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Instructions for use Title エゾワサビ (Cardamine fauriei Maxim.) の栽培化の基礎となる辛味および抗酸化成分の同定ならびに含量に及 ぼすLED 光波長の効果 Author(s) 阿部, 圭馬 Citation 北海道大学. 博士(農学) 甲第11995号 Issue Date 2015-09-25 DOI 10.14943/doctoral.k11995 Doc URL http://hdl.handle.net/2115/62856 Type theses (doctoral) File Information Keima_Abe.pdf Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP

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Title エゾワサビ (Cardamine fauriei Maxim.) の栽培化の基礎となる辛味および抗酸化成分の同定ならびに含量に及ぼすLED 光波長の効果

Author(s) 阿部, 圭馬

Citation 北海道大学. 博士(農学) 甲第11995号

Issue Date 2015-09-25

DOI 10.14943/doctoral.k11995

Doc URL http://hdl.handle.net/2115/62856

Type theses (doctoral)

File Information Keima_Abe.pdf

Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP

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エゾワサビ (Cardamine fauriei Maxim.) の栽培化の基礎となる辛味および

抗酸化成分の同定ならびに含量に及ぼす LED 光波長の効果

北海道大学 大学院農学院

生物資源科学専攻 博士後期課程

阿部 圭馬

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目次

緒言および研究史 1

第 1 章 エゾワサビに含まれる辛味成分 (GSL)の解明および抗菌活性 5

第 1 節 GSL 組成の解明 6

第 2 節 抗菌活性調査 11

第 1 項 大腸菌 (Escherichia coli) および

Plectosporium tabacinum の増殖抑制作用 11

第 2 項 GSL の加水分解の確認 19

第 3 節 第 1 章の考察 21

第 2 章 エゾワサビに含まれる抗酸化成分の解明 22

第 1 節 エゾワサビと主要アブラナ科野菜の抗酸化能の比較 23

第 2 節 抗酸化活性が高い抽出画分の探索 27

第 3 節 構造の推定 36

第 4 節 DFSM の有機合成および天然物との比較 40

第 5 節 DFSM の抗酸化活性 49

第 6 節 その他の抗酸化成分 53

第 7 節 第 2 章の考察 59

第 3 章 機能性成分含量の部位間差および系統間差ならびに作物間の比較 60

第 1 節 機能性成分含量の部位間差 61

第 1 項 GSL 61

第 2 項 DFSM 63

1 DFSM の定量方法の確立 63

2 定量法の確立 (検量線の作成) 68

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3 DFSM 含量の部位間差 71

第 3 項 フラボノイド化合物 73

第 2 節 機能性成分含量の系統間差 75

第 3 節 機能性成分含量の作物間差 80

第 4 節 第 3 章の考察 83

第 4 章 エゾワサビ植物体の生育に及ぼす LED 光波長の影響 85

第 1 節 培養苗の生育に及ぼす LED 光波長の影響 86

第 2 節 馴化苗の生育に及ぼす LED 光波長の影響 93

第 3 節 第 4 章の考察 98

第 5 章 エゾワサビの機能性成分含量および硝酸態窒素含量に及ぼす

LED 光波長の影響 99

第 1 節 GSL 含量に及ぼす LED 光波長の影響 100

第 2 節 抗酸化成分含量に及ぼす LED 光波長の影響 103

第 3 節 硝酸態窒素含量に及ぼす LED 光波長の影響 109

第 4 節 第 5 章の考察 111

第 6 章 エゾワサビ植物体の抗酸化能に及ぼす LED 光波長の影響 113

第 1 節 エゾワサビ抽出物の各種ラジカル消去活性に及ぼす 114

LED 光波長の影響ならびに各種機能性成分含量と抗酸化能との関連

第 2 節 第 6 章の考察 122

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第 7 章 総合考察 124

摘要 129

謝辞 132

参考文献 133

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緒言および研究史

エゾワサビ (Cardamine fauriei Maxim.) は北海道,本州北部の山間部に自生するアブラナ科

タネツケバナ属の多年草である.渓流沿いに生育し,開花期は 5~7月で,白花を着生する (鮫

島ら, 1993).エゾワサビ植物体は,葉身,葉柄,短縮茎および根から構成され (第 1図),葉

身および葉柄部が食用として利用される.北海道大学大学院農学研究院園芸学研究室では,

エゾワサビを栽培化し,新たな野菜として利用するための研究を行っており,これまでにエ

ゾワサビ葉身部から組織培養系を確立し,それらの培養物を苗として水耕栽培による周年生

産が可能であることを実証した (Maeda et al., 2008).今後,この栽培体系を活用してエゾワサ

ビの利用拡大を図るには,野菜としての特長を明らかにしていく必要がある.しかし,エゾ

ワサビは山菜であり,これまでに植物体の内生成分に関する研究はほとんど行われていない.

北海道に自生する北方系山菜の中には,ギョウジャニンニクやハマボウフウなど,機能性成

分を豊富に含有する植物種が少なくない (西村,2011).エゾワサビが属するアブラナ科の野

菜の特長としては,食物繊維,ビタミンおよびミネラルが豊富であるほか,辛味成分として

イソチオシアネート (ITC) 化合物を含有する点が挙げられる (Bjorkman et al., 2011).ITCは,

120 種類以上が知られおり,その多くが抗菌または,健康増進に有効な機能性成分である

(Traka et al., 2009).たとえば,ワサビやホースラディッシュの辛味成分として知られるアリ

ル-ITCは,強い抗菌活性を有し (Sultana et al., 2008),ブロッコリースプラウトに含まれるス

ルフォラファンは,ガンの予防効果を有する (Traka et al., 2009).エゾワサビの茎葉は,クレ

ソンと似たわずかな辛味と特徴的な風味を有するが,これも ITC化合物によってもたらされ

るものと推測される.

このほか,アブラナ科植物はカロテノイド,トコフェロール,フラボノイドおよびフェノ

ール酸などの抗酸化成分を豊富に含有することが報告されている (Bjorkman et al., 2011).抗

酸化成分は,活性酸素が原因の生体内酸化ストレスを抑制し,ガン,心筋梗塞および脳血管

疾患などのいわゆる 3大成人病予防に効果を発揮する (Gulcin et al., 2012).エゾワサビ植物体

に含まれる辛味および抗酸化成分は未解明であることから,本研究では最初にこれらの解明

を目指した.我が国では,近年特に生活習慣病予防の観点から,新たな食品素材の可能性を

秘めた農産物について,健康機能性を検証する研究が活発に行われている (農林水産省,

2013).また,北海道においても平成 25 年から北海道食品機能性表示制度 (通称:ヘルシー

Do) が開始され,一定の条件をクリアーすれば,その食品の機能性を表示できるようになっ

1

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第1図 エゾワサビ植物体.

葉身葉身葉身葉身

葉柄葉柄葉柄葉柄

根根根根

短縮茎短縮茎短縮茎短縮茎

2

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た (北海道庁, 2013).この制度は,道産食品のブランド化にも貢献するものとして期待され

ている.エゾワサビは北海道オリジナル山菜であり,その健康機能性を解明することにより,

北海道発の新規機能性野菜として全国に発信することが期待できる.

ところで,植物体に含まれる機能性成分の多くは 2 次代謝産物であり,それらの含量は,

栽培中の外的環境要因の影響を受けやすい.外的環境要因として温度,肥料,光,水,大気

組成などが挙げられ,このうち光としては,強度,日長および波長が知られている.近年,

光の波長が植物体の生育および内生成分含量に影響を及ぼすことが多数報告されているが,

その光源として,特に発光ダイオード (light emitting diode: LED) が注目されている.LEDは,

波長幅が狭く,植物体や機能性成分増大に有効な光波長を調べる上で好都合であるほか,消

費電力量が小さいため,省エネルギーの観点からもその活用に期待が集まっている.Li et al.

(2009) は,蛍光灯と青 LED を組み合わせてレッドリーフレタスに照射したところ,草丈は

低下した反面,抗酸化成分のアントシアニンおよびカロテノイドが増加したことを報告した.

Johkan et al. (2010) は光合成有効光量子束 (PPF) が同じで,波長が異なる光照射条件化でレ

タスを 1 週間栽培した場合,青 LED 光照射区では,赤 LED 光照射区および蛍光灯照射区と

比べ,総ポリフェノール,クロロゲン酸および総アントシアニン含量ならびに抗酸化活性が

増加したことを報告した.また,Wu et al. (2007) はエンドウの実生に赤 LED を単独照射した

場合,青,白 LED 単独照射条件化および暗黒下に置いた場合と比べて抗酸化活性 (TEAC 値)

が増加することを報告した.さらに,Stutte1 et al. (2009) はレタスに赤,青,緑および遠赤色

LED を単独または組み合わせて照射した場合,青 LED 区は他区と比べアントシアニン含量

および抗酸化活性 (ORAC 値) が高いことを報告した.そこで本研究では,エゾワサビ植物

体の辛味成分および抗酸化成分を増大させるのに有効な光波長を解明し,機能性成分含量を

コントロールする技術の開発に応用しようと考えた.

本論文は,緒言から始まり 7 つの章,総合考察,摘要,謝辞および参考文献で構成されて

いる.すなわち,第 1 章では,辛味成分である ITC 化合物の組成を明らかにするため,その

前駆物質であるの GSL の同定を試みた.第 2 章では,植物体抽出物を分画・精製し,抗酸化

成分の主体を明らかにするとともに,抗酸化能の特徴を調査した.第 3 章では,エゾワサビ

機能性成分の植物体内における分布,系統間差および他アブラナ科作物との比較を試み,エ

ゾワサビの新規野菜としての利用に向けた基礎的知見を得ようとした.第 4 章では,植物体

に異なる波長の LED を照射した場合の,植物体の成長に及ぼす光波長の影響を調査した.さ

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らに,第 5 および 6 章では LED 光波長が機能性成分含量および抗酸化能に及ぼす影響につい

て調査し,機能性を高めるために有効な光環境条件の解明を目指した.最後に第 7 章では,

第 1~6 章で得られた結果について総合的な考察を加えた.

4

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第 1 章 エゾワサビに含まれる辛味成分 (GSL) の解明および抗菌活性

アブラナ科植物の多くは,二次代謝産物としてグルコシノレート (GSL) を産生する.GSL

は,細胞が破壊された際に,内在性酵素の thioglucoside glucohydrolase (ミロシナーゼ;EC

3.2.1.147) によって加水分解され (Fahey et al., 2001),ITC が産生する.この場合,pH,Fe2+,

epithiospecifier protein などの影響により,oxazolidine-2-thione,nitrile,epithionitrile および

thiocyanate などが生成する場合もある (Halkier et al., 2006).ITC 類の一種であるスルフォラフ

ァンは,ブロッコリースプラウトに多く含まれ,ガンの予防に有効であることが報告されて

いる (Traka et al., 2009).GSL は,これまでに約 130 種類以上が同定されており,それらは脂

肪族,芳香族およびインドールの 3 種に類別されている (Agerbirk et al., 2012; Halkier et al.,

2006).特に知名度が高い GSL は,ワサビやホースラディッシュに多く含まれる脂肪族 GSL

のシニグリンで,加水分解により生じるアリル-ITC が,鋭い辛味の原因物質であり,強い抗

菌活性を発揮することは有名である (Sultana et al., 2008).Isshiki et al. (1992) はマスタード

(Brassica juncea) から精製したアリル-ITC をしみこませたろ紙をシャーレの蓋に置床し,菌

が付着した寒天培地の塗布面が下向きとなるように上から被せて封じ,一定期間培養後,抗

菌活性を測定する方法により,枯草菌 (Bacillus. subtilis),大腸菌 (Escherichia. coli),出芽酵

母 (Saccharomyces. cerevisiae) およびアオカビ (Penicillium. chrysogenum) などの増殖がアリ

ル ITC により抑制されることを報告した.このような効用から,アリル-ITC は広く食品添加

物として利用されている.他の ITC 類およびその前駆物質である GSL 類は,その種類ごとに

様々な機能性を有していることから,エゾワサビの野菜としての活用の幅を広げるには GSL

組成,その機能性を明らかにすることが重要である.そこで,本章ではエゾワサビの GSL 組

成の解明を目指すとともに,その抗菌活性についても調査した.

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第 1 節 GSL 組成の解明

材料および方法

(1) 植物材料

北海道美唄市にある北海道林業試験場内の山林で採取し,北大農学研究院の温室内で維持

しているエゾワサビ (Cardamine fauriei Maxim.) 植物体から2008年6月に葉身部を切り出し,

凍結乾燥・粉末化したものを材料とした.分析までの間,材料は-30℃,乾燥条件下に保存し

た.

(2) 抽出および脱硫化

抽出は,Minchinton et al. (1982) およびKim et al. (2007) の方法を参考に行った.すなわち,

材料 50mg に 70% (v/v) メタノール (MeOH,関東化学) 1.5mL を加え,震盪しながら 4℃で 1

昼夜放置後,70℃のウォーターバス中で 10 分間加熱した.次に,遠心分離 (13.000×g,10 分)

後の上清を回収し,再度 1.5mL の 70% (v/v) MeOH を加えて遠心分離後の上清を回収する方

法で抽出を 2 回繰り返し,得られた上清約 4.5mL を GSL 粗抽出液とした.

DEAE sephadex A-25 (GE Healthcare) 40mg を 1000µL 容ピペットチップに封入し,蒸留水で

膨張させた後,一旦室温で放置し,イオン交換カラムを作成した.次に,水を取り除き,カ

ラムに GSL 粗抽出液を添加した後,蒸留水 1mL でカラムを 2 回洗い,アリルスルファター

ゼ水溶液 (17.3mg/mL:Sigma-Aldrich) 75µL を添加し,室温で 1 日脱硫化を促した.GSL の

脱硫化産物であるデスルホGSL (DS-GSL) は,蒸留水 (0.5mL) で4回溶出する方法で回収し,

HPLC 分析の試料とした.

(3) HPLC-PDA

分析は,Kim et al. (2007) の方法に従い行った.移動相に (A 液) 20%アセトニトリル (関東

化学) および (B 液) 蒸留水を用いたリニアグラジエント分析とし,A 液の比率を分析開始時

(0分) の 1%から18分後の 99%まで連続的に上昇させた後,18分後から 30分後までの間 99%

で維持した.その他の分析条件は,以下の通りである:ポンプ,D5020 (Hitachi, Tokyo, Japan) ;

カラム,Atlantis dC18 (4.6×250mm, Waters, Milford, MA, USA) ;カラム温度,40˚C; UV 検

出器,227nm (model 486,Waters, MA, USA) ;クロマトインテグレーター,D-2500 (Hitachi,

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Tokyo, Japan) ;流速,1.0mL min-1;試料注入量,10µL.

(3) ESIMS

ESIMS の条件は,以下のとおりである:JMS-SX102A (JEOL, Tokyo, Japan) ;needle voltage,

2 kV;ring lens voltage,60 V; anion guide voltage,3 V;secondary electron multiplier voltage,1

kV;resolution,R = 2000;detection range,110-600 m/z.

結果および考察

HPLC 分析の結果,エゾワサビ葉身部から 12.88,16.58 および 19.43 分の保持時間の位置

に DS-GSL のピークが検出された (第 2 図).3 つのピークの ESIMS スペクトルからそれぞれ

m/z 315.9,422 および 391.1 のナトリウムイオンを結合したと思われる大きな分子イオンピー

クが検出された (第 3 図).さらに 1H-NMR および二次元NMR の H-H COSY 分析の結果 (図

未掲載),ピークの 1-3 はそれぞれ DS-gluconapin,DS-glucoibarin および DS-glucobrassicin に

由来するものと同定された.従って,エゾワサビには 2 種類の脂肪族 GSL (gluconapin および

glucoibarin) および 1 種類のインドール GSL (glucobrassicin) が含まれることが明らかとなっ

た (第 4 図).GSL は側鎖によって吸収極大が異なるが,Iinternational Organization for

Sstandardization (ISO., 1992) は 227nm の吸光度で測定した際のピーク面積に基づくレスポン

スファクターを提示し,これを用いて各種 DS-GSL 含量を DS-sinigrin 当量として表記する方

法を推奨している.これに基づき計算した結果,エゾワサビの GSL はいずれも,ピーク面積

に基づく補正後も値が高かったことから,主要なGSLは3種類であると考えられる.同時に,

ワサビの辛味成分の前駆物質として知られるシニグリンは,エゾワサビ植物体にないことも

確認された.

7

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10.0 20.0 30.00 5.0 15.0 25.0

Retention time (min)

12.88 (Pea

k 1, DS-gluco

napin)

16.58 (Pea

k 2, DS-gluco

ibarin)

19.43 (Pea

k 3, DS-gluco

bra

ssicin)

第2図 エゾワサビ葉組織から抽出したDS-GSLのHPLCにおけるクロマトグラム.

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315.9

294

(M+H)+Peak 1

(M+Na)+

Mass (m/z)

Intensity (%)

422 438

400

(M+K)+

(M+H)+

(M+Na)+

Peak 2

Mass (m/z)

Intensity (%)

391.1

369

407

(M+H)+

(M+K)+

(M+Na)+

Peak 3

Mass (m/z)

Intensity (%)

第3図エゾワサビ葉組織から抽出したDS-GSLのESIマススペクトラム.

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A

B

C

第4図 エゾワサビ葉組織から検出された主要なGSLの化学構造.A,gluconapin;B,glucoibarin;C,glucobrassicin.

10

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第 2節 抗菌活性調査

木戸 (2009) は,エゾワサビ葉身部の酢酸エチル-水粗抽出物がアスパラガスの立ち枯れ病

などの原因糸状菌 (Fusarium oxysporum) の増殖を抑制することを確認するとともに,エゾワ

サビ葉身部の凍結乾燥粉末に水を添加後,揮発した成分が食パンおよび米飯の腐敗を抑制す

ることを確認した.そこで,他の細菌や糸状菌に対する抗菌性の有無を確認するため,食中

毒の原因となる株菌の存在が知られている大腸菌 (Escherichia coli) およびカボチャの白斑

病の原因糸状菌として報告 (Sato et al.,2005) がある Plectosporium tabacinumに対する抗菌活

性の調査を試みた.

第 1項 大腸菌 (Escherichia coli) および Plectosporium tabacinum の増殖抑制作用

材料および方法

(1) 材料

植物材料は,第 1章,第 1節と同一のものを用いた.抗菌活性評価にはグラム陰性細菌の

大腸菌 (E. coli No.3301株,独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター

より分譲) および植物病原糸状菌の P. tabacinum (北海道農業研究センターより分譲) を用い

た.

(2) E. coliに対する抗菌活性測定

E. coliを LB液体培地で培養 (25℃,22時間) した懸濁液 (107CFU/mL) を滅菌水で各密度

に希釈したものを E. coli懸濁液とし,菌密度の計測はコロニーカウント法で行った.シャー

レの蓋にエゾワサビ凍結乾燥粉末を 50,100または 500mg置床し滅菌水 2,4または 6mLを

添加後,直ちに E. coli懸濁液 (105 CFU/mL) 100µLを塗布した LB寒天培地の塗布面が下向き

となるようにして封じ,パラフィルムで密閉後,25℃で 22 時間培養した (第 5 図).また,

粉末施用量を500mgの条件でE. coli の密度として103,104及び105CFU/mLの3区を設けた.

抗菌活性評価の対照として滅菌水のみを用いた区を設けた.さらに,市販キャベツの葉身部

を用いて同様に試料を作成し,抗菌活性及びGSL含量をエゾワサビのそれと比較した.各試

料の抗菌活性は,培地面に対する E. coliのコロニーの占有率を二階調化処理したシャーレの

画像の白色面積値から求め,その平均値(n=2)で評価した.

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エゾワサビ葉凍結乾燥粉末

(1)

(2)

(3)

第5図 抗菌活性測定方法.(1) 培地に供試菌塗布;(2) 材料に滅菌水添加;(3) 密閉後培養.

