16
特集:卒後教育 特集記事:「現代GP」大動物臨床アカデミー・・・・・・・・・・・・・・谷山 弘行 大動物臨床アカデミー2008開催報告・・・・・・・・・・・・・鈴木 一由 産業動物臨床研修セミナー「牛馬の臨床:現状と展望」開催・・片桐 成二 『道内の牛白血病ウイルス感染症流行の現状と対策』から・・・今内 最後に :現代GP「北海道臨床獣医学先進教育プログラム」 最終年度の取組み・・・・・・稲葉 現代GPの意義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・梅村 孝司 December 1, 2008 現代GP NEWS QuickTimeý Dz Ç»Çμ êLí£Év ÉçÉOÉâÉÄ Ç™Ç±ÇÃÉsÉNÉ`ÉÉǾå©ÇÈǞǽDžÇÕïKóv ÇÇ ÅB

現代GP NEWS - 北海道大学...現代GP NEWS 3 大動物臨床アカデミー2008 開催報告 酪農学園大学獣医学部獣医学科 生産動物医療部門 鈴木一由 北海道大学と酪農学園大学が9

  • Upload
    others

  • View
    9

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 現代GP NEWS - 北海道大学...現代GP NEWS 3 大動物臨床アカデミー2008 開催報告 酪農学園大学獣医学部獣医学科 生産動物医療部門 鈴木一由 北海道大学と酪農学園大学が9

特集:卒後教育

特集記事:「現代GP」大動物臨床アカデミー・・・・・・・・・・・・・・谷山 弘行大動物臨床アカデミー2008開催報告・・・・・・・・・・・・・鈴木 一由産業動物臨床研修セミナー「牛馬の臨床:現状と展望」開催・・片桐 成二『道内の牛白血病ウイルス感染症流行の現状と対策』から・・・今内 覚

最後に :現代GP「北海道臨床獣医学先進教育プログラム」最終年度の取組み・・・・・・稲葉 睦

現代GPの意義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・梅村 孝司

Dec

embe

r 1,

200

8

現代GP NEWS

QuickTimeý Dzǻǵ êLí£Év ÉçÉOÉâÉÄ

Ç™ DZÇÃÉsÉNÉ`ÉÉǾå©ÇÈǞǽDžÇÕïKóv Ç­Ç ÅB

Page 2: 現代GP NEWS - 北海道大学...現代GP NEWS 3 大動物臨床アカデミー2008 開催報告 酪農学園大学獣医学部獣医学科 生産動物医療部門 鈴木一由 北海道大学と酪農学園大学が9

