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- 1 - ©Soyuzmultfilm Golden Eagle Award 2019  Best Animation

Golden Eagle Award 2019 Best Animation 賞- 3 - ソユーズムリトフィルムについて ソユーズムリトフィルムは1936年6月10日に設立された、ソビエト時代から続くロシアの国立アニメーション制作会社。80年以上の歴史を持ち、その間1500本以上の様々なジャンルのアニメーションを制作、ロシア国内外か

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Page 1: Golden Eagle Award 2019 Best Animation 賞- 3 - ソユーズムリトフィルムについて ソユーズムリトフィルムは1936年6月10日に設立された、ソビエト時代から続くロシアの国立アニメーション制作会社。80年以上の歴史を持ち、その間1500本以上の様々なジャンルのアニメーションを制作、ロシア国内外か

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Golden Eagle Award 2019 Best Animation 賞

Page 2: Golden Eagle Award 2019 Best Animation 賞- 3 - ソユーズムリトフィルムについて ソユーズムリトフィルムは1936年6月10日に設立された、ソビエト時代から続くロシアの国立アニメーション制作会社。80年以上の歴史を持ち、その間1500本以上の様々なジャンルのアニメーションを制作、ロシア国内外か

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ようこそ!めくるめく幻想の世界 ホフマンの物語へ

『チェブラーシカ』制作スタジオから “知的で美的な贈り物” 『ホフマニアダ ホフマンの物語』公開決定!!

『チェブラーシカ』(ロマン・カチャーノフ監督)、『霧につつまれたハリネズミ』(ユーリー・ノルシュテイン監督)の制作

スタジオとして著名なモスクワのソユーズムリトスタジオが15年の歳月をかけて紡ぎあげた異色ファンタジー『ホ

フマニアダ ホフマンの物語』が緊急公開されることが決定した。

主人公はドイツ幻想文学の巨匠E.T.A.ホフマン。『くるみ割り人形とネズミの王様』『黄金の壺』『砂男』といった代表

作の登場人物達とともに、現実世界と空想世界(アトランティス)を彷徨い続けるという、ホフマン文学の世界観に溢

れた作品である。

これは、狂気か!芸術か!?

『ホフマニアダ ホフマンの物語』は一コマずつ撮影を重ねるストップモーションで制作された長編アニメーションで、

パペットの衣装をはじめ、目や唇の動きまで意識した細部へのこだわりは狂気的ですらあります。クライマックスのシー

ンでは、総勢50体にのぼる人形たちが共演しており、その数はロシア・パペットアニメーション界の記録になっている。

もうひとつの『ホフマン物語』!

昨年末、ホフマン原作『くるみ割り人形と魔法の王国』が公開され話題を集めました。ホフマン関連の作品としては、

J.オッフェンバックによるオペラ『ホフマン物語』が有名です。また、その映画化『ホフマン物語』(1951年)はベルリン、

カンヌ両映画祭で受賞したオペラ映画の傑作です。そして新たに本作の登場と、“ホフマンの物語”は時代を超えて、

語り続けられています。

クレジット

原題: HOFFMANIADA

邦題: ホフマニアダ ホフマンの物語

制作: ソユーズムリトフィルム・アニメーションスタジオ(ロシア)

監督: スタニフラフ・ソコロフ

脚本: ヴィクトル・スラフキン、スタニスラフ・ソコロフ

キャラクター・デザイン: ミハイル・シュミアキン

音楽: シャンドル・カロシュ

監修: 木野光司

配給: リスキット

協力: 太秦/T&Kテレフィルム/Stylab

引用作品: E.T.A.ホフマンの著作から

『くるみ割り人形とネズミの王様』 『黄金の壺』

『砂男』『こびとツァヘスまたの名をツィノーバー』

『ブランビラ王女』他

(2018年/ロシア/ロシア語・日本語字幕/72分)

作品HomePage: http://www.hoffmaniada.net※予告編およびメイキング映像がご覧いただけます。

公式twitter: https//twitter.com/hoffmaniada

作品内容問い合わせ先: 株式会社リスキット 070-4280-6282 [email protected]