滅菌水

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(3) P. tabacinum に対する抗菌活性測定方法

PDA 培地で培養 (25℃,5 日間) した P. tabacinum の胞子を白金耳で掻き取り,リン酸緩衝

液 (pH7.0) に懸濁したものを P. tabacinum 胞子懸濁液 (胞子密度は不明) とした.シャーレ

の蓋にエゾワサビ凍結乾燥粉末を 500mg 置床し滅菌水 6mL を添加後,直ちに P. tabacinum 胞

子懸濁液 100µL を塗布した PDA 寒天培地の塗布面が下向きとなるようにして封じ,パラフ

ィルムで密閉後,25℃で 48 時間培養した.また,抗菌活性評価の対照として滅菌水のみを用

いた区を設けた.培地内の菌の発生を目視で確認し,抗菌活性を評価した.

結果および考察

E. coli を 104CFU/mL の密度で培地に塗布した場合,エゾワサビ試料 500mg 施用区の E. coli

の占有率(49.0%)は,対照区のそれ(68.75%)と比べ低い値を示し,E. coli の発育抑制が確

認された.一方,キャベツ試料 500mg 施用区で,抑制効果は確認できなかった (第 6 および

7 図).次に,エゾワサビ試料の施用量を 500mg に固定し,培地に塗布する E. coli の密度を 3

段階(103,104及び 105CFU/mL)に変化させたところ,E. coli の密度が低い 103CFU/mL 塗布

区で E. coli の発育が完全に抑えられたことを確認した (第 8 および 9 図).この場合,対照区

における E. coli の占有率は 42.25%であった.次に,P. tabacinum を培地に塗布した場合,エ

ゾワサビ試料 500mg 施用区のシャーレには菌の発育が見られなかった (第 10 図).従って,

エゾワサビ葉身部の凍結乾燥粉末に水を添加後,発生した蒸気には低密度の E. coli および P.

tabacinum に対する抗菌活性があると考えられる.

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対照区 50 mg

100 mg 500 mg

第6図 E. coliの増殖に及ぼすエゾワサビ粉末使用量の影響.

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E.coli占有率

(%)

粉末使用量 (mg)

50 100 500対照区

(滅菌水)

エゾワサビ キャベツ対照区

第7図 E. coli増殖に及ぼすエゾワサビおよびキャベツ粉末使用量の影響.平均値 (n=2).

15

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103 105

第8図 エゾワサビ粉末が示す抗菌活性のE. coli密度に基づく差異.

E. coli密度 (CFU/mL)

対照区

エゾワサビ粉末処理区

16

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エゾワサビ対照区

103 104 105

E.coli占有率

(%)

E. coli密度 (CFU/ml)

第9図 エゾワサビ粉末が発揮する抗菌活性とE. coliの密度との関連.平均値 (n=2).

17

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対照区 エゾワサビ粉末処理区(500 mg)

第10図 P. tabacinumの増殖に及ぼすエゾワサビ粉末処理の影響.

18

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第 2 項 GSL の加水分解の確認

エゾワサビ粉末の抗菌作用がGSLの加水分解で生じたITCの作用によることを確認するた

め,粉末に水を添加したあとの,GSL 含量の変化を調査した.

材料および方法

(1) 植物材料

第 1 章,第 1 節と同一の材料を実験に用いた.

(2) 抽出物の加水分解処理および脱硫化

エゾワサビ凍結乾燥粉末 50mg に蒸留水 450µL を加え,ミロシナーゼによる GSL の加水

分解を促した.蒸留水の添加から 5,10,40 および 60 秒後に試料に MeOH 1050µL を添加・

混合し,70℃のウォーターバス中で 10 分間加熱処理した.また,材料に 70%MeOH を加え

た後,熱処理した区を設け,対照とした.脱硫化の方法は,第 1 章,第 1 節と同様である.

(3) HPLC-PDA

第 1 章,第 1 節と同様に行った.GSL 含有率は対照区のピーク面積に対する各処理のピー

ク面積の割合とし,百分率で表した.分析は,1 つの試料につき 3 回ずつ行い,結果を平均

値±SE (n=3) で表した.

結果および考察

エゾワサビ葉身部の凍結乾燥粉末に蒸留水を添加した場合,時間の経過とともに抽出物中

の GSL 含有率は減少し,60 秒後にはほぼすべて消失した (第 11 図).このことは,蒸留水の

添加により活性化されたミロシナーゼが GSL を加水分解し産生した,ITC が揮発したことを

示している.従って,エゾワサビ粉末に由来する E. coli および P. tabacinum の増殖抑制効果

は,揮発した ITC が原因と推測される.

19

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総D

S-G

SL含有率

(%)

第11図 エゾワサビ凍結乾燥粉末試料に蒸留水を加えた場合のGSL含有率の経時的変化.平均値±SE (n=3).

蒸留水添加後の経過時間 (s)

5 10 40 600

20

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第 3 節 第 1 章の考察

エゾワサビ葉身部から得た抽出物を脱硫化したところ DS-gluconapin,DS-glucoibarin およ

び DS-gluobrassicin が同定されたことから,この組織には gluconapin,glucoibain および

glucobrassicinの3種類のGSLが含まれていたものと考えられる.近年Washida et al. (2010) は,

gluconapin をマウスに経口投与すると,心血管疾患 (cardiovascular disease) の原因となる

plasma triglyceride の含有量が低下することを報告した.さらに,gluconapin の主要な分解物は

揮発性を有するため (Mithen et al., 1986),香りに関与することも考えられる.一方,インド

ール GSL の gluobrassicin の加水分解物は非揮発性であるため (Mithen et al., 1986). 香りに関

与しないが,その主要な加水分解産物である indole-3-carbinol は,生体内の解毒酵素の活性を

高めて,発癌を予防することが報告されている (Higdonm et al., 2007).従って,エゾワサビ

は,風味の醸成および健康機能性に効果を発揮する可能性のある GSL を含有することが明ら

かになった.

次に,エゾワサビ葉身部の凍結乾燥粉末に水を添加後,揮発した成分 (ITC) が E. coli の増

殖を抑制することを確認した.ITC の中でも特に強い抗菌作用を示すアリル-ITC は,生牛肉,

塩漬け豚肉,マグロの刺身,チーズ,卵サンド,うどん,パスタ,トウモロコシ,玄米およ

びフレッシュカットオニオンの保存に活用されている (Isshiki et al., 1992;Piercey et al., 2011).

しかし,アリル-ITC は辛味が強く食品の風味を損なう恐れがある.これに対し,エゾワサビ

の ITC は辛味が極めて弱いことから食品の味覚を損なう恐れは少ないので,優れた食品添加

物となり得る.また,本研究で,エゾワサビ揮発性成分の大腸菌増殖抑制効果は低かった.

その理由として,大腸菌などのグラム陰性菌は,細胞の構造に外膜を有することから,外与

の抗菌性物質に対し耐性が高いことが挙げられる (Lacombe et al., 2010).また,本研究で土壌

病害菌として報告のある P. tabacinum に対する増殖抑制効果も確認されたため,エゾワサビ

の揮発性成分は土壌菌に対しても抗菌作用を発揮することが考えられる.また,アリル-ITC

を,環状構造の糖であるシクロデキストリンに抱合させることで,揮発速度を抑え,抗菌作

用を持続させる方法が開発されていることから (Piercey et al., 2011),エゾワサビ由来 ITC に

ついてもこの方法を用いて,抗菌活性を持続できるものと考えられる.

21

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第 2 章 エゾワサビに含まれる抗酸化成分の解明

生活習慣病の発症にはさまざまな要因があるが,生体内における過剰な酸化ストレスはそ

の一つと考えられている.好気性生物が呼吸により大気中の酸素を還元しATP を獲得する場

合や,植物が NADPH/NADP 比が高い条件下で光合成を行う場合などに,O2·- (スーパーオキ

シドアニオンラジカル),ROO·(ペルオキシラジカル),H2O2 (過酸化水素),HO· (ヒドロキシ

ラジカル) などの活性酸素種を生ずることが報告されている (Gulcin., 2012;Scandalios., 1993).

O2·-は好気性生物の細胞のいたるところに存在し反応性は強くはないが,フェントン反応を

介して HO·が発生する (Gulcin et al., 2012).HO·は,活性酸素の中で最も反応性が強く

(Diplock et al., 1998),発生後は近くの分子と容易に反応する性質があり,脂質過酸化の連鎖反

応の開始に関わっている (Gulcin et al., 2012).このため,生体内酸化を引き起こしやすく,最

も毒性が強い活性酸素種と考えられている.ROO·は脂質の過酸化の過程で発生し,比較的安

定して存在する (Gulcin et al., 2012).これらの活性酸素種は,核酸,タンパク質および脂質な

どを酸化変性させ,加齢,ガン,糖尿病,心臓病,動脈硬化症などさまざまな疾患の引き金

になる (Gulcin et al., 2012).そこで,これを防御するため生体内には様々な抗酸化成分が存在

し,活性酸素種を取り除くことで酸化ストレスを回避するように機能している.抗酸化成分

の代表格としてはアスコルビン酸,ポリフェノールなどが挙げられ,特に野菜や果物に豊富

に含まれていることから,これらの青果物に注目が集まっている (Tabart et al., 2009).その根

拠として,野菜や果物の摂取量と成人病発症率には負の相関が認められるほか,青果物の抗

酸化能の有用性を示す多くの疫学的知見もある (Gulcin et al., 2012).従って,抗酸化能は,青

果物の食物としての価値を示す一つの基準と言える.

エゾワサビが属するアブラナ科作物に関して,Lin et al. (2009) および Young et al. (2005) は

ブロッコリー,ケールおよびチンゲンサイの化学成分を分析し,フラボノイド化合物 (アピ

ゲニン,ケンフェロール,ルテオニン,ケルセチン),ならびにコーヒー酸および没食子酸な

どのポリフェノール化合物が豊富に検出され抗酸化成分として機能することを報告した.そ

こで,本章ではエゾワサビの抗酸化能の強弱を他のアブラナ科作物と比較するとともに,抗

酸化を担う成分の主体を解明しようと考えた.

22

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第 1節 エゾワサビと主要アブラナ科野菜の抗酸化能の比較

材料および方法

(1) 材料

第 1章で栽培したエゾワサビ葉身部および札幌市内のスーパーで購入したアブラナ科野菜

(クレソン,ミズナ,ブロッコリーおよびキャベツ) の可食部を凍結・乾燥,粉末化して材料

とした.

(2) 抽出および分析方法

DPPH法 (DPPHラジカル消去活性測定)

抽出は,材料 1g に 80%エタノール (EtOH) 100mL を加え,3 時間震盪抽出し,遠心分離

(13.000×g,10分) 後の上清を分析試料とした.分析は Suda et al. (2000) の方法に従い,96穴

のマイクロプレートの各ウェルに抽出試料を 50µL ずつ分注後,400µM DPPH 溶液

(Sigma-Aldrich),200mM MES buffer (pH6.0:和光),20%エタノール (EtOH) を等量混和した

液を 150µLずつ分注し,室温,暗黒条件下に 20分間静置後,マイクロプレートリーダー (パ

ワースキャンHT,DSファーマバイオメディカル,大阪) を用い,吸光度 (A520) を測定した.

また,予め用意した Trolox の標準溶液 (0,2,4,8 および 16µmol/mL)を同時に分析し,検

量線を作成した.これに基づき試料の抗酸化能 (DPPH ラジカル消去活性値) を Trolox 当量

として算出した.分析は,1つの試料につき 3回ずつ行い,結果を平均値±SE (n=3) で表した.

また,Tukeyの方法により,5%水準で平均値間の有意性を検定した.

ORAC法 (ROOラジカル消去活性測定)

抽出は,材料 1gにMWA溶液 (MeOH:水:酢酸=90:9.5:0.5 (v/v/v) ) 100mLを加え,3時間震

盪抽出する方法により行い,遠心分離 (13.000×g,10 分) 後の上清を分析試料とした.分析

は,Watanabe et al. (2012) の方法に従い行った.96穴マイクロプレートの各ウェルに試料,

ま た は ブ ラ ン ク (MWA 溶 液 , 35µL) を 分 注 後 , フ ル オ レ セ イ ン 溶 液

(110.7mmol/L:Sigma-Aldrich) 115µL および 2,2’-azobis (2-amidinopropane (AAPH, 31.7 mmol/L,

和光) 50µLを順次分注し,フィルム (NJ500:タカラバイオ) でプレート上部を覆い,マイクロ

プレートリーダー (Powerscan HT; DSファーマバイオメディカル) を用いて蛍光強度を測定

23

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した (励起波長:485nm, 検出波長:530nm).測定温度は 37℃で蛍光強度を 2分間隔で 45回 (90

分後まで) 測定した.測定により得られたグラフ (第 12図) に基づきサンプルの曲線下面積

(AUC:area under the curve) からブランクのAUCを減じた値を実測値とした.この場合,同

時に分析した Troloxの標準溶液 (6,12,24および 48µM) の値をもとに検量線を作成し,こ

れに基づき試料の H-ORAC 値 (ROOラジカル消去活性値) を Trolox 当量として算出した.

また,Tukeyの方法により,5%水準で平均値間の有意性を検定した.

結果および考察

エゾワサビおよび他のアブラナ科作物について抗酸化活性を測定した結果,DPPH ラジカ

ル消去活性はエゾワサビで最も高い値 (13µmol Trolox EQ g-1 DW) を示し,他のアブラナ科作

物のそれ (クレソン,6.6;ミズナ,6;ブロッコリー,5.3;キャベツ,3.5µmol Trolox EQ g-1 DW)

と比較し統計学的な有意差が認められた (第 13図).また,ROOラジカル消去活性もエゾワ

サビで最も高い値 (246.5µmol Trolox EQ g-1 DW) を示し,他のアブラナ科作物のそれ (クレソ

ン,156.3;ミズナ,131.4;ブロッコリー,97.2;キャベツ,44.9µmol Trolox EQ g-1 DW) と比

較し統計的有意差が認められた (第 13 図).従って,エゾワサビの抗酸化能は,アブラナ科

作物の中でも高いものと考えられる.

24

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蛍光強度

蛍光強度

蛍光強度

蛍光強度

測定時間測定時間測定時間測定時間

ブランクのブランクのブランクのブランクのAUC

サンプルのサンプルのサンプルのサンプルのAUC

第12図 ORAC法の原理.

25

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ROOラジカル消去活性値

ラジカル消去活性値

ラジカル消去活性値

ラジカル消去活性値(ORAC法法 法法)

(µmol Trolox EQ g-1DW)

DPPHラジカル消去活性値

ラジカル消去活性値

ラジカル消去活性値

ラジカル消去活性値

(µmol Trolox EQ g-1DW)

d

bc

a

c

b

E

C

A

D

B

第13図 エゾワサビおよび数種アブラナ科葉菜類における可食部抽出液の抗酸化能の差異.平均値±SE (n=3).同一文字間に有意差なし(Tukey検定;P<0.05).

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第 2 節 抗酸化活性が高い抽出画分の探索

第 1 節で,エゾワサビ葉身部組織の抗酸化能が高いことがわかったので,その主成分を明

らかにするため種々の分画を行った.この場合,抗酸化活性の評価には,操作が簡便である

という理由から (Gulcin., 2012),DPPH 法を用いた.

材料および方法

(1) 植物材料

第 1 章,第 1 節と同一の植物体葉身部,凍結乾燥粉末を用いた.

(2) 抽出および分画

第 14 図にエゾワサビ試料からの抗酸化成分および分画の手順を示した.抽出は,材料 14g

に 80%MeOH 1L を加え,室温で 24 時間攪拌,残渣をろ過後,ロータリーエバポレーターを

用いて濃縮した.次に,沈殿物 (非水溶性画分) を再度ろ過後,水溶性抽出液を得た.また

沈殿物は 80%EtOH に溶解した.Diaion HP-20 (三菱化学) 50g を充填したカラム (直径 2cm,

高さ 50cm) に水溶性抽出液を付加し,蒸留水で 2 回洗浄後,10,30,50,80 および 99%の

MeOH 溶液で段階的に溶出して分画①とした.分画①で得られた画分のうち,最も高い抗酸

化能を示した画分を,Sephadex LH-20 (Sigma-Aldrich,Tokyo,Japan) 30g を充填したカラム (直

径 2cm,高さ 50cm) に付加し,99%の MeOH で溶出する方法で 40mL ずつに分画して,分画

②とした.分画②で得られた画分のうち,最も高い抗酸化能を示した画分を,Sep-Pak C18

固層抽出カラム (Waters,Tokyo,Japan) に付加し,10,30,50,70 および 90%の MeOH 溶

液で段階的に溶出して,分画③とした.分画③で得られた画分のうち,最も高い抗酸化能を

示した画分を,HPLC を用いてさらに分画し分画④とした.この場合,移動相に A 液 (1.5%

ギ酸) および B 液 (99% (v/v) MeOH) を用い,B 液の比率を以下の条件で直線的に変化させ

るグラジエント分析を行った:0〜6 分,10→30%;6〜8 分,30→36%;8〜30 分,36→37%;

30〜31 分,37→90%;31〜35 分,90%に保持;35〜36 分,90→10%;36〜40 分,10%に保持.

その他の分析条件は以下の通りである:ポンプ,L-2160U (HITACH,Tokyo,Japan);カラム,

Inert Sustain C18 (3φ×150mm,GL sciences,Tokyo,Japan);カラム温度,40℃;流速,0.5mL/

分;Photo diode allay (PDA) 検出器,L-2455U (HITACH);検出波長,280nm;オートサンプラ

ー,L-2200U (HITACH);カラムオーブン,CO631A (GL sciences).分画は,保持時間 4~28

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エゾワサビ葉凍結乾燥粉末 (14g)

[Diaion HP-20]

[Sephadex LH-20]

[Sep-Pak C18]

抽出およびろ過 [80% MeOH]

水溶性抽出液

H2O 30% MeOH15% MeOH 50% MeOH MeOH80% MeOH

FC1-3 FC4-10 FC11-13

30% MeOH10% MeOH 50% MeOH 90%MeOH70% MeOH

[HPLC]

FC3 FC1-2 FC4-11

(化合物1, 0.5mg)

第14図 エゾワサビ葉組織に含まれる抗酸化成分の分画手順.

抽出

分画①

分画②

分画③

分画④

(350mL) (205mL) (190mL) (200mL) (190mL) (200mL)

(120mL) (280mL) (120mL)

(30mL) (30mL) (30mL) (30mL) (30mL)

28

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分を 2 分刻みで行った.

(3) MALDI-TOF MS

分画④で得られた画分のうち,抗酸化活性が最も高かった画分を質量分析の試料とした.

質量分析は,MAIDI-TOF MS 装置 (Voyager DE. Applied Biosystem,Foster City,CA) を用い

て行い, matrixとしてTHAP (2',4',6'-trihydroxyacetophenone monohydrate:Sigma-Aldrich,Tokyo,

Japan) を用いた.この場合,matrix 溶液 (アセトン飽和) と抽出液の混合比は 1:1 とした.ま

た,その他の測定条件は,以下の通りである:レーザー光源,窒素レーザー (波長 337nm) ;

加速電圧,20kV;遅延抽出時間,100µsec;検出モード,陽イオン・リフレクターモード.

(3) 抗酸化能の活性評価

各画分の 1mL をエバポレーターで乾固後,原液,1/2 または 1/4 の濃度になるように

80%EtOH で再溶解したものを分析試料に用いた.分析は DPPH 法により第 2 章,第 1 節と同

様の方法で行い,活性は各画分の全溶液の抗酸化能 (DPPH ラジカル消去活性) を Trolox 等

量 (µmol Trolox EQ total volume) で算出した.

結果および考察

抽出および分画操作によって得られた各画分の抗酸化能を DPPH 法によって調べた.水溶

性抽出液と沈殿物の抗酸化活性を測定した結果,水溶性抽出液 (126mL) は高い抗酸化活性

を示したが,沈殿物に抗酸化活性は認められなかった (第 15 図).分画①では,6 個の画分の

うち 80%MeOH 溶出画分 (190mL) が最も高い抗酸化活性を示した (第 16 図).分画②では,

13 個の画分のうち抗酸化活性が高かったのは画分 4~10 であった (第 17 図).このため,画

分 4~10 を混合 (280mL) して濃縮し次の分画を行った.分画③では,5 個の画分のうち

50%MeOH 溶出画分 (30mL) が最も高い抗酸化活性値を示した (第 18 図).分画④では,11

個の画分のうちフラクション 3 (FC3) が最も高い抗酸化活性値を示したため (第 19 図),質量

分析 (MALDI-TOF MS) した結果,m/z 555.3 の分子イオンピークが単独で強い強度で検出さ

れた (第 20 図).このピークは,エゾワサビの高い抗酸化能を担う化合物に由来し,高い純

度であるものと考えられることから,FC3 を分取し 0.5mg の化合物 1を得た.

