測がかなり重要で、若い頃に成功体験をし

ていると成功するイメージを予測できるので失敗を恐

れず新しいことに挑戦できますが、あまりそういう経

験をしていないと失敗を恐れて現状維持を図ります。

つまり、各々のモチベーションやパフォーマンスに大

きく影響するのです。

 同様にビジネスにおいても、性能が同じなのに市場

の評価が異なるということがよくありますが、それ

は、消費者が性能だけでなく、経験や好み、そのとき

の体調、デザイン、広告などを含め、総合的に「快」

と感じるものを選択しているからです。日本企業は性

能だけを見て、数値ですぐに評価する傾向があります

が、お客様が求めているのは、脳の快情動、脳の満足

だということにもっと意識を向ける必要があるのでは

ないでしょうか。

2.世界の脳科学研究と産業応用の動向

 このような脳の仕組みについて、欧米ではかなり長

く研究していて、大きな国家予算を付けていますが、

日本の予算は欧米に比べるとまだまだ少ないです。ま

たもっと驚くのは、欧米では少なくとも30以上のビジ

ネススクールで、消費者脳科学を扱う学科が設置され

ていることです。米ペンシルバニア大学 Wharton 校

では、エグゼクティブ向けのショートコースまで作っ

ています。グローバル企業で脳科学の研究をしていな

いところはないといっても過言ではありません。

 日本はどうかというと、応用脳科学コンソーシアム

というものがあり、産学連携で脳科学の産業応用を進

める取り組みをしています。これは私どもが事務局と

して設立・運営しているコンソーシアムですが、日本

企業には脳科学を知っている人があまりにも少なく、

一人でも多くの人に脳科学をきちんと理解していただ

くことが重要だという思いからこのような取り組みを

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11

9 年ほど行っています。今では約100名の研究者と50

社ほどの企業にご参加をいただき、その点では海外の

ビジネススクールにも負けていないと考えています。

3.脳科学と人工知能の融合による新たな未来

 脳科学と AI の共進化は、著しい速度で進んでいま

す。脳科学と AI が融合することで、脳科学の知見を

AI 開発に生かすのは当たり前ですが、逆に AI をツー

ルとして脳科学に生かすという点では、シミュレー

ションをする装置の開発などが挙げられます。

 さて、脳科学の応用先は、大きく、入力系、出力系、

フィードバック系の三つの領域に分けられます。

 まず入力系は、脳に特定の刺激を与え、脳の反応を

変えるというものです。脳に刺激を与え認知力を向上

する研究などが行われています。ある実験で「 3 × 3

の 9 つのドットを連続した 4 本の直線で一筆書きで

結んでください」という問題を出したところ、頭に電

気刺激を与えていない人の正解率は 2 割でしたが、刺

激を与えた人は 6 割が正解しました。このように電気、

磁気などいろいろな形で刺激を与えることで、例えば

マインドフルネスのようなものをサポートするなど、

今後民間ビジネスでも使われるようになっていくので

はないでしょうか。

 出力系は、脳から出てくる情報をどう使うかという

ものです。例えば、CiNet という研究機関と NTT デー

タ、そしてわれわれが共同開発した技術で、CM を見

ている人の脳を fMRI で調べるとそのときの脳反応が

言葉になって表れる、というものがあります。技術的

には、人間が何を考えているかが分かるというところ

まで今の脳科学は達しているといえます。

 情報には脳の情報、環境の情報などいろいろなもの

があり、それを皆さんが持っている行動結果情報と合

わせてモデル化することで、人間の脳のモデルができ

ます。しかし、脳は一人一人異なりますから、それを

どのようにモデル化するかがポイントになります。

 最後にフィードバック系は、取り出した脳の情報

をまた脳に戻すというものです。例えば、JSOL、

EnglishCentral という会社とわれわれが共同で、大阪

大学 COI 研究の一環として、英語学習に関する脳科

学の活用を研究しています。この研究では、ニューロ

フィードバックという手法を用いて苦手なヒアリング

をトレーニングする研究が行われています。

 将来的には、熟練者の脳情報をもとにニューロ

フィードバックを行うことで、新人の作業が上達した

り、トレーニングが早くなったり、あるいは新米パイ

ロットが経験豊富なベテランパイロットの脳情報を学

習機能に入れることで、短期間でフライト訓練ができ

るようになる可能性もあるのです。

4.「イノベーション」とは? 「デザイン思考」とは?

 技術が新しいだけではイノベーションではありませ

ん。人間の観点からすると、イノベーションとは、

時間的制約からの解放、空間的制約からの解放、プロ

セス的制約からの解放を成し遂げることだといえるで

しょう。

 デザイン思考というのは、日本の大手企業がほとん

ど暗黙知的にずっとやってきたことです。脳科学の視

点からデザイン思考の五つのステップをみると以下の

ようなポイントが考えられます。「Empathize(共感)」

はお客様の目線でお客様の脳の中に無意識に存在す

る課題、不満などを探すプロセスです。「Define(問

題定義)」は、脳にあるバイアスを意識して客観的な

絞り込みをすることです。「Ideate(創造)」で一番重

要なのは、異なる脳を集めることです。企業の多く

は、いつも集まる同じ職場、同じチームメンバーでブ

レインストーミングをしていますが、それでは脳の中

にある情報は似ているものが多く、異なる情報はあま

り出てこないかもしれません。ですから、異なる脳と

脳のネットワークを作ることが非常に重要です。次に

「Prototype(プロトタイプ)」を作るのですが、アイ

デアによって生成された暗黙知や動的情報をどう形に

するかという発想が必要です。それを実際に「Test(テ

スト)」して、お客様の脳を満足させることができて

いるかどうかを確認する必要があります。

 さらに重要なのは、デザイン思考の前に、何のため

にそれを行うのか、そこで生み出される新たな価値は

時間・空間・プロセスのどれからの解放なのかなど、

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目的と価値をしっかりと押さえることだといえます。

それができていないデザイン思考は、途中で行き詰

まってしまいます。

 さて、製品への不満というのは脳の不快情動です

が、不快情動は環境条件や時代によって異なります。

そこにきちんと気付くことができるかどうかが重要で

す。人は必ずしも性能だけで評価をしておらず、自分

の欲しいもの、自分の不満を解消してくれるものを望

んでいるので、不快情動をきちんと快情動に変えられ

ることが、商品開発をする上で必要です。

5.求められる「マスパーソナライゼーション」と「デジタルオーダーメイド」

 今は個人ごとに異なる価値をどう提供するか、とい

う時代に入っています。それがマスパーソナライゼー

ションになるのですが、かつてマス市場はプロダクト

アウトでした。それでは駄目ということになり、マー

ケットインの発想になりました。今は市場構造がマス

からパーソナルに変化し、これに対応するため、デ

ジタルオーダーメイドによる商品やサービスが次々に

登場しています。市場で価値を高めるためには個々人

の脳の満足度を高めることが必要であり、そのために

は、脳のことを知り、脳の欲求に素早く応えること、

そしてその実現に向け脳科学とデジタルテクノロジー

を組み合わせることが重要になるといえるでしょう。

 昔は国や業界が規格を決めていましたが(Dejure)、

民間企業が事実上の標準化を図る De facto という流

れに変わり、さらにサプライヤーが決めるのではな

く、個々の顧客自身が自分で変更できる環境を提供す

る Customization の時代となりました。そして今や、

顧客に合わせたものを企業が提供する Personalization

の時代に入りつつあります。

 発想としてはサプライ側からデマンド側へ、形式知

から暗黙知へ、サーバント(召使い)からバトラー(執

事)になり、ブランド力が非常に大きな意味を持ちま

す。なぜなら消費者は、信頼で物を買う時代になって

いるからです。その信頼力は従来の企業の信頼力だけ

ではなく、新しいサイエンスに基づいた信頼力です。

 マズローの欲求 5 段階説にあるような欲求も、IT

の進化によって満たされるべき欲求が拡大・多様化し

ています。ですから、人間の欲求が変わっていること

をきちんと理解する必要があり、世界の企業はそれに

対応するため、マスパーソナライゼーションの研究を

しています。つまり、これからはオーダーメイドをど

のように実現するかが問われていて、従来のマスプロ

ダクションで物を作って売る手法は、だんだん付加価

値が下がっていくと考えられます。

6.脳科学と人工知能の融合が拓くスマートカンパニーとスマートビジネスへの道

 AI に対する関心や恐怖は、みんなが持っています。

しかし、そもそも人間は五感を中心としたセンサーで

環境の変化を感知し、道具や技術を使って対応してき

ました。そのときに、道具の身体化が起こっています。

そして今は、五感を中心とした人間の感覚器官だけで

はなく、IoT を活用した電子センサーからいろいろな

情報が入ってきます。また AI によって人間の頭の機

能がさらに拡張しています。

 ここでの重要なキーワードが「二つの AI」です。

一つは脳の機能を拡張する Augmented Intelligence(拡

張知能)、もう一つはセンサーと AI によって環境自

身が知能を持つ Ambient Intelligence(環境の知能化)

です。それによって、脳と AI の融合、人間と道具の

融合、リアルワールドとサイバーワールドの融合とい

う、三つの融合が起こっています。

 まさに Society5.0が言わんとしているのは、リアル

ワールドとサイバーワールドの融合で社会を変えるこ

とであり、脳科学と AI をしっかりと理解して活用す

ることが必要です。そのためには質、創造性、人財活

用の追求が非常に重要となります。マイナスをゼロ

(効率化)にする今までの AI の使い方や、この業務

を AI がすれば人が要らなくなるという発想では、恐

らく行き詰まってしまいます。ゼロをプラスにするた

めに AI を使うことを考えないと、これからの競争に

は勝てないでしょう。

 行動の結果情報を集めたビッグデータだけでデータ

解析をしていても限界があります。人間の意思決定

は一人一人違うし、環境条件によっても異なります。

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行動の結果情報を集めたビッグデータだけをいくら解

析しても、人間の意思決定についてはあまり分かりま

せん。ですから、環境情報と人間情報をしっかり押さ

えることが必要です。これからの時代は個に着目し、

データ・インテンシブ・サイエンスを活用すること

で、パーソナライゼーションに適した新しいビジネス

戦略や組織戦略を構築することが求められています。

特別講演

「AI・ロボットとの共生社会の未来:認知発達ロボ

ティクスの挑戦」

  浅田 稔 氏

(大阪大学大学院工学研究科 知能・機能創成工

学専攻教授)