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ソユーズムリトフィルムについて

ソユーズムリトフィルムは1936年6月10日に設立された、ソビエト時代から続くロシアの国立アニメーション制作会社。80年以上の歴史を持ち、その間1500本以上の様々なジャンルのアニメーションを制作、ロシア国内外から数多くの賞を受賞している。ロシア文化を語る時には不可欠の組織である。日本でも『チェブラーシカ』(ロマン・カチャーノフ監督)、『霧につつまれたハリネズミ』(ユーリー・ノルシュテイン監督)の制作スタジオとして知られている。

『くるみ割り人形』について

『白鳥の湖』『眠れる森の美女』と並んで、チャイコフスキーの三大バレエ曲として知られる『くるみ割り人形』には原作が存在する。1816年に本作の主人公E.T.A.ホフマンによって発表された『くるみ割り人形とねずみの王様』である。それをフランスのアレクサンドル・デュマ親子がフランス語に翻訳したものを元に、バレエ組曲が生まれた。原作にはバレエ版では省略されたホフマンならではの夢と現実の間を浮遊するかのような不思議な世界が描かれており、そのテイストが本作にも色濃く表れています。『くるみ割り人形』はまた、昨年末ディズニーにより映画化され、ホフマン・ブームの口火を切りました。

『ホフマン物語』について

『ホフマン物語』は、フランスの作曲家ジャック・オッフェンバックによるオペラの演目です。本作の主人公E.T.A.ホフマンの小説から3つの物語がベースになっており、1881年にパリのオペラ=コミック座で初演されました。日本では1971年宝塚歌劇団が、宝塚バウホールの開場記念公演として安奈淳を主役に上演されました。また、新国立劇場でも、来年4月にフィリップ・アルロー演出による『ホフマン物語』の公演が控えており、はやくも大きな話題となっています。

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E.T.A.ホフマン エルンスト・テオドール・アマデウス・ホフマン(Ernst Theodor

Amadeus Hoffmann, 1776年1月24日 - 1822年6月25日)はドイツ

の作家、作曲家、音楽評論家、画家、法律家。文学、音楽、絵画と多彩な分野で

才能を発揮したが、現在では主に後期ロマン派を代表する幻想文学の奇才

として知られている。本名はエルンスト・テオドール・ヴィルヘルム・ホフ

マン(Ernst Theodor Wilhelm Hoffmann)であったが、敬愛するヴォル

フガング・アマデウス・モーツァルトにあやかってこの筆名を用いた(伯父

と同じ名前を嫌ったとも言われる)。

 ケーニヒスベルクの法律家の家系に生まれ、自らも法律を学んで裁判官

となるが、その傍らで芸術を愛好し詩作や作曲、絵画制作を行なっていた。

1806年にナポレオンの進軍によって官職を失うとバンベルクで劇場監

督の職に就き、舞台を手がける傍らで音楽雑誌に小説、音楽評論の寄稿を開始。1814年に判事に復職したのちも

裁判官と作家との二重生活を送り、病に倒れるまで旺盛な作家活動を続けた。

 小説では自動人形やドッペルゲンガーといった不気味なモチーフを用い、現実と幻想とが入り混じる特異な文

学世界を作り出した。また当時のロマン派作家の多くが田舎の田園風景を称揚したのに対し、都会生活を好んで

描いたことにも特徴がある。

 E.T.A.ホフマンの作品は1830年代のフランスで火が付き、19世紀後半には『コッペリア』、『ホフマン物語』な

どの舞台化もなされる。1892年にはペテルブルクでバレエ『くるみ割り人形』の初演が行われ、ホフマンの名は

不朽のものとなってゆく。出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』ほか

代表作『黄金の壺』(1814 年)『砂男』(1815 年)

『ブランビラ王女』(1820 年)『牡猫ムルの人生観』(1820 年)

『蚤の親方』(1822 年)

映画版『ホフマン物語』について

1951年にオペラ『ホフマン物語』をマイケル・パウエルとメリック・プレスバーガーの共同監督でカラー映画化されたのが映画版『ホフマン物語』です。ベルリン国際映画祭銀熊賞とカンヌ国際映画祭特別賞受賞しており、バレエ・オペラ映画の代表作と評されています。今回、『ホフマニアダ ホフマンの物』の公開に合わせ、上映が予定されています。