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DPPHラジカル消去活性

ラジカル消去活性

ラジカル消去活性

ラジカル消去活性

(µmol Tro

lox E

Qtotal volume)

第15図 エゾワサビ80%MeOH抽出により得られた水溶性抽出液および沈殿物の抗酸化活性の差異.平均値 (n=2).

水溶性抽出液水溶性抽出液水溶性抽出液水溶性抽出液 沈殿物沈殿物沈殿物沈殿物

30

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0

10

20

30

40

第16図 分画①で得られた各画分の抗酸化活性の差異.平均値 (n=2).

DPPHラジカル消去活性

ラジカル消去活性

ラジカル消去活性

ラジカル消去活性

(µmol Tro

lox E

Qtotal volume)

31

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DP

PH

(µm

ol

Tro

lox

EQ

)

Fraction (FC)

3 4 65 7 8 9 10 11 12 1321

第17図 分画②で得られた各画分の抗酸化活性の差異.平均値 (n=2).

DPPHラジカル消去活性

ラジカル消去活性

ラジカル消去活性

ラジカル消去活性

(µmol Tro

lox E

Qtotal volume)

32

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0

2

4

6

8

10

12

第18図 分画③で得られた各画分の抗酸化活性の差異.平均値 (n=2).

DPPHラジカル消去活性

ラジカル消去活性

ラジカル消去活性

ラジカル消去活性

(µmol Tro

lox E

Qtotal volume)

33

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Fraction (FC)

第19図 分画④で得られた各画分の抗酸化活性の差異.平均値 (n=2).

DPPHラジカル消去活性

ラジカル消去活性

ラジカル消去活性

ラジカル消去活性

(µmol Tro

lox E

Qtotal volume)

34

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Intensity (%)

Mass (

m/z)

第20図分画④で得られた

FC

3の

MA

LD

I-T

OF

マススペクトラム.

35

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第 3 節 構造の推定

材料および方法

(1) 材料

第 2 章,第 2 節の分画④で得られた FC3 を用いた.

(2) HRESIMS および MS/MS

HRESIMS 分析条件は,以下のとおりである:LTQ-Orbitrap XL (ThermoScientific,Waltham,

USA);Ionization,ESI+;Source Voltage (kV) ,4.0;m/z,150-2000;Sheath Gas Flow Rate,10.0;

Aux Gas Flow Rate,2.0;Sweep Gas Flow Rate,1.0;Capillary Temp (C) ,275;Capillary Voltage

(V) ,45;Tube Lens Voltage (V) ,120.

MS/MS 分析条件は,以下のとおりである:LTQ-Orbitrap XL (ThermoScientific) ;Ionization,

ESI+;m/z,150-2000;Spraying voltage,2.1kV;Capillary Temp,200C°;Capillary Voltage,40V;

Tube Lens Volrate,180V;Activation type,CID;Normalized collision energy,35%;Isolation width,

1.0;Activation time,30ms.

(3) 1H-NMR

1H-NMR には,AMX-500 (Bruker) を使用した.サンプルは,重水素で置換したメタノール

(MeOH-d4,和光純薬工業) に溶解した.化学シフトのシグナルは MeOH-d4の δ3.3 で補正し

た.

(4) HPLC-PDA

HPLC では,移動相にA 液 (1.5%ギ酸) およびB 液 (99% (v/v) MeOH) の 2 種類を用い,B

液の比率 (体積%)を以下の条件で直線的に変化させるグラジエント分析を行った:0〜8 分,

27→27.5%;8〜9 分,27.5→90%;9〜14 分,90%に保持;14〜15 分,90→27%.その他の条

件は,第 2 章,第 2 節と同様である.

結果および考察

前述のとおり,分画④で得られた FC3 を MALDI-TOF MS で分析したところ,m/z 555.3 の

36

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分子イオンピークが単独で検出された.そこで,FC3 に含まれる化合物 1をさらに精度の高

い HRESIMS 分析した結果,m/z 555.3177 の分子イオンが強い強度で検出され,この元素組成

は C30H43O6N4 [M+H]+であると推定された.化合物 1の構造を推定するため,MS/MS 分析し

たところ,m/z 177,234 および 305 のフラグメントイオンが検出され,さらに 1H-NMR 分析

したところ,6.74 - 7.34 ppm に芳香族プロトン,3.84 ppm にメチルプロトン,1.88 - 3.44 ppm

にメチレンプロトンのシグナルが見られた.そこで,データベースを用いて化合物を探索し

た結果,スペルミン1分子にフェルラ酸2分子が結合したN1,N14-diferuloylsperimine (DFSM) が

候補として見つかった ( 第 21 図 ) . Zamble et al. (2007) は N5- (p-coumaroyl)

-N1,N14-diferuloylspermine の MS/MS 分析を行い,最初の断片化で N5のクマル酸が脱離後の分

子 (すなわち DFSM) の開裂からフェルラ酸残基に由来する m/z 177,スペルミン構造の N-5

と C-4 または N-10 と C-9 で開裂が起こると m/z 234 のフラグメントイオンが生じ,さらに

N-5とC-6またはN-10とC-11で開裂が起こるとm/z 305のフラグメントイオンが生じること

を報告している.本実験で,化合物 1のフラグメントイオン 3 種類の m/z は全て上記の報告

と一致したことから,化合物 1は DFSM であるものと推定される.

しかし,1H-NMR スペクトルは複雑であり,詳細なプロトンシグナルの帰属は困難であっ

た.そこで,化合物 1の純度を確認するため HPLC で分析したところ,3 つのピーク (A,B

および C) が検出され,各々の UV-VIS 吸収スペクトルの波形および吸収極大 (A,293nm;

B,313.6nm;C,318.3nm) は異なっていた (第 22 図).

しかし,HRESIMS 分析の結果,これらのピークは全て m/z 555.3177 を示したことから,同

一の化合物であるものと推定した.DFSM の類縁体に関する研究報告で,Bokern et al. (1995),

Werner et al. (1995) および Sobolev et al. (2008) はヒドロキシ桂皮酸スペルミジンがシス-ト

ランス異性体を有し,これらが混在することで,NMR スペクトルのシグナルが複雑となる

ことを報告している.従って,化合物 1の 1H-NMR におけるスペクトルが複雑となった原因

として,シス-トランス異性体が混在していた可能性が考えられる.

37

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第21図

N1,N

14-d

i-fe

rulo

yls

per

min

eの化学構造.

β’

α’

1

2

3

4

5

6

79

10

11

12

13

14

8

α’’

β’’

2’

1’

6’

5’

4’

3’

4’’ 3’’

2’’

1’’

6’’

5’’

38

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A B

C

Abso

rbance (AU)

Retention time (min)

A

B

C

Wavelength (nm)

Abso

rbance (AU)

第22図 分画④で得られたFC3のHPLCクロマトグラム (上段)

および各ピークのUV-VIS吸収スペクトル (下段).

39

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第 4節 DFSMの有機合成および天然物との比較

エゾワサビから検出された化合物 1は DFSM であると推定されるが,不明確な点が多い.

また,DFSMの標品も存在しない.そこで,本節ではDFSMを有機合成し,エゾワサビから

検出された化合物 1と比較することを試みた.

(1) 有機合成の方法

Garnelis et al. (2005) の方法に従い,スクシンイミドを用いてエステル化したフェルラ酸と

スペルミンを縮合させる方法によりDFSMを合成しようと考えた.合成手順の概略を,第 23

図に示す.

1) 化合物 4の合成

第23図に示すE体の化合物2 (東京化成工業) 5g (22.5mmol) を無水ジクロロメタン (70mL)

に溶解し,これに 630mg (2.59mmol) の pyridinium p-toluenesulfonate (PPTS;東京化成工業) お

よび 4.4g (51.9mmol) のジヒドロピラン (東京化成工業) を加え一晩攪拌した.次に,シリカ

ゲルカラムを用いて精製後,得られた化合物 3 を EtOH (40mL) に溶解し,これに 2.2g

(39.2mmol) の KOH を加えて一晩攪拌し,次に,シリカゲルカラムを用いて精製後,化合物

4 (2.52g, 9 mmol, 収率 40%) を得た.化合物 4の 1H-NMRおよびMS分析結果を以下に示

す:1H NMR (CDCl3, 270MHz) δ7.70 (1H, d, J=16.0 Hz, H-7), 7.11-7.06 (3H, m, H-2, H-5 and H-6),

6.29 (1H, d, J=16.0Hz, H-8), 5.46 (1H, m, THP) 3.87 (4H, s, OCH3および THP), 3.61 (1H, m, THP),

1.63-2.09 (6H, m, THP); EIMS m/z 278 [M]+ (3) 194 (100), 85 (37), 41 (21).

2) 化合物 5の合成

化合物 4 (2.52g,9mmol)をDMF (20mL) および THF (60mL) の混合液に溶解し,これに 3.6g

(18mmol) の N,N'-dicyclohexylcarbodiimide (DCC;東京化成工業) および 4.1g (36mmol) の

N-Hydroxysuccinimide (NHS;東京化成工業) を加え一晩攪拌した.次に,シリカゲルカラム

を用いて精製後,化合物 5 (200mg,0.5mmol,収率 6%)を得た.化合物 5の 1H-NMRおよび

MS分析結果を以下に示す;1H NMR (CDCl3, 270MHz) δ7.84 (1H, d, J=16.0 Hz, H-7), 7.16-7.07

(3H, m, H-2, H-5 and H-6), 6.43 (1H, d, J=16.0Hz, H-8), 5.47 (1H, m, THP), 3.88 (3H, s, OCH3), 3.60

(1H, m, THP), 2.85 (4H, s, OSu), 1.54-2.02 (6H, m, THP); FDMS m/z 377 (3) [M]+ ,85 (100), 290 (94),

375 (44).

3) 化合物1111 (DFSM)の合成

40

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第23図 N1,N14-diferuloylsperimineの合成手順:(I) DHP, PPTS,CH2Cl2; (II:収率,40%) KOH,EtOH;(III:収率,6%) DCC,NHS,DMF,THF;(IV) 化合物6,CH2Cl2;(V:収率,3%) PPTS,MeOH.図中のローマ数字は合成条件を,アラビア数字は化合物番号を表す.化合物1はDFSM.

4

5

1

(I) (II)

(III)

(IV)

(V)

2 3

7

6

41

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化合物 5 (200mg,0.5mmol) を氷冷された無水ジクロロメタン (40mL) に溶解し,氷水中

で 54.46mg (0.27mmol) の化合物 6 (ナカライテスク) を加え一晩攪拌した.次に化合物 7を

MeOH (30mL) に溶解し,PPTS (100mg,0.4mmol) を加え一晩攪拌後,HPLC で精製し,合成

化合物 1 得た (2mg,14mµmol,収率 3%).化合物 1の 1H-NMR および MS 分析結果を以下

に示す;1H NMR (MeOH-d4, 500MHz) δ7.47 (d, J=15.5 Hz, H-β’ and H-β’’, E form), 6.74-7.34 (m,

H-2’, H-2’’, H-5’, H-5’’, H-6’ and H-6’’), 6.69 (d, J=12.5Hz, H-β’, H-β’’, Z form), 6.43 (d, J=15.5 Hz,

H-α’, H-α’’, E form), 5.85 (d, J=12.5Hz, H-α’ and H-α’’, Z form), 3.86 (s, OCH3), 2.88-3.41 (m, H-2,

H-4, H-6, H-9, H-11 and H-13), 1.71-1.92 (m, H-3, H-7, H-8 and H-12); FDMS m/z 555 [M+H]+ (100),

556 (34), 557 (7), 601 (4).

(2) HPLC-PDA

分析は第 2 章,第 3 節と同様に行った.

(3) MS

有機合成により得られた化合物は EIMS (JMS-SX102A,JEOL) および FDMS (JMS-T

100GCV, JEOL)で分析した.

(4) 1H-NMR

1H-NMR は,AMX-500 (Bruker) および JNM EX-270 (JEOL) を用いて行った.サンプルは

MeOH-d4または重クロロホルムに溶解した.

結果および考察

Garnelis et al. (2005) の方法に従い,E 体の化合物 2 (第 23 図) からDFSM の合成を試みた.

HPLC の結果,有機合成した化合物 1の保持時間および UV-VIS 吸収スペクトルは,エゾワ

サビから検出された化合物 1 のピーク C のそれと一致し,さらに分子量も一致した (第 24

図).また,1H-NMR の結果,両者のスペクトルは正確に一致したことから (第 25 図),エゾ

ワサビから検出された化合物 1とととと有機合成した化合物 1は同一で,DFSM であることが証明

された.

この場合,DFSM の有機合成は E 体の化合物 2 (第 23 図) を材料として行い,さらに HPLC

42

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合成

合成

合成合成

天然

天然

天然天然

Absorbance (AU)

Retention time

A

Wavelength (nm)

Absorbance (AU)

合成

合成

合成合成

天然

天然

天然天然

B

Ion intensity (%)

Mass (m/z)

C

第24図合成DFSM(合成) およびエゾワサビ化合物1 (天然) におけるHPLC (A) および

UV-VISスペクトル(B) の比較,ならびにMALDI-TOF MSスペクトラム(C).

43

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ppm

合成合成合成合成

天然天然天然天然

第25図 有機合成したDFSMとエゾワサビから検出した化合物1の1H-NMRスペクトルの比較.

44

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でも単一ピークが得られたにもかかわらず,1H-NMRスペクトルは第 25図のとおり複雑化し

た.この理由を探るため,合成したDFSMを二次元NMR (H-H-COSY) で分析し,King et al.

(2005) の報告に従ってフェルロイル基のα’ (α’’) およびβ’ (β’’) 位のプロトンシグナルの帰属

を行ったところ,δ 6.4と 7.4 (J = 15.5 Hz) の間に E体に由来するクロスピークが検出され,

さらに,5.8と 6.7 (J = 12.5 Hz) の間にZ体に由来するクロスピークが検出された (第 26図).

この結果は,有機合成したDFSMの測定試料中に E体および Z体の両方が混在していること

を示している.そこで,HPLCにおけるピークA,BおよびCを分取し,再度同条件のHPLC

で分析した結果,すべてのフラクションで同じ 3つの保持時間にピークが検出された (第 27

図).従って,DFSMには,3種類のシス-トランス異性体が存在し,その構造は (E, E),(E, Z)

および (Z, Z) 体へと容易に変化するものと考えられる (第 28図).

45

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15.5Hz

12.5Hz

15.5Hz

12.5Hzβ’, β” (E form)

α’, α” (E form)

α’, α” (Z form)

β’, β” (Z form)

第26図 有機合成したDFSMの1H-NMRにおけるオレフィンおよび芳香族領域スペクトルの詳細.

46

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A B

C

Abso

rbance(A

U)

第27図 DFSMをHPLCで分析した際に得られた3種類のピークのリクロマトグラム.

A

B

C

A

B

CA

BC

Retention time (min)

47

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A

B

C

第28図 DFSMのシス-トランス異性体の構造式.A,(E, E);B,(E, Z);C,(Z, Z).

E E

Z

E

Z

Z

48

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第 5 節 DFSM の抗酸化活性

材料および方法

(1) 材料および分析試料の作成

第 2 章,第 3 節で合成した DFSM,ならびに比較対照として抗酸化能が高いことで知られ

るケルセチン (関東化学) ,フェルラ酸 (和光) ,L-アスコルビン酸 (和光) および Trolox

(Sigma-Aldrich) の標品を材料として用いた.各試薬は,検量線の範囲内の濃度となるように

MWA 溶液 (MeOH:水:酢酸=90:9.5:0.5 (v/v/v) ) で溶解し,分析試料とした.

(2) DPPH 法

分析は,第 2 章,第 1 節と同様の方法で行った.

(3) ORAC 法

分析は,第 2 章,第 1 節と同様の方法で行った.

(4) ESR スピントラップ法

1,O2-ラジカル消去活性

分析は,Ukai et al. (2013) の方法に従い行った.試料またはブランク (超純水) 50µL に,

200µM Riboflavin 20µM,EDTA-2Na 20µL, 10mM 2- (5,5-dimethyl-2-oxo-2λ5-[ 1,3,2]

dioxaphosphinan-2-yl) -2-methyl-3,4- dihydro-2H-pyrrole 1-oxide (以下 CYPMPO) 100µL,グリシ

ン 20µL および pH 7.4 の 100mM リン酸バッファー 50µL を加え,フラットセル (ラジカル

リサーチ (株) ) で吸い上げ,ESR キャビティー内にセットした.次に,セル内の溶液に 40

秒間 UV 照射処理 (ランプ:LC8 (浜松ホトニクス) ,光源:200W Hg-Xe アーク灯) し,直

ちに ESR でアダクト信号を測定した (第 29 図).スピントラップ剤のみを入れた試料 (ブラ

ンク) の ESR 信号 (I0) とスピントラップ剤および抗酸化物質の両方が存在する時の ESR 強

度 (I) から減少率 ([I0/I]-1) を算出した.ESR 分光器は X バンド (9.8 GHz) の EMX-plus

(JES-RE1X, JEOL) を用い,測定条件は以下のとおりである:中心磁場 3,521G,測定磁場範

囲 150G,磁場変調幅 1G,マイクロ波強度 6mW.また,予め用意した α-lipoic acid の標準溶

液 (0.1,0.3,0.5 および 0.8 mM) を同様に分析し,得られた検量線に基づきより O2-ラジカル

49

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抗酸化成分なし (ブランク)

抗酸化成分あり (高濃度)

抗酸化成分あり (低濃度)

第29図 ESRスピントラップ法で得られるアダクト信号の一例.枠で囲まれた信号強度から減少率 ([I0/I]-1) を算出.

I0

I

I

50

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消去活性値をα-lipoic acid当量として算出した.平均値間の有意差検定はTukeyの方法により,

5%水準で行った.

2,OH ラジカル消去活性

分析は,Kameya et al. (2012) の方法に従い行った.試料またはブランク (超純水) 50µL に,

H2O2 50µL,DTPA 30µL,10mM CYPMPO 15µLおよびpH 7.4の100mMリン酸バッファー 50µL

を加え,フラットセルで吸い上げ,ESR キャビティー内にセットした.次に,セル内の溶液

に 5 秒間 UV 照射し,直ちに ESR でアダクト信号を測定した.スピントラップ剤のみを入れ

た試料 (ブランク) のESR信号 (I0) とスピントラップ剤および抗酸化物質の両方が存在する

時の ESR 強度 (I) から減少率 ([I0/I]-1) を算出した.ESR 分光器は X バンド (9.8 GHz) の

EMX-plus (JES-RE1X, JEOL, Tokyo, Japan) を用い,測定条件は以下のとおりである:中心磁

場 3,521G,測定磁場範囲 200G,磁場変調幅 G,マイクロ波強度 6mW.また,予め用意した

L-ascorbic acid の標準溶液 (0.1,0.2,0.3,0.4 および 0.5 mM) を同様に分析し,得られた検

量線に基づき OH ラジカル消去活性値を L-ascorbic acid 当量として算出した.平均値間の有

意差検定は Tukey の方法により,5%水準で行った.