Hokkaido University & Rakuno Gakuen University 2

● 特 集 記 事

「現代 GP」大動物臨床アカデミー

酪農学園大学

学長 谷山弘行

2008 年 9月 20,21 日の二日間に亘って開催い

たしました大動物臨床アカデミーは,北海道大学

大学院獣医学研究科・獣医学部と酪農学園大学獣

医学部との間で取り進めている「現代的教育ニー

ズ取り組み支援プログラム(現代 GP)」活動の一

環として計画いたしました。両大学の獣医学部が

始めた獣医学教育にかかわる新たな試みであり

ます。現在の食糧自給率の低下、食の安全・安心

が保証されない世にあって、健全な農業を支える

産業動物の獣医医療ならびに生産管理の教育・普

及について教育機関である両大学が共同で取り

組む企画であります。大動物臨床アカデミーでは,

講義と自習を融合させた新しいスタイルの教育

プログラムで、診断・治療を事例に基づき

(Evidence Based Veterinary Medicine)行う実

体験型の企画を立て、生産動物医療に従事する獣

医師の卒後教育を主眼として実施いたしました。

さらに,参加学生のアカデミーの企画運営に参加

し、講師陣と学生の共同企画のプログラムも試み

ました。

この二日間で全国各地から延べ 260 名の参加

があり、参加者の多くが卒後 5年以内の若い獣医

師でした。実習会場では講師、獣医師、学生が双

方向性の質疑応答を通して、リアルタイムに問題

を解決する為の知恵を出し合う姿が新鮮に映り

ました。参加者からは今回の企画の斬新さが評価

され、継続発展を望む声ともっと時間をかけた企

画を要望する声が寄せられています。特に臨床の

最前線で働く若い獣医師の参加が目だったこと、

そしてこの若い獣医師に混じって学生が実習に

参加し、未来の獣医師としての心構えや修得すべ

き知識、技術についてのアドバイスを受けながら

実習に励む姿が印象的でした。このように参加者

が作り上げていく大動物臨床アカデミーとした

意図が十分に理解され、卒後教育とは言え、現役

学生への指針も与えた期待以上の企画となりま

した。

また、このアカデミーの実施には多くの機関、

企業からのご理解、支援があり、生産動物医療に

携わる人々の関心の高さがうかがえました。両大

学獣医学部が、今後のわが国の酪農畜産の発展に

寄与する人材を輩出し、質の高い獣医師の教育に

貢献していかなければならないことを改めて認

識させる企画でありました。ご協力戴いた関係者

ならびに参加者に深くお礼を申し上げます。

Page 3: 現代GP NEWS - 北海道大学...現代GP NEWS 3 大動物臨床アカデミー2008 開催報告 酪農学園大学獣医学部獣医学科 生産動物医療部門 鈴木一由 北海道大学と酪農学園大学が9

現代GP NEWS

3

大動物臨床アカデミー2008 開催報告

酪農学園大学獣医学部獣医学科

生産動物医療部門

鈴木一由

北海道大学と酪農学園大学が 9 月 20,21 日に

北海道大学・酪農学園大学現代 GP の一環として

「2008 年度大動物臨床アカデミー(以下、アカ

デミー)」が酪農学園大学において開催された。

本アカデミーの副題は、「レクチャーとプラクテ

ィスの融合-新しいスタイルの生産動物医療セ

ミナー」であり、今までの講義中心の学会から「実

際に体験する」という実習を豊富に取り入れた新

しい試みである。また、本アカデミーの特徴は、

第一線で活躍している臨床獣医師だけでなく日

本全国の獣医系大学に所属する学部学生に対し

ても広く参加を呼びかけた。その結果、臨床獣医

師 138 名、学部学生 44 名の計 182 名が本アカデ

ミーの講義や実習に参加した。さらに、両大学か

ら 30 名の学生がアカデミーの企画運営に参加し、

率先して実習の準備・運営・後片付け、講義会場

の運営、配付資料の製本などの事前準備を担当し

たことも大きな特徴であった。

本アカデミーのプログラムを以下に示す。本ア

カデミーのプログラムの特徴は講義と実習の融

合させた新しい教育プログラムである。

Page 4: 現代GP NEWS - 北海道大学...現代GP NEWS 3 大動物臨床アカデミー2008 開催報告 酪農学園大学獣医学部獣医学科 生産動物医療部門 鈴木一由 北海道大学と酪農学園大学が9