制作期間について

本作品の制作は2003年に開始されました。2018年のベルリン国際映画祭までに実に15年以上の歳月を経ています。ベルリンでのインタビューにてソコロフ監督はその理由を、そもそも少人数によるプロジェクトであったこと、途中の資金難とプロダクションの問題で作品が二分割で制作せざる得ない事態に陥ったこととしています。前半部分の完成は2010年。後半には更に数年の歳月を要したのです。2006年にサンクトペテルブルクで20分の素材にてプレゼンテーションが実施されていますが、その映像は完成版とは趣向を異にしており、のちに、すべて撮り直していることが伺えます。こうしたクオリティへのあくなき追及の姿勢も、この途方もない歳月を要した理由の一つであるのは間違いありません。

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解説 『ホフマニアダ ホフマンの物語』の日本での公開にあたり、ホフマン研究者として解説を求められた。英語字幕映

像を見た感想は「素晴らしい!」の一言に尽きる。人形とアニメーションの組み合わせ(「パペット・アニメーション」)

が、E.T.A.ホフマンの複数のファンタジー作品を巧みに表現していて見入ってしまった。この映画のシナリオ作者は

相当ホフマンの作品と伝記を研究していることがうかがわれる。それだけに、ホフマン作品を知らない観客には、ストー

リーの細部が巧妙すぎて理解できないところがあるように思われる。映像だけでは分かりにくい場面の解説を紙幅

の許す限り試みたい。

原作の粗筋

 中心ストーリーは『黄金の壺』という1800年頃のドレスデンを舞台にした「近代のメルヒェン」から採られている。

その粗筋は以下のとおりである――主人公アンゼルムスがニワトコの木の下で青い瞳の緑蛇ゼルペンティーナに恋

をする。その父親の「枢密文書官」リントホルストは、「アトランティス」という太古から続く精霊界を追放され、人間

界でつまらぬ官職に就いている「火の精」サラマンダーである。彼の3人の娘たちが「敬虔な心の持ち主」と結ばれた暁

にはアトランティスへの帰還が叶うとされている。アンゼルムスは「リンゴ売りの老婆」(=竜の羽根と砂糖大根(ビート)