1.深層学習に見る現代 AI の興隆と限界

 ディープラーニングの基礎となったのは、福島邦彦

先生のネオコグニトロンであり、彼は既に約40年ぐら

い前、多層のニューラルネットワークを提案していま

したが、当時は全く話題になりませんでした。それと

ほとんど変わらないアルゴリズムで今の深層学習がで

きているのですが、何が違うかというとビッグデータ

と GPU です。つまり、大量のデータと強力な処理能

力を使ってやっているということです。

 それから、バックプロパゲーションという超有名な

ニューラルネットワークの学習法があります。それも

甘利俊一先生が以前に確率降下学習法を提案していま

した。他にも日本オリジナルの仕事は多くあります。

 なぜ多層のニューラルネットワークなのかという

と、多層にすることで特徴抽出が自動的にできるから

です。人間の視覚そのものが第一次視覚野、第二次視

覚野に始まる階層構造をしていることがヒントになっ

ています。

 画像認識コンペティションでは、2015年 2 月に人

間の精度を超えてしまっています。かつらを着けたり、

眼鏡をかけたり、ひげを生やしたりしても、その人の

アイデンティフィケーションができ、基本的に物体認

識(クラシフィケーションとローカライゼーション)

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ができるようになってきました。

 例えば人間の精度が95%として、機械の精度が99%

とします。すると、残りの 1 %が人間の 5 %に含まれ

ていないのです。だから、人間は人間の失敗に共感で

きても、機械の失敗に同情できません。これでは非常

に危なくて、オーバーフィッティングの課題となって

います。これは多分、最後まで解けない問題になるだ

ろうと思います。なぜなら、この 1 %をなくそうとす

ると全体のパフォーマンスが落ちるからです。ですの

で、機械は完璧ではありません。ただ、99%ですから、

使えるわけです。だから、どこかの 1 %でこのような

ことが起きる可能性があるので、気を付けなければな

りません。

 AlphaGo を開発したデミス・ハサビス氏は、「脳の

働きは全て再現可能だ」と言うのですが、そのために

は適切な入力がないと駄目なのです。

 現状の深層学習を考えてみると、元々はヒトの視覚

システムから来ているので、感覚情報(視覚情報)と

認識判断との関係はものすごく太いですが、認識判断

のラベル自体は実は人間が与えています。そうすると、

知識や意図はトップダウンに人が与えていることにな

ります。

 一方で、ロボティクスの観点から見ると、認識判断

から行動を起こす運動情報出力が非常に乏しいので

す。感覚情報入力で1000万枚の画像を使えるかもし

れませんが、1000万回の試行をすると、ロボットは

壊れます。人間もやっていません。環境・社会や情動・

注意・共感といった観点も、現状の深層学習では、直

接扱われていないのです。でも、もちろん深層学習は

道具として使えばいいわけですから、オールマイティ

を目指せと言うつもりはありません。

 典型的な例が、1963年の Held & Hein の実験です。

2 匹の子猫を、 1 匹は自分で動けるようにし、もう

1 匹はゴンドラに乗せて自分では動けないようにしま

す。それで、ビジュアルクリフ(視覚的崖)を置くと、

自分で動ける猫は崖の手前で止まりますが、自分で動

いていない猫は、その上を歩きます。つまり、崖とい

う視覚情報が入ったとしても、その物理的意味合いを

解釈できないのです。つまり、自分の運動経験がない

と、知覚の意味付けができないということです。です

から、感覚情報入力からラベルを打てたとしても、そ

のラベルの物理的意味を解釈できていません。

 2015年に『ロボットの脅威』という本を出した

Martin Ford は、ロボットによって100%の職がなく

なると大げさに言っていますが、彼は技術の進展に

楽観的で、技術の進展がもたらす未来社会に悲観的

です。私の考え方は逆で、未来技術に関してそれほ

ど楽観的になれません。今は機械自身がビッグデー

タと GPGPU(general-purpose computing on graphics

processing units)を使って力づくでやっているので、

まだ足りない部分があります。つまり、質の部分で未

来社会におけるロボットと共生を考えると、人工物自

身が心のようなものを持てるかどうかということにな

ります。

 では、心とは何かというと、「心の理論」というも

のがあって、霊長類学者がチンパンジーの生活を観察

して、自分や他人の心の状態を推測できる能力と定義

しています。最近は自閉症を中心とした障害児心理学

で脚光を浴びています。しかし、「心の理論」では基

本的に、相手の立場に立つ経験がないと心を持ってい

ることにはなりません。そこで、ロボットが人工物の

「ココロ」を持てる可能性があるかどうかを調べよう

というのが、認知発達ロボティクスの考えです。

2.認知科学とロボティクス

 基本的に認知発達ロボティクスは、人間の認知発達

過程を構成的手法(コンピュータシミュレーション

やロボット)使って理解することを目的とします。そ

のこと自体が、ロボットの新しい設計論になります。

キーワードは身体性と社会的相互作用です。

 身体性に関していえば、Maurice Merleau-Ponty に

よると身体は主観と客観の間にあります。われわれ

は客観的な世界に対して、自分の身体を通じて主観的

な経験をつくるわけです。つまり、身体があることに

よって、物理的意味合いを解釈できることになります。

 社会的相互作用に関しては、立教大学の河野哲也先

生が「心は体と体の間にあるのだ」と説明しています。

何を言っているかというと、実は相互作用が本質だと

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いうことです。例えば、ある惑星にロボット 1 台を

持っていくとします。そのロボットに心が生まれる可

能性はありませんが、そこに別のロボットを持ってい

く、もしくは人間が行くとコミュニケーションをしな

ければなりません。それによって初めて心が生まれる

要件が出てくるわけです。ということは、相互作用で

きる能力があることで初めて心の可能性があることに

なります。ですので、われわれにとってみれば相互作

用するような要素自体を設計のコンポーネントとして

ロボットに埋め込まなければならないことを示唆して

くれています。

 それで、受精してから胎児がどのように発達するか

というと、生まれる前から既に感覚運動系の学習が始

まっていると考えられます。そして生まれた後、胎児

はいろいろな行動を学習していきます。

 10カ月で動作模倣(イミテーション)が始まります。

これは非常に重要な行動です。きちんと他の大人を見

て、それがバイアスとなって、少ない試行回数で学習

できるのです。生後 1 年すると、ふり遊び(ごっこ遊

び)が始まります。ロボットでいうと、内的シミュレー

ション(メンタルリハーサル)です。つまり、仮想的

に何かを操作できるかどうかです。

 われわれロボット研究者はここでギブアップです。

たった 1 年でこれらの行動を全て学習できるロボット

は作れません。なぜなら、赤ちゃんがなぜそのような

ことができるかが分かっていないからです。ですから、

赤ちゃんの発達に学ぶと同時に、赤ちゃんの発達に対

してわれわれが構成的にアプローチすることにより、

何か新たな理解ができないかというのが認知発達ロボ

ティクスのエッセンスなのです。

 人間自身が自己という概念をどうやって持っていく

かという自他認知発達を考えると、Neisser によれば

基本的に 5 段階あります。そのうちの 3 段階が理解し

やすいので説明します。

 第 1 フェーズは生態学的自己です。環境とのイン

タラクションによって、身体や運動のオーナーシップ

(所有感覚)が生まれます。第 2 フェーズは、対人的

自己です。お母さんは最初、赤ちゃんを後ろから支え

るので、赤ちゃんにとってはお母さんの体が自分の体

の延長に見えます。そして、お母さんが徐々に離れて

いくと、ミラーニューロンシステムと呼ばれる働きが

とても重要になります。第 3 フェーズが社会的自己で

す。自己が成立し、いろいろな人間と対応できるよう

になります。

3.構成的発達科学の挑戦

 これに基づいているわけではないのですが、先ほど

からのいろいろな研究をある月齢、年齢に従ったテー

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マとしてわれわれは扱ってきました。

 最初に生態学的自己の段階では脳のシミュレーショ

ンを行い、非常に原初的な意識・無意識の構造がつく

られている可能性とともに、それが環境とのインタラ

クションの中で自己の概念につながるということを考

えました。

 次に、対人的自己の段階ではミラーニューロンシス

テムが発達します。このニューロンは他者が同じ行動

をしたときも活動するので、相手の意図の理解につな

がります。つまり、自己と他者の間をつなぐ役割を果

たしているのです。ところが、我々が提案しているミ

ラーニューロンシステムの発達モデルでは、最初に未

熟な状態がないと仮定すると、ミラーニューロンが発

達しません。こういったところでミラーニューロンの

発達が出てくるのではないかと考えられます。

 社会的相互作用については、自分の顔と他人の顔を

識別させる実験をしました。すると、パフォーマン

スは子どもと大人でそれほど変わらないにもかかわら

ず、使っている脳の部位が違うことが分かりました。

つまり、自分の顔を見て自分だと判断するときの脳の

動きが、子どもと大人で違うのです。特に子どもの場

合、視覚情報にものすごく頼りますが、大人は視覚情

報にそれほど頼らなくても応答できます。運動も同じ

ような傾向があって、発達段階で機能的に使う脳の部

分が大きく異なります。こうしたこともロボットの設

計論に使おうとしています。

 ロボットと暮らす未来社会に向けて、ロボットが人

と調和しながらも大事な存在となり、心を持ち、共感

できる存在になることを目指したいとわれわれは考え

ています。

招待講演1

「Extreme Human Centered Engineering」

  遠藤 謙 氏

(株式会社 Xiborg 代表取締役社長)