Hokkaido University & Rakuno Gakuen University 4

川崎三鷹スペシャルセミナー「肺炎を科学す

る」では 2 日間にわたって臨床獣医師が臨床現場

で最も遭遇する牛複合性呼吸器疾患(BRDC)に

ついてその病態生理学的な解明、ならびに治療お

よび予防法を科学的根拠に基づいてそれぞれの

専門家により講述した。その後、獣医輸液研究会

企画「肺炎を視る」では、呼吸器疾患の内側を画

像診断と剖検所見とを合わせて細部にわたり「視

る」ことにこだわった実習を行い、前述の講義の

内容を症例の身体一般検査、超音波、X 線、気管

支鏡による画像診断を経て最終的に剖検を行う

ことで確認することで日常の診療技術のスキル

アップを目指した(写真 1)。

写真 1 獣医輸液研究会企画「肺炎を視る」

三研究会合同企画「腹腔鏡下第四胃変位整復術

を体験する」では、新しい第四胃変位整復術とし

て注目されている腹腔鏡下手術法について実際

の症例を用いて紹介した(写真 2)。腹腔鏡検査

は腹部に挿入した内視鏡を用いて腹腔および骨

盤腔臓器を観察する侵襲性の最も低いテクニッ

クであり、また腹腔鏡検査により臨床獣医師は腹

腔臓器を直視下で検査し、外科的処置を施すこと

が可能となる。専門書ではわかりにくい腹腔鏡下

での第四胃左方変位の整復および固定テクニッ

クをその目で見たことで納得した臨床獣医師は

多かったのではないだろうか。まさに「百聞は一

見にしかず」な実習であった。

写真 2 三研究会合同企画「腹腔鏡下第四胃整復

術を体験する」

大動物画像診断治療研究会企画「画像診断によ

る up-date な繁殖検診テクニック」では、普及は

しているもののうまく使いこなすことがちょっ

と難しい超音波による繁殖検診テクニックにつ

いて実際にエコーを操作しながら習得した。超音

波による繁殖検診は直腸検査よりも短時間で正

確に診断ができるだけでなく、早期妊娠診断、多

妊診断、雌雄鑑別、早期胎芽死の診断ができるこ

とから今後さらにその用途が拡大していく検査

法である(写真 3)。

蹄病予防を取り上げたゼノアックエクステン

ションセミナーは、「蹄病予防のマクロとミクロ」

の講述の後、蹄病手術と削蹄の実習を行った。講

義では「蹄病発症リスク(疫学)」と「細胞レベル」、

まさしくマクロとミクロの両切り口から蹄病発

生について講述した。その後、「蹄病手術実習」

で蹄の深部感染症の適切な診断法と手術法につ

いて実習し、さらに蹄病の治療と予防の基本技術

Page 5: 現代GP NEWS - 北海道大学...現代GP NEWS 3 大動物臨床アカデミー2008 開催報告 酪農学園大学獣医学部獣医学科 生産動物医療部門 鈴木一由 北海道大学と酪農学園大学が9

現代GP NEWS

5

である「削蹄」をそれぞれの経験にあわせて体得

した。削蹄実習では学生が多くの臨床獣医師に混

じって一心不乱に削蹄鎌を振るっていたのが印

象的であった(写真 4)。

最後に,現代 GP が学部学生のために企画した

プログラム,「牛と馬の疾病防除」について紹介

する.現代 GP 特別講義ではコーディネーターで

ある稲葉 睦先生(北海道大学)を座長に日本装

蹄師会の青木 修先生が「スポーツ用馬の生態力

学」から馬の運動器障害の防除について,また北

海道でコンサルティングをされている菊地 実

先生が「管理学」から乳牛の疾病防除について講

演をいただいた.大学では生態力学や管理学的観

点から疾病防除を教育することはほとんど皆無

であり,学生諸君にとっては新しい経験であった

と思われる。

今日、「食の安全・安心」への世間の関心の高

まりに反して生産動物医療関係へ就職する新人

獣医師が不足しており、健全な農業を支えるため

には産官学が協力して生産動物医療獣医師の就

労斡旋を行っている状況である。本アカデミーは、

「生産動物医療の学部・卒後一貫教育」という北

海道にある獣医系大学が課せられている命題に

対して一石を投じたものである。最後に、本アカ

デミーの開催にあたり関係各位、賛助企業、また

ご多忙のところご講演を快く引き受けていただ

いた講師ならびに参加いただいた諸先生方に御

礼申し上げます。

写真 3 大動物画像診断治療研究会「画像診断に

よる update な繁殖検診テクニック」

写真 4 ゼノアックエクステンションセミナー

「削蹄」

Page 6: 現代GP NEWS - 北海道大学...現代GP NEWS 3 大動物臨床アカデミー2008 開催報告 酪農学園大学獣医学部獣医学科 生産動物医療部門 鈴木一由 北海道大学と酪農学園大学が9