の結婚から生まれ、リントホルストに敵対する魔女)の魔法に欺かれて青い瞳の市民の娘ヴェロニカに惚れ込んだ結

果、リントホルストの館での筆写の仕事をしくじり、ガラス瓶の中に閉じ込められてしまう。しかし、アンゼルムスが

罪を悔い、ゼルペンティーナへの忠誠を誓うことで、最終の第12章では精霊界アトランティスに移住し、恋人と結ばれ、

詩人としての至福の生活を得る。――

『ホフマニアダ ホフマンの物語』での創案

 『ホフマニアダ ホフマンの物語』は、上記『黄金の壺』のストーリーに、ホフマンの伝記と彼の複数作品のモティー

フを自在に織り込む形で構成されている。その中の重要なモティーフを順に紹介してゆく。1.ホフマンの伝記から採

られているのは、彼が裁判官見習いをしながら音楽家になることを夢見ていること、バンベルク時代は屋根裏の住居

に住んでいたこと、音楽監督に採用されたがひどい待遇だったこと、彼が名誉領事マルク家の令嬢に恋をし、その令嬢

がグレーペルという下劣な男(映画の「馬面の男」)と結婚したこと、ベルリンで「ルター&ヴェーグナー」という酒場に通っ

たこと、『黄金の壺』の最終章が書けずに苦労したことなどである。2.『黄金の壺』に次いで大きな役割を果たす作品が

『砂男』という奇妙な短編である。義眼を売るコッペリウス、目玉を採る砂男、自動人形オリンピアを製作し、魔法の望

遠鏡で主人公を誘惑する物理学教授、オリンピアの奪い合いと破壊の場面はこの作品から採られている。3.それに次

ぐのが、『こびとツァヘスまたの名をツィノーバー』という童話で、アニメからは分かりにくいが、実は妖精が醜く生

まれたツァヘスを憐れんで、周囲の人の美徳と功績が彼のものになるという魔法を施している。その結果、アニメに

登場する司祭にはツァヘスが有望な美少年に見え、ツァヘスはエルンストの勤める官庁の長官に出世し、エルンスト

が貰うはずの勲章も横取りする。しかし、最後には尿瓶に落ちて溺死する。これらのエピソードはこの作品から採ら

れている。4.さらに、エルンストの屋根裏部屋に飾られているくるみ割り人形、エルンストが劇場の舞台で見るくる

み割り人形とネズミの王様の戦いやドロッセルマイアーという人物は、チャイコフスキーのバレエで有名になった『く

るみ割り人形とネズミの王様』から採られている。5.同じく舞台に現れる『ウンディーネ(=水の精)』(脚本F.フケー)は、

ホフマンがベルリンの王立劇場で上演に成功したオペラ作品である。6.エルンストが酒場で物語り、その直後に本物

が現れる「オリエントの奇妙な行列」は、ホフマンの最も幻想的な作品『ブランビラ王女』から採られている。

 バンベルクを想起させる美しい町、リントホルストの屋敷、物理学の教授の家などの緻密な描写、砂男やゼルペンティー

ナ、オリンピアの巧みな造形とそのアニメーション化には感嘆するしかない。J.オッフェンバックがホフマンの作品

を融合して創作したオペラ『ホフマン物語』とは異なる意味で、新たな『ホフマン物語』が生まれたと言えるだろう。

関西学院大学文学部教授 木野光司

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あらすじ エルンスト・テオドール・アマデウス・ホフマンは今や大成した作家、作曲家であり芸術家です。自分の人生と作品を振り返り、過ぎ去った日々を思い起こします。そして若かりし頃の姿、すなわちドイツの小さな町で若き裁判官見習いとして働き、質素な家の屋根裏部屋を借りて音楽家を目指していた頃に自分を重ねていきます。日中は官庁で退屈な仕事をこなし、仕事の後は近所の居酒屋に足を向けます。そして夜には芸術的な創作活動に熱中するのです。 官庁の官僚たちは、彼の目には灰色で卑劣なネズミのように映ります。街に住み、食べ過ぎで退屈な、獣のような習性を持った心のない操り人形のように。目の前に突然開ける空想の世界で、若きエルンストは学生アンゼルムスに変身します。彼は3人の若い女性に翻弄されます。上流階級のヴェロニカ、無口で神秘的なオリンピア、そして美しいヘビ娘のゼルペンティーナです。どの女性もそれぞれにアンゼルムスにとっての理想の姿です。光と闇の力が秘密裏に彼の運命に影響を及ぼそうとする中、若者はすべての障害を乗り越えなくてはなりません。たとえそれが現実世界では不可能でも、少なくとも魔法の国アトランティスでは愛が成就するように。 アンゼルムスはニワトコの木の下で金緑色のヘビ娘と出会い、ひと目で恋に落ちます。彼女は美しく若い女性、ゼルペンティーナに変身します。彼女は枢密文書官サラマンダー・リントホルストの娘なのです。 エルンストは市場で年老いた魔女の商品を過って踏み潰してしまい、呪いをかけられます。魔女は「お前はガラス瓶の中でくたばるのだ!」と叫び、彼は度々その奇妙な言葉を思い起こさずにはいられません。 他にも彼を不安にさせることがあります。少年期に乳母に聞いた砂男の話です。聞き分けのない子の目に砂を投げつけて目玉を取り、それを袋に入れて月の巣まで運ぶというのです。子供時代、エルンストは時折訪ねてきた父親の友人、弁護士コッペリウスが砂男だと考えます。 エルンストは上流社会の無関心、虚栄心の強い官僚たちの醜さ、偽物の美しさによる策略の罠と日々対峙します。アンゼルムスの純粋さと熱意によって、エルンストは現実社会を切り抜け、アトランティスを見つけ、永遠の物語と登場人物たちを人々に伝えることになります。しかし今はまだ、これらの作品は偉大なロマン主義作家の想像の世界の中にだけ存在するのです。

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主な登場人物

エルンスト・テオドール・アマデウス・ホフマン ERNST THEODOR AMADEUS HOFFMANN

有名な作家、著名な作曲家であり芸術家。机の前に座って若い頃を思い出します。空想の中で彼は若き法律家かつ音楽家の卵であった頃にさかのぼり、人生と作品に影響を与えた3人の女性を思い起こします。映画のクライマックスでは、年老いたホフマンが自身の作品の登場人物たちと出会います。