1.義足研究のきっかけ

 私は大学院生の頃までロボットの研究をしていたの

ですが、あるとき高校の後輩である吉川和博君が骨肉

腫になり、足を切断することになりました。私はそれ

まで歩行ロボットが義足やリハビリの役に立つと考え

ていたのですが、歩行ロボットを見た彼から「こんな

ものが体に着くのだね」と言われ、自分の研究とその

技術を必要とする人の間に大きなギャップを感じまし

た。そのことが義足開発に取り組むきっかけとなりま

した。

 その後、自分の研究テーマを考えていたとき、

ヒュー・ハーという MIT のメディアラボの先生と出

会いました。彼はロッククライマーだったのですが、

17歳のときに凍傷で両足首を切断しました。彼は「も

う競技を続けられない」と言われていたのですが、義

足を作って競技を続けた結果、足を切断する前よりも

登りやすくなったことがあったそうです。なぜなら、

足を切断して体が軽くなった割に、手や心肺の能力は

今までと同じであり、足の長さや形状をカスタマイズ

できるからだそうです。

 彼の言葉に「世の中には身体障害というものはな

い。ただ、技術の方に障害がある」というのがありま

すが、彼は当事者としてそれを実践しようとしている

ところがものすごくかっこいいと思いました。そこで

私は博士課程を辞めて留学し、彼の下で修士から研究

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を始めました。

2.サイバスロンへの参加

 私は日本に帰ってきてからもロボット義足の研究を

続けていたのですが、2016年にサイバスロンという

競技会に参加しました。競技者は全員が障害者で、日

常生活に近い動きをする競技をテクノロジーで行う大

会です。私はロボット義足の部門に参加しました。

 人間の足は力を抜くとぶらんぶらんになりますが、

力を入れるとすごく硬くなります。そこで、膝の関節

が出している力の大きさを検出して、それをキャンセ

ルするトルクセンサのようなものが必要になります。

私はトルクセンサの部分にかなりの研究時間を費や

し、小さくて軽量で安いものを開発しました。

 また、特に片足が不自由な人はもう片方の足で動こ

うとするので、年を取ると腰や背中に問題を抱える人

が多いです。ですから、両方の足をバランス良く使う

ことが結構大事です。そこで、モーターを使ってきち

んと両足で体を動かせるようにすることが彼らの予後

を良くするとも考えられています。

 義足と健足の一番の違いは、階段の昇降だと思いま

す。普段は健足を 1 段上げて、義足側を同じ段に引

き上げながら一歩一歩上るのですが、それだと町中で

「あの人は足が悪いのだろうか」という目を向けられ

てしまいます。やはりわれわれ健常者と違う動きをし

ていると違和感を覚えることがあるので、障害者と健

常者の違いはそれぐらいの違いなのではないかとも思

います。

 ですから、自然に階段を上れるか上れないかという

行為の方が、足があるかないかよりも実は重要だと

思っていて、こうした動きを自然にできるようにする

ことがロボット義足の目的の一つだと思っています。

サイバスロンの結果は大敗でしたが、われわれがロ

ボット義足の開発者として目指すのは、町中で歩いて

いても気付かれないぐらい自然に歩けたり、階段を上

り下りできたりすることなのです。

3.スポーツ用義足の開発

 われわれは走りを追求したいので、どうすれば世界

最速になれるかを考えて研究をするのですが、それ

だけでは勝てないと思っていて、アスリートが中心で

あるべきだと考えました。ですので、まずは彼らの走

り方を勉強し、それに合わせて義足を一緒に開発する

チームをつくることを考えました。そこで、為末大さ

んと起業し、まずは彼と一緒に走りを勉強して、健常

者の走りとも比べながらどうすれば速くなるかを第 1

目標にしています。義足を作るのは一つのアプローチ

であって、私はエンジニアとして義足を作る部分を担

当しています。

 われわれが解析した一つの事例としては、義足と健

足の床反力の違いを考えました。すると、足首のある

人(健足)は地面から離れる瞬間、自分の体を蹴る力

と、足を前にスイングするための力に分散させて床反

力を使っていますが、義足の人はそれができません。

常に重心を押さなければならないつくりになっていま

す。

 一方、為末さんは「競技として床反力をなるべく前

に、体を前に進めるように使った方がいい」と言い

ました。確かにそうだと思ったのです。実際、健常者

のトレーニングを見ると、重心を蹴った後に足を前に

持ってくるとき、なるべく筋肉だけで空中姿勢のとき

に前に持ってくる運動をよくします。ですので、もし

かしたら義足の人は、自分の体を押すために100%の

床反力を使えるのではないかと考えました。

 そして、腸腰筋という筋肉を鍛えることで、足を前

に持ってくる動きを訓練し、義足は割り切って重心を

押すためのツールとして考えなければならないとチー

ム内で議論しました。もちろんこれは全て仮説であり、

スポーツには分からないことがたくさんあるので、一

つの仮説を作って実証していきます。

 そうして実際に作った義足が Genesis です。黒いソ

ケットの部分から後ろに大きく湾曲しているので、義

足を下に押し付けたときに真っすぐ床反力が出ます。

ただ、大きくすればするほど重くなるので、カーボン

の樹脂の選び方でフォローしながら、どこまで湾曲を

許容できるかを選手と話しながら試しました。

 われわれはアスリート中心のチームだったので、で

きた瞬間に選手が使ってくれて、2016年に発売しま

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した。この年のリオパラリンピック100m 走では、日

本の佐藤圭太選手だけが日本製の義足で、他はほとん

どがオズールという会社の義足を使っていました。佐

藤選手は日本で一番速いのですが、世界と比べるとベ

ストが 1 秒以上遅いので、まだまだ世界のレベルには

たどり着いていません。そして、数でいえば圧倒的に

オズールとオットーボックという義足メーカーの板バ

ネが使われているのです。

 でも、そのときに見たことのない義足を履いている

選手が日本から来たと思われたせいか、結構な数の

問い合わせが来ました。そして、アメリカのジャリッ

ド・ウォレス選手と20171年 5 月に契約しました。こ

れまでの成果としては、まだまだスタートアップベン

チャーなので開発環境は小さいですし、やっているこ

とも限られていますし、サポート選手も少ないです

が、それでも研究を進めて実績を少しずつ蓄積し、今

となってはものすごい選手から連絡が来るようになり

ました。

 私の中ではできることがまだまだたくさんあって、

時間もお金も必要なのですが、速い選手が履いてく

れたり、メダルを取ったというブランドが付いてこな

いと人々はなかなか見てくれません。ですので、こう

いった活動を同時にやっていくことが大事と感じてい

ます。ただ、それは選手の実績なので、義足がいいと

は口が裂けても言えませんし、選手に感謝しつつ、そ

れを少しでもサポートしていきたいと思っています。

 そして、形状を大胆に変えて今年 9 月に Xiborg ν

を発表しました。今までの義足の形状は真っすぐな棒

があって後ろに湾曲していましたが、Xiborg νは湾

曲ではなく、後ろに真っすぐ進んでいます。つまり、

重心位置を上にずらしたかったのです。シミュレー

ションでも腸腰筋の負担が結構大きいと感じました

し、MRI の画像を見てみても健常者と比べて障害者

の腸腰筋は小さいのです。ですので、重心位置を上に

上げることで、その負担を減らせないかと考えました。

 この義足の開発も選手たちに協力をお願いし、実際

に使ってもらって、フィードバックをもらいながら

開発しました。νは実戦でも使われていて、今後その

メリットやアドバンテージを数字的に表せたらいいと

思っています。やはりこういった活動をしていくと、

オリンピック・パラリンピック関係の人たちが連絡を

くれるのです。地道な活動をしながらもメディアバ

リューが上がってきて、ブランドもできました。日本

のパラリンピックのスポンサーは基本的にコンテンツ

が少ないので、われわれと組みたいところが結構増え

てきています。

 そして、「ギソクの図書館」というものをクラウド

ファンディングで始めました。ギソクの図書館に行

くと、義肢装具士に義肢を付けてもらい、走ることが

できます。われわれはトップアスリートのことばかり

やってきたので、子どものことをあまり考えていな

かったのですが、走りたいのは多分、大人より子ども

だと思うのです。でも、子どもは成長が早いので、義

足を毎年替えなければなりません。しかし、大人用と

子ども用の板バネは値段が変わらないので、お金がか

かります。そこで、スポンサーを集めるのですが断ら

れるので、だったら自分たちでお金を集めて買ってし

まおうと考えました。

 ここから派生して、子どもたちに義足を履く体験を

させる授業を LIXIL と一緒に作りました。年間で80

校ほどを回っていて、障害者と健常者の心のバリアを

消すようなアクティビティにつながっています。

 それから、「渋谷シティゲーム」というものを開催

しました。オリンピック・パラリンピック関連のイベ

ントは、普及活動としてはもちろん魅力的なものもあ

るかもしれませんが、私は何か違うと感じていたので

す。パラリンピック選手が一番かっこいいのは、本気

で走っているときだと思います。しかし、イベントで

選手たちは本気で競技しないので、町中で本気で走っ

てもらうような賞金レースがあれば、すごさが伝わる

のではないかと考えました。そこで、世界で一番速い

3 選手を招待する形で、渋谷のタワーレコード前の通

りに設けられた60m のコースで、観客の目の前で本気

で走ってもらいました。

4.Extreme Human Centered Engineering

 皆さん、human centered design という言葉を聞い

たことがあると思うのですが、私の場合は extreme

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ITシンポジウム「インフォテック2018」の実施報告

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human 寄りで、特定の人たちが最大のパフォーマンス

を発揮するようなものを作っています。しかし、ター

ゲットがとても狭いので、それを売ることはなかなか

難しいのです。そこで、何か市場に受け入れられるよ

うなものに落とし込むことを私たちはしています。

 ただ義足を売るのはなかなか難しいので、extreme

寄りにすることで別の市場を作ることができると思う

のです。自動車産業では F1がスポーツやエンターテ

インメントとして成り立っていて、車以上の産業が生

まれています。ですので、パラリンピックももしかし

たら義足業界の F1的な立ち位置になるのではないか

と感じています。

 われわれはかなりオープンに活動していて、面白け

れば取り組もうと考えています。ですので、extreme

は正直あまりお金になりませんが、楽しいです。一方

で、extreme をやりながら違う産業を生み出し、それ

を横展開してビジネスに落とし込むことを、スモール

スケールでやっている会社が Xiborg なのではないか

と思っています。

 われわれやいろいろな科学者がしていることは、着

けることによって障害者の色合いを減らしたり、健常

者の上側に違う色合いを付けることではないかと思っ

ていて、そうしてテクノロジーを使うことで、幸せに

なれる社会が来ればいいと思っています。

招待講演2

「イノベーションを支える AI 活用最前線」

  弓田 光正 氏

(富士通株式会社 オファリング推進本部

AI&IoT オファリング統括部 シニアエキス

パート)