Hokkaido University & Rakuno Gakuen University 6

産業動物臨床研修セミナー

「牛馬の臨床:現状と展望」開催

北海道大学大学院獣医学研究科

繁殖学教室

片桐成二

去る 10月 9日(木)および 10日(金)の両日、と

かちプラザ・レインボーホール(帯広市)において、

「牛馬の臨床:現状と展望」と題した臨床研修セ

ミナーを開催いたしました。今回開催したセミナ

ーは、「悩ましい疾患とごく普通の微生物(平成

18年度)」および「馬の科学と運動生理(平成 19

年度)」に続く、第 3 回目の産業動物臨床研修セ

ミナーとなります。本活動(現代 GP「北海道臨

床獣医学先進教育プログラム」) では「社会や地

域のニーズに充分に対応できる獣医師を育成す

る先端的な臨床獣医学教育を行う」とともに「一

般市民に対する啓発や地域獣医師への生涯教育

をとおして地域に貢献する」ことを目指しており、

大学内での教育改善と並び、学外の臨床家および

市民への情報発信を重要な活動の一つと位置づ

けています。

今年度の研修セミナーの企画に当たり、好評で

あった昨年度の研修セミナーの内容をアップデ

ートし、より多くの方々に提供することを目的と

しました。昨年度のセミナーには 100 名を超える

多くの方々にご参加いただき活発な討論が行わ

れましたが、札幌での平日開催ということもあり、

都合により参加できない方も多かったと考えら

れました。そこで、今回の産業動物臨床研修セミ

ナーでは、帯広畜産大学学生の参加を考慮して開

Page 7: 現代GP NEWS - 北海道大学...現代GP NEWS 3 大動物臨床アカデミー2008 開催報告 酪農学園大学獣医学部獣医学科 生産動物医療部門 鈴木一由 北海道大学と酪農学園大学が9

現代GP NEWS

7

催地を帯広市とし、昨年度と同様日本中央競馬会

競走馬総合研究所(JRA 総研)の全面的支援のも

と、帯広畜産大学の協力を仰ぎ道内3大学合同で

の開催としました。また、JRA からの講師陣には

昨年度と同一のテーマでのセミナーをお願いし

ました。これに加え、今年度はフィールドでの牛

の感染症対策(今内 覚、北海道大学)、乳牛の蹄

病(石川高明、留萌地区 NOSAI)および重種馬の

繁殖管理(石井三都夫、帯広畜産大学)の 3分野

における第一人者にも講演をお願いし、同一分野

における軽種馬の話題と対比させることにより、

学生および臨床家の皆様が一歩引いた視点から

理解を深めていただけるようにセミナーを構成

しました。また、帯広での開催という地の利を活

かし、乳牛の繁殖生理学研究において世界をリー

ドする研究者の 1 人である宮本明夫教授(帯広畜

産大学副学長)に「乳牛の栄養と繁殖」に関する

講演をお願いしました。

研修セミナー1日目は午後 1時からの講演開始

に先立ち、主催者を代表して梅村孝司教授(北海

道大学獣医学研究科長)と長澤秀行教授(帯広畜

産大学学長)からセミナー開催の趣旨および北海

道にある 3 つの獣医系大学が合同で臨床セミナ

ー開催することの意義を交えた挨拶がありまし

た。つづいて 4名の講師による感染症対策(2題)

および蹄病関係(2 題)の講演と質疑応答を交え 5

時間半の研修を行い、最後に谷山弘行教授(酪農

学園大学学長)の挨拶をもって終了しました。研

修セミナー2日目は、朝から夕方までの長時間に

わたる研修でしたが、6名の講師による講演と質

疑応答が会場の使用時間ぎりぎりまで続きまし

た。両日とも休憩中および講演後に、ロビーで講

師を捕まえて、質問やディスカッションをする参

加者の姿がみられました。また、研修セミナー会

場および 1 日目夜に開催された懇親会会場では、

講師間の意見交換が行われ、とくに同じ分野(感

染症対策、蹄病および繁殖)の話題を提供してい

ただいた講師の間では、熱心に議論を交わす姿が

みられました。

今回のセミナーには、2日間とも 80~90 名(延

べ 177 名)の方にご参加いただきました。参加者

の内訳は、大学関係 116 名、臨床獣医師 33 名、

家畜保健衛生所を含む行政担当者 11 名および農

業関連団体職員 17 名でした。大学関係では帯広

畜産大学から獣医学科5年生を中心に学生98名、

教員 5名の参加に加え、少数ながら北海道大学お

よび酪農学園大学からも学生の参加がありまし

た。

写真 長澤帯広畜産大学学長

Page 8: 現代GP NEWS - 北海道大学...現代GP NEWS 3 大動物臨床アカデミー2008 開催報告 酪農学園大学獣医学部獣医学科 生産動物医療部門 鈴木一由 北海道大学と酪農学園大学が9