エルンスト ERNST

裁判官見習いであり若き音楽家でもあるエルンストは、やがて偉大なロマン主義作家エルンスト・テオドール・アマデウス・ホフマンとなります。ドイツの小さな町で窮屈な屋根裏部屋を借り、退屈な官庁でのお役所仕事をこなし、夕方には居酒屋に行きます。しかし夜には、水の精のオペラ『ウンディーネ』を書くのです。エルンストは彼の音楽の生徒であるヴェロニカにオペラの主役をしてくれと声をかけます。彼女は裕福な家の娘で、エルンストは彼女に夢中です。しかし、魅力的で神秘的な別の若い女性が彼の部屋の窓から見える隣の家の窓に現れます。

時に、エルンストは希望に満ちて理想主義的な若いアンゼルムスに自分を重ねます。また他の時は、幼くて怖がりの子供時代を思い出すこともあります。

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サラマンダー・リントホルスト SALAMANDER LINDHORST

地上では枢密文書官、アトランティスから追放された善良な魔法使いでゼルペンティーナの父親。彼はニワトコの木の下で、金緑色のヘビ娘を見かけた若き学生アンゼルムスと初めて出会います。リントホルストは彼の庭で原稿を書き写す仕事をするようアンゼルムスに依頼します。アンゼルムスが仕事をしに訪れ、変わった新しいことを学びます。文書官は卑劣な魔女の話をします。それからゼルペンティーナは、(火の精である)彼女の父が支配者の助言に耳を貸さずに恋人を抱きしめ、自らの炎で恋人を焼いてしまい、アトランティスから追放された話を告げます。

モッシュ・パウルマン MOSH PAULMANN

表札にある通り、この時計技術者は「物理工学」の教授。恥ずかしがりのオリンピアを私たちに引き合わせるのはこの男です。舞台裏では彼はコッペリウスと共に、純粋なアンゼルムスを利用して火の精リントホルストに対する陰謀を企てます。パウルマンはアンゼルムスを取り込むため、“娘”のオリンピアを紹介し、一緒に舟遊びをしようと誘います。そして家に招き特製のパンチをふるまいます。しかし計画が失敗し策略が露見すると、パウルマンはコッペリウスと大喧嘩をします。

コッペリウス COPPELIUS

エルンストの父の友人で弁護士。子供時代、エルンストはコッペリウスが自分の目を盗もうとする邪悪な砂男だと確信していました。コッペリウスはエルンストの父を夜に訪ね、ガラスでできた目をたくさん持ってきては奇妙な錬金術のような実験をしていました。後に、コッペリウスは時計技術者のモッシュ・パウルマンと共謀し、良き魔法使いサラマンダー・リントホルストと若き学生アンゼルムスに対する陰謀を企てます。最後には機械仕掛けの人形オリンピアの所有権をめぐりパウルマンと争いになってしまいます。

アンゼルムス ANSELMUS

空想の世界でのエルンストの分身で、魅惑的なヘビの女の子、ゼルペンティーナに情熱的に思いを寄せる。彼はニワトコの木の下で彼女に出会い、彼女の父、サラマンダー・リントホルストのために働くことを承知します。彼は時折、(市場にいた)狡猾な年老いた魔女と出会います。リントホルストの庭園にある書斎で原稿を書き写すうち、アンゼルムスは過って羊皮紙にインクをこぼしてしまい、罰としてあの魔女が予言したとおりにガラス瓶の中に閉じ込められます。彼は神秘の国アトランティスで、愛するゼルペンティーナと幸せに暮らすことを切望します。

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制作チーム

スタニスラフ・ソコロフ/監督 STANISLAV SOKOLOV / Director

 長い経歴の中で多くの賞を受賞してきたスタニスラフ・ソコロフは、シェイクスピアの戯曲を人形劇にした「A Winter’s Tale」で1994年にエミー賞を受賞。芸術家としても高く評価されており、1995年には芸術への貢献によりロシア連邦最高峰の勲章を受勲している。 ソコロフ氏はロシアの最も権威のある映画学校、全ロシア国立映画大学