1.AI とは何なのか

 世の中では、AI がものすごく万能感があるように

イメージされていると思いますが、最近のマスコミの

論調は変わってきています。今までは AI に対する過

度な期待があったのですが、AI の導入が企業で本格

的に進むにつれて、考えていたものとは少し違うこ

とが出てきて、これから幻滅期に向かうだろうと見

られています。この幻滅期は、テクノロジーが普及し

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20

ていく過程で必ず通過しなければならないステップな

ので、それほど悲観的に捉えておらず、今後、期待と

現実のギャップが解消され、むしろ、地に足のついた

AI 導入の検討が進めやすくなるのではないかと思っ

ています。

 そこで、AI がどのような仕組みで動いているのか

を理解すると、ちまたのニュースに踊らされることも

ないと思います。簡単にいえば、「真のモデル」とい

うものがあって、学習データを集めてモデルに学習さ

せ、「真のモデル」に近似したモデルを完成させて推

定するのが AI です。

 この場合の「モデル」とは方程式のことであり、

AI の「学習」とはこの方程式をデータで完成させて

いるということです。従って、ディープラーニングに

おけるニューラルネットワークは、方程式の集まりだ

と思ってください。ですので、今の AI は、人間のよ

うな思考はまだしておらず、数学的な計算をしている

ということになります。

2.AI の作り方

 「真のモデル」と「学習データ」の関係を分かりや

すく説明するために、たこ焼きを例に取ると、お店で

食べたたこ焼きが「真のモデル」で、レシピや具材が

「学習データ」に相当します。たこ焼きの型に学習デー

タを混ぜて焼くと、自宅でもたこ焼きができます。こ

の自宅のたこ焼きが、お店の味に近ければ近いほど美

味しいたこ焼き、すなわち、精度の高い AI になるわ

けです。

 同じ型(モデル)を使って、お菓子などたこ焼き以

外のものも作れます。従って、まず自分がたこ焼きを

食べたいのかお菓子を食べたいのか、のように目的を

はっきりさせないと AI の導入を具体的に検討できま

せん。その上で材料になるデータと料理が必要になる

のです。

 たこ焼きの型がいろいろあるように、AI のモデル

もたくさんあります。ディープラーニングはその一つ

でしかありません。ですので、AI を導入するときは

何を用意するのか、どのような目的で使うのかによっ

て、モデルを選択しなければなりません。

 データも非常に重要です。「ロボットは東大に入れ

るか」というプロジェクトでは、国語の成績が目標

に届かず合格を断念しました。そもそも国語は、今の

AI に非常に難しい問題なのです。なぜなら、単なる

単語学習だけでなく、例えば「社会人としての自覚」

のような知識と知識の関係や概念を学習させないと問

題を解けないからです。

 AI は学習を自動的にしてくれると思われているか

もしれませんが、「学習」とはたこ焼きでいえば調理

に当たる作業です。プロが作ったものは出来上がりの

味が違います。実は、AI の適用はかなり人依存の部

分があって、ノウハウがまだまだ必要です。少ない

データ量で効率良く学習させたり、モデルの精度を上

げるために沢山のパラメータをチューニングしたりす

ることを、ノウハウでやらなければならない部分もあ

ります。ですから、AI もノウハウを持った人間が必

要になります。

 そして、AI にはインテグレーション(統合)する

力が必要になります。 AI(脳)と業務(体)の統合

も必要ですし、AI が入ると業務設計もできなければ

いけません。そして、AI を導入した後もずっと学習

が行われ、どんどん賢くなっていくよう運用も考えな

ければなりません。

3.富士通の先進技術

3-1.説明可能な AI と Deep Tensor

 AI に指示されたときに、人間が盲目的に受け入れ

て従えるかというと、なかなか難しい面があります。

ビジネスにおいても、AI がなぜそのような選択をし

たのかをきちんと納得できないと、怖くて使えません。

 そこで、富士通は「説明可能な AI」を開発しまし

た。これは二つのデータで説明する仕組みになってい

ます。一つはグラフデータで、AI が推定するための

データです。例えばネットワークの通信ログや企業間

の取引データ、業績・経済指標、機器の故障・保守履

歴、物質の構造や交通経路などさまざまなものがあり

ます。もう一つはナレッジグラフというものです。強

いていえば言葉のデータなのですが、根拠となる情報

のつながりや体系知識をグラフとして整備したデータ

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です。

 例えばグラフデータが疾病の関係性を表している

データだとすると、私どもの Deep Tensor という技術

を使えば、このような病気の可能性があるという推定

結果を出すことができます。そして、推定結果に大き

く起因した推定因子を出すことができます。

 ナレッジグラフは、この推定結果と推定因子の関係

に根拠があることを裏付けます。これが根拠パスにな

ります。この根拠パスが正しいかどうかを検証するこ

とで AI の推定結果の正しさ説明できるのです。具体

的には、がんのゲノム医療などで有効性が実証されて

います。

 「説明可能な AI」の重要な要素技術の一つが Deep

Tensor です。適用例を幾つか説明すると、まずマル

ウェアの攻撃判別で実際に使われています。普通のウ

イルスチェックではなかなか引っ掛からない複雑な振

る舞いを示すマルウェアを、非常に高い精度で発見で

きています。

 その他、優秀な営業パーソンの働き方のノウハウの

見える化や、従業員の健康の変化を検知する取り組み

など、様々な分野で、その有効性が期待されています。

3-2.量子コンピューティング技術

 もう一つの富士通の先進技術として、量子コン

ピューティング技術を紹介します。世の中には組み合

わせ最適化問題が多くあり、物流や投資ポートフォリ

オなど、たくさんの組み合わせの中から最適なものを

見いだすことが非常に難しくなっています。そこで、

量子コンピューティング技術の応用が各社で行われて

いて、量子ゲート方式やアニーリング方式などいろい

ろな取り組みが行われています。

 富士通では、既に普及しているこれまでのコン

ピュータ上にアニーリングの技術を実現し、実用的な

組み合わせ最適化問題に適用できるコンピューティン

グ技術を開発しました。これを「デジタルアニーラ」

という名称で、クラウドで提供しています。こうした

量子コンピューティング技術が実用段階に入ってきて

います。

4.デジタル革新に向けて―イノベーションとデザイン思考―

 テクノロジーとして AI をビジネスに適用するとき

に、導入の戦略性や方向性をしっかり検討すること

で、より効果の大きい AI 導入を達成できます。

 30年前の企業の時価総額ランキングでは、日本企業

が上位を占めていましたが、2018年はベスト10内に

日本企業は一社もいません。日本企業はテクノロジー

でビジネスを拡大する点で遅れを取ったのです。これ

からは、新しい技術がイノベーションのキーになると

いわれており、新技術をどうビジネスに生かすかがこ

れからの30年に非常に大きく影響すると思います。

 どのように新しい技術(特に AI)を使っていくか

というと、二つのモードがあります。一つは既存の業

務にAIを使うモード、もう一つは新しい業務・商品・

サービスに AI を適用するモードです。後者は必須で

あり、AI をどのように商品・サービスに組み込んで

いくかを当然考えていかなければなりません。一方、

前者は今まで AI なしでやってきた領域なので、ここ

に AI を適用しようとするとどうしても費用対効果の

問題になります。

 代表例として、コールセンターに AI を適用する事

例が非常に増えているのですが、コールセンターは非

常に多くの人がいるので、費用対効果を出しやすいの

です。しかし、少人数で行っている業務を AI に置き

換えていこうとすると、なかなか費用対効果が出にく

いという現実があります。しかし、そこを何とかして

いかなければならないという現場側の悩みもあります。

 そこで、現状に AI を当てはめるだけでなく、そも

そも別の観点で、もっと違う価値提供ができないかを

考えます。価値提供につながるようなデータや知見を

集めるために、まず社内でそれを実践してみるという

観点で取り組むと、費用対効果をもう少し戦略的な視

点で捉えられると思います。

 富士通ではデザインアプローチという手法を持って

いるので、ぜひ私どものノウハウを使っていただきた

いと思っています。既に多くの企業が富士通と一緒に

デザイン思考を使って新しいビジネスや業務改革を実

現しています。

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ITシンポジウム「インフォテック2018」の実施報告

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 デザイン思考を使って新しいビジネスや AI 適用を

していく上で、お客さまとワークショップをしながら

進めたりもするのですが、ただワークショップをして

もアイデアはそうそう出てくるものではなく、やはり

デザイン思考のプロと、皆さま方のアイデアを引き出

すいろいろなツールや工夫が必要になります。

 その場として、私どもは Digital Transformation

Center(DTC)というものを世界各地に展開してい

ます。ニューヨーク、ロンドン、ミュンヘン、東京、

そして、勿論、ここ大阪にもございますので、ぜひ大

阪 DTC の環境をご活用ください。

招待講演3

「AI 利活用による超高齢社会のインクルージョン・

イノベーション」

  石山 洸 氏

(株式会社エクサウィザーズ 代表取締役社長)