Hokkaido University & Rakuno Gakuen University 8

『道内の牛白血病ウイルス感染症流行

の現状と対策』から

北海道大学大学院獣医学研究科

動物疾病制御学講座 感染症学教室

今内 覚

至 10 月 9日、10日の 2日間にわたり産業動物

臨床研修セミナー「牛馬の臨床:現状と展望」が

帯広市とかちプラザホールで開催され、私たち北

海道大学大学院獣医学研究科と附属動物病院が

取り組んでおります産業動物の感染症診断と感

染症防疫対策の助言・教育活動について紹介させ

て頂きました。

本学獣医学研究科附属動物病院は、総合的・高

度獣医療の提供を基本理念とし、1) 科学的で信

頼される獣医療人の育成、2)北海道の地域獣医療

の拠点として貢献、3)先端獣医療の研究・開発・

実証により、動物の福祉と飼い主の安心と心のや

すらぎの提供に努めております。

今回のテーマでもあります『牛馬の臨床』につ

きましては、産業動物の未解決疾病の原因究明と

診断および治療技術の開発により、生産者の財産

を守り、安心で安全な畜産食品の提供への貢献を

目標に日々感染症診断を行っております。本研修

セミナーでは、最近、感染牛の増加が懸念されて

いる牛白血病ウイルス(BLV)感染症についてテー

マを頂き、これまで本症に対し臨床現場の先生か

ら頂いた多くの質問や症例報告の中からその一

部を Q&A 方式でお答えする形で講演させて頂き

ました。

牛白血病は原因不明の散発型と BLV による地

方病型があります。BLV はヒト免疫不全ウイルス

やヒト T 細胞白血病ウイルスと同じレトロウイ

ルスで、B細胞に感染し血液を介して感染します。

感染すると長い潜伏期間を経て白血病やリンパ

肉腫を発症し、死の転帰をとります。現在ワクチ

ンおよび治療法はありません。本症は平成 10 年

の届出伝染病指定後、感染動態の監視が強化され

たこともあり、北海道を含めて全国的に、発生数

および白血病発症に伴う廃用数が増加していま

す。これまで、私たち北海道大学獣医学研究科は

BLV の感染診断を検査業務として行ってきまし

た。検査依頼機関によると検査結果は新規導入牛

Page 9: 現代GP NEWS - 北海道大学...現代GP NEWS 3 大動物臨床アカデミー2008 開催報告 酪農学園大学獣医学部獣医学科 生産動物医療部門 鈴木一由 北海道大学と酪農学園大学が9

現代GP NEWS

9

の決定、感染牛の分牧、優先淘汰などに供されて

いるということです。現場からの声として、ある

臨床の先生によりますと、放牧前の本検査を応用

して分牧を実施した結果、下牧後の陰性牛の BLV

陽転率は非常に低く抑えることができたとの報

告を頂いております。このことは、感染牛の摘発

とそのコントロールが本症の感染拡大阻止に有

効であることを示唆しています。既に幾つかのヨ

ーロッパ諸国(デンマーク、イギリス、スウェー

デン)では、国家レベルでの対策により本症の清

浄化に成功しています。しかし日本では国家レベ

ルでの取り組みはなく、本病による淘汰補償もな

いのが現状です。現在の時点では、BLV の感染検

査を定期的に行い感染個体を認識することで、感

染経路である血液や乳汁からの伝播を防ぐ方法

のみしかありません。本学獣医学研究科と附属動

物病院としましては、今後とも牛白血病ウイルス

のコントロール、清浄化に尽力される臨床の先生

に貢献していきたいと考えております。また大動

物臨床を志す学生の方には、今回の教育セミナー

が、将来の BLV清浄化に寄与する知識として役に

立つことができれば幸いです。

Page 10: 現代GP NEWS - 北海道大学...現代GP NEWS 3 大動物臨床アカデミー2008 開催報告 酪農学園大学獣医学部獣医学科 生産動物医療部門 鈴木一由 北海道大学と酪農学園大学が9