(VGIK)でアニメーションとコンピューターグラフィックス学部の学部長を務める。ソコロフ氏は1966年にVGIK芸術学部に入学し、ソビエトアニメの巨匠の1人、イワン・イワノフ=ワノ教授に師事した。1973年にはソユーズムリトフィルムでアートディレクターとして働き始め、1977年、短編人形アニメーション「Dogada」で監督デビューを果たす。 本作にてGolden Eagle Award 2019 Best Animation受賞。

 これは伝記映画でもなければ、単に片思いからハッピーエンドに至る悲しくロマンチックな話でもありません。こ

れは偉大な作家の創作の工程の話です。この映画を見て深く考えさせられるのは芸術家の孤独、そして彼の恋愛対象

となる女性たちの中に体現される理想の姿です。人工物すなわちロボットを理想化することの不条理も描かれています。

また、子供時代の恐怖がいかに大人になってからの人生と、善と悪の力に関する深く根差した考えに影響を与えるか

も感じるでしょう。また、芸術に関心がなく鑑賞眼のない人々と主人公との間の軋轢も無視することはできません。

 ホフマンは、支配者フォスフォール、ヘビ娘、行進するユニコーン、火の精サラマンダーなどのいるファンタジー世

界を思い描きました。彼は魔法の世界に自分を遊ばせる能力があり、そこへ読者を一緒に連れていく方法も知って

いたのです。彼の作品と、彼の物語につながる伝記的事実が織り合わされてこの映画はできています。

 この物語は、1人の空想家が野蛮な現実世界から調和と創造の王国へと逃げ込もうとした試みに過ぎません。今日

でも、このような試みを目的とする人もいるでしょう。しかし、ホフマンは私たちに他の方法も見せてくれます。つまり、

現実の人生のネガティブな側面を創造のエネルギーに変えること、下品さには高い芸術性で対抗し、富や権力を得る

ことよりも偉大な別の目標を自覚することです。

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ミハイル・シュミアキン/キャラクター・デザイン Mihail Chemiakin / LEAD PUPPETS

 ミハイル・シュミアキンの絵画と彫刻はアメリカ合衆国、ロシア、フランス、ポーランドと独立国家共同体諸国の美術館の永久コレクションになっている。彼は絵画、彫刻、演劇や映画など幅広い分野で活躍しているが、かつて社会主義リアリズムの規範に従うことを拒否ししたため、権威あるレニングラードのレーピン美術大学を放校になった。1959年から1961年にかけ様々な単純労働に就くが、1971年にはソビエト連邦から国外追放となる。 1989年、公式な展覧会が開催され、追放後初めてシュミアキンの作品がロシア国内に戻った。彼は次第にロシア連邦政府からの仕事を受け

るようになり、サンクトペテルブルグにある3つの記念像を建造した。「ピョートル大帝像(1991年)」、「サンクトペテルブルグの最初の建設者と設計者たち(1995年)、政治的弾圧の犠牲者の記念碑(1995年)である。 2001年、モスクワのボロトナヤ広場で、大人の悪行に虐げられる子供たちをテーマにした彫刻が発表された。

ヴィクトル・スラフキン/脚本(共同) Victor Slavkin / SCRIPTWRITER

 ヴィクトル・スラフキンは1959年に執筆活動を開始し、モスクワの新聞や雑誌、またテレビやラジオでも風刺的な物語を発表。 1963年、文学的創作に完全移行することを決意し、1967年から1984年にかけて雑誌「青年」の“風刺とユーモア”欄の責任者を務める。 スラフキンは多くのアニメーション映画の脚本、例えば「Firing Range(1979 年 )」、「Black and White Film(1980 年 )」、「The Great Underground Ball(1987年)」などを手がけた。後半2作品は「ホフマニアダ」のスタニスラフ・ソコロフ監督作品。スラフキンの作品の多くは名だたる国際映画祭で数々の受賞をしている。