1.AI 利活用による Evidence Based Care の確立に向けて

 超高齢社会の課題に対して、さまざまな領域で AI

が活用されています。ロボットを開発し、社会的価値

を実証するときには、介護施設で実証するケースが沢

山ありますが、施設の中でうなだれたロボットがたく

さんあるような状態になっています。介護× AI の技

術が増加する一方、本当に現場で使えるコンピュータ

サイエンス技術がまだあまりないという課題があるわ

けです。この課題感を払拭していくことがわが国の課

題です。

 具体的な解決方法として、コンピュータ科学と医科

学系、経済学系のエビデンスを全部つなぎ合わせなけ

ればなりません。例えばディープラーニングで画像解

析して、もしケアの改善が確認できた場合、医科学系

のエビデンスとして例えば認知症が20%改善したと

いえるのか、認知症が20%改善したら社会保障費が本

当に20%削減されるのかという関係性を解析すること

が、これからの介護× AI の解析で非常に重要になる

と思います。

 2025年、日本の介護費用は15〜20兆円になるとい

われていますが、画像解析でケアの品質が20%改善し

た場合、社会保障費が最大 4 兆円削減されるので、そ

のうち30%の約1.2兆円を、ケア改善の技術をつくっ

た企業にキックバックすればいいのです。そうすると、

そうした技術をつくる企業が増えるインセンティブを

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設計できると思います。これが成果連動型民間委託契

約方式と呼ばれる方式で、日本政府も導入を目指して

います。

 しかし、いろいろな課題があります。 AI の企業や

研究機関は研究費や売上がなければエビデンスを取得

できません。一方、国や自治体からすれば、エビデン

スがないとそもそも予算化できません。そこで私ども

は、そのリスクをテイクするようなベンチャー企業と

して株式会社エクサウィザーズを経営しています。

2. 5 階層インクルージョンモデル

 今までは、コンピュータサイエンスの企業が周辺市

場を破壊する形でイノベーションを生んでいたのに

対し、これからはコンピュータサイエンスの企業も周

辺市場の企業も一緒に社会を良くすることでみんなが

ハッピーになれるということで、インクルーシブ・イ

ノベーションという言葉が使われています。

 弊社には研究者がたくさんいて、共同研究している

先生方も多いのですが、AI エンジニアも50人ぐらい

います。さらに、ユマニチュードというフランス生ま

れの認知症ケアができる看護師が 6 人ほどいて、AI

のエンジニアと看護師・介護士が一緒になって現場で

使える AI を作っています。その上に実証実験のフィー

ルドとなる大企業が必要です。そこで、介護施設を国

内で最も多く運営している SOMPO ホールディング

スと資本業務提携し、具体的に実証実験を行っていま

す。さらに、経済産業省の産業革新機構からも出資を

受けて、具体的に政府や自治体と一緒に社会制度自体

を改革しています。これらの研究者、AI エンジニア、

ドメイン専門家としての看護師・介護士、大企業、政

府・自治体の 5 階層が一緒になり、インクルーシブ・

イノベーションを進めている点がわれわれの AI 開発

手法の特徴です。

3.Evidence Based Care の実践

 介護の世界は、介護をする人、当事者の人、介護施

設の経営者、社会保障費を払っている納税者などいろ

いろな主体が関わっています。それから、密室の病院

内で実際のケアをすること多いので、全ての情報を見

ることはできません。

 しかし、みんなで協力すれば、ゼロサムゲームのよ

うにどちらかが勝つのではなく、みんなでハッピー

になれるプラスサムゲームになります。いろいろなプ

レーヤーがいるので、一言で介護といっても、見てい

る状態が違ったりします。当事者は認知症の症状を最

小化したいと思っているかもしれないし、介護する人

は介護者負担を最小化したいと思っているかもしれま

せん。施設の経営者は利益を最大化したいと思ってい

るかもしれないし、納税者としては介護費用を最小化

したいと思っているかもしれません。このように多目

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的最適化問題になっていて、みんなが Win-Win にな

るような構造を AI がドライブしていかなければなり

ません。

 先ほどのユマニチュードでは、「見る」「話す」「触

れる」「立つ」という四つの柱でケアをしていて、五

感に対する入力を適切にコントロールすることで認知

症の症状を緩和しています。実際にこの手法が日本に

来たとき、一番問題になったのは、本当に効くエビデ

ンスがあるのかということでした。

 そこで立ち上がったのが、AI の研究者たちでした。

四つの柱のうち「見る」「話す」「触れる」に対して画

像解析をかけ、ベテランと初心者のケアを比べたとき

にどう違うのかを可視化しました。介護の世界では今

まで、介護記録のような構造化データを解析すること

はできましたが、実際にケアしている動画そのものを

解析する技術はあまり整備されていませんでした。し

かし、ディープラーニングのようなものが出てきて、

実際にケアしている様子の動画を解析できるように

なったので、Evidence Based Care が確立されるよう

になりました。

 具体的には、AI で Evidence Based になったケアを

2 時間だけ、一般家庭で在宅介護をしている方々にト

レーニングしたところ、認知症の行動心理症状が20%

低下しました。介護者負担も28%低下し、ケアする側

もされる側も非常に効き目があったことが分かりまし

た。

 まさに AI の役割の一つは、AI 自体がコンピュータ

サイエンスとして進化することに加えて、周辺の科学

をエンパワーメントし、今まで科学できなかった部分

を科学できるようにすることが非常に重要なのではな

いかと思います。

4.コーチング AI による Evidence Based Careの普及

 Evidence Based Care を実際にするのはなかなか大

変です。そうすると、ケアをコーチングするための仕

組みが必要になります。介護の世界で期待されている

AI の役割の一つはコーチング AI であり、達人の能力

を AI が学習して初心者に教えてあげることが期待さ

れています。

 ユマニチュードのケアでは、相手の瞳に自分が映る

くらいの距離でケアしてあげてくださいとよく言いま

す。しかし、なかなか難しいので、それを学習するた

めの仕組みを AI も活用して作っています。ウエアラ

ブルのグラスのカメラと、上に360°カメラがあって、

動画でケアの状況を確認し、ケアが終わるとタブレッ

トのシステムで介護のクオリティを確認できます。加

えてコメントを入れることもできます。つまり、AI

や IoT で取得できたデータと人間の定性的な情報で

フィードバックするのです。

 AI をケアの世界で使える要素がもう一つあります。

自治体には介護認定のデータがたくさんたまっていま

すが、介護の介入の評価するとき、実は予測が非常に

重要になります。例えば要介護度 4 の人に特定の介入

をしたら、要介護 4 のままだったということがよくあ

ります。なぜなら、ベースのトレンドがそもそも悪化

するので、そのトレンドに対して介入したときに、介

入効果を可視化するのは難しいですし、時間がすごく

かかるからです。

 この問題に対して、過去のデータが全部蓄積されて

いて、AI で予測するとどうなるでしょう。 2019年ご

ろに要介護度 5 になりそうだと分かっていて、実際

に介入したら 4 のままで済んだとなると、介入効果が

あったことが可視化できます。このように、予測する

ことで初めて介入効果が可視化できるのもまた一つ期

待されている分野です。

 加えて、介護する側にはどう効いてくるのかという

ことで、介護者負担感が低下した時に、介護施設で働

く人たちの退職率に関するエビデンスも取ろうとして

います。あるいは、採用単価自体も20%下がるとす

れば、介護施設にとっても利益体質になるし、介護す

る側の負担も減っていくし、労働市場全体としても介

護士の総供給が増えるので、まさに三方よしになりま

す。このように、コーチング AI も活用することで、

介護費自体を下げることができるのではないかと考え

ています。

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5.今後の AI 開発と社会課題解決への期待

 今まではケアする側を支援する AI を作っていまし

たが、次のステップとして当事者を直接支援する自立

支援用の AI を開発しようとしています。そのために

設立された学会が「みんなの認知症情報学会」で、認

知症の当事者の人も会員として参加できます。

 日本経済新聞の調査によると、認知症によって自分

の資産が使えなくなり、凍結される資産が2030年に

200兆円ぐらいになりそうだという課題があります。

振り返ってみると、介護費が2025年に20兆円という

のも大きいですが、2030年に認知症当事者の金融資

産が200兆円も凍結されるので、こちら側が開放され

れば、究極的には社会保障費を使わなくてもケアを回

していけるという仮説が考えられます。

 介護をする人は本当に優しい人が多く、その温かみ

がある種のフォースとなって見えるほどの人たちが多

いのですが、社会課題自体も強敵なので、フォースを

持っている人が頑張って社会課題を解決しようとして

もなかなか解けないことがあります。しかし、そこに

企業家や AI が加わると、社会課題をやっつけること

ができます。まさにこういう構造を目指しながら、全

ての人にケアのフォースが宿るような社会を、AI も

使いながらつくっていきたいと考えています。

オープンディスカッション

ファシリテーター:尾上 孝雄 氏

(大阪大学 副学長 大学院情報科学研究科長 教授)

パネリスト:

萩原 一平 氏

(株式会社エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所 

研究理事 情報未来イノベーションセンター長)

浅田  稔 氏

(大阪大学大学院工学研究科 知能・機能創成工学

専攻教授)

遠藤  謙 氏(株式会社 Xiborg 代表取締役社長)

弓田 光正 氏

(富士通株式会社 オファリング推進本部

 AI&IoT オファリング統括部 シニアエキスパート)

石山  洸 氏

(株式会社エクサウィザーズ 代表取締役社長)