結果および考察

DFSMと他の抗酸化化合物の抗酸化活性を種々の方法で比較したところ,DFSMのDPPH,

ROO および O2-ラジカル消去活性値はフェルラ酸のそれと同等であることがわかった (第 30

図).また,DFSM の抗酸化活性値を抗酸化能が高いことで報告のある Trolox のそれと比べる

と,ROO·消去能で 3.7 倍,O2·-消去能で 5.1 倍といずれも値が高かった.この場合,ROO お

よび O2-ラジカルの消去能は,調べた化合物の中でケルセチンが最も高かった.一方,OH ラ

ジカルの消去活性は,DFSM が最も高く,その値は Trolox に比べて 7.3 倍,フェルラ酸に比

べて 3.8 倍,ケルセチンに比べて 2.5 倍であった.従って,DFSM の DPPH,ROO および O2-

ラジカル消去能はフェルラ酸と同等に高いほか,OH ラジカル消去能は調査した既知の抗酸

化成分よりも顕著に高いことが明らかになった.

51

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(A)

(B)

(C)

(D)

a

b

c

d

e

a

c

c

b

b

a

ab

b

ab

ab

b

c

bc

bc

a

DFSM

Trolox

0 1 2 3 4

0 3 6 9 12

0 8 16 24

0 80 160 240 320

第30図 有機合成したDFSMおよび数種抗酸化成分のラジカル消去活性の比較:(A), DPPHラジカル;(B), ROOラジカル;(C),O2

-ラジカル;(D), OHラジカル.平均値±SE (n=3).同一英文字間に有意差なし (Tukey検定;P<0.05).

(mol Trolox EQ/ mol)

(mol Trolox EQ/ mol)

(mol α-Lipoic acid EQ/ mol)

(mol Ascorbic acid EQ/ mol)

フェルラ酸フェルラ酸フェルラ酸フェルラ酸

ケルセチンケルセチンケルセチンケルセチン

アスコルビン酸アスコルビン酸アスコルビン酸アスコルビン酸

DFSM

Trolox

フェルラ酸フェルラ酸フェルラ酸フェルラ酸

ケルセチンケルセチンケルセチンケルセチン

アスコルビン酸アスコルビン酸アスコルビン酸アスコルビン酸

DFSM

Trolox

フェルラ酸フェルラ酸フェルラ酸フェルラ酸

ケルセチンケルセチンケルセチンケルセチン

アスコルビン酸アスコルビン酸アスコルビン酸アスコルビン酸

DFSM

Trolox

フェルラ酸フェルラ酸フェルラ酸フェルラ酸

ケルセチンケルセチンケルセチンケルセチン

アスコルビン酸アスコルビン酸アスコルビン酸アスコルビン酸

52

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第 6 節 その他の抗酸化成分

本章第 1~5 節でエゾワサビ抗酸化成分の主体を明らかにしたが,アブラナ科野菜には抗酸

化能を有するポリフェノール化合物が豊富に含まれることが知られている.そこで,本節で

はエゾワサビに含まれるDFSM 以外のポリフェノール化合物の検出を試みた.

材料および方法

(1) 材料

第 1 章,第 1 節と同一の植物体葉身部,凍結乾燥粉末を用いた.

(2) 抽出および加水分解処理

Merken et al. (2000) および Hertog et al. (1992) の方法に従い,材料 1g に 1.2M HCl・

50%MeOH 100mL を加え,90℃で 2 時間抽出した.この処理の過程で酸加水分解によりポリ

フェノール化合物から糖鎖がはずれ基本骨格 (アグリコン) の生成が促される.熱水処理後

急冷し,5 分間超音波処理した抽出液を遠心分離 (13.000×g,10 分) し,その上清をろ過後,

HPLC 分析の試料とした.

(3) HPLC-PDA

HPLC では,移動相にA 液 (1.5%ギ酸) およびB 液 (99% (v/v) MeOH) の 2 種類を用い,B

液の比率 (体積%) を以下の条件で直線的に変化させるグラジエント分析を行った:0~3 分

10→15%,3〜8 分,15→29%;8〜30 分,29→75%;30〜31 分,75→90%;31〜37 分,90%

に保持;37〜38 分,90→10%;38〜44 分,10%に保持.検出波長は 370nm および 520nm と

し,その他の条件は,第 2 章,第 2 節と同様である.

(4) ESIMS

第 2 章,第 3 節と同様である.

結果および考察

エゾワサビ抽出液の HPLC クロマトグラムを既知のフラボノール (A370) およびアントシ

アニン (A520) のそれと比較した結果,ピークの保持時間および吸光パターンからケルセチン,

53

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ケンフェロールおよびシアニジンが含まれていることがわかった (第 31 図).このことは,

質量分析の結果からも裏付けられた (第 1 表).従って,エゾワサビ葉身部にはケルセチン,

ケンフェロールおよびシアニジン (第32図) を基本骨格とするポリフェノール化合物が含ま

れているものと考えられる.なお,80%MeOH のみで抽出した試料 (酸加水分解なし) を

HPLC で分析したところ,上記のピークが検出されなかった (第 33 図).このことから,これ

らの成分は全て配糖体として存在するものと考えられる.

54

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Peak2

Peak1

ケンフェロール

ケンフェロール

ケンフェロール

ケンフェロール

ケルセチン

ケルセチン

ケルセチン

ケルセチン

Abso

rbance

(AU)

Retention time (min)

シアニジン

シアニジン

シアニジン

シアニジン

Peak3

Abso

rbance

(AU)

ケンフェロールケンフェロールケンフェロールケンフェロールケルセチンケルセチンケルセチンケルセチン

Wavelength (nm)

シアニジンシアニジンシアニジンシアニジン

Peak2Peak1 Peak3

標品標品標品標品

抽出物抽出物抽出物抽出物

標品標品標品標品

抽出物抽出物抽出物抽出物

A

B

第31図 エゾワサビ抽出液 (酸加水分解後) および数種ポリフェノール化合物のHPLC-

PDAクロマトグラム (A) およびUV-VIS吸収スペクトル (B) の一例.ケルセチンおよびケンフェロールはA370で,シアニジンはA520で各々の吸光度を測定.

55

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Peak No. Retaintion

time (min)

[M+H]+or[M]+

(m/z)化合物名

ケンフェロール25.102

[M+H]+or[M]+

推定される組成式

287.0549 C15H11O6

UV λmax (nm)

シアニジン17.69 287.05473 C15H11O6527.0

ケルセチン22.421 303.0498 C15H11O7260.8, 369.9

263.1, 365.1

第1表 エゾワサビ抽出液 (酸加水分解後) からHPLCで検出された各ピークの質量分析結果.

56

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A

B

C

第32図 エゾワサビ葉組織酸加水分解抽出物から検出されたポリフェノールの化学構造.A,ケルセチン; B,ケンフェロール; C,シアニジン.

57

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ケンフェロール

ケンフェロール

ケンフェロール

ケンフェロール

シアニジン

シアニジン

シアニジン

シアニジン

ケルセチン

ケルセチン

ケルセチン

ケルセチン

標品標品標品標品

抽出物抽出物抽出物抽出物

(非加水分解非加水分解非加水分解非加水分解)

Abso

rbance (AU)

Retention time (min)

第33図 エゾワサビ抽出液 (酸加水分解なし) のHPLC-PDAクロマトグラム.矢印は,標品と一致する保持時間を示す.

58

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第 7 節 第 2 章の考察

エゾワサビの抗酸化能を他のアブラナ科葉菜類と比較したところ,最も高いことがわかっ

た.そこで,DPPH 法による抗酸化活性を指標にして,エゾワサビの主体となる抗酸化成分

を分画した結果,抗酸化活性が最も高い画分からDFSM が検出された.DFSM には 3 種類の

シス-トランス異性体,すなわち (E, E),(E, Z) および (Z, Z) 体が存在し,容易に構造変化が

起こることが明らかとなった.DFSM はフェルラ酸にスペルミンが結合した分子である.本

章,第5節で,フェルラ酸はすべてのラジカル種に対して抗酸化活性を示したことから,DFSM

の強い抗酸化能の一部はフェルラ酸に由来するものと考えられる.Zamble et al. (2006) は,

フ ェ ノ ー ル 酸 に ポ リ ア ミ ン が 結 合 し た 化 合 物 , す な わ ち

N5,N10-di-(p-coumaroyl)-N1-feruloylspermidine,N5-(p-coumaroyl)-N1,N10-di-feruloylspermidine およ

び N1,N5,N10-tri-feruloylspermidine が DPPH ラジカル消去活性を示すことを報告し,さらにこれ

らの,4’,4’’,4’’’トリメチル化類縁体では抗酸化活性が顕著に減少したことを根拠に,ヒドロ

キシ桂皮酸スペルミジンの抗酸化活性にはフェノール性水酸基が関与すると主張している,

また,Ha et al. (1998) は,ESR スピントラップを用いて,スペルミンに OH ラジカル消去活

性があることを報告している.従って,本研究でDFSM が高い OH ラジカル消去活性を示し

た原因として,フェルロイル基のパラ位にある水酸基およびスペルミンが関与した可能性が

考えられる.また,Tabart et al. (2009) はケルセチンがアスコルビン酸や Trolox よりも高い抗

酸化活性を有することを報告しているが,本試験の結果はこれと矛盾していない.

また,エゾワサビ組織には,ケルセチン,ケンフェロールおよびシアニジン配糖体が含ま

れることがわかった.このうち,アントシアニンのシアニジンは濃度が低かったことからエ

ゾワサビに含まれるフラボノイドの主体はフラボノール配糖体であると考えられる.ケルセ

チンおよびケンフェロールなどのフラボノール類は抗酸化成分として広く知られており,ケ

ール,ブロッコリー,カブなどから配糖体として多く検出されている (Cartea et al., 2011) た

め,アブラナ科野菜の特徴と考えられる.

59

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第 3 章 機能性成分含量の部位間差および系統間差ならびに作物間の比較

第 1 および 2 章で,エゾワサビ葉身部には GSL,DFSM,フラボノールおよびアントシア

ニンなどの機能性成分が含まれることを明らかにした.Sang et al. (1984) はナタネ,ダイコン,

カラシナ, ルタバガ およびキャベツの GSL 組成が,種および器官別に異なることを報告し

ている.また,DFSM は Phenolamides に分類される.Phenolamides はナス科 (タバコ,ペチ

ュニア),クスノキ科,キク科などの生殖器官 (花粉や胚など) に集積することが報告されて

いる (Martin-Tanguy et al., 1978). また,Funayama et al. (1980) は,Phenolamides に分類され

る N1,N14-bis (dihydrocaffeoyl) spermine (クコアミン A) がナス科のクコ (Lycium chinense) の

根のみに局在することを報告し,Parr et al. (2005) は,ナス科のジャガイモ塊茎および

Nicotiana sylvestrisの葉にクコアミンが含まれているのに対し,アブラナ科Arabidopsis thaliana

の葉およびアカザ科甜菜 (Beta vulgaris) の根には含まれていないことを報告した.加えて,

ケルセチンおよびケンフェロールの植物体内における局在に関する報告もある (Cartea 2011).

従って,エゾワサビについても,植物体内における機能性成分の局在について検討しておく

必要がある.さらに,第 1 および 2 章で行った実験は,すべて同一系統 (美唄産) に由来す

る材料を用いて行ったが,遺伝的背景を異にする系統では機能性成分の組成が変化する可能

性も考えられる.

そこで本章では,エゾワサビ機能性成分の種および部位ごとの特徴を明らかにするととも

に,採取地を異にするエゾワサビ系統を用い機能性成分組成の比較を行った.

60

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第 1 節 機能性成分含量の部位間差

第 1 項 GSL

材料および方法

(1) 材料

第 1 章,第 1 節と同一の植物体葉身,葉柄および根の凍結乾燥粉末を用いた.

(2) 抽出および脱硫化

第 1 章,第 1 節と同様に行った.

(3) HPLC-PDA

分析は第 1 章,第 1 節と同様に行った.定量は,ISO (1992) に従い,レスポンスファクタ

ーによる補正および外部標準法で行った.すなわち予め用意した DS-sinigrin 溶液の標準溶液

を同様に分析し,得られた検量線に基づき DS-sinigrin 等量として算出し,レスポンスファク

ター (DS-gluconapin,1.11;DS-glucoibarin,1;DS-glucobrassicin,0.29) を乗じて算出した.

この場合 DS-glucoibarin のレスポンスファクターは不明であるため,その値を 1 とした.分

析は,1 つの試料につき 3 回ずつ行い,平均値間の有意差検定は,Tukey の方法により,5%

水準で行った.

結果および考察

エゾワサビの各部位における GSL 含量の差異を見たところ,総 GSL 含量は葉身 (62.81mg

g-1 DW) で最も高い値を示し,次いで葉柄 (43.94mg g-1 DW) および根 (17.63mg g-1 DW) の順

となった.GSL 組成については,すべての部位で gluconapin が最も高い値 (59-77%) を示し,

部位間で顕著な違いは見られなかった (第 2 表).また,葉身は,葉柄および根に比べて総

GSL 含量が高いことから,抗菌作用や GSL 機能性を目的とする場合,価値の高い部位であ

ると考えられる.

61

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DS-GSL含量 (mg sinigrin equivalent g-1 DW )

葉身 葉柄 根

DS-gluconapin

DS-glucoibarin

DS-glucobrassicin

48.24 ± 3.13z

12.47 ± 0.65

2.10 ± 0.23

31.43 ± 12.47

9.87 ± 2.85

2.65 ± 0.97

10.38 ± 4.32

3.92 ± 0.64

3.33 ± 1.47

Total 62.81 ± 3.90 43.94 ± 14.94 17.63 ± 3.55

第2表 エゾワサビ葉身,葉柄および根に含まれるDS-GSL含量の差異.

Z平均値±SE (n=3).

62

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第 2 項 DFSM

1.DFSM の定量方法の確立

DFSM は 3 つの異性体から構成されており,その存在比が異なると正確な定量が難しい.

Sobolev et al. (2008) は N1,N5,N10-tri-p-coumaroylspermidine お よ び

N1-acetyl-N5,N10-di-p-coumaroylspermidine に UV を照射した場合,E 体から Z 体へ構造変化す

ることを報告した.これは,DFSM 異性体の存在比を,UV 照射により調節できる可能性を

示している.そこで,まず DFSM の定量技術を確立を目指し,UV 照射が DFSM 組成に及ぼ

す影響を検討した.

材料および方法

(1) 材料

第 2 章,第 4 節の有機合成 DFSM (標品) を 30%MeOH に溶解し,試料とした.

(2) UV 処理

容量1.5mLのプラスチックエッペンチューブに試料を200µLずつ分注し,UV (318nm;Scope

WD. アドバンス社) を照射した.照射は 1,12,45 または 75 分間行い,照射終了後直ちに

HPLC で分析した.また,12 分間 UV を照射後,1,3,6,9 および 24 時間,8℃暗黒条件下

で静置した試料についても,同様に HPLC で分析した.

(3) HPLC-PDA

第 2 章,第 3 節と同様に行った.

結果および考察

HPLC を用いて,DFSM のシス-トランス異性体組成に及ぼす UV 照射の影響を調査したと

ころ,12 分間 UV 照射した場合,照射前の試料と比べて 3 つのピークの面積比に変化が認め

られた (第 34 図).この場合,ピーク A の面積を 1 とした場合の,ピーク B およびピーク C

の面積は,それぞれ 0.92 および 0.22 となった (第 35 図).また,UV 照射後の面積比は照射

時間 (1-75min) の影響を受けず,同じ比率を保った (第 35 図).さらに,DFSM を 12 分間

UV 照射後,8℃暗黒条件で静置した試料では,ピーク A,B および C の面積比は,それぞれ

63

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Abso

rbance (AU)

Retention time (min)

A

B

C

A

B

C

UV照射照射照射照射

未照射未照射未照射未照射

Abso

rbance (AU)

Retention time (min)

第34図 DFSMの各ピーク面積値に及ぼすUV照射の影響.

64

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ピークピークピークピーク

第35図 DFSM溶液中のシス-トランス異性体の存在比に及ぼすUV照射時間の影響.

面積比

面積比

面積比

面積比

UV照射区

対照区 (照射前)

A B C

65

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1,0.92 および 0.22 を示し,照射直後と変わらないことが確認された (第 36 図).従って,

DFSM は UV 照射により異性体の存在比が A:B:C=1:0.92:0.22 に変化し,この比率の変化は 24

時間継続されることが明らかとなった.このことから,UV 照射後 24 時間以内に HPLC 分析

を行えば,一定の安定した存在比の下で DFSM の定量が可能であることを示している.

66

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第36図 UV照射処理したDFSM溶液におけるシス-トランス異性体の存在比の安定性.

面積比

1 3 6 249

ピークピークピークピークA

ピークピークピークピークB

ピークピークピークピークC

経過時間 (h)

67

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2 定量法の確立 (検量線の作成)

材料および方法

(1) 材料

第 2章,第 4節で得られたDFSM標品を 30%MeOHに溶解し,材料に用いた.

(2) UV処理

材料から作成した DFSM標準溶液 (5,7,14および 27µg/ml) をプラスチックエッペンチ

ューブに 200µLずつ分注し,UV (318nm;Scope WD. Advance,Tokyo,Japan) を 12分間照射

後,HPLCで分析した.

(3) HPLC-PDA

分析は,第 2章,第 3節と同様に行った.

結果および考察

本章第 2項 1で,UV処理したDFSMをHPLCで分析した場合の各ピークの面積比は一定

(A:B:C=1:0.92:0.22) となること示した.そこで,DFSM標品溶液を 4種類の濃度で作成し,

UV処理後にHPLCで分析したところ,DFSMの濃度と各ピーク (A,BおよびC) の面積値

にはいずれも高い正の相関 (R2<0.01) が確認された (第 37および 38図).この結果は,この

ピークA~Cのいずれかを用いて,DFSMの定量が可能であることを示している.

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A

B

C

Absorbance (AU)

AB

C

ABC

ABC

第37図 各濃度を異にするDFSM溶液のUV照射後のHPLCクロマトグラム.

Retention time (min)

DFSM濃度 (µg mL-1)

27.1 5.413.5 6.8

69

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ピーク面積値

ピーク面積値

ピーク面積値

ピーク面積値

DFSM濃度濃度濃度濃度 (µg ml-1)

ピークピークピークピークA ピークピークピークピークB ピークピークピークピークC

第38図 HPLC分析におけるUV処理したDFSM溶液濃度と各ピーク面積との相関.

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3 DFSM 含量の部位間差

本項 1 および 2 で,UV 処理と HPLC を用いたDFSM の定量を確立できた.そこで,この

方法を用いて,エゾワサビ植物体における DFSM 含量の部位間差を調べた.

材料および方法

(1) 材料

第 1 章,第 1 節と同一の植物体葉身,葉柄および根の凍結乾燥粉末を用いた.

(2) 抽出および UV 処理

抽出は,材料 2g から 50%MeOH 200mL を用いて 3 時間震盪抽出した.次に遠心分離

(13.000×g,10分) 後の上清を回収し30%MeOHの濃度になるように純水で希釈した.ろ過後,

本章第 2 項 1 と同様に 12 分間 UV 処理したものをHPLC の分析試料とした.

(3) HPLC-PDA

HPLC では,移動相にA 液 (1.5%ギ酸) およびB 液 (99% (v/v) MeOH) の 2 種類を用い,B

液の比率 (体積%) を以下の条件で直線的に変化させるグラジエント分析を行った:0〜5 分,

10.0→20.0%;5〜10 分,20.0→25.0%;10〜13 分,25.0→27%;13〜20 分,27.0→27.5%;20

〜21 分,27.5→90%;21〜26 分,90%に保持;26〜27 分,90→10%.その他の条件は,第 2

章,第 2 節と同様である.定量は外部標準法で行った.すなわち,本項 2 で作成した検量線

に基づき,ジフェロイルスペルミン含量として算出した.分析は,1 つの試料につき 3 回ず

つ行い,平均値間の有意差検定は,Tukey の方法により,5%水準で行った.試料と標品を比

較したところ,ピーク B の UV-VIS 吸収スペクトルが最も良く一致していたことから,ピー

ク B の純度が高いと判断し,ピーク B の面積を用いて DFSM の定量を行った.

結果および考察

葉身部には 557.67µg g-1DW で含有されるが,葉柄および根には含まれていないことが判明

した (第 3 表).従って,DFSM は,エゾワサビの葉身部に局在することが明らかになった.