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ソユーズムリトフィルムによる制作ノート 昨年末、ソユーズムリトフィルムは1991年以来スタジオ初となる待望のアニメ長編映画を発表しました。2003年から制作に入った本作品は、ソ連崩壊後初めての大型プロジェクトとなりました。『ホフマニアダ ホフマンの物語』の発表がロシアにとって特別なものとなった理由の1つに、今日ではほとんど採用されないコマ撮りアニメーションの手法が用いられていることが挙げられます。この手法は圧倒的な映像を生み出す一方で、技術的に非常に難しいからです。 本作品はドイツ・ロマン主義の芸術家、作家、芸術家で作曲家のエルンスト・テオドール・アマデウス・ホフマンの人生と作品についての物語です。ほぼ手作業による高い芸術性が実現された作品です。

 スタニスラフ・ソコロフ監督の『ホフマニアダ ホフマンの物語』は伝記映画でもなければ小説のドラマ化でもありません。ホフマンの日記と小説のモティーフをベースとした幻想的なロマンチック作品です。彼の優れた、時に恐ろしい物語「黄金の壺」、「砂男」、『こびとツァヘス、またの名をツィノーバー』のストーリーと登場人物を体現しています。

 登場する主要な人形のデザイン、官庁の内装や映画のビジュアルの要素はすべて、国際的に名前の知られたアーティストでありホフマンの熱狂的ファンでもあるミハイル・シュミアキンによってデザインされました。(シュミアキンはサンクトペテルブルクのペトロパヴロフスク要塞にあるピョートル大帝像、モスクワのボロトナヤ広場の「大人の悪行:虐げられる子供たち」、サマーラにある伝説的な歌手ヴラジーミル・ヴィソツキーの記念碑などの作者として知られます)。

 ベテランの脚本家ヴィクトル・スラフキンが脚本を担当(監督との共著)しました。音楽はシャンドル・カロシュで、彼の楽曲はロシアとソビエトの優れた映画の中で多く使われています。パペットたちの声はロシアの現代の最高の俳優陣(アレクサンドル・シルヴィント、アレクセイ・ペトレンコ、パヴェル・ルビャンツェフ、ヴャチェスラフ・ポルニン、ウラジミール・コシェヴォーイとアンナ・アルタモノワ)が担当しました。

 その結果、表現豊かで意味深い作品が完成しました。ホフマンのファンたちは、作家の人生と作品が新たな方法で表現されているのを目にします。この作品は感覚の鋭い観客を深い思考へといざない、芸術家の想像力のあり方、傷つきやすさ、社会の中で苦しみながら居場所を求める姿について深く考えさせてくれます。『ホフマニアダ ホフマンの物語』の次々と移り変わるイメージと超現実的なストーリーは見る人たちすべてに強烈な印象を残すことでしょう。

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制作メモ◦このホフマンの作品をベースにした人形アニメーショ

ンの構想はスタニスラフ・ソコロフ監督がまだ駆け出しの1970年代に最初に思いついた。この企画が実現し

「ソユーズムリトフィルム」が制作を始めたのは2003年になってからだった。

◦スタニスラフ・ソコロフ監督は名声あるアーティストのミハイル・シュミアキンからのアイデアを得てこの映画の映像スタイルを思いついた。

◦屋根裏部屋の内装はホフマンの実際に暮らしていたアパートに基づいており、登場人物の何人かはホフマンの描いた絵に基づいている。

◦150体以上のパペットが作られたが、誰も正確な数は把握していない。◦設計図から一体のパペットを作るのに約1ヵ月半かかる。◦パペットの衣装には絹の細い布が、髪には縫い糸が用いられた。◦脚本の中で登場人物の衣装が変わる場合、新たなパペットを作るきまりになっていた。◦ホフマン用には8体のパペットが作られた。◦人形アニメーションは1分の上映時間につき1ヵ月の作業時間を要する。通常5秒を撮るのに1日かかる。◦3Dコンピューターモデルを用いて制作された『ホフマニアダ ホフマンの物語』のセットは2つだけ。オープニン

グでリントホルストが空を飛んでいるシーンの上空から見た街と、映画のフィナーレで映るアトランティスだ。他のすべてのセットと装飾は手作業で作られた。

◦エピローグの劇場でのコーラスシーンでは現代のロシア・アニメーションでパペットの数の記録を更新した。1つのシーンで50体。

◦『ホフマニアダ ホフマンの物語』で使われたパペットと装飾はモスクワの「ソユーズムリトフィルム」のスタジオで常設展示されており、子供向けのスタジオツアーの一環となっている。