パネリストからの質問

(尾上) 各講演者から他の講演者の方に何か聞いて

みたいことがあればお願いします。

(萩原) 怪我や手術をした後にリハビリを行なうと

きに脳が以前の状態をかなり覚えてしまっているの

で、それを変えるのは非常に難しいと感じています。

遠藤さんの話を聞いて、身障者でも extreme なものを

着けて動いたとき、今までと違うと感じていると思う

のですが、どういう形で慣れ親しんでいるのでしょう

か。開発に取り組んでいて、何かご苦労などがあれば

教えてください。

(遠藤) 障害者だろうが健常者だろうが、スポーツ

選手だろうがリハビリをしている方だろうが、やりた

いことに対してまだできていない部分の学習プロセス

は全部同じ感覚なのではないかと思います。われわれ

の場合は速く走るという明確な目的があり、物理現象

として説明できる部分が大きいので、やることは明確

です。あとは、体を動かしながら試すのですが、やは

り感覚的に思っている動きと自分がやっていると思っ

ている動きにはずれが生じます。ですので、股関節の

手術のリハビリのプロセスと結構近いことをしている

と思います。

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(浅田) 実はリハビリテーションやキャリブレーショ

ンをしていく過程は、発達するロボットとかなり本質

的に共有する部分があると思っています。最終的にそ

ういったロボットが介護にも使えるツールになったと

して、パッシブに付けるだけでなく、アクティブにア

ダプトするツールとしての在り方を考えるときに、神

経系との話もかなり絡むと思います。

 最初は意識的にやらざるを得ないのですが、やって

いく間に無意識というか、運動レベルでライブラリー

化していけばいいのですが、年を取るとそういうアダ

プテーションを助ける人工システムが必要になりま

す。そのときには、逆に人間自身が身体イメージをど

うつくっていくかという過程そのものを理解すること

で、より良いものになる可能性はあると思います。

 AI と共通する話としては、身体があることによっ

て初めて意味づけできます。それから、石山さんの介

護の話で明確だと思ったのは、道具として使い切るこ

とに徹しているので、そこはビジネスとしての道筋が

あると思います。その中で、自律的 AI の話がありま

したが、研究をうまくフィードバックする場がつくら

れているので、そことうまく循環することでビジネス

にもなるだろうし、研究的にも面白い話が出てくると

いう気がしています。

(遠藤) 人間は個人個人違うものであって、extreme

になればなるほど違いが出てきて、ビッグデータにな

り得ません。でも、そこの領域がすごく面白いと思っ

ていて、そこに対するマシンラーニングや AI で面白

い研究例をご存じだったら教えてください。

(石山) 今まではビッグデータをうまく使うような

マシンラーニングの機能が AI としてフィーチャーさ

れていたと思いますが、これからは特定の領域の中で

いかに競争優位性を持つかということを企業としても

考えていかなければなりません。そうなると、特定の

ドメインあるいは産業の中の extreme な部分を突き詰

めて、競合との差別化を図るようなビジネスのストラ

テジーが重要になると思います。そういったときに、

弓田さんが言っていたようなデザインシンキングを

もっと活用することも考えていかなければならないと

思いました。

(弓田) 萩原先生のお話で、CM を見た反応が言葉

になって表れるという研究の話がありましたが、介護

現場でああいう技術を使えば、リアルタイムでフィー

ドバックが得られてすごくいいことが起きると思った

のですが、実用性はありますか。

(萩原) あの技術自体は、MRI を使って脳の状態を

全て観測しています。ですから、介護現場のようなと

ころでは、認知症の方にそういうところへ入っていた

だくことができないので、データを集めるのが結構大

変だと考えられます。認知症の方の脳反応がどうなっ

ているのかという研究はまだまだこれからですから、

すぐにそこまでいくのは非常に難しいでしょう。

 認知症の方の場合、記憶も比較的最近の出来事等の

記憶が失われていくケースが多く、人間の本質的な情

動の部分などはあまり変わっていないという話もあり

ます。

 例えば入浴介助の際、介護の方が認知症の方を後ろ

から手を入れて抱きかかえようとすると暴れるのは、

脳のそういう部分が正常に機能しているからという説

もあるそうです。ですから、そういう脳科学の知見を

介護現場にもっと入れていくことはとても有意義だ

し、必要なことだと思います。これはまさにユマニ

チュードの考え方につながり、人間を人間として尊

重して接する、人の脳の快、不快をしっかりと理解し

て介護支援を行なうということです。さらに、行動を

観察する部分に脳科学的なアプローチや AI の活用が

入ってくると、もっといろいろなことが分かるし、で

きるだろうと感じました。

(石山) 今日は介護認定データを使うという話もあっ

たのですが、実は各自治体が持っている介護認定デー

タベースの多くを持っているのが富士通です。そう考

えると、今日の話を統合して、富士通として新しいビ

ジネスができるのではないかと思ってしまったのです

が、どうでしょうか。

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(弓田) 最終的にはデータを保有している各自治体

の判断が必要になろうかと思います。富士通では、

地域社会で保有しているデータを、ブロックチェーン

技術によって、トレーサビリティ、データの信頼性、

機密性を守りながら、安全に情報を公開、共有し、利

活用できるネットワークサービスを既に提供していま

す。このサービスを基盤に、例えば、東京丸の内地域

では、三菱地所様、ソフトバンク様、東京大学様と富

士通とで、ブロックチェーンベースのコミュニティ

ネットワークを作り、このネットワークに参加する企

業や組織が互いのデータを公開して利活用を図る取り

組みが始まっています。このような取り組みの中で、

自治体が持っているデータや LOD で公開されている

データが繋がり、地域社会と共に新しい価値やサービ

スを創出していくという可能性はあると思います。

フロアからの質問

(尾上) それでは、sli.do というシステムを使ってい

ただいた質問の回答を頂きたいと思います。浅田先生、

認知発達ロボットの開発実用化を加速するために一番

必要なことは何だと思われますか。

(浅田) 基本的には全てですが、一番大事なのはわ

れわれの研究がもっと進まなければならないことで

す。ただ、部分的に使えるものはあると思うので、幾

つか切り出していけば使えると思いますが、まだ突き

詰められていません。

(尾上) デザイン思考と AI の整合性について、も

う少し示唆をください。

(萩原) AI はあくまで考えるためのツールです。例

えばデザイン思考をしていて、ファクトを押さえたい

と思ったときに、AI を上手に活用して情報を得られ

れば、議論を先に進めることができます。ですから、

AI をしっかり活用できるようにすることはより効果

的なデザイン思考をする上でも大切かもしれません。

(弓田) 日本企業は元々デザイン思考をものづくり

の中で自然とやっていました。アメリカは、かつて、

ジャパン・アズ・ナンバーワンであった日本の製造業

になぜ勝てないのかを徹底的に研究する中で、日本の

強さの根源であるプラクティスをデザイン思考として

取り入れ、日本には敵わない「ものづくり」ではなく、

企画や設計といった上流にこれを適用したのです。そ

して、この30年の間に、GAFA のようなイノベーショ

ン企業が生まれ、成長してきたわけです。

 これからは確実にデザイン思考がイノベーションの

キーになると思うので、このような発想をもって、AI

を単に人減らしのツールとしてではなく、戦略的な目

線で新しい事業や商品に活用する視点も持って取り組

んでほしいと思っています。

(尾上) 萩原先生、人間情報や行動情報や環境情報

を集めている主体がバラバラで、統合・分析するため

には企業の枠を超えたデータのやりとりが必要で、こ

こが割とネックなのではないでしょうか。

(萩原) そのとおりだと思います。重要なのは、多

くの企業が持っているビッグデータは行動の結果情報

だということです。今、何が起こっているかというと、

IoT の技術進化によって、温度、湿度、照度、人流、

人の動き等、さまざまな環境情報をリアルタイムで取

得することが可能になってきたということです。そう

すると、ある意味で環境情報はインフラ情報として皆

で利用ができるように収集・管理されるべきものにし

ていく必要があるのではないでしょうか。それから、

人間情報も匿名化技術等を使ってしっかり共有してい

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ITシンポジウム「インフォテック2018」の実施報告

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く必要があります。情報を共有する仕組みづくりは確

実にムーブメントとして出てきているので、あとはい

かに一企業のためだけでない形に持っていくかです。

(尾上) 浅田先生、AI が非常に進んだ社会で人と共

生するには何が最もポイントになるでしょうか。人が

生きがいを持ち続けるためには何を意識すべきでしょ

うか。

(浅田) 大事なのは、共生社会をどう生きようか、

どうしたらいいかという受け身ではなくて、積極的

に変えていくようなスタンスを取ることです。それに

よって新たな価値が創造され、生きがいの質が変わっ

ていくのではないかと思います。

 人間が AI を支配するわけでも、人間が AI の奴隷

になるわけでもありません。つまり、人と人がどう共

生するかという課題を人間とロボットの共生という形

を借りて再考を迫られているのではないかという気が

します。それに対してアクティブに考え、新しい価値

をつくることで、未来像が少しは描けるのではないか

と思います。

(尾上) 遠藤社長、アスリート向けの義足には AI 技

術も含めた高度なシミュレーションや素材、加工技術

が用いられていると思いますが、企業秘密に触れない

範囲で教えてもらえますか。

(遠藤) カーボン素材は非線形性がかなり強く、複

合材なので普通の FEM(有限要素解析)が使えませ

ん。そこで、単純な要素の組み合わせでカーボンのモ

デルを作り、実際のカーボンの加圧試験と組み合わせ

てパラメータ調整をして、カーボンのシミュレーショ

ンができるようになりました。カーボンは結構高いの

で、シミュレーションである程度予想することで、コ

ストを抑えることができます。

 一方で、アスリートは研究テーマとしては面白く

て、われわれが思っているものとはちょっと違った常

識が、10年後に証明されるようなことがあります。ア

スリートが一歩二歩先を行っていて、科学が後追いに

なっていることがあるので、科学技術がまだ追い付い

ていない、人間の直感に近い部分がこの研究の面白い

ところだと思っています。

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ITシンポジウム「インフォテック2018」の実施報告

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インフォテック2018のまとめ

(尾上) 今日のお話をおさらいしたいと思います。

まず、「人と一緒に」あるいは「人の近くで」働く AI

やロボットの価値は高いということは、皆さんもつぶ

さに感じられたと思います。 AI やロボットを活用す

るためには、やはり人を知ることによって、きめ細や

かな技術進展を図ることが必要だという気がしました。

 ビジネスを進める上では、うまく業種を越えていく

ことが一つのポイントであり、そのためにはチームづ

くりが重要だと感じました。

 また、AI を道具として割り切って使う点も特徴的

だったと思います。 AI もアプリも両方攻めていくの

はなかなか大変なので、開発してそれをどう使いこな

していくかという点もポイントなのだと思います。や

はり人に関わるデータをより丁寧に扱っていく必要が

あるでしょう。

 これから日本企業は、IoT/ ロボット、ブロック

チェーン、AI に目を向けていくべきであり、デザイ

ン思考を取り入れるというよりはリバイバルすること

が大切だと思います。日本企業は元々そういうことが

できるのだというお話もあったと思います。

2025年の未来予測

(尾上) それでは最後に、2025年は万博が大阪で開

催される年ですが、2025年の未来予測をして締めて

いただきたいと思います。

(萩原) 今まではどうやって情報を集めるのかがメ

インになっていたと思うのですが、これからは集めた

情報をどう使うのかが問われる時代になると感じてい

ます。ですので、情報の価値をどうやって高めていく

のかが大きなポイントになると考えています。

(浅田) ロボットといってもいろいろなタイプがあ

るので、世の中にたくさん出回ってほしいし、日本

がそのけん引役となって、いいことばかりではないの

で、良しあしの両方を含めてきちんとオープンにする

というミッションがクリアになればいいと思います。

(遠藤) 私は、義足の選手が健常者よりも速くなる

時代が来ると思っています。今までは障害者と呼ばれ

ていた人たちが障害者でなくなり、医療福祉や保険適

用の枠組みも変わって、今までは納税者でなかった人

が納税に回るような仕組みやテクノロジーが生まれる

兆しが出てくる年になったらいいと思います。

(弓田) その前後で少し心配なのが、デジタル人材

といわれる人たちが非常に不足していることです。

2025年を考えると、恐らく地域コミュニティの中で、

ロボットや AI の他に外国人というファクターも考え

ながら、社会づくりに取り組んでいかなければならな

いと思います。

(石山) 今日話していただいた部分が全て結晶化さ

れてビジネスになって、富士通が世界の企業ランキン

グのトップ10に入っているような感じになるのではな

いかと思います。丸の内で三菱地所とできるのだとす

ると、大阪でもグランフロントで三菱地所などとでき

るのではないかとも思ってしまいました。そんな形を

皮切りに進めていければと思いました。

(尾上) 今日のテーマは非常に重いテーマだと思う

のですが、皆さま方のご講演をお聞きして、われわれ

の未来は明るくて、ずっと幸せに生きていけるのでは

ないかと感じた次第です。

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1.歴史

 かつて経済産業省が、産業構造審議会の提言に基づ

き、日本のソフトウェア開発力強化のために(独)