Hokkaido University & Rakuno Gakuen University 10

● 最後に 現代 GP「北海道臨床獣医学先進教育プロ

グラム」最終年度の取組み

取組担当者

稲葉 睦

◆はじめに

「北海道臨床獣医学先進教育プログラム」は、

文部科学省の現代的教育ニーズ取組支援プログ

ラム(現代 GP=社会と学生のニーズを踏まえ大

学学部教育の質の改善、世界で活躍し得る人材の

養成を図る優れた教育改革プロジェクトを支援

する補助事業)として平成 17 年度に採択された

もので、北海道大学と酪農学園大学とが共同で臨

床獣医学教育の質の改善に取り組むプログラム

である。その具体的骨格となるのが次のふたつの

項目である。

1)大学間、ならびに大学と学外獣医師の間の

連携協力による実践的臨床教育の開発

2)学生の自学自習能力、問題提起解決能力の

涵養に資する教育の導入

本年度、このプログラムはいよいよ最終年度を

迎え、いくつかの取組は通常の授業科目のなかに、

あるいは様々な講演会やシンポジウムとして定

着しつつある。GP ニュース最終号を送り出すに

あたり、プログラム全体をとりまとめる意味を含

め、最終年度における活動概要を紹介する。実態

をより把握している北大についての記述が多く

なることはご容赦願いたい。

◆PBL・テュートリアル学習

北大における PBL (problem-based learning)・

テュートリアル学習は、平成20年度から本格的

に教務委員会主導で実施されるようになった。こ

れは、平成18年以降、テュートリアル教育に実

質的に取り組んできた、現代 GP の特質的教育ワ

ーキンググループ(WG)をはじめとする多くの若

手教員の声が反映されたものである。現在は病態

科学演習(5年生、選択)と獣医学概論(1年生、

必修)にテュートリアルが適

用されている。学習課題や資料の作成、テュータ

ーとしての授業参加など、教員の労力・負担は大

きいが、むしろ、かなり積極的に取り組まれてい

る。今後、さらに率直な評価と改善を経て、学生、

教員双方にとって優れた授業方法として適切な

学年と授業を対象に定着していくものと思われ

る。

テュートリアル学習の要のひとつはテュータ

ーの力量です。平成18年度から続けているテュ

ートリアル教育先進校東京女子医科大学におけ

る見学・研修は、北大獣医学研究科ではファカル

ティ・デベロップメントの一環として教員にとっ

て欠かせぬものとなった。現教員に限っても、80%

以上の教員がこの研修を経験し、その多くがテュ

ーターとして実際に授業を担当している。もちろ

ん、これだけで優れたテュートリアル教育が行え

るわけではない。しかし、この研修と実際の授業

体験が、個々の教員の大学教育に関する意識、受

け止め方に何らかの影響を及ぼしていることだ

けは確実であろう。

とにかく、PBL・テュートリアル学習は、ひと

つの授業形態として着実に学部教育に根付きつ

Page 11: 現代GP NEWS - 北海道大学...現代GP NEWS 3 大動物臨床アカデミー2008 開催報告 酪農学園大学獣医学部獣医学科 生産動物医療部門 鈴木一由 北海道大学と酪農学園大学が9

現代GP NEWS

11

つある。「現代 GP ニュース」Vol. 3 ではテュー

トリアル教育についての特集を組んだ。酪農大で

の現状を含め是非ご覧いただきたい。

◆ポリクリニック/フィールド学習

道内各地の NOSAIの先生方の協力で、産業動物

臨床の実践的な学習プログラムを行ってきた。本

年度、酪農大での実習は夏休みの「産業動物アカ

デミー」に集約され、いくつかの講義・セミナー

とあわせて行われた。遠軽・湧別地域での5年生

の実習は、日程の都合上、北大の学生のみの参加

となったが、今年から広域化したオホーツク

NOSAIの熱心な支援によって無事に実施でき、参

加学生にとって濃密な産業動物臨床体験となっ

た(写真1)。

写真1

遠軽でのフィールド実習:往診随行の一こま

昨年、JRAの支援で実現した「馬学研修コース

(夏休み馬の実習)」はたいへんに好評であった。

今年はまず夏休み中に、日高地方の JRA日高育成

牧場、NOSAI日高三石家畜診療所、ならびに軽種

馬協会生産技術総合研修センターで体験実習を

行った(写真2)。

写真2(上下) 馬学研修(現地実習):

JRA 日高育成牧場で

対象は、将来馬に関わる進路を考える3〜5年生

である。昨年と同様、馬と馬学に充分に接する機

会を得て、学生には大変に好評であった。一方、

昨年は実習に先んじて開催したセミナーを今年

は帯広で開催した。これらについては、本号の特

集をみていただきたい。

既に回を重ねた伴侶動物臨床セミナーのひと

つ、「内視鏡診断の基礎と実際」を本年度は夏に、

学生実習、ならびに地域獣医師向け卒後教育実習

として実施した。

Page 12: 現代GP NEWS - 北海道大学...現代GP NEWS 3 大動物臨床アカデミー2008 開催報告 酪農学園大学獣医学部獣医学科 生産動物医療部門 鈴木一由 北海道大学と酪農学園大学が9