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含量 (µg g-1 DW )

葉身 葉柄 根

DFSM 557.67 ± 3.06z - -

第3表 エゾワサビ植物体の葉身,葉柄および根に含まれるDFSM含量の差異.

Z値は平均値±SE (n=3).

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第 3 項 フラボノイド化合物

(1) 材料

第 1 章,第 1 節と同一の植物体葉身,葉柄および根の凍結乾燥粉末を用いた.

(2) 抽出

第 2 章,第 6 節と同様に行った.

(3) HPLC-PDA

第 2 章,第 6 節と同様に行った.定量は,外部標準法で行った.すなわち予め用意したケ

ルセチンおよびケンフェロール標準溶液を同様に分析し,得られた検量線に基づき,ケルセ

チンおよびケンフェロール含量として算出した.分析は,1 つの試料につき 3 回ずつ行い,

平均値間の有意差検定は,Tukey の方法により,5%水準で行った.

結果および考察

エゾワサビ葉身部には 61.10µg g-1 DW のケルセチンが含まれていたのに対し,葉柄および

根からケルセチンは検出されなかった (第4表).ケンフェロールは葉身 (446.42µg g-1 DW) お

よび葉柄 (10.29µg g-1 DW) に含まれており,根には含まれていないことが明らかとなった.

従って,エゾワサビ葉身部はケルセチンおよびケンフェロールの両方を豊富に含有する部位

であることがわかった.

73

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含量 (µg g-1 DW )

葉身 葉柄 根フラボノール

ケンフェロール

ケルセチン

10.29 ± 1.65

61.10 ± 2.84

446.42 ± 3.23

- --

第4表 エゾワサビ葉身,葉柄および根におけるフラボノール含量の差異.

Z平均値±SE (n=3).

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第 2 節 機能性成分含量の系統間差

材料および方法

(1) 材料

2014 年 5 月下旬に北海道檜山郡厚沢部町 (道南) および天塩郡豊富町 (道北) の渓流沿い

に自生していた野生株ならびに第 1 章で使用した美唄市 (道央) で採種した野生株を供試し

た.これらの植物体は,第 1 章と同じ条件下で水耕栽培を行い,維持・増殖を図った.栽培

は,北大農学研究院の温室で,2014 年 5 月 12 日から 6 月 9 日まで行った.その後,葉身部

を採取し,凍結・乾燥,粉末化にしたものを分析材料とした.

(2) 内性成分の分析方法

GSL,DFSM およびフラボノイドの抽出および分析は,第 3 章,第 1 節と同様の方法で行っ

た.

結果および考察

エゾワサビの外観には顕著な系統間差は認められなかった (第 39 図).すなわち,葉は頭

大羽状複葉の円形で歯牙縁が見られ,短縮茎も確認できた.従って,自生地域別の外観の差

異は小さいもの思われる.

次に,葉身部の GSL 組成を調べたところ (第 5 表),gluconapin の割合が最も高かった

(77-90%).また,‘美唄’および‘豊富’では gluconapin に次いで glucoibarin が高い値を示したの

に対し,‘厚沢部’では glucobrassicin が高い値を示し,系統間差が認められた.総 GSL 含量

は,‘美唄’が最も高く,‘厚沢部’と‘豊富’は同等の値を示した.

次に,抗酸化成分について,すべての系統で DFSM,ケルセチンおよびケンフェロールが

検出された (第 6 表).このうち,‘厚沢部’の DFSM 含量は‘美唄’および‘豊富’のそれに比べ

約 1.6 倍と最も高い値を示した.一方,ケルセチン含量は,‘豊富’で最も高く‘美唄’のそれの

約 5.2 倍の値であった.また,ケンフェロール含量は,‘厚沢部’で最も高く,‘美唄’の約 7.7

倍の値を示した.

ただ,本研究で認められた上記成分系統間差については,同一環境下で水耕栽培した植物

75

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A

B

C

A B C

野生株野生株野生株野生株

水耕栽培後の植物体水耕栽培後の植物体水耕栽培後の植物体水耕栽培後の植物体

A B C

第39図 エゾワサビ各系統 (A,‘厚沢部’;B,‘美唄’;C,‘豊富’) の外観の差異.

76

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系統

含量

(mg s

inig

rin e

quiv

alen

t g

-1D

W )

‘美唄

‘厚沢部

‘豊富

DS

-glu

conap

inD

S-g

luco

ibar

inD

S-g

luco

bra

ssic

in

32.7

0 ±

0.2

12.1

4 ±

0.0

32.3

8 ±

0.0

3

33.2

7 ±

0.2

92.0

0 ±

0.0

71.7

4 ±

0.5

5

Tota

l

37.2

1 ±

0.2

0

37.0

1 ±

0.8

4

48.2

4 ±

3.1

3z

12.4

7 ±

0.6

52.1

0 ±

0.2

362.8

1 ±

3.9

0

平均

45.6

8 ±

1.9

82.0

7 ±

0.3

25.5

4 ±

6.0

038.0

7 ±

8.8

1

第5表エゾワサビ葉身部に含まれる

DS

-GS

L含量の系統間差.

Z平均値±

SE

(n=

3).

77

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抗酸化成分含量

(µg g

-1D

W )

‘美唄

‘厚沢部

‘豊富

DF

SM

557.6

7 ±

3.0

6z

系統

ケンフェロール

ケルセチン

3416.6

7 ±

26.4

9

61.1

0 ±

2.8

4446.1

2 ±

3.2

3

910.1

7 ±

11.9

0

565.3

1 ±

10.1

2

287.5

2 ±

0.7

8

318.5

1 ±

2.0

71597.4

4 ±

9.5

4

平均

677.7

2 ±

116.2

5222.3

8 ±

81.1

31820.1

8 ±

864.6

4

第6表

エゾワサビ葉身部に含まれる抗酸化成分含量の系統間差.

Z平均値±

SE

(n=

3).

78

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体どうしを比較したとはいえ,栽培年数などが異なるので,遺伝的要因あるいは環境要因の

いずれの影響によるものかを明らかにするには,さらに調査を継続する必要がある.

79

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第 3 節 機能性成分含量の作物間差

第 2 章で抗酸化能をエゾワサビと他のアブラナ科作物と比較し,エゾワサビは抗酸化能が

高いことを明らかにした.エゾワサビ葉身部には特有の抗酸化成分としてDFSM が含まれる

ことを明らかにしたが,アブラナ科野菜に広く含有するフラボノール化合物が含まれること

も明らかにした.そこで,本節では,エゾワサビのフラボノールおよび GSL 含量を,他作物

のそれと比較した.

材料および方法

(1) 材料

第 1 章,第 1 節と同じエゾワサビ葉身部ならびに札幌市内のスーパーで購入したアブラナ

科野菜 (ホースラディッシュ,クレソン,ミズナ,ブロッコリーおよびキャベツ) 可食部を

凍結・乾燥,粉末化して材料に用いた.

(2) 分析方法

GSL,ケルセチンおよびケンフェロール含量

第 3 章,第 1 節と同様の方法で行った.

結果および考察

エゾワサビおよび各種アブラナ科野菜を比較したところ,総 GSL 含量はホースラディッシ

ュが最も高く,エゾワサビは 2 番目高い値を示し (第 40 図) これらの値には統計的有意差も

認められた.次に,フラボノールについて,ケルセチンはエゾワサビとクレソンのみで検出

され,ケンフェロールは供試した多くの野菜から検出された (第 41 図).この場合,ケンフ

ェロール含量はエゾワサビで最も値が高く,他作物との間に統計的有意差が認められた.従

って,他のアブラナ科野菜と比較してエゾワサビのフラボノール含有量は多いものと考えら

れる.

80

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総総 総総DS-G

SL含量

含量

含量含量

(mgsinigrin E

Q g

-1DW

)

cc

a

c

b

第40図 エゾワサビおよび他アブラナ科野菜における総DS-GSL

含量の差異.平均値±SE (n=3).同一英文字間に有意差なし(Tukey検定;P<0.05).

81

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0

100

200

300

400

0

10

20

30

40

50

Quercetin

Kaempferol

BC

a

C

a

B

A

ケルセチン含量

ケルセチン含量

ケルセチン含量

ケルセチン含量

(µg g

-1DW

)

ケンフェロール含量

ケンフェロール含量

ケンフェロール含量

ケンフェロール含量

(µg g

-1DW

)

第41図 エゾワサビおよび他アブラナ科野菜におけるケルセチンおよびケンフェロール含量の差異.平均値±SE (n=3).同一英文字間に有意差なし (Tukey検定;P<0.05).

ケルセチン

ケンフェロール

82

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第 4節 第 3章の考察

エゾワサビ葉身部の総GSL含量は,葉柄および根より高い値を示した.また,すべての部

位において脂肪族 GSL (gluconapin および glucoibarin) の含量は,インドール GSL

(glucobrassicin) よりも高かった.Kim et al. (2006) はロケットサラダの各植物器官に含まれる

GSL組成を調査し,葉 (glucoraphanin, glucoerucin および dimeric-4-mercaptobutyl GSL) お

よび根 (glucoraphanin および glucoerucin) のどちらにおいても脂肪族 GSL が高い割合で含

まれており,根の総GSL含量は,葉の約 2倍であることを報告した.また,Kim et al. (2003)

はカブの早生系統において,花茎および葉の総GSL含量は,茎に比べて高い値を示すが,中

生系統では花茎のGSL含量が,葉および茎のそれに比べて高い値を示すことを報告した.従

って,植物の種類,系統および部位ごとにGSLの含量および組成は異なるものと考えられる.

エゾワサビでは,gluconapinが豊富で, glucobrassicinが少量含まれている点がカブと類似し

ていた.しかし,カブには glucobrassicanapinなどのGSLも含まれており,エゾワサビのGSL

組成はそれに比べると単純であった.また,エゾワサビでは葉身部組織のGSL含量が高かっ

たことから,GSLの機能性を利用するには,葉身部が適しているものと考えられる.

次に,抗酸化成分について見てみると,DFSMは葉身部のみで検出され,他の組織からは

検出されなかった.Martin-Tanguy et al. (1978,1979) はDFSMがセンニチコウ,パイナップ

ルおよびトウモロコシの生殖器官のみに集積し,葉や茎からは検出されないことを報告した.

これ以外に,DFSMに関する報告は見当たらない.従って,本研究は,アブラナ科植物から

DFSM が検出された初めての事例であり,しかも生殖器官以外の組織 (葉身部) から検出さ

れた点も新しい.今後は,他のアブラナ科植物についてもDFSMの存在の有無を調査する必

要がある.また,ケルセチンおよびケンフェロールはブロッコリー,ケールなどのアブラナ

科植物の地上部で検出される化合物であり (Cartea 2011),エゾワサビにおいても葉身や葉柄

で検出され,特に葉身部における含量が高かった.従って,エゾワサビ葉身部組織は抗酸化

成分として,DFSMだけでなくケルセチンおよびケンフェロールも豊富に含むことから,抗

酸化食品としての利用に適した素材であると考えられる.

次に,エゾワサビのGSL含量を他のアブラナ科野菜と比較したところ,ブロッコリー,キ

ャベツおよびミズナよりも高いことがわかった.Schonhof et al. (2004) は,数品種のブロッコ

リーおよびカリフラワーを材料に総GSL含量を比較し,最も含有量が高い品種でブロッコリ

ーが 149.46mg 100g-1 FW,カリフラワーが 46.9mg 100g-1 FWの値を示すことを報告した.ま

83

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た Fritz et al. (2010) はキャベツの総 GSL 含量を測定し,182.6µmol 100g-1 FW であることを報

告した.これらの文献値とエゾワサビの総 GSL 含量を比較したところ,エゾワサビはブロッ

コリーの3.87倍,キャベツの8.25倍となり,本試験における他作物との比較とほぼ一致した.

84

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第 4 章 エゾワサビ植物体の生育に及ぼす LED 光波長の影響

植物の生育や内生成分含量は,栽培中の外的環境に影響を受けやすい.そのため,外的環

境を制御することにより,植物体の質を向上させることが可能であると考えられる.本研究

では,外的環境の中でも光環境,特に波長に着目した.施設栽培で用いられる人工光の光源

には,高圧ナトリウムランプ,メタルハライドランプ,蛍光灯および LED がある (高辻ら,

2008).高圧ナトリウムランプは,赤および青色光が少なく大量の熱線が出るが,単位出力あ

たりのコストが安い.メタルハライドランプは可視光全域をカバーしているため高圧ナトリ

ウムランプよりも優れるが,発光効率が悪く寿命が短い.蛍光灯は熱をあまり発さず可視光

をカバーしており安価で取り扱いが容易だが,赤色の波長域が少ない (高辻ら,2008).一方,

LED は設置コストが高い反面,熱放射がなく,小型,軽量,長寿命,低電圧駆動である (高

辻ら,2008).さらに,LED は特定波長域の光を植物体へ照射することが可能であるため,植

物体の生育に必要な光波長の詳細な調査に適している.植物は,光合成を行うほか,光受容

体により外部の光環境を認識し,形態形成を行っている.たとえば,赤色および遠赤色光受

容体のフィトクロムは,茎および葉柄の伸長抑制,種子発芽ならびに開花に関与し,青色光

の受容体であるクリプトクロムおよびフォトトロピンは,概日リズムの調節,胚軸の伸長抑

制ならびに葉緑体光定位運動等に関与することが知られている (篠村,2001;飯野,2001).

これらの研究では,特定の波長光の照射を可能にする LED 光源が欠かせない.

植物体の生育に及ぼす光の影響をみる場合,材料とする植物体の生育ステージや光以外の

生育環境を揃える必要がある.Maeda et al. (2008) は,エゾワサビ葉片由来の組織培養系を確

立し,これを培養苗を用いた湛液式水耕栽培法を確立した.従って,温度および日長の制御

が可能な人工気象器内で水耕栽培を行えば,植物体の生育および成分に及ぼす光波長の影響

を正しく評価できると考えられる.そこで,本章では人工気象器内で水耕栽培しているエゾ

ワサビに,LED を光源として様々な波長の光を照射し,光波長が植物体の生育に及ぼす影響

を明らかにしようとした.この場合,苗の生育状況を考慮し,培養苗と馴化苗を用いて同様

の実験を行い,両者を比較した.

85

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第 1 節 培養苗の生育に及ぼす LED 光波長の影響

材料および方法

(1) 組織培養系の確立および培養苗の育成

第1章,第1節で用いたエゾワサビ野生株から葉身部組織を切り出し,Maeda et al. (2008) の

方法に従い,初代培養を行った.培養には MS 培地に BA0.1g/L,NAA1.0g/L,ショ糖 30g/L

および寒天 7g/L を添加した培養基 (pH5.7) を用いた.初代培養で得られた,in vitro 培養体

の葉身部から,5mm×5mm の組織を切り出し,初代培養と同様の培地で継代培養した.培養

条件は,いずれも 25℃,1 日 16 時間照明 (白色蛍光灯 60µmol·m-2·s-1) とし,培養は 3 か月間

行った.得られた培養苗 (発根している個体) を水耕栽培の材料とした.

(2) 水耕栽培法および LED 光照射処理

Maeda et al. (2008) の報告に従い,に EC1.0dS m-1の濃度に調節した培養液 (大塚 A 処方 大

塚化学) を,プラスチックコンテナ (40.3×28.5×14) の上部から約 5cm の深さになるように入

れ,その上に発泡スチロール板 (31.5×23.5×1.0cm) を浮かべた.この板には,直径 2cm の穴

が 4×7 列となるように開けており,この穴に培養苗をスポンジを支持体として植え付けた.

栽培は,人工気象器 (LPH-120S,日本医化器械) 内で,18℃,連続照明条件下で 2 週間行っ

た.なお,人工気象器内は通風により乾燥しやすいので,栽培中はコンテナの上部をサラン

ラップ®で覆い保湿した.照明は,LED 光照射装置 (3LH-256 日本医化器械) を用いて行い,

処理区として赤,青および緑色 LED を単独または組み合わせて照射した 4 区を設けた (第 42

図).この場合,対照として白 (赤+青+緑) LED 区を設けた.なお,各色 LED の波長分布は第

43 図に示すとおりで,赤+青+緑の光は白色蛍光灯と類似した光波長となるように設計されて

いる.また,光合成の光化学反応量は光合成有効放射域の光量子数に比例するため (後

藤,2008),本研究では光照射量を光合成有効光量子束 (PPF) で統一し,植物体葉身部表面で

75µmol·m-2·s-1 (2 波長混合の場合は 37.5µmol·m-2·s-1ずつ) となるように設定した.

(3) 生育調査

水耕栽培開始から 14 日後に全株の葉数,葉身長および葉柄長を測定した後,地上部を切り

分け,葉身,葉柄および根の生重を測定した.測定後,直ちに各部位を凍結乾燥し,乾物重

86

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B

D

C

E

A

第42図 人工気象器内における各種LED光照射処理区の外観.

A,対照 (白) 区;B,赤区;C,青区;D,緑区;E,赤+青区.

87

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Wavelength (nm)

Power

A B C

光源

半値全幅

660±15nm

445±15nm

520±30nm

Peaks

A

B

C

第43図 実験に用いた各種LEDの発光スペクトルおよびピーク波長.

88

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を測定し,生重と乾物重から含水率を算出した.結果は,すべて平均値で表した.

結果および考察

第 44 図に,赤,青,緑,赤+青および対照の各区における,栽培 14 日後の植物体の外観

を示した.赤区の葉は内側に巻き込む形状を示した.これは他区には見られない特徴的な変

化であった.また,青区の葉の縁および裏面に赤い着色が認められた.その他の処理区にお

ける植物体の形状は,対照区のそれと違いがなかった.第 7 表に,植物体の葉数,葉長,生

重および含水率に及ぼす各種 LED 光照射処理の影響を示した.葉長は,すべての処理区で対

照区より長かった.また,総乾物重は赤区および対照区で高く,赤+青区で最も低い値を示

した (第 45 図).

赤区で見られた葉の巻き込みと関連して,福田 (2008) は青色光をレタス葉に照射すると,

背軸組織の細胞伸長が増加し,正常な形態形成が起こると述べている.従って,赤区で観察

された葉の巻き込みは,青色波長の欠落が原因と考えられる.また,青区で見られた葉の赤

い着色と関連して,Kubasek et al. (1992) は,青色光をシロイヌナズナの実生に照射すると,

アントシアニンが集積することを報告した.さらに,Jackson et al. (1995) は,青色光受容体

であるクリプトクロム 1 の変異個体でアントシアニン含量の減少が認められることを報告し

た.従って,本研究における葉の着色とアントシアニンの集積については,今後検証が必要

である.

89

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A B C

D E

第44図 各種LED光照射処理後のエゾワサビ培養苗の外観.

A,対照 (白) ;B,赤;C,青;D,緑;E,赤+青.

90

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0.1

第7表培養苗の生育に及ぼす各種LED光照射処理の影響.

葉長(mm) 葉柄

葉数

生重(g)

対照(白)

赤 青 緑 赤+青

葉身

7.6 ±1.0

10.4 ±1.8

10.1 ±3.0

9.7 ±1.4

11.3±1.6

24.1 ±3.1

38.3 ±8.1

20.3 ±6.0

34.5 ±8.7

34.3 ±6.3

9.9 ±2.1

9.1 ±2.9z

13.8 ±2.9

8.6 ±3.4

7.9 ±2.2

0.30.3

0.3

0.3

0.2

0.5

0.5

0.6

0.4

0.4

葉柄

葉身

根 0.2

0.1

0.1

0.1

含水率(%)

葉柄

葉身

89.7

89.7

89.5

90.0

92.8

93.1

93.5

94.4

94.1

95.1

99.6

99.4

99.4

99.2

99.1

光源

Z平均値±SD (n=12).

91

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対照対照対照対照 (白白白白) 赤赤赤赤 青青青青 緑緑緑緑 赤赤赤赤+青青青青

総乾物重

総乾物重

総乾物重

総乾物重

(g)

第45図 培養苗の総乾物重に及ぼす各種LED光照射処理の影響.