情報処理推進機構(IPA)に Software Engineering

Center(SEC)を設立したことを覚えていらっしゃる

でしょう。強化対象はエンタープライズソフトウェア

と組込みソフトウェア、そして前者がいわゆる IT 企

業の領域です。

 実は IT 強化は人材育成の観点で SEC 設立以前

から取り組まれており、「IT スキル標準」いわゆる

ITSS の母体は「e-Japan 重点計画―2002」に基づき

制定されました。その後 IPA において IT システムの

ユーザ側のスキル標準 UISS、そして SEC において

組込みソフトウェア開発者向けスキル標準 ETSS が

制定されました。

 しかしながら、多くの IT ベンダーはいわゆる IT

も組込みにも取り組んでおり、ユーザにおいても利用

者でありかつベンダーの性格も持ち合わせるなどの背

景から、複数のスキル標準をどう使いこなせばよいか

という問題が持ちあがりました。そこで、これらを統

合し、同一の評価基準のもとにまとめた共通キャリア

スキルフレームワーク CCSF が、そしてその改良発

展形である iCD が2014年に制定されました。業界に

順調に受け入れられた結果、民間への移行が進めら

れ、その受け皿の一組織として iCD 協会が2018年 2

月に立ち上がりました。

2.iCD の特徴

 iCD、i コンピテンシ ディクショナリとは何を表し

ているのでしょうか。特にコンピテンシという言葉は

古くは英国流の考えですと遂行能力と知識を合わせて

実行能力を表現するもの、最近の米国流では様々な能

力知識、すなわちヒューマンスキルをベースに成果を

もたらす特性等と扱われており、時代とともに変化し

ているようです。

 いずれにせよコンピテンシはあくまでも個人に帰属

する特性で、それを発揮する業務環境と相俟って初め

て意味を持つと考えられます。今日の利用側主体の経

済において重要なのは、目的に沿って何をすべきかの

視点です。タスクディクショナリはこれを補うべく IT

業務を中心に業務遂行に必要な仕事、すなわち目的達

成のために何をすべきかをタスクとして広範囲に網羅

し、さらに粒度を考慮し階層的にまとめたものです。

ひな形の集大成であり iCD の最大の特長です。(図 1 )

図1 i コンピテシ ディクショナリ( iCD )とは

 一方、人材育成では欠かせない、いかにして実現す

るかという部分を関連知識と実施能力をまとめたもの

がスキルディクショナリです。従いまして iCD にお

けるコンピテンシとは、従来のそれに経営という目的

指向を加えた参考辞書のペアなのです。

 この 2 つの辞書は直交した概念で構成されているの

で、ある業務に必要なタスクが抽出されれば、それに

必要なスキルを結び付けることが可能となり、何を学

び実行能力を高めれば業務、事業に貢献するかの道筋

が描かれるのです。すなわち、これまでの人材育成は

どちらかと言えばボトムアップ的に共通技術領域や教

養を高めるものであったのが、事業目的に焦点を当て

賛助会員企業のご紹介

iCDの時代

一般社団法人 iCD 協会

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賛助会員企業のご紹介

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たトップダウンなものへと変えることができるのです。

 そして蛇足的ですが iCD の「i」これは i for IT で

あり、また i for Industry なのです。

3.iCD の導入とワークショップ

 ワークショップは iCD を組織・企業に導入するた

めの実務訓練であると同時に様々な改革への入り口で

もあります。すべてはワークショップから始まると申

し上げても過言ではありません。前節で人材育成につ

いて触れましたが、本来の目的からやるべきことを決

めることの利点は人材育成だけではありません。それ

を体験できるのがワークショップです。概要を下記に

説明いたします。(図 2 )

図2 ワークショップ概略

 ワークショップは 1 回約 3 時間、全 6 回の集中作

業で、経営層と部署のリーダークラスからなる 5 〜 6

人で構成するチーム単位でご参加いただきます。

① あるべき姿を求める

 まず、ビジネス目標を共有し、その目標達成に必

要な組織、要件を洗い出します。このためにワーク

ショップ参加チームには経営の立場の方の参画が欠

かせないのです。アウトプットは「自社要件定義」

です。これはいわゆるミッションとそれに基づく戦

略の骨子であり、会社の現状(AsIs)だけでなく、

あるべき将来像(ToBe)まで含めたものを作成し

ていただきます。

② いかにして実現(実施)するか

 自社要件定義に基づき、これを実現するためのタ

スク(業務)を定義します。アウトプットは「自社

タスク定義」で、iCD のタスクディクショナリを使

用し、選択されたタスクに対し、組織レベルで状況

(ある・なし、あるいは強・弱)を俯瞰するものです。

③ 役割分担を決める

 自社タスクを実施するための役割(機能)を決め

ます。アウトプットは「役割概要定義」です。ここ

では組織の概念を取り外し、ビジネス目標達成に必

要な役割は何かを定義します。この段階ではタスク

と役割は厳密な対応はしていません。あくまでも概

要です。

④ 詳細な役割分担を決める

 タスクと役割概要を相互参照しながら必要な役割

の詳細とその能力レベルを定めてゆき、最終的な

「タスク・役割クロスリファレンス」を作成します。

⑤ 評価項目と判定基準を決める

 ここからが、個人の詳細に入ってゆきます。求め

られる役割とレベルに個人の申告値をマッピングし

ます。この段階から効率を上げるためには「iCD 活

用システム」というツールを使うことになります。

これで現状分析の基礎結果が得られ、その評価を出

発点に参加された各企業において教育プログラムや

人事へのフィードバックがなされてゆきます。

 なお、ワークショップの各ステップは連続して行う

ものではなく、一定期間の社内議論をお願いしフィー

ドバックした結果を次のステップにつなぐ方式をとっ

ています。

4.ワークショップは上下の熱い交流を産む

 皆様は有名な経営分析フレームワーク、マッキン

ゼーの 7 S をご存知だと思います(図 3 )。おわかり

のようにワークショップの流れは 7 S のステップ 1 か

ら 4 、 5 あたりをカバーしているのです。

 つまり、最初は経営陣との交流を重ね、部下、将来

の幹部の方々と共に企業ヴィジョンとミッションを語

りあい共有していただきます。次にその実現戦略のも

とにタスクと役割、すなわち組織が見えてくる構造な

のです。ワークショップでは 7 S の 4 、 5 ステップ、

人財の発掘育成あたりまでをカバーし、それを社内に

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賛助会員企業のご紹介

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持ち帰っていただく形になっています。

5.iCD の活用と企業認証

 本来、企業・組織のヴィジョンは揺るがないもので

すが、ミッションと戦略は時代とともに変化する可能

性があります。したがって、一度ワークショップを経

験したから、それで終わりにはなりません。企業経営

は環境変化に対応し常に変化が要求されています。

 iCD 協会では iCD の継続的活用を図り、成果を上

げておられる企業・組織に対し、その成果の程度に応

じて Blue、Silver、Silver Plus、Gold ★、Gold ★★、

Gold ★★★の 6 段階の認証をさせていただいており

ます。ビジネスシンボルとしてご活用していただけれ

ば幸いです。

6.個人認証制度

 また、改善活動は、ワークショップを経験された

方々がそれぞれの企業・組織にお戻りになり、その役

を担われるわけですが、役割として横断的な活動を展

開せねばならず、容易なものではありません。従いま

して iCD を理解したコンサルタントや現場で指導す

るアドバイザーの必要性が高まるものと考えておりま

す。特にアドバイザーにつきましては企業内展開に配

慮しワークショップ経験者を優先的に認証する制度を

まもなく公表いたします。

 一方、コンサルタントは単に iCD に精通している

だけではなく、企業経営や組織運営にも通じている必

要があり、慎重に制度設計を進めております。

7.DX 時代と iCD 協会

 デジタルイノベーションの波を受け、世は変革が求

められるトランスフォーメーションの時代になりまし

た。そのなかで経済産業省の「DX レポート」は IT

業界にとって衝撃的なものでした。ユーザ企業こそが

改革の主役であるべきで、そのために企業としてなに

をすべきか、そのためにはいかなる戦略が必要か、そ

の遂行にはどのようなタスクとそれを担う組織を備え

なければならないか、そのタスクを実現する人材は、

スキルは、とユーザ企業に限らず大きな課題が突き付

けられたのです。

 お分かりのように、いかなる施策を進めるにも組織

全体での理念共有の下、業務と組織の適正化、人材の

育成、獲得は不可欠です。まさに今こそ iCD の出番、

時代ではないでしょうか。

8.おわりに

 iCD 協会は発足してまだ 1 年も経過しておりません

が、多くの企業・組織のご支援を戴きながら一歩一歩

前進しております。しかしながら、活動全体を俯瞰し

てみますと、地域の偏りは否定できません。

 今後は一般財団法人関西情報センター様のご協力を

得て関西地区において活動を活性化したく、改めてお

願いするとともに、本発表の機会を戴きましたことに

御礼を申し上げます。

1) Shared Value 成文化、共有された「企業理念、ミッション」

2) Strategy 上記を実現する「戦略」3) Structure 実行するための「組織」、「権限」4) Staff 組織を動かす「人数、職位・職種」5) Skill 解決に必要な「能力」、その「発掘策」、 「育成策」6) System モチベートするための「評価制度・報告