Hokkaido University & Rakuno Gakuen University 12

◆公開セミナー

伴侶動物臨床に関するセミナーは、「内視鏡診

断の基礎と実際」「犬猫の肥満と減量作戦」「老犬

との賢い暮らし」等々多彩な内容で、年に6回ほ

ど、毎回大勢の学生と獣医師、あるいは地域市民

の方々を迎え開催してきた。1

産業動物について今回特筆すべきなのは、前述

の馬学研修コースの講演会である。今年は牛の話

題を加え、産業動物臨床研修セミナー「牛馬の臨

床:現状と展望」として帯広駅前のとかちプラザ

で、二日間にわたって(10月9−10日)開催

した。北大と酪農大からの参加者が少なかったの

はやむを得ないが、帯広畜産大学の学生や馬・牛

の臨床に関わる道内獣医師の皆さん、計 170名の

出席が得られました。帯広畜産大学、ならびに

JRA 競走馬総合研究所には、計 10 名の講師によ

る講演をいただき(写真3、14頁)、また、北大

の梅村獣医学研究科長、酪農大の谷山学長に加え、

畜産大学の長澤秀行学長にも開会に際してご挨

拶いただくなど全面的な支援をいただいた。

写真3 産業動物臨床研修セミナー

「牛馬の臨床:現状と展望」の会場風景

写真4 高校生と学部学生との集いの一こま

写真5 高校の進路探究セミナーで

8月初旬の北大オープンユニバーシティ開催

時における「高校生と獣医学部生との集い」は昨

年に続いて2回目で、成功裏に開催できた。今年

は坂本、迫田両先生がそれぞれの研究を分かりや

すく紹介した後、高校生と学部学生とが学部生の

巧みなリードでのゲームを挟みながら打ち解け

て会話を弾ませた(写真4)。毎年、ごく少数な

がら体験入学を経験した入学者がいることを考

えれば、獣医学部について理解と興味を一層深め

てもらえる良い機会になると思われる。さらに、

市内札幌旭丘高校の進路探求セミナーにも協力

し、大学院生2名が自らの獣医学部進学体験や獣

医師の社会的役割、将来への夢を、エピソードを

交えながら紹介してくれた(写真5)。

Page 13: 現代GP NEWS - 北海道大学...現代GP NEWS 3 大動物臨床アカデミー2008 開催報告 酪農学園大学獣医学部獣医学科 生産動物医療部門 鈴木一由 北海道大学と酪農学園大学が9

現代GP NEWS

13

◆教育改善の継続 −終わりに−

現代 GP「北海道臨床獣医学先進教育プログラ

ム」は一定の成熟を経、本年度で4年間、実質3

年半の取り組みを終了する。決して多くはないが、

この GPをきっかけに生まれた授業やその手法が、

北大と酪農大の獣医学学部教育に根付きつつあ

る。冒頭に示した二つの大きな目標の達成に近づ

いているといえる。また、帯広でのセミナーの開

催は、北大−畜産大間教育連携の新たなスタート

であり、道内獣医系3大学間の協力、さらに自治

体、NOSAI、JRA、開業獣医師等を含む、いわばオ

ール北海道で獣医学教育(学部教育と卒後教育)

の改善を実質的に展開する端緒となるものと思

います。

この教育プログラムが上記のように一定の成

果をあげることができたのは、多くの教員が何か

しらの形で取組に携わってきたからである。さら

に、両大の同窓を含む多くの自治体・民間獣医師

もこの取組について直接・間接に大きく関わって

いただいた。

大学間、大学−学外間の獣医学教育連携を次の段

階に進め展開するためには、それぞれがこうした

努力を続けねばならない。私たちは、「現代 GP」

という形での支援が終わった後も有効に継続で

きるよう、なるべく経費の掛からぬ内容を目指す

姿勢で取り組んできたが、さすがに相応の経費

(交通費、会場費、アルバイト経費等)や労力が

必要なことも事実である。これをいかに賄うかは、

今後の大きな課題であり、そのためには他に先駆

けたオール北海道教育連携を早期に実現させな

がら、獣医学教育充実を社会に訴え、競争的資金

等獲得を継続するなどの具体的対応が欠かせな

い。

「現代 GP」は、獣医師、獣医学研究者の根幹

を養う教育の質を高め、教員の意識改革に先鞭を

つける烽火役を果たした。これからの、現代 GP

“後”こそが正念場である。

Page 14: 現代GP NEWS - 北海道大学...現代GP NEWS 3 大動物臨床アカデミー2008 開催報告 酪農学園大学獣医学部獣医学科 生産動物医療部門 鈴木一由 北海道大学と酪農学園大学が9