92

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第 2 節 馴化苗の生育に及ぼす LED 光波長の影響

材料および方法

(1) 馴化苗の育成

培養苗を成長させ馴化苗にするため,第1節と同様の水耕栽培を25℃,1日16時間照明 (白

色蛍光灯 (ハイライト S 20W,ナショナル), 70 µmol·m-2·s-1) 条件で行った.栽培開始から 2

週間後の植物体を馴化苗とし,各種 LED 光照射実験の材料とした.

(2) LED 光照射処理

LED 光照射処理は,第 1 節と同様に行い,処理中はコンテナの上部のサランラップ®を取

り外した.処理は,25℃,1日 16 時間照明で 2 週間行った.

(3) 生育調査

生育調査の方法は本章第 1 節と同じである.なお,試験は各区 3 反復 (8 個体/反復) とし,

結果は平均値±SE で表した.

結果および考察

本節で材料とした,培養苗と馴化苗の外観を第 46 図に示した.培養苗と比べ,馴化苗は植

物体の成長が進んでいることがわかる.馴化苗を第 1 項と同様の方法で LED 光照射処理した

場合の,植物体の外観を第 47 図に示した.第 1 節と同様に,赤区において葉の巻き込みが認

められ,青区では植物体の生育が旺盛となった.一方,赤区および緑区の植物体は,やや徒

長気味となった.馴化苗の生育に及ぼす各種 LED 光照射処理の影響を見ると,葉数,葉長お

よび葉の生重は,青区で高かった (第 8 表).この場合,含水率に大差は認められなかった.

総乾物量は,青区で高く,赤区と緑区および赤+青区と対照区は各々同程度の値となった (第

48 図).

93

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1cm1cm

BA

第46図 馴化苗と培養苗の外観の違い.

A,培養苗;B,馴化苗.

94

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1cm

A B C D E

第47図 各種LED光照射処理後のエゾワサビ馴化苗の外観.

A,対照 (白) ;B,赤;C,青;D,緑;E,赤+青.

95

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第8表馴化苗の生育に及ぼす各種LED光照射の影響.

葉長(mm) 葉柄

葉数

生重(g)

対照(白)

赤 青 緑 赤+青

葉身

16.7 ±2.2

16.0 ±0.8

22.8 ±1.5

19.0 ±1.0

19.4 ±1.6

26.7 ±1.1

41.7 ±2.7

34.5 ±5.3

40.8 ±2.7

27.3 ±4.0

10.1 ±1.9

9.5 ±1.8z

12.5 ±2.6

10.0 ±1.0

9.3 ±1.2

0.7 ±00

0.5 ±0.1

1.3 ±0.3

0.7 ±0.0

0.7 ±0.2

0.3 ±0.1

0.4 ±0.1

0.7 ±0.2

0.4 ±0.0

0.3 ±0.1

葉柄

葉身

0.2 ±0.1

0.1 ±0.0

0.4 ±0.1

0.1 ±0.0

0.2 ±00

含水率(%)

葉柄

葉身

89.9 ±1.9

92.4 ±4.1

91.2 ±1.7

93.0 ±0.9

92.3 ±1.0

96.2 ±3.0

97.3 ±2.2

95.9 ±1.2

98.1 ±0.6

98.2 ±1.2

99.3 ±0.3

97.8 ±0.7

98.8 ±0.8

99.0 ±0.1

99.4 ±0.1

光源

Z平均値±SE (n=3).

96

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赤赤赤赤 青青青青 緑緑緑緑 赤赤赤赤+青青青青

総乾物重

総乾物重

総乾物重

総乾物重

(g)

第48図 馴化苗の総乾物重に及ぼす各種LED光照射処理の影響.平均値±SE (n=3).

対照対照対照対照 (白白白白)

97

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第 3 節 第 4 章の考察

培養苗および馴化苗を用いて LED 光照射処理した植物体の生育を比べると,馴化苗は全て

の形質で培養苗よりも大きかった.これは,馴化期間を含め単に栽培期間が 2 倍に延長され

たためと考えられる.しかし,両者には共通した特徴と若干の違いが認められた.すなわち,

赤区における葉の巻き込みや青区における旺盛な成長は,共通する特徴であった.一方,培

養苗で認められた青区における葉の赤い着色は,馴化苗では確認されなかった.一般に,葉

物野菜の生育に必要な光強度は 150-300µmol·m-2·s-1 だが (後藤,2008),エゾワサビの自生地

は山岳の渓流沿いであるため,生育に強い光を必要としない.実際に 75µmol·m-2·s-1の光を植

物体に照射した場合,波長ごとに生育量の違いは認められるが,植物体の葉身部は食用とし

て十分な大きさまで生長した.

次に,波長の影響について論じる前に,本試験で,植物体に照射する光の強度を光子量の

単位で統一させた理由を述べる.これは,光合成の光化学反応量が光量子数と比例するため

である (後藤,2008).すなわち,植物体に照射された光の波長にかかわらず,形態形成,蒸

散速度および呼吸量などが同じであれば,光合成により得られた炭素固定量は一定であり,

総乾物重量は同じになるはずだからである.しかし,本試験の各種 LED 光照射下で栽培した

植物体における総乾物重量を比較すると,青 (単独) 区が他の区よりも値が高く,光波長は

総乾物重にも影響を及ぼしたことがわかる.植物の葉における光の吸収は,赤および青色光

は 90%以上であり,緑色光はそれより低いことが知られているが,緑色光も葉内部への篩効

果および寄り道効果などにより,吸収率が 70%以上となるとの報告もある (Terashima et al.,

2009).従って,光波長と乾物重との関係は単純ではないと考えられる.青色光照射による乾

物重増大効果と関連して,青色光照射は気孔を開口させ CO2ガス拡散を促進することが知ら

れている (島崎および木下,2001;後藤, 2008).また,Kopsell et al. (2013, 2014) は,ブロッ

コリーの実生を様々な光波長の下で栽培した場合,青色光が含まれる区の茎葉におけるリン,

カルシウム,マグネシウム,カルシウム,イオウ,ホウ素,銅,鉄,マンガン,モリブデン,

ナトリウムおよび亜鉛含量が増加し,青色光照射強度とその含量には正の相関が認められる

ことを報告した.従って,本研究の青色光照射区で総乾物重が高かった原因として,二酸化

炭素および無機イオンの吸収量が増加した可能性が挙げられる.

また,本章において,馴化苗を用いるほうが食用に適する大きさの植物体を得るのに適し

ていたため,次章以降では,全て馴化苗を用いて実験を行った.

98

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第 5 章 エゾワサビの機能性成分含量および硝酸態窒素含量に及ぼす LED 光波長の影響

第 4 章で,エゾワサビ植物体の生育量を増大させるのに有効な光波長を明らかにしたが,

機能性成分含量もまた,照射される光波長の影響を受ける.Wang et al. (2011) はシロイヌナ

ズナの葉に UV-B を照射すると,1 時間後に 4-methylsulfinylbutyl GSL および indole-3-ylmethyl

GSL が増加し,これらの生合成に関わる酵素遺伝子の発現量も増加することを報告した.さ

らに,Engelen-Eigles et al. (2006) は,メタルハライドランプに赤色光を混ぜて照射すると,

クレソンの gluconasturtin 含量が増加することを報告した.また,Ohashi-Kaneko et al. (2007) は

様々な波長の下でレタス,ホウレンソウおよびコマツナを栽培した場合,カロテノイドおよ

びアスコルビン酸含量が変化し,その態様は植物種により異なることを報告した.また,庄

子ら (2010) は,青 LED 光をレッドリーフレタスに照射するとアントシアニン生合成に関与

する酵素遺伝子 (CHS,DFR,F3H,ANS および UFGT) の発現量が上昇し,アントシアニン

含量が増加することを報告した.従って,エゾワサビについても,光波長が機能性成分含量

に及ぼす影響を調べることは有益と考えられる.

他方,植物体が硝酸態窒素を過剰に摂取すると毒性のある亜硝酸ナトリウムおよびニトロ

ソアミンが生成することが知られている.特に,過剰な化学肥料が投与され弱光条件化で栽

培すると葉の硝酸態窒素含量が高まることが知られており,EU では野菜に含まれる硝酸態

窒素濃度に基準値が設けられている (高辻ら,2008).エゾワサビは,サラダなどとして生食

利用が想定されるため,硝酸態窒素含量が少ないことが望ましい.

そこで,本章では機能性成分含量に富み,なおかつ硝酸態窒素含量が少ないエゾワサビ植

物体を育成するのに適した光環境条件の解明を目的として,機能性成分および硝酸態窒素含

量に及ぼす LED 光照射波長の影響を調査した.

99

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第 1節 GSL含量に及ぼす LED光波長の影響

材料および方法

(1) 材料

第 4章,第 2節と同一の植物体葉身部凍結乾燥粉末を用いた.

(2) 抽出,脱硫化およびHPLC-PDA

第 3章,第 1節と同様に行った.

結果および考察

エゾワサビ葉身部の GSL含量に及ぼす LED光波長の影響を見たところ,総 GSL含量は,

赤+青区で対照区に比べ高く,赤区および緑区では低かった (第 49図).次に,GSL組成に及

ぼす光波長の影響を見たところ,全区で gluconapinが最も高い割合で含まれていた.次に,

GSLの組成比を調べたところ,インドールGSL含量の脂肪族GSL含量に対する比は,赤区

および緑区で高いことがわかり,統計的有意差も確認された (第 50図).青 (単独) 区,赤+

青区および対照 (白) 区には光量は異なるが青色光波長が含まれている.このことは,青色

光波長が脂肪族 GSL含量を増加させ,インドール GSL含量を減少させる作用を有すること

を示している.従って,GSL組成と青色光波長との関連についてはさらに詳しく調べる必要

がある.

100

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0

10

20

30

40

50

60

DS-G

SL含量

含量

含量含量

(mg g

-1DW

)

a

b

ab

b

b

DS-glucobrassicin

DS-glucoibarin

DS-gluconapin

対照対照対照対照 (白白白白) 赤赤赤赤 青青青青 緑緑緑緑 赤赤赤赤+青青青青

第49図 エゾワサビ葉身部のDS-GSL含量に及ぼすLED光波長の影響.平均値±SE (n=3).同一英文字間に有意差なし (Tukey検定;P<0.05).

101

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0

0.04

0.08

0.12

0.16

c

a

c

b

c

GSL組成比

組成比

組成比

組成比

( インドール

インドール

インドール

インドール

/ 脂肪族

脂肪族

脂肪族

脂肪族

)

対照対照対照対照 (白白白白) 赤赤赤赤 青青青青 緑緑緑緑 赤赤赤赤+青青青青

第50図 エゾワサビ葉身部のDS-GSL組成比に及ぼすLED光波長の影響.脂肪族:gluconapin,glucoibarin;インドール:glucobrassicin.平均値±SE (n=3).誤差線は組成比のSE (n=3) を表す.同一英文字間に有意差なし (Tukey検定;P<0.05).

102

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第 2 節 抗酸化成分含量に及ぼす LED光波長の影響

材料および方法

(1) 材料

第 4 章,第 2 節と同一の植物体葉身部凍結乾燥粉末を用いた.

(2) DFSM およびフラボノイド

抽出および分析は第 3章,第 1 節と同様に行った.

(3) 総ポリフェノール

抽出は,材料 1gに 80%MeOH 100mL を加え,3時間震盪抽出し,遠心分離 (13.000×g,10

分) 後の上清を分析試料とした.分析はMaeda et al. (2005) の方法 (改良 Folin-Denis 法) に従

い,96 穴のマイクロプレートの各ウェルに分析試料を 150µL ずつ分注後,タングステン酸

Na 50g,リンモリブデン酸 10g,リン酸 25mL と蒸留水約 500mL を混合・還流煮沸後,蒸留

水1000mLでメスアップした50%Folin-Denis試薬75µLを添加し,混和した.次に,2.5%Na2CO3

溶液 75µL を加え,室温に 60 分間静置後,マイクロプレートリーダー (BIO-RAD Model 550)

を用い,吸光度 (A700) を測定した.また,予め用意したケルセチン標準溶液 (0-20ppm) を

同時に分析し,検量線を作成した.これに基づき試料の総ポリフェノール含量をケルセチン

当量として算出した.分析は,1 つの試料につき 3回ずつ行い,結果を平均値±SE (n=3) で表

した.また Tukeyの方法により,5%水準で平均値間の有意性を検定した.

(4) 総アスコルビン酸

抽出は,材料 1g に,2%チオ尿素-5%メタリン酸溶液 10mL およびを加えた後,5%メタリ

ン酸を 80mL 加え,30 分震盪抽出し,遠心分離 (13.000×g,10 分) 後の上清を分析試料とし

た.分析はヒドラジン比色法 (真部,2003年) に従い,96 穴のマイクロプレートの各ウェル

に分析試料を 40µL ずつ分注後,0.03%インドフェノール溶液を 20µL,2%チオ尿素-5%メタ

リン酸溶液を 40µL,2%ジニトロフェニルヒドラジン溶液を 20µL 順次分注し,37℃で,3 時

間反応させた.次に,85%硫酸 100µLを各ウェルに分注し 30分間静置後,マイクロプレート

リーダー (パワースキャンHT,DS ファーマバイオメディカル) を用い,吸光度 (A520) を測

103

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定した.また,予め用意した L-アスコルビン酸標準溶液 (0-3mg/100mL) を同時に分析し,

検量線を作成した.これに基づき試料の総アスコルビン酸含量を算出した.分析は,1 つの

試料につき 3回ずつ行い,結果を平均値±SE (n=3) で表した.また Tukeyの方法により,5%

水準で平均値間の有意性を検定した.

結果および考察

エゾワサビ葉身部の抗酸化成分含量に及ぼす LED光波長の影響を見たところ,青区および

赤+青区のDFSM含量は,対照区と同等となり,赤区および緑区で低かった (第 51図).また,

ケルセチン,ケンフェロールおよび総ポリフェノール含量は,青区および赤+青区で対照区

に比べて高く,赤区および緑区で低かった (第 52, 53 図).従って,青 (単独) または赤+青

LED照射光はエゾワサビ葉身部でDFSM,ケルセチン,ケンフェロールおよび総ポリフェノ

ール含量を増加させるものと考えられる.一方,総アスコルビン酸含量に及ぼす LED光波長

の影響は確認されなかった (第 54図).

104

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DFSM含量

含量

含量含量

(µg g

-1DW

)

a

b

a

b

a

対照対照対照対照 (白白白白) 赤赤赤赤 青青青青 緑緑緑緑 赤赤赤赤+青青青青

第51図 エゾワサビ葉身部のDFSM含量に及ぼすLED光波長の影響.平均値±SE (n=3).同一英文字間に有意差なし (Tukey検定;P<0.05).

105

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ケルセチン含量

ケルセチン含量

ケルセチン含量

ケルセチン含量

(µg g

-1DW

)

a

N.D.

a

b

b

ケンフェロール含量

ケンフェロール含量

ケンフェロール含量

ケンフェロール含量

(µg g

-1DW

)

a

b

a

b

b

A

B

対照対照対照対照 (白白白白) 赤赤赤赤 青青青青 緑緑緑緑 赤赤赤赤+青青青青

第52図 エゾワサビ葉身部のケルセチン (A) およびケンフェロール (B)

含量に及ぼすLED光波長の影響.平均値±SE (n=3).同一英文字間に有意差なし (Tukey検定;P<0.05).

対照対照対照対照 (白白白白) 赤赤赤赤 青青青青 緑緑緑緑 赤赤赤赤+青青青青

106

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総ポリフェノール含量

総ポリフェノール含量

総ポリフェノール含量

総ポリフェノール含量

(mg quercetin E

Q g

-1DW

)

b

d

a

cc

第53図 エゾワサビ葉身部の総ポリフェノール含量に及ぼすLED光波長の影響.平均値±SE (n=3).同一英文字間に有意差なし (Tukey検定;P<0.05).

対照対照対照対照 (白白白白) 赤赤赤赤 青青青青 緑緑緑緑 赤赤赤赤+青青青青

107

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0

1

2

3

4

5

総アスコルビン酸含量

総アスコルビン酸含量

総アスコルビン酸含量

総アスコルビン酸含量

(mg L

-ascorb

ic acid E

Q g

-1DW

)

第54図 エゾワサビ葉身部の総アスコルビン酸含量に及ぼすLED光波長の影響.平均値±SE (n=3).

対照対照対照対照 (白白白白) 赤赤赤赤 青青青青 緑緑緑緑 赤赤赤赤+青青青青

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第 3 節 硝酸態窒素含量に及ぼす LED 光波長の影響

材料および方法

(1) 材料

第 4 章,第 2 節と同一の植物体葉身部および第 2 章,第 1 節で用いたクレソン,ミズナの

可食部の凍結乾燥粉末を用いた.

(2) 分析方法

材料 100mg に脱イオン水 10mL を加え,45℃で 1 時間抽出後,遠心分離 (13.000×g,10 分)

した上清を分析試料とした.分析は,Cataldo 法に従い,試験管に試料 50µL を分注後,5%サ

リチル酸-硫酸液を 200µL 加えた.次に,室温で 20 分間静置後,2N NaOH 5mL を分注し攪拌

した.次に,室温で 20 分間静置後,マイクロプレートリーダー (パワースキャン HT,DS

ファーマバイオメディカル) を用い,吸光度 (A410) を測定した.また,予め用意した 5mM

硝酸イオン標準溶液 (0,8.78,17.5,35,70mg/100mL) を同時に分析し,検量線を作成した.

また,サリチル酸-硫酸液の代わりに濃硫酸を添加した区を設け,ブランクとした.これらの

測定値に基づき試料中の硝酸態窒素濃度を算出した.分析は,1 つの試料につき 3 回ずつ行

い,結果を平均値±SE (n=3) で表した.また Tukey の方法により,5%水準で平均値間の有意

性を検定した.

結果および考察

エゾワサビ葉身部の硝酸態窒素濃度及び硝酸イオン濃度に及ぼす LED 光波長の影響を見

ると,いずれも赤+青区で他区より低い値を示し,青区との間には統計学的有意差も確認で

きた (第 55 図).また,市販のアブラナ科作物について測定した硝酸態窒素および硝酸イオ

ン濃度は,クレソンで 12.62 mg g-1 DW および 3451.43 mg kg-1 FW ,ミズナで 3.69mg g-1 DW

および 3451.43 および 1036.03 mg kg-1 FW を示した.本研究において,エゾワサビ葉身部の硝

酸態窒素および硝酸イオン濃度は,すべてクレソンよりも低かったことから,本研究の栽培

条件下で生育したエゾワサビの無機態窒素濃度は,野菜として利用する場合問題とならない

低いレベルにあることが明らかになった.

109

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NO

3-N

濃度

濃度

濃度濃度

(mg g

-1DW

)

b

aa ab

ab

ANO

3-濃度

濃度

濃度濃度

(mg kg-1FW

)

0

1000

2000

3000

4000

b

ab

a

abab

B

第55図 エゾワサビ葉の硝酸態窒素濃度 (A) および硝酸態イオン濃度(B) に及ぼすLED光波長の影響.平均値±SE (n=3).同一英文字間に有意差なし (Tukey検定;P<0.05).

対照対照対照対照 (白白白白) 赤赤赤赤 青青青青 緑緑緑緑 赤赤赤赤+青青青青

対照対照対照対照 (白白白白) 赤赤赤赤 青青青青 緑緑緑緑 赤赤赤赤+青青青青

110

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第 4 節 第 5 章の考察

エゾワサビ葉身部の GSL 含量に及ぼす LED 光波長の影響を見たところ,青色波長が含ま

れた区で,総 GSL および脂肪族 GSL 含量が増加し,インドール GSL 含量が減少した.