制度」7) Style 「企業文化」、「目に見える行動様式」

図3 マッキンゼーの経営分析のための7S フレームワーク

[企業情報]会社名 一般社団法人 iCD 協会

代表者 理事長 金 修

設立 2018年2月1日

本社 東京都千代田区神田鍛冶町三丁目4番

資本金 (一般社団法人のため、なし)

社員数 5名

売上高 約1,000万円

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1.はじめに

 大阪市営地下鉄は、1933年に日本初の公営地下鉄

として梅田〜心斎橋間で開業して以降、大阪市の発展

とともに路線を拡充し続け、全 9 路線、総延長137.8

㎞の路線網により、一日約250万人ものお客さまにご

利用いただき、“大阪のあし”として輸送サービスの

提供に努めてまいりました。

 2018年 4 月に経営形態を株式会社に変更し、大阪

市高速電気軌道株式会社(愛称 Osaka Metro)として

新たなスタートを切りました。

 今後、Osaka Metro の鉄道事業を軸に、Osaka

Metro Group として鉄道以外の新たな柱となる事業を

創出し、自主自立の経営を推進していくための「道

しるべ」として、同年 7 月に、 7 か年計画の Osaka

Metro Group の中期経営計画を策定しました。

2.中期経営計画の事業戦略

 事業ポートフォリオとしては、「交通」は引き続き

安全・安心を最重視する企業風土を維持するために安

定成長、「地下空間」はその価値を最大化し、「地上」

では新たな成長をめざします。

 経営管理の基本コンセプトはグループ共通の理念

と、経営基本インフラを基盤に、事業特性と発展ス

テージが異なる個々の事業を自主自立型で強靭化する

とともに、全社を連結経営戦略で結び、グループシナ

ジーを発揮する強い事業の集合体を構築することです。

 これにより、人々の生活を大切にする大阪の未来社

会に貢献する「鉄道を核とした生活まちづくり企業」

に変革することをめざします。

3.鉄道事業

 鉄道事業は、この数年間は乗車人員が増加傾向にあ

るものの、長期的には人口減少によって、事業の維持

が厳しくなってくることが懸念されます。そのような

環境の中で、より多くのお客さまにご乗車いただくた

めにも、駅・車両を中心にした設備投資の拡大と、お

客さまの利便性向上を図り、最高水準の安全・安心と

関西圏トップクラスの顧客満足度を実現していきます。

(1) 可動式ホーム柵の整備

  1 日あたりの利用者が10万人以上の全10駅、及び

御堂筋線全駅への設置を2021年度までに完了します。

この結果、 1 日あたりの利用者10万人以上の駅の整備

率が2018年度では20% ですが、2021年度には100% に

なります。

(2) 防災対策の徹底強化

 大地震、津波・洪水対策は、これまでも取り組んで

きましたが、今後、更に徹底した防災対策を推進して

いきます。

 地震対策については、2021年度までに地下の中柱

の補強、高架部分の橋桁の落下防止などを完了し、高

架部の脱線対策ガード付まくらぎへの交換、脱線防止

レールの取付けにも継続して取り組んでいきます。ま

た、停電時に車両に電気を供給するための蓄電池の設

置は2019年度までに完了します。

 さらに、津波・洪水対策では、地下から地上に上が

る移行区間の浸水対策を2018年度に完了するほか、

津波に対応した止水鉄扉の設置を2019年度までに完

了します。

賛助会員企業のご紹介

「第二の創業」Osaka Metro Group 全体で進化し続ける

大阪市高速電気軌道株式会社

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賛助会員企業のご紹介

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(3) 駅のグランドリニューアル

 大阪市内の南北・東西軸の強化に取り組んでいきま

す。その一環として、南北軸の要である御堂筋線の

9 駅と東西軸の要である中央線の 6 駅のグランドリ

ニューアルを進めていきます。

(4) 車内空間の快適性向上

 車内空間の快適性向上のために、全国トップクラス

の先進設備を備えた車両を、御堂筋線・中央線といっ

た基軸路線から順次投入していきます。

(5) バリアフリー対応の加速

 バリアフリー対応は、これまでも先進的に取り組ん

できた結果、鉄道事業者としては最高水準にあります

が、さらに拡充していきます。

 ハード面の取り組みとして、エレベーターによる地

上からホームまでのワンルート整備はすでに全駅で完

備していますが、新たなエレベーターの設置や、経路

改善等により2024年度までに18駅でワンルートの複

線化を完了します。

 また、ソフト面の取り組みとして、駅係員のサービ

ス介助士資格取得を推進し、2021年度までに、全駅

係員が資格を取得します。

4.バス事業

 バス事業は、地域交通を担うという社会的使命を果

たしつつ、既存のバス路線網のサービス向上に留まら

ず、成長分野であるインバウンド需要を取り込むため

の観光バス事業に再参入します。

 これまでは安定した既存路線の運行に注力してきま

したが、今後は中距離バスや深夜バスなど成長分野へ

の投資に舵を切っていきます。

5.広告事業

 これまでは媒体管理業務が中心でしたが、自らが企

画業務・営業活動から媒体管理まで一括して行う事業

へと発展させていきます。また、既存事業の強化とし

て、16駅にデジタルサイネージを導入するなど、先端

技術で地下空間の広告価値を徹底強化し、梅田駅構内

には、長さ日本一の超大型パノラマビジョンを設置し

ます。

6.リテール事業

 グループ内のノウハウやリソースを結集し、地下空

間を徹底活用して、事業拡大をめざします。

 これまで個別に事業展開してきた、駅ナカと地下街

事業の企画機能を統一し、連携強化を図るとととも

に、空きスペースでの商業施設・売店・ポップアップ

店舗などの開発や、ATM ・宅配便受取ロッカー・自

販機などの利便施設の増設を図ります。さらに、主要

駅で駅ナカと地下街を共通コンセプトの下で、魅力度

向上のための大規模リニューアルを進めます。

7.都市開発事業

 沿線の魅力度向上による地域の活性化をめざし、南

北の御堂筋線、東西の中央線の軸を中心に、夢洲・新

臨海観光エリアや森之宮エリアの開発着手の他、複数

の重点エリアの開発に挑戦していきます。

8.グループ共通ポイント

 これからの事業発展には、お客さまのニーズを迅

速・的確に掴み、事業戦略に活かしていく情報分析が

極めて重要です。それを担うのがグループ共通のポイ

ントカードです。

 新たに導入するこのカードで、グループ内の個々の

事業を結びつけ、グループ内の相乗効果を引き出しま

す。この取り組みにより、

・ポイント利用先として鉄道、バスの顧客基盤をリ

テール事業に送客

・購買、乗降情報データベースを活用した科学的、

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賛助会員企業のご紹介

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効率的なマーケティング

・協力ポイント付与によるピークタイムの混雑緩和

などを実現します。

9.地下空間の一体開発

 地下空間は、私たちの事業価値を高める最大の資産

です。チーフデザインオフィサー(CDO)を任命し、

“未来都市”を共通コンセプトとして、車両・駅・地

下街を総合的にデザインします。

10.子育て・インバウンド向けのサービス強化

 子育て世代の女性向けサービスとして、主要駅に授

乳・おむつ替え専用スペースのあるベビースペースを

設置するほか、女性が着替え・化粧直し・休憩ができ

るレディースラウンジを設置します。

 インバウンド対応では、多言語対応 WEB サイトの

開設、乗り継ぎをスムーズにする案内表・アプリ、コ

ンシェルジュスタッフを配置します。また多言語対応

ロボット/AIコンシェルジュサービスも導入します。

11.安全管理

 鉄道・バス・地下街での防犯カメラへの投資を拡大

し、将来的には ICT を活用したセキュリティシステ

ムを構築します。 2020年頃までは、移動の安全・安

心の徹底に取組み、世界に誇る安心な都市・大阪をめ

ざします。

 鉄道で培った技術を活用したグループ横断の施設管

理強化など、グループ一体でセキュリティを強化して

いきます。

12.終わりに

 この中期経営計画は、取組みを進めるための基礎と

して作成したもので、お客さまから信頼され、満足し

ていただけるよう、この中期経営計画を継続的に進化

させてまいります。

 今後とも、引き続き、一層のご愛顧とご支援を賜り

ますようお願い申し上げます。

[企業情報]社名 大阪市高速電気軌道株式会社

本社所在地 大阪市西区九条南1丁目12番62号

事業開始年月日 2018年4月1日

代表者 代表取締役社長 河井 英明

資本金 2,500億円

営業キロ 137.8キロメートル (2017年度末)

駅数 133駅   (2017年度末)

在籍車両数 1,354両  (2017年度末)

一日平均乗車人員 2,519,724人 (2017年度決算)

他 社 線たしゃせん

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定価¥5 0 0+税(送料込)(ただし、一般財団法人関西情報センター会員については、年間購読料は年間会費に含まれております。)

ごあいさつ

 一般財団法人関西情報センター 会長  森下 俊三 ……………………………  1

特集:ロボットの今とこれから

 大阪工業大学 ロボティクス&デザイン工学部長 大須賀美恵子 ………………  2

インフォテック2018の実施報告

「いのち輝く未来社会の構築に向けて  ~人とロボット・AIの共生に向けた新ビジネスの創出~」 ……………  9

賛助会員企業のご紹介

 一般社団法人iCD協会………………………………………………………………… 30

 大阪市高速電気軌道株式会社 ……………………………………………………  33

本誌は、当財団のホームページでもご覧いただけます。http://www.kiis.or.jp/content/info/magazine.html

KIIS Vol.158 ISSN 0912-87272019年 1 月発行人 田中 行男発行所 一般財団法人 関西情報センター    〒530-0001 大阪市北区梅田1丁目3番1-800号 大阪駅前第1ビル8F TEL. 06-6346-2441

目 次

Vol.158