写真左 上から楠瀬先生(JRA総研)近藤先生(JRA総研)

宮本先生(帯広畜産大学)石井先生(帯広畜産大学)

写真右 上から石川先生(留萌地区NOSAI)笠嶋先生(JR A総研)南保先生(JRA日高育成牧場)

産業動物臨床研修セミナー「牛馬の臨床:現状と展望」

Page 15: 現代GP NEWS - 北海道大学...現代GP NEWS 3 大動物臨床アカデミー2008 開催報告 酪農学園大学獣医学部獣医学科 生産動物医療部門 鈴木一由 北海道大学と酪農学園大学が9

現代GP NEWS

15

● 最後に 現代GPの意義

北海道大学大学院獣医学研究科長

梅村 孝司

平成17年度から開始された本プログラム(現

代的教育ニーズ取り組み支援プログラム:現代G

P)では酪農大学と共同で、(1)臨床教育の充

実、(2)学部チュートリアル教育の導入、を目

指しました。両大学で本プロジェクトを担当され

た教職員の方々の献身的な努力と東京女子医大、

北海道農業共済組合連合会、北海道獣医師会、日

本中央競馬会、日本軽種馬協会、帯広畜産大学の

ご支援とご協力により、当初想定以上の成果を挙

げることができました。その具体内容は本冊子本

文に詳記されておりますので、ここでは省略しま

すが、いずれの取り組みも我が国の獣医学が目指

すべき学部教育のあり方を先駆的に取り入れ、継

続可能な形で両大学に定着させることができま

した。

欧米先進国のみならず、アジアの一流獣医系大

学と比較しても我が国の獣医学教育は多くの面

で立ち後れており、とりわけ獣医学教育法の改善、

専門分化の推進、臨床および公衆衛生教育の充実

は喫緊の課題ですが、諸般の事情により目立った

改善が行われないまま、今日に至っております。

北海道は我が国屈指の畜産業を抱えるとともに、

知床を初めとする豊かな自然に恵まれており、欧

米の畜産・獣医学先進国に極めて近い環境にあり

ます。加えて、北海道大学、酪農大学、帯広畜産

大学の3つの伝統のある獣医系大学が比較的近

い距離に位置していることから、3大学の協力と

連携により、世界トップレベルの獣医学教育と研

究を実現できる環境にあります。今回の現代GP

の成功をきっかけに、ここで達成された先進的な

獣医学教育を各大学で定着・強化・発展させると

ともに、3大学の連携をさらに強化し、我が国の

獣医学教育と研究を北海道の3大学が先導する

ことを強く願っております。さらに、我が北海道

を「日本の食糧基地」として、あるいは「人と動

物の共存先進地域」として世界にアッピールでき

る日を目指して、今後とも努力して参りたいと思

います。

最後に、今回のプログラムを実行して頂いた両

大学の教職員、ご協力を賜った諸先生、参加して

頂いた学生諸君、そして4年間にわたるプロジェ

クト経費をご支援頂いた文部科学省の関係各位

に深く感謝申し上げます。

Page 16: 現代GP NEWS - 北海道大学...現代GP NEWS 3 大動物臨床アカデミー2008 開催報告 酪農学園大学獣医学部獣医学科 生産動物医療部門 鈴木一由 北海道大学と酪農学園大学が9

現代GP NEWS(北大・酪農大現代GP広報誌)編集・発行 現代GP「北海道臨床獣医学先進教育プログラム」推進委員会

取組担当者 稲葉 睦(北海道大学)広報誌編集担当 木村 和弘(北海道大学)

遠藤 大二(酪農学園大学)推進室:札幌市北区北18条西9丁目

北海道大学・大学院獣医学研究科内Phone & Fax: 011-706-5580URL: http://www.vetmed.hokudai.ac.jp/E-mail: [email protected]