Antonious et al. (1996) は白,青および緑色光を各々反射するマルチを施してカブを露地栽培

し,青色反射光照射条件下で総 GSL 含量が増加することを認め,GSL の生合成に青色光が

関与することを報告した.Kopsell et al. (2013) は,ブロッコリー幼植物体を赤+青 LED 照射

光 (350µmol·m-2·s-1) 下で 8 日間栽培後,次の 5 日間を青 LED 光 (41µmol·m-2·s-1) 単独照射条

件下で栽培した場合,赤+青 LED 光照射条件下で継続して栽培した場合と比べて脂肪族およ

び芳香族 GSL の両方が増加したことを報告した.本試験においても,エゾワサビ植物体へ青

色光を照射した場合,脂肪族 GSL 含量の増加が確認された.また,Huseby et al. (2013) は,

フィトクロムおよびクリプトクロムの下流で制御されている転写因子である HY5 の変異株

に白色光を照射した場合,脂肪族 GSL の転写因子 (MYB28,29 および 76) の遺伝子発現量

が野生株よりも増加するのに対し,インドール GSL の転写因子 (MYB34 および 122) は減少

することを報告した.従って,青色光照射により脂肪族およびインドールGSL の組成比が変

化したことと,HY5 および光受容体の活性の変化には関連があるものと推測される.

次に,エゾワサビ葉身部の抗酸化成分含量に及ぼす LED 光波長の影響を見たところ,アス

コルビン酸以外の抗酸化成分は青 (単独) 区および赤+青区で増加した.DFSM のような

Phenolamides は植物が生成する二次代謝産物で,主に生殖器官に集積し,生育やストレスに

応答するが,生物学的な役割はあまりわかっていない (Bassard et al., 2010).Grienenberger et al.

(2009) および Bassard et al. (2010) はシロイヌナズナから検出された,N1,N5-di

(hydroxyferuloyl) -N10-sinapoylspermidine が hydroxycinnamoyl-CoA esters とスペルミジンの結合

により合成されることを報告した.DFSM の生合成経路はわかってはいないが,おそらくヒ

ドロキシ桂皮酸およびポリアミン (スペルミン) が DFSM 生合成の重要な基質であると考え

られる.また,Wu et al. (2012) は Protea cynaroides L へ赤 LED 光単独照射した場合,ヒドロ

キシ桂皮酸のフェルラ酸含量が蛍光灯,青 LED 光 (単独) または赤+青色 LED 光 (PPF=1:1)

照射区に比べて減少することを報告した.これは,青色光がヒドロキシ桂皮酸の増加に関与

することを示唆している.従って,青色光照射によりヒドロキシ桂皮酸含量が増加し,それ

を基質として合成されるDFSM の含量も増加したのではないかと考えられる.この仮説につ

いては,今後さらなる検証が必要である.

111

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次に,エゾワサビ植物体に青 LED 光 (単独) および赤+青 LED 光を照射した場合,ケル

セチンおよびケンフェロール含量が増加した.Ebisawa et al. (2008) は青,赤および白色蛍光

灯照射条件下でレタスを栽培した場合,青色蛍光灯照射区により,ケルセチン含量およびそ

の生合成に関わる Flavonol synthase (FLS) の発現量が増加し,これらの増加に青色光受容体

が関与していることを指摘した.この点は本研究の青 LED 光 (単独) 区でケルセチンおよび

ケンフェロール含量が増加し,総ポリフェノール含量も増加した事実と一致する.

一方,本研究でアスコルビン酸含量に及ぼす LED 光波長の影響は認められなかった.

Ohashi-Kaneko et al. (2007) は,青色蛍光灯を照射したレタスおよびコマツナや赤+青色蛍光灯

を照射したホウレンソウでは,白色蛍光灯下で育てた場合と比べて総アスコルビン酸含量が

多いことを報告した.本研究結果はこれと矛盾するが,植物種の違いがその原因であると考

えられる.

次に,LED 光波長がエゾワサビ葉身部の硝酸態窒素および硝酸イオン濃度に及ぼす影響を

見たところ,赤+青 LED 光照射区で他区よりも値が低くなる傾向が認められ,それ以外の区

に差は認められなかった.植物に含まれる硝酸態窒素は,摂取した際に生体内においてその

一部が毒性のある亜硝酸ナトリウムやニトロソアミンとなる (高辻ら,2008).1995 年に,

FAO/WHO 合同食品添加物専門家会合 (JECFA) は,体重 1kg 当たりの硝酸態イオンの一日許

容摂取量は,0-3.7 mg/kg/体重/日と推定した (農林水産省).JECFA は,野菜は硝酸塩の主要

な摂取源となり得るが,野菜の健康機能性もよく知られているため,硝酸塩の摂取量および

野菜中の含有量について基準値を設定することは不適当であると発表した (農林水産省).し

かし,EU では野菜に含まれる硝酸態窒素濃度に基準値を設けていることから,日本で栽培

された高機能性野菜も,この基準を満たさない限り EU に輸出できないことになる.本研究

で栽培したエゾワサビ葉身部の硝酸態イオン濃度は,1794 (赤+青区) から 3095 (青 (単独)

区) mg kg-1 FW で,2011 年に EU が定めた施設栽培レタスの硝酸態イオン濃度の基準値 (4000

から 5000 mg kg-1 FW)を下回っている.また,仮に最も硝酸態窒素化合物濃度が高かった青区

の硝酸イオン濃度を,JECFA が定めた許容摂取量に合わせて,生重量ベースに換算すると,

体重 50kg の人間に対してエゾワサビ生重約 62g を摂取する計算になる.青区で栽培したエゾ

ワサビの葉 1 枚は,生重約 0.1g であるため,エゾワサビのみを摂取する場合この基準値に到

達する葉の枚数は約 597 枚/日となる.従って,この点からも本研究で使用したエゾワサビの

窒素濃度に問題のないことが確認できる

112

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第 6 章 エゾワサビ植物体の抗酸化能に及ぼす LED 光波長の影響

本論文第 5 章では,エゾワサビ植物体に各種 LED 光照射処理をした場合,抗酸化成分であ

る DFSM,ケルセチンおよびケンフェロールを含む機能性成分含量が,青 (単独) 区および

赤+青区において増加したことを述べた.従って,それらの処理区で栽培した植物体の抗酸

化活性は増加していると推測できる.しかし,活性酸素種には O2·-,HO·,ROO·および RO·

(アルコキシラジカル) など,さまざまな種類があるが,本論文の第 2 章で示したとおり,抗

酸化成分の種類により活性酸素消去能は異なるため,抗酸化成分の増加が,直接活性酸素の

減少につながるかは不明である.従って,抗酸化能に富むエゾワサビ植物体の生育に適する

LED 光照射処理条件を明らかにするには,複数の活性酸素種に対する消去活性を測定し,総

合的に評価する必要がある.

そこで本章では,各種 LED 光照射処理条件下で栽培したエゾワサビ植物体の抗酸化活性を

DPPH 法,ORAC 法および ESR スピントラップ法により測定し,機能性成分含量との関連を

調査した.

113

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第1節 エゾワサビ抽出物の各種ラジカル消去活性に及ぼすLED光波長の影響ならびに各

種機能性成分含量と抗酸化能との関連

材料および方法

(1) 材料

第 4章,第 2節と同一の植物体葉身部凍結乾燥粉末を用いた.

(2) 抽出およびDPPH法

第 2章,第 1節と同様に行った.

(3) 抽出およびORAC法

第 2章,第 1節と同様に行った.

(4) 抽出および ESRスピントラップ

抽出は材料 1g に MWA 溶液 100mL を加え,3 時間震盪抽出し,遠心分離 (13.000×g,10

分) 後の上清を分析試料とした.

1 O2-ラジカル消去活性

分析は,第 2章,第 5節と同様に行った.

2 OHラジカル消去活性

分析は,第 2章,第 5節と同様に行った.

(5) 相関図の作成

本節で測定したDPPH,ROO,O2-およびOHラジカル消去活性値の相関図を作成し,各々

の関連を調べた.さらに,第 5章で調査したDFSM,ケルセチン,ケンフェロール,ポリフ

ェノールおよび総アスコルビン酸含量,ならびに本節で測定した DPPH,ROO,O2-および

OH ラジカル消去活性値をもとに相関図を作成し,各々の関連を調べた.相関はピアソンの

積率相関係数および t検定を用いて,5%または 1%水準で有意性を検定した.

114

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結果および考察

エゾワサビ葉身部抽出物の DPPH ラジカル消去活性に及ぼす LED 光波長の影響を見たと

ころ,青区および赤+青区で他区より高い値を示し,統計的有意差も確認できた (第 56 図).

次に,ROOラジカル消去活性に及ぼす LED光波長の影響をORAC法で見たところ,青区お

よび赤+青区で他区より高い値を示し,統計的有意差も確認できた (第 57 図).さらに,O2-

および OHラジカル消去活性に及ぼす LED光波長の影響を ESRスピントラップ法で見たと

ころ,O2-ラジカル消去活性は,青区および赤+青区で他区より高い値を示し,統計的有意差

も確認できたが,OH ラジカル消去活性はすべての処理区で同様の値を示し,差は確認され

なかった (第 58および 59図).従って,青 (単独) または赤+青光波長はエゾワサビ葉身部で

DPPH,ROOおよびO2-ラジカルを消去する物質を増加させるが,OHラジカル消去活性とは

関連しない考えられる.また,本節で測定したDPPH,ROO,O2-およびOHラジカル消去活

性値の相関図を作成し,各々の関連を調べたところ,DPPHとROOラジカル消去活性との間

には,高い正の相関 (R²=0.98) が見られ統計学的な有意差も確認できた (第 60 図).また,

DPPHとO2-ラジカル消去活性との間およびROOとO2

-ラジカル消去活性との間にも高い正の

相関が認められ (R²=0.90;R²=0.95) ,いずれも統計学的有意差が確認できた.一方,OH ラ

ジカルと他のラジカル種との間には,相関が認められなかった.この結果は,DPPH,ROO

および O2-ラジカルの消去活性に関わる抗酸化成分は類似するものであることを示唆してい

る.

次にこれら抗酸化活性値と機能性成分含量との相関を見たところ,DPPH,ROOおよびO2-

ラジカル消去活性値と DFSM,ケルセチン,ケンフェロールおよび総ポリフェノール含量の

間にそれぞれ高い正の相関 (DPPH·,R²>0.75;ROO·,R²>0.85;O2·-,R²>0.80) が確認され,

統計学的有意差も認められた (第 61図).しかし,DPPH,ROOおよびO2-ラジカル消去活性

値と総アスコルビン酸含量との間に相関は認められなかった.また,OH ラジカルと定量し

たすべての機能性成分含量との間に相関は認められなかった.従って,青 (単独) 区および

赤+青区におけるDPPH,ROOおよびO2-ラジカル消去活性値の増加には,DFSM,ケルセチ

ン,ケンフェロールなどのフェノール化合物が関与しており,アスコルビン酸は関与してい

ないものと考えられる.

115

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DPPHラジカル消去活性値

ラジカル消去活性値

ラジカル消去活性値

ラジカル消去活性値

(µmol Tro

lox E

Q g

-1DW

)

a

c

a

bb

第56図 エゾワサビ葉身部抽出物のDPPHラジカル消去活性 (DPPH法) に及ぼすLED光波長の影響.平均値±SE (n=3).同一英文字間に有意差なし (Tukey検定;P<0.05).

対照対照対照対照 (白白白白) 赤赤赤赤 青青青青 緑緑緑緑 赤赤赤赤+青青青青

116

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RO

Oラジカル消去活性値

ラジカル消去活性値

ラジカル消去活性値

ラジカル消去活性値

(µm

ol Tro

lox E

Q g

-1DW

)

0

100

200

300

a

c

a

bc

b

第57図 エゾワサビ葉身部抽出物のROOラジカル消去活性 (ORAC法)に及ぼすLED光波長の影響.平均値±SE (n=3).同一英文字間に有意差なし (Tukey検定;P<0.05).

対照対照対照対照 (白白白白) 赤赤赤赤 青青青青 緑緑緑緑 赤赤赤赤+青青青青

117

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O2-ラジカル消去活性値

ラジカル消去活性値

ラジカル消去活性値

ラジカル消去活性値

(µm

ol α-Lip

oic acid E

Q g

-1DW

)

a

b

a

bb

第58図 エゾワサビ葉身部抽出物のO2-ラジカル消去活性 (ESRスピン

トラップ法)に及ぼすLED光波長の影響.平均値±SE (n=3).同一英文字間に有意差なし (Tukey検定;P<0.05).

対照対照対照対照 (白白白白) 赤赤赤赤 青青青青 緑緑緑緑 赤赤赤赤+青青青青

118

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OHラジカル消去活性値

ラジカル消去活性値

ラジカル消去活性値

ラジカル消去活性値

(mm

ol asc

orb

ic acid E

Q g

-1DW

)

第59図 エゾワサビ葉身部抽出物のOHラジカル消去活性 (ESRスピントラップ法)に及ぼすLED光波長の影響.平均値±SE (n=3).

対照対照対照対照 (白白白白) 赤赤赤赤 青青青青 緑緑緑緑 赤赤赤赤+青青青青

119

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R² = 0.1138

0

10

20

30

40

3 8 13

R² = 0.04380

50

100

150

200

250

300

3 8 13

R² = 0.8994

0

10

20

30

40

3 1003 2003

(p<0.05) n=5

R² = 0.9788

0

10

20

30

40

3 103 203 303

(p<0.01) n=5

(p<0.01) n=5

第60図 各種LED光照射条件下で栽培したエゾワサビ葉身部抽出物におけるDPPH,ROO, O2

-およびOHラジカル消去活性どうしの相関図.

DPPH ラジカル消去活性値

ラジカル消去活性値

ラジカル消去活性値

ラジカル消去活性値

DPPH ラジカル消去活性値

ラジカル消去活性値

ラジカル消去活性値

ラジカル消去活性値

DPPH ラジカル消去活性値

ラジカル消去活性値

ラジカル消去活性値

ラジカル消去活性値

ROO ラジカル消去活性値ラジカル消去活性値ラジカル消去活性値ラジカル消去活性値

ROO ラジカル消去活性値

ラジカル消去活性値

ラジカル消去活性値

ラジカル消去活性値

O2-ラジカル消去活性値ラジカル消去活性値ラジカル消去活性値ラジカル消去活性値

OHラジカル消去活性値ラジカル消去活性値ラジカル消去活性値ラジカル消去活性値

OHラジカル消去活性値ラジカル消去活性値ラジカル消去活性値ラジカル消去活性値

O2-ラジカル消去活性値ラジカル消去活性値ラジカル消去活性値ラジカル消去活性値

ROO ラジカル消去活性値

ラジカル消去活性値

ラジカル消去活性値

ラジカル消去活性値

O2-ラジカル消去活性値ラジカル消去活性値ラジカル消去活性値ラジカル消去活性値

OHラジカル消去活性値

ラジカル消去活性値

ラジカル消去活性値

ラジカル消去活性値

120

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DPPHラジカルラジカルラジカルラジカル

ROOラジカルラジカルラジカルラジカル

DFSM含量含量含量含量 ケルセチン含量ケルセチン含量ケルセチン含量ケルセチン含量 ケンフェロール含量ケンフェロール含量ケンフェロール含量ケンフェロール含量 総ポリフェノール含量総ポリフェノール含量総ポリフェノール含量総ポリフェノール含量 総アスコルビン酸含量総アスコルビン酸含量総アスコルビン酸含量総アスコルビン酸含量

(p<0.01) n=5

(p<0.01) n=5

(p<0.05) n=5

(p<0.05) n=5

(p<0.05) n=5 (p<0.05) n=5

(p<0.05) n=5 (p<0.05) n=5

OHラジカルラジカルラジカルラジカル

R² = 0.83230

500

1000

1500

2000

300 800

R² = 0.97040

500

1000

1500

2000

-10 40 90

R² = 0.95880

500

1000

1500

2000

-200 300 800 1300

R² = 0.96580

500

1000

1500

2000

2500

5 10 15 20

R² = 0.19340

500

1000

1500

2000

3 3.5 4 4.5

O2-ラジカルラジカルラジカルラジカル

(p<0.01) n=5(p<0.05) n=5 (p<0.01) n=5 (p<0.01) n=5

第61図 各種LED光照射条件下で栽培したエゾワサビ葉身部抽出物におけるDPPH,ROO, O

2-およびOHラジカル消去活性とDFSM,ケルセチン,ケン

フェロール,総ポリフェノールおよび総アスコルビン酸含量との相関図.

O2-ラジカル

ラジカル

ラジカル

ラジカル

消去活性値

消去活性値

消去活性値

消去活性値

DPPH ラジカル

ラジカル

ラジカル

ラジカル

消去活性値

消去活性値

消去活性値

消去活性値

ROO ラジカル

ラジカル

ラジカル

ラジカル

消去活性値

消去活性値

消去活性値

消去活性値

OHラジカル

ラジカル

ラジカル

ラジカル

消去活性値

消去活性値

消去活性値

消去活性値

DFSM含量含量含量含量 ケルセチン含量ケルセチン含量ケルセチン含量ケルセチン含量 ケンフェロール含量ケンフェロール含量ケンフェロール含量ケンフェロール含量 総ポリフェノール含量総ポリフェノール含量総ポリフェノール含量総ポリフェノール含量 総アスコルビン酸含量総アスコルビン酸含量総アスコルビン酸含量総アスコルビン酸含量

DFSM含量含量含量含量 ケルセチン含量ケルセチン含量ケルセチン含量ケルセチン含量 ケンフェロール含量ケンフェロール含量ケンフェロール含量ケンフェロール含量 総ポリフェノール含量総ポリフェノール含量総ポリフェノール含量総ポリフェノール含量 総アスコルビン酸含量総アスコルビン酸含量総アスコルビン酸含量総アスコルビン酸含量

DFSM含量含量含量含量 ケルセチン含量ケルセチン含量ケルセチン含量ケルセチン含量 ケンフェロール含量ケンフェロール含量ケンフェロール含量ケンフェロール含量 総ポリフェノール含量総ポリフェノール含量総ポリフェノール含量総ポリフェノール含量 総アスコルビン酸含量総アスコルビン酸含量総アスコルビン酸含量総アスコルビン酸含量

121

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第 2 節 第 6 章の考察

エゾワサビ葉身部抽出物の DPPH,ROO およびO2-ラジカル消去活性値は,青 (単独) 区お

よび赤+青区で他区より高い値を示し,これらの抗酸化活性値どうしには強い正の相関が認

められた.本研究で用いた DPPH 法,ORAC 法および ESR スピントラップ法は,測定原理が

異なる.たとえば,DPPH 法と ORAC 法について,DPPH 法は一電子供与反応,ORAC 法は

水素原子供与反応であり (Gulcin et al., 2012;Huang et al., 2005;Tabart et al., 2009) ,ESR スピ

ントラップ法は,電磁気学的原理を用いている.しかし,Tabart et al. (2009) は DPPH 法と ESR

スピントラップ (O2·-) との間に高い正の相関が見られることを報告し,Kameya et al. (2014)

は ORAC 法と ESR スピントラップ法 (O2·-) との間に高い正の相関が見られるのに対し,

ORAC 法と ESR スピントラップ (HO·) との間には相関が見られないことを報告した.本研

究における各ラジカル消去能どうしの関連も,上記 2 つの報告と一致している.従って,DPPH

法,ORAC 法および ESR スピントラップ法 (O2·-) におけるラジカル消去活性に関わる抗酸

化成分およびラジカル消去機構は ESR スピントラップ法 (HO·) のそれとは異なるものと考

えられる.

次に,抗酸化活性値と抗酸化成分含量との相関を見たところ,DPPH,ROO および O2-ラジ

カル消去活性値と DFSM,ケルセチン,ケンフェロールおよび総ポリフェノール含量との間

に高い正の相関が認められた.従って,植物体への青 (単独) および赤+青 LED 光照射処理

により,これらの抗酸化成分含量が増加し,それに伴い抗酸化活性も増加したものと考えら

れる.ところで,本論文第 2 章で DFSM はエゾワサビの主要な抗酸化成分であり,ケルセチ

ンおよびアスコルビン酸よりも OH ラジカル消去活性が高いことを述べた.しかし,本章で

ジフェロイルスペルミン含量と OH ラジカル消去活性は連動しなかった.この理由として,

本章ではエゾワサビに含まれるさまざまな化合物が混在した粗抽出液を用いて各種ラジカル

消去活性を測定したが,第 2 章では純度の高い単一化合物用いて抗酸化活性を測定した点を

挙げたい.すなわち,OH ラジカルは他のラジカル種に比べて反応性が極めて強く (10-9s),

容易に隣接する分子を酸化することが知られているため (Diplock et al., 1998;Gulcin et al.,

2012),複数の化合物が混在している試料液を用いて測定する場合,DFSM が直接 OH ラジカ

ルの消去に関与するものか疑問が残る.また,エゾワサビ葉身部の抗酸化成分の分画は DPPH

ラジカル消去活性値を指標に行ったため,抽出物の中で DFSM が最も OH ラジカル消去活性

が高い化合物であるのかについても不明である.さらに,Tabart et al. (2009) は抗酸化活性測

122

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定法の種類や配糖体化の有無によって活性値が異なることを報告している.本論文第 2章に

おいて,ケルセチンおよびケンフェロールは,エゾワサビ葉身部で配糖体化して存在するこ

とがわかっているが,配糖体が OHラジカル消去活性に及ぼす影響については不明である.

これらの理由から,DFSMおよびフラボノール含量と OHラジカル消去活性値の挙動が一致

しなかったのではないかと考えられる.

また,アスコルビン酸含量とすべての抗酸化活性値との間に相関は見られなかった点につ

いて,アスコルビン酸はO2-ラジカル,OHラジカルおよび一重項酸素の消去能があることが

知られており,植物の細胞ではアスコルビン酸-グルタチオンサイクルとして H2O2を消去す

る役割を担っている (Noctor et al., 1998), また Tabart et al. (2009) は,抗酸化能を有する化合

物の活性を数種類の抗酸化活性測定法を用いて比較し,アスコルビン酸の抗酸化能はフェノ

ール化合物に比べて低いことを報告した.従って,アスコルビン酸は in vivoと in vitroで活

性酸素消去反応の条件が異なることに加えて,それ自身の活性がフェノール化合物よりも低

いことが,抗酸化活性値との間に相関が見られなかった原因であると考えられる.

また,総 GSL 含量は青 (単独) 区および赤+青区で増加し,抗酸化活性値増加の挙動と一

致したことに関連して,GSLおよび ITC化合物はわずかに抗酸化能を有するが,これは異物

代謝酵素である phase1および phase2の活性を調節する間接的なもので,直接ラジカル種を消

去するものではない (Vig et al., 2009).従って,エゾワサビ植物体への青 (単独) および赤+

青 LED光照射処理による葉身部の抗酸化活性の増加は,主にフェノール化合物の集積に起因

するものと考えられる.

123

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第 7章 総合考察

エゾワサビは,もともと北海道に自生する山菜であり,葉身や葉柄部を食用とすることか

ら,含有する機能性成分を解明し,栽培技術を開発することにより,北海道ブランドの野菜

としての利用が期待できる植物である.そこで,本研究では,エゾワサビに含まれる機能性

成分の同定ならびに生育促進および機能性成分含量の増加に有効な光環境条件の解明を目指

した.

エゾワサビ植物体から,アブラナ科特有の機能性成分である GSL として gluconapin,

glucoibarin および glucobrassicin が検出され,gluconapin が主成分であることが明らかになっ

た.これらは,抗菌,心血管疾患およびガン予防などに有効な化合物である (Mithen et al.,

1986;Washida et al., 2010;Higdonm et al., 2007).また,これらのGSLから加水分解によって

生じる ITCは,エゾワサビが有するユニークな風味の源になっているほか,食中毒の原因と

り得る大腸菌 (E. coli) および食品の腐敗の原因となるアオカビなどに対し抗菌作用を有す

る (木戸,2009) ので,エゾワサビを食品の防腐剤として活用することも期待できる.さら

に,土壌病害菌 (P. tabacinumおよび F. oxysporum (木戸,2009) ) に対する抗菌活性も有する

ことから,バイオフューミゲーションの資材として活用することも期待される.

次に,エゾワサビの抗酸化能について見てみると,第 2章でエゾワサビ葉身部のDPPHお

よび ROO ラジカル消去活性は市販されたアブラナ科野菜に比べて値が高く (第 2 章),この

値を文献 (Maeda et al., 2006;Watanabe et al., 2012) 値と比較しても,DPPHラジカル消去活性

値 (コマツナの 1.15;キャベツの 1.60;ホウレンソウの 1.06;ピーマンの 1.08倍) およびROO

ラジカル消去活性値 (キャベツの 5.03,タマネギの 3.34,ミカンの 1.68,リンゴの 2.09倍) と

もに,高い値であることが明らかになった.そこで,葉身部抽出物を分画・精製し,最も抗

酸化活性が高い画分に含まれる化合物はDFSMであることが判明した.DFSMを含有するア

ブラナ科植物はこれまで報告されておらず,さらにDFSMが葉から検出された事例はこれま

でない.これらは,本論文で初めて明らかにすることができた知見である.このDFSMの抗

酸化活性を調べたところ ROO および O2ラジカル-消去活性はフェルラ酸と同程度であるが,

OH ラジカル消去活性は,ケルセチン,フェルラ酸,アスコルビン酸および Trolox よりも特

に高いことが明らかになった.また,DFSMは,血圧上昇抑制作用および抗寄生虫作用を有

することで知られるクコアミン (Funayama et al., 1980;Ponasik et al., 1995) とその構造が類似

しており,抗酸化成分以外の生理活性を有する可能性も考えられる.さらに,DFSM を化学

124

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的に合成する手法が確立できたため,上記のような生理活性を調べることも可能になった.

天然物由来の生理活性化合物はその安全面から消費者に好まれ,また法的な許可も簡単であ

る (Gulcin., 2012).この点においてもDFSMは優れている.また,DFSM以外の抗酸化成分

を調査したところ,ケルセチンおよびケンフェロール配糖体の存在が確認された.従って,

エゾワサビ葉身部は,これらの機能性成分が豊富に含まれており,抗酸化能の高い野菜とし

て利用価値が高いものと考えられる.

エゾワサビ葉に含まれる機能性成分組成が解明できたことから,エゾワサビの生育および

機能性成分含量に及ぼす LED光波長の影響を調査した.まず,照射光強度について見ると,

75µmol·m-2·s-1 (一般的な葉物野菜の生育に必要な光強度以下) でも,植物体の葉身部は食用と

して十分な大きさに生長することがわかった.次に,波長の影響を調べたところ,生育量お

よび総乾物重量は青 LED光照射区で良好となった.また,機能性成分含量は,アスコルビン

酸を除き青 (単独) 区および赤+青区で値が高く,抗酸化活性値 (OH ラジカル消去活性を除

く) も高い値を示した.この点に関して単純に青色光の照射量に依存すると考えると,赤+

青区の機能性成分含量は青区より低いはずであるが,実際には,両区で同程度の値を示した.

従って,機能性成分含量の増加には青色光だけではなく赤色光も相乗的に関与するものと考

えられる.異なる波長の相互作用と関連して,庄子ら (2010) は青,緑,赤および遠赤色の

蛍光灯を組み合わせて 100 µmol·m-2·s-1 になるように設定した光源を用いて,青色光の比率を

16または 56 µmol·m-2·s-1 に調節した光をレッドリーフレタスに照射した場合,56 µmol·m-2·s-1

で見られたアントシアニンの集積が,16 µmol·m-2·s-1 では見られなかったことを報告した.

これは,アントシアニンの集積に及ぼす青色光の作用には閾値が存在することを示している.

従って,エゾワサビについても青色光の作用をより詳細に解明するには,青色光の照射強度

(PPF) を変えて実験する必要があると思われる.

ところで,これまで述べた結果は,すべて植物体の光合成量が一定となるように,光強度

を光量子数 (µmol·m-2·s-1) で統一した条件下で行ったものである.しかし,光量子が持つエ

ネルギー量は波長が短くなるほど高くなり,長くなるほど低くなる.すなわち,青色光は赤

色光よりも消費するエネルギー量が多い.作物栽培における光波長の調節は植物工場のよう

な閉鎖型施設栽培で用いられることが多く,省エネルギーと植物体生育のバランスが重要で

ある.そこで,後藤ら (2008) の報告を参考に,本試験で用いた LEDの PPFをおおよその光

エネルギー量に換算し各処理区を比較した.たとえば本研究で用いた各種 LEDの PPFが 100

125

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µmol·m-2·s-1に設定した場合,青,緑および赤色光のエネルギー量はそれぞれ,28,23 および

18W m-2 であり,これをもとに単位エネルギーあたりの葉身部の総乾物重量中に含まれる機

能成分含量および抗酸化活性を算出したのが第 9 表である.投下エネルギー量当たりで各処

理区を比較した結果,青区の機能性成分含量および抗酸化活性値は他区に比べて高かった.

従って,青色光は,消費するエネルギー量が赤および緑色光よりも高いものの,機能性成分

含量および抗酸化活性を効率的に高めていたことがわかる.このことからも,エゾワサビを

機能性食品やサプリメントの原料向けに生産する場合,青 LED 光照射条件下で栽培する方法

が優れていると考えられる.

また,エゾワサビを生食する場合を考え,葉身部 1 枚当たりの機能成分含量および抗酸化

活性値を算出した結果が第 10 表である,この場合も,青区の機能性成分含量および抗酸化活

性値が高く,次いで赤+青区が高い値を示した.ただ,第 5 章で明らかにしたように青 (単独)

区で栽培したエゾワサビの硝酸態イオン濃度は赤+青区に比べて約 1.7 倍高かったことから

生食用として栽培するには,赤+青区が望ましいと考えられる.

本研究により,エゾワサビの栽培化に向けた基礎的知見として機能性成分の組成が明らか

になった.またこれらの成分を増加させるのに有効な光波長条件が明らかになった.エゾワ

サビは,北海道を自生地とし,北海道ブランドの新しい野菜として全国に普及することも夢

ではない.北海道は日本の農業の要であり,北海道農業の振興は国力の増強にもつながる.

今後,エゾワサビが,日本国内はもとより世界に発信され,農業の活性化およびヒトの健康

増進に利用されることを願う.

126

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抗酸化成分含量

(µg, ng/W

m-2

)

総ポリフェノール

GS

L含量

(µg/W

m-2

)

対照

(白) 区

赤 青 緑 赤+青

DF

SM

2.9

1.9

z

5.4

1.5

3.0

5

ラジカル消去活性

(nm

ol,

µ

mo

l/W

m-2

)

光源

ケルセチンケンフェロール

アスコルビン酸

glu

con

apin

glu

coib

arin

glu

cob

rass

icin

DP

PH

RO

OO

2-

HO

24

7.8

n.d

.

53

4.4

0.1

40

.2

2.8

0.4

6.4

0.3

1.1

48

.8

25

.2

10

5.7

23

.4

38

.1

11

.8

11

.8

23

.4

10

.01

15

.9

14

4.5

98

.6

24

2.2

76

.8

14

1.3

29

.98

19

.1

59

.6

16

.7

33

.5

9.3

12

.98

13

.6 8.4

7.9

12

7.9

55

.6

22

1.5

59

.1

10

4.0

2

0.8

0.3

1.5

0.3

0.6

6.7

0.4

10

.3

1.3

2.7

33

.8

40

.96

72

.4

21

.2

33

.4

cc

cc

c

aa

aa

aa

aa

aa

aa

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cc

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cc

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db

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b

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bb

bb

bb

bb

cc

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bb

bb

(µg)

(µg)

(µg)

(µg)

(µg)

(µg)

(µg)

(µm

ol)

(µm

ol)

(µm

ol)

(nm

ol)

(ng)

第9表投下したエネルギーあたりに換算したエゾワサビ葉身部に含まれる抗酸化成分および

GS

L含量ならびに抗酸化

活性値に及ぼす

LE

D光波長の影響.

Z平均値

(n=

3).同一英文字間に有意差なし

(Tukey検定;

P<

0.0

5).

127

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抗酸化成分含量

(µg, ng/枚

)

総ポリフェノール

GS

L含量

(µg/枚

)

対照

(白) 区

赤 青 緑 赤+青

DF

SM

5.5

2.3

z

7.9

7

3.1

5.2

ラジカル消去活性

(nm

ol,

µ m

ol/枚

)

光源

ケルセチンケンフェロール

総アスコルビン酸

glu

con

apin

glu

coib

arin

glu

cob

rass

icin

DP

PH

RO

OO

2-

OH

42

6.1n.d

.

78

3.4

0.2

2

75

.8

4.8

0.5

9.3

0.6 2.0

5

83

.95

30

.9

15

4.9

47

.7

71

.9

20

.3

14

.4

34

.4

20

.4

30

.1

24

8.4

12

0.8

3

35

5.1

15

6.4

26

6.4

51

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23

.5

87

.4

34

.05

63

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15

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15

.9

19

.9

17

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14

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21

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32

4.6

12

0.3

19

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11

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0.5

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58

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10

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62

.9

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bb

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(µg)

(µg)

(µg)

(µg)

(µg)

(µg)

(µg)

(µm

ol)

(µm

ol)

(µm

ol)

(nm

ol)

(ng)

第10表エゾワサビ生葉

1枚当たりに換算した抗酸化成分および

GS

L含量ならびに抗酸化活性値に及ぼす

LE

D光波長の影響.

Z平均値

(n=

3).同一英文字間に有意差なし

(Tukey検定;

P<

0.0

5).

ab b b ab

128

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摘要

エゾワサビの辛味および抗酸化成分を同定し,部位,系統および作物間で機能性の比較を

行った.さらに水耕栽培中のエゾワサビに各種 LED を単独または組合せて照射した場合の,

植物体の生育および機能性成分含量ならびに抗酸化活性を調査し,栽培化に適した光波長条

件を明らかにした.

1.辛味成分 (GSL) の同定

1) エゾワサビに含まれる GSL を同定したところ,gluconapin,glucoibarin および

glucobrassicin が主成分であることが明らかとなった.

2) エゾワサビ揮発性成分の抗菌活性を調査したところ,E. coli および P. tabacinum に増殖

抑制効果が認められた.

2.抗酸化成分の同定

1) エゾワサビの抗酸化活性を他の作物と比較したところ,クレソン,ミズナ,ブロッコリ

ーおよびキャベツに比べて高いことが判明した.

2) エゾワサビに含まれる抗酸化成分を分画したところ,抗酸化活性が最も高い画分から,

DFSM が検出された.従って,エゾワサビの主要な抗酸化成分は DFSM であることが明らか

となった.

3) DFSM の各種ラジカル消去活性を測定したところ,ROO,O2ラジカル-消去活性は,フ

ェルラ酸と同程度であるが,OH ラジカル消去活性は,ケルセチン,フェルラ酸,アスコル

ビン酸および Trolox よりも特異的に高い活性を示すことが明らかとなった.

4) エゾワサビに含まれるポリフェノールを分析したところ,ケルセチン,ケンフェロール

およびシアニジンが同定され,これらは配糖体化して存在することが明らかとなった.

3.機能性成分含量の部位間差および系統間差ならびに作物間の比較

1) エゾワサビの各部位について GSL を定量したところ,葉身部で最も高い値を示した.

次に,DFSM を定量したところ,葉身部のみから検出された.また,フラボノール類を定量

したところ,葉身部で最も高い値を示した.従って,葉身部は機能性成分含量に富む部位で

129

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あることが明らかとなった.

2) 美唄市,厚沢部町および豊富町で採取したエゾワサビは,外観が類似していた.美唄市

のエゾワサビから検出された GSL,DFSM およびフラボノールは,厚沢部町および豊富町に

自生していたエゾワサビからも検出され,系統間差も見られた.従って,本研究で同定した

機能性成分はエゾワサビの種としての特徴の一つであると考えられる.

3) エゾワサビの機能性成分含量を他の作物と比較したところ,GSL,ケルセチンおよびケ

ンフェロールは,クレソン,ミズナ,ブロッコリーおよびキャベツに比べ高かった.従って,

エゾワサビは野菜としての有用性が高い植物であると考えられる.

4.エゾワサビ植物体の生育に及ぼす LED 光波長の影響

1) 培養苗に青 LED 光を単独照射したところ,葉身長および葉数の増加が認められた.

2) 馴化苗に青 LED 光を単独照射したところ,葉数,葉身長および総乾物重が増加し,生

育旺盛となった.この場合,馴化苗の生長量は,培養苗に比べて旺盛であった.

従って,エゾワサビの生育量の増加には青 LED 光照射処理が有効であると考えられる.

5.エゾワサビの機能性成分含量および硝酸態窒素含量に及ぼす LED 光波長の影響

1) 植物体に青 LED 光 (単独) または赤+青 LED 光を照射したところ,総 GSL および脂肪

族 GSL 含量が増加した.一方,赤または緑 LED 光を単独で照射した場合,インドール GSL

が増加した.従って,青 LED 光照射処理は総 GSL 含量の増加に有効であり,脂肪族および

インドール GSL の組成を変化させる作用を有することが明らかとなった.

2) 植物体に青 LED 光 (単独)または赤+青 LED 光を照射したところ,DFSM,ケルセチン,

ケンフェロールおよび総ポリフェノール含量が増加したことから,これらの処理は機能性成

分含量の増加に有効であると考えられる.

3) 植物体に青 LED 光を単独で照射したところ,赤+青 LED 光照射区に比べて硝酸態窒素

濃度が増加した.しかし,この値は EU の施設栽培レタスで設定された基準値よりも顕著に

低く,北海道で市販されたクレソンと比較しても低い値であることが確認された.従って,

各種 LED 光照射処理条件下で栽培されたエゾワサビの葉身部は生食で利用しても問題がな

いものと考えられる.

130

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6.エゾワサビ植物体の抗酸化能に及ぼす LED光波長の影響

1) 植物体に青 LED光 (単独)または赤+青 LED光を照射したところ,DPPH,ROOおよび

O2-ラジカル消去活性が増加し,これらの間には正の相関が認められた.一方,各種 LED 光

を照射してもOHラジカル消去活性値に違いは見られなかった.

2) DPPH,ROOおよびO2-ラジカル消去活性値とDFSM,ケルセチン,ケンフェロールおよ

び総ポリフェノール含量との間に強い正の相関が認められた.

従って,青 LED光単独照射および赤+青 LED光の混合照射はエゾワサビの抗酸化能を高

めるのに有効な処理であると考えられる.

131

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謝辞

本研究の遂行および論文執筆に際し,多大なるご指導,ご助言およびご校閲の労を賜りま

した北海道大学大学院農学研究院准教授 鈴木 卓 博士に対し,深甚なる感謝の意を表しま

す.また,本論文作成にあたりご指導を賜りました北海道大学大学院農学研究院特任教授 増

田 清 博士,同教授 近藤則夫 博士,同准教授 松浦英幸 博士,同助教 志村華子 博士に対

し,衷心より感謝申し上げます.

北海道大学大学院農学研究院前教授 鈴木正彦 博士には,研究遂行に際しいつも暖かい励

ましの言葉を頂きました.同研究院講師 実山 豊 博士には,研究発表の際に,丁寧なご指

導を賜りました.(独)農研機構北海道農業研究センターの 杉山慶太 博士,嘉見大助 博士

および 村田奈芳 氏,ならびに同食品総合研究所の 渡辺 純 博士,亀谷 宏美 博士からは,

成分および抗酸化活性の機器分析に関するご指導を賜りました.北海道教育大学函館校教授

鵜飼光子 博士には,ESR スピントラップ法を用いた抗酸化活性評価について丁寧なご指導

を賜りました.北方山草会事務局の 五十嵐博 氏にはエゾワサビの自生地について,北海道

大学創成研共用機器管理センターの 岡 征子 氏には化合物のマススペクトル解析について

貴重なご助言を賜りました.各位に対し,謹んで感謝の意を表します.

北海道大学大学院農学研究院園芸学研究室の大先輩である 弘前大学農学生命科学部准教

授 前田智雄博士,卒業生の音喜多啓秀 博士および 木戸重範 氏には,研究に関する貴重な

アドバイスを沢山頂戴しました.また,実験遂行にご協力を頂いた,園芸学研究室の大学院

生および学生諸氏,ならびに北海道教育大学函館校の 山本久美子 氏をはじめとする学生諸

氏に,心より御礼申し上げます.

最後に,研究生活を支え励ましてくれた両親をはじめ家族全員に,深く感謝申し上げます.

132

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